平成21年度 第1回 臨床検査技師模擬試験
【心機図・超音波検査】 医歯薬出版 2009/9/28

解説: 和田豊郁(久留米大学病院情報部)
2009/11/13
<< 午前 >>
問題 18 心電図を示す.考えられるのはどれか.
ECG
1.第1度房室ブロック
2.ウェンケバッハ型第2度房室ブロック
3.モビッツII型第2度房室ブロック
4.高度房室ブロック
5.完全房室ブロック
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答: 1,2
P波が存在し,PQ間隔が次第に延長した後,QRS波が欠損している.
その後,再び心拍が再開したときのPQ時間は短い.
このような房室ブロックの形態をウェンケバッハ型第2度房室ブロックという.
なお,この心電図では心拍欠損後のPQ時間も延長しており,第1度房室ブロックの合併もある.

問題 19 ホルター心電図検査について誤っているのはどれか.2つ選べ.
1.CM5誘導の関電極の位置は胸骨柄である.
2.NASA誘導の不関電極の位置は胸骨下端である.
3.CC5誘導はV5誘導に相当する波形を示す.
4.ペースメーカー植え込みの適応判定に使用される.
5.体動の影響で記録不良を招かないよう電極部はテープなどで固定する.
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答: 1,2
不関電極はウィルソンの中心電極に代表されるように,単極誘導を撮る際の基準の電位となるものである.
CM5誘導,NASA誘導,CC5誘導はいずれも双極誘導である.
双極誘導は2つの電極間の相対的な電位差を求めるものであるから,どちらかを関電極,他方を不関電極とは言わない.
なお,問題文中の関電極を陽極,不関電極を陰極と言い換えれば,電極装着部位に関してはその通りである.

問題 26 超音波検査で7.5MHz以上の高周波探触子が向かない臓器はどれか.
1.成人の心臓
2.頸動脈
3.顎下腺
4.乳腺
5.睾丸
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答: 1
7.5MHz以上の高周波探触子は,分解能には優れる(細かいところまで見える)が深達度は小さい(浅いところしか見えない).
このため,高周波探触子は皮膚や皮下の臓器を見るのに適している.
心臓は皮膚との間に胸郭があり,心臓自体大型の臓器であるため,高周波の探触子では,たとえ見えたとしても探触子に近いごく一部分だけとなる.
成人の心臓では,2.5〜3.5MHzの周波数の探触子が用いられることが多い.

問題 27 傍胸骨左室短軸断面の超音波像を示す.誤っているのはどれか2つ選べ.
UCG
1.左室の拡大を認める.
2.右室の拡大を認める.
3.肺高血圧症が疑われる.
4.拡張型心筋症が疑われる.
5.心嚢液貯留を認める.
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答: 1,4
正常な左室短軸断層像では,拡張期にもほぼ真円形の左室と探触子との間に三日月状の右室が見える.
この画像では,右室が拡大し,三日月ではなく楕円化しており,心室中隔は扁平化している.
これは,右室圧が高いこと(≧35mmHg=肺高血圧症)を示唆する.
左室後方には無エコー領域(エコーフリースペース)が存在しており,これは心嚢液の貯留である.
左室の拡大はなく,従って,拡張型心筋症の可能性はない.
       UCG

<< 午後 >>
問題 17 健常成人の心電図で異常値はどれか.
1.P波の幅   0.08秒
2.PQ時間   0.18秒
3.QRS幅   0.12秒
4.QT時間   0.35秒
5.R−R間隔  0.70秒
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答: 3
        正常値
P波の幅   0.08±0.02秒
PQ時間   0.16±0.04秒
QRS幅   0.08±0.02秒
QT時間   0.4±0.05秒
R−R間隔  0.8±0.2秒

問題 18 心電図上,R-R間隔が規則的なのはどれか.2つ選べ.
1.洞性徐脈
2.心房細動
3.第1度房室ブロック
4.洞房ブロック
5.心室期外収縮
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答: 1,3
心房細動ではR−R間隔が一定しないのが特徴である.
もし心房細動でありながらR−R間隔が一定であったら,房室ブロックが起こっていることを考えなければならない.
これは,ジギタリス中毒もその原因となる.
洞房ブロックは洞結節から心房に刺激(脱分極)が伝わらないため,心拍の欠損が生じる.
洞性徐脈は心拍数が遅いだけであるので,R−R間隔は規則的になる.
第1度房室ブロックではPQ時間が延長しているだけで,R−R間隔については異常は生じない.

