おなかの免疫から考える、新型コロナウイルスに打ち勝つための独り言

未来を見据え

「免疫を理解し、新型コロナウイルスを正しく恐れるために」

(更新2023年5月8日、第99版、最終版)

 

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[まとめ(2023年5月8日時点)]
2020年2月1日から2類相当に指定されていた新型コロナウイルスも、ついに季節性インフルエンザ同様の5類に2023年5月8日に変更されました。WHOも2023年5月5日に緊急事態宣言を解除されています。欧米に比べて1年遅れの感は否めませんが、いよいよ法的にも日常の生活に戻れます。兎年にちなみ、飛躍の年となると信じています。

医学研究の進歩は凄まじく、2020年1月当初は未知であった新型コロナウイルスも僅か9か月後の2020年9月時点には、世界中の研究者・医療従事者・統計学者などの昼夜をいとわない努力により多くの事が解明され、3年後の今思えば、その通りになった印象です(「2020年9月28日のまとめ」をご参照下さい)。2022年後半からは新たにお伝えする情報が無くなったため、「おなかの免疫から考える、新型コロナウイルスに打ち勝つための独り言」も2022年9月6日の98版から更新していませんでした。新型コロナウイルスも5類へと変更され、「おなかの免疫から考える、新型コロナウイルスに打ち勝つための独り言」も今回の99版をもって最終版とさせて頂きます。長い間ご覧頂き誠にありがとうございました。最後に98版までの要点を整理しながら、今後の対策について「独り言」をぼやかして頂きます。

年齢:新型コロナウイルス感染者の全数把握が終了した2022年9月20日の結果で見ると、新型コロナウイルスによる死亡率は、50歳以上で季節性インフルエンザの0.03%を超え、加齢に伴い高くなっています。一方、乳幼児や若年者では、新型コロナウイルスの死亡率は季節性インフルエンザに比べてはるかに低いのが現実です。季節性インフルエンザに比べて、新型コロナウイルスは20歳未満では「100倍怖くなく」、80歳以上では逆に「100倍も怖くなる」言っても過言ではなく、今後の対策も高齢者と若年者で大きく異なります。

高齢者のワクチン接種:過去の感染症の歴史が教えてくれるように、新型コロナウイルスも変異を繰り返し感染力を増しながら、逆に毒性は弱くなっています。これにより日本の累積感染者数は、2023年5月8日時点で約3,380万人に達しています。検査を受けていない隠れ感染者も多く存在する事が世界中から報告されている状況を加味すると、日本でも多くの方が既に感染し集団免疫も確立されたと考えれられます。また、ワクチン接種の目的は「感染予防」ではなく「重症化予防」のため、多くの方が感染しても重症化する事なく新型コロナウイルスに対する免疫が確立されたと考えられます。もし、ワクチンがなければスペイン風邪のパンデミックの時のように、日本で3年間で388,727人もの尊い命が失われたのかもしれません。2023年5月7日時点の新型コロナウイルス感染による日本の3年間の累積死者数は74,681人です。

数理解析を用い「子供達に重症化を起こし易い変異株が発生しなければ、子供達に自然感染による強固な集団免疫が獲得され、新型コロナウイルスは数年後には夏風邪程度の風土病になる」という可能性が2021年1月に報告されています(Lavine JS, Science 2021, 1/21)。この仮説は現実味を帯びてきており、新型コロナウイルスは「日和見感染症」となって行くと考えるのが科学的に妥当と思います。つまり免疫力が過度に低下した人に対しては重症化を起こす危険性がありますが、免疫力が保たれている方では無症状か軽症ですみます。良い例が、肺炎球菌です。肺炎球菌は口腔内などの至るところに存在し皆さんも常に暴露しています。しかし、通常は何も起こりません。一方、免疫力が過度に低下した後期高齢者では死に至る誤嚥性肺炎や市中肺炎を起こします。新型コロナウイルス流行以前の2019年における市中肺炎による死者数は95,518人、誤嚥性肺炎による死者数は40,385人です。これらの肺炎による1年間の死者数(135,903人)は、新型コロナウイルスによる3年間の累積死者数(74,681人)を超えているのが現実です。よって、肺炎球菌に対するワクチンは65歳から、一部公費負担で5年毎に定期接種が可能です。新型コロナウイルスによる行動制限や感染対策により、市中肺炎の死者数は2019年の95,518人から、2020年は78,445人に減少しています。人口動態統計速報値によると2022年(1月から11月の統計)も市中肺炎による死者数は66,859人と減少を維持する一方で、新型コロナウイルス感染による死者数が37,848人と増えています。つまり、一部の市中肺炎に代わり新型コロナウイルスが高齢者の新たな死因となる事が予想されます。肺炎球菌のように、新型コロナウイルスワクチンの定期接種の継続は65歳以上では必要かもし れません。

肥満と血栓症:免疫力が低下しているのは高齢者と乳幼児、そして太りすぎと痩せすぎの方です。よって、これら4群の方が感染症の犠牲に一般的にはなりやすいのですが、新型コロナウイルスの重症化は高齢者と肥満者に集中しています。高齢と肥満は血栓症を起こしやすい特徴があります。また、血栓症を起こしやすい基礎疾患がある方に新型コロナウイルスの重症化が認められています。つまり、免疫力低下と血栓症リスクの両者がある場合に、新型コロナウイルスの重症化の危険性が増すと考えるのが科学的に妥当と思います。また、小さな血栓(微小血栓)により局所の血流が低下することにより後遺症を起こしやすいのかもしれません。適度な運動で体重減少に努め血行を促進し、さらに血が固まりやすい脱水の予防のため、新型コロナ流行時には、こまめな水分補給をお勧めします。

マスク:以下に示すように、マスクの常時着用による過度の衛生状態は、若者達のアレルギー疾患や自己免疫疾患の発症を増加させるデメリットを伴います。それにも関わらず、若者達は、重症化リスクの高い方を守るために「思いやりのマスク着用」に努めてくれました。本当に感謝しかありません。今後は若者達の健康を守るため、マスク着用は自主判断となります。つまり、飛沫を飛ばさない、ヒトにうつさないといった「新型コロナ弱者を守る環境」から、重症化リスクの高い方が「自らを自身で守る環境」へと変わります。5類になっても定点観測により新型コロナの流行は検知できます。流行期に入ったら、重症化リスクの高い方は、これまで以上の感染対策が外出時には必要となります。不織布マスクではウイルスの侵入を完全に防ぐ事はできません。また、口を守ってもウイルスは眼からも侵入するため、眼を覆う必要があります。よって、不織布マスクを付けて、その上からフェースシールドを付ける2重の防御が重症化リスクの高い方には有効かもしれません。


    

潜伏感染:病原体は外からのみ侵入してくると思われがちですが、免疫力が低下した方の命を脅かす病原体は皆さんの体内に既に潜んでいます。例えば、肺炎球菌は口腔内に潜んでおり、唾と一緒に誤嚥してしまうと免疫力が過度に低下した方では命を脅かす誤嚥性肺炎を起こしてしまいます。新型コロナウイルスのパンデミック当初に話題になった「サイトカインストーム」を起こし易い病原体の一つは、エプスタインバー(EB)ウイルスです。EBウイルスも日本国民の殆どに潜伏感染しています。脳に障害を及ぼし命に係わる進行性多巣性白質脳症を起こすJCウイルスも、多くの日本人の腎臓に既に潜んでいます。帯状疱疹を起こす水痘・帯状疱疹ウイルスや熱の華として知られるヘルペスウイルスも、半数以上の日本人の神経節に既に潜んでいます。つまり、敵は外だけでなく、体の中にも潜んでいるため、感染予防に加え免疫力を維持する事も非常に重要となります。免疫力を維持するためには、ありきたりな表現ですが「規則正しい食生活」、「充分な睡眠」、「適度な運動」です。


若者:免疫は「バランス、そしてバランス、さらにバランス」が重要です。弱すぎると感染症で重症化してしまい、強すぎると自身の細胞にも攻撃を仕掛けてアレルギー疾患や自己免疫疾患を起こしてしまいます。免疫は日々の訓練、つまり様々な微生物に暴露することにより日々成長しバランスを保てるようになります。よって、「衛生仮説」として知られるように、過度の衛生状態は免疫の訓練をおろそかにします。訓練がおろそかになり弱くなりすぎると、これまでは無症状で済んでいた弱毒な病原体にも足元をすくわれ重症化する場合もあります。また、強くなり過ぎると自身の細胞にも攻撃を仕掛け、アレルギー疾患や自己免疫疾患を起こしてしまいます。よって、新型コロナウイルスの重症化リスクの低い若者達は今こそマスクを外し、自然や動物と触れ合う事をお勧めします。事実、全国に先駆け福岡県では「人獣共通感染症の対策」を行いながら「自然と動物とのふれあいを通した健康づくり」を目指した「福岡県ワンヘルス推進基本条例」が2021年1月5日に発令されています。ただし、高齢者施設や病院などの重症化リスクの高い方が多くいらっしゃる場所では、今後もマスク着用はお願いいたします。


長きにわたり「おなかの免疫から考える、新型コロナウイルスに打ち勝つための独り言」をご覧頂き本当にありがとうございました。

 

 

[98版に追記分]
BA.5オミクロン株を受け入れるための私見 #4 (2022年9月6日)
紆余曲折はありましたが、科学的根拠に基づく知事の御英断により宮城県、茨木県、鳥取県、佐賀県では2022年9月2日から新型コロナウイルス感染者の全数把握が見直され、9月4日時点で大阪府、福井県、三重県、長崎県、鹿児島県が見直し申請中で、その他の16県も追随されそうです。いよいよ、新型コロナウイルスも特別扱いされることなく、季節性インフルエンザと同じように扱われ、昔の生活が早期に取り戻せると信じています。

全数把握の理想と現実
イギリスでは新型コロナウイルス感染者の全数把握を2022年2月から撤廃され、アメリカでは症状が有り外来を受診し陽性と診断された方のみを感染者として扱うように全数把握が2022年1月から見直されています。また、その他の国々でも全ての陽性者を洗い出す全数把握は見直されたため、世界240か国の感染状況を報告されていたロイター社の「COVID-19 Global Tracker 」も2022年7月15日をもって更新を終了されています。また、イギリスでは2022年1月の全数把握廃止直後に、死者数の僅かな増加を認めましたが、その後に増加を認めていません(「集団免疫の誤解」に示した図を参照下さい)。つまり、「全数把握を廃止しても、死者数の増加につながらない」事を教えてくれています。

木村もりよ先生が言われているように、「全数把握」という言葉には理想と現実が常に付きまといます。感染者数が正確に把握できれば良いのですが、多くの国々からの報告で既に示されているように、顕著な感染拡大が起こった場合は、検査であぶりだされる感染者数は「氷山の一角」でしかありません。つまり、全数を把握しているつもりでも、予想を遥かに超えた隠れ感染者が見逃されています。例えば、人口当たりのPCR検査数が世界で最多レベルであったアイスランドでも感染者の44%が見逃され、アメリカでは90.8%もの感染者が見逃された可能性が報告されています。(委細は「(17)PCRは?」の「PCRで感染拡大を防ぐ方法」を参照下さい)。見つけ出すことが困難な無症状の感染者が多ければ多いほど、知らず知らずのうちに他人にうつしていき、爆発的な感染拡大を起こしてしまいます。言い換えれば、BA.5株のように爆発的な感染拡大を認めたウイルスでは、多くの隠れ感染者が存在すると考えるのが妥当で、「全数把握」と言う言葉とは裏腹に把握はできていないと思います。事実、オミクロン株においては、感染者の56%が「無症状で感染に気付いていない」事がアメリカから2022年8月17日に報告されました(Joung SY, JAMA 2022, 8/17)。

    
全数把握の最たるデメリットは、国民を不安に陥れる危険性です。全数把握があるがゆえに、感染者数が毎日報道番組に取り上げられ、テレビをつければ感染者数を耳にするといった状況が続いています。幸福を感じている人でも、毎日毎日「不幸よ、不幸よ」と耳元で囁き続けられれば不幸になって行くかもしれません。多くの方は、「ゼロコロナ」も「ゼロリスク」もあり得ないため、新型コロナウイルスを正しく恐れながらの共存の必要性を既に理解されていると思います。しかし、不安に煽られると、理解をしながらも受け入れる事が難しくなり、想像を遥かに超えた健康面さらに財政面での負の遺産を将来に残す危険性が出てきます(委細は「BA.5オミクロン株を受け入れるための私見 #2 (2022年8月8日)」の「癌から学ぶ、避けられない現実の受容」を参照)。また、不安は心の隙を作り出し、様々な問題を生み出します。報道で最近多く取り上げられている霊感商法なども不安に付け込むことにより成り立ちます。また、新型コロナウイルスにおいても、粗悪な検査キットを販売している悪徳業者が摘発されたり、税金により賄われる給付金や補助金の詐欺も摘発されています。この様な事件も、不安による心の隙を狙ったものです。まずは、不安を取り除くことが重要と個人的には強く信じています。事実、飛行機で墜落の危険を伴うようなトラブルが発生した時でさえ、パニックに陥らないようにCAさん達は乗客を安心させることに努められると思います。また、急病により突然路上で倒れた方に出くわした場合、診察器具や治療薬も無く何もできない事は解りながらも「まずは患者さんに寄り添い安心させることが医師の役目」だと私は習ってきました。

全数把握ができないと、救える命が救えなくなる可能性を言われる専門家もいらっしゃいます。しかし、逆も起こりえる事をご理解頂ければ幸いです。全数把握などによる新型コロナウイルス、特にBA.5株の特別扱いは、風評被害が引き起こす危険性を高めます。例えば、お孫さんが帰省され、その後発熱などの症状が出ても、周りの目を気にして受診を控え、結果命を落とされた高齢者も少なからずいらっしゃるはずです。季節性インフルエンザのように新型コロナウイルスを扱っていれば、気軽にかかりつけ医を早期に受診して救えた命かもしれません。

全数把握は理想的ですが現実は異なり、労力や経済的負担をしいるだけで、感染拡大の主因を担う隠れ感染者をあぶりだす事は困難です。事実、全数把握を廃止しても、新型コロナウイルスによる死者数の増加につながらない事を欧米諸国が既に教えてくれています。一方、全数把握は「不安を煽る危険性」、「風評被害を恐れて重症化リスクの高い高齢者の受診控え」など様々なデメリットも伴います。全数把握を早期に見直し、季節性インフルエンザのように定点観察を行うのが妥当と個人的には強く信じています。

集団免疫に関する誤解
集団免疫が獲得できれば「新型コロナウイルスの感染者もいなくなり、死者もなくなる」と思われている方がいらっしゃるかもしれませんが誤解です。集団免疫の代表例は季節性インフルエンザです。ワクチンや実際の感染により季節性インフルエンザに対して集団免疫は獲得されています。しかし、新型コロナウイルス同様に、季節性インフルエンザも変異を続け、さらに時と共にワクチンの効果も減弱します。よって、日本でも毎年1,000万人以上の方が季節性インフルエンザに感染されています。しかし、集団免疫が獲得できているため、殆どの方は感染し38℃以上の高熱が2~3日続いても重症化に至らずに済んでいます。残念ながら免疫力は加齢に伴い低下していきます。よって、季節性インフルエンザ感染が直接原因となり毎年3,000人以上の、基礎疾患を悪化させたり老衰を加速させたりして10,000人以上の免疫力の低下した方の命を毎年奪っています。これが集団免疫である事をご理解頂ければ幸いです。一方、集団免疫が獲得できていない場合の代表例は「スペイン風邪」です。スペイン風邪流行の1年目には、日本で257,363人もの尊い命が奪われています。しかし、感染による集団免疫が獲得される事により、死者数は翌年には127,666人へと、翌々年には3,698人へと減少しています。

新型コロナウイルスに対する集団免疫の効果は多くの国が既に教えてくれています。代表はイギリスかもしれません。ジョンソン前首相の英断により、イギリスでは2021年7月19日から規制が解除され、サッカー、テニス、F1カーレース等の大規模イベントを世界に先駆けて開催されました(委細は「(40) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(諸刃の剣効果)?」の「各国の将来を見つめたコロナ対応」を参照)。また、2022年2月には感染者数の全数把握も撤廃されています。それにも関わらず、2021年7月以降は、以前に認めたような死者数の大きなピークは認めていません。また、パンデミック初期の2020年初頭から、スエーデンではアンテッシュ・テグネル先生が「ゼロコロナさらにゼロリスクはあり得ない」との科学的判断により、国の将来を考え重症化リスクの高い高齢者保護に注力しながら「ロックダウン」は行わない方針をとられました。そして、世界中から批判を浴びた事は記憶に新しいと思います。結果は、どうでしょうか? 欧州各国の中で、2022年8月31日時点で人口当たりの累積死者数が少ないのはノルウェー、フィンランド、オランダ、スイス、ドイツ、そしてスエーデンの順です。あれだけ批判を浴びながらも、経済を維持し、最終的には欧州で新型コロナウイルスによる犠牲者を少なく抑えた国となっています。「批判を浴びながらも、感情ではなく科学的根拠で判断」されたアンテッシュ・テグネル先生が正しかったことを今教えてくれています。つまり、被害を最小限に抑えるためには「科学が感情に負けてはいけない」という教訓かもしれません。

日本も新型コロナウイルスの7回の流行を既に経験しているため、今こそ、集団免疫に関する委細な調査が必要かもしれません。また、これにより、検査であぶりだせなかった「隠れ感染者」が、どの程度潜んでいるのかも把握できると思います。集団免疫を調査するためには、まずは抗体検査です。新型コロナウイルスの「S抗原」に対する抗体と、「N抗原」に対する抗体が同時に判定でき精度が担保された抗体検査キットも多く販売されています。ワクチンにはS抗原のみを用いるため、ワクチン接種者で抗体が維持されていればS抗原に対する抗体のみが検出できます。一方、新型コロナウイルスはS抗原に加えてN抗原と言った様々な蛋白も持っています。よって、実際に新型コロナウイルスに感染するとS抗原に加えてN抗原に対する抗体も陽性となります。つまり、過去に新型コロナウイルスの感染経験が無いと思われている方で、N抗原に対する抗体が検出できれば「隠れ感染者だった」事になります。しかし、抗体検査だけで新型コロナウイルスに対する集団免疫獲得の程度を正確に評価するのは難しいかもしれません。感染予防に貢献する抗体は、比較的早期に低下する欠点があります。一方、重症化予防に貢献するT細胞免疫は、持続力が長いのが特徴です。スエーデンのカロリンスカ研究所からの報告によると、抗体陽性者の約3倍の方にT細胞免疫の獲得が認められたと報告されています(委細は「26、集団免疫は?」を参照)。つまり、抗体が減少して新型コロナウイルスに感染しても、T細胞の免疫により重症化から守られている方が多いことを教えてくれています。T細胞により守られている代表的な感染症は「結核」です。結核に対する免疫を調べるために、抗体検査を受けた方はいらっしゃらないと思います。抗体検査でなく、「ツベルクリン反応」によってT細胞免疫の有無が判定されます。また、「IFN-γ遊離試験」と呼ばれる手法も、結核に対するT細胞免疫の判定に用いられています。「N抗原に対する抗体検査」と「IFN-γ遊離試験」を組み合わせる事により、日本における新型コロナウイルスに対する集団免疫の獲得程度を正確に把握できるのかもしれません。

日本人の優越性を信じて
2020年初期には、新型コロナウイルスは未知であったため、多くの国々が行動制限などで感染拡大を抑制することにより時間稼ぎをして、その間にワクチン接種の普及さらには医療体制の整備を行い、季節性インフルエンザのように多くの感染者が出ても重症化が抑制できるように「ロードマップ」が作成されたと思います。そして、このロードマップが正しかった事を世界の多くの国々が今教えてくれています。事実、「アルファ株」の流行時には野戦病院の設立が必要なほど医療逼迫していた欧米諸国では、「デルタ株」からは医療逼迫はなくなり、現在の「オミクロン株」では昔の生活を取り戻されています。日本も同様の方針であったと個人的には信じていますが、「石橋を叩いて渡る」慎重さや、その他の様々な要因で1年以上も世界から遅れをとっているような気がしています。新型コロナウイルスに対して、外国人に比べ日本人は以下に示すような多くの優越性を持っています。感情ではなく既に示された科学的根拠に基づき、できるだけ早く世界に追いつく必要があるのかもしれません。

[思いやりのマスク文化]:感染を完全に予防するためには「不織布マスク」では不十分で「N95」と呼ばれる特殊なマスクが必要となります。また、眼薬をさして苦いと感じる方は多いと思いますが、眼は涙管を介して口腔内につながっています。よって、マスクだけでは「頭かくして尻隠さず」状態で、眼から感染してしまいます。よって、完璧な感染予防のためには「N95マスク」と「ゴーグル」が必要となります。このように、マスクだけでは完全な感染予防にならないため、欧米ではマスク着用の習慣はありません。一方、マスクは飛沫を防ぐために、ヒトにうつす可能性を下げてくれます。日本では、自身を守る感染予防でなく、ヒトにうつさないための「思いやりのマスク文化」が浸透しています。これにより世界に比べて日本は人口当たりの感染者数が著名に抑えられていると個人的には信じています。札幌医科大学医学部 附属フロンティア医学研究所 ゲノム医科学部門のホームページによると、2022年8月11日時点の人口100万人あたりの累積感染者数は、アメリカの27.9万人、韓国の34.2万人に対して日本は6.4万人です。また、日本ではBA.5株の爆発的感染拡大を8月に認めていますが、それでも2022年8月31日時点の人口100万人あたりの累積感染者数は14.9万人でアメリカや韓国の半数です。

[ファクターX]: 山中伸弥先生が早期より「ファクターX」として提唱されたように、何らかの要因により、新型コロナウイルス感染による死にいたる重症化から日本人が守られていることは蓄積された結果からも明らかです。事実、人口100万人あたりの死者数は2022年8月11日時点でアメリカの3,112人に対して日本は274人です。また、BA.5株の爆発的感染拡大を起こした後の2022年8月31日時点でさえ314人でアメリカの「十分の一」です。

ファクターXについては未だ明らかとなっていませんが、様々な要因が関与していると考えるのが妥当かもしれません。新型コロナウイルス感染による重症化リスクの一つは「肥満」です。肥満者の割合は日本では4.5%に対して、アメリカは31.8%、イギリスは24.9%と大きく異なります。肥満者の少なさが新型コロナウイルス感染による重症者の抑制に貢献しているかもしれません。(委細は「(40) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(諸刃の剣効果)?」の「長期間の行動制限による健康被害」を参照)。また、キス病として知られるエプスタイン・バー(EB)ウイルスに対する交叉免疫が重症化予防に寄与している可能性が報告されています。欧米人に比べて、日本人の殆どの方は乳幼児期にEBウイルスに感染し無症状で済んでいます。よって、可能性としては否定はできない仮説かもしれません(委細は「(19) 再感染は?」の「交叉免疫」参照)。

個人的に興味を持っているのは「免疫訓練」と呼ばれる新たな概念です。アフリカの子供達の結核を予防するためBCG接種が行われ、結核ばかりでなくウイルス性肺炎による死者数も半減したため研究が進みました。結果、「BCGが自然免疫細胞に効果的な敵との戦い方を覚えさせ、これによりウイルス性肺炎の重症化が予防できる」という「免疫訓練」仮説が2011年に提唱されました(Netea MG, Cell Host Microbe 2011, p355)。また、BCGには牛由来の結核菌が用いられますが、新型コロナウイルス同様に結核菌も変異するため、一概にBCGと言っても用いられる結核菌株は各国で異なります。非常に興味深い事に、2021年3月3日時点で、日本株BCGを用いられている国々では人口100万人あたりの死者数が少ない傾向を認めていました(「(14) 新たな免疫学的概念は?」の「BCG」参照)。すでに、新型コロナウイルス流行も世界的に「エンデミック」に入ったため、BCGと死者数の関連性を再度確認してみました。2022年8月11日時点の人口100万人あたりの累積感染者数と累積死者数は「札幌医科大学医学部 附属フロンティア医学研究所 ゲノム医科学部門」から引用させて頂いています。やはり、日本をはじめ、「日本株BCG」を用いている国々では新型コロナウイルス感染による死者数が低く抑えられている気がします。ファクターXは未だ明らかとなっていません。しかし、間違いなく言える事は「外国人に比べて、日本人は新型コロナウイルスによる重症化から守られている」という事です。

夏風邪になってくれることを願って
感染症で犠牲になりやすい免疫弱者は、「免疫が発達していない乳幼児」と「免疫力が低下した高齢者」です。また「肥満者」と「痩せすぎの方(栄養不良)」も重症化の危険性が高くなります。しかし、新型コロナウイルスで重症化を起こし易いのは高齢者と肥満者です。事実、厚生労働省発表の2022年8月24日の結果によると、新型コロナウイルスの致死率(全ての変異株を含む)は80歳以上の3.35%に対して、10歳未満は0.0007%と「5,000倍近い差」があります。また、新型コロナウイルスの重症化リスクに「肥満」は入りますが「痩せ」は入りません。この違いが、新型コロナウイルスの謎を解いてくれると思います。つまり、乳幼児と痩身(痩せすぎ)の方は免疫弱者でありながらも、重症化リスクが低いという事は、免疫学的にみて新型コロナウイルスは弱いウイルスと考えるのが妥当と思います。また、高齢者や肥満者は血栓が起こり易く血管が詰まり易い状態です。新型コロナウイルスは血管内皮細胞に発現するアンギオテンシン変換酵素2に引っ付くため、テロ行為として血栓を起こし、血管を詰まらせる事により死に至る重症化を起こしていると考えるのが科学的に妥当と思います。事実、新型コロナウイルス、特に「アルファ株」では、虚血性疾患の特徴である「突然死」や「急激な悪化」が多く認められています。さらに、重症化リスクが高い疾患は、高血圧などの動脈硬化に関連する疾患や、鎌状赤血球症や自己免疫性血管炎など血栓を合併しやすい疾患です(委細は「(45) 重症化しやすい基礎疾患は?」を参照)。

新型コロナウイルスは弱いウイルスでありながら、血栓症という「テロ行為」を得意としていたため「血管が詰まり易い」方に死につながる重症化を起こしたと個人的には強く信じています。しかし、このテロ行為が特異だったのは「アルファ株」で、「デルタ株」さらに「オミクロン株」ではテロ行為はあまり認めなくなっています。つまり、「オミクロン株」は普通の弱いウイルスになったと思います。また、Lavine先生らは数理解析を用い「子供達に重症化を起こし易い変異株が発生しなければ、子供達に自然感染による強固な集団免疫が獲得され、新型コロナウイルスは数年後には夏風邪程度の風土病になる」という可能性を2021年1月に報告されています(Lavine JS, Science 2021, 1/21)。子供達の重症化率は季節性インフルエンザより未だ遥かに低いため、新型コロナウイルスは夏風邪程度に早期になってくれると信じています。また、京都大学の西浦先生が「新型コロナウイルスは、今後季節性インフルエンザに比べて約10倍の感染者を出す」との数理解析の結果を2022年8月23日に報告されました。この結果も、「新型コロナウイルスが今後夏風邪になる」可能性を支持しているのかもしれません。なぜなら、厚生労働省の厚生科学審議会の報告によると、季節性インフルエンザの感染者は毎年991万人から1,451万人です。https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/flu/levelmap/suikei181207.pdf
つまり、その10倍となれば国民全員が1シーズンで感染する事になり、この様な感染症は夏風邪以外にありません。

2022年9月1日の読売新聞オンラインで、厚生労働省発表の2022年7月6日から8月23日の第7波(BA.5株)での年齢別死者数が発表されました。オミクロン株感染による死者の33.2%は90歳以上、40.5%が80歳代、16.7%が70歳代です。BA.5株による死者の90.4%は後期高齢者に集中しています。
https://news.yahoo.co.jp/articles/37bc3516bf3e348c8034b3ff61c2dc6f2feec8e3
また、厚生労働省の「2022年8月版、新型コロナウイルス感染症の「いま」に関する11の知識」によると、2022年1月5日から4月5日の期間、つまり第6波(BA.2株)で新型コロナウイルス感染により亡くなられた年齢別割合は、90歳以上が30.9%、41.8%が80歳代、19.02%が70歳代です。BA.2株いおいても、死者の91.8%は後期高齢者に集中しています。
https://www.mhlw.go.jp/content/000927280.pdf
よって、オミクロン株はBA.2株とBA.5株のどちらも、健常人では夏風邪程度であるが、免疫力が顕著に低下した後期高齢者に対しては命にかかわる重症化を起こす「日和見感染症」に類似した感染症と考えられます。日和見感染菌の代表は、多くの方、特に子供達の咽頭に常在する「肺炎球菌」です。常在している細菌でありながら、免疫が過度に低下した後期高齢者には致死的な肺炎を起こしてしまいます。このような日和見感染菌による、誤嚥性肺炎で2021年は36,263人、市中肺炎で2019年は95,518人の命が奪われています。1年間で計算すると、新型コロナウイルスの10倍以上の尊い命が新型コロナウイルス以外の日和見感染菌により奪われているのは事実です。よって、65歳以上から肺炎球菌のワクチンが国の一部補助で接種可能で、多くの高齢者の命を救っています。オミクロン株においても、ワクチンが多くの高齢者の命を救っているようです。第6波(BA.2株)で亡くなられた方のワクチン接種率は「2022年8月版、新型コロナウイルス感染症の「いま」に関する11の知識」に示されています。90歳以上では、ワクチン3回接種者に比べて、ワクチン未接種者では10倍近い方が亡くなられています。高齢者の方はワクチン接種で命を守られていますので、4回目接種もよろしくお願いいたします。

人間は残念ながら不老不死ではなく、加齢と共に免疫細胞も減少し日和見感染菌により命を奪われてしまいます。新型コロナウイルスも、健常人に対しては夏風邪程度ですが、後期高齢者に対しては肺炎球菌のような日和見感染菌として我々と共存していくのかもしれません。また、日和見感染症のような様相を呈している「BA.5株」を2類相当として扱う事に、世界中の多くの科学者や医師達は疑問を抱かれているかもしれません。

 

[97版に追記分]
BA.5オミクロン株を受け入れるための私見 #3 (2022年8月19日)
政府が2022年8月17日に「第7波収束前に新型コロナウイルス感染者の全数把握を見直す」方針を示されました。全数把握が廃止されれば、感染症法上2類相当との整合性もなくなり、新型コロナウイルスも季節性インフルエンザと同様に扱われ、昔の生活が取り戻せる日も近いと期待をよせています。また、全数把握を廃止しても、新型コロナウイルス感染による入院者数の把握、特に「軽症者(重症化リスクが高い方に対する予防入院)」、「中等症(入院でしか受けれない治療を受けられている方)」、「重症者」に分類した人数把握は、新型コロナウイルス流行時の社会的影響を判断するために今後も重要となると思います。よって、これに関し幾つか気になる点があるので私見を述べさせて頂きます。

曖昧なコロナ死者規準が恐怖を煽る
中日新聞の2022年8月16日の報道によると、愛知県の大村秀章知事が「第7派(BA.5株)で、新型コロナウイルスの直接原因で死亡した人は県内にはいない」と言われたようです。そして、「新型コロナウイルス感染症の重症者数、死者数、公表方法などの見直し」を要請されています。科学的判断にもとづいた適切な要請と個人的には信じています。事実、2022年2月1日の読売新聞においても、前田遼太郎記者が「山梨県では新型コロナウイルス感染による重症者がゼロにも関わらず、死亡者が6人もいた」事に疑問を抱かれ調査されています。結果、厚生労働省の担当者から「現在の死者数の増加は、コロナが原因で亡くなった人が増えていることを必ずしも意味しない」との見解を得られています。2020年6月18日からは、死因が老衰や他の病気だったとしても、事前の検査や亡くなった後の検査で陽性が判明すれば「コロナ死者」として扱われているようです。https://www.yomiuri.co.jp/national/20220131-OYT1T50245/

2022年8月18日時点の新型コロナウイルスによる累積死者数は36,001人です。これまで7回の波(流行)を経験しているため、「1回の流行あたりの平均死者数は5,143人」の計算になります。季節性インフルエンザ感染が直接原因として亡くなられる方は、2019年度は3,325人です。しかし、新型コロナウイルスで現在用いられている死者の基準(感染により持病が悪化して亡くなられた方も含む)を使うと、季節性インフルエンザでも死者数は10,000人以上になります。「1回の流行あたりの季節性インフルエンザの死者数は10,000人以上」で、新型コロナウイルスよりも多い計算になります。しかし、約2か月という短期間で、このように多くの死者を出す季節性インフルエンザでさえ日本の医療体制はビクともしていないのが紛れもない事実です。

最も怖かったアルファ株に比べてBA.5株は?
日本における「アルファ株」、「デルタ株」、「オミクロン株(BA.2株)」、「現在流行中のBA.5株」の日本の感染状況を整理してみました。パンデミック早期は感染予防対策が評価され、報道に頻回に取り上げられていた「韓国」、「台湾」、「ニュージーランド」、「オーストリア」でさえ、感染者数は既に日本を遥かに超えています。「感染拡大を一時的に抑制できても、感染力の増した変異株により、いつかは感染爆発を起こす」という避けられない現実を世界が教えてくれています。(委細は「BA.5オミクロン株を受け入れるための私見 #2(2022年8月8日)」の「避けられない現実」を参照下さい)。事実、感染力の増したBA.5株により、日本でも2022年8月18日に、過去最多となる255,534人の新規感染者を認めています。しかし、重症化の予防効果が高いワクチンの3回目接種、さらにBA.5株の弱毒化により重症者は少なく抑えられています。感染して入院された人数から計算した、厚生労働省基準の重症者数(人工呼吸器が装着されていなくても集中治療室で治療を受けた方は重症に含まれる)でさえ「アルファ株で1.92%」、「デルタ株で1.04%」、「オミクロン株BA.2株では0.2%」、「BA.5株では0.03%」です。「アルファ株」では、入院された50人に1人が重症化されており、ニューヨークやロンドンでは野戦病院を設置しなくてはならない事態に陥っています。一方、デルタ株では重症化率は1.04%とアルファ株に比べて半減しており、このころから欧米諸国では医療逼迫は認められなくなっています。さらに、重症化率はオミクロンBA.2株では0.2%とアルファ株より10倍近くも低くなり、BA.5株では0.03%と「64倍」も低くなっています。つまり、BA.5株では、入院された1万人のうち僅か3人しか重症化されていない計算になります。つまり、1万人中9,997人もの感染者が「万が一の用心のために入院」されているのかもしれません。この状況が続けば人為的医療崩壊を起こす危険性が高くなるため、適正かつ厳格な入院基準が早急に必要と思います。

集中治療室の医療従事者に感謝
医療現場で重要となるのは「(1)感染者のうち何%に実際の入院治療が必要となり、(2)そのうち何%の方が重症化され、(3)重症者の何%の方が亡くなる」という予測値です。日本では、感染者数予測のための数理解析は、アタルにせよハズレルにせよ、よく目にします。しかし、入院経過に関する数理解析は行われていないのかもしれません。日本において、現時点で正確に言えるのは(3)だけです。日本集中治療学会のホームページによると、2022年8月18日時点で、人工呼吸器(ECMOを含む)を装着された重症者の救命率は80.4%と世界最高です。命を守る最後の砦として活躍して下さっている集中治療室の医療従事者が、忙しいにも関わらずデータを「日本ECMOネット(https://crisis.ecmonet.jp)」に集積され、本当に感謝の言葉しかありません。また、集中治療室は「3次救急病院」、つまり大学病院や基幹大病院に設置されているため、頑張っても収入が変わらない勤務医の方がほとんどです。医師として自己犠牲もいとわない「仁」の精神に心より敬意を払います。また、ECMOネットで公開される人工呼吸器(ECMOを含む)を装着された重症者数と、多くの自治体で発表されている重症者数に矛盾はないと思います。しかし、神奈川県や東京都のように「人工呼吸器(ECMOを含む)を装着された重症者数」と「自治体発表の重症者数」に10倍以上の差を認める自治体があるのも事実です(委細は「BA.5オミクロン株を受け入れるための私見 #2 (2022年8月8日)」の「適正評価のための重症者・入院基準の厳格化」を参照下さい)。よって、「人工呼吸器(ECMOを含む)を装着された重症者数」と「自治体発表の重症者数」のギャップは、アルファ株では1.97倍であったのに対して、BA.5株では3.65倍と増えています。重症者数が政府方針決定に大きな役割を担うため、適正かつ厳格な重症化基準の導入が必要かもしれません。または、ECMOネットで毎日アップデートされている「人工呼吸器(ECMOを含む)を装着された重症者数」を重症者数変動の指標に用いるのも、世界的にみて妥当かもしれません。

1次救急と2次救急の現状
医療現場は集中治療室などの「3次救急」、鼻などから酸素吸入が必要な感染者の入院治療にあたる「2次救急」、さらに外来で治療を行う発熱外来などの「1次救急」に分類されます。世界で認められた医療崩壊や医療逼迫は「命を守る最後の砦である3次救急の逼迫」により起こっています。1次救急や2次救急の逼迫で医療崩壊を起こせば、医療大国と呼ばれた日本の名声が地に落ちるのは明白です。しかし、BA.5株では3次救急の逼迫は認めていないにも関わらず、適切な入院基準の欠失により2次救急の逼迫が認められています。BA.5株感染で入院されたかたのうち0.03%しか重症化しないのに、現在の基準での「むやみやたらな入院」を継続すれば、2次救急の医療崩壊の危険性は更に高まります。厳格かつ適正な入院基準の「待ったなしの導入」が必要と思います。また、BA.5株では多くの感染者が出るうえ、2類相当の分類のため受診できる発熱外来も限られ、1次救急の医療崩壊を起こす危険性も出てきます。全ての医療機関で受診できるようにするためにも、新型コロナウイルスを季節性インフルエンザと同様に早急に扱う必要があると思います。また、入院に至っても10,000人中3人しか重症化していないのもBA.5株の現実です。よって、「治療が必要ない方の受診による医療崩壊」を防ぐために、「日本感染症学会」、「日本救急医学会」、「日本プライマリ・ケア連合学会」、「日本臨床救急医学会」の4学会が2022年8月2日に共同で緊急声明を出されています。1次救急の医療崩壊を防ぐためにも、「65歳未満で基礎疾患や妊娠がない方」は、熱が出たからと、直ちに発熱外来を受診するのではなく、4学会の提言に従い市販薬で症状を抑えながら2~3日は自宅で様子を見られる事をお勧めします。(委細は「BA.5オミクロン株を受け入れるための私見 #2 (2022年8月8日)の「抑うつ」を参照下さい」。殆どの方は、翌々日には熱も37.5℃以下に下がってくると思います。ただし、発熱があると脱水に陥り易くなります。水分補給には心がけて下さい。また、免疫細胞の活力源は、グルコースを腸内細菌が代謝して作り出す「アデノシン3リン酸」です。糖尿病などで糖分制限が指示されている方を除き、ダイエットのため甘い物を控えていた方は、熱がでた今こそお召し上がりください。ただし、アデノシン3リン酸を免疫細胞に効率よく摂りこませるためには軽い運動が必要です。外出は勿論できませんので、デザートを食べた後は、テレビをみながら室内での足踏みをお勧めします。また、免疫力を維持するために十分な睡眠をとられ、間違ってもお酒は飲まないで下さい。(委細は「(5) 免疫力強化法は?」の「糖分と適度な運動」を参照下さい)

定性抗原検査の長所と短所
定性抗原検査キットが通信販売で購入可能になり、発熱などのある方に無料で配布されている自治体も多くあります。様々な目的で使用されるため、定性抗原検査キットの長所と短所を簡潔に整理してみました。

(必ず使用方法の確認をお願いします): 定性抗原検査の長所は、「安価」で15分と言う「短時間で結果」が出て、さらに「特殊な技術が不要」で、誰でも簡単に行えます。簡単にできるのですが、初めて使う方は間違ってしまう場合もあります。検査キットの使用方法はビデオ等で丁寧に説明されているので、必ず使用する検査キットを製造する会社のホームページでご確認下さい。

(偽陰性がある事を理解して下さい): 完璧な検査は無く、必ず「偽陰性」が問題となります。感度が高いPCR検査でさえ、約10人に1人は偽陰性、つまり感染していても陰性の結果が出ます。定性抗原検査はPCRより更に感度が落ちます。PCR検査と比べて感度が下がる度合いは、各検査キットにより異なり約85%から約95%です。つまり、感染していても、10人に1人から2人が見逃される可能性があります。各社の抗原検査キットの感度は厚生労働省のホームページに示されているのでご確認下さい。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11331.htmlよって、抗原検査やPCR検査は、症状がある方に「診断目的」で用いるのが原則です。もし、自分が感染していない事を示す目的で抗原検査を用いる場合は、最低でも2回行う必要があります。また、4学会が提言されたように、65歳未満で基礎疾患や妊娠中でない方は、症状があっても自宅療養による経過観察が推奨されています。つまり、自分で行った抗原検査で陽性となっても、不安を募りながら自宅待機を余儀なくされる結果となってしまいます。会社から欠勤のための陽性証明が必要なければ、症状がでたら新型コロナウイルス感染と思い、検査はせず自宅で2~3日様子を見られる事をお勧めします。また、感染者が爆発的に増えている期間は、会社側も陽性証明書無しでも欠勤を認める柔軟な対応も必要かもしれません。

(FOCUSED PROTECTIONのための重点的検査): 新型コロナウイルスの重症者や死者は高齢者に集中しますが、その中でも介護が必要な「臨床的フレイルスコアが中等度以上」の高齢者に集中します(委細は「BA.2株を含めた個人的意見のまとめ #2 (2022年2月24日)」の「重症化に影響を与える主要因」を参照下さい)。よって、予防目的で抗原検査を行う場合は、FOCUSED PROTECTION に徹して「特別養護老人ホーム」などフレイルスコアが高い高齢者が多い施設の職員に対して隔日で継続して行う、更なる重点的抗原検査の活用が必要なのかもしれません。

(悪質な検査キットに用心して下さい): これまでも摘発されているように、需要が増えると精度が担保されていない悪質な検査キットが流通しはじめます。よって、厚生労働省が警告を発せられているように、「研究用」と記された抗原検査キットは絶対に使用しないで下さい。2022年8月18日時点で48種類の定性抗原検査キットが厚生労働省から承認を得ています。必要になった場合、これらの承認済み検査キットを用いるのが無難です。

[96版に追記分]


[BA.5オミクロン株を受け入れるための私見 #2] (2022年8月8日)
新型コロナウイルスのパンデミックが始まってから既に2年半以上が経過しました。世界中の医療従事者や研究者の昼夜を惜しむ努力により膨大な結果が報告され、「2020年9月28日時点のまとめ」で報告させて頂いたように、未知であったウイルスがアッと言う間に未知でなくなった印象を持っています。新型コロナウイルスを正しく恐れて頂くために、最新の情報をお知らせしていた「新型コロナに打ち勝つための独り言」も、既に300ページを超えてしまいました。これらの蓄積された情報から確実に言える事は、「新型コロナウイルスの致死率は、50歳未満で基礎疾患や肥満がなければ、季節性インフルエンザよりも低い」、「高齢者における新型コロナウイルスの致死率は季節性インフルエンザを遥かに超えるが、毎年3万人以上の命を奪っている誤嚥性肺炎よりも低い」、「BA.5株に対しても重症化予防効果が期待できるワクチン3回接種率は、65歳以上では90.4%に達し、4回目接種も加速している」、「長期間の行動制限により働き盛りの世代のガンや成人病による死者が増え始めている」、「欧米諸国に比べて数倍少ない感染者数で医療逼迫を頻回に起こしている」です。これらの確固たる科学的根拠をもとに、多くの専門家が新型コロナウイルスの対応を季節性インフルエンザと同様にする動きが加速しています。以下に示すように、将来を考えると「待ったなしの瀬戸際」に来ているのかもしれません。理想と現実は違い、感情により理想を追い求め続けると、予測を遥かに超えた負の遺産がもたらされる危険性が高まります。できる限り早く新型コロナウイルスの扱いが季節性インフルエンザと同様になる事を切に願っています。また、新型コロナウイルスは、数年後には「肺炎球菌のような日和見感染菌」の側面を持ちながら、健常人にとっては「夏風邪程度」になると個人的には信じています。

 

避けられない現実
新規感染症は天災と同じで、残念ながら防ぎようがありません。よって、将来を見据えながら、「ゼロリスク」はあり得ない事を理解し、長期的視点から最善策を、感情ではなく科学的判断に基づき模索していくしかありません。言葉は悪いですが、新規感染症が発生するとサバイバルゲームが始まります。人類全員が感染またはワクチン接種により集団免疫を獲得するまで終息はなく、感染に負けた方は亡くなり、打ち勝った方は生存していくことになります。非常に悲しい事ですが、避ける事ができない現実です。例えば、「スペイン風邪」のパンデミックにより、日本では1918年~1919年に「257,363人」が亡くなられています。しかし、死者数は1919年~1920年に「127,666人」へと半減し、1920年~1921年には「3,698人」にまで減少しています。つまり、多くの犠牲者を出しながら集団免疫が獲得され終息しています。新型コロナウイルスではワクチンが使用可能であり、感染予防対策も進歩していたため、スペイン風邪のような死者数は認めていません。しかし、既に世界各国が教えてくれているように、「感染拡大を永遠に押さえ続ける事は不可能」で、一時的に感染拡大を抑制できたとしても、いつかは感染力の増したウイルスに感染予防対策が破られ感染拡大を起こしてしまいます。よって、パンデミック早期の段階は感染予防対策を強化し時間稼ぎをする事により、「ワクチン接種を加速」し、「医療体制の充実」を図り「感染者数が多くなっても重症者数を抑える」ための対策が多くの国々でとられ、日本もそうだったと思います。新型コロナウイルスのパンデミック早期の2020年から2021年までは、「韓国」、「台湾」、「ニュージーランド」、「オーストリア」などの感染予防対策が評価され、多くの報道で取り上げられていました。しかし、現在はどうでしょうか? 2022年7月30日時点の人口1万人あたりの新型コロナウイルスの累積感染者数は、「日本の1,008人」に対して、「韓国は3,882人」、「台湾は1,953人」、「ニュージーランドは3,306人」、「オーストラリアは3,619人」と既に日本を超えるどころか、「アメリカの2,751人」や「イギリスの3,582人」と並ぶレベルに達しています。つまり、いつかは感染者数の爆発的増加を認めることは、世界の結果からも明らかです。事実、他国に比べ感染者を抑え続けていた日本では、2022年8月3日にBA.5株の感染者数は249,830人と過去最多を記録しています。

2020年に爆発的感染拡大を認めた欧米諸国では、新型コロナウイルス感染による死者数のピークは2021年の1月頃です。一方、パンデミック早期に感染拡大を抑制できた国々では、死者数のピークは2022年以降にずれこんでいます。例えば、死者数のピークに達した時期は、パンデミック早期に感染爆発を認めた「イギリスで2021年1月」そして「アメリカでは2021年2月」なのに対し、パンデミック早期に感染を抑制できた「韓国は2022年3月」、「台湾は2022年6月」、「オーストリアは2022年7月」、「ニュージーランドは2022年7月」です。時間稼ぎによりワクチン接種の普及が可能であったため、2022年にピークを記録した国々では、死者数は低く抑えられています。例えば、2022年7月30日時点の人口1万人あたりの死者数は、「アメリカの31.2人」と「イギリスの26.9人」に対して、「韓国は4.9人」、「台湾は3.8人」、「ニュージーランドは3.1人」、「オーストリアは4.6人」、「日本は2.6人」です。これが世界が教える現実で、集団免疫が獲得できるまでは「いつかは感染拡大が起こるため、重症者の抑制に焦点をあて、感染者数に一喜一憂しない」ことを教えてくれています。また、パンデミック早期では多くの国々で医療逼迫を認めましたが、2021年以降は日本を遥かに超える感染者数を出しながらも、多くの国々で医療体制はびくともしていません。私は米国ハーバード大学医学部に22年間勤務していたため、世界各国に知人がいますが、「Why is Japanese medical system affected by such a small number of COVID-19 patients?(何故このような感染者数で医療逼迫を起こすんだ?)」と多くの医師や研究者が疑問を抱かれているのも事実です。 医療大国と言われた日本の名声を地に落とさないためにも、今こそ原因を真剣に考える時かもしれません。

