メニューの位置について
久留米大学病院情報部 和田豊郁
大画面になってもメニューの位置は従来と同様に最上段でよいのかどうか,考えたことがあるだろうか.
ネットブックやノートPCであれば,ディスプレイはキーボードと接近していて,画面は必ず見下げる位置にあるし,画面全体は1視野の中にあり,通常,見渡さなければならないような大画面であることはない.
現在のデスクトップ型のPCでは,表示能力が格段に向上しており,モニターを自由に選ぶことができるようになった.
2つのディスプレイを接続できるような機種も少なくなく,久留米大学病院での標準的な画面構成は19インチ縦2画面,すなわち,横1024ドット×縦1280ドットのSXGA縦画面を2つ横並びにしており,PCから見た場合,2048×1280ドットの表示領域となる.
これは,横向きにした新聞紙1ページや電車の中吊り広告を横に少し広くした画面サイズである.
できるだけ大量の情報が表示できる方が良さそうな気がするが,一目で見渡せる範囲よりも外側に表示されている情報は,逆に見落としの原因となるため,広ければ広いほどよい,と言うわけでもない.

さて,小学校の算数で習ったグラフは,右に行くほど数値が大きくなる水平の軸(X軸)と上に行くほど大きくなる垂直の軸(Y軸)との交点がグラフの原点で,軸が自然数の場合,左下隅が原点(0,0)であった.
ところが,PCでは,左上の座標を原点(0,0)としているため,X軸は算数のグラフと同様に右に行くほど大きくなるが,Y軸は算数とは逆に下に行くほど大きくなるのである.
巨大な表を表示することを考えてみる.
プログラムの上では,大きな表は左上を原点として右下に広がっているイメージとなる.
表の上端の行と左端の列はタイトルであることが多いから,これはこれでよい.
しかしながら,ディスプレイは机上に置かれるわけであるから,大画面になるということは,物としては左右と上に大きくなる.
このため,ディスプレイのサイズが大きくなると,ユーザーの目から見たときの原点(0,0)の位置は左上へとシフトしていってしまうのである!

マイクロソフト社が15年以上前に発売したウィンドウズ95はスタートボタンが画面左下隅にあり,画面最上段にあるアップルメニューと比較されたものだった.
メニューは右下に下がっていく方が自然だ,とアップルメニューを使い慣れた人には非難されたものだったが,グラフのことを考えると右上に展開して行っても不自然とまでは言えないと思う.
それよりも,今となっては,ディスプレイの画素数が変わっても視線の先としては常に同じ位置にあるこのスタイルは先見性があったのかもしれない.

さて,ウィンドウズ95の時代のディスプレイはVGAかSVGAだったが,ウィンドウズXPが発売された頃にはXGAが広く使われていた.その後,メモリの低価格化とビデオアダプタの高性能化のおかげで,21世紀になった頃には想像すらできなかったような高画素数のディスプレイが容易に手に入るようになった.
そして,PCユーザーは,文字通り見上げなければならないような大画面の前に座ることになったのである.

我々が直立して一旦目を閉じ,自然な状態で開眼すると,視野の中心は水平より少し下を向いているのが分かる.
指先を使う作業を注視したり,本を読んだりするのはそれよりも下の方を向くし,風景やポスターを見る場合には上の方を向いて見ている.
このため,度数が無段階で変化する遠近両用眼鏡では,下の方を見るときには近くに,上の方を見るときには遠くにピントが合うようにレンズの厚みが調節されており,自然な感じでものを見ることができるようになっている.
VDT作業ガイドラインでCRTの上端が眼の高さかやや下になるように設置するよう定められていたのは,このような理由からである.
ノート型のPCではよっぽどひねくれた使い方をしない限り,自然にガイドライン通りになる.
しかし,縦置きの19インチSXGAディスプレイでは,小柄な人では画面の上端は見上げるような位置になってしまうことがある.
前述のように,上の方を見るときには自然に遠くにピントが合うようになっているため,あごを出してでも無理矢理に目を伏せる感じでディスプレイを見るようにしない限り,眼精疲労の原因となる.
また,ただでさえ注視すると瞬目の回数が少なくなるのに,上の方を見ると眼裂が大きく開くため,ドライアイになりやすくなるのだ.

ウィンドウシステムではウィンドウの上部にはタイトルバーがあり,その下にメニューやタスクボタンが並ぶのが使いやすい標準的な配置とされてきた.
(本当は,プログラムを書く際,そのように書く方が自然だから,というのがそういうインターフェイスになった真の理由なのではないかとも考えられる.)
しかし,縦方向に大画面化した場合には,本来は遠くにピントが合うはずの上目づかいで近くにピントを合わせなければならなくなる.
それから,電車の中吊りのポスターに書いてある小さな文字を読むのは苦痛であり,興味をそそられなければ読もうとすらしないものである.
おそらく,上目遣いでものを見たときは,脳は絵として認識し,その中に文字が含まれる場合には,そこだけOCRみたいなことをしているのではないか,と思われるほど,読んで理解するのに時間がかかる.
縦大画面を用いたウィンドウシステムでも同様なことが生じる可能性がある.
見上げるような位置にある画面上部に読まなければならないようなものが配置されていると,眼精疲労やドライアイの元になるだけでなく,見落としや見間違いを誘発するリスクを増大させることとなる可能性がある.

では,どうすればよいのか.
19インチSXGA横画面や21〜23インチワイド画面程度であれば,特に対策は要らないかもしれないが,19インチ縦画面以上の縦の画素数が多いディスプレイを前提とした場合,ポスターと同様,画面上部は基本的には絵の領域とし,パッと見て感覚に訴えるものを配置する.
文字を配置する場合には,これもまたポスターのように,大きな太い文字で必要最小限の情報にとどめる.
画面上部で細かい文字を読まなければならなかったり,文字を入力したりするようなことはミスを誘発することになるのでやめたおいた方が良い.
画面上部に表示する文字は患者名や年齢,ユーザー名程度にとどめておき,体温や脈拍数や血圧などのバイタルサインや血液生化学検査結果の折れ線グラフや,薬効ごとに色で塗り分けた薬の帯を表示するのがよい.
こうすれば,文字を読み書きする領域は画面の下半分となり,眼精疲労やドライアイや誤認の危険性が減る.
こういった画面構成を行うと,バイタルサインや血液生化学検査と投薬との関係が一目瞭然となり,薬効判定が容易になったり,副作用の早期発見にもつながったりするだろう.
余計なことかもしれないが,薬効ごとに色で塗り分けられた薬の帯が虹を思わせるような配色になるならば,実際の情報確認という目的を果たす以外にも,リラックス効果も期待できるかもしれない.

肝心のメニューの位置だが,スタートボタンの周辺の領域が使いやすいのではないかと思われる.
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