心電図診断手順          
  ※ P,PQ,QRS・電気軸,不整脈 ⇒ ST,T,QT,U と見ていく        
久留米大学病院情報部  和田 豊郁
Last update: 2009/11/25
  P波があるか        
    ない (⇒ 洞調律以外)      
      波形が何も見られない ⇒ 心停止    
      基線が震えているだけでQRS波らしきものは見あたらない ⇒ 心室細動    
      正弦波様の波が連続して見られる ⇒ 心室粗動    
      0.12秒以上のQRS波が連続して出現する ⇒ 心室頻拍    
        振幅が変化する(大きくなったり小さくなったり) ⇒ Torsades de pointes  
      0.12秒未満のQRS波が連続して出現する ⇒ 上室性頻拍    
      平坦な基線が見られる    
        QRS幅<0.12秒 ⇒ 房室接合部性調律(ジャンクショナルリズム)  
        QRS幅≧0.12秒  
          QRS開始時に棘波(スパイク)が見られる ⇒ 心室ペーシング
          心拍数<50 ⇒ 心室リズム(心室固有調律)
          心拍数≧50 ⇒ 促進型心室固有調律
      f波が見られる ⇒ 心房細動    
      f波が見られる ⇒ 心房粗動    
    ある(II,V1ではよく見えるがaVLではフレが小さく見えにくい) ⇒ 洞調律      
      棘波(スパイク)がある ⇒ 人工ペースメーカリズム(心房ペーシング)    
        全てのP波の開始時に棘波(スパイク)がある ⇒ All pacing  
        棘波(スパイク)があってもP波がみられない ⇒ 人工ペースメーカ作動不全の疑い  
          棘波(スパイク)があってもP波がみられない ⇒ Pacing failure
          P波が出て十分な時間が経っていないのに棘波(スパイク)が出る ⇒ Sensing failure
      1つの誘導中に異なる形のP波がある    
        P-P間隔はほぼ一定  
          ペースメーカの移動(wondering pacemaker)
        P-P間隔が異なるときに異なる形のP波が出現  
          上室性期外収縮
      1つの誘導中のP波の形は全て同じ    
        Iで陰性P波 ⇒ 肢誘導左右付け違いか右胸心  
        II III aVF    
          P波が陰性 ⇒ 異所性洞調律(冠静脈洞調律)  
          いずれかでP波の高さ≧2.5mm ⇒ 僧帽性P(左房負荷)  
          二峰性のP ⇒ 肺性P(右房負荷)  
        V1    
          大きな陽性P波 ⇒ 右房負荷  
          P波前半の陽性部分より後半の陰性部分が大きい ⇒ 左房負荷  
        P-P間隔    
          0.6秒未満(心拍数>100) ⇒ 洞性頻拍  
          1.2秒を超える(心拍数<50) ⇒ 洞性徐脈  
          時々異なるP-P間隔となる ⇒ 上室性期外収縮  
          呼吸の周期と同期してP-P間隔が変動する ⇒ 呼吸性洞性不整脈  
            吸気時に短縮,呼気時に延長する
          それ以外 ⇒ 正常洞調律  
        突然異なる波形が出現    
          QRS≧0.12秒  
            先行P波がある ⇒ 変行伝導を伴う上室性期外収縮    
            先行P波がない ⇒ 心室性期外収縮,心室頻拍    
              単発(孤発),二連発,心室頻拍  
                数発程度の心室頻拍 ⇒ ショートラン
                30秒以内に治まる心室頻拍 ⇒ 非持続性心室頻拍
                それ以上続く心室頻拍 ⇒ 持続性心室頻拍
          上室性期外収縮      
    PQ時間(房室結節機能)            
      ほぼ一定だが時々QRS群が欠損する ⇒ Movitz II型第2度房室ブロック          
      一定だが周期的にQRS群が欠損する ⇒ 伸展型房室ブロック          
      何心拍かの間にだんだんと延長した後にQRS群が欠損する ⇒ Wenckebach型第2度房室ブロック          
      ほぼ全てが異なる          
        P波の出現頻度>QRSの出現頻度 ⇒ 完全房室ブロック        
        P波の出現頻度<QRSの出現頻度 ⇒ 房室解離        
      一定          
        0.12秒未満(⇒ 側副伝導路の存在を示唆する)  
          いずれかの誘導のQRS群にΔ波がある ⇒ WPW症候群
          Δ波がない ⇒ LGL症候群
        0.22秒以上 ⇒ 第1度房室ブロック  
        それ以外 ⇒ 房室結節の機能は正常  
    電気軸      
      正常: −30°〜+110°(I 誘導の向きが0°)    
        I aVF のいずれもR/S≧1 ⇒ 0°〜90°  
        I II のいずれもR/S≧1 ⇒ −30°〜90°  
        aVRはR/S≦1 でaVF≧1 ⇒ 0°〜120°  
    QRS幅      
      0.12秒以上    
        頻拍の場合 ⇒ 心室頻拍を疑う  
        Δ波がある ⇒ WPW症候群(ケント束は1本とは限らない)  
          V1にΔ波(左室にケント束,右脚ブロック型)⇒ WPW A型
          V6にΔ波(右室にケント束,左脚ブロック型) ⇒ WPW B型
        I,V6で幅の広いS波,V1でrsR'パターン ⇒ 完全右脚ブロック  
          上室性期外収縮時にのみ ⇒ 変行伝導
        I,V6でM型(QもSもない,V1でほとんどR波がない(QS波に近い) ⇒ 完全左脚ブロック  
        それ以外  
          QRSの始まりに棘波(スパイク)がある ⇒ 心室ペーシング
          全てが同じQRSパターン ⇒ 心室内電動遅延(心室内電導障害)