癌から学ぶ、避けられない現実の受容
新型コロナウイルスとの共存を避ける事はできず、誰しも心の葛藤はありますが、残念ながら受け入れるしかありません。「ガン」も誰もが受け入れたくありませんが、「否認」、「怒り」、「取引」、「抑うつ」、「受容」の5つの段階を経て受け入れられ、最善の道が模索できるようになります(委細は「(40) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(諸刃の剣効果)?」の章の「否認・怒り・取引・抑うつ・受容の5段階ステップとは?」をご参照下さい)。以下に示すように、新型コロナウイルスも「癌の受け入れ」と類似した経過を経て、多くの国民に受け入れられるのかもしれません。

「否認」:ガンでは「私が何でガンになるんだ」という「否認」からはじまります。「ゼロコロナ」を信じたかったのも、新型コロナウイルスを受け入れたくない「否認」の現れかもしれません。

「怒り」:ガンでは次に「誤診に違いない、あのヤブ医者訴えてやる」という「怒り」に変わります。「新型コロナウイルスに対する最善策はワクチンしかない」との菅前首相の適切な判断によりワクチン調達に奮闘されているにも関わらず、感情的な政府批判も多く見られました。これも、「怒り」の表れだったのかもしれません。また、「おまえが出歩くから感染拡大が起こるんだ」と過剰に反応してしまった「自粛警察」や「コロナ警察」も「怒り」の典型例かもしれません。

「取引」:ガンでは、次に「どうしたらいいんだ、何でもいいから検査してくれ、何でもいいから薬くれ」という「取引」が起こりますが、厄介な段階です。これにより、効果のない民間療法などに手を出してしまい、命を失うといった危険性を伴ってきます。新型コロナウイルスにおいても、闇で流通した薬剤を購入し多くの健康被害がもたらされた事が米国から報告されています。(委細は「(49) 治療法は?」の章の「他疾患で用いられる治療薬」をご参照下さい)。また、様々な「給付金詐欺」や「補助金詐欺」が摘発されていますが、「取引」から生まれる「心の隙」を上手くついてきているのかもしれません。「検査難民」も「何でもいいから検査してくれ」という「取引」の表れかもしれません。「受けたくない方に対して無理に受けさせる検査」や「毎日繰り返す検査」は感染抑制につながります。しかし、「受けたい方が受けたい時に受ける、むやみやたらな検査」は「本人の自己満足的な安心」を得るだけで、逆に感染拡大を助長する危険性も報告されています(委細は「(17) PCRは?」の章をご参照下さい)。さらに検査への過度な依存は、人為的感染拡大の危険性も秘めてきます。これまで国内でも摘発されているように、需要の増加による検査キット不足から信頼性が担保されていない検査キットや会社が出始め、疑いながらも利用してしまうのも「取引」の表れです。これにより、感染者が「偽陰性」となり安心安全のはずが、多くの方にうつしてしまう「スーパースプレッダー」になるという悪循環を起こす危険性がでてきます。

報道番組で「37℃を超える微熱があり、会社から検査で陰性確認ができないと出社できないと言われたので、検査に並んでいる」との声を聴きましたが、誤った対応です。検査を過信するのでなく「何らかの症状が有れば休む」のが原則です。精度が担保された検査でさえ、「安心・安全」を過信する事は禁物です。感度の高いPCR検査でも10%程度の「偽陰性」が起こります。つまり、感染していても10人に1人は見逃され、「検査で陰性だったから安心」と羽目を外し、多くの方に感染させる「スーパースプレッダー」になってしまいます。よって、精度を高めるためには、2021年に各国が入国制限を行っていた時期に実施されたように、最低でも「毎日または隔日で2回の検査」を行う必要があります。さらに、PCR検査や抗原検査は「検査した時」に陰性であった証明にしかならず、一寸先は闇です。検査した1時間後に感染してしまう可能性もあります。つまり、季節性インフルエンザが教えてくれているように、検査は「感染予防」に用いるのでなく、症状が出た方の「診断」に用いるものです。

事実、国内でも人口あたりのPCR検査数が多い都道府県では、新型コロナウイルスの感染者数や死者数が多い傾向を認めていました。よって、2022年8月6日に各都道府県のホームページを再度見てみました。人口当たりのPCR検査数が最も多いのは「大阪府」で2番目は「沖縄県」です。一方、人口当たりの感染者数が最も多いのは沖縄県で、死者数が最も多いのが大阪府です。また、海外と比べて、日本のPCR検査数は非常に少なかったのですが、感染者数さらに死者数が数倍も少ないのも事実です(委細は「(17) PCRは?」の章の「PCRで感染拡大を防ぐ方法」をご参照下さい)。PCR検査は高価なため、「費用対効果」は非常に乏しいと考えられます。よって、多くの欧米諸国での検査体制は、「時間がかかり費用も高いPCR検査」から、季節性インフルエンザと同様に「迅速に結果がわかり安価な抗原検査」に既に移行しています。また、抗原検査でさえ、症状が有る方に対して「診断目的」で行うのが妥当であり、「感染予防目的」で用いる場合は、重症化リスクの高い方が多い病院や高齢者施設等に対し重点的に行う必要があると思います。

「抑うつ」:上記の3段階を克服し、ガンとの共存を受け入れ始めたころに、「悪い情報をインターネットやメディアから取り入れ、心配のあまり受け入れが困難」になる「抑うつ」が起こってきます。抗がん剤の副作用などの悪い情報に煽られ、リスクからの逃避が起こり始めます。新型コロナウイルスでも「ゼロリスク」でありたいとの思い、さらに毎日目にする「感染者数増加」の報道が「抑うつ」を起こし「恐怖」が煽られてきます。「医療難民」と呼ばれる状況が、「抑うつ」を反映しているのかもしれません。季節性インフルエンザであれば市販薬を飲み自宅で様子を見ていたような軽症者でも、煽られた怖さにより「新型コロナウイルス感染だったらどうしよう、医師に相談しなければ」と言う不安に駆られて、軽症でも受診してしまう可能性がでてきます。季節性インフルエンザであっても、毎年1,000万人以上の感染者を出すため、軽症者全員が医療機関を受診すれば「医療崩壊」を起こすかもしれません。さらに、新型コロナウイルスでは受診できる医療機関が限られます。

よって、「治療が必要ない方の受診による医療崩壊」を防ぐために、「日本感染症学会」、「日本救急医学会」、「日本プライマリ・ケア連合学会」、「日本臨床救急医学会」の4学会が2022年8月2日に共同で緊急声明を出されました。
https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/covid19_4seimei_220803.pdf

要約すると、「65歳未満で、基礎疾患や妊娠がなく、軽症(飲んだり食べたりでき、呼吸が苦しくなく、乳幼児では顔色が良い)の場合は、あわてて検査や受診の必要は無く、市販の薬を用いて自宅療養する」と言う内容です。65歳未満でも、「37.5℃以上の発熱が4日以上続く」場合や、「水分が飲めない」、「ぐったりして動けない」、「呼吸が苦しい」、「呼吸が速い」、「乳幼児で顔色が悪いや、機嫌が悪くあやしてもおさまらない」場合は、受診を勧められています。非常に適切な基準で、欧米の殆どの国々で日常的に行われており、米国疾患予防センター(CDC)の指針とも類似しています。軽症の感染者に対しては、解熱剤・鎮痛剤などの「対処療法」しかないため、医療機関を受診しなくても市販薬で充分対処できます。例えば、39℃の発熱がでても、重症化リスクが無ければ、殆どの方は水分補給に心がけて脱水を予防し、バランスのとれた食事と充分な睡眠で免疫力を維持し血栓を予防すれば2~3日もすれば回復すると思います。しかし、リスクがなくとも医療機関での治療が必要となる方も稀にいらっしゃいます。よって、4学会では「4日以上続く37.5℃以上の発熱」などの受診基準も示されています。「早い者勝ち」で受診の予約を受けられる発熱外来も報道番組で見かけられますが、「受診の必要のない方を診察し、本当に入院治療が必要な感染者を診察しない」危険性が高くなります。欧米のように、予約時に4学会が提唱された基準を聞いて、「早い者勝ち」ではなく、「基準を満たした感染者」の優先的な診察が尊い命を守るためには必要と思います。

報道で、「ただの学術団体(学会)が受診をするなとは、あなたたちにそんなこと言う権限も資格も立場にもない」との驚きのご意見がある事を知りました。資格や立場は間違いなくあると思います。病気を診断そして治療するためには、臨床的知識に加えて、「病態」すなわち「機序」を科学的に把握するための基礎的知識も必要となります。例えば、基礎系の研究者無くしては、今使われているPCR、RNAワクチン、抗体製剤や抗ウイルス薬も生まれてきません。そして、新たな診断法や薬が開発された後に、実際に臨床に役立つかを判断するには臨床的知識が必要となります。学会は「臨床医」、「基礎の研究者」、「患者さんを診察しながら基礎研究も行う大学病院の先生など」の集まりで、科学的さらに疫学的根拠をもとに議論を交わし基礎と臨床の橋渡しをしながら最善の治療戦略を常に模索されています。事実、病気の診断・治療のために様々な「ガイドライン」がありますが、作成には様々な学会の役員が関与されています。また、医学は日進月歩で進歩します。今の治療法が、翌年度には化石化してしまう可能性もあります。よって、診療で忙しく論文を読む時間がない先生方のために、世界の最新情報をお伝えするのも学会の役目です。つまり、欧米諸国で行われているように、日本でも科学的根拠に基づく学会、それも「感染症」、「救急医学」、「総合診療」の3つの分野から合同で発信された提言は非常に重いと思います。

「抑うつ」の回避には、新型コロナウイルスだけを見て「新型コロナウイルスは怖い」と思いこむのでなく、他の病気と比較する事により「なんだ、既に共存している病気より怖くない」と、我々の日常において「ゼロリスク」はあり得ない事の理解が重要です。例えば、私はお酒が入ると「歌は上手いぞ」と自慢しますが、私のカラオケを聞いた人は「この下手くそ」と言うに違いありません。「誰に比べて上手いのか」という比較対象がないと、何もわからないという事です。新型コロナウイルスだけを見れば、多くの感染者や死者が出ており「怖い」となります。しかし、既に共存している季節性インフルエンザでさえ、毎年多くの方が感染され、多くの死者を出しています。季節性インフルエンザでも、「肺炎や脳炎などの直接死因で3,000人以上」の、「持病が悪化する事により10,000人以上」の尊い命を毎年奪っているのも事実です。BA.5株では、日本で過去最多の感染者数を記録しています。しかし、それにも関わらず、日本集中治療学会のホームページによると、人工呼吸器(ECMOを含む)装置が必要となった重症者数は2022年8月7日は163人です。デルタ株が蔓延した2021年9月7日の1,011人を大きく下回ります。また、重症者の多くは「ワクチン未接種者」か「ワクチンの3回目接種が終了していない方」です(委細は「BA.5オミクロン株を受け入れるための私見 (2022年7月26日)」をご参照下さい)。さらに、2022年8月5日に人口1万人あたりの感染者数が多かったのは、大阪府(25.6人)と福岡県(24.7人)です。両府県共に、「軽症•中等症用コロナ病床」の増床に努められながらも、利用率は大阪府で64.4%、福岡県では73.3%に達しています。しかし、「重症者用病床」の使用率は大阪府で11.9%、福岡県では7.3%に留まっています。BA.5株では、感染者数が増えても、それに相関した重症者数の増加が起こりにくい事を教えてくれています。BA.5株の爆発的感染拡大を現在認めているため、自分自身や友人・家族などの身近な方々の感染から、BA.5株の怖さを実体験により季節性インフルエンザと比較できている方も多いかもしれません。例外が強調される傾向にある情報からではなく、自身の目で見た比較が、「抑うつ」の段階から解放してくれると信じています。勿論、高齢者にとってはBA.5株は未だ季節性インフルエンザよりも怖いのは事実です。しかし、免疫力が低下した高齢者に起こる「誤嚥性肺炎」よりもBA.5株は怖くない事をご理解頂ければ幸いです。2022年8月2日時点の新型コロナウイルス感染による日本の累積死者数は32,706人です。一方、2021年の誤嚥性肺炎による日本の死者数は36,263人です。2年6ヶ月間の新型コロナウイルスによる累積死者数より、僅か1年間の誤嚥性肺炎による死者数が上回っているのも事実です。

「受容」:このような4段階を経て、ガンは「受容」へと進んでいきます。受容に至ると、理想と現実が冷静に判断できるようになり、前向きな思考も生まれ、精神的要因(プラセボ効果)も働きます。これにより、「ガンが完治する方」、「ガンと共存しながらも日常生活を送られる方」、「ガンに命は奪われてしまっても、残された人生を後悔なく過ごされる方」など結果は様々ですが、ガンを最後まで受容できなかった方に比べて、最善の結果に結びついていると思います。新型コロナウイルスも、「ゼロコロナ」に反映された「否認」、「自粛警察」や「コロナ警察」に代表された「怒り」、「検査難民」に反映された「取引」、その心の隙に付け込こんだ「悪徳商法」や「詐欺事件」、そして、現在の「医療難民」は「抑うつ」の表れかもしれません。「受け入れたくない物を、受け入れる」ために必要な全ての段階を、個人差はありますが、多くの方が克服されようとしています。あとは「受容」だけです。多くの皆様が、季節性インフルエンザのように「新型コロナウイルスとの共存」を受容され、第7波が終息した暁には、昔の生活が取り戻せると切に願っています。 

 

適正評価のための重症者・入院基準の厳格化
「免疫を理解し新型コロナを正しく恐れるために」で引用している世界的権威のある医学誌の多くは、「人工呼吸器装着」が必要となった感染者を「重症者」として取り扱われています。一方、「人工呼吸器の使用」、または「ECMOの使用」、または「ICU(集中治療室)での治療」が厚生労働省の「重症者」基準です。よって、日本集中治療学会が毎日更新されている、新型コロナウイルス感染による「人工呼吸器装着者数」と「各都道府県発表の重症者数」の間にはギャップが生まれます。https://crisis.ecmonet.jp/
勿論、人工呼吸器の装着が差し迫った感染者も集中治療室で治療されますし、人工呼吸器から離脱しても後方支援病院への転院が急には行えません。よって、実際の「人工呼吸器装着者数」に比べて、「各都道府県発表の重症者数」には2倍程度の差が認められても矛盾はないと思います。しかし、「人工呼吸器装着者数」と「重症者数」に予想以上の解離を認めている自治体もあるようです。(委細は、「科学的にみるオミクロン株(2022年1月26日時点)」及び「(41) 高齢者保護とFOCUSED PROTECTIONは?」の章の「医療体制」をご参照下さい)

2022年8月3日に各都道府県のホームページに示されている「県内における感染状況」を見てみました。日本集中治療学会が報告されている2022年8月3日の「人工呼吸器(ECMO含む)装着者数」に対して、各都道府県発表の「重症者数」は、大阪府が1.4倍、福岡県が1.75倍、愛知県が2.6倍、沖縄県が3.8倍、神奈川県が11倍、東京都が14.7倍です。各都道府県の間で「10倍以上」の差を認めています。「感染者の全数把握」でなく「重症者数」が政府の方針決定に重大な役割を今後は担うと思います。よって、各都道府県の基準により重症者数が10倍も異なれば、誤った方針を導いてしまう危険性が非常に高くなります。各都道府県の間で、この様な差を認めないような「より厳格な重症者の基準が必要」と信じています。また、「過去の変異株(アルファ株またはデルタ株)流行時の人工呼吸器装着者数」と「BA.5株での人工呼吸器装着者数」を比較してみると、福岡県では約「5分の1」へ、東京都や神奈川県では約「20分の1」まで減少しています。BA.5株では重症化は非常に少ない事を教えてくれています。

2022年7月31日の報道番組で東京都医師会長の尾崎治夫先生が「経鼻からの酸素吸入が必要などの中等症以上の感染者に特化した入院治療を行っている」とおっしゃっていました。非常に適切な対応で、欧米でも行われています。BA.5株感染では、多くの感染者が軽症か無症状のうちに回復しますが、毒性が弱いため感染拡大が速く日本の感染者数は過去最多を記録しています。そのため、殆どのBA.5株感染者の治療は自宅でも可能な「対処療法」です。自宅で可能な治療のために、軽症者を入院させれば、他の病気で入院治療が必要な方を治療できなくなり「医療崩壊」につながります。よって、入院されている感染者のうち、「入院での治療が必要ない軽症者」、「経鼻での酸素投与や、補液管理などの入院での治療が必要な中等症」、さらに「人工呼吸器装着が必要な重症者」の割合を正確に把握する必要があります。しかし、多くの都道府県のホームページでは入院患者が、「重症者」と「軽症・中等症」の2群で示さられているため、実際に入院での治療が必要な中等症患者の割合がわかりません。2022年8月3日の時点で、入院患者さんを「軽症」、「中等症」、「重症」の3群に分類して表示されている都道府県は、北から「新潟県」、「茨木県」、「群馬県」、「神奈川県」、「山梨県」、「愛知県」、「滋賀県」、「奈良県」、「島根県」、「広島県」、「福岡県」、「佐賀県」、「熊本県」、「沖縄県」の14県と少ないようです。また、新規感染者数に対する中等症の割合は、0%から9.8%と各県の間で大きな違いを認めています。入院治療が必要ない感染者を入院させる事により起こる医療崩壊を防ぐためにも、入院が必要な感染者の厳格な「入院基準」が必要なのかもしれません。

 

人口動態統計が教える警告
新型コロナウイルス感染のパンデミックが始まった2020年は多くの死者を出したため、多くの国々で2019年に比べて2020年の平均寿命は短くなっています。例えば、米国CDCの国立衛生統計センター(NCHS)の2021年12月22日の発表では、アメリカの平均寿命は2019年の「78.8歳」から2020年は「77.28歳」と「1.5歳も短縮」しています。一方、日本では「思いやりのマスク文化」の浸透により、新型コロナウイルス以外の様々な病原体により高齢者に重篤な肺炎を起こす「市中肺炎」による死者数が、2019年の95,518人から2020年は78,445人まで激減しています。市中肺炎による死者数の減少は17,073人で、2020年度の新型コロナウイルス感染による累積死者数3,459人を上回っています。また、東京都の報告によると、新型コロナウイルス感染により亡くなられた方の平均年齢は、男性が77.1歳、女性が82.9歳で、平均寿命に近いようです。よって、2020年の日本の平均寿命は2019年よりも「0.2歳以上長く」なっています。男性の平均寿命は2019年が81.41歳で、2020年が81.64歳と、新型コロナウイルスのパンデミックで0.25歳延び、女性の平均寿命は2019年が87.45歳で、2020年が87.74歳と0.29歳延びています。厚生労働省の2022年7月29日の発表によると、2021年度の平均寿命は男性が81.47歳で女性が87.57歳です。男女とも2021年の平均寿命は2020年より短くなりました。しかし、2021年には新型コロナウイルス感染による死者数は14,926人に達しながらも、2021年の平均寿命は、新型コロナウイルス流行前の2019年よりも長くなっているのも事実です。

非常に気になるのは、最新の人口動態統計・月報(概数)の結果です。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/m2022/dl/all0403.pdf

長期間にわたる行動制限は、新型コロナウイルス感染による死者数を遥かに超える健康被害をもたらす危険性が報告されています。外出控えで運動不足になり体重増加に伴う糖尿病の増加や、動脈硬化の進行に伴う心筋梗塞や脳梗塞などによる死者の増加も海外から報告されています。また、受診控えにより早期発見が遅れ、ガンによる死者の増加も報告されています。事実、このような徴候は2021年に日本でも認め初めています(委細は、「行動制限の副作用と交互接種を含めた個人的意見のまとめ #3(2022年3月9日)」の章の「行動制限の副作用」をご参照下さい)。この懸念が2022年度にはさらに強まります。人口動態統計・月報(概数)によると、2021年の1月~3月と2022年の同期間を比較した場合、2022年には「悪性腫瘍」による死者が1,807人増え、「心疾患」による死者は7,710人増え、「脳血管障害」による死者は1,324人増え、「糖尿病」による死者は531人増えています。少し良い結果は、自殺者は246人の減少を認めています。悪性腫瘍、糖尿病、心・脳血管障害による死者が2022年の僅か3か月間で、11,372人も増えた計算になります。1年間に換算すると「45,488人」もの「失う必要のない命を2022年度に失う」計算になるのかもしれません。2022年1~8月の新型コロナウイルス感染による死者数は14,583人で、1年間に計算すると約22,000人になります。新型コロナウイルス感染による死者数の、約2倍もの「失う必要のない命」を失う計算になります。それに加えて、子供達の肉体面さらに精神面に対しては、現時点で数値により評価することはできませんが、計り知れない影響を将来もたらす危険性も秘めています。新型コロナウイルスを季節性インフルエンザ同様に早期に扱い、通常の生活をできるだけ早く取り戻さないと、取り返しのつかない事態が待ち構えているのかもしれません。

歯科医が教えてくれる感染対策
感染症は、1個のウイルスに暴露して病気が起こるわけではありません。感染症はウイルスと免疫軍の戦いです。よって、敵であるウイルスの量が少なければ少ないほど免疫軍が優位にたてます。つまり、もし感染しても、少ない敵であれば免疫軍が容易に撃退できるため無症状か軽症ですみます。よって、「1個のウイルスにさえ暴露しない」と過度な対策をとるのでなく、「できるだけ少ないウイルスに暴露する」と考える方が柔軟に対応できるかもしれません。個人的に興味を抱いているのは「歯医者さん」です。多くの新型コロナウイルスが存在する口腔内を扱いながら、歯科医院でのクラスター発生は稀です。理由の一つは、治療中に行われている吸引です。感染症患者の診療は「陰圧室」が基本です。つまり、吸引により陰圧を作る事は感染予防につながります。もう一つの理由は「治療前のマウスウォッシュ」かもしれません。口の中にいる新型コロナウイルスの数を少なくし、感染の危険性を減らしていると思われます。日本をはじめ、アメリカ、イギリス、ニュージーランドの歯科医師学会では、新型コロナウイルス対策として、診察前に「1% 過酸化水素水」または「0.2% ポピドンヨード」によるマウスウォッシュを推奨されています(委細は「(38)うがいは?」をご参照下さい)。また、比較的高濃度のアルコールを含むリステリンなどのマウスウオッシュを用いられている国もあります(Zamal M, Oral Dis 2020, 6/3)。よって、多くの人の前で話す時などは、直前のマウスウォッシュで口腔内の新型コロナウイルスの数を減らしておけば、相手が暴露してしまうウイルス量も減らせ、重症化が予防できるかもしれません。個人的には、1% 過酸化水素水や0.2% ポピドンヨードでなくとも、「アルコールを含むリステリン等のマウスウオッシュ液」や「塩水」で口の中を軽くすすぐだけで効果はあると思います。また、BA.5株の症状として咽頭痛も多く認められます。咽頭に違和感を覚えた時に、0.2% ポピドンヨードや塩水でうがいをすれば、咽頭に付着したウイルスを減らせて、免疫軍が優位に戦えるため「中等症になるはずが軽症ですんだり」、「軽症になるはずが無症状ですんだり」するかもしれません。

個人的思い
ガンや成人病による死者数の予想外の増加を示す人口動態統計の結果を見ると、可能な限り早く正常な社会生活を取り戻さなければ、「感染者数は増えても致死率が低いBA.5株を恐れすぎるあまりに、取り返しのつかない結果を招きかねない」ような気がします。BA.5株を含むこれまで全ての変異株による子供達の致死率は季節性インフルエンザよりも低いため、18歳未満の子供達は、マスクのない普通の生活を取り戻す時と思います。50歳未満で重症化リスクの無い方は、「重症化リスクのある方を守るための思いやりの精神」でワクチンを3回接種し、密となる公共の場所でのマスク着用を心がけて頂きながら、普通の生活に戻すべきと思います。一方、高齢者や重症化リスクの高い方は、「4回目ワクチン接種」に加えて、「自らを守るための感染予防」に努めて頂き、新型コロナウイルスをできるだけ早期に季節性インフルエンザ同様に扱える日が来ると信じています。

 

[95版に追記分]
[BA.5オミクロン株に関する私見] (2022年7月26日)
新型コロナウイルス感染も、中国などの一部の国を除き感染予防を重視した「パンデミック」から季節性インフルエンザのようにコロナウイルスとの共存を目指す「エンデミック」のステージに2021年後半から入っています。また、膨大な新型コロナウイルスに関する基礎的さらに臨床的な情報が世界で蓄積され、新たにご報告するような情報も激減したため、2022年3月9日より「新型コロナに打ち勝つための独り言」の更新を行っておりませんでした。しかし、オミクロン株の亜種である「BA.5株」による感染者の爆発的な増加に伴い、再び多くのご質問を頂くようになりました。BA.5株では感染者は増えていますが、以前の変異株と基本的に変わりはないうえ、BA.5株の毒性は以前の変異株より更に弱くなっていると考えられます。よって、ご安心頂くため、これまでに報告させて頂いた内容の要点をまとめながら、BA.5株の現状を科学的さらに疫学的根拠をもとに考察したいと思います。

世界・日本のこれまでの疫学的結果から考える
ウイルスは我々の細胞の部品を使ってしか増える事ができません。よって、死者数が増えればウイルスも生存できなくなるため、感染力を強めながら毒性を弱めて人類と共存を模索するものもあります。また、様々な変異株が生まれるため、ウイルス自体も変異株の間で生存競争をしています。毒性が強いウイルスに感染すると、症状が強く感染者は外を出歩くことができなくなります。つまり、ウイルスが他人に伝播される機会が減ってしまいます。一方、毒性の弱いウイルスでは感染しても無症状か軽症のため、感染者は出歩いてしまい、他人にうつすことによりウイルスが拡散されていきます。よって、毒性の強いウイルスは拡散が難しいため淘汰され易く、毒性が弱く感染力の強い変異株が生き残っていきます。事実、2021年10月14日のイギリスからの報告では(Vohringer HS, Nature 2021, 10/14)、致死率の高い「カッパ株」、「イータ株」、「イオタ株」、「ゼータ株」等が、毒性が弱くなり感染力が強くなった「デルタ株」に淘汰された事が科学的に示されています。また、世界的にみても「アルファ株」、「デルタ株」、「オミクロン株」の順に死亡率が低下する一方で、感染者数は増加するという逆相関を認めています。歴史が教えてくれているように、新型コロナウイスも感染力を増しながら毒性を弱め続け「オミクロンBA.5株」として人類との共存を模索しているのかもしれません。委細は、[(34) 変異したウイルスに対するワクチン効果と各自の対策は?]の章の「デルタ株に対する集団免疫」をご参照下さい。

勿論、「BA.5株」が強い毒性を獲得しながら感染力を強くしていれば話は変わります。しかし、この可能性は否定できる事を「BA.5株」が大流行し、既に終息したポルトガルが教えてくれています。ポルトガルでは2022年5月からBA.5株の大流行を認め、5月27日には1日あたりの新規感染者数は、61,734人に達しています。ポルトガルの人口は1,031万人ですから、日本に換算すると1日あたり約74万人の新規感染者を認めた計算になります。一方、BA.5株流行時の1週間あたりのポルトガルの死者数/日は最高で32人で、アルファ株流行時の293人より10倍近く少なくなっています。日本でもBA.5株の感染者数は2022年7月23日に200,969人と過去最多を記録しましたが、日本集中治療学会のホームページによると国内で人口呼吸器(ECMO含む)を装着された重症者は2022年7月25日時点で75人です。デルタ株が流行した2021年9月7日の人工呼吸器装着者数は1,011人に達しているので、BA.5株では重症者数が約13倍も少ない計算になります。新型コロナウイルスの感染力増強に伴う弱毒化、さらにワクチン接種の浸透により、BA.5株は季節性インフルエンザのように共存可能なウイルスと個人的には疑いなく信じています。

BA.5株より感染力が3.24倍増した可能性があるかもしれない「ケンタウロス(BA.2.75)株」の報道が散見されるようになりました。BA.2.75株はインドで2022年5月26日に検出されていますが、2か月が過ぎた2022年7月25日時点で、明らかな感染者の増加は認めていません。インドの新規感染者数は2022年7月25日が15,528人で、アルファ株が蔓延した2021年5月5日の412,431人の約26倍も少ない計算になります。今後のインドの動向を注視する必要はありますが、個人的には楽観的に考えています。

季節性インフルエンザとの比較から考える
BA.5株の日本での感染拡大に伴い、医療体制の逼迫に関する報道を目にするようになりました。一方、ポルトガルでは、日本の5倍近いBA.5株の感染者を出しながらも医療体制に問題は起こっていません。「何故このような違いが起こるのか?」を冷静に考える必要があると思います。季節性インフルエンザは2019年以前は日本で毎年1,000万人以上の感染者を出し、ウイルスが原因となる肺炎や脳炎などで3,000人以上の命を奪っています。また、季節性インフルエンザ感染により持病が悪化して亡くなった方を含むと約10,000人以上の命を毎年奪っています。季節性インフルエンザは12月中旬から2月末までの約80日間で猛威をふるうため、1日あたり12万人近くが感染され、持病が悪化して亡くなられた方を含むと1日あたり約125人の命が奪われている計算になります。勿論、このような季節性インフルエンザの感染者数では日本の医療体制はびくともしていません。しかし、BA.5株で行われているような、「限られた医療機関での診療」、「濃厚接触者の同定」、「受けたい人が誰でも受けれる検査」等の対策を季節性インフルエンザで行えば、感染者が限られた医療機関に集中し、濃厚接触者になれば無症状でも医療従事者が働けなくなり、間違いなく医療崩壊さらには社会活動の停止にもつながると思います。季節性インフルエンザで通常行われている以下の対応への早急な変更がBA.5株に対しても間違いなく必要なのかもしれません。委細は、[科学的にみるオミクロン株(2022年1月26日時点)]の章の「日本におけるオミクロン株の怖さ」と[(43) 季節性インフルエンザやその他の感染症との違いは?]をご参照下さい。

  1. 症状がでれば、どこの医療機関にも自由に受診でき
  2. むやみやたらに検査をするのでなく、症状のある方のみが近所のクリニックで検査をうけ
  3. 濃厚接触者をあぶりだすのでなく、症状が有れば自主的に自宅待機し
  4. 幼稚園や学校でも濃厚接触者をあぶりださず、季節性インフルエンザの基準に従い感染者が増えれば学級閉鎖、学年閉鎖、学校閉鎖などの対応をとり
  5. 重症化リスクの高い方や、中等症以上の症状が有る方のみを入院対象とする

 

2022年7月22日に千葉県の熊谷知事が「園児の濃厚接触者は特定しない」方針を示されました。厚生労働省が2022年7月19日に発表された新型コロナウイルスの年代別感染者数と死者数からみても、10歳未満の新型コロナウイルス感染による死亡率は0.0004%と、季節性インフルエンザの0.03%より大きく下回ります。「子供達の新型コロナウイルスによる重症化率は季節性インフルエンザより低い」という疫学的根拠を考慮し、「濃厚接触者になった子供の世話で働けなくなる労働力の減少」を避け社会活動維持を目的とされた熊谷知事のご英断に心より敬意をはらいます。

社会活動を維持するため、2022年7月22日に濃厚接触者の自宅待機期間が7日間から5日間に、2回の検査で陰性なら3日に短縮されました。一方、アメリカをはじめとした多くの欧米諸国では、濃厚接触者であっても、ワクチン3回接種済みであれば、外出時のマスク着用は義務付けられますが自宅待機は求められていません。また、イタリアでは濃厚接触者の同定は行っていません。
行動制限の結果から考える
奈良県の荒井知事、愛媛県の中村知事、山梨県の長崎知事、宮城県の村井知事、北海道の鈴木知事を始め多くの首長が2022年早期から「行動制限」の感染抑制効果に懐疑的な見解をしめされていました。BA.2株流行時に関西圏で「まん延防止等重点措置」を発令された自治体と発令されなかった自治体において感染者・死者数の推移に差はなかったことからも、荒井知事、中村知事、長崎知事、村井知事、鈴木知事らのご意見が正しかったことを証明してくれていると思います。委細は、[BA.2株を含めた個人的意見のまとめ #2(2022年2月24日)]をご参照下さい。

その後、福岡県と熊本県でも同様の結果が認められています。福岡県では服部知事の科学的根拠に基づく判断により2022年3月6日に「まん延防止等重点措置」を解除されましたが、お隣の熊本県の解除は3月21日と約2週間遅れています。「まん延防止等重点措置」解除された3月6日の福岡県の新規感染者数は2,391人で3月10日に2,8741人と1.2倍の増加を認めましたが、その後大きな増減はなく2,000人前後で推移しています。「まん延防止等重点措置」を継続された熊本県の3月6日の新規感染者数は509人で、継続にも関わらず3月9日には新規感染者数が781人と約1.5倍の増加を認めています。興味深い事に、知事が以前より行動制限に懐疑的であった都道府県では、他県に比べて、新型コロナウイルスの感染者数は増えていないようです。むしろ、感染者数が少なくなっている傾向があるのかもしれません。例えば、人口が500万人以上の都道府県を比較すると、人口1万人あたりの累積感染者数(2022年7月23日時点)は北海道の753人、福岡県の1,067人に対して大阪府は1,353人、東京都が1,343人です。人口が100万人以上250万人未満の県の比較では、奈良県の843人、宮城県の483人、愛媛県の454人に対して、沖縄県は2,157人、熊本県は899人です。人口が100万人未満の県の比較では、山梨県が525人に対して、島根県は548人です。また、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、スペイン、アメリカ、韓国、スエーデンを対象とした調査において、新型コロナウィルス感染拡大の抑制には「都市封鎖」でさえ効果は限定的な可能性が2022年1月5日に報告されています(J Battacharya, European Journal of Clinical Investigation 2022, 1/5)。

行動制限の感染抑制効果は限定的なうえ、計り知れない副作用をもたらす事も明らかとなってきています。受診控えにより早期診断が遅れ「ガンによる死者の増加」、運動不足によるメタボの増加で「心筋梗塞や脳梗塞による死者の増加」、経済的困窮による「若者、特に女性の自殺の増加」など、「行動制限によりBA.5株から救えるかもしれない命」の何十倍もの「失う必要のない命」を将来的に失う可能性があります。事実、この様な徴候は日本でも既に認められ始めています。委細は、[行動制限の副作用と交互接種を含めた個人的意見のまとめ #3(2022年3月9日)]をご参照下さい。

最も気になる点は、将来の日本を担う子供達に及ぼす肉体的・精神的な悪影響です。弱い病原体に暴露されることによる日々の実践訓練により免疫は成熟し、たくましくなっていきます。スポーツでも2年間も練習を怠れば、負けるはずの無いない相手にも負けてしまいますが、免疫も同様です。2年間以上に及ぶ過度な衛生状態により、子供達の免疫力が低下しはじめている可能性も否定はできません。例えば、通常は殆ど死者を認めないデング熱で多くの子供達がインドで死に至ったり、夏風邪であるアデノウイルス感染で子供達が死に至る肝炎を発症したり、封じこめているはずの猿痘が世界的に認められたり、RSウイルス感染症の流行が続いたりなど、免疫学的に見て、いつもとは何か違った状況が子供達に起こり始めているような気がします。また、衛生仮説として知られるように、過度な衛生状態が続くとアレルギー疾患や潰瘍性大腸炎などの自己免疫性疾患が増えてくることも疫学的に証明されています。子供達にとっては弱毒のBA.5株を恐れすぎるあまりに「夏風邪などの弱い病原体で子供達の尊い命が奪われ」さらに「子供達が働き盛りになった時に重度のアレルギー疾患や自己免疫疾患で日常生活が妨げられる」といった、本末転倒の結果につながらないように目先の感情ではなく、将来を見据えた対応が今こそ必要なのかもしれません。

2022年7月26日に「サル痘」の感染者が日本で報告されましたが、恐れる必要は無いと個人的には思います。サル痘は7~14日の潜伏期間を経て、発熱などの症状の後に水痘などの発疹が現れます。感染は皮膚の病変部、体液、血液に触れて起こる接触感染が主体です。よって、飛沫で感染する新型コロナウイルスのような感染拡大は起こらないと思います。また、ほとんどの感染者は自然治癒します。稀に死に至る場合もありますが、2022年7月21日のWHOの報告では、「世界で14,000人が感染し、亡くなられた方はアフリカでの4人」のようです。先進国では、サル痘による死者は起こりずらいかもしれません。また、「種痘」として知られていた天然痘ワクチンが有効です。天然痘の撲滅により種痘の接種は1976年に日本では廃止されています。1976年以前に生まれた45歳以上の日本人は種痘の接種でサル痘に対しても既に免疫を持っている可能性が高くなります。また、45歳未満の方もご安心ください。日本には天然痘ワクチンの備蓄がありますので、必要になれば政府が臨時応変に活用されると思います。

免疫は乳幼児と高齢者で低下するため、通常の感染症で犠牲になり易いのは乳幼児と高齢者です。しかし、新型コロナウイルスは病原体としては弱いながらも、初期の変異株は「血栓症というテロ行為」を得意としていました。よって、血管が詰まり易い「高齢者」や「肥満者」に多くの犠牲者を出してしまったと個人的には思います。一方、免疫力が弱くても血栓ができにくい乳幼児や子供達に対しては重症化は起こしにくいようです。よって、高齢者を重点的に保護し、行動制限は行わない「Focused Protection」、つまり「感染者数」ではなく「重症者数」に焦点をあてた対策が2020年からスエーデンで行われ、当時は多くの批判を受けながらも、2021年から多くの国々で採用されています。事実、感染者数を減らす事を目的とした場合は「若者からのワクチン接種」が有効ですが、「Focused Protection」の概念にもとづき感染者数が増えても重症者数を減らす目的で「高齢者からのワクチン接種」が日本を含む多くの国々で用いられています(Matrajt L, Science 2021, 2/3)。つまり、「感染者数」で一喜一憂するのでなく、「人工呼吸器の装着が必要となった真の重症数」を指標にする必要性を教えてくれています。松野博一官房長官が「政府としては新たな行動制限を行うのでなく、重症化リスクのある高齢者を守ることに重点を置く」と2022年7月21日に発表されました。科学的根拠に裏付けられ将来を見据えた適切な政治的判断と個人的には強く信じています。委細は[(41) 高齢者保護とFOCUSED PROTECTIONは?]をご参照下さい。

熱中症の結果から考える
欧米に比べて、日本ではヒトにうつさないための「思いやりのマスク文化」の浸透が新型コロナウイルスの感染者数を抑制した事は疑いようのない事実と思います。一方、屋外でのマスク着用は熱中症のリスクとなります。人口動態統計(確定数)によると2020年に熱中症で亡くなられた方は1,528人です。7月と8月に集中するため、約750人が1か月間で熱中症で亡くなられた計算になります。2022年6月24日から7月24日の1か月間でのオミクロン株による死者数686人で、2020年同期間の熱中症による死者数750人と大差はありません。気になる点は、総務省消防庁の報告です。2020年の7月6日から2週間の間に熱中症で救急搬送された方は2,416人ですが、2022年は更なる猛暑のため7月4日からの2週間に9,272人の方が既に救急搬送されています。1か月間の熱中症による死者数がオミクロン株による死者数よりも多かった2020年より、2022年は4倍以上も熱中症患者が増えた計算になります。マスク着用に固執するあまり、BA.5株による死者数より遥かに多い命が熱中症により奪われたら本末転倒です。水分補給に心がけ、屋外など人との距離が保たれる場所ではマスクを外す習慣が必要です。熱中症の症状は、「頭痛」、「めまい」、「こむら返り」、「手足のしびれや痙攣」、「気分不良」などです。この様な症状が出れば、即座に冷所に移動し体を冷やされる事をお勧めします。また、子供達の新型コロナウイルスによる重症化率は季節性インフルエンザより10倍近く低いうえ、活発に遊ぶため熱中症のリスクも高くなります。また、上述したように長期間のマスク着用による免疫の訓練不足は様々な健康上の問題を起こしてきます。よって、個人的には「子供達にマスク着用は必要ない」と強く信じています。

ワクチン接種の結果から考える
重症化予防に最も貢献してくれるのはワクチンです。ワクチンの役割は「感染予防」と思われている方がいらっしゃいますが、ワクチンの一番の目的は「重症化予防」です。ワクチンにより「B細胞」と「T細胞」と呼ばれる免疫細胞が活性化されますが、役割は異なります。B細胞は飛び道具である「中和抗体」を産生し、新型コロナウイルスが我々の細胞に侵入するために用いる「鍵(スパイク蛋白)」をたたき落とします。これにより、新型コロナウイルスは我々の細胞に侵入できなくなり「感染予防」に貢献します。しかし、中和抗体はウイルスの鍵の一部をピンポイントで狙うためウイルスの変異に弱いのが欠点です。つまり、変異により標的部位の形が変えられると中和抗体は機能しなくなります。また、持久力がないのもB細胞の欠点で、ワクチン接種から時間が経つと中和抗体の量も減ってきます。一方、頼もしいのは接近戦で新型コロナウイルスを撃退してくれる「T細胞」です。接近戦、すなわち我々の体内に入って来たウイルスを掴んで攻撃するため、感染はしてしまいます。しかし、入ってきたウイルスを即座に撃退してくれ、感染予防ではなく、「重症化予防」に寄与します。また、接近戦でウイルスのあらゆる部位を掴めるため、ウイルスが少々変異しても問題なく撃退してくれます。そのうえ、持久力があるのもT細胞のとりえです。よって、ワクチン接種後に感染予防効果が落ちてきても重症化予防効果はしっかりと維持されます。ただ、簡単には戦い方は上手くならないため、何度か訓練が必要です。これまで世界で蓄積された結果を見ると、T細胞も3回の訓練、すなわち3回のワクチン接種が必要なようです。ワクチン機序についてご興味のある方はhttps://www.youtube.com/watch?v=jTj4FCavg_oをご覧ください。

事実、日本集中治療学会のホームページの「COVID-19重症者の集中治療状況」(https://crisis.ecmonet.jp/参照)によると、オミクロン株が流行を始めた2022年度に人口呼吸器装着が必要となった重症者のうち、「ワクチン未接種者」が79人、「2回接種者」が74人、「3回接種者」は7人です。ワクチン3回接種で顕著な重症化予防効果が認められます。また、3回接種者で重症化した全員(100%)が65歳以上です。2回目接種者で重症化された84%の方も65歳以上です。加齢によりT細胞の機能は低下するため、高齢者では4回目接種など繰り返しのワクチン接種でT細胞を訓練する必要がある事を教えてくれています。特記すべき点は、「ワクチン未接種者」での年齢別重症者数です。65歳以上の割合は38%に留まり、ワクチン未接種者では高齢者以外にも重症化が認められます。

また、人口あたりの新型コロナウイルス感染による死者数が突出するのは大阪府と沖縄県です。2022年7月23日時点の、人口1万人あたりの累積死者数は、大阪府で5.97人、沖縄県で3.42人と東京都の3.30人を上回っています。、大阪府と沖縄県の特徴は3回目ワクチン接種率の低さです。2022年7月22日時点の3回目ワクチン接種率は、全国平均の62.4%に対して、大阪府は55.9%、沖縄県は46.4%です。委細は、[オミクロン株に関する個人的意見のまとめ(2022年2月16日)]の章の「都道府県の結果から考える、オミクロン株の怖さ、そして検査やワクチンの重症化予防効果」をご参照下さい。

「ワクチンを接種するべきか?」についてお問い合わせをよく頂きます。世界共通の基本は「ワクチンによる利益が不利益を上回っているか?」の判断になります。不利益は「副反応」です。利益の一つは「個人的利益」、つまり「自身の新型コロナウイルス感染による重症化の可能性」です。判断材料としては、季節性インフルエンザとの比較が科学的かもしれません。季節性インフルエンザ感染による死亡率(直接死因)は0.03%です。よって、新型コロナウイルス感染による死亡率が、季節性インフルエンザの死亡率に近い40歳代、さらに季節性インフルエンザを上回る50歳以上では、ワクチン接種による利益が不利益を上回ると考えられます。40歳以上で重度のアレルギー体質などでワクチン接種が問題となる方以外は、最低でもワクチンの3回目接種さらに4回目接種を受けない理由がないのかもしれません。

40歳未満でも肥満者さらに基礎疾患のある方も同様です。肥満と言えば一般的にはBMIが30以上の「II度肥満」をさしますが、BMIが25以上の「I度肥満」でも重症化リスクが高くなる事が示されています。BMIは体重 ÷ 身長(メートル)÷ 身長 (メートル)で計算します。私は身長176cmで体重80キロです。よって、80 ÷ 1.76 ÷ 1.76でBMIは25.8で、痩せては見えるんですが、実はお腹がでているI度肥満にあたり、勿論ワクチンの4回目接種は既に予約しています。また、血栓症を起こし易い状態の方も重症化リスクが高くなります。経口避妊薬も血栓症を起こし易くなるため、若くても新型コロウイルス感染による重症化の危険性が高くなります。新型コロナウイルスで重症化を起こし易い基礎疾患や要因は、[(45) 重症化しやすい基礎疾患は?]をご参照下さい。

ワクチン接種の判断には「社会的利益」も重要となります。新型コロナウイルスに感染し、症状が軽く回復しても、自身の濃厚接触者に認定された方が亡くなってしまえば、精神的な苦痛に見舞われてしまかもしれません。つまり、重症化リスクが高い方と接する機会が多い「医療関係者」、「高齢者施設の職員」、「高齢者と同居している方」などは社会的利益が不利益を上回ります。また、集団感染が起こると公共の社会活動に影響を及ぼす可能性が高い「警察官」、「消防士」、「公共交通機関従事者」等の職種も社会的利益が不利益を上回ります。また、新型コロナウイルスは飛沫感染のため、仕事や趣味で大きな声を出す機会が多い方、宴会でついつい大声を出してしまう方、スポーツ観戦やコンサートで声援をおくりたい方、お祭りなどでワッショイワッショイなど掛け声をかけたい方なども、社会的利益が不利益を上回るのかもしれません。

18歳未満では新型コロナウイルス感染による重症化リスクはほぼゼロに近く、免疫力が強くても未熟なため副反応が強い可能性があり、ワクチン接種の判断が最も難しくなります。「ご本人の意思を尊重し、ご家族で話合われて決める」のが最善と個人的には思っています。委細は、[(31) ワクチン接種の判断は?(65歳以上の高齢者 vs 成人 vs 未成年)]をご参照下さい。

個人的意見のまとめ
新型コロナウイルスは血栓症というテロ行為を得意としていたため、免疫学的には弱いウイルスでありながら血栓症を起こし易い高齢者や肥満者に突然死のような急激な悪化をもたらし、多くの犠牲者を出したと個人的には思っています。しかし、ウイルスが変異を繰り返し血栓症というテロ行為も少なくなり、さらにワクチンの3回目接種率も60%を超えています。よって、Lavineらが推測したように、新型コロナウイルスは数年後には夏風邪程度の風土病になるのかもしれません(Lavine JS, Science 2021, 1/21)。事実、変異を繰り返したオミクロン株が、季節性インフルエンザよりも怖いと言える科学的・疫学的根拠は無いと思います。一方、免疫力が低下した高齢者にとっては、新型コロナウイルスは季節性インフルエンザより怖いウイルスと考えられますが、毎年3万人以上の死者を出す「誤嚥性肺炎」よりは怖くはありません。感染者数に一喜一憂するのでなく、人工呼吸器装着が必要となった重症者数に注視し、新型コロナウイルスを季節性インフルエンザ同様に扱い、早期に新型コロナウイルスのパンデミック以前の生活が取り戻せることを心より祈っています。

 

