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第33回日本高血圧学会総会
ひらめきときめきサイエンス

研究プロジェクト>循環分子治療研究部門

肥大・心筋症班(安川 秀雄)


 肥大・心筋症班の研究テーマは1)サイトカインの機能を調節するSOCS (suppressor of cytokine signaling)と心疾患・全身疾患に関する研究、2)増殖因子の機能を調節するSpred/Sproutyと心疾患に関する研究、3)免疫と炎症をコントロールする樹状細胞の心不全における役割に関する研究である。平成20年度の各研究の進捗状況は以下の通りとなっている。
1)サイトカインの機能を調節するSOCSと心疾患・全身疾患に関する研究
近年、JAK-STAT経路を介したシグナル伝達経路の活性化が心筋の生存促進や血管新生促進に重要であるとの報告が相次いでなされた。SOCSファミリーの中でSOCS3 (suppressor of cytokine signaling-3) はG-CSF、erythropoietinやLIFなどのサイトカインによって発現が誘導され、JAKに結合することでJAK-STAT経路の心筋生存シグナルを強力に負に制御するネガティブフィードバック因子である。我々は心筋特異的SOCS3ノックアウトマウスを作成し、虚血性心疾患 (急性心筋梗塞モデル・心筋虚血再灌流モデル)・心不全 (敗血症モデル・アドリアマイシンモデル) における心筋障害抑制の可能性について検討している。急性心筋梗塞モデルにおいて、心筋梗塞後心筋生存シグナルの発現亢進とアポトーシスの抑制を認め、その結果左室リモデリングが著明に抑制されていることを見いだした。この結果は2008年のAHA、日本循環器学会学術集会、他多数で発表し、現在論文投稿準備中である。また敗血症モデルでも同様にSOCS3ノックアウトマウスにおいてLPS投与後以降の心機能低下が著明に抑制され、生存率が改善したことを見いだした。この結果も2007年、2008年のAHA、日本循環器学会学術集会、他多数で発表し、現在論文投稿準備中である。さまざまな要因による心筋障害において、SOCS3を抑制することで心筋保護的に働くことが見いだされており、今後はSOCS3を標的とした新しい治療法の開発を試みたい。
2)増殖因子の機能を調節するSpred/Sproutyと心疾患に関する研究
 心筋梗塞後心筋リモデリングの病態において様々な細胞内シグナルの活性化が認められるが、その中でもRas-Raf-ERKキナーゼ経路はアポトーシス抑制と血管新生亢進作用によって、急性心筋梗塞後心筋リモデリングに対して抑制的に働く。Spred/SproutyファミリーはRafに結合しこの経路を特異的に負に制御する遺伝子として同定された。これらの関係からSpred/Sproutyをノックアウトしたマウスを用いて、急性心筋梗塞後心筋リモデリングの抑制ができるかどうかを検討中である。
3)免疫と炎症をコントロールする樹状細胞の心不全における役割に関する研究
 RAS系阻害薬やβ遮断薬の導入により心不全の治療法は進歩したが、その病因や病態については未だ不明な点が多い。近年、自己免疫を介した炎症が心不全の病態の進行や組織障害に深く関わっていることが示唆されている。そこで免疫反応の中心を担う「樹状細胞」に注目し、心不全の病態解析に免疫学的なアプローチを行っている。我々は急性心不全症例においてコントロール群に比べ樹状細胞数が有意差を持って著明に減少し、活性化マーカーが上昇することを明らかにした。さらに樹状細胞の動態と心不全のパラメーターであるBNPやトロポニンの値に関連があることを見いだした、この心不全症例における樹状細胞の動態に関する研究成果は2006年と2007年のAHAで発表し、International Journal of Cardiology誌に掲載予定である。
 今後もサイトカインのシグナルを調節するSOCS3、新しいサイトカインや炎症免疫機構に焦点をあてて、心筋疾患の病態解明と新しい治療の解明を目指していく。
member 杉雄介、二又誠義、大村治也、大場豊治、福井大介、馬渡一寿、京極幸子、永田隆信、大島英樹