補助人工心臓
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メモ 我々は、重症心不全の方の外科的治療も行っています。
一昔前までは、拡張型心筋症、肥大型心筋症の拡張相、弁膜性心筋症、虚血性心筋症などといった病気は、手術を行っても思うような結果が得られないこともあって、手術の対象(適応)となりませんでした。しかし、手術方法や術後管理の進歩により手術成績が徐々に向上してきたこともあり、手がつけられないと考えられていた重症心不全の患者さんでも積極的に手術を行うようになっています。
 特に最近では、補助人工心臓(人工心臓の一種)の応用によって治療方法が大きく広がっています。人工心臓というと、“未来の医療”というイメージがあるようですが、既に臨床でも応用されています。
我々が現在使用している補助人工心臓というのは、心臓(左心房または左心室)から血液を身体の外にあるポンプ(空気駆動型)に引き抜いて、大動脈に送り返すという方法をとっています。こうすることで心臓は補助人工心臓が血液を送ってくれるため十分に休むことができます。また、心不全のためダメージを受けていた全身の重要な臓器(脳、肝臓、腎臓など)は、補助人工心臓がたくさんの血液を送ってくれるようになるため、機能が回復してきます。このような装置を使うことで、心臓手術を受けた後の心臓のダメージを回復させたり、全身状態を改善させることに成功しています。また、心臓移植を受けなければならない患者さんが、移植待機中に心不全の増悪を来したり、全身状態が悪化した際の治療にも大きな役割を背負っています。欧米では、心臓移植の約40%の患者さんが、移植を受ける前に補助人工心臓を使っているという結果が出ています。これは、海外でもドナーが出るのに長期間待たなければならないという現実、一方で補助人工心臓の成績が向上してきたことなどが背景にあるようです。いずれにしても重症心不全や心臓移植治療において、補助人工心臓はかけがえのない存在となっています。
 また、体の中に補助人工心臓を植え込むことも可能です(ちなみにこのタイプの人工心臓は、日本では現在臨床治験が検討されている段階です。厚生省から認可が下り次第、我々の施設でも使用することは可能となりますが、平成12年10月17日現在ではまだ使えません)。主に欧米でのデータですが、植え込み型人工心臓を使用することで、寝たきりだった患者さんが、病院を退院し自宅で心臓移植を待機していることも少なくありません。心臓移植のためのドナー不足が深刻な日本では、補助人工心臓が移植に変わる治療法として大いに期待されています。
 では、補助人工心臓が心臓移植に完全に取って代われるかというと、残念なことにそうではありません。補助人工心臓も感染や塞栓症、長期耐久性など解決しなくてはならない問題が残されてます。今日の医療技術では、長期予後に関しては心臓移植の方が補助人工心臓より安定した成績であることは事実です。したがって、我々は多くの患者さんが心臓移植を受けられるような社会環境、医療環境を作ることを努力しています。また一方で、補助人工心臓を使っている間に、自分の心臓が遺伝子治療などの先端治療によって回復する可能性などを研究しています。より多くの患者さんが、できるだけ確実にQuality of Lifeが改善される方法を模索中です。
久留米大学外科学 助手 田山栄基 鉛筆