大画面を前提としたマンマシンインターフェイス
久留米大学病院情報部 和田豊郁
現在のアプリケーションインターフェイスの主流であるウィンドウシステムでは,ウィンドウの上端近くにメニューが備えられている.
このユーザーインターフェイスが一般的になったのは,アップル社のマッキントッシュの成功とその後のマイクロソフト社のウィンドウズの普及にある.

マッキントッシュが出現した頃の日本では数社がマイクロソフト社のMS-DOSをOSとして使う16ビットPCを販売しており,ハードディスクは高嶺の花であり,5インチのフロッピーディスクで起動するのが普通だった.
当時はフロッピーディスクはフォーマットされていないのが当たり前だったため,まず,それを使えるようにするためには,まずは初期化という作業をしなければならなかったが,キーボードからFORMAT B: /Sなどとコマンドを入力しなければならず,英語を母国語としない民族にはPCを使用することは非常にハードルが高かった.
ワープロや表計算などの応用ソフト(アプリケーションソフトウェア.現在はソフトとかアプリと略される)でも,ファンクションキーやエスケープキーを押下した後に何らかのキーを押すか,CtrlキーやAltキーと同時に何らかのキーを同時に押下するなど,キーボードにてさまざまな機能が実行されるようになっていた.
画面上にメニューが表示されないソフトウェアもあり,それらではキー操作を覚えるまではマニュアルが手放せなかった.

マッキントッシュに搭載されたアップルメニューは画面の最上段には常にメニューが表示されており,それをマウスポインタでクリックし,フロッピーディスクの初期化をはじめ,目的の機能を見付ければ,その機能が何を意味するものか知っておりさえすればマニュアルを見る必要がないように設計されていた.
ここで注意しなければならないのは,当時のマッキントッシュのディスプレイはモノクロ9インチとコンパクトなもので,画素数は512×342ドットと12インチカラーのNECのPC-9800シリーズ(640×400ドット)よりも小さかった.これは,WindowsXPが発売された頃の標準的な画素数XGA(1024×768ドット)の4分の1程度であった.
マッキントッシュでは,確認ウィンドウが画面中央に表示され,これを含め,ダイアログウィンドウを閉じるボタン(実行・中止・キャンセルなど)はウィンドウの右下部分に置かれ,マウスポインタは画面上のあちこちをモグラ叩きゲームのようにクリックするようになっていた.
しかし,なにしろXGAの4分の1の範囲である.
手首の一振りでマウスポインタは目的の場所に到達できたため,面倒くさいというよりもそういうインターフェイスは新鮮で面白く感じられた.
しかしながら,現在のような大画面でその流儀を守ったらどうなるか.
たとえば,印刷を行うような場合.
画面の最上段のファイルメニューから印刷を選ぶと印刷のプレビューが画面いっぱいに表示され,印刷ボタンとキャンセルボタンがウィンドウの右下にあって,それをクリックしたら,確認ウィンドウが画面の中央に表示され...
ウェブページ上の写真を保存しようとしたとき,ウィンドウズでは右クリックしてファイル保存を選択すると,ファイル保存のダイアログウィンドウが表示される.
保存する場所を選び,必要があればファイル名を変更し,右下のOKボタンをクリックする.
ここで,同名のファイルがあると『上書きしますか?』の警告ウィンドウが画面中央に表示されることになる.
小さな画面だと,手首の一振りで行けるところにこれらのボタンは表示されるのだが,大画面ではそれではとうてい行けない場所に表示されているボタンを目指さなければならない.
1回だけなら我慢もできようが,このようなことがたびたび要求されるならたまらない.
そのうち,Enterキーを押せばそのウィンドウでOKをしたことになることを知るようになると,表示内容など見もせずにEnterを押し続けるようになってしまい,そのうち,確認漏れがおこり,ミスにつながっていくことにもなろう.
マウス操作は手首の一振りで行ける範囲にとどめるべきであり,マウスの使い方マニュアルにあるような,一振りで到達できない場合には何度もマウスを持ち上げては滑らせるようなことを要求されるような,大画面上を走り回らせる画面展開は最悪である.
テニス肘ならぬマウス手首になる原因になるし,遠くのボタンに照準を合わせてマウスポインタを移動させるという,作業の本質的ではないところに集中力をユーザーは強要されて疲労してしまい,本当に必要な集中力が低下してしまう.
こんなことを繰り返していると,プログラマは何が面白いのだろう?と思ってしまう.
アップル社のスティーブ・ジョブズ氏がマッキントッシュのためにデザインしたシステムが優れていたのは,マウスの手首一振りで行ける範囲にボタンがあるというコンパクトさゆえであって,単にメニューが常時表示されていたりマウス操作だったりすることは本質的ではないのだ.
実際,スティーブ・ジョブズ氏が今何をやっているのかを見れば分かる.
iPadは画素数XGAの9.7インチのタッチパネルとして,大画面もマウスも否定しているのだ.
ついでに言えば,デジタルの良さである縮小拡大が自在という特徴を前面に打ち出し,こそっとWYSIWYGを主張しなくなっているのは,もはやPCは紙の代わりではないことを印象付けている.
ただ,医療の現場では,XGA では表示できる情報量が少なすぎるし,巨大なタッチパネル画面のあちこちを触らなくてはならないような画面となるならば,それはモグラ叩きゲームそのものになってしまい,運動不足解消には多少役立つかもしれない,などと皮肉られるだけになろう.
とにかく,コンパクトに操作できること,これが至上命題なのである.
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