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動注化学療法

頭頸部がんに対する動注療法(カテーテルを使った抗がん剤治療)

 久留米大学では、喉頭がん、咽頭がん、舌がん、口腔がん、歯肉がん、上顎がん、などの頭頸部がん(顔やのどのがん)に対して、放射線科、耳鼻咽喉科・頭頸部外科、歯科などが協力して、チーム医療を行っています。がんの治療には、大きく、外科手術、放射線治療、化学療法(抗癌剤の治療)の三つがあります。頭頸部がんの特徴は、抗癌剤が効きやすい、放射線治療が良く効く、外科的治療で機能が損なわれやすい、ことなどがあります。舌やのどにがんができたら、手術で舌やのどを十分に摘出すれば、がんは治癒することが多いのですが、患者さんの手術後の生活は大きく変わってしまいます。放射線や抗癌剤がよく効くのなら、できるだけ手術をしないで、何とか、のど、目、舌などの臓器や機能を残しながら頭頸部がんを治療できないか。頭頸部がんを「切らずになおす」機能温存治療が私たちの目標です。
 しかし現時点では、進行頭頸部がんの標準治療は、外科手術による腫瘍摘出です。放射線治療だけで完治する初期の喉頭がんなどもありますが、進行した頭頸部のがんを、動注化学療法と放射線治療の併用で治療してしまおうという施設は、現在でも決して多くありません。私たちは、手術を拒否された患者さん、麻酔ができないなどの理由で手術ができない患者さんなどを中心に、抗癌剤の動注と放射線の併用でまず機能温存をめざし、どうしても治癒できない方については手術による摘出を考慮するという方針で、治療にあたっています。

動注化学療法  抗癌剤での治療には、点滴と同じように静脈から抗癌剤を流す全身化学療法と、動脈の中にカテーテルを入れて抗癌剤を注入する動注化学療法という二つの投与方法があります。超選択的動注化学療法とは、がんのすぐ近くの動脈まで細いカテーテルを持って行き、そこから抗癌剤を注入する方法です。超選択的動注化学療法は、血管造影室で放射線科医が行います。まず、ももの付け根に局所麻酔をして大腿動脈から頸の動脈を通って、がんのすぐ近くまでいっている細い動脈に、直径が1mmの細いカテーテル(管)を、高精度のX線を見ながら挿入します。ここから抗癌剤を急速に注入しますので、点滴からの化学療法に比べて、約200倍の濃度の抗癌剤にがんがさらされることになります。

動注化学療法

わかりやすく言うと、点滴からの抗癌剤投与(全身化学療法)の場合には、がんに注がれる抗癌剤の量は、「ぽたぽた」という程度ですが、動注化学療法の場合には、強い勢いでホースから水を撒くように抗癌剤が、がんに注入されます。週に5回の放射線治療を6週間行うあいだに、同時に週1回の動注を4回繰り返します。臓器を温存するのも、決して簡単な治療ではありません。

動注化学療法

 動注化学療法の利点は、がんのすぐ近くの栄養動脈から抗癌剤を流すことができるので、少ない量で確実に腫瘍に薬を送りこむことができる点です。点滴で抗癌剤を投与する際、がんの部位の薬の濃度を上げるためには、大量の抗癌剤を入れる必要があり、全身の副作用が大きくなるという問題があります。また、頭頸部のがんに最も良く効くシスプラチンという抗癌剤には、これを中和して解毒する薬(中和剤)があります。動注では、この中和剤を使うことにより、副作用を最小にすることができるのです。点滴による静脈からの化学療法の場合にはこの中和剤は使えません。抗癌剤は、癌にとっても毒となるだけでなく、正常細胞にとっても基本的には毒なので、いらなくなった抗癌剤を次から次に解毒する中和剤が使える動注化学療法は、とても有利なのです。

 頭頸部がんに対する動注化学療法の副作用、合併症についてお話しします。まず、頭頸部がんを栄養する動脈は、頸動脈という大きな頸の動脈から出ており、ここからは、脳を栄養する動脈も出ています。脳の動脈と非常に近いということが問題です。太ももの付け根の動脈から入れた細いカテーテルという管を、舌やのど、顔などにできたがんの動脈に入れるときに、血管の壁についた血の固まり(血栓)が脳に飛んで、大切な血管が詰まると脳梗塞を起こす可能性があります。手や足の麻痺、言語障害、視野障害など脳梗塞の症状は様々です。このため、頭頸部がんの動注を担当するのは、脳血管造影を数多く経験し、海外の進んだ施設に留学経験のある脳神経、頭頸部専門の放射線科専門医だけが行うようにしています。可能性としては、0.1%程度の確率で脳梗塞がおきると言われており100%安全な治療とは言えません。この他にも、抗癌剤そのものでの、吐き気、食欲不振、白血球や血小板の減少、貧血などの副作用もありますが、通常、全身化学療法(抗癌剤の点滴治療)の副作用よりはるかに小さいのが特徴です。

頭頸部がんを、切らずに治す。カテーテルを使った動注での抗がん剤治療と放射線治療で、切らずに治すことが私たちの目標です。久留米大学では、1997年から、この治療を開始し、年間に約40人の患者さんがこの治療を受けられています。2012年からは、上顎癌で国立がんセンター中央病院などの全国の病院でもこの治療は行われるようになっています。  

                     治療担当:准教授 田中法瑞