          一部だけQRS≧0.12秒 ⇒ 心室性期外収縮
      0.12秒未満    
        左軸偏位で I aVL にS波がなく,II III aVF にS波がある ⇒ 左脚前枝ヘミブロック  
        右軸偏位で I がRSパターン,III がQRパターン ⇒ 左脚後枝ヘミブロック  
        それ以外 ⇒ QRS幅による診断(異常)はない  
    QRSパターン(QRS時間<0.12秒)      
      QS波がみられる    
        I ⇒ 肢誘導左右付け違いか右胸心を疑う    
        V1-4 ⇒ 前壁中隔梗塞,肺気腫    
        どの誘導でも ⇒ 心筋障害    
          心筋障害: 心筋梗塞,心筋炎,拡張型心筋症,アミロイドーシスなどの2次性心筋症  
      Q波がある      
        aVR ⇒ 正常    
        III V1 ⇒ 異常ではないことも多い    
        それ以外の誘導に見られる場合    
          0.04秒未満のQ波  
            I II aVL V5-6 ⇒ 心室中隔の脱分極による(正常範囲内)
          0.04秒以上の幅があり,R波の高さの1/4以上の振幅がある ⇒ 異常Q波  
            ※ 心筋梗塞などの心筋障害(上記)以外にも左室肥大,肥大型心筋症などでもみられる
            ※ 心筋梗塞の場合
            I aVL ⇒ 高位側壁梗塞
            II III aVF ⇒ 下壁梗塞
            V2〜V4 ⇒ 前壁梗塞
              V1 がQS型 ⇒ 前壁・中隔梗塞  
                ※ 肺気腫では前壁中隔梗塞様の心電図を呈することがある
            I aVL V5-6 ⇒ 側壁梗塞    
      R波が低い          
        一部の誘導        
          I ⇒ 肢誘導左右付け違いか右胸心を疑う      
          II III aVF ⇒ 左脚前枝ヘミブロックを疑う      
          V1-3 ⇒ 左室肥大(特に大動脈弁疾患)のときにみられる      
          心内膜下梗塞,心筋障害      
        振幅が小さい(四肢誘導≦5mm,胸部誘導≦10mm) ⇒ 低電位差        
          全ての誘導 ⇒ 心嚢液貯留の可能性      
          それ以外 ⇒ 肥満などによる      
      R波が高い          
        V5またはV6のR波≧26mm ⇒ 左室高電位差(左室肥大)        
        V1のS波+V5またはV6のR波のうち高い方≧40mm ⇒ 左室高電位差(左室肥大)        
        V1-3のR波≧5mm かつ ST-T低下 ⇒ 右室肥大        
      胸部誘導V3で R波の振幅 ≒ S波の振幅 ⇒ 長軸周りの軸は正常    
        胸部誘導で R波の振幅 ≒ S波の振幅 がV2かV1にある ⇒ 反時計回転  
        胸部誘導で R波の振幅 ≒ S波の振幅 がV4〜6にある ⇒ 時計回転  
    ST部分      
      低下(1.0mm以上)    
        盆状低下 ⇒ ジギタリス効果  
        下降型低下,水平型低下 ⇒ 虚血(狭心症),左室肥大  
        V1-2 ⇒ 後壁梗塞の可能性  
      上昇    
        V1-2 でrsR'パターン(右脚ブロック様)  
          R'に引き続き山なりのSTで途中にへこみがある(coved pattern) ⇒ブルガダ型
          鞍状に途中にへこみがある ⇒ ブルガダ型
        上に凸 ⇒ 心筋梗塞,異型狭心症  
        上に凹 ⇒ 心膜炎  
    T波      
      ※ QRS波のフレの大きい方と同じ向きなら概ね正常であることが多い    
      陰性    
        QRS≧0.12秒 ⇒ 心室性期外収縮,心室頻拍  
        III aVR aVF V1 ⇒ 異常ではない  
        aVL  
          I が陰性でなければ異常ではないことが多い
        その他の誘導 ⇒ 心筋梗塞,狭心症,左室肥大  
          小児ではV1-3は陰性
      終末部の陰性化 ⇒ 心筋梗塞,狭心症,左室肥大    
      平低    
        低カリウム血症,左室肥大  
      増高    
        高カリウム血症(いわゆる『テント状T波』,左右対称)  
        急性心筋梗塞(左右非対称であることが多い)  
      T波の頂点付近に心室性期外収縮が出現 ⇒ R on T    
        Torsades de pointes などの心室頻拍,心室細動に移行しやすい    
    QT時間        
      R-R時間の1/2を超えていれば延長      
      QTc = QT時間÷心拍数の平方根      
        正常値: 0.40±0.04秒    
        短縮 ⇒ 高カルシウム血症    
        延長    
          先天性QT延長症候群  
            ロマノワール症候群(QT延長のみ)
            ジェルベル・ランゲ・ニールセン症候群(QT延長+先天性聾)
          後天性(二次性)QT延長症候群  
            低カルシウム血症,低カリウム血症,低マグネシウム血症
            薬剤性(多数あり)
            心筋障害(心筋梗塞,心筋炎など)
            中枢神経疾患(脳出血,頭部外傷・手術など)
            代謝低下(甲状腺機能低下症,低体温,有機リン中毒など)
    U波        
      T波より高い ⇒ 高カリウム血症,QT延長症候群,ジギタリス効果      
      陰性 ⇒ 心内膜下の虚血(心内膜下梗塞,狭心症,左室肥大)      
        V4-6でみられることが多い    
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