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第33回日本高血圧学会総会
ひらめきときめきサイエンス

研究プロジェクト > 血管新生研究部門

血管新生班 (佐々木健一郎)


 私たちの研究室では、2000年より実施しております「重症虚血性末梢血管病に対する自家骨髄細胞移植による血管新生療法」の長期成績を検証するとともに、臨床の現場で見えてきた様々な問題点に対する生物学的検討や、問題点を解決するための新たな手法の開発を目指した基礎研究を中心に行っています。
 私たちは、当治療法がバージャー病の皮膚潰瘍をともなう14例(19潰瘍)において良好な治療成績を示したことを2007‐2008年に報告し、さらに2008年には当施設を含む多施設共同、平均観察期間25.3ヶ月における長期成績評価結果を報告し、当治療法の長期間における効果と安全性を証明しました。
 しかしながら、これまでの経験上、治療効果に乏しい例も存在します。この点については以前から国内外でも注目されており、「投与細胞の血管新生能力が、投与の段階で既に低下しているのが原因ではないか」と考えられてきました。当治療法は「血管内皮前駆細胞(以下、EPC)」なる、一種の血管幹細胞の血管新生能力を応用した手法ですが、同細胞が動脈硬化危険因子である高血圧や喫煙、脂質異常、糖尿病などによって、その細胞機能に障害を与えられているという研究報告がなされています。事実、当研究室員の佐々木は、2006年に虚血性心臓病患者由来の骨髄細胞における血管新生能力をin vitro実験で評価し、健常人に比べて、細胞機能が低下していることを確認しました。さらに、その低下した細胞機能を内皮型一酸化窒素合成酵素増強剤で回復させ、動物実験において血管新生増強効果をもたらすことにも成功しました(PNAS 2006)。この着眼点に基づき、私たちの研究室では現在、低下したEPCの細胞機能を様々な手法で回復、さらには増強させる手法の開発研究を行っています。
 当研究室員の外山は、EPCに超音波刺激を直接加えることにより、細胞機能の回復・増強を試みています。これまでのIn vitro実験においては、健常人由来のみならず、いくつかの動脈硬化危険因子を持つ患者由来のEPCにおける血管新生能力を高めることに成功しており、2009年3月に開催された日本循環器学会総会・学術集会において研究結果を報告しました。現在、動物実験において同様の効果が得られるか否か検証中です。
 その一方で、当研究室員の大塚は、自家血小板由来膜小胞体を応用し、EPCの分化能力を高めることに成功しました。現在、他の細胞機能についても同様の効果が得られるか検証中です。
 現在、国内外で行われている虚血性心血管病に対する細胞療法の手法は、局所筋注投与法と、血管内投与法の二つに分けられます。特に虚血性心臓病に対する投与では、比較的簡便である点で、冠動脈内への直接投与が主に行われています。本手法で問題となるのは、投与細胞が治療標的虚血組織へと、いかに多く接着し、細胞機能を果たしているのかという点です。投与細胞数と治療効果に相関性があることは既に報告されているため、より多数のEPCを虚血組織内へ接着させることが治療効果を高めるうえで重要と考えられます。
 当研究室員の小岩屋は、EPCを磁気化することにより、強力な磁場を人工的に形成した虚血組織へ、強制的に帰巣させる手法の開発研究を行っています。これまでの検証では、EPCの生存能力や分化能などに影響を与えることなく磁気化できており、さらに私たちが独自に開発した強力磁石による磁界に沿って有意に走化するEPC像が観察されています。下肢虚血動物モデルによる生体内での血管新生増強効果につながる結果か否か、現在、検証中です。
 当研究室員の仲吉は、EPC磁気化の際に、血管内皮細胞内増殖制御シグナルやアポトーシス制御シグナルをコントロールする標的siRNAやshRNAを同時に導入することで、遺伝子レベルでの、さらなる血管新生増強効果が得られるか否かについて検証しています。
 最後に、当研究室員の香月は、バージャー病患者由来のEPCにおける血管新生能力を分子生物学的側面から評価し、細胞分化能が健常人に比べて低下していることを発見しました。バージャー病患者における血管新生療法の効果は閉塞性動脈硬化症患者における治療例に比べ、好ましい印象ではありますが、低下した細胞分化能を何らかの方法で高めることが可能となれば、さらなる治療効果が期待されます。香月の研究結果は現在、論文投稿中です。
member 香月与志夫、有馬 健、外山康之、大塚昌紀、小岩屋宏、仲吉孝晴