診療録の『パラパラ感』は本質的な要求ではない
久留米大学病院情報部 和田豊郁
電子カルテを導入する際に,『紙カルテは,過去のカルテ記事をパラパラとめくって見ることができたのに,電子カルテではそれができない』という意見が聞かれることがよくある.

実際に,過去カルテ記事をパラパラと見せるような電子カルテ画面を見たことがあるが,それを使って便利だと喜んでいる医師がいるとは思えない.
患者さんからの難しい質問に対しての答えを考えているときに紙カルテをパラパラめくって何かを見ている振りをしながら時間稼ぎをするような使い方があるが,電子カルテ上でそういうことをやろうとすれば気が散るだけ,眼が疲れるだけ,であり,思考の妨げになるだけである.

過去のカルテ記事をパラパラと見るのは,眼を使って意中の何かを探しているのであって,パラパラ見ること自体に本質的な意味があるわけではないはずだ.
紙カルテの最大の欠点は検索が困難なことであり,それがために,パラパラ見なければならないだけなのだ.

電子保存の利点は,検索ができることにある.
元々,テキストデータは全文検索が可能であろうが,画像はそのままでは検索の対象にならない.
そこで,画像には検索のための見出し語を設定し,検索可能な状態で保存することが必要だろう.

検索する際には,完全一致するものだけが出てくるだけでは不十分である.
類語(シソーラス)検索機能は必須だろう.

カルテ開示を前提とするならば,カルテ本文には書けないようなことも出てくる.
このような場合に備えて,カルテ本文とは別に自由に文章が書き込める付箋紙のような機能を用意しておく必要がある.
もちろん,これも検索の対象範囲に含まれなければならないのは言うまでもない.

付箋紙機能は電子保存の三原則が及ぶのかどうか,賛否両論あると思う.
以前,はがして捨てたら二度と見ることができない,という仕様のものを使ったことがあるが,誤ってはがして捨ててしまう,ということが起こりえるため,三原則以前の問題として,ミスが許されないシステムというのもどうかと思っている.
一度貼ったら非表示にしかならず,その理由が分かるようになっておればよいと思う.
そう考えると,電子保存の三原則に則るべき,と言えるかもしれない.

さて,別稿にプロブレム指向型診療記録について書いているが,プロブレムごとに表示されたカルテを見れば,検索機能を使わなくても目的の記録にたどり着ける場合が多くなると考えられ,より効率的な診療が行えるようになる,と考えている.
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