[94版への追記箇所]
[行動制限の副作用と交互接種を含めた個人的意見のまとめ #3](2022年3月9日)
日本の死因から考える新型コロナウイルス:残念ながら人間は不老不死ではありません。様々な原因により多くの方の尊い命が毎日奪われています。厚生労働省発表の人口動態統計速報値によると2021年の1月から9月に、「悪性腫瘍」で283,078人、心筋梗塞などの「心疾患」で157,025人、脳梗塞などの「脳血管疾患」で77,136人、新型コロナウイルス以外の病原体が原因となる「市中肺炎」で54,511人、「誤嚥性肺炎」で36,263人、「腎不全」で21,177人、「認知症」で16,465人、「アルツハイマー病」で16,705人、「自殺」で15,483人、「糖尿病」で10,775人が亡くなられています。世界一の高齢化社会である日本では、「老衰」による死者が毎年増え続け2005年の26,360人から2020年度には132,440人へと約5倍の増加を認め、2018年からは老衰が日本の「3大死因」となっています。2021年も9か月間で109,857人が老衰で亡くなられ、増加傾向が続いています。2021年は新型コロナウイルスの中でも最も死亡率が高かった「アルファ株」の感染爆発が起こったため、新型コロナウイルス感染による死者数は16,052人に達しています。それでも、新型コロナウイルス感染による死者数は自殺、アルツハイマー病、認知症と同程度で、悪性腫瘍より17倍以上少なく、老衰よりも約7倍少なく、誤嚥性肺炎よい2倍以上少ない計算になります。死につながる病気は「新型コロナウイルス感染」ばかりでなく、多くの死につながる病気の危険性に常にさらされながら、我々は日常生活を普通に送っていた現実をご理解頂ければ幸いです。

新型コロナウィルス以外の様々な比較的弱い病原体に我々は常に暴露しています。免疫力が低下すると、このような病原体に対してでさえ死につながる肺炎を起こしてしまい、2019年の1年間に95,518人もの尊い命が「市中肺炎」により奪われています。しかし、新型コロナウィルスに対する各自の感染対策の徹底により、2020年度の1年間を通した市中肺炎による死者数は78,445人にまで減少しています。また、1月から9月の9ヶ月間の市中肺炎による死者数は2020年が58,822人に対し、2021年は54,511人です。7.3%の更なる減少を認めています。よって、新型コロナウィルスのパンデミック前の2019年に比べた場合、市中肺炎による死者数は2020年に17,073人、2021年には18,319人以上も減少した計算になります。つまり、2022年2月7日時点の日本の新型コロナウィルスによる累積死者数の24,951人よりも多い35,392人もの命を市中肺炎から守った事になります。事実、新型コロナウィルスのパンデミックにより2020年には世界各国の平均寿命が短くなりながらも、日本の平均寿命は逆に長くなっています(「オミクロン株に関する個人的意見のまとめ」の章の「平均寿命」参照)。

行動制限の副作用:欧米諸国では都市封鎖を行いながらも、人口あたりの新型コロナウィルスの感染者数や死者数は日本の10倍程度です。民主主義国家での都市封鎖による感染拡大の抑制効果に否定的な報告も出始めています(「BA.2株を含めた個人的意見のまとめ #2」の「感染拡大に影響を与える要因」参照)。都市封鎖でさえ効果は賛否両論のため、奈良県の荒井知事、愛媛県の中村知事、山梨県の長崎知事、宮城県の村井知事らがおっしゃったように、「まん延防止等重点措置」の感染抑制効果は非常に限定的かもしれません。事実、関西圏を見てみると、「まん延防止等重点措置」の発令された2022年1月27日以降、発令された大阪府、京都府、兵庫県、岐阜県と、発令されなかった奈良県と滋賀県を比較してみても、感染者数の推移に明らかな差は認めません。世界の大規模疫学調査結果が示すように、感染者数の増減は「まん延などの行動制限」より「季節」に強く依存すると考えるのが科学的に妥当と思います。

最も危惧する点は、行動制限に伴う想定を超えた副作用です。行動制限は、経済や子供達に及ぼす計り知れない悪影響に加えて、「運動不足による肥満者・メタボの増加、それに伴う糖尿病、心筋梗塞などの心疾患、脳梗塞などの脳血管障害での死者の増加」、「早期発見の遅れによる癌による死者の増加」、「自殺や犯罪に伴う死者の増加」など様々な原因で多くの「失う必要のない命を数年後に失う」可能性が世界各国から報告されています(「40)、新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(諸刃の剣効果)」の「長期間の行動制限による健康被害」参照)。その兆候が日本でも明らかに認められ始めています。この原稿を執筆中に厚生労働省から2021年10月までの最新版の人口動態統計速報値を報告されたので、最新データを用います。2020年と2021年の1月から10月までの同期間を比較すると、2020年に比べて2021年では「悪性腫瘍」による死者が2,534人増え(2020年が313,572人、2021年が316,106人)、「心疾患」による死者が8,180人増え(2020年が165,708人、2021年が173,888人)、「脳血管障害」による死者が525人増え(2020年が84,120人、2021年が85,645人)、「糖尿病」による死者が485人増え(2020年が11,374人、2021年が11,859人)、「自殺」による死者が501人増え(2020年が16,613人、2021年が17,114人)ています。行動制限の副作用として数年後に増加が予想されている原因での死者数が、2021年10月の早期の段階で既に12,225人にも達しています。また、これらの病気は働き盛りの中年層に多く、自殺の増加は出産年齢の女性に多く認められます。日本の未来を担う「失う必要のない命」を、これ以上失わないためにも、早期の「まん延防止等重点措置」の解除が必要と個人的には信じています。

世界さらに日本で蓄積された結果から見ても、「オミクロン株とBA.2株が季節性インフルエンザよりも怖い」という科学的根拠を示す事は難しいと思います。日本では、季節性インフルエンザにより毎年12月から2月の間に1,000万人が感染され、ウイルスが直接起こす肺炎や、ウイルスの感染による基礎疾患の悪化や2次感染で約10,000人が亡くなられています。また、世界中にオミクロン株さらにはBA.2株が蔓延し多くの国では人口当たりの感染者数は日本の5~10倍に達していますが、「医療の逼迫もなく」、「オミクロン株を特別扱いせずに、季節性インフルエンザ同様に扱われ」、「規制も解除」され昔の生活を取り戻されています。また、日本でも2022年3月6日に東京国際マラソンが開催されました。東京マラソン財団の発表では、市民ランナーを含めた参加者は19,188人で、65歳以上の重症化リスクが高いランナーに対しては参加の自粛が要請されたようです。「オミクロン株は特別扱いするウイルスではない」との判断があったからこそ、多くの市民も参加する大規模大会を開催されたと思います。この重大な判断に心より敬意を払うと共に、この大会が「新型コロナウイルスから脱却し、平穏な昔の生活を取り戻すため」の号砲であると信じています。また、大会の中止が続いていたランナー達にとっては待ちに待った大会だったおもいます。次は、子供達です。多くの子供達や学生達の一生の思い出となる卒園式・入園式・卒業式・入学式に今年こそは参加できるように、一刻も早く「まん延防止等重点措置」が解除されることを心より願っています。

ワクチン交互接種:新型コロナウィルスは血管へのテロ行為が得意だったため、「血栓症」つまり血管を詰まらせ突然死の危険性も秘めていました。よって、免疫力の低下した方ばかりでなく、比較的免疫力が担保された中年層であっても、肥満や高血圧など血栓症のリスクが高い方に多くの犠牲者を出してしまいました。その上、血管に対するテロ行為のため、回復しても脳出血やブレイクフォグなどの後遺症が問題でした。しかし、血管に対するテロ行為の能力もオミクロン株では非常に低下したと個人的には思います。つまり、オミクロン株は季節性インフルエンザのような普通の感染症になってきたと考えるのが科学的に妥当かもしれません。しかし、免疫力が低下を始める「40歳以上」や「基礎疾患」のある方、仕事が忙しく「睡眠不足」や「食欲不振」が続き免疫力が一時的に低下する方、さらに新型コロナウイルスのテロ行為である血栓症を起こし易い「肥満者」などでは、足元をすくわれないように今でも細心の注意が必要です。最も頼りになる防衛策は「ワクチンの3回目接種」である事は明らかです。事実、多くの国では「ワクチンの3回目接種」を条件に、入国時の隔離を免除されています。しかし、「ワクチンの交互接種」に疑問を持たれ、「2回目まではファイザー社製RNAワクチンを打ったので、3回目も同じワクチンを打ちたい」と思われワクチンの3回目接種を躊躇されている方がいらっしゃるかもしれませんが、誤解です。交互接種では、効果が上がる可能性はありますが、逆に下がる事はありません。免疫軍の中で最強の獲得免疫部隊は敵の顔の一部を覚え、敵を認識して戦います。ファイザー社製RNAワクチンとモデルナ社製RNAワクチンは異なった場所を免疫軍に覚えさせます。例えば、図に示すような悪玉ウイルスがいたとします。ワクチンAでは目を覚えさせ、ワクチンBでは口を覚えさせるとします。当然、いろいろな部位を覚えさせる事ができるワクチンAとワクチンBの交互接種の方が、免疫軍が敵の顔を認識しやすくなり優位に戦えます。

オミクロン株の感染者886,774人を対象とした交互接種の調査結果がイギリスから2022年3月2日に報告されました(Andrews N, New England Journal of Medicine 2022, 3/2)。ファイザー社RNAワクチンを2回接種し、3回目もファイザー社RNAワクチンを接種した場合のオミクロン株に対する感染予防効果は67.2%で接種後10週目に45.7%に低下するようです。ファイザー社RNAワクチンを2回接種し、3回目にモデルナ社RNAワクチンを接種した場合は、感染予防効果は73.9%で接種後9週目に64.4%に低下すると報告されています。また、モデルナ社RNAワクチンを2回接種し、3回目にファイザー社RNAワクチンを接種した場合の感染予防効果は64.9%で接種後9週目も66.3%のようです。ファイザー社RNAワクチンとモデルナ社RNAワクチンの交互接種の方が感染予防効果は僅かに強く、長続きもするのかもしれません。同様な結果がアジアからも2022年2月16日に報告されています(Hart JD, Lancet Regional Health 2022, 2/16)。オミクロン株に対する中和抗体の量は、3回目に同じワクチンを接種した場合は4.2~20倍増加し、3回目に異なったワクチンを接種した場合は6.2倍~72倍も増えると報告されています。

[93版への追記箇所]
 [BA.2株を含めた個人的意見のまとめ #2](2022年2月24日)
感染拡大に影響を与える要因:2020年から2021年末までの世界117カ国の新型コロナウィルスの感染状況のまとめが2022年2月1日に報告されました(COVID National Preparedness Collaborators, Lancet 2022, 2/1)。感染者は1000人中433人で、世界の4割以上の方が既に新型コロナウイルスに感染経験があり、世界的な集団免疫の獲得段階に入っているのかもしれません。日本の感染者は、1000人中67人で世界平均の「六分の一以下」に抑えられています。やはり、「思いやりのマスク文化」の浸透により新型コロナウィルス感染を非常にうまく抑制した国の一つと言えると思います。感染拡大に最も影響した因子は「季節」で、世界的にみても冬場に大規模感染拡大が多いようです。「高度(海抜)」も関与していて、高地で感染拡大が起こりやすく、湿度の関与の可能性が報告されています。乾燥していれば感染拡大を起こしやすいのかもしれません。また、国内総生産(GDP)も関与しており、経済大国でのワクチンの早期接種が感染拡大抑制に貢献しているようです。また、家屋の距離も感染拡大に影響を与えているようです。つまり、感染者の増減には、「季節」、「ワクチン接種率」、「人口密度」が深く関与し、都市封鎖などの行動制限の意味はあまりないのかもしれません。

都市封鎖(ロックダウン)の新型コロナウィルス感染拡大抑制効果について、英国インペリアル大学からヨーロッパで310万人の命が救える可能性がパンデミックの当初に報告されていました。しかし、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、スペイン、アメリカ、韓国、スエーデンを対象とした調査において、異なる結果が2022年1月5日に米国スタンフォード大学から報告されました(J Battacharya, European Journal of Clinical Investigation 2022, 1/5)。新型コロナウィルス感染拡大の抑制には、「都市封鎖」は効果がなく、「ソーシャルディスタンス」と「旅行等の移動制限」が有効な可能性が報告されています。マスク着用に関しては、義務化されていた国でさえ、着用しない人の割合に大きな地域差があるため、今回の調査対象にはなっていません。しかし、マスク着用による感染拡大の抑制効果は、多くの疫学的調査により科学的根拠が既に示めされています(「36. マスク文化は?」の章参照)。事実、このような科学的根拠に基づき、多くの国では「罰則を伴うマスク着用の義務化」が導入されていました。

新型コロナウィルスのパンデミックで多くの欧米諸国が都市封鎖を行うなか、スエーデンは都市封鎖を行わず世界から批判の的になった事は記憶に新しいと思います。よって、スエーデンの感染状況を確認してみました。パンデミック早期(2020年6月9日)のスエーデンの人口あたりの新型コロナウィルス感染による死者数は、ベルギー、イギリス、スペイン、イタリアに次いで世界で5番目に多い状態でした。しかし、2022年2022年2月17日時点では30番目以下まで順位を下げています。新型コロナウィルスの感染拡大は人口密度などにも依存するため、スエーデンの人口1020万人に近い、都市封鎖を行ったヨーロッパ諸国と比較してみました。2022年2月17日までに人口1万人あたりの累積死者数が少ない順に、スイス14.9人、スエーデン16.5人、ポルトガル20.3人、ギリシャ24.2人、ベルギー25.6人、ハンガリー44.5人です。また、人口がスエーデンより多い国の人口1万人あたりの累積死者数は、ドイツ14.4人、スペイン20.8人、フランス20.8人、イギリス23.5人、イタリア25.2人です。よって、民主主義国家において、都市封鎖による死者の抑制効果は懐疑的かもしれません。

都市封鎖でさえ感染拡大の抑制効果は不明瞭なため、「まん延防止等重点措置」の効果については疑問が出るのかもしれません。よって、「まん延防止等重点措置」が2022年1月21日に発令された岐阜県、2022年1月27日に発令された大阪府、兵庫県、京都府、さらに「まん延防止等重点措置」の発令を政府に要請されなかった奈良県と滋賀県の関西圏での感染状況の推移をみてみました。

 

岐阜県の、まん防が発令された1月21日の新規感染者数は577人で、2月15日に1,234人(2.14倍増加)とピークに達し、まん防発令時よりも少ない感染者数まで減少したのは2月21日の542人です。

大阪府の、まん防が発令された1月27日の新規感染者数は9,711人で、2月8日に20,609人(2.12倍増加)とピークに達し、まん防発令時よりも少ない感染者数まで減少したのは2月20日の8,400人です。

兵庫県の、まん防が発令された1月27日の新規感染者数は4,380人で、2月10日に6,577人(1.50倍増加)とピークに達し、まん防発令時よりも少ない感染者数まで減少したのは2月20日の4,350人です。

京都府の、まん防が発令された1月27日の新規感染者数は1,728人で、2月9日に2,996人(1.73倍増加)とピークに達し、まん防発令時よりも少ない感染者数まで減少したのは2月21日の1,386人です。

まん防が発令されなかった奈良県の、1月27日の新規感染者数は950人で、2月9日に1,595人(1.68倍増加)とピークに達し、まん防発令時よりも少ない感染者数まで減少したのは2月21日の928人です。

同じく、まん防が発令されなかった滋賀県の、1月27日の新規感染者数は763人で、2月8日に1,389人(1.32倍増加)とピークに達し、まん防発令時よりも少ない感染者数まで減少したのは2月21日の728人です。

まん防発令の有無に関わらず、これら関西圏の府県では新規感染者数は2月10日前後にピークに達し、2月20日ごろ同時に大きな減少を認めています。さらに、全ての府県で2月21日から再度の新規感染者の増加傾向を認めています。2月17日頃から寒波が到来し、関西圏でも最低気温が氷点下をしたまわる日が続いています。気温の急激な低下が、まん防発令の有無に関わらず新規感染者の再増加をもたらした可能性があるのかもしれません。つまり、感染拡大抑制は「まん防」よりも「季節性因子」に依存していると考えるのが科学的に妥当と思います。ただし、関西圏の感染者の再度の増加傾向には、BA.1株から更に変異したステルスオミクロン株とも呼ばれるBA.2株への置き換わりが起こり始めた可能性も否定はできませんので、注意は必要です。

まん防などの行動制限には、少なくとも以下に示すような多くの不利益が伴います(「新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは」の章の「公共対策(外出規制の影響、自殺者数など)」と「長期間の行動制限による健康被害」を参照)。

  1. 自殺者や家庭内暴力などの増加
  2. 早期発見の遅れに伴うガンによる死者の増加
  3. 運動不足によるメタボの増加が導く心筋梗塞や脳梗塞による死者の増加
  4. 免疫の訓練不足による自己免疫疾患やアレルギー疾患の増加と、他の感染症(例えば、今年度の季節性インフルエンザ)による死者の増加
  5. 子供達の記憶に残る貴重な体験(修学旅行、卒業式・入学式、発表会等)の喪失
  6. 日本の未来を担う子供達への計り知れない肉体的・精神的悪影響
  7. 経済活動の低迷
  8. 国家財政への多大な負担

 

関西圏の結果は、「まん延防止等重点措置」の感染拡大抑制効果に疑問を発せられた奈良県の荒井知事が正しい事を示しているのかもしれません。また、過度な行動制限は多くの計り知れない副作用を起こしてきます。「失う必要のない多くの命を数年後に失わない」ため、「将来の日本を担う子供達や若者達に多くの負の遺産を残さない」ためにも、「まん延防止等重点措置」から「FOCUSED PROTECTIN」対策(以下参照)への早期の変更を切に願っています。

重症化に影響を与える主要因:2020年と2021年の世界117カ国の新型コロナウィルスの感染状況のまとめでは(COVID National Preparedness Collaborators, Lancet 2022, 2/1)、新型コロナウィルス感染による重症者が多いのは、「高齢者の多い国」または「肥満者の多い国」と報告されています。BMIが10%増えれば、新型コロナウィルス感染による死亡率は17.4%も増えるようです。世界における、デルタ株以前の新型コロナウィルス感染による死者は、1,000人の感染者のうち3.4人で、死亡率は「0.34%」の計算になります。世界一の高齢化社会である日本では、やはり死亡率は世界の平均を上回り「0.7%」と報告されています。事実、厚生労働省の報告では、2022年2月15日時点の日本の新型コロナウィルス感染による死者数は20,419人で、そのうち80歳以上が12,088人、70歳代が4,588人です。日本で新型コロナウイルス感染により亡くなられた方の81.7%は、70歳以上の計算になります。また、高齢者のうちでも「日常生活に補助を必要」とする、臨床的フレイルスコアが「中等度以上」の方に死者が多い事も既に報告されています(Sablerolles RSG, Lancet Health Longevity, 2021, 2/9)。つまり、2020年早期より推奨されていた「FOCUSED PROTECTION」(「41. 高齢者保護とFOCUSED PROTECTIONは?」の章の「FOCUSED PROTECTION」参照)、すなわち「社会活動は通常に戻し、介護が必要な後期高齢者のワクチンの3回目接種と介護関連従事者の公費による頻回な検査」がオミクロン株に対して最も効果的かつ合理的な対策かもしれません。事実、米国疾病対策予防センター(CDC)では、ホームページ上に高齢者施設でのワクチン3回目接種率を毎日更新されて国民に示されています。

これまで世界で蓄積された結果は、感染拡大に影響を与える5大因子は「季節」、「海抜」、「人口密度」、「マスク着用」、「ワクチン接種率」のようです。また、死につながる重症化に影響を与える重大因子は、「高齢」と「肥満」である事も世界的にコンセンサスが得られていると思います。これらの基本情報に基づく、科学的かつ合理的な対応こそが、オミクロン株に対する最善策と個人的には強く信じています。自然の力で感染拡大を抑制してくれる季節に入ってきます。また、高齢者のワクチン3回接種率も日々増え始めています。今こそ、「FOCUSED PROTECTION」に主眼を置き、オミクロン株(BA.1株とBA.2株)を季節性インフルエンザと同様に扱う「絶好のタイミング」と個人的は思います。

ステルスオミクロン株(BA.2株):感染拡大を抑制する理由として、新型コロナウィルスの新たな変異株が出て来る可能性を最低限に抑えるためとの意見があります。変異が全て悪い方向に働けば正しい意見かもしれませんが、ウィルスは人類との共存のために変異を繰り返します(「35. 変異したウイルスの末路は」の章参照)。つまり、感染力は強くなっても毒性は弱くなり、変異が必ずしも悪い訳ではありません。事実、新型コロナウィルスの毒性(致死率)は、アルファ株、デルタ波、オミクロン株と弱くなって来ています。新型コロナウィルスの遺伝子変異の経過からも、毒性の強い変異株が、毒性が弱まりながら感染力が強い新たな変異株に淘汰され、さらに毒性が弱まり感染力がさらに強くなった次の変異株に淘汰されている事が、科学的に示されています(Vohringer HS, Nature 2021, 10/14)。毒性の強い変異株が突然出現する可能性は否定はできませんが、その可能性を怖がれば「キリが無く」、今の状況を永遠に続けるしかありません。日本の財政破綻が起こる事は火を見るよりも明らかです。

既存のオミクロン株(BA.1)が更に変異した「BA.2株」が世界的に蔓延しています。デンマークの国家血清研究所STATENS SERUM INSTITUTEの2022年1月20日の報告によると、オミクロン株(BA.1)の特徴であるスパイク領域の69番目と70番目のアミノ酸の欠失が、BA.2では認められないようです。これにより、オミクロン株用の既存のPCR法では検出できない時期があり、「ステルスオミクロン」とも呼ばれたようです。潜伏期間がBA.1株の3.27日から、BA.2株では2.68日と更に短くなっており、BA.2株の感染力はBA.1株よりも18~30%強くなった可能性があるようです。事実、デンマークではBA.2株の蔓延が2021年12月からはじまり、2022年1月21時点にはBA.1株に既に置き換わり、感染者の66%以上に検出されています。また、家庭内感染がBA.1株の29%からBA.2株では39%へと増加を認めているようです。

しかし、BA.2株を過度に恐れる必要はないと思います。デンマークの国家血清研究所STATENS SERUM INSTITUTEは2022年1月20日に「BA.1株とBA.2株の入院率に変化は認めない」と報告されています。デンマークは強固な新型コロナウィルス感染対策で知られる国であり、過去に新規感染者数がピークに達したのは、2020年12月19日の3,285人で、死者数は2021年1月15日の60人に留まっています。しかし、デンマークでは2021年12月からBA.2株が蔓延を始め、新規感染者数が2022年2月11日には48,170人まで達していますが、死者数が最多に達したのは2月22日の34人です。つまり、BA.2株はアルファ株以前の旧型変異株より感染力は14.6倍も強くなりながら、毒性は15.7倍以上も弱くなった計算になります。つまり、季節性インフルエンザよりも危険性は低いため、BA.2株の感染者が増加傾向にありながら、デンマークでは、2022年2月1日に全ての規制を解除されています。また、アメリカでも2022年2月12日時点でBA.2株は3.9%まで広がりをみせています。しかし、アメリカCDCは「Luckliy, BA.2 does not seem to cause more severe disease」、つまり「幸運な事に、BA.2株がこれまで以上の重篤な病気を引き起こす事はないようだ」と2022年2月12日に声明を出されています

BA.2株は2022年2月16日時点で、日本を含む世界74か国に既に蔓延しており、旧型オミクロンBA.1株に置き換わる可能性が想定されます。それにも関わらず、2022年2月22日時点で、私の知る限りでもデンマーク、オーストリア、フランス、スイス、イギリス、タイなど多くの国々で、ワクチン接種を完了して所定の条件を満たせば、隔離不要で入国できる大幅な入国制限の緩和や解除に進まれています。デンマークで蔓延している新型コロナウィルスの2/3以上はBA.2株です。また、デンマークやオーストリアは水際対策を含め新型コロナウィルス感染対策のための規制が非常に厳しい国として知られていました。それにも関わらず、両国ともワクチン接種完了者の入国制限を解除されました。「BA.2株を含むオミクロン株を特別な感染症としては扱わない」そして「ワクチン接種終了が最も効果的な感染予防対策」という明らかなメッセージと思います。

将来の日本を考え、岸田総理が入国制限の緩和を表明されています。世界に取り残されないために非常に重要な判断と思います。冬季オリンピック選手たちが示してくれたように、海外のライバル達との切磋琢磨により技術が進歩し、さらに技の進化も遂げてきます。国際交流の停滞が続けば、様々な分野の進歩はなくなり技術力の衰退をもたらし日本経済にも大打撃が起こりかねません。また、日本で現在用いられている、新型コロナウイルスのワクチンはアメリカ製かイギリス製です。また、治療に用いられている2種類の経口の抗ウイルス薬もアメリカ製です。日本での新型コロナウイルス感染による死者の減少に計り知れない貢献をもたらしてくれている、これら全ての医薬品は輸入に頼っています。ヒトの命を救うためにも国際交流が重要である事を教えてくれています。また、ウイルスの変異はどこでも起こりえます。海外からの変異株の流入を水際で防いだとしても、日本国内で新たな変異株が生まれる可能性があります。多くの国々に見習い、鎖国でもたらさられる利益と不利益のバランスを冷静に判断し、ワクチン接種終了者に対する入国制限解除も考える時期にはいっているのかもしれません。

 

 

 [92版への追記箇所]
[オミクロン株に関する個人的意見のまとめ](2022年2月16日)
感染症の現実:殆どの方は一度は季節性インフルエンザのワクチンを接種されていると思いますが、季節性インフルエンザの感染経験が無い方はいらっしゃらないと思います。高熱が数日続き身体中が痛く苦しまれた方も多いと思います。しかし、多くの方は重症化せずに回復されています。これが、まさに変異を繰り返すウイルスに対する「ワクチンの真の目的」であり、感染はしても重症化を防いでくれています。これにより、季節性インフルエンザの感染者が日本で例年1,000万人以上に達しながらも、死者は3,000人強に抑えられ、社会活動に大きな支障を起こしていません。残念ながら、新型コロナウイルスのように共存が必要なウイルスに一生涯感染せずに過ごす事は不可能です。言葉は悪いですが、共存が必要なウイルスが出現すると「サバイバルゲーム」が始まります。人類全員が感染またはワクチンにより免疫を持つまでは終息はなく、感染に負けた方は亡くなり、打ち勝った方は生存していくことになります。過去の代表例は「スペイン風邪」です。スペイン風邪のパンデミックにより、日本では1918年~1919年に257,363人が亡くなられています。しかし、死者数は1919年~1920年に127,666人と半減し、1920年~1921年には3,698人にまで減少しています。この様な膨大な死者に至る悲劇を最小限に抑えてくれるのがワクチンです。海外の報告では、オミクロン株の重症化率はワクチン接種者に比べてワクチン未接種者では16倍以上も高くなる計算になります(「日本のオミクロン株の現状」の章参照)。重症化リスクの高い、高齢者、肥満者(BMIが25以上の軽度肥満者も含む)、基礎疾患のある方などは副反応を恐れず命を守るために早期に3回目接種を受けられる事をお勧めします。

初対面のウイルスに対しては免疫軍も苦戦を強いられます。よって、免疫力が強い若者でさえ足元をすくわれ重症化してしまう危険性を秘めています。ワクチンは、免疫軍に敵の顔を覚えさせながらスパーリング練習を施してくれるため、初対面のウイルスに対しても足元をすくわれる危険性が非常に低くなります。変異する事がウイルスの特徴であり、免疫軍もワクチンで習得した戦い方を時間が経てば忘れてしまいます。よって、ワクチンを接種しても時が経てば再び変異したウイルスに感染してしまいます。しかし、免疫軍、特にT細胞部隊は頼もしい限りです(「19. 再感染の交叉免疫」の章参照)。再度感染してしまっても、「昔取った杵柄」で免疫軍は戦い方をすぐに思い出します。思い出すのに少し時間がかかるため、高熱などの症状は出るかもしれませんが重症化に至る前にウイルスを撃退してくれます。この再感染により強力な免疫が再びよみがえります。例えば、季節性インフルエンザでは、ワクチン接種で重症化は回避できても、いつかは感染してしまいます。しかし、重症化せずに回復し、再び季節性インフルエンザに対する強力な免疫がよみがえり、その免疫が時と共に低下すると再び感染する「数年に一度の再感染」つまり「いたちごっこ」を繰り返します。免疫力が維持された若者では再感染により季節性インフルエンザに対する免疫力がよみがえりますが、高齢者では、そうは問屋が卸しません。加齢に伴い免疫力が低下するため、季節性インフルエンザの感染により免疫を蘇らせる事は自殺行為です。季節性インフルエンザに対する免疫をよみがえらせるどころか、そのまま死につながる危険性も秘めています。よって、高齢者ではワクチンによる免疫軍のスパーリング練習が毎年必要になります。つまり、最初にワクチン接種を受けて、季節性インフルエンザとの戦い方を伝授され、その後は数年おきに感染を繰り返すか、またはワクチン接種により免疫軍の訓練を続けて、季節性インフルエンザと共存していきます。毎年3,000人強の死者を出す季節性インフルエンザに対して避けられない現実であり、誰も止める事はできません。

 

都道府県の結果から考える「オミクロン株の怖さ」そして「検査やワクチンの重症化予防効果」:ワクチンが重症化予防に効果を発揮しているかを確認するため、日本集中治療学会が毎日更新されている各都道府県別の「人工呼吸器(ECMO含む)を装置された感染者数」と政府CIポータルに示されている2022年2月13日時点の「ワクチン2回接種率」を比較してみました。第5波(デルタ株)以前に1日あたりの人工呼吸器装置者数が25人を超えた都道府県を比較しています。人工呼吸器装着数が最多を記録したのは、大阪府で2021年4月24日(アルファ株)で284人に達しています。オミクロン株の第6波では2022年2月14日に129人に達していますが、アルファ株の時に比べて45%まで減少しています。東京都では2021年8月26日(デルタ株)で243人に達していますが、オミクロン株の第6波では2022年2月14日の38人が最多です。人工呼吸器装着が必要な重症者数は、以前に比べて16%まで大幅な減少を認めています。オミクロン株は感染力が強いため日本の1日あたりの新型感染者数は2022年2月3日に104,462人とピークに達しています。デルタ株の新型感染者数のピークは2021年8月19日の25,348人ですから、オミクロン株はデルタ株よりも4倍も感染力が強い計算になります。それにも関わらず、殆どの都道府県では、1日あたりの人工呼吸器装着者数は「5分の1以上も減少」しています。これまで世界で蓄積された結果と同様に(「オミクロン株(2022年1月11日時点)」の章の「歴史と世界から学ぶ」を参照)、日本においても「オミクロン株は感染力は強くとも、ワクチン接種を受けている人に対しての毒性(重症化や死に至る危険性)は20分の1まで弱くなった」と考えて良いと個人的には思います。

 

事実、殆どの都道府県では第4波(アルファ株)と第5波(デルタ株)に比べて、第6波(オミクロン株)の人工呼吸器装着者数は8%~16%へと大きく減少しています。減少率が最も少ないのは大阪府の45%、次が沖縄県の26%です。また大阪府と沖縄県の特徴はワクチン接種率の低さです。全国でワクチン2回接種率が最も低いのは沖縄県で65.89%、大阪府は5番目に低く71.87%です。逆に、全国で人口あたりの検査数が最も多いのは大阪府で5,769/1万人、沖縄県は3番目に多く3,929/1万人です。「検査数を増やすよりワクチン接種率を上げる方」がより効果的に重症者さらには死者の減少に貢献できる事を教えてくれている結果かもしれません。

オミクロン株と季節性インフルエンザ比較:勿論、オミクロン株が季節性インフルエンザウイルスより怖ければ話は違ってきます。しかし、世界中で蓄積された結果から、オミクロン株が季節性インフルエンザより怖い(重症化や死に至らしめる危険性)という科学的根拠を見つける事は難しいと思います。事実、2022年2月10日時点で、私が知る限りでさえデンマーク、イギリス、フランス、オランダ、イタリア、スペイン、スイス、アイルランド、スエーデン、アイスランド、ノルウェー、アメリカ、インドといった多くの国が規制解除や緩和に向かわれています。

 

例えば、デンマーク(人口583万人)では2022年2月2日の「オミクロン株(BA.1)」と「ステルスオミクロンとも称される亜系であるBA.2株」の株新規感染者数は55,001人に達しながらも2022年2月1日に「規制は全て解除」されています。日本でオミクロン株の新規感染者数が最多に達したのは2022年2月3日の104,469人です。人口あたりに換算すると、デンマークでは日本の約11.7倍の新規感染者が出ても、オミクロン株を季節性インフルエンザと同様に扱われていることになります。また、イギリス(人口6,788万人)でオミクロン株の新規感染者数が最多に達したのは2022年1月4日の221,222人で、2月2日の死者数は534人に達しています。人口あたりに換算すると、日本に比べてイギリスではオミクロン株の新規感染者数は約3.7倍多く、死者は約5.9倍も多い計算になります。それでも、イギリスでは2022年1月24日に規制は解除され、2月8日には感染者の自主隔離も1か月以内に撤廃する方針を示されました。科学的根拠に基づき多くの国が「オミクロン株を特別な感染症として扱わない」と判断された結果と思います。また、日本よりオミクロン株の感染者や死者数が断然多いデンマークやイギリスでは医療逼迫は起こっていません。「医療大国と呼ばれる日本で、何故海外より断然少ない感染者数や死者数で医療逼迫を起こす危険性がでるのか?」を、将来を見据えて冷静に考える必要があるのかもしれません。

2022年2月2日の厚生労働省アドバイザリーボード(AB)の報告によると、デルタ株の重症化率は60歳以上で5.0%、60歳未満で0.56%でしたが、オミクロン株では60歳以上が1.45%、60歳未満が0.04%まで低下しています。また、デルタ株の死亡率は60歳以上で2.5%、60歳未満で0.08%でしたが、オミクロン株では60歳以上が0.96%、60歳未満が0%まで低下しているようです。オミクロン株による死者数には、オミクロン株感染により基礎疾患が悪化して亡くなった方が多く含まれます。本ホームページで季節性インフルエンザの死者数は毎年3,000人強と記述していますが、この数値は人口動態統計に示された季節性インフルエンザウイルス感染が直接死の原因(直接死因)になった方です。つまり、季節性インフルエンザウイルスによる肺炎や髄膜炎が原因でなくなった方の数で、感染により基礎疾患が悪化して亡くなった方は含まれていません。厚生労働省の報告によると、季節性インフルエンザ感染により基礎疾患が悪化して亡くなった方も含むと、死者数は例年10,000人と推定されています。つまり、12月から2月までの僅か3か月間に、季節性インフルエンザに感染された10,000人が亡くなっています。直接死因と間接死因を含めても、オミクロン株流行期間に累積死者数が10,000人を超える可能性は非常に低いと個人的には信じています。

オミクロン株と市中肺炎の比較:加齢に伴い免疫力は低下し、過度に低下すると「日和見感染」つまり普通では何も起こらない微生物に対してでさえ死に至る重症化を起こしてしまいます。例えば、食べ物や唾を誤嚥して咳こんだ経験がある方は多いと思います。この誤嚥でも、口の中にいる常在細菌が肺に持ち込まれてしまい後期高齢者では「誤嚥性肺炎」と呼ばれる命に関わる肺炎を起こす事があります。誤嚥性肺炎により、日本で毎年3万人以上の命が奪われています。また、「1日あたりの死者数が261人に達し、365日間も続いています」という報道を見れば「一大事だ!」と思われるかもしれません。日常生活において我々は様々な弱い病原体に常に暴露しています。通常は大した事がない病原体でも免疫力が弱っていれば「市中肺炎」と呼ばれる肺炎を起こします。2019年の市中肺炎による日本の死者数は95,518人です。この死者数を365日で割った値が上記の「261人」です。オミクロン株による毎日の死者数を見て怖いと思われる方も多いと思いますが、多くの尊い命が新型コロナウィルス以外の病原体により、これまでも日本で毎年奪われています。これが避けようのない現実である事をご理解頂ければ幸いです。

 


平均寿命:市中肺炎の死者に新型コロナウィルスによる死者が加われば医療も逼迫して社会的大問題かもしれません。しかし、日本国民の「思いやりのマスク着用」により、市中肺炎は劇的に減っています。市中肺炎による死者数は2019年の95,518人から新型コロナウィルスのパンデミックが始まった2020年には78,445人と大きく減少しています。2022年2月13日まで2年間の新型コロナウィルス感染による日本の死者の累計は20,237人です。1年で10,119人の計算になります。つまり、市中肺炎による死者数の減少「17,073人(95,518人 – 78,445人)」は、新型コロナウィルス感染によ死者数を上回ります。この結果は、日本の平均寿命に反映されています。新型コロナウィルスのパンデミックにより死者が爆発的に増えたため世界中の国で2020年の平均寿命は短くなっています。しかし、厚生労働者発表の簡易生命表によると、2019年に比べた2020年の日本人の平均寿命は男性が「0.23年」、女性で「0.29年」長くなっています。また、新型コロナウイルスの死者は高齢者に集中するにも関わらず、70歳以上の平均余命も0.2年長くなっています。事実、簡易生命表の死因別寄与年数によると、2020年度の平均寿命の伸びに貢献した最大の因子は「肺炎による死者の減少」です。

 

悪い兆し:過度な行動制限は、計り知れない副作用をもたらす事は世界で蓄積された結果からも明らかです。新型コロナウイルス感染で失う命の数倍、下手をすれば数十倍もの「失う必要のない命」を数年後に失う危険性を秘めています(40.「新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは?」の章の「長期間の行動制限による健康被害」を参照)。事実、その兆しが見え始めてきたのかもしれません。厚生労働省の人口動態統計速報によると、2019年に比べ、新型コロナウイルスのパンデミックが始まった2020年度の各月の死者数の変動は新型コロナウイルス流行の波に一致してわずかに増えています。しかし、2019年に比べて、2020年に死者数が増えた月は4月(100.4%)、8月(100.1%)、10月(103.3%)、12月(104.7%)の4か月です。一方、2021年の速報値は10月まで出ていますが、1月(99.7%)と2月(99.9%)を除き3月以降は新型コロナウイルス流行の波とは関係なく安定した増加が続いています。3月は103.6%、4月は104.6%、5月は105.7%、6月は106.2%、7月は105.3%、8月は105.7%、9月が107.0%、10月は105.7%です。2021年はアルファ株の流行で多くの死者を出したため平均寿命が短くなる事が予測されます。しかし、ここで大きな懸念が出てきます。厚生労働省発表の人口動態統計によると2019年の日本の死者数はガンが「389,867人」、心筋梗塞などの心疾患が「207,714人」、脳梗塞などの脳血管障害が「106,552人」、自殺が「19,425人」です。これらは、過度な行動制限により増加する事が報告されている死因です。新型コロナウィルス感染による2年間の累積死者数は20,758人(2022年2月15日時点)で、1年間のガン、心筋梗塞、脳梗塞、自殺による死者数の2.8%にしか達しません。つまり、新型コロナウイルスでは各月の5%以上の死者の増加は説明できません。また、感染症による死者の増加には「季節性」や「新型コロナウィルスでは周期性」が認められますが、2021年3月以降の死者数の増加に周期性は認められません。つまり、新型コロナウィルス感染以外が原因となった死者が2021年から増え始めていると考えるのが科学的に妥当と思います。事実、簡易生命表の死因別寄与年数によると、平均寿命が延びた2020年でさえ平均寿命の短縮に働いた因子があります。「老衰」、「新型コロナウィルス感染」、「自殺」による死者の増加です。この中で、女性の平均寿命を下げる方向に最も強く働いた因子は「自殺」です。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life20/dl/life18-02.pdf

 

 

良い兆し:様々な因子を考慮した数理解析モデルにより、「子供達の重症化が起こらなければ、新型コロナウイルスは数年後には夏風邪程度の感染症になる」可能性が2021年1月に報告されています(Lavine JS, Science 2021, 1/21)。2022年2月8日の厚生労働省の報告によると、10歳未満の新型コロナウイルスの累積感染者数は308,947人に達していますが、これまで重症者は6人で死者はありません。季節性インフルエンザでも2009年には10歳未満の457人が脳症による重症化を認め、33人の幼い命が奪われています。また、RSウイルスは日本人の殆どが乳幼児期に感染経験をもつ風土病ですが、国立感染症研究所の報告によると平均して毎年31.4人の死者を出しています。すなわち、基礎疾患(肥満、糖尿病、血液疾患、ダウン症候群等)がない子供達にとって、「新型コロナウイルスは季節性インフルエンザやRSウイルスよりも怖くない」と考えて良いと思います。新型コロナウイルス感染で重症化を起こし易い高齢者のワクチンの3回目接種が終了すれば、新型コロナウイルスは夏風邪程度の風土病になってくれることを期待しています。

検査:感染拡大を抑制するためには「必要な方が必要な時に頻回に受ける検査体制」や「受けたくない方に、無理やり受けさせる検査体制」が有効な事は既に多く報告されてます(「17. PCRは?」の章の「PCRで感染拡大を防ぐ方法」を参照)。一方、「受けたい方が受ける検査」では「誤った安心を与えるだけで、感染拡大を助長してしまう」危険性も報告されています(Rennert L, Lancet Child & Adolescent Health, 2021, 3/19)。PCR検査でさえ約10%は「偽陰性」、すなわち、感染者の10人に1人は陰性と判断され見逃されます。例えば、検査を受けて「陰性」と判断されパーティーに参加したとします。「陰性だったけど1割の確率で感染している可能性は残っている」からと、マスクを着用し友達と距離をとって会話すれば問題はないと思います。しかし、多くの方は「陰性だから大丈夫」との安心感から、マスク無しでの大騒ぎに発展してしまう可能性が高いと思います。すなわち、「安心・安全」のはずが「多くの友達を感染させクラスターを作りだすスパースプレッダー」となる可能性もでてきます。また、検査キットが不足すると、陽性であっても陰性とでてしまうような粗悪品も市場に出回り始めます。これにより、「安心・安全のはずが、感染拡大を更に助長する」といった悪循環に陥ってしまう可能性を秘めてきます。

検査の拡充により新型コロナウイルスの感染拡大を抑制する事の難しさは世界の多くの国々が既に教えてくれています。例えば、2022年2月2日のCNN Newsによると、海外からの北京冬季オリンピック関係者に67人の新型コロナウイルス陽性者が見つかっています。そのうち、入国検査をすりぬけ、バブル内での生活中に陽性が確認された関係者は13人のようです。中国の検査体制をもってしても19%の感染者(陽性者)が水際で見逃された計算になります。デンマークは世界の中でも人口あたりのPCR検査数が多い国として知られています。ロイターの報告によると100万人あたりの検査数は「26,512」で、日本の「1,693」の15倍以上です。しかし、第1波、2波、3波の感染拡大は抑えられても、2022年2月には人口あたりの新規感染者数は日本の11.7倍まで達しています。また、感染者数と死者数どちらも日本よりはるかに多いアメリカ、イギリス、イタリア、フランスなど多くの国々の人口あたりの検査数は日本よりはるかに多いのも事実です。

日本でも同様の傾向が認められます。2022年2月8日時点の各都道府県のホームページを見ると、1万人あたりの検査数は大阪府が最多で5,769です。東京都が4,130、福岡県が3,519、愛知県が2,529、神奈川県が2,456の計算になります。また、人口あたりの新型コロナウイルス感染による死者数が多いのも大阪府で3.68人です。東京都は2.55人、福岡県が1.34人、愛知県が1.72人、神奈川県が1.56人です。最も検査数が多いのも大阪府で、死者数が最も多いのも大阪府です。検査数を増やしたからといって、新型コロナウイルスの感染抑制に歯止めがかからない事を教えてくれているのかもしれません。むやみやたらに検査するのでなく「季節性インフルエンザのように症状がでた方がクリニックを受診し抗原検査をうける」、「新型コロナウイルスの重症化を起こし易い方が集まる高齢施設などへの重点的検査」、「病院でのクラスター予防のための入院時や手術前の検査」など「必要な方が、必要な時に受ける検査体制」が新型コロナウイルスに対しては感染予防とコストのどちらの視点からも効率的と個人的には思います。

検査で安心せず「自分は元気だけど感染しているかもしれない」と常に思い、おもいやりのマスク着用に心がけ、高齢者など重症化リスクが高い方に接する時は、特に注意をはらい「うつさない」を心がける。人との距離を保ち、換気に心がけ、手洗い・うがいは忘れずに、自分自身を感染から守るための「うつらない」に心がける。もし感染しても無症状や軽症で済むように、ワクチンを接種し、睡眠を充分とり、深酒を避け、バランスのとれた食生活と毎日の軽い運動に心がける。他の感染症と同じく、オミクロン株への対策は、これ以上もこれ以下もないのかもしれません。つまり、どのような感染症に対しても対策は同じと言うことです。

また、感染症はウィルスなどの病原体と免疫軍の戦いです。敵であるウィルスの数が少なければ少ないほど免疫軍が優位にたてます。新型コロナウイスは飛沫に多く含まれるため、多くの敵に暴露してしまう可能性が高い「長時間の屋内での接触」、「大声」、「ハーハーいうような荒い呼吸」には注意が必要です。また、大声を出す必要がある時は、口の中に溜まった新型コロナウイルスの量をできるだけ少なくするため、抗ウイルス作用のあるうがい薬で口をすすぐと有効かもしれません。ただし、うがいは飛沫を飛ばす可能性が高いため、あくまでも口の中でクチュクチュするリンス程度です。

独り言:昨年までは新型コロナウイルスに関する新たな報告が世界的権威のある医学誌に毎日のように多数報告され、その内容をこの「おなかの免疫から考える、新型コロナウイルスに打ち勝つための独り言」にご紹介するだけで、既に280ページを超えてしまいました。しかし、最近は論文数も激減し、新たな概念につながる報告も減っています。すなわち、新型コロナウイルスさらにオミクロン株に対して多くの事が既に解明されている証であり、「感情ではなく科学的に判断できる」フェーズに既に入っていると言っても過言ではありません。各国が既に行っているように、「重症化のリスクの高い方へのワクチンの3回目接種を加速させ」そして「オミクロン株を季節性インフルエンザと同等に早期に扱う」事こそが将来を見据えた最善策と個人的には信じています。

海外に比べて日本は以下に示すような多くの優位性をもちます。事実、2022年2月16日時点の欧米や南米諸国の新型コロナウイルス感染による累積死者数は日本の約18倍です。

1.「思いやりのマスク文化」により新型コロナウイルスの感染拡大を抑制しやすい。

2. 重症化の要因の一つである肥満者が少ない。

3. 結核(BCG)やEBウイルス感染など未だ明らかとなっていない「X-ファクター」により重症化から守られている。

4. 運悪く人工呼吸器装着が必要となる重症化に至っても、救命率80%以上を誇る世界一頼りになる救命救急の医師達が最後の砦として控えてくれている。

この日本の優位性に加えて

5. 2022年2月16日時点のワクチンの2回目接種率は、全人口の79%で、65歳以上では92.3%に達している。

6. 89%の重症化予防効果が報告されている経口の抗ウイルス薬である「パクスロビド」が既に使用可能である。

そのうえ、これまでの変異株に比べて、オミクロン株の毒性が弱いのも事実です。今こそ、「オミクロン株を季節性インフルエンザと同様に扱う時」と心から思います。

季節性インフルエンザと同じく封じ込めができない新型コロナウイルスに対して「ゼロリスク」を求めれば結果は火を見るよりあきらかです。「何故あの時あんな対応をとったんだ?」、「あの時、将来を見据えた対応をとれば、新型コロナウイルス感染で亡くなった命の、数倍さらには数十倍もの命を失わずに済んだのに?」、「あの時、感情ではなく科学的に判断すれば、日本の経済がこんなに低迷する事はなかったのに?」と数年後には言われないように「感情ではなく科学的根拠に基づく最善策」の選択が必要と個人的には思います。

 

 [91版への追記箇所]
[科学的にみるオミクロン株](2022年1月26日時点)
重症者基準:日本の2022年1月24日の新規感染者数は44,810人で重症者数は439人と報告されています。しかし、2022年1月24日時点の新規感染者数/日が1,000人を超えている都道府県のホームページを見ると重症者数に疑問が生まれます。2022年1月24日に新規感染者数が1,000人を超えたのは、北海道、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、愛知県、静岡県、大阪府、兵庫県、京都府、広島県、福岡県です。これらの都道府県と早期に「蔓延防止等重点措置」が発令された沖縄県の新規感染者数をたすと「35,137人」と、全国の感染者数「44,810人」の78.4%を占めています。しかし、これら12都道府県のホームページに示された重症者数の総数は「87人」と全国の重症者数「439人」とは約5倍もかけ離れた数値になります。

