熱型表について
久留米大学病院情報部 和田豊郁
久留米大学病院第三内科(現 心臓・血管内科)では,50年以上も前から,医師が熱型表に処方内容(薬剤名,投与量)を書き込んでいる.
さらに,薬効により色が決められており,主治医は色鉛筆で投与期間を塗りつぶしている.
新しい種類の治療薬が使われるようになったり,薬剤によってはほとんど使用されなくなったものがあったりしたため,一部に変更や追加があった.
現在は次の表のような塗り分けがなされている.

抗凝固・抗血小板薬
カルシウム拮抗薬 水色
α・β遮断薬 ピンク
利尿薬
冠拡張薬
抗不整脈薬 オレンジ
RAS系阻害薬 黄色
脂質代謝改善薬 肌色
強心薬 朱色
糖尿病薬 黄緑
ステロイド薬
その他 (なし)

このシステムのメリットは,薬効が色で示されているため,熱型表を『眺める』だけでどのような治療が行われているかが瞬時に分かる,という点である.
ジェネリックが広く使われるようになっている今日では,どんなベテランの医師や看護師でも,あるいは,薬剤師でさえ,知らない名前の薬に遭遇する機会が増えているため,薬の名前を見ただけでは何の治療薬なのか分からないことがある.
また,たとえ知っている薬であったとしても,似た名称の薬と誤認してしまう可能性があるため,薬効ごとに色で識別される意味は大きい.
なお,院内では取り違え事故防止のために名称が類似している薬は極力採用薬からはずしているが,持参薬に関してはこのやり方は通用しない.
実際,持参薬がらみで名称が類似した別の薬効の薬を処方してしまうというインシデントを当院でも経験している.
また,入院患者の急変や発作,急患の来院など,当直医にとっては初めて診るような患者の状況を把握するために,どのような治療薬が投与されているのかが短時間で掌握できることは極めて重要である.
もうひとつ,オーダリングシステムの処方のエラーチェックは,処方箋の作成中に行われることは少なく,多くはオーダ発行時に行われるが,既知の併用禁忌薬や重複処方は薬効別に色分けされた熱型表を眺めるだけで防止できる可能性があり,医師の精神的・肉体的・時間的負担軽減にも役立つ.
このように,薬効ごとに塗り分ける(背景色を変える)という方法は,インシデント防止だけでなく,患者の治療状態の把握や医療の質の向上,医師の無用な疲労防止にも役立つのである.

問題点としては,現在の塗り分けは,循環器疾患を念頭に置いているため,呼吸器系,消化器系,神経系の薬剤などは全て『その他』となっており,塗り分け色の追加のための議論が必要である.
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