問題 19 心音図について誤っているのはどれか.2つ選べ.
1.I音は心電図のR波より少し遅れて発生する.
2.I音は房室弁閉鎖と大動脈弁開放,血液の大動脈への駆出音で構成される.
3.I音とII音との間は心室拡張期に相当する.
4.I音はIV音よりも小さな振れを示す.
5.I音は僧帽弁狭窄症では増強する.
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答: 3,4
心室が収縮を開始するのは心室が脱分極をした後であるので,心室の脱分極の過程を体表面から捉えた波形であるQRS群(R波)の後に心室の収縮が始まる.
心室の収縮が始まると房室弁(三尖弁,僧帽弁)が閉鎖し,動脈弁(肺動脈弁,大動脈弁)が開き,動脈へ心室内の血液が駆出される.
このときに生じる音がI音である.
収縮が終わると駆出も終わり,圧の関係で開放とは逆の順番で弁が閉鎖する.
このときに生じる音がII音である.
弁はドアと同じで,開くときにはあまり音はしないが,閉じるときには盛大な音が生じる.
であるから,I音の主成分は房室弁の閉鎖音,II音の主成分は動脈弁の閉鎖音となる.
軽乗用車よりも高級乗用車のドアが閉まるときの音が大きいように,質量が大きい方が大きな音がする.
僧帽弁狭窄症では,その多くはリウマチ性であり弁が石灰化し質量が増しているため,閉鎖するときには大きな音がするの(I音の増強)が特徴の1つであり,I音の増強は僧帽弁狭窄症を疑う根拠となりうる.
ビニール袋の底を全部切り取って筒にしてしまえば勢いよく振ってその中に空気を通してもたいした音はしない.
正常な弁が開いたときにはこのように,あまり音はしない.
しかし,底に開けた穴がある程度小さければ大きな音がする.
僧帽弁狭窄症では僧帽弁を構成する2枚の弁葉(前尖・後尖)が癒合している.
このため,弁が開こうとしてもいっぱいまで開かないために,それ以上開かなくなったときに音が生じる.
開き始めるときではなく,開ききったときに音が出るのである.
これがOS(オープニング スナップ)である.
また,弁の開放制限がなくても,心室の拡張性が低下していると,このタイミングで低い音が聞こえ,これがIII音となる.
同様に,心房が収縮したときに聞かれる音はIV音で,正常心では聞かれない.
なお,弁がちゃんと閉鎖できなければ音は小さくなるので,房室弁閉鎖不全の場合にはI音は減弱するし,動脈弁閉鎖不全の場合にはII音が減弱する.

問題 25 探触子で超音波ビームを収束させる働きがあるのはどれか.2つ選べ.
1.音響吸収材
2.STC
3.音響整合層
4.音響レンズ
5.電子フォーカス
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答: 4,5
音響吸収剤はバッキング材とも言い,超音波を発生する振動子の後に置いて超音波を吸収させ,探触子内で超音波の乱反射を防ぎ,超音波が探触子前面からのみ出て行くようにしている.

振動子と生体内では音響インピーダンスが大きく異なるため超音波が反射してしまう.そこで,音響インピーダンスが中間の素材を間に入れてやり,反射を少なくして超音波の生体内への浸透が大きくなるようにしている.
これを音響整合層である.
超音波は自然な状態では広がってしまうため,どこからの反射か分からなくなってしまう.
このため,探触子から真っ直ぐに超音波が出ていく工夫が必要であるが,それが音響レンズや電子フォーカスである.
Dr.SONOの公開講座「超音波の基礎」は分かりやすい上に詳しく超音波検査の図解説明をしているので,詳しい説明はそちらを参照してください.

問題 26 誤っているのはどれか.
1.周波数とは1秒間に繰り返される粗密波の回数である.
2.周期と周波数は反比例の関係にある.
3.周期は1つの波の時間である.
4.空気中の音速は水中での音速よりも速い.
5.伝播速度とは音波が媒質中を伝わる速度である.
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答: 4
1,2,3,5はその通り.
1気圧の空気中の音速は331.5+0.61×摂氏温度である.
気温が上がるほど大きくなり,よく言われる『大気中での音速は340m/秒』は海面上で1気圧(1013hPa)気温15℃(国際標準大気 ISA)という条件での値である.
水中では同じ15℃では1466m/秒である.
37℃の水中では1524m/秒,35℃では1520m/秒,40℃では1529m/秒である.
超音波検査装置ではJIS規格で定められた音速=1530m/秒で画像を作成しているが,これは体温40.5℃のときの速度に相当する.
このため,低体温であるほど,超音波像では実際よりも大きく計測されることになる(温度によるアーチファクト).
なお,75℃以上の水中では音速は遅くなり,気体に近づいていく.
生体中の音速は,骨以外では組織の細胞の主成分が水であるため,概ね水に近い速度であるが,密度と弾力性により速度が決まるため,脂肪組織では1460〜1470m/秒と遅いため大きく写り,肝臓は1533〜1580m/秒とやや速いため実際よりもやや小さく写り,筋肉は1545〜1630m/秒と硬い筋肉は小さく(薄く)写る傾向となる.
骨は密度が高いため1730〜4100m/秒と水と大きく異なるため,通常の超音波検査装置では観察することができない.

問題 27 肝臓の観察に通常使われない走査法はどれか.
1.右肋弓下走査
2.右肋間走査
3.左肋間走査
4.心窩部縦断走査
5.心窩部横断走査
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答: 2
肝臓は大部分を占める右葉は右肋弓下に隠れるようにして存在しているため,右肋間走査〜右肋弓下走査にて観察することになる.
左葉は心窩部にあるため,心窩部での走査にて観察することになる.
なお,左肋間から見ることができる代表的な臓器は心臓である.

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