日本集中治療学会では「ECMOを含む人工呼吸器装置者数」を毎日更新され非常に貴重な情報を提供されているので確認してみました。日本の2022年1月24日時点での「ECMOを含む人工呼吸器装置者数」は75人で、各都道府県のホームページに示された重症者の総数87人と類似します。よって、感染者数が1,000人を越えている都道府県から報告された重症者は、医学的にも重症と判断できる人工呼吸器装置者と思います。「87人 対 439人」という大差は、「人工呼吸器の使用」、または「ECMOの使用」、または「ICU(集中治療室)での治療」という国の重症基準とは異なり、多くの都道府県が「ECMOを含む人工呼吸器装着者」のみを重症者の基準にしているためと考えられます。本ホームページで引用している世界的に権威のあるNew England Journal of Medicine, Lancet, Nature Medicine などの医学誌の論文では、人工呼吸器装着を重症者の基準として用いられています。「ICUでの治療」を基準にすると、一般病床の不足などの理由でICUで治療された中等症の感染者も含まれてしまい、客観的評価ができなくなります。事実、2022年1月24日の沖縄県のホームページには「重症は5人で中等症251人、国基準にすると重症は41人で中等症は215人」と報告されています。どちらの基準でも総数は256人(5 + 251 = 41 + 215) のため、国基準では36人もの中等症の感染者が重症として扱われ、重症者数を約8倍も増やしている計算になります。また、東京都のホームページによると「重症者は12人で、確保されている重症者用病床は510床、国基準にすると重症者は437人で、確保されている重症者用病床は1,468床」と報告されています。国基準に変えることで重症者用の確保病床数は510床から1,468床へと約3倍も増えています。人工呼吸器が装着可能な真の重症者用の病床は510床で12人が実際に治療を受けておられ、中等症に対応できる鼻からなどの酸素投与ができる病床は1,468床確保され437人の中等症の感染者が現在治療されていると考えるのが妥当かもしれません。この可能性が正しければ、重症者として報告されている人数のなかには、地域によっては多くの中等症の感染者が含まれている可能性は否定できません。「オミクロン株の怖さを正確に伝え、早期に通常の生活を取り戻す」ためにも、「日本の高度医療の質を世界に発信する」ためにも、世界的に用いられ既に多くの都道府県のホームページに示されている「客観的な重症基準」に統一する必要性があるのかもしれません。

世界と日本の感染拡大状況:世界的にオミクロン株感染拡大のピークアウト傾向を認め始めたようで、期待が持てる報告です。アメリカでは2022年1月10日の新規感染者数は1,433,977人に達しましたが1月23日には199,744人と約7倍の減少を認めています。イギリスでは2022年1月4日には218,705人に達しましたが、1月24日には94,397人に減少しています。イギリスでは1月24日時点でも、人口割合で計算すると日本の約4倍の新規感染者を出していますが、2022年1月24日にイギリス政府は規制を解除されました。イギリス公衆衛生庁(Public Health England, PHE)のホームページによると、人込みでのマスク着用は推奨されていますが、それ以外の場所、例えば学校の屋内でのマスク着用は解除されています。また、大規模イベントに参加するためのワクチンパスポートも必要ないようです。イギリスでは12歳以上の64.2%にブースター接種が終了してる点と、オミクロン株の重症化の少なさを考慮された結果と思います。日本でも早期からオミクロン株の感染拡大を認め2022年1月9日に「蔓延防止等重点措置」が発令された沖縄県、山口県、広島県の感染状況を調べてみました。沖縄県では1月9日の新規感染者数は1,533人で、1月15日に1,829人とピークに達し、1月24日には611人まで減少しています。山口県の新規感染者数は1月9日の152人から、2週間後の1月23日には353人とピークに達し、1月24日は293人と僅かな減少を認めています。広島県の新規感染者数は1月9日の619人から2週間後の1月22日に1,585人とピークに達し、1月24日には1,056人と僅かな減少しか認めていません。奈良県の荒井知事がおっしゃたように、「蔓延防止等重点措置」の効果は限定的と考えてよいのかもしれません。また、行動制限により「失う必要のない多くの命を数年後に失う」副作用の可能性も否定はできません。オミクロン株は、「潜伏期間が短く」、「毒性も弱く」、「世界的に感染拡大のピークをこえ始めた可能性」もあります。これらの根拠から考えると、これまでの変異株と異なり「蔓延防止等重点措置」の早期解除も視野に入れる必要があるのかもしれません。

日本におけるオミクロン株の怖さ:アルファ株感染拡大が起こった2021年5月6日までの日本における新型コロナウィルス感染による累積死者数は10,585人で、5月20日には12,049人と急激に増えています。アルファ株は2週間で1,464人の命を奪った計算になります。デルタ株の感染拡大が起こった2021年8月16日時点の累積死者数は15,424人で, 8月31日には16,034人に増えています。デルタ株は2週間で610人の命を奪った計算になります。オミクロンの感染拡大が起こった2022年1月8日時点の累積死者数は18,394人で1月23日には18,498人に増えています。オミクロン株は2週間で104人の命を奪った計算になります。また、12月から2月の3か月間という短い期間に猛威を振るう季節性インフルエンザでも例年3,000人以上が亡くなられ、2週間で500人が亡くなられている計算になります。感染拡大の2週間での日本の死者数は「アルファ株で1,464人」、「デルタ株で610人」、「オミクロン株で104人」、「季節性インフルエンザで500人」と言う数値から考えると、「オミクロン株はこれまでの新型コロナウィルス変異株よりも弱く、季節性インフルエンザよりも弱い」と考えていいのかもしれません。

同様の結論は他のデータからも導き出せます。2022年1月24日時点の「現在感染者数」は377,037人で「重症者数」は430人です。この国基準を基にした重症者数で計算しても、「重症化率は0.114%(430 ÷ 377,037)」で、アメリカの季節性インフルエンザの死亡率である「約0.1%」と同程度です。また、日本集中治療学会のホームページによると2022年1月24日時点で全国の人工呼吸器を装置されている真の重症者数は75人です。この数値から計算すると日本でのオミクロン株による重症化率は「0.019%」で、日本における季節性インフルエンザの死亡率「0.03%」よりも低くなります。つまり、オミクロン株による「重症化率」は、季節性インフルエンザの「死亡率」よりも低い事になります。もし季節性インフルエンザに対して「症状は無いけど感染していないか心配」という理由で検査を受ければ検査体制が逼迫する事は火を見るよりも明らかです。また、陽性者が心配で医療機関に押し寄せれば医療崩壊を起こす事も火を見るよりも明らかです。オミクロン株には冷静な対応が必要かもしれません。


2022年1月24日に、山梨県の長崎知事が「ワクチンの2回接種が済んでいない方の外出自粛」を要請されました。賛否両論のようですが、科学的根拠に基づいた正しい判断と個人的には信じています。また、この賛否両論の報道を見た時に、私が若い時期の先輩医師からの教えを思い出しました。特効薬を注射しないと死んでしまう幼稚園児がいたとします。子供は治療を拒んで泣き叫ぶため抑えつけなければ注射は打てませんでした。この様子を見て「泣き叫ぶ子供を抑えつけるとは野蛮で最悪の医者」と言う評判がたつかもしれません。しかし、そのよう評判を気にすれば子供は死んでしまいます。やはり、「科学が感情に勝たないといけない」事を長崎知事は示されているのかもしれません。また、重要なポイントは、「オミクロン株による重症者の約8割はワクチン未接種者」である事も各国から報告されています。差別などではなく、ワクチン未接種者の身を守るためにも、オミクロン株の感染爆発時のワクチン未接種者の外出自粛は必要と思います。一方、18歳未満ではオミクロン株感染による重症化はほぼゼロに近く、ワクチン接種率が低いのも事実です。よって、18歳未満には制限を設けず「19歳以上でワクチン2回接種が済んでいない方の外出自粛」が妥当かもしれません。

オミクロン株だけを見れば怖いかもしれません。しかし、すでに我々が共存している季節性インフルエンザと比較すると、オミクロン株の方が怖いという科学的根拠を見つけ出す事は困難かもしれません。逆に、季節性インフルエンザに比較して、オミクロン株に対するワクチン接種率や医療対策は優れている印象です。これまでは新型コロナウィルスを正しく恐れる必要がありましたが、オミクロン株に対しては「恐れるより正しく理解する」必要があるようです。オミクロン株に対しては、季節性インフルエンザのように「正しく理解して、モラルに基づいた各自の自己責任での対策」が理想と個人的には強く信じています。

 

 

[90版への追記箇所]


[日本のオミクロン株の現状](2022年1月20日時点)
世界からの報告ではオミクロン株の重症化率は低い事は明らかですが、日本においても同様の結果が示されています。これまで日本で1日あたりの新規感染者数が最多に達したのは、デルタ株流行時の2021年8月28日で25,116人でしたが、感染力の強いオミクロン株では2022年1月19日には41,486人にも達しています。しかし、世界中から蓄積されたオミクロン株の報告と同様に、日本でも重症化は非常に少ないようです。日本で1日あたりの死者数が最多に達したのはアルファ株流行時の2021年5月18日の215人で、デルタ株流行時は感染者数は爆発的に増えましたが、死者数の最多は2021年9月8日の89人と減少しています。オミクロン株の感染者数はデルタ株に近づいていますが、現時点での死者数の最多は2022年1月19の15人と少なく抑えられています。

日本で早期からオミクロン株の流行が起こった沖縄県では2022年1月9日に「蔓延防止等重点措置」が発令されました。沖縄県の2022年1月19日のホームページを見ると、重症者は6人で中等症は213人です。各年齢別の「無症状者と軽症者」の割合は、19歳未満が100%、20歳~39歳で98.4%、 40歳~59歳で95.6%、60歳~79歳で84.8%、80歳以上で46.4%と報告されています。また、感染者のうち、40歳未満が65.8%と大部分を占めています。つまり、オミクロン株感染者のほとんどは、入院治療の必要がない無症状か軽症と考えられます。

東京都のホームページを見ると、2022年1月19日の新規感染者数は7,377人と増えていますが、重症者数は10人でアルファ株やデルタ株に比べて非常に低く抑えられています。また、重症病床数は510床確保されているようです。大阪府の2022年1月19日のホームページによると、新規感染者数は6,101人と増えていますが、重症者数は13人で重症者病床の使用率は2.1%のようです。世界からの報告、さらに沖縄県からの報告を考慮すると「オミクロン株による重症化は日本においても少ない」と考えて間違いないと思います。日本で例年1,000万人以上もの方が、季節性インフルエンザに11月から2月の3か月の短期間に感染され、3,000人以上が亡くなられています。日割りに換算すると、季節性インフルエンザに毎日11万人が感染し、33人が亡くなられている計算になります。あくまでも平均した値ですから、感染のピーク時には1日あたりの死者数が300人に達する場合もあるのかもしれません。これまでの、世界と日本の状況から考えると、オミクロン株で、この数値を大きく超えることは無いと個人的には強く信じています。何故なら、オミクロン株に対しでさえ重症化予防効果が期待できるワクチンの2回接種終了者は、2022年1月19日時点で日本国民の78.6%に達しています。また、免疫学的に見て「新型コロナウイルスはは弱い敵」と思います。しかし、血管を詰まらせる「血栓症」という死に繋がるテロ行為が得意だったため、血栓を起こしやすい高齢や肥満の方々の多くの命を奪ったと思います。オミクロン株に関する世界からの報告では、2022年1月17日時点で血栓に関する報告は目にしていません。また、血栓症の特徴である突然死の報告も、最近は耳にしなくなりました。血栓症というテロ行為の手段を失ったオミクロン株は、季節性インフルエンザと同様な共存型ウィルスと考えるのが科学的に妥当と個人的には強く信じています。

無症状者や軽症者が多い感染症においては、明確な「入院基準」が必要かもしれません。基準がなければ、病床逼迫率に大きな地域差が出る事が予想されます。例えば、血液中の酸素濃度が低下した高齢の感染者が病床の20%を占める場合と、38℃程度発熱した若年の感染者が病床の20%を占める場合では、医療の逼迫度は全く異なります。蔓延防止等重点措置の要請基準に病床使用率を用いられている自治体も多いため、「入院基準」の決定が急務かもしれません。または、入院中の感染者のうち「重症化リスクが高くワクチン未接種の高齢者が何人含まれているのか」や「入院患者さんの症状別での病床使用率」を示すのも、病床の逼迫度を、国民の皆さんに客観的に伝えるためには有効かもしれません。

沖縄県のホームページによると、重点医療機関のオミクロン株による医師看護師の休職者数は2022年1月は331人と、これまで最多であった2021年9月の125人の2.64倍も増えています。オミクロン株は多くの感染者を出すため、これまでの変異株と同じ対策をとれば社会インフラが停止する事は世界が既に教えてくれています。よって、社会インフラを維持するため、米国では「ワクチンのブースター接種済み者」であれば濃厚接触者であっても自己隔離を免除されています。2022年1月14日の米国CDCの報告では、「感染者であっても無症状や軽症であれば自宅待機期間は症状が出てから5日間」と短縮もされたようです。また、PCR検査では回復して3か月が経過しても陽性となる場合があるが、これは「replicated-competent viruse has not been reliably recovered」すなわち「感染を誘導するような生きたウイルスではない」とPCR結果の解釈に注意を発せられています。
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/hcp/duration-isolation.html

ワクチン・検査パッケージ:ワクチン・検査パッケージについて「原則一時停止」の方針が2022年1月18日に政府から示されました。検査では、感染していても10人に1人は見逃されるうえ、検査での陰性は検査を受けた時に陰性であるだけで24時間後に感染していない証明にはなりません。つまり、24時間前の検査証明で陰性であっても、入店時に感染している可能性があり、「安心安全」のつもりが逆にウイルスをばら撒いてしまう可能性を秘めています。また、ワクチン2回接種ではオミクロン株に対する感染予防効果はあまり期待できない事もわかっています。つまり、「感染者数の減少」を目的とした場合には、「ワクチン・検査パッケージ」は意味を持たないと考えるのが科学的に妥当かもしれません。

しかし、私の理解が正しければ、現在の目的は「重症者数を抑制して、医療逼迫を避ける」事と思います。この目的のためには、「ワクチン接種」が非常に有効と思います。ワクチンの主な役割は感染予防ではなく、重症化予防です。事実、ワクチンの2回接種でもオミクロン株に対する重症化予防効果が維持される事は示されています。イギリスやイタリアをはじめとした各国からの報告では、オミクロン株で重症化した感染者の約8割は「ワクチン未接種者」と考えてよいようです。イギリスやイタリアでは約8割の国民にワクチンの2回接種が終了しています。例えば、100人がワクチン接種の有無に関係なく感染したと仮定すると、感染者の80人がワクチン接種者で20人がワクチン未接種の計算になります。そのうち10人が重症化したと仮定すると、2人はワクチン接種者で8人はワクチン未接種の計算になり、ワクチン接種者では80人中2人が重症化し(2 ÷ 80 = 0.025)、ワクチン未接種では20人中8人が重症化(8 ÷ 20 = 0.4)した計算になります。つまり、ワクチン未接種者ではワクチン接種者に比べてオミクロン株の重症化率は16倍も高くなります。よって、「ワクチン接種」を基準にすれば、感染者数は増えても医療逼迫につながるほどの重症者数には至らないと考えるのが科学的に妥当と思います。一方、「ワクチン・検査パッケージ」で「検査」を必要とされる方は、ワクチン未接種者であり感染した場合に重症化の可能性が高くなります。よって、「重症者数の抑制」のためには、「検査」を切り離し「ワクチン接種」単独で運用する必要があるのかもしれません。しかし、海外さらに沖縄県からの報告では18歳未満のオミクロン株感染での重症化率はほぼゼロです。また、子供達のストレス発散のため、子連れの大人数で夕食に出かけたい家庭もあるかもしれません。よって、「ワクチン接種」と「18歳未満は制限なし」のパッケージが理想的かもしれません。イギリスでは、濃厚接触者であっても「18歳以下」の自己隔離は求められていません。海外で「ワクチンパスポート」を開始された理由の一つは、特権を付与する事により「ワクチン接種者を増やす」ためです。日本でも、行動制限発令時の特権を得るためにワクチン接種を受けられた方も多いと思います。この様な方の期待を裏切らないためにも、感染者が増えても重症者数を抑制して経済を回すためにも、「ワクチン・20歳未満パッケージ」が個人的には理想と思います。

「新型コロナウイルスでは感情が科学に勝った」と言われる専門家もいらっしゃいましたが、新型コロナウイルスのような新種のウイルスに対しては情報も乏しく初期の段階では仕方がなかったかもしれません。しかし、今は違います。多くの情報が世界で蓄積され、オミクロン株の特徴もわかっています。また、過度な対策をとれば、ガンの早期発見の遅れで多くの命が失われ、運動不足により様々な死につながる病気も増え、将来を担う若者、特に女性の自殺も増え、オミクロン株感染で失う命を遥かに超えた「失う必要のない命」を将来失うリスクも明らかとなって来ています。また、日本の将来をしょって立つ子供達への悪影響は計り知れないのも事実です。今こそ、これまで蓄積された結果に基づき「科学が感情に勝る」時かもしれません。オミクロン株に対する対策で副作用が無ければ、だれもがオミクロン株感染による死者ゼロを目指すと思います。しかし、対策により守られた命の、何倍もの命を将来失う可能性が現実として起こってしまいます。

新型コロナウィルスのパンデミック発生により2020年の超過死亡は世界各国で驚くほど増えています。一方、日本の超過死亡は逆に減っています(「これまでの結果からアフタコロナを考える」の章 p12参照)。この状態が維持できれば完璧です。しかし、行動制限により多種多様な副作用が出る事は世界中から蓄積された結果からも明らかです。新型コロナウィルスのパンデミックが終息し、各国の超過死亡が減少に転じて平均寿命が上がり始めた段階で、過度な対策を取り過ぎたために、日本では早期発見の遅れによるガン、肥満率増加に伴う成人病、経済的ストレスに伴う自殺や犯罪による若年者の死者が他国よりも増加し、数年後から超過死亡が逆に増加し平均寿命が下がり始める可能性も否定できません。現在蓄積されている結果のメタ解析により、行動制限に伴う「ガンによる死者の増加率」、「成人病の増加率」、「自殺者の増加率」など様々なデータをもとに、人工頭脳で将来の平均寿命を推測することは可能と思います。目先の感染者数ではなく、オミクロン株が行動制限なくして蔓延した場合の平均寿命と、行動制限を行った場合の平均寿命の比較などの将来を見据えた指標の導入が必要なのかもしれません。

[89版への追記箇所]


[オミクロン株](2022年1月11日時点)
明けましておめでとうございます。パンデミックが始まってから2年が経過し新型コロナウイルスについて多くの事が明らかとなったため、新たな知識・対策につながる論文報告も激減し、日常生活も新型コロナのパンデミック以前に戻りつつありました。よって、2021年11月9日時点で「新型コロナに打ち勝つための独り言」の更新を行っておりませんでした。突然の休止で、私の体調不良などをご心配して頂きご連絡を頂いた方々に心より感謝申しあげます。

2021年11月24日にオミクロン株(B1.1.529)が南アフリカから報告され、予想を遥かに超えた30か所以上にも及ぶ遺伝子変異がある事がわかり、入国制限など世界的な警戒態勢がひかれました。しかし、オミクロン株に関する情報も世界中から蓄積され、各国の警戒態勢も既に緩和されています。日本でもオミクロン株感染の急速な拡大が起こり始めており、「オミクロン株を正しく恐れる」ために久しぶりにホームページを更新させて頂きます。

米国CDCのホームページによるとオミクロン株の変異は、A67V, del69-70, T95I, del142-144, Y145D, del211, L212I, ins214EPE,G339D, S371L, S373P, S375F, K417N, N440K, G446S, S477N, T478K, E484A, Q493R, G496S, Q498R, N501Y, Y505H, T547K, D614G, H655Y, N679K, P681H, N764K, D796Y, N856K, Q954H, N969K, L981Fの部位に認められるようです。特に「N501Y変異」により、我々の細胞内への侵入に必要な鍵穴(アンギオテンシン変換酵素2)への結合が強くなり、さらに「H655Y, N679K, P681Hの3つの変異」により鍵を回す力(細胞融合)も強くなっているようです。これによりオミクロン株の感染力は非常に強化され、感染者は前日の2倍以上も増える右肩上がりの急激な増加が世界各国で認められています。アメリカでは2021年12月1日にオミクロン株の感染者が同定され、2022年1月10日時点で新型コロナウイルス感染者の95%にオミクロン株が同定されるほど急速な拡大を認めています。

歴史と世界から学ぶ:ウイルスはヒトの部品を拝借して生存するため、多くの人が亡くなるとウイルスも生きていけなくなります。よって、人類との共存のため、ウイルスは感染力を増しながら毒性(ヒトを重症化や死に至らせる力)を弱くしていくことは感染症の歴史が教えてくれています。新型コロナウイルスも同様である事は、これまで蓄積された結果からも明らかです。日本においても(「43 季節性インフルエンザやその他の感染症との違いは?」の章参照)、最も多くの死者を出したのは「アルファ株」です。その次の「デルタ株」では感染者数は右肩上がりに増えましたが、死者数は少なく抑えられています。また、デルタ株流行初期の本邦におけるワクチン接種率は8.8%しかありません。つまり、多くの死者を出す「アルファ株」が、感染力が強くても毒性の弱い「デルタ株」に淘汰された事により死者数の増加に歯止めがかかった可能性は否定できません。

世界の状況を見ると、「デルタ株」に比べて「オミクロン株」は更に感染力を増し、逆に毒性は非常に弱くなったと考えるのが妥当と思います。例えば、オミクロン株が最初に報告された南アフリカでは、オミクロン株流行以前の1日当たりの新規感染者数の最多は2021年7月3日で26,485人、オミクロン株流行後は2021年12月12日の37,875人と1.43倍増えています。一方、1日あたりの死者数の最多はオミクロン株流行以前は844人(2021年1月6日)に対し、オミクロン株流行後は126人(2021年12月30日)と6.7倍減少しています。感染者が1.43倍増えて、死者は6.7倍減った事実から計算すると、南アフリカでのオミクロン株の怖さは、これまでの変異株に比べて約9.5倍も弱くなったと考えられます。また、南アフリカの人口の約3割はエイズに感染され免疫低下状態のうえ、日本のような感染対策は取られていません。この様な状況を加味すると、日本においてオミクロン株は他の変異株よりの20倍程度怖くなくなっていると言っても過言ではないのかもしれません。
アメリカでは、オミクロン株流行以前の1日当たりの新規感染者数の最多は2021年1月8日で300,777人、オミクロン株流行後では2022年1月3日に100万人を突破して1,018,935人と約3.4倍増えています。一方、1日あたりの死者数の最多は、オミクロン株流行前は5,263人(2021年2月12日)に対し、オミクロン株流行後は2,366人(2022年1月4日)と約2.2倍も減少しています。感染者が3.4倍増えて、死者は2.2倍減った事から計算すると、アメリカでのオミクロン株の怖さはこれまでの変異株に比べて約7.5倍も弱くなったと考えられます。また、2022年1月7日時点のワクチン接種完了率(2回接種)は日本の78.8%に対しアメリカでは61.8%と低いうえに、アメリカでは多くの方はマスクを着用されていません。日本の人口に当てはめると、オミクロン株による1日当たりの新規感染者数は約38万人、1日あたりの死者数は896人です。この様な状況ですが、医療体制の逼迫はアメリカでは起こっていません。また、米国疾患予防センター(CDC)ホームページ(2022年1月7日時点)によると、「ワクチンのブースター接種済み者」または「90日以内に新型コロナウイルスの感染歴がある方」は、濃厚接触者であってもマスクを着用すれば外出は自由にできるようです。感染者は多くとも重症者の少ないオミクロン株に対して、むやみやたらに濃厚接触者を隔離していれば、医療や公共交通機関などの社会インフラにも支障をきたす事は明らかです。2022年1月10日に大阪府の吉村知事も「濃厚接触者の14日間の原則自粛」の見直しを提言されました。社会活動への影響を最小限におさえるための妥当な判断と個人的には思います。

これまで蓄積された統計学的結果から、行動制限は早期発見の遅れでガンによる死者を14%も増やす事が示されています。また、運動不足により心筋梗塞や脳梗塞などを引き起こす生活習慣病が増える事も明らかです。(「40、長期間の行動制限による健康被害」を参照)。つまり、行動制限を行えば行うほど、新型コロナウイルス感染による死者数を遥かに超えた計り知れない数の「失う必要のない命」を将来的に失う結果につながってしまいます。この様な蓄積されてきた情報を加味して、アメリカでは将来を見据えオミクロン株を季節性インフルエンザ同様に対処されているのかもしれません。事実、アメリカの1日当たりの新規感染者と死者数から計算したオミクロン株の死亡率は0.2%です。これまでの新型コロナウイルス変異株でも、検査を受けていない「隠れ感染者」が陽性者の8倍から50倍以上いる事も明らかとなっています(「17、PCRは?」の章参照)。また、これまでの変異株に比べて、オミクロン株では無症状や軽症が更に増える事もわかっています。つまり、オミクロン株では検査を受けていない「隠れ感染者」が非常に多い事が推測され、アメリカでのオミクロン株による実際の死亡率は「0.02%程度」に下がる可能性も否定はできません。つまり、アメリカの季節性インフルエンザの死亡率0.1%を下回っています。アメリカのVanderbit大学病院のW. Schaffiner医師は「オミクロン株の症状は咳・倦怠感・鼻づまり・咽頭痛・頭痛」で季節性インフルエンザに近く、「潜伏期間も3日と短く」なり季節性インフルエンザと変わらないと述べられています。「感染者数(季節性インフルエンザの日本の感染者数は毎年1,000万人以上)」、「死亡率(日本の季節性インフルエンザの死亡率は約0.03%)」、「症状」、「潜伏期間」、「ワクチン普及率」などから考えると、季節性インフルエンザとオミクロン株の違いを見つける方が難しいのかもしれません。

イギリスでは、オミクロン株流行以前の1日当たりの新規感染者数の最多は2021年1月8日で68,053人、オミクロン株流行後は2022年1月4日の218,705人と約3.2倍増えています。一方、1日あたりの死者数の最多は、オミクロン株流行前は1,725人(2021年1月27日)に対し、オミクロン株流行後は343人(2022年1月5日)と約5倍減少しています。感染者が3.2倍増えて、死者は5倍減った事から計算すると、イギリスでのオミクロン株の怖さはこれまでの変異株に比べて約16倍も弱くなったと考えて良いかもしれません。よって、イギリス公衆衛生庁(Public Health England, PHE)のホームページによると、オミクロン株への対策は「屋内や公共交通機関でのマスク着用」、「屋内の頻回な換気」、「ブースター接種」です。また、ワクチンを「2回接種済みの方」、「18歳以下」、「アナフィラキシーショックなどの医学的理由でワクチンが接種できない方」は、濃厚接触者であっても自己隔離は求められていません。

他の感染症との違い:残念ながら世の中に「ゼロリスク」はありません。例えば、日本では交通事故で毎年3,000人以上が尊い命を奪われています。しかし、「自家用車を廃止して全員が公共交通機関を使用するべき」とは誰も言わないと思います。つまり、「日常生活」と「リスク」のバランスを我々は既に理解しているわけです。感染症も同様です。死につながる可能性のある多くの病原体と我々は既に共存しています。
例えば、肺炎球菌、B型肝炎ウイルス、ロタウイルス、結核菌、麻疹(はしか)、風疹(三日はしか)、水痘(水ぼうそう)、流行性耳下腺炎(おたふく風邪)、ジフテリア、百日咳、ポリオ、破傷風、日本脳炎、季節性インフルエンザなど多くの病原体に対するワクチンが子供達の命を守るため乳幼児期に接種されます。それでも、多くの方の尊い命が感染症により毎年奪われています。2019年には肺炎球菌、インフルエンザ菌、マイコプラズマやクラミドフィラの感染が原因となる肺炎で95,518人が、口腔内細菌などが原因となる誤嚥性肺炎で40,385人が日本で亡くなられています。また、季節性インフルエンザも本邦で毎年1,000万人以上が感染し、2019年は3,575人が亡くなられています(「40、長期間の行動制限による健康被害」を参照)。2022年1月7日時点の日本における新型コロナウイルス感染による累積死者数(2年間)は18,398人です。つまり、1年間に換算にすると、新型コロナウイルスに比べた15倍以上の方の命が、既に我々が共存している病原体により毎年奪われている計算になります。感染症に限らず、大腸癌や肺ガンなどの様々なガン、メタボが原因となる心筋梗塞などの虚血性疾患、精神的ストレスが引き金となる自殺などにより毎年多くの尊い命が奪われています。また、ガン、血管系疾患、精神的疾患による死者は行動制限により爆発的に増加する事も明らかです。そのうえ、これまでの変異株に比べてオミクロン株の毒性は弱い事も世界の現状が教えてくれています。「オミクロン株を特別扱いする必要は無い」と個人的には強く信じています。

 

1,000万人を超える季節性インフルエンザの感染者が毎年出ても、さらに、季節性インフルエンザで3,575人、市中肺炎で95,518人、誤嚥性肺炎で40,385人の死者を含む多くの重症者を出しても日本の医療体制はびくともしていません。しかし、季節性インフルエンザで無症状や軽症の陽性者を入院や宿泊療養させれば結果は非を見るより明らかです。即座に医療崩壊すると思います。季節性インフルエンザ同様に、発熱などの症状が出た方はクリニックを受診し、オミクロン株が陽性であれば「自宅待機か入院か?」は医師に判断してもらうのが最善策と個人的には強く信じています。

ワクチンと対策:ワクチンの重要な役割は「重症化予防」であり、感染予防ではありません。例えば、ワクチンを接種しても季節性インフルエンザに感染した経験のある方も多いと思います。しかし、重症化して入院されて方は殆どいないと思います。この重症化予防効果により、季節性インフルエンザに毎年1,000万人以上が感染しながらも、死者数は約3,000人に抑えられ医療崩壊も起こさずに日常生活が維持されています。重症化の予防に寄与するのは「T細胞」です。ファイザー社の2021年12月8日のプレスリリースでは、ファイザー社RNAワクチンを2回接種していれば「CD8(+)T細胞」はオミクロン株を十分に撃退できる事が示されています。事実、アメリカでのオミクロン株感染による死者の多くはワクチン未接種者で、ファイザー社RNAワクチンはオミクロン株の重症化予防にも有効であると考えられます。

一方、感染予防を司るのは「B細胞が産生する中和抗体」です。中和抗体量はワクチン接種から時間が経てばたつほど減少してきます。また、T細胞と異なり中和抗体はウイルスの変異に弱いため、オミクロン株に対する感染予防効果も低下します。しかし、ファイザー社の2021年12月8日のプレスリリースによると、3回目のブースター接種により中和抗体量が25倍も増え、オミクロン株の感染予防にも有効である事が示されています。事実、医学的権威のあるNew England Journal of Medicine に2021年12月末に掲載された多くの報告でも、ファイザー社RNAワクチンまたはモデルナ社RNAワクチンのブースター接種で、「感染予防効果はデルタ株に対してより少し弱いながらも、オミクロン株に対しても充分な効果が引き出せる」ことが示されています(Nemet I, New England J Medicine 2021, 12/29; Schmid TF, New England J Medicine 2021,12/30; Collie S, New England J Medicine 2021,12/29)。

これらの結果は、免疫力が低下していない方であれば、ワクチン2回接種でもオミクロン株に対する重症化予防効果は維持されるが、感染予防効果は減弱する。しかし、3回目のブースター接種を行えば、感染予防効果も回復する事を教えてくれています。新型コロナウイルス感染による重症化リスクの高い方、又はリスクの高い方と接触される方は、早急にブースター接種を受けられることをお勧めします。

独り言:オミクロン株は感染力が強くとも重症化しにくい、季節性インフルエンザに近い「共存型ウイルス」と個人的には思います。よって、感染者数で一喜一憂するのではなく、「オミクロン株を正しく恐れ」、「他人にうつさないための思いやりのマスク着用」、「うつらないための他人との距離の確保と屋内の換気」、さらに「重症化リスクの高い方への早期のブースター接種」で共存への道が開けると強く信じています。また、海外の状況からすると、無症状や軽症の感染者が右肩上がりに増えると考えられます。「陽性=入院または宿泊療養」の対策では医療崩壊を起こす事は明らかです。また、「濃厚接触者=14日間の自己隔離」の対策では社会インフラが停止してしまう可能性を秘めています。多くの政治家やコメンテータの方々が既に発信されているように、「オミクロン株には季節性インフルエンザ同様の対応」が必要と私も強く信じています。

 

[88版への追記箇所] 

「(28) 世界のワクチン効果の現状は?」の章への追記 50歳以上のワクチン効果の調査結果が2021年11月3日にアメリカから報告されました(McNamara LA, Lancet 2021, 11/3)。ワクチン接種後の感染率は、50~64歳に比べて、65~74歳では53%まで、75歳以上では62%まで低下する可能性が報告されています。救命センターに搬送された割合も、50~64歳に比べて、65~74歳では61%まで、75歳以上では77%まで低下するようです。一方、ワクチンによる死亡率の低下は年齢に応じて明らかな差はないようです。ワクチンによる感染予防効果さらに重症化予防効果は高齢者に顕著に認められ、ワクチンの高齢者からの優先接種は感染者数および重症者数の減少に非常に有効な事を科学的に示してくれています。

 ファイザー社RNAワクチンの追跡調査結果が2021年11月4日に報告されました(Thomas SJ, New England J Medicine 2021, 11/4)。アメリカ、アルゼンチン、ブラジル、南アフリカ、ドイツにおける16歳以上の44,165人と12~15歳の2,264人が対象です。感染予防効果は1回目接種で58.4%、2回目接種で91.7%と報告されています。また、ワクチン未接種者で、過去に感染した人の感染予防効果は72.6%のようです。これまで蓄積された結果のように、感染予防効果は2回目接種後2か月目で96.2%に達しますが、その後低下し4か月目で90.1%、4か月以上が過ぎると83.7%まで低下するようです。しかし、4か月以上が経過しても重症化予防効果は96.7%に保たれると報告されています。

 アメリカの退役軍人780,225人を対象としたワクチン効果の調査結果が2021年11月4日に報告されました(Cohn BA, Science 2021, 11/4)。退役軍人ですので皆さん65歳以上で、早期にワクチン接種を受けられています。2021年2月時点の感染予防効果は87.9%ですが、10月には48.1%まで低下しています。一方、重症化予防効果は十分に維持されているようです。2021年7月~10月の期間の65歳の新型コロナウイルス感染による死亡の予防効果は、ファイザー社RNAワクチンが84.3%、モデルナ社RNAワクチンが81.5%、ヤンセン社DNAワクチンが73%と報告されています。65歳以上では、ファイザー社RNAワクチンが70.1%、モデルナ社RNAワクチンが75.5%、ヤンセン社DNAワクチンが52.5%のようです。

モデルナ社RNAワクチン臨床試験の最終結果が2021年11月4日に報告されました(EL Sahly HM, New England J Medicine 2021, 11/4)。ワクチン接種者15,209人のうち、症状がでた感染者は55人、重症者は2人です。偽薬群15,206人のうち、症状がでた感染者は744人、重症者は106人です。症状を伴う感染の予防効果は93.2%、重症化予防効果は98.2%と報告されています。一方、症状は無くともPCRで陽性となった方は、ワクチン接種群で214人、偽薬群では498人です。無症状のPCR陽性者に対する予防効果は63%のようです。感染予防効果は、「症状が出た方」を指標にした場合と「症状が無いPCR陽性者」を指標にした場合で「30%」もの開きがあります。イギリスからの2021年11月2日の報告も同様の結果を示しています(Elliott P, Science 2021, 11/2)。無症状でもPCR陽性となった方を指標とした場合、ワクチンの感染予防効果は49%まで低下する可能性が報告されています。感染してもワクチン接種者には無症状の方が多いため、マスク文化が定着していない欧米では、ワクチン接種が進んでも感染者数は高止まりを続けているのかもしれません。しかし、感染者数は高止まりでも重症者数は抑えられているのも事実です。

 

 これまでの各国の大規模調査結果は「新型コロナウイルスに対するワクチンの感染予防効果は時が経つと低下する。しかし、重症化予防効果は保持される」事を証明しています。また、ワクチンが誘導する感染予防を担う抗体は時間の経過に伴い減少しますが、重症化予防に寄与するT細胞免疫は長期間保持される事も多くの権威ある論文からも明らかです。さらに、新型コロナウイルス感染の重症化予防に寄与する「Long-lived memory stem T cells」も2021年11月2日に報告されました(Guerrera G, Science 2021, 11/2)。この細胞は長寿で、いつでも新型コロナウイルスと戦えるT細胞の前駆体(予備軍)(CD4+、CD45RA+、CCR7high、AIM+、CD27+、CD95+)のようです。通常は、安定した数で維持され、新型コロナウイルスが侵入してくると即座に増えて迎撃してくれるようです。「Long-lived memory stem T cells」は、ファイザー社RNAワクチンを1回接種後21日目から88%の方に検出できるようになり、2回目接種から6ヶ月が経過しても91%の方に検出できると報告されています。

 

 「(30) ワクチンの副反応とアナフィラキシーは?」の章の「妊婦さんの安全性」への追記

 ワクチン接種は、「ワクチンを接種する事による利益」と「接種する事による不利益」のバランスを天秤にかけての判断が基本です。このバランスを判断するために、妊婦さんが加味しないといけない要因が2021年11月2日に報告されました(Magee LA, Lancet Infectious Disease 2021, 11/2)。妊婦さんが「ワクチンを接種する事による利益」として考慮しないといけない要因は、(1)妊娠後期では新型コロナウイルス感染による重症化の危険性が高くなる(重症化リスク)、(2)新型コロナウイルス感染により流産や新生児の異常の危険性がある(感染による胎児への影響)、(3)感染力が強いデルタ株が蔓延している状態で、ワクチン接種の対象でない乳幼児と同居されている場合が多い(感染のリスク)、と述べられています。

 

 「(30) ワクチンの副反応とアナフィラキシーは?」の章の「DNAワクチンによる血栓症の可能性」への追記

アストラゼネカ社のDNAワクチン接種後に「PF4に対する自己抗体(抗PF4抗体)」が陽性となった35人の経時的調査結果が2021年11月4日に報告されました(Schonborn L, New England J Medicine 2021, 11/4)。ワクチン接種後5~18日目に発症し、27人が女性、平均年齢は53歳(18~77歳)です。全員に血小板減少を認め、30人に血栓が起こっています。しかし、抗PF4抗体は時間の経過とともに陰性化し、12週目までに93%の方が陰性となったと報告されています。

 

 「(32) ワクチン接種後の再感染(ブレイクスルー感染)は?」の章への追記

 イギリスからの2021年11月2日の報告では、ワクチン接種後にPCRで陽性となった方のCT値平均は27.6、未接種者で陽性となった方のCT値平均は23.1と報告されています(Elliott P, Science 2021, 11/2)。ワクチン接種者はブレイクスルー感染を起こしてもウイルス量は、未接種者に比べて16倍以上少ない計算になります。また、ファイザー社RNAワクチン接種後にブレイクスルー感染を起こされた方の、咽頭に検出できる新型コロナウイルス量の経時的変化がイスラエルから2021年11月2日にも報告されました(Levine-Tiefenbrun L, Nature Medicine 2021, 11/2)。ブレイクスルー感染を起こしても、ウイルス量はワクチン接種者では未接種者に比べて10倍以上少なくなっていると報告されています。しかし、接種後3か月が経過するとウイルス量も増えはじめ、6ヶ月が経過すると未接種者とほぼ変わらないウイルス量が検出される可能性が報告されています。

 

 

「(34) 変異したウイルスに対するワクチン効果と各自の対策は?」の章の「デルタ株に対する集団免疫」への追記

 ウイルス遺伝子の経時的解析結果がイギリスから2021年11月2日にも報告されました(Elliott P, Science 2021, 11/2)。これまでイギリスでは「254種類」の変異株が検出されており、2021年6月から7月の期間に全てがデルタ株に置き換わったようです。これまでの変異株(アルファ株など)に比べて、デルタ株の蔓延により13歳~17歳の感染者は13倍増え、65歳~74歳の感染者も3~4倍増えたと報告されています。また、感染率は一人暮らしの0.44%、二人暮らしの0.44%に比べて、6人以上の家庭では1.35%と約3倍高くなるようです。また、イギリスで現在検出されるデルタ株は「K417N」の変異を既に失っているようです。 


 「(36) マスク文化は?」への追記

 権威ある医学・科学誌であるNatureの「Nature News」に「When are masks most useful? COVID cases offer hints(いつマスクを着用すれば有効か)」と題した記事が2021年11月4日の掲載されました。感染者と屋内で3時間以上滞在した場合に、マスクを着用していないと感染率が高くなるようです。一方、賛否両論の意見はあるようですが、家庭内感染の予防や、直接的な肉体の接触がある場合はマスク着用は効果がない可能性が報告されています。少なくとも、公共交通機関や屋内でのマスク着用が感染拡大防止のために非常に有効な事を科学的に示しています。これまで世界中で蓄積された結果を見ると、同じ種類のワクチンを用いていながら、感染予防効果には各国で数十%の開きがあるような印象です。例えば、マスク着用は推奨されず、強力な行動制限も発出されなかったスエーデンでは、アストラゼネカ社DNAワクチンの感染予防効果は50%と低い値に留まっています((Nordstrom P, Lancet Regional Health 2021, 10/17)。また、多くの旅行者と接する職種や、密閉空間での長時間労働を伴う職種ではワクチンによる感染予防効果が低下する可能性も報告されています(EL Sahly HM, New England J Medicine 2021, 9/22)。これらの結果は、ワクチン接種に加えてマスクなどの感染対策を心がければ、感染予防効果が最大限に引き出せることを教えてくれているのかもしれません。

ワクチンの感染予防効果は、「症状が出た方」を指標にした場合と「症状が無いPCR陽性者」を指標にした場合で「30%」近くの開きがある可能性も報告されています(Elliott P, Science 2021, 11/2; EL Sahly HM, New England J Medicine 2021, 11/4)。ワクチン接種者は感染しても無症状の方が多いため、知らず知らずのうちに人に感染させる可能性は否定できません。また、感染してもワクチン接種早期はウイルス量が未接種者に比べて10倍以上少なくなりますが、接種後6ヶ月が経過すると未接種者とほぼ変わらないウイルス量が検出される可能性も報告されています(Levine-Tiefenbrun L, Nature Medicine 2021, 11/2)。つまり、ワクチン接種から数か月が経過すると、自分自身は無症状でも、ヒトに感染を引き起こす量のウイルスを飛沫に含んでいる可能性がでてきます。自分自身を守るための「ワクチン接種」と他人にうつさないための「思いやりのマスク着用」が、「高齢者にブースト接種が終了して、より強固な集団免疫が確保されるまで」、または「十分量の経口ウイルス薬が開業医の先生方にいきわたるまで」は必要なのかもしれません。 


 「(45) 重症化しやすい基礎疾患は?」の章の「血管炎」への追記

 新型コロナウイルス感染における「血管炎」の患者さんの調査結果が2021年11月5日に報告されました(Sattui SE, Lancet Rheumatology 2021, 11/5)。調査期間は2020年3月から2021年4月12日で、平均年齢は63.8歳です。好酸球性多発血管性肉芽腫や多発血管炎性肉芽腫などの病気が含まれる「ANCA関連血管炎」の患者さんで、新型コロナウイルスに感染された方は294人で、入院治療が不要だった方は110人(37.4%)、入院が必要となった方は30人(10.2%)、人工呼吸器装着などの酸素投与が必要となった方は89人(30.3%)、死者は65人(22.1%)と報告されています。いまだ原因不明の「リウマチ性多発筋症」の患者さんで新型コロナウイルスに感染された方は323人で、入院治療が不要だった方は187人(57.9%)、入院が必要となった方は30人(9.3%)、人工呼吸器装着などの酸素投与が必要となった方は71人(22%)、死者は35人(10.8%)のようです。自然免疫がおもに引き起こす「ベーチェット病」で新型コロナウイルスに感染された方は69人で、入院治療が不要だった方は69人(71.7%)、入院が必要となった方は15人(15.5%)、人工呼吸器装着などの酸素投与が必要となった方は11人(11.3%)、死者は2人(2.1%)と報告されています。やはり、血栓を引き起こし易い「血管炎」が基礎疾患にある方は、新型コロナウイルス感染による重症化の危険性が高いようです。また、これらの患者さんの新型コロナウイルス感染による死亡率を増加させる危険因子は、「リツキサン(B細胞を除去する薬)」が2.15倍、「シクロホスファミド(抗ガン作用や免疫抑制作用を持つ薬)」が4.3倍、「1日10mg以上のステロイド使用」が2.14倍、「活動性の血管炎」があれば2.12倍と報告されています。

 

 

「(48) 後遺症は?」の章への追記
ガン患者さんの新型コロナウイルス感染に関する調査結果が2021年11月3日に報告されました(Piato DJ, Lancet Oncology 2021年11月3日)。ベルギー、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、イギリスの共同研究で2,634人の新型コロナウイルスに感染されたガン患者さんが対象です。後遺症が残った方は15%と報告されています。多かった後遺症は、「呼吸器障害」が49.6%で「倦怠感」が41%のようです。後遺症を起こし易い危険因子は、「男性」、「65歳以上」、「2つ以上の基礎疾患」、「新型コロナウイルス感染時に多くの症状がでた方」、「入院治療が必要となった方」、「喫煙歴」と報告されています。また、調査対象者のうち、31.7%は抗がん剤などの全身的ガン治療を受けられていたようです。このうち、「新型コロナウイルスの重症化を心配して」または「都市封鎖や病床の逼迫によりやもうえず」治療を中止されて方は15%、一時的に投薬量を減らされた方は38.2%と報告されています。治療の変更は血液腫瘍に多く認められたようです。調査期間は4か月と短いにも関わらず、この短期間でも治療を中止された方のガンによる死亡率は3.53倍に増加した事が報告されています。一方、一時的な薬剤の減量では死亡率に優位な差は認められなかったようです。新型コロナウイルスを恐れるばかりにガンの治療を中止することの危険性を教えてくれているのかもしれません。

 「(49) 治療法は?」の章の「抗ウイルス薬」への追記

 新たな抗ウイルス薬がファイザー社の2021年11月5日のプレスリリースで報告され、権威ある医学・研究誌の「ScienceInsider」にも「Pfizer antiviral slashes COVID-19 hospitalization」と題して2021年11月5日に紹介されました。ファイザー社が開発した、3LCプロテアーゼと呼ばれる酵素を阻害してウイルスの増殖を抑える「PT-07321332」と呼ばれる薬と、エイズの治療にも用いられている「リトナビル」と呼ばれる薬の2剤合剤で「パクスロビド」と呼ばれる薬です。新型コロナウイルス感染により症状が出てから3日以内、または5日以内に5日間の経口投与が開始されています。対象者はワクチン未接種者で、糖尿病や閉塞性肺疾患などの基礎疾患のある方です。発症3日以内に「パクスロビド」を処方された389人のうち入院治療が必要となった感染者は3人(0.8%)と報告されています。一方、偽薬は385人に投与され、入院治療が必要となった感染者は27人(7%)です。89%の入院予防効果が期待されます。また、発症5日以内に「パクスロビド」を処方された607人のうち、入院治療が必要となった感染者は6人(1%)です。偽薬が投与された612人の感染者のうち、41人(6.7%)に入院治療が必要となっています。また、発症後28日以内に亡くなられた方は、「パクスロビド」投与群ではゼロ、偽薬群では10人と報告されています。重篤な副作用の心配もなさそうで、非常に期待が持てる結果です。  

  

 

[87版への追記箇所]
「(7) 新生児、小児、学生は?」の章へ追記
日本においても「休校は感染抑制には繋がらなかった」事を示す47都道府県を対象とした統計学的結果が2021年10月27日に世界的権威のある医学誌に報告されました(Fukumoto K, Nature Medicine, 2021, 10/27)。また、アメリカからも、授業をリモートで行った地域と、対面で行った地域で新型コロナウイルス感染者の増加に有意差を認めなかったことが発表されています(Ertem Z, Nat Med 2021, 10/27)。

