今月の寄生虫
自由生活アメーバ
 自由生活アメーバは自然界に広く存在しており、従来はヒトや動物に対して病原性はないと考えられていました。ところが、近年、ヒトや動物に劇症髄膜脳炎や角膜炎を起こすことが見出され、わが国でも患者が発見されつつあります。
 原発性アメーバ性髄膜脳炎の起因アメーバ(主にNaegleria fowleri) は、通常は淡水に生息しており、とくに水泳プール・川・池・湖などが感染源として重要視されています(水泳中に経鼻腔的に侵入し感染が成立すると考えられ ています)。生活環の中に他のアメーバにはない鞭毛型が見られる点が大きな特徴です。また、非常に急性の経過をとるのが特徴で、1週間程度の潜伏期を経て 嘔吐を伴った強い発熱や頭痛などの初発症状が急激に現れ、その後、様々な中枢神経症状が現れます。神経症状は急速に悪化して意識障害を伴うようになり、発 症後10日前後でほとんどが死亡します。初期症状が通常の髄膜脳炎症状と区別できないために死亡後に診断された例がほとんどで、多くの症例が見逃されてい ると考えられています。治療にはアンホテシリンBが有効と言われていますが、救命例は数例しか報告されていません【本邦初症例の詳細が、国立感染症研究所 の病原微生物検出情報(IASR) Vol.18 No.5 に掲載されています】。
 一方、アメーバ性肉芽腫性脳炎の起因アメーバ(主にAcanthamoeba culbertsoni) は、ほとんどが気管・鼻腔・皮膚・生殖器などに日和見感染しており、宿主側が何らかの原因で免疫不全状態に陥ると脳に転移し脳炎を起こすことが知られてい ます。症状は亜急性ないしは慢性的に進行しますが、効果の強い薬剤はなく、発症後1〜2カ月で死亡します。また、他の数種類のAcanthamoeba属アメーバは、ヘルペス角膜炎と似た症状を呈する角膜炎を引き起こし失明する場合もあります。コンタクトレンズが感染に関与していると言われていますが、はっきりとした感染経路はわかっていません。治療にはイミダゾール系の抗生物質を用います。
N.fowleri

Naegleria fowleri(栄養型と鞭毛型虫体)
(培養虫体 無染色標本)

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