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分子病態班 (青木 浩樹)

大動脈疾患プロジェクトの分子病態班は、近年増加の一途をたどっている大動脈疾患の分子病態解明と新たな診断・治療法の開発を目的に平成20年7月から活動を開始した。
現在の研究対象疾患は大動脈瘤(真性瘤)と大動脈解離である。これらの疾患に対する治療としては外科的治療が主流であり、低侵襲で注目される血管内治療を始めとする術式の進歩や、それを支えるステントグラフト等のデバイスの開発には目覚ましいものがある。このような治療法の進歩とは裏腹に、疾患そのものの発生機序や分子病態の解明は、他の疾患と比較して立ち後れている。外科的治療は、生命に一定の危険が及ぶまで病態が進行してから施行され、侵襲が大きくなりがちであり医療費も高額となる。
病的血管の異常を是正する治療法が無い現在、発症数の増加は外科的治療件数の増加に直結しており、患者個人への負担はもとより、社会的にも医療費負担の増大を招いている。大動脈疾患の外科的治療件数が5年間に40%近く増加する現状を改善するには、病態の解明と新たな診断・治療法の開発が喫緊の課題である。
研究対象として大動脈瘤は非常に興味深い疾患である。大動脈瘤は不明の原因による大動脈壁の局所的な慢性炎症と壁の脆弱化が何年にもわたって持続する疾患である。瘤は横径の増大とともに、長軸(上下)方向にも進展してゆく。そのため、正常径部分から瘤への移行部は常に初期病態を反映し、瘤の最大径部分に向かって病態のステージが、あたかも地層のように連なっている。
分子病態班では、この病態を「炎症のタイムカプセル」と捉えている(図1)。慢性炎症は、糖尿病を含む代謝疾患、慢性閉塞性肺疾患、悪性腫瘍等、殆ど全ての慢性疾患の基礎病態であるが、これらの罹患組織ではあらゆる病態ステージが混在していることが病態の解明を妨げている。病態ステージの空間分布が時間経過と直結した「炎症のタイムカプセル」大動脈瘤の網羅的解析からは慢性炎症の謎を解く鍵が得られるかもしれない。このような網羅的アプローチと対をなすものとして、特定の分子機構に着目した研究が重要である。
平成21年度からは、研究生として西原、大野が分子病態班のパワフルな戦力として加わり、血管周囲の微小環境およびマクロファージ分化機構に着目した研究を開始する。一方、大動脈瘤以外の大動脈疾患も多くは病態不明である。例えば大動脈解離は予兆無く発症し、適切な動物モデルもないため、発症時の現象を知る術が無いことが研究を妨げている。
最近、分子病態班では、あるノックアウトマウスにアンジオテンシンIIを投与することで再現性良く大動脈解離を誘発できることを発見した。これは、世界初の解離誘発モデルである。このモデルマウスを用いて大動脈解離の分子病態に挑んでゆく。
分子病態班の研究ビジョンは、大動脈研究を1つの研究分野として確立することである。その先には分子病態の解明と新たな診断・治療法の開発への道が開けており、さらに慢性炎症のモデル疾患として広く基礎・臨床研究のフィールドが広がっていると信じている。大動脈研究は、内科学、外科学、基礎医学、情報学、医用工学、創薬等の異分野共同研究を推進する絶好の題材でもある(図2)。 このビジョンのもとに、循環器病研究所および全国各地の研究者のご協力を得て大動脈研究を発展させる所存である。 分子病態班では、この病態を「炎症のタイムカプセル」と捉えている(図1)。慢性炎症は、糖尿病を含む代謝疾患、慢性閉塞性肺疾患、悪性腫瘍等、殆ど全ての慢性疾患の基礎病態であるが、これらの罹患組織ではあらゆる病態ステージが混在していることが病態の解明を妨げている。病態ステージの空間分布が時間経過と直結した「炎症のタイムカプセル」大動脈瘤の網羅的解析からは慢性炎症の謎を解く鍵が得られるかもしれない。このような網羅的アプローチと対をなすものとして、特定の分子機構に着目した研究が重要である。