「(19) 再感染は?」の章の「交叉免疫」へ追記
ウガンダから興味深い結果が2021年10月25日に報告されました(Achan J, Lancet Microbe 2021, 10/25)。発展途上国のため「マラリア感染」が未だ多く、新型コロナウイルス感染者の12%にマラリアの同時感染を認めているようです。マラリアと同時感染した方では、錯乱や嘔吐などの症状が強い傾向はあるようですが、死亡率に変化はないと報告されています。一方、過去にマラリア感染の既往がある方では、新型コロナウイルス感染による重症化率が低い可能性が報告されています。

「(28) 世界のワクチン効果の現状は?」の章の「基礎疾患別ワクチン効果」へ追記
強力な免疫抑制治療が行われているためワクチンを2回接種しても中和抗体が産生されなかった17人の「関節リウマチ」患者さんの調査結果が2021年10月26日に報告されました(Schmiedeberg K, Lancet Rhematology 2021, 10/26)。58%の患者さんは「メトトレキサート」と「JAK阻害剤や抗TNF-α抗体製剤」などの併用療法を受けられているようです。16人の患者さんでは、メトトレキサートとJAK阻害剤の服用は3回目のワクチン接種前1週間と接種後2週間の計3週間の間中止されています。中和抗体量は19.5U/mLから3回接種後には2,500U/mLまで増加した事が報告されています。また、ステロイド5mgの服用を継続された患者さんでも515U/mLの中和抗体産生が認められたようです。ただし注意は必要です。ワクチン接種のための3週間の休薬中に関節リウマチの症状が安定していた方は53%、悪化した方は47%と報告されています。

「(29) ワクチン接種回数は」の章の「ワクチンのスイッチ」への追記
ワクチンの交叉接種に関する調査結果がスエーデンから2021年10月17日に報告されました(Nordstrom P, Lancet Regional Health 2021, 10/17)。アストラゼネカ社DNAワクチン接種後にファイザー社RNAワクチンを接種された94,569人、アストラゼネカ社DNAワクチン接種後にモデルナ社RNAワクチンを接種された16,402人、2回ともアストラゼネカ社DNAワクチンが接種された430,100人、未接種者180,716人が対象です。感染予防効果はアストラゼネカ社DNA/ファイザー社RNAワクチンの組み合わせで67%、アストラゼネカ社DNA/モデルナ社RNAワクチンの組み合わせで79%、アストラゼネカ社DNA/アストラゼネカ社DNAの組み合わせで50%と報告されています。

「(29) ワクチン接種回数は?」の章の「ブースト接種」への追記
ファイザー社RNAワクチンの3回目(ブースト)接種の調査結果がイスラエルから2021年10月29日に報告されました(Barda N, Lancet 2021, 10/29)。平均年齢52歳の728,321人を対象とした追跡調査です。2回目接種後に入院治療が必要となった方は231人、重症者は157人、死者は44人です。3回目のブースト接種後に入院治療が必要となった方は29人、重症者は17人、死者は7人まで減少しています。2回接種に比べて、3回目ブースト接種は効果を更に93%も上積みできる可能性が報告されています。

「(30) ワクチンの副反応とアナフィラキシーは?」の章の「DNAワクチンによる血栓症の可能性」への追記
「抗リン脂質抗体症候群」は体内のリン脂質に対する自己抗体が動静脈の血栓症を誘発し習慣性流産などを引き起こす病気です。よって、ワクチンによる過剰な副反応が懸念されていました。抗リン脂質抗体症候群の患者さんに対するワクチンの副反応の調査結果が2021年10月20日に報告されました(Sciascia S, Lancet Rhematology 2021, 10/20)。抗リン脂質抗体症候群の患者さん67人にファイザー社RNAワクチンが、35人にはモデルナ社RNAワクチンが接種されています。過去に新型コロナウイルスの感染歴がある患者さんにはワクチンが1回、それ以外には2回接種されています。接種部位の痛みは44%に、倦怠感は36%に、頭痛は28%に認められ、健常者と差はないようです。また、血栓症は誰にも認められなかったと報告されています。被験者が少ないため確定的ではありませんが、RNAワクチンは抗リン脂質抗体症候群の患者さんに対しても安全な可能性があるようです。

「(32) ワクチン接種後の再感染(ブレイクスルー感染)は?」の章への追記
スコットランドからブレイクスルー感染の大規模調査結果が2021年10月28日に報告されました(Grange Z, Lancet 2021, 10/28)。ファイザー社RNAワクチン接種が完了した1,205,642人、アストラゼネカ社DNAワクチン接種が完了した2,026,198人、モデルナ社RNAワクチン接種が完了した41,496人が対象で2021年8月18日までの調査結果です。ブレイクスルー感染により亡くなられた方は、ファイザー社RNAワクチン接種完了者で47人(0.004%)、アストラゼネカ社DNAワクチン完了者で188人(0.009%)、モデルナ社RNAワクチン完了者でゼロと報告されています。ブレイクスルー感染による死亡率は、日本の季節性インフルエンザの死亡率(約0.03%)よりも低いようです。ブレイクスルー感染で亡くなられた方の平均年齢は79.5歳で、男性は61.8%と報告されています。

イスラエルから4,791,378人のワクチン2回接種済み者の大規模調査結果が2021年10月27日に報告されました(Goldberg Y, New England J Medicine 2021, 10/27)。PCRで陽性が確認された方は13,426人(0.28%)で、重症者は403人(0.008%)と報告されています。ブレイクスルー感染での重症化率は、季節性インフルエンザの死亡率(0.03%)より低いのかもしれません。一方、感染者数はワクチン接種終了から時が経過するに従い増える可能性が報告されています。2021年7月中に感染された60歳以上の方のうち、2021年1月に接種を終了された方は3.3人/1,000人、2月に終了された方は2.2人/1,000人、3月に終了された方は1.7人/1,000人と報告されています。接種から半年が経過すると、感染者数は2か月毎に約1.6倍増えて行くようです。よって、本邦で毎年1,000万人以上が感染され3,000人の命が奪われる季節性インフルエンザのように、「感染者数は多くても重症化率が低い風土病」になりつつある可能性は否定できません。

米国カリフォルニア州の刑務所を対象としたモデルナ社RNAワクチン効果の調査結果が2021年10月20日に報告されました(Chin ET, New England J Medicine 2021, 10/20)。3,221人の受刑者が対象です。2021年4月23日から7月15日の期間は感染者はゼロでしたが、その後感染者が増えはじめ8月15日には受刑者の15%に感染が認められています。全てデルタ株のようで、閉鎖空間での感染拡大抑制の難しさを教えてくれています。モデルナ社RNAワクチンの、「症状は無いけれどPCRで陽性となった方」から換算した感染予防効果は56.6%、「何らかの症状がでた方」から換算した感染予防効果は84.2%と報告されています。また、ワクチン接種済みでPCR陽性となった受刑者は122人で、症状がでた方は僅か27人(22.1%)、入院治療必要となった方は1人(0.8%)と報告されています。ブレイクスルー感染では無症者が多い事は既に報告されていますが、これまで報告された数値を遥かに超えて「77.9%もの無症状者」がいる計算になります。一般社会で無症状の感染者を把握する事は不可能であり、「閉鎖空間」さらに「全員に検査」が行われた今回の刑務所の調査結果が真実を反映していると考えるのが科学的に妥当と個人的には思います。

 

「(40) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(全てが諸刃の剣)?」の章の「各国の将来を見つめたコロナ対応」への追記
2021年10月14日のイギリス公衆衛生庁(Public Health England, PHE)の発表によると、ファイザー社RNAワクチン、モデルナ社RNAワクチン、アストラゼネカ社DNAワクチン、またはヤンセン社DNAワクチン接種が完了した海外からの入国者に対して、10月24日より隔離が免除されるようです。ワクチン接種完了者は、イギリス到着前の2日以内に検査で陰性が証明されれば隔離なしで入国できますが、入国から2日以内の再検査が義務付けられます。ワクチン未接種者や未完了者は、入国前3日以内の陰性証明が必要で、入国後は10日間の自己隔離が義務付けられ、入国後2日目と8日目に2度の検査(再検査と再々検査)が必要です。また、入国後の検査は政府が承認した検査機関で行う必要があるようです。ワクチン完了者に対する入国制限緩和を発表された2021年10月14日のイギリスの新型コロナウイルス新規感染者数は44,556人で死者は72人ですが、国交の正常化に舵をきられたようです。

 

「(47) 重症化の予兆は?」の章への追記
18歳未満の新型コロナウイルス感染の重症化に関する因子の56論文(対象は79,104人)をもとにしたメタ解析結果が2021年10月18日に報告されました(Shi Q, EClinical Medicine 2021, 10/18)。重症化の危険性は、CRPが8mg/dLを超えた場合は11.7倍、D-ダイマーが0.5μg/mLを超えた場合は20.4倍、神経疾患の既往があれば5.16倍高くなる可能性は報告されています。

「(48) 後遺症は?」の章への追記
病原体はオレオレ詐欺のように敵でありながら身内(味方)に見せかける「分子擬態」と呼ばれる手法を用いて免疫軍を攪乱してきます。免疫軍が訓練不足に陥っている時や、各部隊の連携(バランス)が崩れてしまうと、分子擬態に騙されてしまい免疫軍の自分自身への攻撃(自己免疫反応)が起こってしまう場合が稀にあります。例えば、生の鶏肉が原因となる「カンピロバクター」は食中毒を起こしますが、免疫のバランスが崩れていると「ギランバレー症候群」と呼ばれる病気を起こす事があります。ギランバレー症候群は、分子擬態により騙された免疫軍(B細胞部隊)が末梢神経を攻撃してしまい、手足の先のしびれから始まり、手足が動かなくなり、呼吸筋も動かなくなった場合は人工呼吸器装着が必要になる病気です。神経が筋肉を刺激できないように免疫軍(B細胞部隊)が攻撃し、瞼が垂れたり(眼瞼下垂)、声が出しにくくなったり(構音障害)する「重症筋無力症」と呼ばれる病気も感染症が引き金となる事があります。また、実際の感染に限らず、ワクチンが分子擬態を引き起こす事も稀にあります。例えば、麻疹(はしか)や風疹(三日はしか)の感染に限らず、麻疹や風疹のワクチンも免疫軍を攪乱して、出血を起こし易くなる「血小板減少性紫斑病」と呼ばれる病気を引き起こす事があります。

イギリスから2,005,280人の新型コロナウイルス感染者、20,417,752人のアストラゼネカ社DNAワクチン接種完了者、12,134,782人のファイザー社RNAワクチン接種完了者に対する脳神経疾患発症に関する大規模調査結果が2021年10月25日に報告されました(Patone M, Nat Med 2021, 10/25)。健常人に比較して、「ギランバレー症候群」の発症は新型コロナウイルス感染で5.25倍、アストラゼネカ社DNAワクチン接種で2.04倍高くなる可能性が報告されています。新型コロナウイル感染で「髄膜炎」が2.07倍、「重症筋無力症」が3.01倍、「クモ膜下出血」が1.51倍増加する可能性も報告されています。

「(49) 治療法は?」の章の「サイトカインストーム治療薬」への追記
サイトカインストームの原因となる「インターロイキン-6(IL-6)」や「インターロイキン-1(IL-1)」と呼ばれる炎症性サイトカインを阻害する薬剤の臨床試験結果がベルギーから2021年10月29日に報告されました(Declercq J, Lancet Respiratory Medicine 2021, 10/29)。平均年齢65歳(54~73歳)の以下の3つの条件のいずれかを満たした方のうち、112人にIL-1阻害剤が、227人にIL-6阻害剤が、345人に偽薬が投与されています。条件は、1)フェリチンが2,000μg/L以上、2)フェリチンが1,000μg/L以上で人工呼吸器を装着、または3)全ての炎症マーカーが高値(フェリチン>700μg/L、LDH>300IU/L、CRP>7mg/dL、かつD-ダイマー>1,000ng/mL)です。病状の改善に要した期間は、IL-1阻害群で12日、IL-6阻害群で11日、偽薬群で12日と報告されています。また、死亡率は各群で優位な差はなかったと報告されています。

「(49) 治療法は?」の章の「抗体カクテル療法」への追記
抗体カクテル療法は2種類の抗体を混合して用いますが、「Sotrovimab」と呼ばれる1種類の抗体の新型コロナウイルス感染に対する臨床試験結果が2021年10月27日に報告されました(Gupta A, New England J Medicine 2021, 10/27)。「Sotrovimab(別名VIR-7831)」は汎コロナウイルス抗体に分類され、新型コロナウイルス(SARS-CoV2)ばかりでなく2002年に流行を起こしたSARS-CoV1にも反応できる抗体(IgG)です。また、抗体のFc領域を遺伝子操作する事により半減期(消失するまでの時間)を長くし、肺組織にも移行しやすくしてあるようです。アメリカ、カナダ、ブラジル、スペインの共同試験で、平均年齢53歳(65歳以上は22%)の重症化リスクがある方が対象です。重症化リスクの指標は、糖尿病、BMI>30、慢性腎疾患、うっ血性心不全、閉塞性肺障害、中等度以上の喘息のようです。症状がでてから5日以内の外来患者さんに投与されています。Sotrovimabを投与された291人のうち、入院治療が必要となった方は3人、重症者はゼロ、死者はゼロと報告されています。一方、偽薬群292人のうち、入院治療が必要となった方は21人、重症者は5人、死者は1人のようです。期待が持てる結果かもしれません。

「(49) 治療法は?」の章の「その他の他疾患で用いられる既存薬」への追記
イベルメクチンは回施糸状虫や糞線虫などの寄生虫の駆除に用いられる薬ですが、生体外の実験で新型コロナウイルスの増殖を抑える可能性が示唆されています(Caly L, Antiviral Res 2020, p104787、Lehrer S, In vivo 2020, p3023)。しかし、生体外と実際の人間の反応は異なりイベルメクチンの新型コロナウイルスに対する治療効果は賛否両論なうえ、重篤な副作用の懸念もあるようです。よって、米国疾患予防センター(CDC)は新型コロナウイルス感染に対するイベルメクチンの使用は推奨されていません(Distributed via the CDC Health Alart Network 2021, 8/26, CDCHAN-00449)。しかし、イベルメクチンは動物に使用されるものもあり、ネットなどを介して個人的に購入できるため2021年8月には個人購入者が米国オレゴン州では4倍以上増えたと報告されています(Tekple C, New England J Medicine 2021, 10/20)。この増加に伴い、オレゴン州の中毒情報センターへのイベルメクチンの有害事象の報告は7月までの月平均0.86件から8月には21回に急増したと報告されています。17人はネットでイベルメクチンを個人購入され、3人は医師または獣医師から提供を受けたようです。21人のうち集中治療室での治療が必要となった方は4人、入院治療が必要となった方は6人と報告されています。入院治療が必要となった方には、錯乱、運動失調、低血圧、消化器症状などが認められたようです。また、入院治療が必要なかった方にも、消化器症状、発疹、視野障害、めまい等の症状がでたようです。

 

[86版への追記箇所]
「(17) PCRは?」の章の「PCRで感染拡大を防ぐ方法」への追記
安心・安全のため、誰でも受けれる新型コロナウイルスの検査体制を推奨される意見もあります。しかし、これまで世界中で蓄積された結果は、「安心の代償にリスクを増やす可能性」つまり感染者を逆に増やしてしまう可能性がある事を教えてくれています。例えば、高齢者施設などのクラスターを防ぐためには、職員全員が定期的(最善は毎日)に検査を受ける必要があります。検査した日は安全ですが、翌日の保証はないため、たまに行う検査は意味が無くなります。また、「受けたい人が受ける検査」では、感染者を減らすどころか、むしろ増やしてしまう危険性も指摘されています。PCR検査でも感染者10人のうち1人は見逃されます。微熱があり感染している方が検査を受けて「偽陰性」となったとします。安心して用心のために自宅待機して頂ければ問題はありません。しかし、「偽陰性が感染していないと言う安心」につながる可能性が高く、多くの方は仕事に行かれるかもしれません。私は陰性だから大丈夫と言う「誤った安心」により活動性が増え、多くの感染者を生み出す「スーパースプレッダー」になりかねません。安心・安全のつもりの対策が本末転倒にならないように注意が必要です。事実、世界を見ても、PCR検査数が多い国でも日本の10倍以上の感染者や死者を出しています。また、日本国内においても、最も死者数の多い自治体は、最もPCR検査数の多い自治体でもあります。検査に頼るのでなく、「自分は感染しているかもしれないので、他人にうつさないようにしよう」といった各自の思いやりの対策こそが新型コロナウイルスには最善策と個人的には強く信じています。「必要な人」、「必要な場所」、「必要な時」に焦点を当てた検査戦略がより効果的かもしれません。例えば、高齢者施設などの職員に対する公費による定期的(最低でも1週間間隔)検査での重症化の危険性が高い高齢者保護、季節性インフルエンザのように症状が出た方のみがクリニックで受ける診断目的の検査、感染拡大傾向のある地域での大規模イベント参加者全員を対象とした「受けたい方」のみでなく「受けたくない方」も受ける検査によるクラスター発生予防と疫学調査などが新型コロナウイルスに対して効果的かもしれません。

 

「(28) 世界のワクチン効果の現状は?」の章への追記
ファイザー社RNAワクチン、モデルナ社RNAワクチン、アストラゼネカ社DNAワクチンの効果を比較検討した調査結果が2021年10月15日に報告されました(Collier ArY, New England J Medicine 2021, 10/15)。これまでの報告通り、ファイザー社RNAワクチンとモデルナ社RNAワクチンは接種後早期より、新型コロナウイルスの感染予防に寄与する中和抗体が誘導され、6か月後に急激に減少を始め、8か月後には更に減少する可能性が報告されています。また、モデルナ社RNAワクチンは、ファイザー社RNAワクチンに比べて中和抗体の産生量が多いようです。一方、アストラゼネカ社DNAワクチンは、2つのRNAワクチンに比べて中和抗体の産生量は少ないけれども、6か月後も比較的保持される可能性が示されています。また、全てのワクチンは、重症化予防に貢献するT細胞免疫を接種後8ヶ月が経過しても維持させるようです。感染予防効果は低下しても、重症化予防効果は維持される事を教えてくれています。

「(32) ワクチン接種後の再感染(ブレイクスルー感染)は?」の章への追記
イスラエルから1,497人の医療従事者を対象としたブレイクスルー感染の調査結果が2021年10月14日に報告されました(Bergwerk M, New England J Medicine 2021, 10/14)。ファイザー社RNAワクチンを2回接種後に、PCRで陽性となった方は39人(2.6%)で、平均年齢は42歳のようです。陽性者の57%はワクチン未接種の家族から感染し、30%はワクチン未接種の同僚または患者さんから感染したと報告されています。両者がワクチンを接種していれば、ブレイクスルー感染も防げたのかもしれません。また、高齢者、肥満者、基礎疾患のある方以外は、ブレイクスルー感染を過度に恐れる必要はないと個人的には思います。何故なら、ブレイクスルーによる感染者の33%は「無症状」で、入院治療が必要となった方はゼロと報告されています。また、有症者に認められた症状は、多い順に「鼻づまり36%」、「筋肉痛28%」、「嗅覚障害28%」、「発熱21%」で、ワクチンの副反応よりも軽い印象です。また、ブレイクスルー感染により3回目のブースト接種と同等、またはそれ以上の免疫が獲得される可能性も否定できません。

「(34) 変異したウイルスに対するワクチン効果と各自の対策は?」の章へ「デルタ株に対する集団免疫」を追加
2020年9月1日から2021年6月26日の期間に281,178人の新型コロナウイルス感染者から採取された検体のウイルス遺伝子の大規模解析結果がイギリスから2021年10月14日に報告されました(Vohringer HS, Nature 2021, 10/14)。ウイルスの全長遺伝子検査(シークエンス)は全感染者の7.2%に行われた計算になります。この短期間に137種類の変異株がイギリスで検出されています。武漢株から変異した「B.1系列」に分類される変異株の感染者に占める割合は2021年9月時点の25%から10月時点で65%へと急速に拡大し、2020年11月5日に発出された「2回目の都市封鎖」の引き金となっているようです。この変異株はイギリス国内で発生したと報告されています。2020年11月5日から12月1日までの都市封鎖の間に、既存の変異株の殆どは淘汰されています。しかし、代わりにB.1系列変異株の一部が「N501Y」の変異により、鍵穴であるアンギオテンシン変換酵素2への結合を強化し、さらに、鍵を回す(細胞融合)ために必要な手首の力(furin cleavage)を「P681H」の変異により強化し、「B1.1.7(アルファ株)」へと進化を遂げたようです。この2つの変異によりアルファ株は感染力を1.52倍に増強し、都市封鎖による人流抑制にも関わらず小規模な感染を繰り返していた可能性が報告されています。そして、都市封鎖解除後のクリスマスで、くすぶっていたアルファ株が一挙に感染爆発を起こし、一日の新規感染者数が2020年12月12日には72,088人に達し、2021年1月4日に「3回目の都市封鎖」が発出されています。一日の新規感染者数が5,500人となった2021年3月8日に都市封鎖が解除されています。3回目の都市封鎖期間中に137種類存在した変異株は22種類へと減少し、多くの変異株は淘汰されたようです。

しかし、3回目の都市封鎖中にも「A.23.1」と呼ばれる変異株がイギリス国内で発生し、さらに「ベータ株」、「ガンマ株」、「イータ株」、「イオタ株」、「ゼータ株」も水際作戦にも関わらず海外から持ち込まれ、国内で小規模な感染を起こしていたようです。都市封鎖期間中に小規模な感染を起こした変異株は、全て免疫からの回避を助ける「E484K」変異を持っていたと報告されています。また、3月にはアルファ株より感染力が1.59倍強くなった「デルタ株」と「カッパ株」がインドから持ち込まれ、「E484K」をもつ変異株を淘汰し2021年6月26日にはデルタ株の割合が98%にまで達しています。デルタ株が持つ「L452R」変異が、他の変異株を押しのけての感染拡大に寄与した可能性があるようです。興味深い事に、イギリスに「デルタ株」と同時期に持ち込まれた「カッパ株」も「L452R」変異を持っていますが、デルタ株に淘汰されています。デルタ株は、カッパ株が持たない「K417N」変異も持っていて、「L452R」と「K417N」の2つの変異によりデルタ株が他の変異株を淘汰して世界中に蔓延した可能性があるようです。

このウイルス遺伝子の大規模追跡調査結果は新型コロナウイルスの変異様式について以下のような貴重な情報を提供してくれているのかもしれません。(1)新型コロナウイルスは都市封鎖中でも変異を繰り返す。(2)感染力が強化し毒性(怖さ)も増した「アルファ株」が出現し多大な被害をもたらした。(3)ワクチン効果が低下する「免疫逃避能力」を持った様々な変異株が各国で発生し他国へも流入した。これによりアルファ株が淘汰された。(4)これまでで感染力が最も強い「デルタ株」がインドで発生し世界中に拡散した。また、デルタ株は毒性が弱いため人類との共存に長けており、他の変異株を淘汰し世界の主流となった。事実、日本でもアルファ株(日本の第4波)の流行で死者数は右肩上がりに増えています。しかし、デルタ株に代わって感染者数は右肩上がりに増え始めましたが、死者数の増加は抑えられています(43 季節性インフルエンザやその他の感染症との違いは?の章参照)。また、アルファ株の流行が激しかった都道府県では、新型コロナウイルスによる累積死者数も多い傾向を示しています。パンデミックの歴史が教えてくれるように、新型コロナウイルスも感染力を増しながら毒性を弱くし、人類との共存を模索しているのかもしれません。また、人類も新型コロナウイルスに対する集団免疫を日々強化させ、ワクチン接種が更に集団免疫獲得を加速してくれます。ワクチンもなく医療水準も現在とは比較にならないほど低かったスペイン風邪流行時には、東京都健康安全研究センターによると、1918年~1919年に日本で257,363人も亡くなられています。しかし、死者数は1919年~1920年に127,666人と半減し、1920年~1921年には3,698人にまで減少しています。現在の日本でも、季節性インフルエンザに毎年1,000万人以上が感染され、約3,000人が亡くなられている現実から考えると、スペイン風邪はワクチンが無かったため多くの死者を出してしまいましたが、3年目には季節性インフルエンザ程度に落ち着いたのかもしれません。

このように、いくら都市封鎖を行っても膨大な種類の新たな変異株がうまれ、より環境に適した変異株が生き残り他の変異株は淘汰して行くことを教えてくれているのかもしれません。つまり、都市封鎖などの行動制限は、医療体制を整えるための時間稼ぎでしかなく、変異株の出現抑制には無力な事を科学的根拠にもとづき示してくれているようです。著者達は、新型コロナウイルス感染の「Endemic(終息)」のためには「免疫の獲得しかない」と締めくくっています。また、デルタ株は毒性は弱くても感染力が非常に強いため、感染拡大を防ぐためには「85%の集団免疫」が必要な可能性も示しています。事実、イギリスで2回目ワクチン接種完了率は2021年10月18日時点で65.73%ですが、毎日4万人以上の新規感染者がでています。しかし、多くの新規感染者を出しながらも、死者数はワクチン接種前に比べて12倍以上も減少しています。ワクチン接種率を85%にすることは至難の業で、「感染者数」や「陽性者数」を指標にすれば永遠に終わりはないのかもしれません。ワクチンが存在する季節性インフルエンザでも本邦で毎年1,000万人以上が感染し、3,000人近くが亡くなられている現実から考えると、第6波が起こった場合も、感染者数や陽性者数ではなく、死につながる危険のある重症者数を指標にすることが科学的に妥当と個人的には強く信じています。

デルタ株に対する感染予防を目的とした集団免疫の獲得の難しさをインド・デリー市の調査結果も示しているのかもしれません(Dhar MS, Science 2021, 10/14)。マスク着用の習慣もなく貧富の差の激しいインドでは2020年9月時点で、新型コロナウイルスの自然感染でデリー市の14.7%の成人は既に抗体を獲得されていたようです。陽性率は日増しに増加し、2021年2月には42.1%に達しています。しかし、2021年3月にはデルタ株の爆発的感染拡大が起こっています。この感染爆発により、2021年7月時点の抗体陽性率は87.5%にまで達しています。デルタ株の感染爆発時には一日あたりの新規感染者は412,431人(2021年5月5日)で死者数は4,454人に達していますが、2021年10月16日時点では一日あたりの新規感染者は14,146人、死者数は144人です。抗体陽性率が「87.5%」に達して、感染者数は92倍減少し、死者数は31倍減少した計算になります。一方、イギリスでは、ワクチン接種前の一日あたりの新規感染者62,322人に対して、ワクチン2回目接種率が65.73%(2021年10月18日)に達しながら、一日の新規感染者は42,818人で、1.45倍の減少しか認めていません。一方、死者数はワクチン接種前の1,820人から接種後の2021年10月16日には148人と12倍減少しています。やはり、「重症化予防」でなく「感染予防」を目的とした場合は、最低でも85%以上の方が新型コロナウイルスに対して免疫を持つ必要がある事を教えてくれています。ワクチンの主目的は、感染予防ではなく「重症化予防」です。第6波では、感染者数や陽性者数で一喜一憂するのでなく、重症者数を指標にする必要があるようです。つまり、年間1,000万人以上が感染し3,000人が亡くなられる季節性インフルエンザと同様な対策、つまり「2類相当からの格下げ」が必要な事をイギリスとインドが教えてくれているのかもしれません。

 

「(40) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(全てが諸刃の剣)?」の章の「各国の将来を見つめたコロナ対応」への追記
原油価格がうなぎ上りに上昇しガソリンをはじめとした多くの価格が高騰を始めています。世界の多くの国が、新型コロナウイルスに対して「ゼロコロナ」や「ゼロリスク」はあり得ない事を受け入れ、経済回復に舵をきられた事を如実に物語っているのかもしれません。イギリス(人口:約6,790万人)の一日あたりの新規感染者数は2021年10月16日は42,818人で、都市封鎖を余儀なくされた第3波の62,322人と大差はありません。しかし、一日あたりの死者数は2021年10月16日は148人で、第3波で最多を記録した1月6日の1,820人よりは12倍以上少なくなっています。よって、感染者は多くても医療逼迫は認めないため、行動制限は発出されていません。日本の人口(約1億2640万人)に換算すると、一日あたり約8万人の新規感染者が出ても275人程度の死者数に対して、先進国の医療体制は「びくともしない」事を教えてくれているのかもしれません。また、2021年10月18日時点で、ワクチンの2回接種終了率はイギリスの65.73%に対して、日本は66.37%で既に上回っています。

「(45) 重症化しやすい基礎疾患は?」の章の「エイズ」への追記
エイズを発症するhuman immunodeficient virus(HIV)ウイルスが我々の細胞に侵入するために使う鍵穴は、免疫軍の主力部隊であるT細胞が特異的に発現する「CD4」と呼ばれる分子です。よって、主力部隊が機能しなくなり、免疫力が低下し、健常人に全く問題を起こさない非常に弱い病原体に対してもエイズ患者さんでは死に至るような重症化を起こしてしまいます(日和見感染)。よって、エイズ患者さんは、新型コロナウイルス感染でも重症化を起こし易い事は世界中で示されています。米国から2020年1月から2021年5月8日までの新型コロナウイルス感染者の調査結果が2021年10月13日に報告されました(Yang X, Lancet HIV 2021, 10/13)。Population-basd National COVID Cohort Collaborative (N3C)のデータベースをもとに18歳以上の感染者1,436,622人が対象です。このうちエイズ患者さんは13,170人と報告されています。健常人に比べて、エイズ患者さんの死亡率は1.29倍、入院率は1.20倍高くなるようです。また、重症化はCD4陽性T細胞の減少に相関して高くなるようです。しかし、非常に興味深い結果は軽症者です。エイズ患者では軽症者が健常人に比べて0.61倍少ない可能性が報告されています。軽症者が少なく重症者が多いと言う事は、侵入してきたウイルスを接近戦で撃退してくれるCD4陽性T細胞部隊が少ないエイズ患者さんでは、新型コロナウイルスに感染してしまうと急激に悪化する可能性を示唆しているのかもしれません。

スペイン・カタロニア地方から新型コロナウイルスに感染したエイズ患者さんの調査結果が2021年10月13日に報告されました(Namah DK, Lancet HIV 2021, 10/13)。平均年齢は43.5歳で、男性が82.5%を占めるようです。感染した場合の入院率は13.8%で死亡率は1.7%と報告されています。エイズ患者さんのうち、新型コロナウイルスの感染率は移民で1.55倍、ホモセクシュアルで1.42倍、4つ以上の基礎疾患合併で1.46倍高くなるようです。また、エイズ患者さんの新型コロナウイルス感染による死亡率は、75歳以上で5.2倍、メタボで2.59倍、精神疾患で1.69倍高くなる可能性が報告されています。

「(49) 治療法は?」の章への追記
免疫軍は、敵が侵入してくると即座に攻撃を仕掛ける「自然免疫」、敵の顔を72時間以上かけて覚え的確に撃退してくれる非常に頼もしい「獲得免疫」に分かれます。ワクチンは、擬似の敵に遭遇させ、顔を獲得免疫に事前に覚えさせておき、実際に敵が侵入してきたら72時間の時差なく自然免疫と獲得免疫が同時に攻撃できるようにしてくれます。獲得免疫は、侵入してきた敵を接近戦で倒してくれる重症化予防の専門家である「T細胞」と、飛び道具である抗体で敵が侵入するために使う鍵を叩き落とし敵の侵入を防ぐ感染予防の専門家である「B細胞」にわかれます。また、速攻攻撃を仕掛ける自然免疫の中で、一番最初に攻撃を仕掛けるのは「好中球」で、攻撃した後3日以内に死んでしまう特攻隊的役割を担います。好中球の死骸が「膿」です。好中球は敵(病原体)を倒してくれる頼もしい味方ですが、暴走してしまうと味方も攻撃してしまい「自己炎症性疾患」と呼ばれる病気を起こしてしまいます。プリン体のとりすぎが原因となる「痛風」も「広義の自己炎症性疾患」です。名前が似ているので混乱されがちですが、「自己免疫疾患」は獲得免疫の暴走により起こる病気です。好中球の機能を阻害できるのは「コルヒチン」と呼ばれる薬で痛風など自己炎症性疾患の治療に用いられています。新型コロナウイルス感染に対するコルヒチンの臨床試験結果が2021年10月18日に報告されました(RECOVERY collaborative group, Lancet Respiratory Medicine 2021, 10/18)。イギリス、インドネシア、ネパールの病院の共同研究です。新型コロナウイルス感染で入院治療が必要となった5,610人の感染者に対し、コルヒチン1㎎が最初に投与され、その後は0.5mgが12時間おきに10日間投与されています。偽薬群は5,730人です。平均年齢は63.4歳で、発症して平均9日目から投与が開始されています。また、94%の方にはステロイド治療も併用されています。28日目の死亡率はコルヒチン投与群で21%で、偽薬群も21%で治療効果がなかったと報告されています。

[85版への追記箇所]
「(17) PCRは?」の章の「PCRで感染拡大を防ぐ方法」への追記
PCR法は1つの遺伝子を2倍、次に2倍、さらに2倍と増やし続けることにより、僅かしか存在しないウイルスを検出可能にする遺伝子増幅技術です。「古典的PCR法」、相対的に遺伝子数が推定できるようになった「定量PCR(qPCR)法」、遺伝子の絶対数が測定可能になった「デジタルPCR(dPCR)法」、測定時間が短縮できる「ランプ(LAMP)法」が、現在では一般的です。新型コロナウイルス検査においては、定量ができない古典的PCR法を除いた3つの方法が世界的に用いられています。これらの方法の新型コロナウイルス検出精度に関するメタ解析の結果が2021年10月12日に報告されました(Au WY, Lancet Microbe 2021, 10/12)。今回の調査対象の試薬は、各国政府により承認された検査キットが使われています。「感度」つまり感染者を見逃さない確率は、dPCRが94.1%、qPCRが92.7%、LAMPで83.3%と報告されています。つまり、感度が最も高いdPCR法でさえ、100人の感染者のうち6人が見逃され、LAMP法に至っては17人も見逃される計算になります。「特異度」つまり陽性であった方が本当に感染者である確率は、LAMP法が96.3%、qPCRが92.9%、dPCRが78.5%と報告されています。dPCRで陽性と診断された100人のうち、21人以上は実際には感染していなかったことになります。用いられるPCR法に依存して100人中6~17人の感染者が見逃され、陽性者と診断された100人のうち4~21人は濡れ衣を着せられて自主隔離を余儀なくされている可能性があるのかもしれません。これまでの報告からすると、、PCR検査結果の精度は「試薬キット」、「検査を行う技師さんの熟練度」、さらには「検出に用いるPCR法の種類」といった様々な要因により左右されるのかもしれません。

 

「(28) 世界のワクチン効果の現状は?」の章への追記
ファイザー社RNAワクチンの効果に対する長期的調査結果(2020年12月から2021年8月)がアメリカの南カリフォルニアから2021年10月4日に報告されました(Tartof SY, Lancet 2021, 10/4)。492万人が対象です。2回目を接種して1か月目の感染予防効果は88%ですが、5か月が経過すると47%にまで低下する可能性が報告されています。また、デルタ株に対する感染予防効果は2回目接種後は93%で、4か月経過すると53%に低下するようです。高齢者では更に低下し、65歳以上の感染予防効果は2回目接種後で80%、5か月経過すると43%と報告されています。しかし、ご安心下さい。ワクチンの主目的は「感染予防」ではなく「重症化予防」です。事実、季節性インフルエンザでも毎年1,000万人以上が本邦で感染しクリニックを受診されていますが、死者数は免疫力の低下した約3,000人に抑えられています。ファイザー社RNAワクチンのデルタ株に対する重症化予防効果(入院予防効果)は2回目接種後は93%で、6ヶ月が経過しても93%も維持されると報告されています。65歳以上の重症化予防効果も、2回目接種後が87%で、5か月が経過しても88%も維持されるようです。

同様な結果がカーターから2021年10月6日に報告されました(Chemaitelly H, New England J Medicine 2021, 10/6)。ファイザー社RNAワクチンを1回接種して3週目から36.8%の感染予防効果が現れ始め、2回目接種から1か月後で77.5%に達して、4か月後から低下をはじめ、5~7か月後には20%にまで低下する可能性が報告されています。一方、重症化予防効果は、1回目接種後3週目から66.1%の効果が出始め、2回目接種から1か月後では96%以上に達し、6か月が経過しても96%が維持されるようです。また、4,868人を対象としたイスラエルからの2021年10月6日の報告(Levin EG, New England J Medicine 2021, 10/6)によると、感染予防に寄与する中和抗体がファイザー社RNAワクチン接種後に減りやすい要因は、男性が女性に比べて0.64倍減少、65歳以上が45歳以下に比べて0.58倍減少、免疫抑制剤服用者では健常者に比べて0.30倍減少する可能性が報告されています。これらの結果は、ワクチン接種が進んだ国でさえ、新型コロナウイルスの感染者が増え流行を起こす可能性は高いが、重症者数は抑制できる事を教えてくれています。日本でも、今年冬には新型コロナウイルスの第6波が起こる可能性はありますが、重症者や死者数は充分に(少なくとも季節性インフルエンザ程度に)抑制できると考えるのが科学的に妥当と思います。すなわち、感染者数で一喜一憂するのでなく、「酸素吸入」や「人工呼吸器装着」が必要となった中等症から重症の感染者数を冷静に見る必要があるのかもしれません。

「(29) ワクチン接種回数は?」の章の「1回接種と2回接種の比較」への追記
米国疾患管理予防センター(CDC)の2021年10月7日のホームページによると、3回目接種を「Additional Dose」と「Booster Dose」の2つに分けられているようです。「Additional Dose」は、中等症から重症の免疫不全患者さんが対象で、ファイザー社RNAワクチン又はモデルナ社RNAワクチンを2回目接種し28日が経過して3回目の接種が行われています。一方、「Booster Dose」では2回目接種から6ヶ月以上が経過した方に3回目の接種が行われています。「Booster Dose」の対象者は、「65歳以上の高齢者」、「18歳以上で重症化リスクに規定される基礎疾患がある方(「45:重症化しやすい基礎疾患」の章参照)」、「福祉・介護施設や精神科病棟の入居者など(long-term care setting)」、「18歳以上の医療従事者、消防士、警察官、福祉施設職員など(Occupational or Institutional setting)」のようです。

「(40) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(全てが諸刃の剣)?」の章の「公共対策」への追記
都市封鎖が「ガン患者さん」に及ぼす影響に関する61か国に及ぶ466病院の調査結果が2021年10月5日に報告されました(COVID Surg Collaborative, Lancet Oncology 2021, 10/5)。行動制限により20,006人のガン患者さんの根治的外科手術が延期され、2,003人(10%)の命が失われたと報告されています。都市封鎖ような完全な行動制限では15%の、中等度の行動制限で5.5%の、軽度の行動制限で0.6%のガン患者さんの救える命が失われる可能性があるようです。

新型コロナウイルスのパンデミックが精神・神経疾患発症に及ぼす影響の世界的調査結果が2021年10月8日に報告されました(COVID-19 Mental Disorders Collaborators, Lancet 2021, 10/8)。「新型コロナウイルス感染者の増加」に相関して、または「行動制限による移動の減少」に相関して「うつ病」と「不安障害」が増加していることが報告されています。新型コロナウイルスのパンデミックにより、世界で5,320万人のうつ病患者さんが増加(27.6%増加)し、7,620万人の不安障害の患者さんが増加(25.6%)したようです。

 

「(45) 重症化しやすい基礎疾患は?」への追記
2021年10月7日の米国疾患管理予防センター(CDC)のホームページを見ると、これまで世界各国で蓄積された情報をもとに、新型コロナウイルス感染で重症化しやすい基礎疾患を4段階に分類されています。2020年4月発表とは少し異なる疾患もあるようです。蓄積された多くの報告をもとにした「メタ解析」で重症化との因果関係が統計学的有意差を持って示されている基礎疾患が「カテゴリー1」に、幾つかの大規模観察研究により重症化との因果関係が示されている基礎疾患が「カテゴリー2」に、小規模な観察研究により重症化との因果関係が示されている基礎疾患が「カテゴリー3」に、重症化との因果関係を示す報告ばかりでなく、因果関係を否定する報告もあり賛否両論な基礎疾患が「カテゴリー4」に分類されています。「カテゴリー1」はガン、心血管障害、慢性腎障害、閉塞性肺障害(COPD)、I型およびII型糖尿病、心不全、BMIが30以上の肥満、妊婦、喫煙者と禁煙者です。「カテゴリー2」はダウン症候群、鎌状赤血球症、エイズ、認知症、BMIが25以上の肥満者、肺高血圧、肺線維症、臓器または造血幹細胞移植、薬物中毒、ステロイド使用です。「カテゴリー3」はサラセミアと嚢胞性線維症です。「カテゴリー4」は喘息、高血圧、急性腎不全、肝障害です。2020年4月から、「BMIが25以上のI度肥満」、「認知症」、「ダウン症候群」「妊婦」、「薬物中毒」、「喫煙歴」が新たに重症化リスクに加わり、「脳血管障害」が外されています。米国CDCでは、この様な基礎疾患がある方には3回目(ブースト)のワクチン接種を推奨されています。
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/hcp/clinical-care/underlyingconditions.html

Office for National Statistics Public Health Data Assetに登録された2,930万人を対象とした新型コロナウイルス感染による重症化因子の調査結果がイギリスから2021年10月6日に報告されました(Bosworth ML, Lancet Public Health 2021, 10/6)。新型コロナウイルス感染で亡くなられた方は105,213人で、このうち61,416人(58%)は肉体的または精神的障害者(disabled)と報告されています。感染者1000人あたりの死者数は、健常人で2.99人、日常生活に軽い支障のある男性で5.55人で、女性では3.92人、日常生活に大きな支障のある男性で9.39人、女性では7.36人のようです。「学習障害」のある方では、健常者に比べて死亡率が7~8倍増える可能性も報告されています。

「(48) 後遺症は?」の章への追記
新型コロナウイルスに感染し中等症以上で入院治療を受けて退院された1,077人(平均年齢58歳)の追跡調査結果がイギリスから2021年10月7日に報告されました(Evans RA, Lancet Respiratory Medicine 2021, 10/7)。感染しても軽症だった場合は3か月後に完全回復された方は70~90%に達するのに対し、入院治療が必要となった中等症以上の感染者では、退院から6ヶ月が経過しても完全回復された方は28.8%と報告されています。また、職場復帰できた方は17.8%と少ないようです。6か月後に後遺症が残っている方のうち、歩行困難等の「非常に重度」の後遺症は17%、「重度」の後遺症は21%のようです。後遺症が残った方の50%以上はBMIが30を超える肥満者と報告されています。このような後遺症が残り易い方は「40~59歳女性」、「2つ以上の基礎疾患がある方」、「BMIが30を超える肥満者」、「重症度が高かった感染者」、「入院中に予防的抗凝固療法を受けていない方」のようです。これまでの報告からすると、死に至る重症化は肥満男性に起こり易く、日常生活に差し支えがある後遺症は肥満女性に起こり易いのかもしれません。

 

[84版への追記箇所]
「(28) 世界のワクチン効果の現状は?」の章への追記
ワクチンの役割は、中和抗体産生を誘導しての「感染予防」とT細胞軍を活性化しての「重症化予防」の2つです。核酸ワクチンが新型コロナウイルスに対して想像を遥かに超えた感染予防効果を発揮しているため「ワクチン=感染予防」と信じられている方がいらっしゃるかもしれませんが、誤解です。ワクチンの主な目的は重症化予防です。事実、ワクチンがある季節性インフルエンザでも毎年1,000万人以上が日本で感染されていますが、死者数は約3,000人で、死亡率は0.03%と低く抑えられています。季節性インフルエンザでも「ゼロインフルエンザ」や「ゼロリスク」はありえません。ファイザー社RNAワクチンとアストラゼネカ社DNAワクチンは、免疫がしっかりしている健常者に対しては1回の接種でも強い重症化予防効果が引き出せる可能性が2021年9月29日にスコットランドから報告されました(Agrawal U, Lancet Respiratory Medicine 2021, 9/29)。調査期間は2020年12月8日から2021年4月18日で、ファイザー社RNAワクチン(32.7%)またはアストラゼネカ社DNAワクチン(67.3%)を1回接種された時点の275万人が対象です。1回目接種後に新型コロナウイルスに感染して入院治療が必要となった方は883人(0.034%)で死者は228人(0.0089%)と報告されています。また、ワクチン1回接種での重症化予防効果は様々な要因で低下するようです。重症化予防効果は、80歳以上で4.75倍、5つ以上の重症化リスクがあれば4.24倍、老人ホームの入居者で1.63倍、社会的経済貧困者で1.57倍、男性で1.27倍低下する可能性が報告されています。

核酸ワクチンは新型コロナウイルスが持つタンパク質の一部を我々の細胞で作らせます。一方、リコンビナントワクチンは、核酸の情報をもとに「生体外」で作り出されたタンパク質を接種します。B型肝炎のワクチンなどで用いられている手法です。ノバックス社のリコンビナントワクチンの新型コロナウイルスに対する臨床試験結果が2021年9月23日に報告されました(Health PT, New England J Medicine 2021, 9/23)。15,187人にノバックス社リコンビナントワクチン5μgが21日間隔で2回接種されています。対象者のうち27.9%は65歳以上で、44.6%は基礎疾患があるようです。ワクチン接種者中10人が感染されていますが、重症者はゼロと報告されています。偽薬群は14,039人で、96人が感染され10人が重症化されています。ノバックス社リコンビナントワクチンの感染予防効果は89.7%のようです。また、アルファ株に対する感染予防効果は86.3%、アルファ株以外は96.4%と報告されています。副反応も既存のワクチンと差はないようです。リコンビナントワクチンは既存の手法で乳幼児にも用いられているため、子供達の感染予防に期待が持てる結果かもしれません。

アメリカ、チリ、ペルーを対象としたアストラゼネカ社DNAワクチン効果の調査結果が2021年9月29日に報告されました(Falsey AR, New England J Medicine 2021, 9/29)。調査期間は2020年8月28日から2021年1月15日で、平均年齢は50.2歳です。ワクチンを2回接種し61日が経過した17,662人のうち、感染者は73人(0.4%)で重症者はゼロと報告されています。偽薬群は8,550人で、感染者は130人(1.5%)で重症者は8人です。興味深い結果は年齢別の予防効果です。18歳~64歳の72.8%に対し、65歳以上は83.5%と予防効果は高齢者で高くなっています。入院の予防効果も94.2%あるようです。また、ブレイクスルー感染を起こした方のうちエプシロン株が17人に検出されています。

アメリカから医療従事者を対象にしたワクチン効果の調査結果が2021年9月22日に報告されました(Pilishvili T, New England J Medicine 2021, 9/22)。1,482人の医療従事者が対象です。1回接種での感染予防効果はファイザー社RNAワクチンでは77.6%、モデルナ社RNAワクチンは88.6%と報告されています。2回目接種の感染予防効果はファイザー社RNAワクチンでは88.8%で、モデルナ社RNAワクチンは96.3%のようです。また、ワクチンの感染予防効果は妊婦さんでも変化がないことが示されています。ファイザー社RNAワクチン、モデルナ社RNAワクチン、アストラゼネカ社DNAワクチン、ノバックス社リコンビナントワクチンの感染予防効果が同時期(2021年9月)に報告されたので、まとめてみました。異なった条件での調査のため比較は難しいですが、感染予防効果はモデルナ社RNAワクチンが最も高いのかもしれません。

[(29) ワクチン接種回数は?]の章の「症状があり抗体も陽性の方」への追記
半減期の1番長い抗体は「IgG1」で23日です。つまり、一度作られると23日後には半分の量に減り、約2か月でほぼ無くなります。一方、抗体を作るB細胞と形質細胞の寿命は7か月以上で長いものでは45年です。つまり、B細胞や形質細胞が生きている限りは、抗体が無くなってもいつでも作ってくれます。新型コロナウイルスを攻撃できるB細胞(memory B cells)の寿命は、実際に感染した場合は12か月以上、ファイザー社RNAワクチン接種では183~362日の可能性が2021年9月14日に報告されました(Sokal A, Immunity 2021, 9/14)。また、新型コロナウイルスを攻撃できるB細胞の数も、「ワクチン2回接種者」に比べて、「過去に感染し軽症で済みワクチンを1回接種した人」で約10倍、「過去に感染し重症化してしまい回復後にワクチンを1回接種した人」では約100倍も増える可能性が報告されています。抗体を作るB細胞の数も増えるため、抗体の量も相関して増えるようです。中和抗体量は、「感染歴のないワクチン2回接種者」で10,870 AU/mL、「軽症の感染歴がありワクチンを1回接種された方」は55,024AU/mL、「重症の感染歴がありワクチンを1回接種された方」では75,511 AU/mLと報告されています。

