肝癌部門

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研究概要

 私共のグループは、肝腫瘍、特に原発性肝癌の病理形態的、分子病理,実験病理的研究を行っている。近年取り組んでいる具体的なテーマとしては、がん幹細胞と肝癌の発生・進展との関連、慢性肝障害と肝発癌機序、肝細胞癌の門脈侵襲関連分子の同定とその機能解析、混合型肝癌の発生機序、混合型肝癌の診断に有用な組織腫瘍マーカの同定、細胆管癌の遺伝子解析、新規薬物配送システムによる肝癌治療の基礎的研究、肝がん分子標的薬の基礎的研究などがある。

 上記テーマの研究を遂行するため、材料としては、20年以上にわたる数100症例の外科切除肝腫瘍及び非腫瘍部組織のホルマリン固定パラフィン包埋組織(FFPE)や凍結組織を臨床データーと伴に保有している。また、癌の機能解析には、15種類の性状の異なる肝癌細胞株(11種類の肝細胞癌細胞株、2種類の混合型肝癌細胞株、2種類の肝内胆管癌細胞株)と1種類の肝外胆管癌と1種類の胆嚢癌の細胞株を独自に樹立・保持している。肝細胞癌の細胞株の中には、結節内結節像を示す肝細胞癌より樹立された単クローン由来で分化度の異なる2つの肝細胞癌株があり、肝癌の進展機構の解明の研究には有用である。外科切除肝癌組織由来では無く、末期肝癌患者の腹水より樹立された3つの肝細胞癌株も含まれる。また、混合型肝癌の2つの株は、典型型の混合型肝癌とステム細胞像を呈する亜型の中間細胞亜型由来であり、稀少な細胞株である。

 解析方法としては、HE染色標本を用いた病理形態学的研究や免疫染色標本を用いた分子病理学的検討のほか、マクロおよびマイクロダイセクション法によりFFPE切片や凍結切片から、興味ある領域の組織からRNAを抽出し、マイクロアレイ法で網羅的に遺伝子解析を行い、特異的な変化を示した遺伝子を抽出する。次に、肝癌組織を使用して、蛋白レベルの発現を免疫染色で解析し、その意義を検討し、更に必要に応じて細胞株で機能解析を行う。このような方法を用いて肝癌の病理診断に有用な分子の同定や生物学的特徴に関連した分子の同定を試みている。分子標的薬などの治療の基礎的研究には細胞株を用いて詳細な解析を行っている。

 これらの病理学的アプローチを用いて、肝癌の病理組織診断や生物学的性状診断方法や有効な治療法の同定に貢献したいと考えている。

矢野博久

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研究活動

肝細胞癌の生物学的特性を予測するのに腫瘍生検は有用である

主研究者:塩賀太郎、近藤礼一郎、小笠原幸子、秋葉 純、水落伸治、
草野弘宣、三原勇太郎、谷川雅彦、金城賢尚、内藤嘉紀、
黒松亮子、中島 収、矢野博久

【目的】生物学的悪性度の評価は適切な治療法の選択に必要である。肝細胞癌(HCC)では、生物学的悪性度は、組織形態や分子マーカーにより評価が可能である。本研究では肝腫瘍生検が肝細胞癌の生物学的悪性度評価に有用であるか検証を行った。

【方法】HCCに対する肝切除術前に肝腫瘍生検が施行された43例のHCC症例を対象とした。術前肝腫瘍生検標本と外科切除標本の病理組織学的所見、免疫組織化学所見(β-catenin、CK19、EpCAM、GPC3、PIVKA-II、p53、RGS5)を対比検討した。

【成績】生検と切除標本との間で、腫瘍分化度の診断一致率は 83.7%であった。生検と切除標本てとの間で、免疫組織化学の一致率は、β-catenin 81%, EpCAM 98%, GPC3 86%, p53 72%, RGS5 70% で、CK19 は全生検標本で陰性であった。また、生検でRGS5陽性症例はRGS5 陰性症例より有意にAFPが高く、中低分化型が多く、門脈侵襲が高度だった。生検でGPC3陽性症例はGPC3陰性症例より有意に血中PIVKA-II値が高く、門脈侵襲が高度だった。生検でPIVKA-II陽性症例は陰性症例より有意に血中PIVKA-II値が高かった。その他の分子は有意な所見は得られなかった。

【結論】組織像や分子発現において、肝腫瘍生検標本と切除標本で診断一致率は高かった。また、生検標本に対する GPC3, RGS5 の発現検討は門脈侵襲の予測に有用である。肝腫瘍生検は組織像や分子の発現評価を通じてHCCの生物学的悪性度評価に有用である。

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