研究分野・歴史
歴代教授
初代教授:安倍 弘毅(1949年12月~1969年3月)
1949年12月に、東北大学医学部出身の安倍弘毅先生が初代教授として着任しました。安倍教授の研究は、日本人の身体発育、長寿率や人口問題に関するものが主体で、約140編の論文にまとめられています。
また、学会活動では第25回日本民族衛生学会総会(1960年)、第20回日本人口学会総会(1968年)、日本学校保健学会総会(1972年)を久留米市で主催し、学会長を務めました。
教育面では、生命の尊厳に対する畏敬の精神を学生に教えることを重要とし、医学生や医療従事者に対する健康教育や衛生教育の中で実践されました。
安倍教授時代の教室員は吉嗣国男、大久保一隆、江崎広次(現・福岡大学名誉教授)が助教授でした。
安倍教授は定年退職後、久留米信愛女学院短期大学教授として女子教育に情熱を注いでおられましたが、1978年2月病没されました。
第2代教授:高松 誠(1969年5月~1983年3月)
安倍弘毅教授の後任として、熊本大学医学部公衆衛生学講座から本学出身(1940年卒)の高松誠助教授が、第2代教授に就任しました。高松教授の研究テーマは農村医学、振動病、PCB、水質汚濁で、現場での問題解決を重視し、フィールド研究に情熱を傾けました。
江崎廣次助教授(現福岡大学名誉教授)は、長寿と栄養の研究を進めるともに大牟田市の肺癌に関する疫学研究を行いました。江崎助教授の転出後、1975年に名古屋大学医学部から前田勝義助手が助教授に就任しました。前田助教授は、労働者の頸肩腕症候群や腰痛に関する人間工学的アプローチによる研究を行いました。
学会活動では日本農村医学会や日本産業衛生学会で理事や評議員を務め、第24回日本農村医学会総会(1975年)、第50回日本産業衛生学会(1977年)を学会長として久留米で主管しました。
高松教授は1983年3月に定年退職し、労働医学研究所を主宰され、さらに九州社会医学研究所理事長として産業保健の向上に指導的役割を担って活躍されましたが、1988年10月に病没されました。
第3代教授:的場 恒孝(1983年12月~2001年3月)
高松誠教授の後任として、本学第三内科学講座(現・内科学講座心臓血管内科部門)の的場恒孝助教授が第3代教授に就任されました。
的場教授は本学出身(1963年卒)で、循環器病学を専攻し、大学院卒業後の4年間、本学第二生理学講座(現・生理学講座統合自律神経機能部門)で心筋の電気生理学的研究に従事されました。再び臨床医学へ戻り、湯布院厚生年金病院にて振動病と出会いました。未だ振動病の病態生理や治療法が確立されていない時期に、運動と温泉療法を組み合わせた「湯布院方式」を確立させるなど大きな業績を残しました。また、全国の社会医学系講座としてはユニークでありますが、臨床部門として「環境病」外来を開設して、毎週月曜日の午後に診療活動を行いました。振動病を中心に、レイノー症候群や自律神経疾患などの患者が九州一円から来院されました。
研究テーマは振動や騒音ストレスの生体への作用の解明でした。教授の専攻である心血管系、微小循環系、自律神経系からのアプローチを行い多くの業績を残しました。1989年には振動病における自律神経系への作用に関する国際シンポジウム(久留米シンポ)を開催し、国内外からこの分野の専門家を招聘して活発な討議がなされました。この時の成果は1990年にThe Kurume Medical Journalの捕冊として発行されました。
助教授は1975年から前田勝義助教授が務め、人間工学的アプローチによる労働衛生学の研究に従事されました。とくに頚肩腕症候群に関しては数々の成果をあげて国際的に活躍していましたが、病に倒れ、1986年4月急逝されました。
1987年1月、櫻井忠義講師が助教授に昇任しました。櫻井助教授は本学出身(1974年卒)で、大学院(環境衛生学)修了後、助手、講師を歴任しました。振動の生体影響が主な研究テーマで、東京の産業医学総合研究所(現・独立法人労働安全衛生総合研究所)とドイツのドルトムント大学にて研鑽を積みました。1991年4月より日本体育大学教授に栄転しました。
1996年12月、石竹達也講師が助教授に昇任しました。石竹助教授は本学出身(1986年卒)で、大学院(環境衛生学)、助手、講師を歴任しました。振動の生体作用とくに自律神経系や微小循環系への影響に関する基礎研究に従事されています。講師は1987年に末永隆次郎助手が昇任しました。本学出身(1977年卒)で、長野の佐久総合病院で臨床研修後、環境衛生学に入り農村医学を専攻しました。農作業の生体負担と評価、健康障害の防止策に関する研究に従事されています。2000年4月より堤明純助手が講師に昇任しました。堤講師は自治医科大学出身で、循環器疾患へのワークストレスの影響に関する研究に従事されています。助手には沖真理子、大久保亜希、竹下経子、森美穂子、宮崎勇三がいました。的場教授在任中の大学院生は石竹達也、岩元次郎、森智恵子、木原俊之、宮崎勇三、安藤英雄、野口涼が所属していました。
教育面では、的場教授が1989年4月より教務主事(現・教務委員長)に選出され、講義時間数の大幅な削減のため、それまでの90分講義を70分へ変更しました。これ以外にも新講義棟の建設、新カリキュラムの編成及び医学図書館長としての数々の改革においてリーダーシップをいかんなく発揮されました。また、よき医師を育成するために医の倫理教育が重要と考え、全学年にわたる新しい教科「医療科学」を1994年より開始しました。さらに地域と結びついた社会教育の実現のために、1986年より久留米大学公開講座を企画し、地域社会の生涯教育に寄与されました。
第4代教授:石竹 達也(2002年8月~現在)
的場恒孝教授の後任として、環境医学講座の石竹達也助教授が第4代教授に就任しました。石竹教授は本学出身(1986年卒)で、卒業後すぐに大学院(環境衛生学)に入り、産業保健を専門とするためのプライマリー・ケアの習得のために国立長崎中央病院(現・独立行政法人国立病院機構長崎医療センター)で2年間臨床研修に従事しました。帰学後は、振動ストレスの微小循環、自律神経系への生体影響に関する研究で学位取得し、助手、講師、助教授を歴任しました。
講座のモットーは1)自由な気風を大切に、2)外部との交流を盛んに、3)社会に貢献する、です。研究分野は産業医学、環境医学、地域保健の三分野にわたります。産業医学では、故高松誠教授から連綿と続く伝統的な研究テーマである振動病について、その病態生理の解明を中心に行っています。また、小規模事業場の産業保健の向上のために、現場の作業環境の改善に焦点を当てたフィールド研究を重視しています。環境医学では、大学病院の「環境病」外来を活用して、シックハウス症候群、化学物質過敏症の病態生理、診断、治療に関する研究を行っています。地域保健分野では前任の的場教授時代から取り組んでいる、失業の労働者に及ぼす健康影響に関するフィールド研究を行っています。行政評価を健康の視点から行い、政策決定者の判断に資することを目的とするHIA(健康影響評価)の研究に2007年より取り組んでいます。
教育面では2005年度より公衆衛生学講座と連携して、従来別々に行っていた講義を「医学・医療と社会」の教科名で、モデルコアカリキュラムに準拠したカリキュラムを実践しています。また、「社会医学実習」ではグループによるテーマ研究を組み込み、社会医学・医療に関連したテーマについて自己学習を行い、成果をあげています。