既存の季節性コロナウイルスに対する1984年から2020年の研究結果をもとに、新型コロナウイルスに対する抗体産生期間の数理解析結果が2021年10月1日に報告されました(Townsend JP, Lancet Microbe 2021, 10/1)。中和抗体量が最大に達したあと3か月から5.1年で新型コロナウイルスに再感染する可能性があるようです。平均は16か月と報告されています。ただし、この期間にワクチン接種を再度行うか、新型コロナウイルスに暴露すれば感染予防効果は維持される事を教えてくれています。

また、ウイルスが変異を繰り返すのと同様に、B細胞も体細胞超変異(somatic hypermutation)と呼ばれる手法を用いて、抗体に変異を繰り返し作りだします。これにより抗体が標的に強く引っ付けるようになり殺傷力を増していきます。また、体細胞超変異により抗体の多様性、つまり変異したウイルスをも仕留めることができるようになります。敵の変異に対し、自らも変異を繰り返し、どんな敵も仕留めてくれる、B細胞は本当に心強い味方です。ワクチンを2回接種した方に比べて、B細胞の体細胞超変異の頻度は、「過去に感染し軽症で済みワクチンを1回接種した人」で3倍、「過去に感染し重症化してしまい回復後にワクチンを1回接種した方」では7.8倍も増える可能性が報告されています(Sokal A, Immunity 2021, 9/14)。


「(48) 後遺症は?」の章への追記
肺は、空気の通り道である「気道」、空気を溜める「肺胞」、酸素を取り込む「間質」から構成されています。新型コロナウイルス感染で中等、重症化して入院した60歳以上の方の肺機能の追跡調査結果が2021年9月30日に報告されました(Cheon IS, Science Immunology 2021, 9/30)。退院して2か月が経過しても、70%以上の方に肺の障害を認めています。X線検査では、間質性肺炎を示唆する「すりガラス状陰影」が認められるようです。肺機能検査では、「努力性肺活量(FVC)」と「1秒率(FEV1)」のどちらも低下し混合型肺障害を示しています。肺胞洗浄液(BAL)の検査では、新型コロナウイルスは検出されず、細胞障害性のCD8陽性T細胞が増えている可能性が報告されています。

「(49) 治療法は?」の章の「抗ウイルス薬」への追記
モルヌピラビル(別名EIDO-2801またはMK-4482)は米国メルク社が開発した新型コロナウイルスに対する効ウイルス薬で、「RNAポリメラーゼを阻害」して新型コロナウイルスの増殖を抑制する経口薬です。日本の病院も参加し、アメリカ、イギリス、スペイン、ドイツ、フランス、イタリア、カナダ、イスラエル、スエーデン、ロシア、台湾、アルゼンチン、ブラジル、チリ、コロナビア、メキシコ、フィリピン、南アフリカにおよぶ世界規模のモルヌピラビルの第3相臨床試験の中間結果が2021年10月1日にメルク社から報告されました。肥満、糖尿病、心疾患、または60歳以上という新型コロナウイルス感染での重症化リスクのある軽症から中等症の感染者に、発症して5日以内にモルヌピラビルが経口投与されています。モルヌピラビルを投与された385人のうち、入院治療が必要となった方は28人(7.3%)で死者はゼロと報告されています。偽薬群は377人で入院治療が必要となった方は53人(14.1%)で、死者は8人のようです。重症化リスクのある感染者に対し、半数近くの重症化を抑制した計算になります。また、「ガンマ株」、「デルタ株」、「ミュー株」にも同様の治療効果があるようです。副作用も偽薬群と差が無いようで、期待が持てる結果です。

2021年10月3日には国民の6割にワクチンの2回接種が完了し、軽症者に対し「抗体カクテル療法」も行われはじめ、新たに経口の抗ウイルス薬「モルヌピラビル」も加わわろうとしています。中等症に対しては「血栓予防療法」と「ステロイド療法」が可能であり、重症者に対しても抗ウイルス薬「レムデシビル」やサイトカインストーム治療薬である「パリシチニブ(JAK阻害剤)」や「トシリズマブ(抗IL-6受容体抗体)」も使用可能です。医学研究の進歩は凄まじい限りで、一年半前は未知であった新型コロナウイルスも基礎、臨床の両面から多くが解明され、予防法に加えて、軽症、中等症、重症の各段階における治療法も開発されています。新型コロナウイルスと共存するための準備ができたと言っても過言ではないのかもしれません。新型コロナウイルスの2類相当からの格下げも充分可能と個人的には強く信じています。

「(49) 治療法は?」の章の「抗体カクテル療法」への追記
カクテル療法の臨床試験結果が2021年9月29日に報告されました(Weinreich DM, New England J Medicine 2021, 9/29)。調査期間は2000年9月24日から2021年1月17日です。18歳以上の重症化リスクの高い方に、外来受診から72時間以内にカクテル療法が行われています。BMIの平均は31を超えており、多くの方は肥満のようです。1200mg投与群736人中、入院治療が必要となった感染者は7人(1.0%)で、2400mg投与群1355人中18人(1.3%)です。薬量が少なくとも充分な効果があるようです。偽薬群は1341人で62人(4.6%)に入院治療が必要となっています。また、この調査では興味深い結果も示されています。入院治療が必要となった感染者の55人には100万個/mL以上の新型コロナウイルスが検出され、100万個/mL以下は6人です。ウイルス量が多い方が重症化しやすいと考えるのが免疫学的に見ても妥当と思います。一般的に用いられている定性抗原検査では、正確にウイルス量を定量することはできません。しかし、ウイルス量が多ければ、試薬を滴下して即座(数秒以内)に強い陽性反応(濃いバンド)が出現します。このような強い陽性反応を定性抗原検査で示した感染者は入院を考慮する必要があるのかもしれません。

カクテル療法は点滴により行われるため30分以上が投与に必要で不便な面もあります。この問題点を解決するため、皮下注射の臨床試験結果が2021年9月23日に報告されました(O’Brien MP, New England J Medicine 2021, 9/23)。新型コロナウイルス感染者の濃厚接触者と認定された重症化リスクの高い方753人が対象です。認定後96時間以内に1200mgが皮下注射されています。偽薬群は752人です。新型コロナウイルスに感染して症状が出た方は、カクテル療法群では11人(1.5%)、偽薬群では59人(7.8%)と報告されています。症状が出る発症予防効果は81.4%です。一方、症状は出なかったけれどPCRで陽性となる事を防ぐ効果は66.4%のようです。また、10,000個/mLのウイルスを排出する期間は、カクテル療法群で0.4週、偽薬群で1.3週と報告されています。カクテル療法の皮下注射も可能かもしれません。

「(49) 治療法は?」の章の「人工呼吸器」への追記
新型コロナウイルス感染の重症化により「体外式膜型人工肺(ECMO)」が使用された4,812人の41カ国におよぶ世界的調査結果が2021年9月29日に報告されました(Barbaro RP, Lancet 2021, 9/29)。ECMOを装着されて90日以内の死亡率は2020年5月1日以前が36.9%に対して、5月1日以後では51.9%に増えています。また、ECMO装着の期間の平均は5月1日以前は14.1日に対し、5月1日以降は20.0日と長くなっています。ECMOによる死亡率が5月1日を境に増えた理由は、新型コロナウイルスの病原性(怖さ)とは関係が無く、少なくとも4つの原因があるようです。まずは、「ECMO適応患者さんの不適切な選択」が指摘されています。ECMO装着後の死亡率は、40歳未満に比べて60歳代は2倍、70歳代では4.5倍も増えると報告されています。ECMOは肺を休ませて肺の機能を回復させます。しかし、新型コロナウイルスはテロ行為で血栓を作るため、高齢者では脳梗塞を起こしてしまいます。ECMOでは脳梗塞の治療にはなりません。事実、5月1日以降はECMO装着後に脳梗塞で亡くなられた方が増えているようです。2つ目の原因は「後方支援病院の不足」のようです。ECMOは非常に重症な方に用いられるため、ECMOが外されてもリハビリが必要となります。リハビリのために後方支援病院が患者さんを受け入れてくれなければ、高度医療が必要なくなった患者さんをECMOセンターに溜めてしまい、ECMO治療が本当に必要な感染者を受けいれられなくなります。これが原因で、5月1日以降は、11%の即座にECMO治療が必要な感染者の受け入れに問題がでたようです。3つ目の原因は「ECMO装着前のステロイドとレムデシビルの使用」の可能性があるようです。人工呼吸器を装置され、既に強力な治療が行われても効果がなく悪化した感染者には、ECMOの治療効果も低いのかもしれません。4つ目の原因は「新たに開設されたECMOセンター」のようです。5月1日以降に新設されたECMOセンターでの死亡率は58.9%とさらに高くなっています。ECMOの機械を増やすだけでなく、ECMOに熟練した医療従事者を増やす必要がある事を教えてくれているのかもしれません。

日本のECMOの状況を集中治療学会のホームページで調べてみました。2021年9月30日時点で、新型コロナウイルスでECMOが装着され回復された感染者は677人、死者は327人で、死亡率は32.6%の計算になります。さすが、日本の医療水準の高さを物語っている値で、集中治療室の医療従事者の方々に心より感謝申し上げます。海外からの報告と同様に、日本の医療水準の高さをもってしても、ECMO装着後の死亡率は50歳以上で増えはじめ、70歳以上では50%を超えてしまうようです。また、日本でECMOを装着されて回復された男性は553人、女性は123人、亡くなられた方は男性が256人、女性が70人です。ECMO装着が必要になった重症者は、男性が約4倍も多い計算になります。また、日本集中治療学会のホームページによると2021年10月3日時点で、ECMO装着が必要となった感染者(加療中を含む)は、標準体重以下が304人、肥満者が792人で、ECMO装着者の72.3%に肥満が認められる計算になります。「肥満男性」は新型コロナウイルス感染の重症化に特に注意が必要です。

 

[83版への追記箇所]


「(7) 新生児、小児、学生は?」の章に追記
学校を欠席することは、「学び」さらには「精神的成長」の貴重な時間を奪うため、新型コロナウイルス感染者の濃厚接触者に認定された学生に対する前向き調査結果がイギリスから2021年9月14日に報告されました(Young BC, Lancet 2021, 9/14)。調査期間は2021年3月18日から5月4日で、中学校と高校201校が対象で2群に分けられています。1群目では、これまで同様に濃厚接触者と認定された学生は10日間の自宅待機が指示されています。濃厚接触腫の発症率は「2%」と報告されています。つまり、50人中49人もの学生が「休む必要がなかった」ことになります。2群目の学校では、濃厚接触者と認定された学生に対して、認定後7日間は登校時に抗原検査が行われ、陰性であれば登校が許可されています。欠席率は自宅療養軍の1.8%に対し、抗原検査群では1.47%で7,109人が強制的な欠席を免れています。また、新型コロナウイルスの感染者数は、自宅待機群では10万人中59.1人に対して、抗原検査群では10万人中61.8人で統計学的有意差は認めないと報告されています。学生の状況に応じて、「自宅待機」に加えて「抗原検査陰性での出席」といった臨機応変な対応も可能かもしれません。

「(19) 再感染は?」の章の「交叉免疫」に追記
頻繁に変異を繰り返すのがウイルスの特徴です。この変異に対して免疫軍も「多様性」で対応し撃退してくれます。例えば、B細胞は実際の感染が起こると、一種類ではなく、ウイルスの異なった部位(エピトープ)を標的とする多種多様な抗体を作ります。このうちの数種類の抗体は、新型コロナウイルスの変異により効果が無くなります。しかし、他の種類の抗体が確実に新型コロナウイルスを撃退してくれる可能性が、構造解析を含む最先端技術を駆使して2021年9月23日に報告されました(Hastie KM, Science 2021, 9/23)。例えば、新型コロナウイルスの「RBD2a」と呼ばれる部位を狙う抗体は、ウイルスが417番目のアミノ酸をリシン(K)からアスパラギン(N)に変異(K417N)させると効果が無くなるようです。また、ウイルスが452番目のアミノ酸をロイシン(L)からアルギニン(R)(L452R)に、または、484番目のアミノ酸をグルタミン酸(E)からリシン(K)(E484K)に変えても抗体の効果は減弱します。しかしK417N変異株は、RBD3、またはRBD4、またはRBD5のいずれかを標的とする抗体が撃退してくれると報告されています。E484Kを持つ変異株はRBD5を標的とする抗体が撃退してくれ、L452R変異株はRBD1、またはRBD3、またはRBD5のいずれかの部位を標的とする抗体が撃退します。表に示すように、各々の変異株に対して効果が無くなる抗体が出ても、効果が維持される抗体も残ります。敵の七変化(変異)に対し、免疫軍の持つ多様性が効果を発揮してくれており、非常に頼もしいかぎりです。

「(28) 世界のワクチン効果の現状は?」の章に追記
アルゼンチン、ブラジル、南アフリカ、アメリカ、ドイツからファイザー社RNAワクチンの調査結果が2021年9月15日に報告されました(Thomas SJ, New England J Medicine 2021, 9/15)。2,264人の12~15歳と16歳以上の44,165人が対象です。2回目接種後6か月の感染予防効果は91.3%、重症化予防効果は96.7%と報告されています。また、「ベータ株」に対する感染予防効果は100%に達する可能性があるようです。

イスラエルから16歳以上を対象とした全国民の調査結果が2021年9月22日に報告されました(Hass EJ, Lancet Infectious Disease 2021, 9/22)。2020年12月20日から2021年4月10日までの4か月間で、ファイザーRNAワクチン接種のおかげにより、158,665人が新型コロナウイルスの感染を免れ、24,597人が入院を免れ、5,532人もの命が救われたと報告されています。65歳以上の高齢者はが、入院を免れた方の65.9%、命を救われた方の91%を占める可能性があるようです。

「(28) 世界のワクチン効果の現状は?」の章の「疾患別ワクチン効果」へ追記
アメリカからファイザー社RNAワクチン効果の興味深い調査結果が2021年9月22日に報告されました(EL Sahly HM, New England J Medicine 2021, 9/22)。15,206人のファイザー社RNAワクチン接種者と、15,209人の偽薬投与者が比較検討されています。ワクチン接種者のうち、感染者は55人で重症者は2人のようです。偽薬群では、感染者は744人で、重症者は106人です。ワクチンによる感染予防効果は93.2%、重症化予防効果は98.2%と報告されています。また、感染予防効果は、「18歳から65歳」で93.4%、「65歳から74歳」では89.7%で加齢により低下するようです。また、感染予防効果は、「糖尿病」で96.2%、「肥満」で91.4%、「慢性肺疾患」で87.2%、「肝臓疾患」では81%と報告されています。ワクチンの感染予防効果を十二分に引き出すには、お酒の飲みすぎには注意が必要かもしれません。この論文で非常に興味深い結果は、ワクチンの感染予防効果が職種によって異なる可能性です。感染予防効果は、「医療従事者」で94.4%、「飲食やアパレル(Retail & restaurant workers)」で92.0%、「運輸行と配送業(Transporation & delivery)」で91.3%、「集荷倉庫従事者(Warehouse shipping & fulfillment center workers)」で86.1%、「ホテルや観光業(Hspitality & tourism worker)」で74.1%と報告されています。おもてなしが非常に重要となるホテル従業員やツアーガイドさんでは、感染のリスクが高まりワクチン効果も減弱している可能性は否定はできません。観光業の方は完璧な感染予防対策が必要かもしれません。

「(29) ワクチン接種回数は?」の章の「1回接種と2回接種の比較」へ追記
イスラエルからファイザーRNAワクチンの3回目接種後の効果が2021年9月15日に報告されました(Bar YM, New England J Medicine 2021, 9/15)。2回目接種を行い5か月以上経過した人に比べて、3回目接種では感染率を10.4%~12.3%まで約10倍低下させ、重症化率を4.8%~6.1%まで約20倍低下させる可能性が報告されています。

ブースト接種による高齢者の中和抗体量の調査結果も2021年9月15日に報告されました(Falsey AR, New England J Medicine 2021, 9/15)。55歳~64歳の11人と65歳以上の12人が対象です。2回目接種から7.9~8.8ヶ月が経過した方に30μgのファイザー社RNAワクチンがブースト接種されています。ブースト接種前に比べて、オリジナルの「武漢株」に対する中和抗体量(GMT)は55歳~64歳では約5倍、65歳以上では約7倍増加するようです。また、「ベータ株」に対しては、55歳~64歳では約15倍、65歳以上では約20倍増加すると報告されています。ブースト接種は、変異株に対して効果をより発揮し、65歳以上の高齢者にとって有効性が高いのかもしれません。

事実、イスラエル、イギリス、アメリカのブースト接種の対象者は高齢者です。イスラエルでは「2回接種から5か月以上か経過した50歳以上の方」、イギリスでは「2回目接種から半年以上が経過した50歳以上の方と医療従事者」を対象としたワクチンの3回目接種が開始されています。アメリカの食品医薬品局(FDA)は、「65歳以上」を対象とした3回目接種を開始する事を2021年9月17日に決定されました。

「(31) ワクチン接種の判断は?(65歳以上の高齢者 vs 成人 vs 未成年)」の章へ追記
「ワクチンパスポート」を入国時に義務化する国も想定されるため、海外旅行、海外出張、海外留学などを考えられている方には、ワクチン接種は大きなメリットになるかもしれません。事実、アメリカのホワイトハウスは2021年11月から空路での入国者にワクチン接種完了を義務付ける方針を2021年9月20日に発表されました。

「(32) ワクチン接種後の再感染(ブレイクスルー感染)は?」の章へ追記
米国疾患予防センター(CDC)の報告によると、2021年9月13日時点でワクチンの2回接種が完了した方は1億7,800万人で、ブレイクスルー感染を起こした方は15,790人(0.01%)で、死者は3,040人(0.009%)と報告されています。米国で使用されるワクチンの殆どは、日本と同様にファイザー社RNAワクチンとモデルナ社RNAワクチンのため参考になるのかもしれません。ブレイクスルー感染で入院治療が必要となった感染者の70%が65歳以上で、死者の87%を65歳以上が占めています。やはり、免疫力が低下している高齢者にはワクチンのブースト接種が必要なようです。

 

群馬県伊勢崎市の病院でクラスターが発生し25人の感染者のうち24人がブレイクスルー感染である可能性が2021年9月23日に報道されました。これまでのブレイクスルー感染率(0.01%)に関する世界の報告から考えると、オースラリアで起こったような「検査での偽陽性(感染していなくても陽性となる)」や「接種されたワクチンの不活化(希釈間違い等)」等が原因と考えるのが科学的に妥当と思います。しかし、もし本当のブレイクスルー感染であれば、世界が注視している「Variant of High Consequence(VOHC)」に分類される新たな変異株が伊勢崎市で発生した可能性も否定はできません。第2の武漢にならないためにも、早急な、政府機関による調査に加えて、WHO等の国際機関による調査も必要と個人的は思います。

「(33) ウイルスの変異は?」の章へ追記
ワクチン効果や感染拡大の現状などを考慮して、米国疾患予防管理センター(CDC)は変異株の分類を2021年9月21日に変更されました。新たな分類は4段階で、警戒レベルの低い順に、「Variant of Being Monitored (VBM)」、「Varinat of Interest (VOI)」、「Variant of Concern (VOC)」、「Variant of High Consequence (VOHC)」です。「デルタ株」はVOCに留められ、その他全ての変異株は「VBM」に格下げされました。今後は、未だ出現していない、ワクチン効果が期待できなくなる「VOHC」に世界が注視し、もし出現すれば、その時こそは世界への拡大を防ぐため即座の都市封鎖が必要になるのかもしれません。

「(35) 変異したウイルスの末路は?」の章へ追記
各都道府県のホームページ掲載情報をもとに、これまでの各都道府県別の新型コロナウイルス感染状況を整理してみると、海外からの報告と同様に人口あたりの感染者数と死者数は人口の多い都道府県では、少ない府県に比べて約2倍となるようです。例外は、観光客の多い沖縄県で、感染者数は332人/1万人と、2位の東京都の264人/1万人より多くなっています。一方、死者数が最も多いのは大阪府で3.29人/1万人、次に北海道の2.80人、兵庫県の2.52人の順に続きます。これらの3府県の特徴は、人工呼吸器(ECMOを含む)の装着が必要になった重症感染者数が、第4波以前の方が第5波より多くなっています。例えば、日本集中治療学会の報告によると、大阪府で人口呼吸器を装着された重症感染者はアルファ株が蔓延した2021年4月24日の284人が最多で、デルタ株が蔓延した第5波期間中の最多は9月10日の179人と少なくなっています。一方、東京都、千葉県、神奈川県の関東圏では人口呼吸器を装着された重症者数は第5波で多くなっています。例えば、東京都での人口呼吸器装着者数の最多を記録したのは、第4波のアルファ株が蔓延中が2021年5月12日の71人に対して、第5波のデルタ株蔓延中では8月29日の243人と3倍以上増えています。死に至る危険性から考えると、アルファ株の方がデルタ株よりも恐ろしいようです。アルファ株とデルタ株の感染拡大における地域差の原因が解明できれば、今後の新型コロナウイルス対策を考えるうえで光明をもたらしてくれるのかもしれません。また、米国CDCの報告によると2021年9月20日時点の米国での累積PCR検査数は約5億6,422万回です。厚生労働省の報告では日本の累積PCR検査数は約2,316万回で、人口当たりのPCR検査数は米国より約8倍少ない計算になります。一方、新型コロナウイルスの累積感染者数は、米国が約4,250万人に対して日本は約168万人で約8倍少ない計算になります。同様の結果は国内でも認められます。PCR検査数が多いのは大阪府、東京都、沖縄県ですが、感染者数が多いのも沖縄県、東京都、大阪府です。これまで蓄積されて世界各国からの結果、さらには国内の結果も、PCR検査数をいくら増やしても新型コロナウイルス感染拡大予防にはつながらない事を教えてくれています。事実、米国CDCは2021年12月からPCR検査を中止し、蛋白レベルで検査可能なマルチプレックス法などへの移行を表明されています。
https://www.cdc.gov/csels/dls/locs/2021/07-21-2021-lab-alert-Changes_CDC_RT-PCR_SARS-CoV-2_Testing_1.html

 

「(40) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(全てが諸刃の剣)?」の章の
「比較の重要性」への追記
新型コロナウイルス感染は無症状者が多いため、水際で感染者の入国を阻止する難しさを多くの国が経験しています。よって、多くの国では入国者に対して10日程度の隔離措置などをとっていますが、それでも水際で防げていません。また、この水際対策に要する支出も図りしれないレベルに達してきているのかもしれません。ギリシャでは財政危機が続いているため、他国で実施されているような支出がかさむ水際対策は難しく、2020年夏から「EVA」と呼ばれるシステムを構築されているようです。入国前に旅行者に、「Passenger locator form (PLF)」と呼ばれる書類に母国や人種などを記入してもらい、40ポイントで評価して、検査対象者を選んでいるようです。新型コロナウイルスの無症状感染者の入国を、EVAにより1.85倍阻止できた可能性が2021年9月22日に報告されました(Bastani H, Nature 2021, 9/22)。完璧ではありませんが、経済的負担を軽減するためには有効な対策かもしれません。ドラえもんの四次元ポケットのように、無限にお金が作れれば理想です。しかし、「国」は四次元ポケットを持たない事は、ギリシャが教えてくれています。国の財政が逼迫すると、ギリシャのように必要な感染対策さらには感染者の公的援助もできなくなってしまうのかもしれません。日本の将来を考え冷静に対処するフェーズに間違いなく入っているように個人的には思います。

「(48) 後遺症は?」の章への追記
米国疾患予防センター(CDC)の2021年9月24日のホームページの「Post-COVID condition」によると、新型コロナウイルス感染の中等症以上で入院し、退院した方の9~15%は2か月以内に再入院となる可能性が報告されています。再入院の理由は「血栓症」、「呼吸器障害」、「心不全」のようです。再入院のリスクが高い方は「高齢者」、「閉塞性肺疾患の既往」、そして「入院中に血栓症に対する予防治療が行われなかった感染者」と報告されています。新型コロナウイルスで中等症感染以上を起こした方の14.1%に「深部静脈血栓」または「肺塞栓」が認められ、エコー検査で、その他の部位に血栓を認める感染者は40.3%にも上る可能性が報告されています。CDCは「Hospitalized non-pregnants should receive prophylactic dose of anticoaglant」、つまり「妊婦さんを除く中等症患者さんには予防的抗凝固療法を行うよう」に推奨されています。また、入院中に急激な悪化を認めた場合は、血栓症を疑うように指示を出されています。やはり、新型コロナウイルス感染は、免疫軍にとっては弱い敵でありながら命に関わる血栓症というテロ行為を起こすためやっかいなのかもしれません。
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/hcp/clinical-care/post-covid-clinical-eval.html

 

排水管を完全に詰まらせてしまうと、水道が使えなくなり悪臭など多くの困った症状が出現し、専門家による大変な作業(集中治療室での治療)が必要になります。しかし、詰まらせないようにお手入れしておけば、問題は起こりません。新型コロナウイルス感染でも中等症まで悪化してしまえば、早めのお手入れ(予防的抗凝固)が必要なようです。ただし、抗凝固療法は予防的であっても、血を固まりにくくする代わりに、出血を起こし易くして脳出血などの危険もでてきます。よって、薬を用いた予防的抗凝固療法は、病院での治療が必要となった中等症以上の感染者が対象です。血栓を予防するための基本は、① 固まる成分である赤血球の密度を上げないための「こまめな水分補給」、➁ 血液の流れをよくするための「体操等による血行促進」、③ 血を固まりにくくする成分を多く含んだ「青魚(EPA)、玉ねぎ(アリシン)、レモン(クエン酸)を多く摂る」です。新型コロナウイルスで軽症の方は、後遺症の予防のため、この3ポイントに心がけられる事をお勧めします。

「(49) 治療法は?」の章の「抗ウイルス薬」への追記
フランス、ベルギー、オーストラリア、ポルトガル、ルクセンブルグから抗ウイルス薬である「レムデシビル」の中等症の新型コロナウイルス感染者に対する臨床試験結果が2021年9月14日に報告されました(Ader F, Lancet Infectious Disease 2021, 9/14)。18歳以上で、低酸素を伴う肺炎の発症により酸素投与が必要となった感染者857人が対象です。初回に200mgが投与され、その後100mgが9日間投与されています。残念ながら、治療効果はなかったと報告されています。

 

[82版への追記箇所]
「(7) 新生児、小児、学生は?」の章に追記
小児の新型コロナウイルス感染により稀に起こる可能性がある「小児発症性多臓器炎症症候群」に「ベル麻痺」や眼の「強膜炎」と「ブドウ膜炎」が合併する可能性が2021年9月13日に報告されました(Islam M, Lancet Rhematology 2021, 9/13)。ベル麻痺は、ウイルス感染などが引き金となり顔面の半分がマヒして動かなくなり、麻痺した側の舌では味を感じる事ができなくなります。「小児発症性多臓器炎症症候群」の発症を見逃さないためにも注意が必要な症状かもしれません。

「(9) 血栓症は?」の章の「コロナ血栓症の機序」に追記
感染症が重症化すると免疫の暴走を導き、これにより「微小血栓」と呼ばれる小さな血栓が至る所にできる「播種性血管内凝固症候群(DIC)」を起こす事があります。しかし、DICは殆どの感染症で認められ、新型コロナウイルスに特徴的な合併症ではありません。新型コロナウイルスの困る点は「血栓を作るテロ行為」と思います。これにより、軽症であっても、肺、脳、心臓などの血管が突然詰まり、突然死や通常の感染症では考えにくい「あまりにも急激な悪化」を起こすのかもしれません。これまで、新型コロナウイルスは「自己免疫反応の誘導による血栓形成」、「血管炎を誘導して血栓形成」、「血管内皮細胞を刺激して直接的血栓形成」等の仮説が提唱されていました。新たな仮説が2021年9月13日に報告されました(Lee S, Nature 2021, 9/13)。新型コロナウイルスは自然免疫軍の主力部隊であるマクロファージを「老化」させ、老化により作り出された正常とは異なる物質を放出させるようです。この物質により血管内皮細胞も老化してしまい、血管の正常機能が失われた結果、好中球が集まり(Neutrophil extracellular trap, NET)、さらには血を固める役割を担う血小板も活性化させ血栓を形成するという仮説です。新型コロナウイルスが我々の細胞を老化させる可能性は既に報告されています(Camell CD, Science 2021, 6/8)。Leeらは、老化により作り出される物資の産生を抑制できる「Navitoclax」と呼ばれる薬や「ケルセチン」が新型コロナウイルスの血栓予防に効果がある可能性を報告しています。ケルセチンを多く含む食べ物は「玉ねぎ」です。また、玉ねぎには血栓予防効果のある「アリシン」も多く含まれます。新型コロナウイルス対策には「生タマネギの丸かじり」がお勧めなのかもしれません。

「(19) 再感染は?」の章の「交叉免疫」へ追記
交叉免疫に関する非常に興味深い結果が2021年9月14日に報告されました(Niessl L, Science 2021, 9/14)。「扁桃」は口の奥の左右に存在するリンパ組織で、T細胞とB細胞がぎっしりと詰まっており、外部から侵入してくる病原体の見張り役を担っています。扁桃が大きくなりすぎると空気の通り道を狭くするため、息苦しくなり睡眠障害などを起こします。睡眠障害が理由で扁桃を切除された40人の子供と41人の成人の扁桃を用いて研究が行われています。皆さん新型コロナウイルスの感染歴はありません。驚くことに、感染歴が無いにも関わらず、扁桃に存在するCD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞の一部には、新型コロナウイルスと戦える能力、すなわち「交叉免疫」をすでに獲得している細胞も存在する事が報告されています。新型コロナウイルスに対する交叉免疫が既に備わっているT細胞の特徴は、エプスタイン・バール(EB)ウイルスを撃退できるT細胞と類似しているようです。一方、サイトメガロウイルスや季節性コロナウイルスを撃退できるT細胞とは異なると報告されています。また、新型コロナウイルスを交叉免疫で撃退できるCD4陽性T細胞は49%の健常人の血液中にも存在している事が2021年9月14日にも報告されています(Mateus J, Science 2021, 9/14)。一方、交叉免疫を持つCD8陽性T細胞は血液中には存在しないようです。

EBウイルスは唾液感染により、B細胞の中に侵入して増殖します。よって、免疫の発達が未熟な乳幼児期に感染してもウイルスは増える事が出来ず、殆ど無症状で済みます。しかし、思春期にキスなどを介して感染すると、免疫が既に発達しB細胞も多いためウイルスが増殖してしまい、リンパ節や脾臓が腫れ、重度の咽頭痛、高熱など重い症状を伴う「伝染性単核球症」と呼ばれる病気を発症します。伝染性単核球症は「キス病(KISS DISEASE)」とも呼ばれています。90%以上の日本人は知らず知らずのうちに乳幼児期にEBウイルスに感染していますが、アメリカ人の感染率は約20%と報告されています。知らず知らずのうちにEBウイルスに感染して備わったT細胞の交叉免疫が、日本人を新型コロナウイルスの重症化から守ってくれているのかもしれません。

 

「(28) 世界のワクチン効果の現状は?」の章へ追記
ファイザー社RNAワクチンと中国シノバック社不活化ワクチンの効果の比較調査結果がチリから2021年9月9日に報告されました(Saure D, Lancet Infectious Disease 2021, 9/9)。シノバック社不活化ワクチンの接種を受けた33,533人と、ファイザー社RNAワクチンの接種を受けた8,947人が対象です。新型コロナウイルスに対する感染予防のために必要な量の中和抗体ができた方は、シノバック社の不活化ワクチン接種後4週目では28.1%で、2回目接種後3週目にピークを迎えて79.4%、その後低下をはじめ16週後には51.5%まで低下する可能性が報告されています。一方、ファイザー社RNAワクチンの接種者では、1回目接種後4週目で79.4%の方に、2回目接種後3週目では96.5%の方に感染予防には十分量の中和抗体が産生されたようです。また、2回目接種後16週目でも93.7%の方に十分量の中和抗体が維持される事が報告されています。不活化ワクチンに比べて、ファイザー社RNAワクチンは早期から感染予防効果を発揮し、その効果は長期間維持される事を教えてくれています。また、ワクチン未接種がコントロール群として調査されていますが、調査開始前の抗体保有者は5.1%に対して、調査終了時の5か月後には19.6%まで増加しています。つまり、チリでは僅か5か月の間に国民の14.5%が新型コロナウイルスに自然感染したようです。

「(28) 世界のワクチン効果の現状は?」の章の「疾患別ワクチン効果」への追記
Moor MBらは、抗CD20抗体投与はワクチンによる中和抗体産生に加えてT細胞部隊の活性化も抑制する可能性を報告していました。しかし、異なった結果が2021年9月14日に報告されました(Sokratis A, Nature Medicine 2021, 9/14)。多発性硬化症と呼ばれる自己免疫疾患のため「抗CD20抗体」が投与されている20人の患者さんが対象です。抗体を産生するB細胞を除去する治療法のため、ワクチンの2回目接種から25日が経過しても50%の患者さんにしか中和抗体は検出されず、量も非常に少ないようです。しかし、重症化予防に寄与するT細胞軍はワクチンにより効率よく活性化される可能性が示されています。T細胞軍には、敵と直接接触して相手の体に孔をあけ毒を塗り込んで抹殺(細胞傷害)する「CD8陽性T細胞部隊」と、様々な機能を有する「CD4陽性T細胞部隊」に分類されます。CD4陽性T細胞部隊は、自然免疫軍と協力して敵を倒す「Th1特殊部隊」、Th1特殊部隊のライバルでありアレルギー反応を誘導する「Th2特殊部隊」、特攻役である好中球を呼び寄せる「Th17特殊部隊」、B細胞を援助して抗体産生を促す「TFH特殊部隊」、免疫の暴走を抑制するための憲兵役である「Treg特殊部隊」などに分類されます。抗CD20抗体を投与されている患者さんでは、ワクチン接種後に自然免疫と協力して新型コロナウイルスを倒す「Th1特殊部隊」が健常人と同等に活性化されるようです。ワクチンにより誘導されたTh1特殊部隊は「TCM(central memory)/TEM(effector memory)」と表現されています。つまり、新型コロナウイルスを既に記憶(memory)し、即座に攻撃(effector)できる事を示しています。また、「Ki67」と呼ばれる分子も陽性です。T細胞は1個から2個へ、2個から4個へと増えて行き、この時にKi67を発現します。つまり、ワクチン接種により新型コロナウイルスを記憶し即座に攻撃できる態勢に入ったTh1特殊部隊が増えている、つまり兵力を増加させている事を教えてくれます。興味深い事に、抗CD20抗体投与を受けた患者さんでは、ワクチン接種により接近戦の名手である「CD8T細胞部隊」が健常の方よりも増える可能性も報告されています。一方、B細胞を援助する「TFH特殊部隊」は、ワクチン接種後に一時的に増えても、すぐに減って行くようです。これらの結果は、抗CD20抗体を投与されて患者さんでは「ワクチン接種は新型コロナウイルス感染予防には効果がないが、重症化予防効果は充分期待できる」可能性を教えてくれています。

「(29) ワクチン接種回数は?」の章の「1回接種と2回接種の比較」への追記
モデルナ社RNAワクチンの接種量に関する調査結果が2021年9月14日に報告されました(Mateus J, Science 2021, 9/14)。現在は100μgが2回接種されていますが、量を25μgに下げた場合は、中和抗体産生量は約2倍低下し、CD4陽性T細胞の活性化は1.4~2倍低下する可能性が報告されています。一方、CD8陽性T細胞の活性化には影響を与えないようです。免疫反応における2倍程度の差は許容範囲ですので、状況に応じて接種量を臨機応変に変える事も可能なのかもしれません。

最近になり蓄積され始めた結果は、ワクチンの種類の変更は「アストラゼネカ社DNAワクチンからファイザー社RNAワクチン」は可能であり、「ワクチン接種間隔が長くなっても効果減弱より、むしろ効果増強」の可能性があり、「量を減らしても効果減弱は許容範囲内に留まる」可能性が高く、「3回目のブースター接種は、感染予防に寄与する中和抗体量を増やし、さらに重症化予防に寄与するT細胞免疫も活性化する」可能性を示しています。既存のプロトコールに固執せず、接種を受ける方の状況に合わせて接種法は臨機応変に対応できるのかもしれません。

モデルナ社RNAワクチンの3回接種(ブースト)に関する調査結果が2021年9月14日に報告されました(Choi A, Nature Medicine 2021, 9/15)。1回目と2回目では100μgが接種され、3回目には50μgまたは20μgが接種されています。被験者は各グループ20人で、2回目接種から6.2~6.7ヶ月後に3回目が接種されています。ブーストによる副反応は、2回目接種時と大差はないようです。特記すべき点は、免疫の最大の武器である交叉免疫のブーストによる誘導です。通常の2回接種から6ヶ月が経過すると、「ベータ株」に対する中和抗体量は、効力が無くなる程度の幾何平均抗体価(genometric mean titer, GMT)18まで激減するようです。しかし、50μgをブースト接種すると29日後には「1,117」まで中和抗体量は回復し、量の少ない20μgのブースト接種では「1,537」にまで達すると報告されています。感染予防に寄与する中和抗体のワクチンによる産生は、非常にウイルスの変異に敏感な可能性も示されています。ワクチン効果を減弱させる変異を持つ「ベータ株」と「ガンマ株」に対して、ワクチンにより産生された中和抗体は、30~44%の方では1か月以内に消失する可能性が報告されています。また、ワクチン効果を減弱させる変異を持たない「デルタ株」に対しても、中和抗体量は接種後6ヶ月目には33~40倍低下する可能性があるようです。しかしブースト接種を行うとGMTは、「ベータ株」に対しては20から1,468へ、「ガンマ株」に対しては59から1,972へ、「デルタ株」に対しては192から1,677へ増加すると報告されています。モデルナ社の現在使用されているRNAワクチンは「RNA-1273」と呼ばれ、武漢由来の新型コロナウイルスのスパイク蛋白が発現できるように設計されています。今回の調査では、ベータ株のスパイク蛋白を発現するように設計された「RNA-1273.351」と呼ばれるワクチンと、武漢由来株のスパイク蛋白とベータ株由来のスパイク蛋白を半々で発現する「RNA-1273.211」と呼ばれるワクチンもブースト接種に用いられています。全ての変異株に対して最も効果があったのは「RNA-1273.211」と報告されています。交叉免疫を効率的に誘導するためには、均一の抗原でなく多様な抗原に暴露させる必要がある事を教えてくれています。

この様なお話をすると「変異株に対してはブースト接種しないと意味が無い」と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、ご安心下さい。上記論文はモデルナ社RNAワクチン接種による中和抗体産生、つまり感染予防効果を検討しています。重症化を予防するT細胞軍の活性化に関するモデルナ社RNAワクチンの調査結果も同時期の2021年9月14日に報告されています(Mateus J, Science 2021, 9/14)。自然免疫軍と協力してウイルスを撃退する「Th1特殊部隊」の活性化は、モデルナ社RNAワクチンの1回目接種後には98%の方に認められ、2回目接種後には100%に達すると報告されています。また、この活性化は低下することなく6ヶ月以上持続できるようです。「Th1特殊部隊」は、どのような変異株に対しても戦える交叉免疫を既に獲得している事も報告されています。非常に心強い限りです。また、ウイルスを刺殺と毒殺の組み合わせで完全に抹殺する「CD8陽性T細胞部隊」の活性化は、1回目接種後34%の方に、2回目接種後では53%の方に認められ、6ヶ月以上低下することなく維持されるようです。一方、B細胞の中和抗体産生を援助する「TFH特殊部隊」の活性化は、1回目接種後に71%の方に、2回目接種後には75%の方に認められるようですが、徐々に下がり始めて6ヶ月後には63%になるようです。また、「実際の新型コロナウイルス感染」が交叉免疫獲得には最も有効な可能性も報告されています。これらの結果は、「ワクチンを2回接種しても、ブースト接種しない限りは中和抗体が低下して新型コロナウイルス感染を起こしてしまうが、感染してもT細胞軍が重症化から守ってくれる」事を教えてくれています。ワクチンがある季節性インフルエンザでも毎年1,000万人以上が感染しています。共存が必要なウイルスの感染を防ぐ事は不可能で、重症化を予防する事が目的となります。重症化しないようにワクチンを接種し、ワクチン効果が弱い肥満や高齢者の方が軽症や中等症から重症化に陥らないように医療体制を回復させることが新型コロナウイルスに対する最善策と個人的には思います。

「(35) 変異したウイルスの末路は?」の章へ追記
2020年4月に新型コロナウイルス第1波(ニューヨーク株)の感染拡大を認め、2020年の年末から第2波(アルファ株)に襲われたアメリカ・ニューヨーク市のブロンクス区から第1波と第2波の比較調査結果が報告されました(Hooenbocm WS, Lancet Regional Health 2021, 8/16)。第1波の感染は黒人系に拡大し、第2波ではヒスパニック系に拡大したようです。感染者の平均年齢は第1波が56.3歳に対し、第2波は50.9歳と報告されています。また、第1波に比べて、第2波では血栓症の指標である「D-ダイマー」の値が8.2%低下し、組織破壊(逸脱酵素)の指標である「LDH」は15.4%低下し、炎症の指標である「CRP」は7.6%低下したと報告されています。また、第2波では、入院治療が必要な感染者も65%まで、人工呼吸器装着が必要となった感染者も71%まで、死者も24.8%まで減少したようです。デルタ株に比べて重症化しやすいアルファ株よりも、さらに多くの重症者と死者を出した事から推測すると、新型コロナウイルスのパンデミック初期に出現した変異株(ニューヨーク株)が最も怖いウイルスだった可能性は否定できません。この様な怖い変異株は、感染力が増強しながらも怖さを少し落とした「アルファ株」に置き換わり、次にアルファ株は、より感染力を増しながら怖さが更に低下した「デルタ株」へと置き換わってきているのかもしれません。ウイルスは我々の細胞の部品を使って初めて増える事ができるため、死者が増えればウイルスも生存できなくなります。つまり、感染症の歴史が教えてくれるように、新型コロナウイルスも感染力を強めながらも毒性を弱める変異を続けて、人類との共存を模索しているのかもしれません。

私もハマってしまった「鬼滅の刃」を例にとると、鬼達は人間を食べて生きています。食べ尽くせば、鬼達も食べ物が無くなり滅亡することは分かっていながらも、人間を食べてしまいます。このような鬼を退治するため、鬼滅隊が「仁」の精神で命をかけて頑張ってくれています。一方、珠世様は鬼でありながら、人間が献血した血を飲むことで生きていけます。採血時には痛みを伴うため無害とは言えませんが、共存が可能です。また、鬼(新型コロナウイルス)でありながら共存が可能な珠世様(デルタ株)は、多くの方の命を奪う強力な手鞠鬼(アルファ株)を倒してくれました。鬼だから怖がるの出なくて、共存の可能性を冷静に見極める必要があるのかもしれません。

 

「(43) 季節性インフルエンザやその他の感染症との違いは?」の章へ追記
第5波のデルタ株感染も峠を越えて来たので、感染状況を整理してみました。2021年8月21日に情報を整理した段階と同じ傾向を2021年9月15日時点でも認めています。デルタ株感染のまん延が始まってからの右肩上がりの感染者数の増加は、デルタ株の強い感染力を表しています。一方、死者数はアルファ株のまん延時には右肩上がりに増えましたが、デルタ株に変わって死者数の急激な増加は止まっています。つまり、アルファ株に比べて、デルタ株では死に至る重症化の危険性は低いと考えて良いと思います。

また、厚生労働省発表のデータをもとに、「デルタ株が蔓延する2021年6月8日以前」と「デルタ株が蔓延した2021年6月8日から9月8日までの第5波」の年齢別の感染者数と死者数を比較してみました。第5波(デルタ株)では50歳未満の感染者が増える一方で、ワクチン接種が進んでいる60歳以上の感染者は劇的に減少しています。また、第5波以前に比べて、デルタ株感染での死亡率はワクチン接種が進んでいない50歳未満でさえ半減しています。つまり、「どの年齢層においても、デルタ株はアルファ株に比べて怖くない」つまり重症化率は低いと事を結果が教えてくれています。また、ワクチン接種が進んだ高齢者の死亡率もデルタ株では低くなっています。しかし、70歳代で3.07%、80歳以上で10.4%と未だ高い水準です。海外の報告からすると重症化した高齢者の90%以上はワクチン未接種者であるため、ワクチンを接種した高齢者の死亡率は十分の一以下に低下すると考えるのが科学的に妥当と思います。つまり、ワクチン接種した70歳代の死亡率は最終的には0.3%程度になると期待しています。

「(47) 重症化の予兆は?」の章の「人工知能」への追記
人工知能(AI)は非常に優れた武器であり医療の現場でも活用され始めています。しかし、「教師ありき」でのAI活用は意味が無いことも分かっています。将棋などのAIでも、プログラムする専門家に依存して強さが異なるように、どのようにAIを教えるかで結果が異なります。医療AIの教え方の基本は「Multi Omics」、すなわち、この疾患には関係ないだろと思えるデータでさえ、ありとあらゆる情報をAIに取り込ませ、AI自体に考えさせる必要があります。つまり、プログラムする専門家が必要と思った情報だけではなく、意味が無いと思った情報さえもAIに取り込ませることにより、既存の概念では解けなかった謎も解いてくれます。例えば、医療AIでは、患者さんの血液検査、遺伝子、タンパク、脂質、糖鎖構造、腸内細菌、食生活、生活習慣、生活環境などありとあらゆるデータを取り込ませ個別化医療の構築が始まっています。しかし、このためには膨大な容量を持つスーパーコンピュータが必要なため、データを分散して段階的に解析する連合学習(federated learning)も用いられています。新型コロナウイルス感染者の呼吸数や心拍数などの「バイタルサイン」、「血液検査結果」、「X線写真(胸写)」の情報を連合学習により教育した「EXAM(electronic medical record chest X-ray AI model)」と呼ばれるAIシステムが2021年9月15日にアメリカ・マサチューセッツ総合病院から報告されました(Dayan I, Nature Medicine 2021, 9/15)。EXAMは24時間~48時間以内に人工呼吸器装置が必要な重症化へ移行する感染者を0.95の感度、つまり重症化する感染者の95%を見つけ出せるようです。また特異性は0.88、つまり重症化すると判断された感染者のうち12%の方は重症化しなかった計算になります。改良や改善は今後必要ですが、実用化できれば重症化の危険がある感染者の早期治療が可能となるうえ、自宅療養を指示された感染者も「重症化するかも?」と言う不安から開放され安心して自宅療養ができるのかもしれません。

[81版への追記箇所]


「(11) 日本の救命率は?」の章に追加
デンマークからの2021年9月3日の報告によると、デルタ株感染者は592人で入院治療が必要となった感染者は44人で入院率は6.9%と報告されています(Bager P, Lancet Infectious Disease 2021, 9/3)。アルファ株感染者は63,543人で入院治療が必要となった感染者は2,510人で入院率は3.8%、その他の変異株での感染者は20,709人で入院治療が必要となった感染者は1,460人で入院率は6.6%と報告されています。デルタ株の入院率は高くなりますが、ワクチン接種状況などから考えると判断は難しいと著者達は締めくくっています。また、デンマークでの年齢別に見たデルタ株の感染率は30歳未満の3.1%に対して60歳以上は21.9%で「高齢者に多く、若年者に少ない」パターンを示しています。また、インドからの2021年9月6日の報告では「デルタ株により入院率は高くならない」事が示されています(Mlcochova P, Nature 2021, 9/6)。

