研究分野・歴史

研究分野

社会疫学により明らかにされた健康の社会的決定要因に着目して、大きく3つの分野での研究に取り組んでいます。

産業医学

振動障害

第2代高松教授から連綿と続く教室研究の伝統的なテーマです。病態生理に関する基礎的研究から、全国の大学では唯一外来部門(「環境病」外来:循環器病センター内)を有し、振動病の診断治療を行っています。また、所属学会の日本産業衛生学会の研究会(振動障害)では、複数のワーキンググループにメンバーとして、新しい診断体系の構築や新規発生患者の要因分析の仕事を担当するなど、積極的に学会活動を行っています。

高圧環境(潜水)の健康影響

最近の新たな取り組みとして、潜水業務(海女、海士)と健康との関連性について、フィールド調査とともに、まだ明らかにされていない中枢神経障害の機序に関する研究を開始しています。

潜水作業や圧気土木作業など高気圧環境下で労働する作業者の安全と衛生を規定しているのは労働安全衛生法の中の高気圧作業安全衛生規則(以下、高圧則)です。しかしこの規則は昭和36年に定められたもので、現在まで40年以上も根本的な改定が行われておらず、多くの問題点を含んでいます。この規則の改定を関連学会と協力して目指しています。

医療従事者の健康管理

医師不足、看護師不足などが叫ばれる中、質の高い医療を患者さんに提供するためには、医療従事者の健康が十分に維持されていなければなりません。大学病院看護部との共同研究で看護師の健康問題の現状把握と要因分析を行っています。介護保険に関連した地域包括支援センター職員を対象としてワークストレスとバーンアウト症候群との関連性の分析調査を実施しています。

環境医学

室内空気汚染

居住環境中の化学物質による室内空気汚染と健康影響の関連を明らかにするために、本学の解剖学講座との共同研究で解剖学実習室のホルムアルデヒド濃度の測定と学生への健康アンケート調査を実施し、学生教育の環境改善につなげる活動を行っています。

また、微量の化学物質への過敏症の方への外来相談や室内環境の測定依頼などについて、専門的立場より環境改善に向けた助言指導サービスを行っています。さらに、健康住宅の評価について、住宅関連会社からの依頼を受けて測定し、専門的立場からアドバイスを行っています。

電磁界の生体影響評価

スマホやWiFiなどの無線通信で用いられている電磁波が私達の健康に影響を及ぼすのではないかと懸念されており、現在、WHO等の国際機関と協力して世界各国で電磁波の及ぼす生体影響について研究が進められています。

当講座では、国内の複数の大学および研究機関と連携しながら、人体および実験動物を対象に電磁波ばく露時の生体内変化を多角的に評価・解析することで、電磁波の生体影響に関する生物学的なエビデンスを蓄積しています(レギュラトリーサイエンス)。
また、これら知見を提供することで、工学的シミュレーションモデルの開発や国際ガイドラインの策定に寄与しています。

地域保健

失業/非正規労働者の健康影響

1998年の地場大手靴製造メーカー倒産をきっかけに、失業による健康影響に関する研究をスタートしました。これまでに5回調査(アンケートによる健康調査)を実施し、失業の健康影響に関する有用な知見を得て関連学会で発表してきました。またこれと同時に「失業と健康」研究会(事務局)を立ち上げ、医学だけでなく行政を巻き込んだ幅広い活動を実践しています(定期的にニュースレターを発行)。また、日本産業衛生学会の研究会(非正規雇用)の設立メンバーとして参画するなど、学会活動も積極的に行っています。

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HIA(健康影響評価)

これは主に行政の政策、施策、事業が健康に影響を与えるかどうかを事前にpositive面とnegative面の視点から評価し、政策決定者の判断に資することを目的するもので、最近注目を集めている研究手法であります。

我々の教室でも2007年から、この分野では先進的活動を行っている英国リバプール大学のワークショップに参加し、その手法を学んで、地元の事例への適用を始めています。その一つは「久留米市の中核市移行に伴う健康影響評価」として、2008年の日本公衆衛生学会総会で発表いたしました。さらに、公立病院の経営形態移行に関する包括的HIAの実践に取り組み、有用な結果を得ることができ、関連学会で発表予定です。今後大きな展開が予想される研究分野であります。

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