にこにこステップ運動とは

久留米大学病院情報部 和田豊郁(とよふみ) 2009/2/3


『にこにこステップ運動』は,福岡大学スポーツ科学部教授 田中 宏暁(ひろあき) 先生が開発した畳半畳ほどのスペースがあれば行える運動負荷方法です.

パッと見た目には単なる踏み台昇降運動にしか見えませんが,『ひとりひとりの体力に合った,ちょうどよい台の高さと昇降する速さで行う』ところがミソです.ここがただの踏み台昇降運動(ステップ運動)ではないところです!

ひとりひとりの体力に合わせて『運動処方』をするのは,弱い負荷では動悸も息切れも生じない代わりに運動能力の向上は見込めませんし,ある程度以上の強さの運動を行って初めて運動能力が増していくものだからなのですが,強すぎる運動では筋肉を痛めるだけでなく,心肺機能への悪影響も心配されます.

動悸や息切れは心肺機能に影響が出てきたことの現れですが,運動習慣がない方は,普段,これらの症状が出ない範囲で生活をしていることがほとんどでしょう.

運動能力を向上させるには,ある程度以上強い運動レベルが必要ですが,運動能力を向上させる強さの運動でありながら,心肺機能には負担をかけないで持続できる,まことに都合のよい運動レベルがあり,これを田中宏暁(ひろあき)教授は『ニコニコペース』と命名しました.そして,このペースで行う踏み台昇降運動が『にこにこステップ運動』(商標登録)なのです.

にこにこ笑顔を保ちながら,なんとかギリギリ会話ができるレベルの運動ですから,普段運動をしていない人には,名前から受けるイメージほどラクチンな運動ではないかもしれません.
なにしろ,けっこう汗をかく運動です.

階段昇降運動は,平地歩行と比べて次のような違いがあります.

 1.体重を上下方向にも移動させる.
 2.片足で体重を支えている時間が長い.
 3.1歩進んでは1歩さがる運動.

このため,平地を歩いたときに比べ,たくさんの筋肉に負荷をかけることができ,トレーニング効果が期待できます.

基本的には有酸素運動なのですが,ステップに上がる瞬間と降りる瞬間には瞬発力を必要とします.

これは通常の平地歩行では使わない筋肉の使い方です.

瞬発力を使わない生活をしていると,いざというときに素早く手や足が出ず,大怪我につながりますので,こういう筋肉を使う運動をすることは転倒予防にはとても大切なものです.

後ろ向きに歩くことはバランス力を向上させるのによいのですが,通常,危険が伴います.

何よりも,後ろ向きに歩くのはつまずきそうで恐いですよね.

でも,1歩なら誰でも恐怖心なくさがることができますし,エスカレーターで経験するように,階段であっても1段ならためらいもなくさがることができます.
2段続けて降りるのは恐いのですけれども...

ステップ運動ではステップから降りるときに後に1歩さがりますのでバランス力の向上が期待できます.

毎日階段を上っていると脚力が強くなりそうですが,階段を上るのはきついものです.

でも,踏み台を昇降するステップ運動では,1段昇っては降りるため疲労が蓄積しにくく,そうとう長時間運動を続けることができます.

もちろん,その効果は段数に比例します.1秒に1歩のペースでも1分間に15段昇降しますから,10分も続けると150段を上っ(て後ろ向きに降り)たのと同じ運動量になります.

そうとうな運動量なのにそれほどきつさを感じないのはマジックです!

なにしろ,ステップの高さがわずか10cmだったとしても,毎日3回,1回に10分間のステップ運動を続けていけば,3ヶ月しないうちに(84日目)富士山を登り切ってしまうのです.

2009年2月2日の西日本新聞の医療・健康欄にニコニコペースの運動は脂肪燃焼効果が実証されている,という記事が載っています.
  http://qnet.nishinippon.co.jp/medical/news/kyushu/post_30.shtml

このページには新聞には載っていた表が省かれていますので,次に掲載します.

福岡大における2007年度の実証研究(3カ月後の変化)
食事群 運動群 併用群
体重(kg) -6.8 -3.1 -6.4
脂肪を除く体重(kg) -2.0 +0.2 -1.4
腹囲(cm) -5.9 -2.7 -6.2
体脂肪率(%) -4.1 -3.0 -4.8
内臓脂肪(cm2 -47 -25 -49
大腿骨格筋(cm2 -20 -2 -12

食餌療法だけだと脂肪は減りますが筋肉の減りが大きく,体を動かす元気がなくなって運動量の低下につながり,筋肉は使わないと細くなるので基礎代謝も低くなり,せっかく減った体重もリバウンドしやすくなります.

運動だけだと痩せる効果は十分ではありません.

要は,痩せようと思ったら運動療法だけではダメで,食餌療法も大切,ということになりましょうか.


久留米市では2007年度から一般高齢者介護予防事業としてにこにこステップ運動を行っています.
  http://www3.city.kurume.fukuoka.jp/shisei/07_6_1/topix/07.htm
  http://www.city.kurume.fukuoka.jp/1050kurashi/2080koureikaigo/3070kaigoyobou/03_06_01.html

運動関連ページ

 NPO法人 シニアネット久留米 http://www.snk.or.jp/
  にこにこステップ運動 (2007年度)
  にこにこステップ運動講演会 2008/9/3

 福岡安全センター(株) http://www.f-anzen.com/
   にこにこステップ運動のページ

2009年2月22日(日曜日)には久留米大学医学部 筑水会館にて『にこにこステップ運動交流会』を開催します.http://www.med.kurume-u.ac.jp/med/hosp/NikonikoStep20090222.pdf



おまけ  『1日1万歩』とは?

久留米大学病院情報部 和田豊郁(とよふみ) 2009/2/3


生活が便利になった現代では,普通に生活していると,人間の動物としての設計よりもそうとうな運動不足になってしまっていることが多いようです.

『1日1万歩 歩きましょう』も,色々と調べてみると,なんだか科学的根拠に乏しい感じで,すくなくとも,『毎日1万歩 歩いておれば大丈夫!』みたいな単純なものではなさそうです.

水道・ガス・電気の普及や土間の廃止などによって,井戸水汲(いどみずく)みや薪割(まきわ)りなどをしなくなった分,同じだけ食べていては300kcalぐらい余る計算になるそうです.

そこで,この300kcalを あ え て 普通歩行(1分間に100歩のペース)で消費しようとすれば,体重60kgの男性であれば約88分(=約8800歩),体重50kgの女性であれば114分(=11400歩)となります.

これらを平均すると10100歩,となります...約1万歩.

『1日1万歩を目安に』と言っても,体重や性差,歩く速さにより消費カロリーは変わりますので,ゆっくり歩く体重の軽い女性とスタスタ歩くガッチリした体型の男性とでは,1万歩で消費するカロリーは倍以上異なることになります.

そもそも,井戸水汲(いどみずく)みは,水を()み上げる作業に加え,重い水桶(みずおけ)を持って歩いたり(長い坂道かもしれない),水を桶に入れたり,といった,そうとう重労働である上に,バランス力も必要な作業です.

薪割(まきわ)りも,(おの)を振り下ろすのは全身の筋肉を使う瞬発力が必要ですし,割って終わりではなく,日暮れまでに急いで運搬もしなくてはなりません.

このように,全身を使う強い運動で消費していた300kcalを,主に下肢筋しか使わない歩行で置き換えて,身体への効果が同等(健康維持に役立つ)と考えるのには無理があるのではないでしょうか.

  運動消費カロリー計算機 http://www5b.biglobe.ne.jp/~yuustar/sbw_eecl.html


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