「(28) 世界のワクチン効果の現状は?」の章に追加
抗体を産生するB細胞は「CD20」と呼ばれる分子を特異的に発現しています。よって、CD20を標的とした抗体(抗CD20抗体、リツキサン)を投与すると、B細胞が除かれ、B細胞が悪玉として働いている病気の治療につながります。抗CD20抗体投与を受けた患者さんに対するワクチン効果の調査結果が2021年9月7日に報告されました(Moor MB, Lancet Rheumatology 2021, 9/7)。対象者の累積投与量の平均は2.8g、最後に投与されてから平均1.07年が経過しています。抗CD20抗体治療を受けた患者さんで、2回のワクチン接種後に充分量の中和抗体ができた方は49%で、健常者の100%に対し約半分です。抗CD20抗体は、中和抗体を産生するB細胞自体を除くため、この結果は想定内で既にBoekel Lらから2021年8月6日に報告されています(Boekel L, Lancet Rheumatology 2021, 8/6)。しかし、注意が必要な新たな結果は、ワクチンによる重症化予防を担うT細胞の活性化も、抗CD20抗体投与により低下する可能性です。IFN-γの分泌を指標として評価した新型コロナウイルスを攻撃できる血液中のT細胞数は、健常者で「653個/μL」、抗CD20投与患者さんでは「27個/μL」と約24倍も減少する可能性が報告されています(Moor MB, Lancet Rheumatology 2021, 9/7)。T細胞がB細胞を手助けする事は良く知られています。T細胞は「胸腺」と呼ばれる臓器で生まれてきます。胸腺の英語名は「Thymus」のため、頭文字をとってT細胞と命名されています。よって、胸腺が生まれつき欠失した「ディジョージ症候群」と呼ばれる先天性の病気ではT細胞が無くなります。また、T細胞がないためB細胞への援助ができなくなりB細胞の機能も低下します(T細胞依存性B細胞活性の低下)。一方、「B細胞が減る事によりT細胞の機能も低下するか?」については賛否両論です。しかし、B細胞を除去する事により、ワクチンに誘導されるT細胞免疫も低下させる可能性を示す今回の報告には注意が必要かもしれません。

新型コロナウイルスに感染し入院治療が必要となった50歳以上を対象としたワクチン効果の調査結果が2021年9月8日にアメリカから報告されました(Thompson MG, New England J Medicine 2021, 9/8)。2021年1月1日から6月22日の間に、新型コロナウイルス感染で入院治療が必要となった50歳以上41,552人と急患外来を受診された50歳以上21,522人が対象です。ファイザー社RNAワクチンとモデルナ社RNAワクチンの中等症化予防効果(入院治療が必要となる中等症を予防)は89%、重症化予防効果(ICUで人工呼吸器装着が必要となる重症化を予防)は90%と報告されています。また、85歳以上の高齢者に対しても入院予防効果は83%あるようです。また、入院予防と重症化予防効果はワクチン接種後から最低112日は維持できると報告されています。一方、アストラゼネカ社DNAワクチンの入院予防効果は68%、重症化予防効果は73%とRNAワクチンに比べて少し低下する可能性が報告されています。

「(29) ワクチン接種回数は?」の章の「1回接種と2回接種の比較」へ追加
被験者数は少ないので結論を出すには時期尚早ですが、イギリスから興味深い結果が2021年9月1日に報告されました(Flaxman A, Lancet 2021, 9/1)。対象者は18歳から55歳の健常な90人です。アストラゼネカ社DNAワクチンの1回目と2回目の接種間隔は8週間です。この場合に産生される中和抗体量は、geometric mean titer (幾何平均抗体価)で「923EU」のようです。もし接種間隔を15週以上あけると中和抗体量は「1,860EU」に増加し、45週以上あけると「3,738EU」まで増加する可能性が報告されています。また、3回目をブースター接種すると中和抗体量は2回接種の「1,792EU」から3回接種では「3,746EU」へと2倍以上増える可能性も報告されています。3回のブースター接種により、重症化を予防するT細胞の活性化も「200SFU/105個」から「399 SFU/105個」へと倍化するようです。

最近になり蓄積され始めた結果は、ワクチンの種類の変更は「アストラゼネカ社DNAワクチンからファイザー社RNAワクチン」は可能であり、「ワクチン接種間隔が長くなっても効果減弱より、むしろ効果増強」の可能性があり、「3回目のブースター接種は、感染予防に寄与する中和抗体量を増やし、さらに重症化予防に寄与するT細胞免疫も活性化する」可能性を示しています。既存のプロトコールに固執せず、接種を受ける方の状況に合わせて接種法は臨機応変に対応できるのかもしれません。

免疫細胞に成長する前駆細胞は、骨髄で作られます。造血幹細胞移植では、骨髄を空にしてから、他人(ドナー)の造血幹細胞を移植し、移植された造血幹細胞が空になっている骨髄に定着し、徐々に増えていきます。また、定着したドナーの免疫細胞が、移植を受けた方(レシピエント)の細胞を攻撃して「GVHD(graft-versus-host disease)と呼ばれる病気を起こさないように、免疫抑制剤が投与されます。よって、造血幹細胞移植後の方では、抗体を産生するB細胞の数が充分に回復していない可能性があり、さらに免疫抑制剤が使われているため、ワクチンの効果は限定的になります。しかし、ファイザー社RNAワクチンを2回接種した後に51日の間隔を開けて3回目を接種した場合、中和抗体量は737AU/mLから11,099AU/mLへと10倍以上も増える可能性が2021年9月3日に報告されました(Redjoul R, Lancet Haematology 2021, 9/3)。対象者は造血幹細胞移植を受けて3ヶ月が経過した患者さん42人で、平均年齢は59歳です。一方、3回接種で、このようなブースト効果が出たのは48%のようです。

「(30) ワクチンの副反応とアナフィラキシーは?」の章の「妊婦さんの安全性」へ追加
米国疾患管理予防センター(CDC)がワクチン接種の安全性を確認するため設置されている「v-safe データベース」に寄せられた情報をもとに、ワクチンの妊婦さんに対する安全性の調査結果が2021年9月8日に報告されました(Zauche LH, New England J Medicine 2021, 9/8)。ファイザーRNAワクチン又はモデルナ社RNAワクチン接種を受けられた2,456人の妊婦さんが対象です。妊娠14週以内に自然流産を起こされた妊婦さんは154人です。また、ワクチン接種者の妊娠6週から20週までの流産率は18.5%と報告されています。アメリカの1991年度の調査では妊娠6週から20週までの流産率は11%、2013年度の調査では22%と報告されているようです。よって「ワクチン接種による流産の危険はない」と報告されています。ただし、妊婦さんの場合はワクチン接種を自己判断せず、かかりつけの産科医に相談される事をお勧めします。

「(32) ワクチン接種後の再感染(ブレイクスルー感染)は?」の章へ追加
「ブレイクスルー感染」による重症者の調査結果が2021年9月9日にアメリカから報告されました(Bahl A, Lancet Regional Health 2021, 9/9)。ミシガン州で2020年12月15日から2021年4月30日の間に、救急センター(Emergency Department)へ169,000人が搬送され、そのうち11,834人が新型コロナウイルス感染者と報告されています。11,834人の救急センターへ搬送された感染者のうち、91.9%がワクチン未接種者、7.1%がワクチン1回接種者、1.1%がワクチンを2回接種して14日以上が経過した方のようです。ワクチン2回接種で新型コロナウイルス感染による重症化は96%予防できると報告されています。ワクチン接種後のブレイクスルー感染で重症化した再感染者の平均年齢は70.3歳と高齢です。また、ブレイクスルー感染により人工呼吸器装着が必要になった重症者の59.2%、亡くなられた方の59.5%はBMIが30を超える肥満者と報告されています。また、基礎疾患が多ければ多くなるほど、ブレイクスルー感染による重症化のリスクも高まるようです。ブレイクスルー感染により救急センターへ搬送された再感染者の死亡率は6.2%と報告されています。一方、季節性インフルエンザで救急センターへ搬送された方の死亡率は8.3%のようです。これまで蓄積されてきた結果は、「① 殆どの方のブレイクスルー感染は無症状か軽症で済む」、「➁ しかし、肥満者、高齢者、多くの基礎疾患ある方は、ブレイクスルー感染でも重症化のリスクが高いが、死亡率は季節性インフルエンザよりやや低い」事を教えてくれているのかもしれません。「肥満者」、「複数の基礎疾患がある方」、「高齢者」はワクチンを接種したからといって安心されず、マスクを必ず着用してブレイクスルー感染予防に努められる事をお勧めします。

スマートフォンのアプリを活用したブレークスルー感染の調査結果が2021年9月1日にイギリスから報告されました(Antonelli M, Lancet Infectious Disease 2021, 9/1)。124万人が対象です。ブレイクスルー感染の割合は、1回目のワクチン接種後で0.5%、2回目のワクチン接種後では0.2%と報告されています。2回目にアストラゼネカ社DNAワクチンを接種された625,088人中1,557人に、2回目にファイザー社RNAワクチンを接種された330,760人中719人にブレイクスルー感染が認められています。ブレイクスルー感染を起こし易いのは「衰弱(フレイル)した60歳以上」、「貧困地域の住人」、「肥満者」と報告されています。事実、ブレイクスルー感染者の「BMIの平均値は27.2」と標準値を超えています。ブレイクスルー感染で何らかの症状が出た方は66.2%ですが、ワクチン未接種者に比べて症状は軽いようです。ワクチン未接種に比べてブレイクスルー感染に出やすい症状は「クシャミ」と報告されています。花粉症でもクシャミは頻発ですので区別は無理ですが、クシャミが続けば自宅待機をお勧めします。

 

RSウイルスは「合胞体」すなわち我々の細胞を引っ付けて融合させ2つの細胞を1つに、又は数個の細胞を1つにする能力を持っています。同様の能力を新型コロナウイルスが持っていることは既に報告されています(43、季節性インフルエンザやその他の感染症との違いは?の章参照)。デルタ株は自らのスパイクを鍵穴である「アンギオテンシン変換酵素2」に差し込み、我々の細胞に引っ付き、次に細胞が持つ「TMPRSS2」と呼ばれる酵素を上手く利用して、ウイルスが結合した細胞を隣の細胞と引っ付け(融合させて)、合胞体を作っている可能性が2021年9月6日に報告されました(Mlcochova P, Nature 2021, 9/6)。新型コロナウイルスの中でもデルタ株は合胞体形成に長けており、これが感染力増強につながると共に、中和抗体の効力も落としてしまいブレイクスルー感染を起こし易くなっている可能性があるようです。

「(40) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(全てが諸刃の剣)?」の章の「公共対策」へ追加
糖尿病は遺伝因子が寄与し自己免疫反応により起こる「I型糖尿病」と、生活習慣つまり肥満等が原因となる「II型糖尿病」に分類されます。糖尿病を放置しておくと「ケトアシドーシス」という状態に陥り、嘔吐や腹痛から始まり、意識がなくなり死にも至ります。新型コロナウイルス流行により、糖尿病性「ケトアシドーシス」で救急搬送された患者さんが57%も増加した事が2021年9月2日にイギリスから報告されました(Misra S, Lancet Diabets & Endocrinology 2021, 9/2)。新型コロナウイルス流行に伴う、外出規制による受診控えに加えて、運動不足が原因のようです。生活習慣が原因となるII型糖尿病によるケトアシドーシスで搬送された方は増えていますが、生活習慣とは関係ないI型糖尿病のケトアシドーシスで搬送される方は、逆に19%減少しています。II型糖尿病のケトアシドーシスで搬送された方は、第1波で41%増加し、第2波で50%へと更に増加しています。運動不足が長期化した事が原因かもしれません。また、ケトアシドーシスで搬送され、搬送先で初めてII型糖尿病と診断された方も、第1波で57%増加し、第2波では61%へと更に増加しています。血糖高値を健康診断で指摘されながら放置されている方は特に注意が必要です。また、運動不足は悪玉コレステロールの増加に繋がり、命を脅かす脳梗塞や心筋梗塞の危険も増えてきます。「バランスの良い食事を摂り、運動して下さい」と医師から言われた方も多いと思います。これが健康の秘訣です。しかし、「運動」が制限される状態では、このバランスが崩れて成人病の増加につながりかねません。新型コロナウイルス感染者を減らし医療逼迫を軽減するための緊急事態宣言の長期化が、イギリスで認められたように命にかかわる成人病を増やすといった「イタチごっこ」を起こしてくるのかもしれません。

肥満と加齢は新型コロナウイルス感染症の2大重症化因子で、ワクチン効果を突破するブレイクスルー感染の重症化因子でもあります。これまで新型コロナウイルスの1日あたりの新規感染者数が最多に達したのは、アメリカ(人口:約3億2800万人)で291,610人/日、イギリス(人口:約6700万人)で60,916人/日、日本(人口:約1億2600万人)では25,892人/日です。人口あたりの新規感染者数は、デルタ株の「感染爆発」と表された時の日本でさえ、アメリカより3.8倍少なく、イギリスより4.7倍少なかった計算になります。日本の感染抑制には様々な要因が考えられますが、「ヒトにうつさないための思いやりのマスク着用の文化」が第1要因と個人的には信じています。欧米と比べた日本における新型コロナウイルス感染の特徴は「死者の少なさ」です。1日あたりの死者数の最多は、アメリカで5,463人/日、イギリスで1,720人/日、日本では248人/日です。人口あたりの日本の1日の死者数は、アメリカより7.3倍、イギリスより13.9倍も少ない計算になります。また、人口100万人あたりの累積死者数(2021年9月9日時点)も、アメリカは1,971人、イギリスが1,976人で、日本は130人と約15倍も少なくなります。日本で新型コロナウイルス感染による死者数が少ない理由は、様々な可能性が考えられます。しかし、これまで世界で蓄積された結果から考えると、日本は世界一の高齢化社会でありながら、肥満者が少ない事が大きな要因なのかもしれません。世界統計格付けセンターによると「肥満率」はアメリカで31.8%、イギリスで24.9%、日本では4.5%です。また、日本においても重症者の多くは肥満者です。日本集中治療学会のホームページによると2021年9月9日までに新型コロナウイルス感染の重症化で人工呼吸器が装着された感染者は、標準体重以下が2,894人、I度肥満(BMIが25以上30未満)が2,146人、II度肥満(BMIが30以上35未満)が793人、III度肥満(BMIが35以上40未満)が221人、IV度肥満(BMIが40以上)が118人と報告されています。日本には肥満者が4.5%と少ないにも関わらず、重症者の「53.1%は肥満者」の計算になります。より重症化して「ECMO」が装着された感染者は、標準体重以下が278人、I度肥満(BMIが25以上30未満)が340人、II度肥満(BMIが30以上35未満)が197人、III度肥満(BMIが35以上40未満)が92人、IV度肥満(BMIが40以上)が47人と報告されています。ECMOを装着された超重症者の「70.8%は肥満者」の計算になります。よって、肥満予防が新型コロナウイルス感染の重症化予防につながると考えて間違いないと思います。しかし、長期化した緊急事態宣言により、多くの国民は運動不足に陥り体重増加を認め初めているはずです。感染拡大予防のための行動制限の長期化が、日本国民の新型コロナウイルス感染の重症化リスクを徐々に増やしているのかもしれません。

新型コロナウイルス渦の影響によりガンで亡くなる可能性のある方の推測値が2021年9月3日に報告されました(Ward ZJ, Lancet Oncology 2021, 9/3)。行動制限に伴う受診控え等により、早期発見が遅れ「肺ガン」、「子宮頸ガン」、「大腸ガン」、「前立腺ガン」、「胃ガン」による死者数は、例年に比べて2021年は14%、2022年は10%も増える可能性が報告されています。2019年度の本邦における死者数は、肺ガンが75,391人、大腸ガンが51,420人、胃ガンが42,931人、前立腺ガンが12,544人、子宮頸ガンが2,921で、これらのガン種による死者数は185,207人の計算になります。もし、報告された推測値(14%)が正しければ、行動規制の継続は、これまでの新型コロナウイルス感染による累積死者数16,359人(2021年9月6日時点)を上回る25,928人(185,207 x 0.14)もの「失う必要のない命を失う(早期発見できれば救えたガン患者さんの命)」可能性を秘めているのかもしれません。

スポーツでも練習不足になると、負けた事が無い相手にも大敗してしまう事があります。免疫軍も実践訓練により実力をつけていくため、外出制限や過度な衛生状態により免疫軍の敵との遭遇がなくなり続けると、思いがけない敵に足元をすくわれ死につながる危険性も出てきます。この懸念は日増しに増えているのかもしれません。乳幼児の肺炎の50%を占める「RSウイルス感染」では、0.5~2%に入院治療が必要になりますが、重症化は少なく8~15日で完治します。日本のRSウイルスによる乳幼児の死亡率は10万人中5.4人です。アメリカでは2021年6月にRSウイルス感染が激増し重症化した乳幼児も増えたため、CDCが注意を発出されています。国立感染症研究所の報告によると、日本でもRSウイルス感染は2021年になって増加を認めているようです。また、2021年9月2日のNews Weekによると、インドで原因不明の熱病が発生し数日で50人以上の子供達の尊い命が奪われています。原因は不明ですが、「デング熱」説が有力なようです。デング熱は蚊に刺されて起こる感染症で、世界で毎年1億人以上が感染しています。発熱、眼窩痛、発疹が出現しますが、殆どの方は1週間で自然に回復する、免疫軍にとっては弱い敵になります。しかし、免疫軍の訓練不足により、デング熱のように弱い敵に負けてしまい死につながった子供達が多くでた可能性は否定はできません。2021年9月9日の厚生労働省の発表では、新型コロナウイルスによる20歳未満の累積死者数は1人です。新型コロナウイルスから守られている子供達の命を、通常では考えられない弱いウイルスにより奪われる事が無いよう、将来を見据えた対策が必要かもしれません。

残念ながら世の中に「ゼロリスク」はありません。新型コロナウイルスだけが感染症ではなく、2019年には肺炎球菌、インフルエンザ菌、マイコプラズマやクラミドフィラの感染が原因となる市中肺炎で95,518人、誤嚥性肺炎で40,385人、季節性インフルエンザつまりインフルエンザウイルスによっても3,575人が日本で亡くなられています(「これまでの結果からアフタコロナを考える」の章参照)。つまり、これだけ多くの死に至ってしまった感染者に対して、医療が逼迫することなく日本は対処できていた事を教えてくれています。また、2019年の市中肺炎による死者数は95,518人に対し、2020年は78,445人と17,073人も減っています。昨年1年間の市中肺炎による死者の減少数は、2021年9月9日時点の日本における新型コロナウイルス感染者による累積死者数16,550人より多くなります。2類相当の分類のために、新型コロナウイルスに対する医療体制が通常通りに機能していないのかもしれません。

日本の自殺者数は、2019年の20,169人から2020年は21,081人と912人の増加を認め、29歳未満の自殺者の増加数は522人と若年者の自殺増加が特徴です。また、2021年の1月から7月の自殺者数は12,452人で、2019年同時期の12,255人より197人の増加を認めています。新型コロナウイルスのパンデミックが始まってから1,109人も自殺者が増え、多くは30歳未満です。2021年9月1日の厚生労働省の発表では、30歳未満の新型コロナウイルス感染による累積死者数は14人です。新型コロナウイルスの50倍近い若者の尊い命が自殺により失われた計算になります。

新型コロナウイルスだけに注意を払いすぎると、「早期発見の遅れでガンにより失う命」、「運動不足により糖尿病・心筋梗塞・脳梗塞といった成人病で失う命」、「過度な衛生状態による免疫軍の弱体化で、予期せぬ感染症で失う子供達の命」、「経済の低迷により自殺で失う若者達の命」といった「失う必要のない命」を知らず知らずのうちに新型コロナウイルス以上に失っていくのかもしれません。また、行動制限の長期化は、ブレイクスルー感染の重症化リスクである肥満者を運動不足により増やしてしまい、ワクチン接種の効果を十二分に引き出せない可能性も秘めてきます。人生に「ゼロリスク」はありえず、狭い視野で新型コロナウイルスのみを見るのでなく、広い視野で「将来起こりえる悲劇」を冷静に見据える必要があるのかもしれません。「新型コロナウイルスで失う命」、「救えるはずが救えなくなる命」、「失う必要がないのに失う命」皆平等です。新型コロナウイルスのみに執着するのではなく、数年先を見据えて冷静に判断する時期に入っているのかもしれません。

 

「(40) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(全てが諸刃の剣)?」の章の「パラリンピック選手達から学ぶ事」への追加
「ゼロコロナ」にできれば理想ですが、残念ながら新型コロナウイルスを封じ込める事は不可能で共存が必要なうえ、「ゼロリスク」もあり得ない事を世界が既に教えてくれています。つまり、誰しも心の葛藤はありますが、新型コロナウイルスとの共存は受け入れるしかありません。例えば、誰もガンは受け入れたくありません。しかし、ガンを告知された患者さんも、「否認」、「怒り」、「取引」、「抑うつ」、「受容」の5つの段階を経てガンを受け入れられていきます。「私が何でガンになるんだ」という否認、「誤診に違いない、あのヤブ医者訴えてやる」という怒り、「どうしたらいいんだ、何でもいいから検査してくれ、何でもいいから薬くれ」という取引、「悪い情報をインターネットやメディアから取り入れ心配のあまり受け入れが困難」になる抑うつ、そして受容へと進んでいきます。受容に至ると、理想と現実が冷静に判断でき前向き思考になり、精神的要因(プラセボ効果)も働き、最善の結果に結びついて行きます。

新型コロナウイルスも同様かもしれません。科学的さらには感染症の歴史から見ても封じ込めは不可能なウイルスとわかりながらも「ゼロコロナ」を信じたい「否認」、そして、自粛警察やコロナ警察は典型的な「怒り」の表れかもしれません。また、日本は2020年度の超過死亡を世界で最も抑えた国、つまり他国に比べて新型コロナウイルス対策が秀でた国である事を結果が示しています。しかし、政府などを標的として批判だけに走ったのも「怒り」の段階を象徴しているのかもしれません。また、受けたい方が受ける「むやみやたらなPCR検査」は感染拡大を助長する危険性が報告されています。事実、PCR検査数が日本より桁外れに多い国でも感染拡大は抑制できていません。それにも関わらず、PCR検査数を増やせと言う論調は「取引」の表れだったのかもしれません。闇で流通した検査キットや薬を疑いながらも買ってしまうのも典型的な「取引」と思われます。また、毎年15万人以上の方が感染症で亡くなり、また、感染症以外でも「ゼロリスク」は日常生活で有り得ない事を理解しながも、新型コロナウイルスがゼロリスクで無い事を強調して不安を煽るのは第4段階の「抑うつ」の表れかもしれません。新型コロナウイルでは「ゼロコロナ」や「ゼロリスク」はあり得ない事を受け入れ、正しく恐れ、ワクチン接種で重症化を抑え、医療体制を整え、うつさないうつらないに心がけば、最善の共存の道が開けると個人的には強く信じています。

「(43) 季節性インフルエンザやその他の感染症との違いは?」の章への追加
新型コロナウイルスが2類相当のため「失う必要のない命を失う」危険性もでてきています。2021年8月20日には早産で生まれた赤ちゃんのかけがえのない尊い命が奪われました。新型コロナウイルス感染症が2類相当でなければ、かかりつけの産科の医師が充分に対処できたのかもしれません。また、2021年9月7日の情報番組で、保健所による健康観察の不備で自宅療養中の新型コロナウイルス感染者が亡くなられた事を知りました。2類相当で義務付けられている保健所でなく、開業医の先生による初期対応ができれば防ぐ事ができたのかもしれません。また、デルタ株は感染力が強いため感染者も多く、既存の2類の感染症とは異なります。保健所で対応する事は限界に達していると思います。1年半以上の長きにわたり昼夜をとわず奮闘されてきた保健所の関係者を、ストレスと過労から解放してあげる時期に入っているのかもしれません。

「(49) 治療法は?」の章の「サイトカインストーム治療薬」への追加
炎症を惹起するインターロイキン1の受容体に対する阻害剤「アナキラン」の臨床試験結果が2021年9月3日に報告されました(Kyriazopoulou E, Nature Medicine 2021, 9/3)。炎症や動脈硬化で増加する事が報告されている「可溶性ウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベータ受容体」の血中濃度が6 ng/mL以上と高くなった新型コロナウイルス感染者に対して「アナキラン」は治療効果を発揮する可能性が報告されています。可溶性ウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベータ受容体の血中濃度が6 ng/mL以上の感染者の感染後28日目の回復率は、アナキラン投与群で50.4%、偽薬群で26.5%のようです。死亡率は、アナキラン投与群で3.2%、偽薬群で6.9%と報告されています。
新型コロナウイルス感染に対する「ヤヌスキナーゼ(JAK)」阻害剤の臨床試験結果が2021年9月1日にも報告されました(Marconi VC, Lancet Respiratory Medicine 2021, 9/1)。アルゼンチン、ブラジル、ドイツ、ロシア、スペイン、インド、イタリア、メキシコ、イギリス、アメリカ、韓国、日本による国際的臨床試験で、1,525人の新型コロナウイルス感染者が対象です。日本からも「Edogawa Medical Hospital」、「Yokohama Municipal Citizen Hospital」、「Hachioji Medical Center」が参加されています。対象となった感染者には既に20mg/日以下のステロイド投与が開始されており、約20%の方には抗ウイルス薬のレムデシビルも投与されています。対象者の平均年齢は57.5~57.8歳、BMIは30.6で肥満者が多いようです。CRPの平均値は6.75mg/dLです。JAK1とJAK2に阻害効果を有する「Baricitinib」と呼ばれる薬が投与されています。投与後28日目の死亡率は「Baricitinib」群では8%、偽薬群では13%で、60日目では「Baricitinib」群では10%、偽薬群では15%と報告されています。

[80版への追記箇所]


「(11) 日本の救命率は?」の章へ追記
アルファ株とデルタ株を比較検討した調査結果がイギリスから2021年8月27日に報告されました(Twohig KA, Lancet Infectious Disease 2021, 8/27)。感染者から採取した検体の遺伝子シークエンスにより、アルファ株の感染が確認された34,656人とデルタ株の感染が確認された8,682人が対象です。感染者の平均年齢はアルファ株で31歳、デルタ株で29歳です。入院治療が必要となった感染者はアルファ株感染では2.3%で、デルタ株感染では2.2%と報告されています。しかし、様々な要因を考慮した統計学的解析では、入院率はアルファ株感染の4.2%に比べてデルタ株感染では5.7%と1.36倍高くなり、ICUでの治療が必要となる重症化率はアルファ株感染の2.0%に比べてデルタ株感染では3.4%と1.7倍高くなる可能性が報告されています。実際の数値と、統計学的に推測した数値で差があるため、統計学が専門ではない私には「どちらの値に信憑性があるかは?」は判断できません。一つ言える事は「limitation」と呼ばれる部分です。人間は神ではないため、100%正しい事が言える研究者はいません。よって、権威のある論文の「Disucssion」と呼ばれる章では、「盲点(limitation)またはpitfall(落とし穴)」つまり「示した結果が正しくない可能性」について議論しなくてはいけません。通常の論文では、limitationはDiscussion中の1~2割程度を占めます。しかし、この論文ではDissucsussionの三分の二以上がlimitation に占められており、結果の信憑性の担保には盲点が多すぎるのかもしれません。

よって、日本の状況を調べてみました。国内の約80%の人工呼吸器(ECMO含む)を装着されている新型コロナウイルス感染による重症者数を把握されている日本集中治療学会は、非常に貴重な情報を毎日アップデートされているので、使用させて頂いております。アルファ株流行期間の、最多の感染者数は2021年4月29日の7,914人/日で、その後の5月14日に人工呼吸器(ECMO含む)を装着された重症者は764人に達しています。単純計算ですが、感染者の9.65%(764 ÷ 7914)が重症化した計算になります。デルタ株流行期間の最多の感染者数は2021年8月21日の25,380人/日で、その後の9月2日に人工呼吸器(ECMO含む)を装着された重症者は968人に達しています。感染者の3.8%(968 ÷ 25,380)が重症化した計算になります。アルファ株(9.65%)に比較して、デルタ株(3.8%)による重症化は低いのかもしれません。しかし、重症化率が低くても母数の感染者が増えれば、重症者も増えてきます。よって、日本集中治療学会加入病院では、新型コロナウイルス感染者に対して人工呼吸器(ECMO含む)装着が可能な病床数を、2020年5月時点の1,308床から2021年9月2日時点では2,269床に増やされています。本当にありがとうございます。

2021年9月2日時点で人工呼吸器(ECMO含む)を装着された重症者は968人です。日本集中治療学会が人工呼吸器(ECMO含む)を装着された重症者の約8割を網羅されている事からすると、全国で約1,160人の人工呼吸器を装着された重症感染者がいらっしゃる計算になります。一方、厚生労働省発表の2021年9月1日の新型コロナウイルスによる重症者は2,110人です。厚生労働省の重症者の定義は、「人工呼吸器の使用」、または「ECMOの使用」、または「集中治療室(ICU)での治療」ですから、人工呼吸器が装置されていなくてもICUで治療を受けていれば重症者に含まれます。つまり、人工呼吸器を装置された重症者と、ほぼ同じ人数の人工呼吸器を装置されていない感染者がICUにいらっしゃる計算になります。人工呼吸器装着が差し迫っているためICUに移されて管理されている感染者もいらっしゃいます。また、一命を取り留めて人工呼吸器がはずされ、一般病院への転院をICUで待たれている新型コロナウイルスが陰性となった患者さんもいらっしゃいます。このような状況を考慮しても、人工呼吸器装着なくしてICUで一時的に治療されている感染者が、人工呼吸器装着者と同じ人数にはならないのかもしれません。ICUの医療従事者達は「高度医療に秀でた命を救うための最後の砦となる専門家集団」です。ICUの専門家集団に過剰な負担をかけず、各自の能力を最大限に発揮してもらう必要があります。1時救急(軽症者の自宅治療)、2次救急(中等症の入院治療)、3次救急(命の危機が切迫した重症者)の医療連携を整え、ICUは「人工呼吸器装着なくしては命の危機が切迫した感染者」の受け入れに特化する必要があるのかもしれません。この懸念は、神奈川県と埼玉県に特に顕著なのかもしれません。日本集中治療学会によると、神奈川県で2021年8月31日時点で人工呼吸器を装置されている重症者は77人で、人工呼吸器装着のため受け入れ可能な病床は122床です。つまり、人工呼吸器装着可能な病床は45床使用可能な計算になります。しかし、人工呼吸器(ECMOを含む)装着またはICUで治療中の定義に基づく重症者数は250人と神奈川県が9月1日に発表されています。人工呼吸器が装着されている感染者77人の2倍以上にのぼる173人もの感染者が人工呼吸器装着なしでICUに留まっている状態かもしれません。埼玉県で2021年8月31日時点の人工呼吸器を装置されている重症者は60人で、人工呼吸器装着のため受け入れ可能な病床は102床です。つまり、人工呼吸器装着可能な病床は42床使用可能な計算になります。しかし、埼玉県の9月1日の報告では、重症者数は165人です。人工呼吸器装着されている感染者60人の倍近い105人が人工呼吸器装着なしでICUに留まっているのかもしれません。

 

「(17) PCRは?」の章の「PCRで感染拡大を防ぐ方法」へ追記
アメリカにおける2020年度の新型コロナウイルス感染状況が2021年8月26日に報告されました(Pei S, Nature 2021, 8/26)。感染源の多くは検査を受けていない無症状もしくは軽症の「隠れ感染者」で、2020年度に感染が見逃されていた「隠れ感染者」は78.2%と報告されています。つまり、検査で感染が確認された「8.47倍」の隠れ感染者がいる計算になります。インドから報告された「71.4倍の隠れ感染者」とは10倍近い差です。2020年にアメリカで流行したのは「カリフォルニア株(イプシロン株)」と「ニューヨーク株(イオタ株)」で、インドで流行したのは「デルタ株」です。「デルタ株」により隠れ感染者が増加した可能性は否定はできません。しかし、デルタ株の感染力を強めた変異である「L452R」は、「イプシロン株」にも認められます。インドとアメリカの衛生状態の違いや流行した変異株の違いなど様々な要因で隠れ感染者に10倍近い差がでたのかもしれません。

 

PCR検査で「偽陰性」すなわち「感染していても陰性の結果がでる」かたは10%以上いると考えられています。一方、PCR検査で「偽陽性」すなわち「感染していなくても陽性の結果がでる」事はないと思われている方がいらっしゃるかもしれませんが、誤解です。アメリカのCDCも2021年7月21日発行の「Fact Sheet for Healthcare Providers」に「RT-PCR diagnostic panel has been designed to minimize the likelihood of false positive test results. However, it is still positive that this test can give a false positive result」つまり「RT-PCRで偽陽性の結果がでる可能性」について注意勧告を発せられています。事実、オーストラリアのメルボルン市では、認定した2件の新型コロナウイルス感染クラスターが、PCRの偽陽性による誤りであったと2021年6月3日に報告されています。オーストラリア政府はRT-PCRの偽陽性率は0%から16.7%と大きな開きがある可能性を報告しています。RT-PCR法は非常に感度が高い検査のため、正確な結果を出すためには「① 正確性が担保された検査キット」と「➁ 熟練した技師」の最低2つが必要になります。よって、日本をはじめとした各国の政府機関は「正確性が担保されたPCR検査キット名」と「申告により技術が担保されている可能性が高い検査機関名」を既にホームページに示されています。安価だからと選ぶのではなく、検査を受ける前に「厚生労働省が正確性を担保した検査キットが使われ、厚生労働省に誓約書を提出している施設でPCR操作が行われるのか」を確認される事をお勧めします。

厚生労働省推奨の検査キット:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11331.html

厚生労働省に回答及び誓約書兼同意書を提出した自費検査機関:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/covid19-jihikensa_00001.html.

「(30) ワクチンの副反応とアナフィラキシーは?」の章の「副反応」への追記
ファイザー社RNAワクチンを接種した884,828人を対象とした安全性の調査結果が2021年8月25日に報告されました(Barda N, New England J Medicine 2021, 8/25)。中等度以上の副反応(副作用)は、頻度が高い順に(値は10万人あたりに起こる人数で示しています)、リンパ節腫脹が78.4人、帯状疱疹が15.8人、知覚異常が10.8人、めまいが9.3人、失神が6.2人、虫垂炎が5.0人、ベル麻痺が3.5人、心筋炎が2.7人と報告されています。新型コロナウイルス以外のワクチンでも認められる副反応がほとんどですが、ファイザー社RNAワクチン接種に特異的に認められる副反応は「ベル麻痺(10万人中3.5人)」と「心筋炎(10万人中2.7人)」と報告されています。ベル麻痺は、ウイルス感染などが引き金となり顔面の半分がマヒして動かなくなり、麻痺した側の舌では味を感じる事ができなくなります。通常は治療なしでも数か月で回復します。ファイザー社RNAワクチン接種で心筋炎を「10万人中2.7人」に起こす可能性がありますが、新型コロナウイルス感染自体が心筋炎を「10万人中11人」に引き起こす事がアメリカCDCから過去に報告されています。つまり、副反応と考えるより、ワクチン接種により心筋炎発症を10万人中11人から2.7人に減らせると考えてよいと思います。また、CDCが報告している、新型コロナウイルス感染に合併する可能性がある疾患は多い順位に、急性腎障害が10万人中125.4人、肺塞栓が10万人中61.7人、深部静脈塞症が10万人中43.0人、心筋梗塞が10万人中25.1人、心筋炎が10万人中11人、脳内出血が10万人中7.6人です。やはり、新型コロナウイルス感染は「血管が詰まる病気」を合併させやすいと考えられます。

アメリカCDCは、心筋炎は新型コロナウイルス感染者の0.146%に認められると2021年8月31日に新たな声明を出されました。通常の心筋炎の発症率は0.009%のため、新型コロナウイルス感染は心筋炎の発症率を16倍高くする可能性があります。新型コロナウイルス感染による心筋炎発症のリスクは若年者と高齢者に高く、16歳から39歳の7倍増加に比べて、16歳未満と75歳以上では30倍以上高くなると報告されています。

「(30) ワクチンの副反応とアナフィラキシーは?」の章の「DNAワクチンによる血栓症の可能性」への追記
アストラゼネカ社DNAワクチン接種後に起こる血栓症では、PF4に対する抗体量と、新型コロナウイルスのスパイクに対する抗体量に相関性を認めない事が2021年8月25日に報告されました(Ozun G, New England J Medicine 2021, 8/25)。つまり、ワクチンが誘導する免疫反応以外が血栓症の原因の可能性が示唆されています。

「(32) ワクチン接種後の再感染(ブレイクスルー感染)は?」の章への追記
米国イリノイ州で2021年6月30日に起きたキャンプとカンファレンスでの集団感染の調査結果が2021年8月31日にCDCから報告されました。122人の新型コロナウイルス感染者のうち、RNAワクチン接種者が15%で、未接種者が85%と報告されています。ワクチン未接種者の入院率は2.8%で、接種者では0%です。ワクチン接種者の濃厚接触者38人のうち、感染した方は8人と報告されています。感染してもワクチン接種者は重症化から守られていますが、「自身は重症化しなくても、他人にうつす可能性がある」ので注意が必要です。ワクチンを接種していても「体調不良」を感じたら、自宅待機をお勧めします。

アメリカのカリフォルニア大学サンディエゴ校からブレイクスルー感染の調査結果が2021年9月1日に報告されました(Keehner J, New England J Medicine 2021, 9/1)。大学病院の医療従事者のファイザー社RNAワクチンとモデルナ社RNAワクチン接種は2020年12月から開始され2021年3月には接種率は76%に達しています。2021年6月までの新型コロナウイルスの感染予防効果は90%以上でした。6月15日にマスク着用義務が解除されると、7月に感染予防効果は65.5%へと低下しています。ブレイクスルー感染の原因はデルタ株で、軽い症状は83.8%の再感染者に出現しています。しかし、入院された方や死者はいなかったようです。「ワクチン接種で重症化を予防し」さらに「マスク着用で感染を予防する」ことが、デルタ株に対する最善策かもしれません。

「(37) 感染に必要なウイルス量は?」の章の「空気感染」への追記
デルタ株の「空気感染」の可能性をよく耳にするようになりました。事実、飛沫感染が防げる6フィート(約1.8メートル)の距離をとっても、デルタ株に感染した事例は多く報告されています。しかし、真の空気感染(airborn infection)であるかは、疑問なようです。アメリカCDCはデルタ株に対する対策として「充分な換気」、「換気の悪い屋内では、滞在時間は15分以内」、「大声を出す人や、多呼吸(激しい運動をした後に、ハーハーと息をしている状態)の方がいらっしゃる屋内は避ける」を2021年5月7日に推奨されています。空気感染症に対する対策とは近いようで異なるのかもしれません。CDCでは「airborne infection(空気感染)」は使用されず、「inhalation (吸引して起こる)」という曖昧な表現を用いられています。

空気感染症の代表は「はしか(麻疹)」、「水ぼうそう(水痘)」、「結核」です。全て「乳幼児や小児に感染しやすく」、「感染を予防する手立てがなく」、「命にかかわる重症化を起こす危険性が高い」感染症です。よって、BCG(結核)は生後6ヶ月で、麻疹と水痘のワクチンは生後1年で接種が義務付けられています。一方、20歳未満の新型コロナウイルス感染による死者は未だ本邦にはいません。また、乳幼児の新型コロナウイルス感染率も成人より低く抑えられています。典型的な「空気感染症」とは異なるようです。神経に沿って水疱を作る帯状疱疹は「接触感染」により感染します。しかし、広い範囲(3分節以上)の神経が侵されると、非常に多くの水疱ができるため、そこから多くのウイルスが空気中に飛散し、空気感染を起こす可能性がでてきます。噴水用の嘔吐や下痢を起こすノロウイルスは「経口感染」です。しかし、吐物を掃除するときに、ウイルスが大量に空気中に舞い上がると空気感染をおこしてしまいます。よって、ノロウイルス感染者の吐物を掃除する時には、吐物に最初に次亜塩素酸を吹きかけ、ウイルスを殺した後に掃除するように欧米では指導されています。つまり、空気感染を起こすウイルスでなくても、大量のウイルスが空気中に巻き散らかされると、巻き散らかされたウイルスを吸い込むことにより感染を起こす事を教えてくれています。増殖が強く、唾液にも多く含まれ、空気中に巻き散らかされ易いデルタ株に関しては、「屋内の換気」、「ウイルスを通しにくい不織布マスクの使用」、「屋内では大声で話さない」等の対策が有効かもしれません。

 

「(40) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(全てが諸刃の剣)?」の章の「オリンピック・パラリンピック」への追記
パラリンピックを見てミラクルの言葉しかありません。「音だけで、何故あんなに見えているように反応できるんだ」、「車椅子で何故あんなに機敏に動けるんだ」、「足を左右不均等に動かしながら何故あんなに早く泳げるんだ」など毎日が興奮と感動です。「ミラクル」、「本当におめでとう」、「勇気をくれてありがとう」の気持ちで一杯です。橋下徹元大阪府知事が「パラリンピックは人生の教科書」とおっしゃっていましたが、本当にその通りと思います。さらに、「パラリンピックは新型コロナウイルス対応の教科書」でもあるのかもしれません。「ゼロコロナ」はありえません。障害も受け入れるしかなく、パラリンピック選手達も最初は想像を絶する葛藤があったはずです。しかし、障害との共存を受け入れられ、共存における最善策を模索され、想像を絶する努力の結果、今があるのかもしれません。また、パラリンピック選手達にとって一般的な教科書は役に立たなかったはずです。「失敗を繰り返しながら」、「結果をもとに、自ら考え、改良を続け」我々にミラクルを見せて下さっているのかもしれません。新型コロナウイルスは、「強毒でも感染力が弱いエボラ出血熱」、「感染力が強くても弱毒であったブタインフルエンザ(H1N1)」等これまで経験した感染症とは完全に異なります。新型コロナウイルス、特にデルタ株は感染力が強く、血栓症などのテロ行為により高齢者にとってはエボラ出血熱にも勝る怖さがあるため、既存の対策では抑え込む事が不可能な事を既に世界が教えてくれています。よって、G7加盟国の殆どは、共存を受け入れ、ゼロリスクはありえないことも理解し、感情ではなく科学的根拠に基づき臨機応変に最善の道を模索されています。この対応の正しさは、パラリンピック選手達が身をもって教えてくれているのかもしれません。


北極圏の新型コロナウイルスの感染状況が2021年8月23日に報告されました(Petron AN, Nature Medicine 2021, 8/23)。北極圏には700万人が住まれていて、2021年2月21日時点で58万人が新型コロナウイルスに感染され、11,000人が亡くなられています。このように感染拡大が顕著な北極圏で、感染者と死者を抑えられているのが「エスキモー」などの先住民と報告されています。「外界との接触が少ないから感染が抑制されているんだろう」と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、誤解です。実は、観光が経済の主力のため、先住民が最も感染症による犠牲になっています。1918年のインフルエンザのパンデミックでも多くの犠牲者が先住民に出ています。また、先住民には高血圧、糖尿病、心疾患、結核の方が多く、新型コロナウイルス感染による重症化の危険性が高くなるうえ、医療体制も整っていません。よって、1918年の悲惨な経験、さらに医療体制の不備を考え、先住民の方々は「マスク着用を徹底」され、「症状が出れば自己隔離」に努められ、「ワクチン接種を早期に導入」されています。また、1918年の経験をもとに「Avoiding Hunger」が徹底されています。栄養失調は免疫力を劇的に低下させ、感染症による重症化リスクが高くなる事を1918年の経験から学ばれていたようです。よって、スーパーなどの閉鎖を考慮し、各家庭で食料の備蓄に努められています。「Indigenous knowledge」、つまり「先住民の過去から学んだ知識」が、新型コロナウイルスの感染拡大を抑制した可能性が報告されています。もう一つの新型コロナウイルスの感染抑制に繋がった理由は、「strong emotional, mental, spiritual, physical support」と述べられています。あくまでも個人的な翻訳ですが、「悟り(理想と現実を理解し、新型コロナウイルスとの共存を受け入れ)」、「感情を抑制し(他人の批判ばかりせず)」、「気持ちを強く持ち(過度に恐れず冷静に対処し)」、「各自で体調管理に努める(各自にできる事を地道に積み上げていく)」が、新型コロナウイルスに対する最善策である事を意味しているのかもしれません。緊急事態においては、「パニックを避ける」が世界的な概念と思います。恐怖を煽るのでなく、新型コロナウイルスを正しく恐れ、冷静に対処する必要がある事を北極圏の先住民達が教えてくれているのかもしれません。

「(43) 季節性インフルエンザやその他の感染症との違いは?」の章への追記
アメリカから2020年度の新型コロナウイルス感染状況が2021年8月26日に報告されました(Pei S, Nature 2021, 8/26)。2020年にアメリカの人口の「約1/3」は新型コロナウイルスに感染していた可能性が報告されています。2020年の「春」に感染が確認された方の死亡率(Case fatality)は「7.1%」、国民全体(infection fatality)では「0.77%」のようです。2020年の「冬」には、ワクチン接種開始前であるにも関わらず、感染が確認された方の死亡率は「1.29%」、国民全体では「0.31%」にまで減少し、季節性インフルエンザのアメリカ国民全体の死亡率「0.08%」に近づいています。また、感染拡大の時期に地域差があったようです。シカゴ(北緯41度)とニューヨーク(北緯40度)の感染拡大は春と冬に、ロサンゼルス(北緯34度)とフェニックス(北緯33度)の感染拡大は夏と冬に、マイアミ(北緯25度)での感染拡大は通年を当して認められたようです。

「(48) 後遺症は?」の章への追記
新型コロナウイルス感染による重症化から生還された1,276人に対する退院から185日目と349日目の追跡調査結果が中国から2021年8月28日に報告されました(Huang L, Lancet 2021,8/28)。88%の方は185日目には仕事に復帰できるまでに回復されるようです。

 

[79版への追記箇所]
「(7) 新生児、小児、学生は?」の章への追記
イギリス公衆衛生庁(Public Health England, PHE)は、数か月おきに無作為抽出した100校以上の小学校と中学校の感染状況を調査されています。2021年6月の「デルタ株」による感染率は、小学校で0.27%、中学校で042%と2021年8月11日に報告されました。「アルファ株」の感染拡大が認められた2020年秋よりも感染率は低く、「デルタ株が小児に感染を起こしやすい」という根拠はイギリスでは認められないようです。また、小児の感染率は明らかに一般社会よりも低く「日常社会活動に比べて、小学校や中学校がデルタ株の感染源となる事はない」と警告を発せられています。日本でも、デルタ株の感染拡大に伴い感染者の母数が増えたため、小児の感染者数は増えていますが、ワクチン接種がほぼ終了した65歳以上を除いた他の年齢層に比べて、小児の感染率は低く保たれています。アルファ株で多く報告されているように、小児のデルタ株感染も「家庭内感染」つまり「親からうつる」場合が主体のようです。また、厚生労働省の報告によると、2021年8月18日の新型コロナウイルス感染による重症者は、10歳未満で0、10歳代で0、20歳代で0、30歳代で1人、40歳代で43人、50歳代で88人、60歳代で111人、70歳代で146人、80歳以上で85人です。季節性インフルエンザでも20歳未満の子供達が30人以上亡くなる年もありますが、新型コロナウイルス感染による20歳未満の死者は未だ「ゼロ」です。また、厚生労働省の2021年8月18日報告の国内発生状況によると、クラスター発生が最も多いのは「企業」です。企業活動が停止される前に、学校の一斉休校はないのかもしれません。

「(19) 再感染は?」の章の「交叉免疫」への追記
交叉免疫は我々にとって、新型コロナウイルスに立ち向かくための非常に心強い武器である事が2021年8月18日に報告されました(Tan CW, New England J Medicine 2021, 8/18)。2002年に一部地域で猛威を振るった「SARS-CoV1」が原因の重症急性呼吸器症候群に罹られた方には、今回の新型コロナウイルス「SARS-CoV2」に対する免疫はないようです。しかし、ファイザー社RNAワクチンを1回接種した段階で、新型コロナウイルスに対して100%の予防効果がある中和抗体が獲得できると報告されています。また、ワクチンを2回接種した後には、「アルファ株」、「ベータ株」、「デルタ株」、さらには「新型コロナウイルスの起源となったコウモリ由来のRaTG13コロナウイルス」に対する中和抗体もできるようです。これが、免疫の頼もしい必殺技「交叉免疫」です。つまり、ブーストを繰り返せば、1度対戦したウイルス(SARS-CoV1)と類似点さえあれば、どのような変異株であっても免疫軍は即座に「一網打尽」にしてくれるのかもしれません。

