我々が行なう基礎研究では、耳鼻咽喉科・頭頸部外科の領域の手術や外傷によって欠損した組織をもとの形態と機能に再生することを目指しています。悪性腫瘍の手術や外傷で組織が障害を受けると、機能的障害だけでなく外見上の著しい変形を生じることになります。また、たとえ疾患から治癒しても社会的にも精神的にも重大な後遺症を引き起こすことになります。研究の対象としている臓器は、発声するのに欠かせない喉頭そのもの(声帯、輪状軟骨、甲状軟骨、気管など)が主ですが、反回神経、顔面神経などの脳神経を中心とする末梢神経、さらに聴力に必要な鼓膜、内耳有毛細胞などが挙げられます。これらは日常生活で欠かすことのできない重要な臓器です。
現在まで、口腔内の粘膜をわずかに採取し、声帯の粘膜に見立てた組織を再生することを可能にし、実験動物に対して自家移植を行い良好な発声ができることを証明しました。また、ダメージを受けた声帯を動かす反回神経の再生のために、培養シュワン細胞を自家移植することで障害神経の回復が期待できることがわかってきました。さらには、色々な細胞に分化する能力があるとされる脂肪幹細胞を利用し、これを頭頸部領域に必要な細胞に分化させる方法を用いることで、機能的にもかなり再生が可能であることがわかってきました。このように、喉頭のよう複合臓器すなわち骨、軟骨、筋、粘膜上皮、結合織、神経を含む臓器の再生が可能なると、将来的には自己の培養細胞を用いてすべての臓器が再生できる可能性があります。対象とする臓器が広範囲に及ぶため、一人でも多くの共同研究者を求めております。興味のある方は是非ご連絡ください。