環境医学講座は、2002年に従来の「環境衛生学講座」から改称され、現代の環境と健康をめぐる多様な課題に応えるべく新たなスタートを切りました。私たちの研究の根底には、「人々の暮らしの中にある環境要因を科学的に解明し、その知見を健康の保持・増進につなげる」という理念があります。
「衛生」という言葉は、明治時代に長與専齋がドイツ語“Hygiene”の訳語として導入したもので、生活と生命を守るという広い視野を含みます。当講座ではこの精神を継承しつつ、産業医学や環境医学、公衆衛生学の実践的・先駆的な研究を展開しています。たとえば、振動障害や潜水作業、低周波音の健康影響、室内空気汚染、非正規労働者のメンタルヘルス、社会的処方の地域実装など、現代社会のリアルな課題に向き合ってきました。
教育においては、医師法第1条の理念「公衆衛生の向上と増進に寄与する」ことを、地域で実践できる医師の育成を目指しています。単に病気を診るだけでなく、家庭や地域社会の中で人々の暮らしを理解し、生活支援資源も活用できる──そうした「Public Health mind(パブリック・ヘルス・マインド)」を持つ医師を送り出すことが私たちの願いです。
講座のモットーは、「自由な気風を大切に」「外部との交流を盛んに」「活気ある教室づくり」。教室は小さくとも、志は大きく、地域や社会とつながる研究・教育をこれからも進めてまいります。