研究会

日本HIA研究会

開催案内

第5回HIA研究会 開催報告

2012年10月25日 第71回日本公衆衛生学会総会 自由集会(山口県教育会館)

【議題】

  1. 産業医科大学からの報告
  2. 久留米大学からの報告
  3. 熊本学園大学からの報告
  4. 国際学会の報告と予定
  5. その他

2012年10月25日,日本公衆衛生学会(山口県)の自由集会として,15人の参加のもとで第5回のHIA研究会が開かれた。3大学の取り組みに加え,児童・生徒を対象としたがん教育への適用や水俣での取り組みに関連した報告があった。

産業医科大学の藤野善久先生からは,1年間にやってきた報告として,企業での取り組みの報告があった。現在,それらの取り組みは『労働の科学』に連載中で,企業を自治体に見立ててHIAを適用している。HIAは産業保健スタッフだけでなく経営者にも受けが良い。スクリーニング段階での健康影響の最適化という提案は経営者としての判断材料として使えると判断されている。スペシフィックには要望がある。また,国際的なことでいうと,先日韓国で開かれた第4回Asia Pacific HIA会議に参加したが,韓国では地理的疫学のような面が強いが法制度化されている。やり取りの中で,健康の社会環境モデルさえ了解していればスクリーニング段階については世界的にも大きな差がないが,利害関係者をどう取り入れるかなどの面では世界共通の標準方法は決まっていない。ただ,日本はHIAをめぐる動きに取り残されているとの見解を示された。

久留米大学の石竹達也先生からは,大牟田市での行政評価ツールの取り組みについての報告がなされた。本年(2012年)8月1日に,職員,研究者,市議会議員で構成された61名の参加で,第1回HIAワークショップ(まちづくり学習)を開催した。行政用のスクリーニングツールを作ろうという試みの中で,最初は影響の度合いや発生する確率を点数化するもので,職員の皆さんからは不評で,「市民に良いと思って施策を考えているのに,悪い面から考えるのはつらい」との声もあり,好影響と悪影響について,意見を出し合う形式のツールにして,ワークショップの開催となった。当日のテーマは「校区町づくり協議会設置」がテーマで,回りまわって健康に影響することを考えるようになったなどの意見が出されたと結ばれた。報告の際,参加していた大牟田市の職員から,「意思決定,施策をよりよくするツール」と考えれば,大変有効で,このツールの使い方も幅を持たせてもいいのではないかとの意見が出された。また,健康増進計画の見直しにHIAを適用しようと考えていることも付け加えられた。

熊本学園大学の宮北隆志先生からは,4つの資料を用いて取り組みの紹介をされた。12月1日および2日に,「地域のエンパワーメントと社会的合意の形成 健康影響評価(HIA)に関する国際セミナー」を熊本学園大で行うこと,ここには,タイの国家健康委員会の方を受け入れる。タイの工業地帯・マプタプットでのHIAをめぐる住民運動の方および国の政策担当者との熊本学園大との交流が続いていることで開催となった。タイでは,憲法の67条でHIAを実施しなければならないとする規定と国家健康法によるHIAの実施規定の2つ流れができている。collective learning processとして,リスクマッピングを行って地域住民の健康の向上を目指しているが,これを日本にも導入してみたいと考えている。タイでのHIAはcommunity empowerment/participationが中心となっている。そのような紹介であった。

国立がん研究センターの助友裕子先生からは,児童・生徒に対するがん教育事業へHIA適用を行い,教員の負担が大きいこと,児童・生徒の家族への配慮が重要であるとの報告があった。

やり取りの中で,いくつか重要な視点が示された。企業が求められる「安全配慮義務」では予見可能性を問われるが,これはなかなか大変で,HIAを実施し事前に配慮したという文章を残すことがそのことに対応する手段となる。地方衛生研究所および地域環境研が今大変なことになっていて,設置の法的根拠がないため独法化されながら仕事が増えているが,これにHIAが適用できるのではないか。環境影響評価のように制度化され,住民の意見が述べられる手順があることは民主的な手続きとして重要である。HIAの国際会議でも法的な制度化についての議論が大いになされている。

今回の研究会では,Health in All policies (HiAP)からSome Health in Policies, Please (SHiP..P)といった形で,すべての政策に健康の視点を!と主張するのではなく,政策形成において少しは健康の視点も取り入れてほしいとお願いするぐらいのスタンスが良いのではないかとの意見が,まとめのような発言となった。(文責:原邦夫)