同様の結果が2021年8月19日にも報告されました(Tut G, Lancet Healthy Longevity 2021, 8/19)。高齢者では、ファイザー社RNAワクチンの2回接種でも誘導できる中和抗体量は年齢に相関して減少し、中年層に比べて8.2倍低くなるようです。一方、過去に新型コロナウイルスの感染歴のある高齢者では、1回目ワクチン接種後でさえ充分量の中和抗体が産生されると報告されています。また、重症化予防に寄与するT細胞も、感染経験が無い高齢者に比べて感染歴がある高齢者では30倍以上も活性化されるようです。特記すべきは「交叉免疫」です。感染歴がない高齢者では、変異株に対するワクチンの予防効果は、「ベータ株」に対しては31%、「アルファ株」に対して46%、「ガンマ株」では23%まで低下する可能性が報告されています。一方、感染歴がある高齢者では、ワクチンの予防効果は全ての変異株に対して100%に維持されるようです。

「(31) ワクチン接種の判断は?」の章への追記
ファイザー社RNAワクチン接種後の2例の心筋炎発症が2021年8月18日に報告されました(Verma AK, New England J Medicine 2021, 8/18)。1人目は45歳女性で、1回目のワクチンを接種して10日目に「めまい」と「呼吸困難」で発症しています。しかし、7日で改善し退院されています。2人目は42歳男性で、2回のワクチン接種後14日目に「胸痛」で発症し、発症3日目に亡くなられています。

「(32) ワクチン接種後の再感染(ブレイクスルー感染)は?」の章への追記
アメリカのCDCが「ブレイクスルー感染」に関する調査結果を2021年8月16日に報告されました。ファイザー社RNAワクチンまたはモデルナ社RNAワクチンを2回接種して14日が経過した1億6800万人が対象です。ブレイクスルー感染を起こして入院治療が必要となった方は9,716人と報告されています。10万人に5.8人(0.0058%)の計算になります。死者は1,829人で、10万人に1.09人の計算になります。ブレイクスルー感染で亡くなられた方の88%は65歳以上の高齢者と報告されています。軽症を含めたブレイクスルー感染の調査結果もドイツから2021年8月18日に報告されました(Lange B, New England J Medicine 2021, 8/18)。ワクチンの2回接種が終了した1,137人の医療従事者のうちブレイクスルー感染を起こした方は4人で、ブレイクスルー感染率は0.35%の計算になります。皆さん軽症で済んでいますが、ヒトにうつす可能性がある量のウイルス(PCRのCT値25)が検出されたと報告されています。感染対策面での注意が必要かもしれません。また、変異株が発生する前の17,411人の調査では、ブレイクスルー感染率は0.05%と報告されており、変異株はブレイクスルー感染を起こし易いようです。今回の調査でブレイクスルー感染者に検出されたウイルスは「アルファ株」と報告されています。

「(40) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(全てが諸刃の剣)?」の章の「公共対策」への追記
フェースブックを用いた感染予防効果の調査結果が2021年8月19日に報告されました(Breza E, Nat Med 2021, 8/19)。日本の「お盆」や「お正月」のように帰省ラッシュが起こる、アメリカの「サンクスギビング」と「クリスマス」が対象期間です。サンクスギビングでは1,100万人、クリスマスでは2,300万人が対象となっています。外出や長距離移動を控える重要性を医療従事者が語る20秒のビデオメッセージがフェースブックで配信されています。比較検討を行うため、ある地域ではサブスクライバーの75%に配信され、残りの地域ではサブスクライバーの25%に配信されています。25%配信された地域に比べて、75%配信された地域では長距離旅行が0.99%減少し、新型コロナウイルス感染者も3.5%減少したと報告されています。一方、近隣への外出に対する抑制効果はなかったようです。

「都市封鎖」や「野戦病院」という言葉をよく耳にするようになりました。「都市封鎖」は「新型コロナウイルスが未知」であった2020年に各国がとった苦肉の対策で、感染者を一時的に抑制して、その間に「ワクチンの臨床試験」や「医療体制の整備」など新たな対策を準備するための時間稼ぎであったと思います。事実、「都市封鎖」を繰り返しても、いつかは感染爆発が起こる事は世界が既に教えてくれています。重症化リスクが高い高齢者のワクチン接種の普及により、新型コロナウイルス感染による死者は、季節性インフルエンザ並みになってきました。事実、2021年8月22日の日本の新型コロナウイルス新規感染者は22,364人/日で、死者数は24人/日です。感染者数は多くても死者数の少ないウイルスに対して「都市封鎖」を行えば結果は火を見るよりも明らかかもしれません。年間1,000万人もの人が感染し3,000人以上の命を奪うからといって、季節性インフルエンザで都市封鎖を行う国は無いと思います。

ワクチン接種が開始される前は、感染者の増加に伴い重症者・死者共に爆発的に増えたため「野戦病院」が必要になったと思います。アメリカ・ニューヨーク市(人口:約850万人)ではセントラルパークに野戦病院を作られています。その当時のニューヨーク市の新規感染者数は8,021人/日、死者数は1,221人/日に達しています。感染者数に対する死者の割合が非常に高くなっており「非常事態」を物語っているのかもしれません。イギリス・ロンドン市(人口:約900万人)ではエクセル展示センターに野戦病院を設営されました。その当時のロンドン市の新規感染者数は61,757人/日、死者数は1,662人/日に達しています。感染者数も死者数も非常に多く「非常事態」である事がうかがえます。第5波(2021年8月)の東京都(人口:約1400万人)の新規感染者数の最多は5,773人/日で死者数は11人/日です。65歳以上の高齢者のワクチン2回接種率が80%を超えたため、現在の東京での「人口あたりの死者数」は、ニューヨーク市が野戦病院を設営した時の「約222分の1」、ロンドン市が野戦病院を設営した時の「約286分の1」の計算になります。

「新型コロナウイルス感染により命を失う」危険性は、ワクチン接種により大幅に低くなってきました。また、医療の逼迫で「救える命を救えなくなる」危険性は、医療機関等情報支援システム(G-MIS)に報告されている一般病床の空床数からは考えにくいのかもしれません。野戦病院を設営しなくても、一般病棟の空床の一部の転用で充分なのかもしれません。一方、長期間の外出制限による運動不足で、体重増加、血糖値増加、コレステロール増加を認める方も日増しに多くなっています。つまり、糖尿病、心筋梗塞、脳梗塞で命を失われる方が増えてくることを教えてくれています。また、過度な衛生状態が長く続くと免疫軍の訓練不足により、命を脅かす自己免疫疾患やアレルギー疾患が増えてくる事が予想されます。また、これまでは軽症で済んでいた感染症でさえ重症化して命を落とす危険性が出てきます。経済の低迷により若者の自殺者が増え、犯罪も増えてきます。また、過度な行動制限が将来の日本を担う子供達に与える精神的影響は計り知れないのかもしれません。今後は、長期間の行動制限が引き起こす「失う必要のない命を失う」危険性を最小限にとどめる対策が必要になるフェーズと個人的には思います。

「(40) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(全てが諸刃の剣)?」の章の「各国の将来を見つめたコロナ対応」への追記
イギリスでは国民規模の前向き調査が進んでいます。「国民をモルモットにしている」との批判も一部ではあるようですが、「国民性」さらには「早く昔の生活に戻りたい」という国民の願いから大きな混乱なく進んでいるようです。このようなリスクを伴った大規模調査は日本では難しいため、イギリスをはじめとした海外の「国民を巻き込んだ大規模調査」の結果が、今後の日本の新型コロナウイルスに対する政策決定において非常に貴重な情報をもたらしてくれるのかもしれません。

イギリス公衆衛生庁(Public Health England, PHE)は、国民を巻き込んだ大規模イベントの調査結果を2021年8月20日に報告されました。F1カーレースの大規模イベントの「イギリスグランプリ(British Grand Prix)」には3日間で35万人が集まっています。ワクチン接種者(ワクチンパスポート)または陰性証明書が参加の条件です。検査では10%以上の感染者を見逃すことは既に明らかなため、陰性証明は「感染している可能性が低い」事を示すためのもので、「絶対に感染していない」の証明にはなりません。つまり、陰性証明書を提示された方の中にも感染者は必ずいます。また、ワクチン接種者でも0.35%の方に再感染を起こしてしまいます(Lange B, New England J Medicine 2021, 8/18)。事実、イギリスグランプリでも343人の感染者は見逃されてイベントに参加されています。しかし、この感染者からイベント中に感染した方は242人と報告されています。イベントによる感染率は0.069%の計算になり、同時期のイギリスの各都市での感染率1.36%~1.57%を下回っています。つまり、感染者が感染を拡大させる可能性は、「イギリスグランプリの方が日常生活より低かった」事を教えてくれています。

2つ目の大規模なイベント調査は、テニスの祭典「ウインブルドン」で行われています。2週間の期間中に30万人が参加されました。イギリスグランプリのように、「ウインブルドン」でも299人の感染者は見逃されて参加されています。この感染者からイベント中に感染した方は582人と報告されています。イベントによる感染率は0.19%の計算になり、同時期のイギリスの各都市での感染率0.31%~1.36%を下回っています。やはり、感染者が感染を拡大させる可能性は「ウインブルドンの方が日常生活より低かった」結果になります。

イギリスグランプリとウインブルドンの次に行われた大規模イベント調査は「欧州サッカー選手権(EURO 2020 matches)」です。これまでの2つの大規模イベントと異なり、欧州サッカー選手権では「ステップ4への移行の実現性」が調べられています。「ステップ4」とは昔の日常にほぼ近い状態です。つまり、「ソーシャルディスタンスをとる必要なく」、「マスクを着用する必要なく」、「飲酒も自由で」、「人数制限もなく」開催されています。欧州サッカー選手権の優勝リーグは7月7日から7月11日に開催され35万人が参加されました。スタジアム内で感染した方は2,295人、スタジアム周囲のバーなどで感染した人は3,404人と報告されています。イベントによる感染率は1.63%で、イギリスの感染率を上回ります。つまり、マスク無し、ソーシャルディスタンス無しで行う大規模イベントは感染拡大のリスクになる事を教えてくれています。

これら3つの大規模イベントの調査結果は、1)「ワクチンパスポートを活用して30万人規模の大規模イベントを行っても、ソーシャルディスタンス、マスク着用、大声を出さない等の感染対策がとられていれば、新型コロナウイルスの感染源とはならない」そして2)「感染対策なくしての昔同様の大規模イベントは、新型コロナウイルスの感染源となる」事を教えてくれています。また、イギリス公衆衛生庁は、ステップ4(昔の状態)で大規模イベントを開催するためには「もっと多くの国民がワクチンを接種する必要がある」と報告されています。つまり、昔のように「野球やサッカー等のスポーツイベントで大声援を送りたい」、「ジャニーズ等のコンサートで大声援を送りたい」と思われている方は必ずワクチンを接種されることを強くお勧めします。

「(43) 季節性インフルエンザやその他の感染症との違いは?」の章への追記
季節性インフルエンザでは、症状が出た方がクリニックや急患センターを受診し、抗原検査によりその場で感染が確認されます。医師が軽症と判断された方は自宅療養が指示されます。また、医師が中等症と判断すると、病院に紹介され入院治療が行われます。また、自宅療養を指示された方にも医師は「何かあったらご連絡下さい」と必ず言われると思います。つまり、自宅療養中に悪化した方を見逃さないためです。病院での入院治療にも関わらず悪化し命の危険が切迫する重症化に陥った方は、3次救急病院に紹介され集中治療室での高度医療がほどこされます。集中治療で命を取り止めた方は、高度医療は必要なくなるため一般病院に戻され完全回復まで入院されます。季節性インフルエンザでは、「軽症(クリニック)」、「中等症(一般病院)」、「重症(大規模病院)」に対する役割分担のバランスが保たれ毎年1,000万人を超える感染者を医療逼迫なく治療されています。

新型コロナウイルスでは、クリニックより保健所に初期段階の対応が集中します。また、クリニックで陽性が確認されても、その後の指示は保健所から出されます。季節性インフルエンザとは異なり、感染症指定病院での治療が原則となるためです。また、感染症指定病院は集中治療室(ICU)を持つ大規模病院に集中します。よって、大規模病院に感染者が集中し、中等症用病床が逼迫すると、高度医療が必要ない中等症の感染者をICUで治療しなくてはいけない可能性が出てきます。また、重症のためICUで治療され、命の危険が無くなり高度医療が必要なくなっても、中等症用病床がないため、そのままICUで治療を続けないといけない可能性も出てきます。これにより、人工呼吸器装置が必要ない中等症患者さんがICUに留まり「重症者数の見かけ上の増加」や「ICUの機能低下」をもたらす危険性がでてきます。「保健所主体の初期対応」さらに「感染症指定病院」の足かせにより、新型コロナウイルスでは、季節性インフルエンザのような適材適所のバランスが崩れ、潤沢な医療リソースがありながら医療逼迫に直面しているのかもしれません。指定感染症病院に認定されていない医療施設でも、季節性インフルエンザの患者さんを入院治療された病院は多いはずです。勿論、季節性インフルエンザでも感染予防対策は必須です。つまり、新型コロナウイルスの中等症患者さんも治療可能な事を教えてくれています。新型コロナウイルスを2類相当から格下げできれば、「新型コロナウイルス感染=風評被害」と言う心配も除去でき、中等症を担当される一般病院も協力しやすく、チームプレーが確立された日本の医療体制を最大限に引き出せるのかもしれません。

しかし、新型コロナウイルスが季節性インフルエンザより怖いウイルスであれば、話しは変わります。よって、2021年8月25日までの新型コロナウイルスの経時的感染状況を整理してみました。厚生労働省の国内発生状況によると、累積感染者数は2020年11月まで徐々に増え、2020年11月28日時点で143,139人です。この後急速に増え始め2021年6月20日には782,213人に達しています。その後さらに感染拡大は加速し、2021年8月21日には1,273,652人に達しています。感染力の強いアルファ株により感染拡大が起こり、更に感染力が強いデルタ株への置き換わりにより、感染拡大は爆発的に加速したと考えて矛盾はないと思います。一方、累積死者数は、2020年11月まで徐々に増え、2020年11月28日時点で2,073人です。この後急速に増え始め2021年6月20日には14,417人に達しています。その後は、死者数の増加速度は低下し、2021年8月21日に15,589人です。死者数の増加に歯止めがかかった2021年6月20日にワクチン2回接種が済んでいる方は、僅か8.8%です。ワクチンよりウイルスの性質を反映していると考えるのが科学的に妥当と思います。つまり、アルファ株は感染力が強く、毒性も強いため12,344人もの命を奪った計算になります。一方、感染力が更に強くなったデルタ株で亡くなった方は1,172人です。感染症の歴史は、「ウイルスは感染力を強めながら病原性を低下させて人類と共存する」事を教えてくれています。季節性インフルエンザが良い例で、日本で毎年1,000万人以上が感染され、交通事故による死者数より僅かに少ない3,000人が亡くなられています。デルタ株も季節性インフルエンザのような「感染力は強くても病原性の弱い共存ウイルス」になっているのかもしれません。事実、2021年6月20日から8月21日までのデルタ株による死者数は1,172人です。ひと月あたりの死者数は586人です。季節性インフルエンザは11月から1月の3ヶ月間で毎年3,000人以上の命を奪います。ひと月あたり1,000人の命が季節性インフルエンザで奪われる計算になり、デルタ株の約2倍です。ワクチン接種もどんどん進んでおり、新型コロナウイルス感染による死者数は更に減少する事が期待されます。また、新型コロナウイルスが日本に上陸し1年半が経過した2021年8月18日までに、20歳未満で新型コロナウイルス感染で亡くなった子供達はいらっしゃいません。新たな変異株が出現しない限りは、新型コロナウイルスは数年後には夏風邪程度の風土病になる可能性も期待できると個人的には思います。

「(49) 治療法は?」の章の「血漿投与」への追記
軽症者に対する血漿投与の臨床試験結果が2021年8月18日に報告されました(Korley FK, New England J Medicine 2021, 8/18)。50歳以上で重症化リスクがあり、何らかの症状が出てから7日以内に急患センター(日本の発熱外来相当)を受診された方が対象です。重症化リスクの定義は、「ガン」、「慢性腎疾患」、「閉塞性肺障害」、「ダウン症候群」、「心疾患」、「臓器移植」、「肥満(BMI>30)」、「妊婦」、「鎌状赤血球症」、「喫煙」、「2型糖尿病」です。新型コロナウイルスに対する中和抗体が1:641以上のドナー血漿が用いられています。血漿投与群は257人、コントロール群は254人です。血漿投与群で病気の悪化は30%に認められ5人が亡くなられています。コントロール群では31.9%に悪化が認められ1人が亡くなられています。新型コロナウイルスの軽症者に対する血漿早期投与の治療効果は無いと著者たちは締めくくっています。

「(49) 治療法は?」の章の「人工呼吸器」への追記
腹臥位(Awake prone position)つまりお腹を下にした状態の、新型コロナウイルス感染に対する臨床試験結果が2021年8月20日に報告されました(Ehrmann S, Lancet 2021, 8/20)。カナダ、フランス、アイスランド、メキシコ、アメリカ、スペインが協力され、1,126人の経鼻からの酸素投与が行われている中等症患者さんが対象です。悪化して人工呼吸器装着が必要になった感染者は、腹臥位群では40%、コントロール群では46%と報告されています。

「(17) PCRは?」の章の「PCRで感染拡大を防ぐ方法」の訂正
(訂正)想像を遥かに超えていたため「約50倍以上」という曖昧な数値を用いてしまい、お詫び申し上げます。著者達は「RT-PCR clinical testing and surveillance testing identified only 1.4% of all infections in the age group (age 15 years or older)」と報告しています(Laxmiarayan R, Lancet Infectious Disease 2021, 8/13)。つまり、15歳以上では、PCRで陽性が確認された感染者の「71.4倍(100%÷1.4%)の隠れ感染者がインドでは潜んでいた計算になります。

 

[78版への追記箇所]
「(17) PCRは?」の章の「PCRで感染拡大を防ぐ方法」への追記
お盆中に見た数々の情報番組で新型コロナウイルスに感染され回復された芸能人の方々のメッセージが放映されていました。若い芸能人の方が「体だけでなく、精神的にも辛かった。もし、一緒に仕事をしている方達にうつしたらと思うと」と涙ぐまれていました。「職場の同僚にうつしたら」の一言が風評被害に伴う精神的ストレスを物語っているのかもしれません。季節性インフルエンザに感染して、ここまでの精神的ストレスはないと思います。風評被害を軽減しなければ、感染拡大を助長するばかりか、計り知れない負の遺産を残す危険性があるのかもしれません。

インドからの2021年8月13日に報告されたマドゥライ市の326万人を対象とした抗体検査の結果が、上記の懸念をさらに増大させる可能性があります(Laxmiarayan R, Lancet Infectious Disease 2021, 8/13)。PCR検査体制は充分整えられていたようです。症状があってPCR検査を受けられた方の陽性率は5.4%、無症状で受けられた方の陽性率は2.5%と報告されています。PCRで陽性が判明した方の死亡率は2.4%のようです。しかし、驚きの結果が感染拡大終息後の抗体検査により示されています。「PCRで陽性が確認された人数は氷山の一角で、実際の感染者は10倍近くいる」というのが世界の一般的な考えでした。しかし、マドゥライ市の15歳以上の抗体陽性率は40.1%にものぼり、人口の半数近い人が感染しながらPCR検査を受けていなかったことになります。この隠れ感染者数(抗体陽性者数)から計算すると、新型コロナウイルス感染による死亡率は0.043%の計算になり、PCR陽性者数から計算した2.4%より50倍以上も低くなります。また、インド医学研究評議会も「ワクチン未接種者の62.3%に新型コロナウイルスに対する抗体が検出」できる事を2021年7月20日に報告しています。「症状が有っても検査を受けなかった隠れ感染者」や「新型コロナウイルスに感染しても無症状で回復する人」は予想を遥かに超えて多いのかもしれません。

「(29) ワクチン接種回数は?」の章の「1回接種と2回接種の比較」への追記
同様の結果がドイツから2021年8月12日に報告されました(Hillus D, Lancet Respiratory Medicine 2021, 8/12)。医療従事者380人を対象に、174人にファイザー社RNAワクチンが2回接種、38人にアストラゼネカ社DNAワクチンが2回接種、104人にアストラゼネカ社DNAワクチンが最初に接種され2回目にファイザー社RNAワクチンが接種されています。2回目接種後3週目の中和抗体量(幾何平均抗体価、genometric mean titer)は、「アストラゼネカ社DNAワクチンの2回接種」で212.5、「ファイザー社RNAワクチンの2回接種」で369.2、「アストラゼネカ社DNAワクチンを最初に接種してファイザー社RNAワクチンを接種した場合」は956.6と報告されています。また、T細胞の活性化は、「アストラゼネカ社DNAワクチンの2回接種」で1,061、「ファイザー社RNAワクチンの2回接種」で2,026、「アストラゼネカ社DNAワクチンを最初に接種してファイザー社RNAワクチンを接種した場合」は4,762と報告されています。発熱や倦怠感など全身性の副反応が出現する割合は、「アストラゼネカ社DNAワクチンの2回接種」で39%、「ファイザー社RNAワクチンの2回接種」で65%、「アストラゼネカ社DNAワクチンを最初に接種してファイザー社RNAワクチンを接種した場合」は49%と報告されています。これまでに蓄積された結果から考えると、「アストラゼネカ社DNAワクチン接種後のファイザー社RNAワクチン接種」は「利益こそあれ不利益となる事は無い」と言えるのかもしれません。

施設に入居されていない80歳以上の高齢者165人を対象としたワクチン効果の調査結果が2021年8月11日に報告されました(Parry H, Lancet Longevity 2021, 8/11)。アストラゼネカ社DNAワクチンまたはファイザー社RNAワクチンの1回接種でも、量は少ないながらも(約19.3 U/mL)新型コロナウイルスに対する中和抗体が87%以上の高齢者にできると報告されています。また、過去に新型コロナウイルスに感染した高齢者では、1回目接種後の中和抗体産生量は691倍も増えるようです。

「(30) ワクチンの副反応とアナフィラキシーは?」の章の「DNAワクチンによる血栓症の可能性」への追記
イギリスから2021年3月22日から6月6日までにアストラゼネカ社DNAワクチンが原因の可能性のある血栓症の調査結果が2021年8月11日に報告されました(Pavord S, New England J Medicine 2021, 8/11)。アストラゼネカ社DNAワクチンによる血栓症の確定例が170人、疑い例が50人と報告されています。発症はワクチン接種後平均14日(5~48日)、平均年齢は48歳(18~79歳)、男女差は無いと報告されています。死亡率は22%で、血小板の減少と血栓の発症部位が死亡率を大きく左右するようです。脳静脈洞に血栓が起こった場合は死亡率が高くなり、血小板数が30,000/μL以下の場合は死亡率が73%に跳ね上がる可能性が報告されています。

「(31) ワクチン接種の判断は?」の章の「18歳未満の接種による利益とリスク」への追記
3,732人を対象とした「12歳から17歳の若年層」に対するモデルナ社RNAワクチンの臨床試験結果が2021年8月11日に報告されました(Ali K, New England J Medicine 2021, 8/11)。100μgのRNAワクチンが28日間隔で2回接種されています。中和抗体の産生量は、「12歳から17歳」では「18歳から25歳」に比べて1.08倍多いと報告されています。副反応は多い順に、接種部位の腫れや痛みが92.4%、頭痛が70.2%、倦怠感が67.8%と報告されています。高熱は1.9%に認められるようです。また、脇の下のリンパ節が腫れる場合があるようですが、4日ぐらいで改善すると報告されています。

「(32) ワクチン接種後の再感染(ブレイクスルー感染)は?」の章への追記
首相官邸から2021年8月13日にツイッターで配信さえた「新型コロナワクチン情報」によると、7月の高齢者の新型コロナウイルス感染による日本の死亡率は、ワクチン未接種者で4.31%、1回接種者で3.03%、2回接種者で0.89%と報告されています。また、高齢者の感染のうち、ワクチン未接種が5,387人、1回接種者が857人、2回接種者が112人です。感染者の98.2%は、ワクチンの2回接種が終了していない方の計算になります。この結果はアメリカCDCの結果と非常に類似しています。ワクチンを2回接種すれば「感染しにくく、感染しても死には至らない」事を明らかに示してくれています。

ワクチン後の再感染が「ブレイクスルー感染」として取り上げられはじめ誤解も生まれているようです。「ブレイクスルー感染」は「ワクチンを突破する感染」を意味し、ワクチン効果が期待できるにも関わらず感染してしまうケースです。ワクチン効果が担保できるのは「2回目を接種して14日目」からです。事実、欧米のワクチンパスポートの定義も「2回目を接種して14日が経過した者」となっています。それ以前の感染であれば、ワクチン効果は担保されておらず「ブレイクスルー感染」とは言いずらいのかもしれません。また、ブレイクスルー感染者でも他人にうつす可能性はありますが、その可能性は未接種者ほど高くない事は多くの論文により既に報告されています。

「(33) ウイルスの変異は?」の章の「その他の変異株」への追記
イギリスからワクチン接種後に感染を起こした新型コロナウイルスの遺伝子解析結果が2021年8月13日に報告されました(Shell LB, Lancet Infectious Disease 2021, 8/13)。ワクチン接種後の感染では、PANGO分類の「B1.621株」が多いようです。既存の変異である「R346K」、「E484K」、「P681H」に加えて、417番目のリジン(K)がアスパラギン(N)へ変異「K417N」していると報告されています。この変異は、ワクチン効果が減弱する可能性が報告されている「南アフリカ由来変異株(ベータ株)」と「ブラジル・アマゾン由来変異株(ガンマ株)」にも認められており、注意が必要な変異かもしれません。ウイルスは日々変異して行きますが、科学の進歩もウイルスに負けてはいません。危険性を伴う変異株の出現を早期に検出するためには、ウイルス遺伝子の一部の解析では全く意味がなく、全長遺伝子解析(シークエンス)が不可欠です。日本を含む世界中の新型コロナウイルス遺伝子情報が刻一刻と「PANGO」に蓄積されており、膨大な種類の新型コロナウイルス遺伝子情報を閲覧する事が出来ます。どれだけの種類の変異株が既に出現しているか知るためには、PNNGOのホームページが非常に役に立ちます。
https://cov-lineages.org/lineage_list.html

「(34) 変異したウイルスに対するワクチン効果と各自の対策は?」の章の「インド由来変異株(WHOがデルタ株と命名)」への追記
アメリカCDC(疾患管理予防センター)からの2021年8月18日の報告によると、全国的調査では健常人においてファイザー社RNAワクチンもしくはモデルナ社RNAワクチン接種後6ヶ月が経過しても、デルタ株に対する効果減弱はないようです。一方、ニューヨーク市の調査では、RNAワクチン接種後6ヶ月が経過するとデルタ株に対する感染予防効果は91.7%から79.8%へと僅かに減弱するも、入院にいたる中等症化の予防効果は91.9%~95.3%に維持されると報告されています。しかし、注意が必要なのは免疫力が特に低下している高齢者介護施設に入居されている高齢者です。RNAワクチン接種後6ヶ月が経過するとデルタ株に対する感染予防効果は53.1%に低下する可能性が報告されています。よって、CDCは高齢者介護施設のスタッフおよび訪問者は必ずワクチン接種を受けるように呼びかけられています。

「(40) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(全てが諸刃の剣)?」の章の「公共対策」への追記
アメリカCDCがホームページに掲載している「Violence imacts Teens` Lives」を2021年8月17日に読んでみました。14歳から18歳のティーンネージャーの暴力事件は新型コロナウイルスの影響で学校にいけない事により約10倍、希望の消失により約3倍、自殺願望の芽生えにより約6倍増加する可能性が報告されています。若年者たちの将来を棒に振らせないため、学校に対する制限は極力避けた方が良いのかもしれません。

「(40) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(全てが諸刃の剣)?」の章の「指定感染症」への追記
感染症分類の格下げにより、各々の感染者に課せられる医療従事者の負担も軽減され、1人あたりの医療従事者が対処できる感染者の数も増えます。また、「感染症指定病院」以外の全ての病院で入院治療が可能となるため、これまでのように限られた病院に感染者が集中することがなくなり、医療逼迫の緩和にもつながると思います。また、風評被害も減少し、医療従事者の精神的負荷も軽減できます。このような状況から考えると、新型コロナウイルスの感染症分類を今のままII類相当で維持する理由を見つけ出す方が難しいと個人的には思います。

2021年8月20日の情報番組で早産で生まれた赤ちゃんのかけがえのない尊い命が奪われた事を知りました。心よりご冥福をお祈りいたします。早産は妊娠中につきものの事態のため、早産に対する医療体制は確立されています。新型コロナウイルス感染症が2類相当でなければ、かかりつけの産科の医師が充分に対処できたのかもしれません。「救える命を救うため」の2類相当の対策が長期間続くことにより、「失う必要のない命を失う」危険性を伴うフェーズに入って来ているのかもしれません。

内閣官房では、病院の「空床」状況をリアルタイムに可視化できるように「Gathering Medical Information System on COVID19(G-MIS)」を構築されたようです(https://corona.go.jp/dashboard/#medical-items)。G-MISの2021年8月18日の情報によると、東京都の対象病院642施設のうち397施設が協力されています。東京都で既に協力されている病院が所有する全病床数は88,866床で、空床は現在14,121床(15.9%)と報告されています。これらは新型コロナウイルス感染者用に特化されたものではなく一般病床です。しかし、II類相当の分類が格下げできれば、一般患者さん用に空いている14,121床の1部は、酸素投与が必要な中等症の患者さんのために使えるのかもしれません。医療逼迫の改善に貢献してくれると個人的には信じています。

「(40) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(全てが諸刃の剣)?」の章の「医療体制」への追記
新規感染者数が非常に増えてきた都道府県のホームページを見てみると2021年8月17日の福岡県の新規感染者数は1,134人、中等症で入院中が368人、重症者が27人、重症病床使用率は13.3%です。愛知県は、新規感染者数は1,221人、中等症で入院中が204人、重症者が28人です。沖縄県は、新規感染者数は768人、中等症で入院中が517人、重症者が22人です。医療体制は「外来で治療可能な1次救急」、「入院して治療が必要な2次救急」、「死の危険性が切迫した患者さんの治療にあたる3次救急」の連携により成り立ちます。このバランスが崩れて一か所に集中すると医療逼迫を起こしてしまいます。このバランスの評価のための一つの指標は、「病院収容所要時間」つまり「救急車を呼んでから病院に搬入されるまでに要する時間」なのかもしれません。総務省消防庁の「令和2年度救急救助の現状」によると、病院収容所要時間は最も短いのが福岡県の31.4分、次が愛知県の32.1分、次が沖縄県の32.3分です。最も病院収容所要時間が長いのは東京都で50.0分です。お隣の神奈川県も39.4分で、全国平均を下回ります。

新型コロナウイルス感染でも「酸素投与が必要ない方の自宅療養」、「酸素投与が必要になった中等症の入院治療」、「人工呼吸器装置が必要になった感染者の集中治療室(ICU)での治療」といった分業が世界的にも用いられています。このバランスが崩れて「中等症の感染者をICUで治療しなくてはいけない状況」に陥ると救える命も救えなくなってしまいます。命の危険が切迫し人工呼吸器装置が必要になった患者さんに対しては、高度医療に熟練した専門医による治療が必要になります。一方、酸素投与で対処できる中等症の患者さんは、高度医療や感染症が専門でない医師でも治療可能と思います。事実、「新型コロナウイルス感染症COVID-19診療手引き」も常にアップデートされており、感染症が専門でない医師であっても、中等症までは対処できる体制が構築されつつあります。また、酸素投与が必要となった中等症の感染者の死亡率は先進国と発展途上国で大差はありません。しかし、人工呼吸器が装置され高度医療が必要となった重症者の死亡率は先進国と発展途上国で大きく異なる事も報告されています。つまり、集中治療に熟練した医療従事者は、最後の砦として命の危険が切迫し、意識を無くし人工呼吸器装置が必要となった感染者のために残しておく必要があります。中等症感染者に対して入院により酸素投与が行える2次救急の充実が新型コロナウイルスを乗り切る鍵となるのかもしれません。

沖縄県のホームページでは、重症者22人(国基準108人)と記されています。日本集中治療学会がリアルタイムで報告している「人工呼吸器(ECMOを含む)装着者数」は、沖縄県では21人です。厚生労働省の重症者の定義は「人工呼吸器の使用」、または「ECMOの使用」、または「ICUでの治療」です。つまり、86人(108人-22人)もの人工呼吸器装着が必要ない感染者がICUで治療されており、2次救急病床の不足による医療逼迫状態を反映しているのかもしれません。日本集中治療学会が報告している2021年8月17日の人工呼吸器(ECMOを含む)装着者数は東京都では136人、神奈川県では68人です。一方、東京都が報告している重症者数は270人、神奈川県が218人です。人工呼吸器(ECMOを含む)装着が東京都の重症者の定義ですが、人工呼吸器装着なしにICUで治療されている患者さんは東京都でも134人、神奈川県では150人もいらっしゃる計算になります。医師の判断で人工呼吸器装置以前に重症化リスクを考慮してICUで治療をされる感染者はいらっしゃいますが、数人程度で134人や150人といった数にはならないと思います。やはり、「酸素投与が必要な感染者を受けいれる2次救急病床を充実させ、ICUに不必要な負担を掛けない」事が新型コロナウイルス対策の最後の鍵を握るのかもしれません。

各自治体のホームページを見ると、軽症と中等症の感染者をまとめて報告されている都道府県が多くあります。軽症と中等症では対処する医療機関が異なるため、軽症と中等症を別々に報告された方が、1次、2次、3次の何処を補充する必要があるのかを知るためには重要と個人的には思います。また、ICUの患者数と、その内訳としての人工呼吸器装着者数も重要な情報を提供してくれるのかもしれません。

「(49) 治療法は?」の章の「ステロイド」への追記

全身に影響を及ぼす内服でなく、気管支や肺の局所に限局した効果を発揮するステロイド吸入(Bedesonide)の臨床試験結果がイギリスから2021年8月10日に報告されました(Yu L-M, Lancet 2021, 8/10)。新型コロナウイルスに感染して外来を受診された65歳以上または基礎疾患がある50歳以上の4,700人の軽症者が対象です。回復に要した期間は、ステロイド吸入者では2.94日、無治療群では11.8日と報告されています。また、入院治療が必要となった方は、ステロイド吸入者では6.8%、無治療群では8.8%のようです。ステロイド吸入には多くの作用が存在します。局所の抗炎症作用に加えて、血管拡張や気管支拡張に寄与する「β2受容体の発現」を増加させます。炎症を抑えながら、血管を広くして血栓を抑制し、気管支を広くしてウイルスの体外への排出を即す(物理的障壁)といった多様な効果を発揮してくれている可能性があるのかもしれません。

[77版への追記箇所]


「(49) 治療法は?」の章の結語への追記
新型コロナウイルスに対するワクチン接種も進み、感染しても重症化しにくいステージに入ってきました。また、治療法も、軽症者に早期投与する事により重症化予防効果が期待できる「抗体カクテル療法」、中等症患者さんへの治療効果が期待できる「積極的抗凝固療法」、免疫の暴走を阻害し重症者への治療効果が期待できる「ステロイド療法」や「抗IL-6受容体阻害療法」も既に使用可能です。基礎研究、臨床研究、臨床現場の世界にまたがる強力なチームプレーにより、一年半という短期間で新型コロナウイルスに対する予防さらには治療戦略も揃ってきています。新型コロナウイルスを季節性インフルエンザ同様に扱うフェーズに入っていると言っても過言ではないと個人的には信じています。

感染症分類の格下げにより、各々の感染者に課せられる医療従事者の負担も軽減され、1人あたりの医療従事者が対処できる感染者の数も増えてきます。また、全ての病院で入院治療が可能となるため、これまでのように限られた病院に感染者が集中することがなくなり、医療逼迫の緩和にもつながると思います。また、風評被害も減少し、医療従事者の精神的負荷も軽減できます。このような状況から考えると、新型コロナウイルスの感染症分類を今のまま維持する理由を見つけ出す方が難しいと個人的には思います。

「(17) PCRは?」の章の「PCRで感染拡大を防ぐ方法」への追記
2021年8月11日の報道によると、東京都が新型コロナウイルス感染拡大を早期に感知するために繁華街などで行っていた「PCRモニタリング調査」は、今回第5波の感染拡大を予知できなかったようです。「受けたい方が受けるPCR検査」では「感染者を減らすどころか増やしてしまう危険性」がある事は既に報告されています(Rennert L, Lancet Child & Adolescent Health, 2021, 3/19)。よって、東京都も感染抑制の目的ではなく、名前に示されるように「モニタリング」つまり感染拡大を早期に感知するために行われていたと思います。しかし、PCR検査がモニタリングの役割さえ担えなかったのは少し驚きです。症状がありながらも検査を受けなかった、つまり「受けるべき人が受けていない」と考えるのが妥当と思います。陽性者となった時の過剰な風評被害を恐れられての行動かもしれません。感染拡大抑制を目的とした対策や報道が、恐怖を煽りすぎ、結果として感情的な風評被害を生みだし、感染拡大を助長するといった本末転倒現象が起こらないように注意が必要かもしれません。

「(28) 世界のワクチン効果の現状は?」の章への追記
自己免疫疾患の患者さんに対するワクチン効果の調査結果が2021年8月6日に報告されました(Boekel L, Lancet Rheumatology 2021, 8/6)。3,682人の「慢性関節リウマチ」の患者さん、546人の「多発性硬化症」の患者さん、1,147人の健常者が対象です。1回目のワクチン接種で充分量の中和抗体が産生された方の割合は、健常人の73%に対して、自己免疫疾患の患者さんでは49%に低下すると報告されています。しかし、2回目を接種する事で、自己免疫疾患の患者さんでも80%の方が充分量の中和抗体を獲得できるようです。自己免疫疾患の患者さんではワクチンは必ず2回接種する必要がある事を教えてくれています。また、自己免疫疾患で用いられる薬は強力な免疫抑制効果を持ちます。よって、使用されている薬剤によっても中和抗体の産生量は変わって来るようです。健常者に比べて、「抗TNF-α抗体製剤」使用者では0.73倍、「ステロイド」使用者では0.64倍、「メトトレキサート」使用者では0.16倍低下すると報告されています。また、抗体はB細胞によって作られます。よって、B細胞を除去する「抗CD20抗体製剤」を使用されている患者さんでは、中和抗体産生量は0.021倍まで低下するようです。

「(29) ワクチン接種回数は?」の章の「1回接種と2回接種の比較」への追記
異なったワクチンの組み合わせとしてファイザー社RNAワクチンを最初に接種してアストラゼネカ社DNAワクチンを2回接種した調査結果が2021年8月6日に報告されました(Liu X, Lancet 2021, 8/6)。平均年齢57.8歳の463人を対象として、最初のワクチン接種から28日目に2回目接種が行われています。中和抗体価は2回目接種後14日目に測定されELU/mLの単位で示されています。中和抗体量は「アストラゼネカ社DNAワクチンの2回接種」で1,392 ELU/mL(1,188~1,639)、「ファイザー社RNAワクチンの2回接種」で14,080 ELU/mL(12,491~15,871)、「アストラゼネカ社DNAワクチンを最初に接種してファイザー社RNAワクチンを接種した場合」は12,906 ELU/mL(11,404~14,604)、「ファイザー社RNAワクチンを最初に接種してアストラゼネカ社DNAワクチンを接種した場合」は7,133 ELU/mL(6,415~7,932)と報告されています。また、T細胞免疫の活性化も検討されています。ファイザー社RNAワクチン2回接種、アストラゼネカ社DNAワクチンからファイザー社RNAワクチン、ファイザー社RNAワクチンからアストラゼネカ社DNAワクチンの組み合わせでのT細胞の活性化は、アストラゼネカ社DNAワクチンの2回接種より強い可能性が報告されています。どのような組み合わせでも、アストラゼネカ社DNAワクチンの2回接種より強い効果が期待できるのかもしれません。日本でもアストラゼネカ社DNAワクチンの接種が開始されます。2回とも同じアストラゼネカ社DNAワクチンを接種するのではなく、2回目接種にファイザー社RNAワクチンを用いた方が、より効果が期待できるのかもしれません。

「(30) ワクチンの副反応とアナフィラキシーは?」の章の「DNAワクチンによる血栓症の可能性」への追記
イギリスの43か所の病院から「自然発症した脳静脈血栓症」と「アストラゼネカ社DNAワクチン接種後に発症した脳静脈血栓症」の比較調査結果が2021年8月6日に報告されました(Perry RJ, Lancet 2021, 8/6)。通常の脳静脈血栓症の発症年齢が57歳に対し、ワクチン接種後の脳静脈血栓症の発症年齢は47歳(32歳~55歳)と少し若くなるようです。死亡率は、通常の脳静脈血栓症が16%に対し、ワクチン接種後発症の脳静脈血栓症では47%と高くなると報告されています。しかし、ワクチン接種後発症の脳静脈血栓症の死亡率は、非ヘパリン抗凝固剤治療により36%へ、免疫グロブリン静注療法(IVIG)により40%へ低下できると報告されています。

「(40) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(全てが諸刃の剣)?」の章の「公共対策」への追記
新型コロナウイルスの遺伝子変異を足掛かりに、2020年5月に新型コロナウイルスの感染爆発を起こした米国ルイジアナ州の感染経路に関する調査結果が2021年7月26日に報告されました(Zeller M, Cell 2021, 7/26)。新型コロナウイルスは、流行が認識される以前から他の州からルイジアナ州に何度も持ち込まれ、感染拡大することなく、くすぶり続けていたようです。この状況を感染拡大爆発に導いたのは「マルディグラ(謝肉祭)」と報告されています。人が密に接するお祭り騒ぎのため、1人の感染者が10人に感染させた可能性があるようです。同様の調査結果は、「Biotech Conference」が引き金となった米国ボストンの感染拡大をはじめ多く報告されています。インドで感染爆発の引き金となった「ホーリー祭」も記憶に新しいかもしれません。つまり、お祭り騒ぎを伴う大規模イベントが感染拡大の主原因であり、感染対策においては最初に制限をかける必要があるようです。しかし、ワクチン接種が進めば、お祭り騒ぎを伴う大規模イベントも開催可能である事をイギリスが身をもって示してくれています。日本の風物詩である夏祭りも2年連続で中止となり寂しい限りです。来年こそ夏祭りを安全に開催させるためには、多くの方がワクチン接種を受ける必要があります。「お祭り好き」や「コンサート好き」など大規模イベントへの参加を心待ちにされている方で、ワクチン接種を悩まれていれば、大規模イベントを来年こそは安全に開催させるため今こそワクチン接種をお勧めします。

「(40) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(全てが諸刃の剣)?」の章の「オリンピック」への追記
選手達は血の滲むような努力で日本一になり、「世界における自身の実力をオリンピックで試せる」と期待に胸を膨らませていたと思います。しかし、オリンピック開催が議論されたさなかでも、殆どの選手は「オリンピックを開催して下さい」とのメッセージを発信されませんでした。自身のこれまでの努力を無駄にしても他の人達の気持ちを考えた、まさに「思いやりの精神」だったと思います。事実、多くの選手達はメダル受賞後のインタビューで「オリンピックを開いて下さりありがとうございました」と皆様に感謝されています。「他人を思いやり」、「自己犠牲も厭わず」、「自分が出来ること一つ一つ積み重ねた」結果が実を結び58個ものメダルを獲得してくれました。コロナで溜まったストレスを発散させてくれて、本当に感謝でいっぱいです。新型コロナウイルスに対しても「他人を思いやりながら、自分が出来ること着実に行う」事が最も重要なのかもしれません。

「(40) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(全てが諸刃の剣)?」の章の「各国の将来を見つめたコロナ対応」への追記
オリンピック閉会式で次の開催国であるフランスからの生中継がありましたが、4,000人以上が密集されてお祭り騒ぎでした。閉会式のあった2021年8月8日のフランスの新型コロナウイルス新規感染者数は20,450人で死者数は28人です。また、イギリスでも、2021年7月11日にサッカー欧州選手権を有観客でおこなわれ大変なお祭り騒ぎでした。7月18日のイギリスの新規感染者数は47,599人(日本の人口に換算すると約89,000人)で、7月20日には死者数は94人に達しています。感染者は増えても重症化は少ないため、世界は社会活動の正常化に向かわれている事が示されています。2021年8月8日の日本の新規感染者数は14,352人で死者数は8人です。また、日本集中治療学会ホームページによると、人工呼吸器装着が必要な重症者数も2021年8月9日時点で484人で、これまで最多を記録した2021年5月14日の763人より少なく抑えられています。今回の感染者数は第4波に比べて全国的に倍化していることから考えると「ワクチン接種の拡大に伴い、感染しても重症者さらには死者も減少している」事が疫学的に示されています。また、フランスやイギリスでは、感染者数と死者数も日本より多いにも関わらず、医療逼迫は起こっていません。日本の社会活動の早期正常化のため、また、将来起こるかもしれない新種のウイルスのパンデミックに備えて、日本では「なぜ医療逼迫のリスクがでるのか?」を真剣に考える必要があるのかもしれません。

「(49) 治療法は?」の章の「血栓治療薬と積極的抗凝固療法」への追記
新型コロナウイルス感染者に対する低分子ヘパリン「エノキサパリン」の増量投与による「積極的抗凝固治療」と抗血栓薬を用いた「血栓予防的治療」の9か国共同(カナダ、アメリカ、イギリス、ブラジル、メキシコ、スペイン、オランダ、オーストラリア、ネパール)の臨床試験結果が2021年8月4日にNew England Journal of Medicine に2つ報告されました(ATTACC, ACTIVE-4a & REMAP-CAP Investigators, New England J Medicine 2021, 8/4; REMAP-CAP Investigators, ACIVE-4a, & ATTACC Investigators, New England J Medicine 2021, 8/4)。1つ目の報告では,中等症の新型コロナウイルス感染者2,219人に積極的抗凝固治療または血栓予防的治療が行われています。最初に「The trial was stopped when prespecified criteria for the superiority of therapeutic-dose anticoagulation were met.」と記載されています(ATTACC, ACTIVE-4a & REMAP-CAP Investigators, New England J Medicine 2021, 8/4)。つまり、「予定された患者数に達する前に統計学的に治療効果が確認できたため臨床試験は終了した」ことになり、再現性のある治療効果が得られたことを意味しているのかもしれません。「重症化させることなく退院に導ける可能性」を、血栓予防的治療に比べて積極的抗凝固治療では、D-ダイマー低値の感染者では92,9%、D-ダイマー高値の感染者では97.3%も増加させる可能性が報告されています。中等症の感染者が対象ですから、多くの方は通常の治療法で死に至らず回復していきます。それでも、積極的抗凝固治療を導入すれば1,000人の中等症感染者のうち40人の命をさらに救えると述べられています。しかし、注意も必要です。積極的抗凝固治療では血が固まりにくくなるため、脳出血などの出血が副作用として起こり易くなります。事実、出血の発現率は、血栓予防的治療群の0.9%に対し積極的抗凝固治療群では1.9%と高くなります。もう1つの論文では、人工呼吸器を装着された1,098人の重症感染者に積極的抗凝固治療または血栓予防的治療が行われています(REMAP-CAP Investigators, ACIVE-4a, & ATTACC Investigators, New England J Medicine 2021, 8/4)。重症感染者に対して積極的抗凝固療法は明らかな治療効果が無かったと報告されています。つまり、積極的抗凝固療法は中等症の新型コロナウイルス感染者が対象となるようです。

「(49) 治療法は?」の章の「サイトカインストーム治療薬」への追記
「アナキンラ」と呼ばれるインターロイキン1受容体に対する阻害剤の臨床試験結果が2021年8月9日に報告されました(Kyriazopoulou E, Lancet Rheumatology 2021, 8/9)。1,185人の新型コロナウイルス重症患者さんを対象とされています。「CRPが10 mg/dL以上」、「自発呼吸ができる」、「ステロイドは使用されていない」患者さんに対しては治療効果が高いと報告されています。
「(49) 治療法は?」の章の「抗体カクテル療法」への追記
「REGN10987(イムデビマブ)とREGN10933(カシリビマブ)のカクテル」を「皮下注射」した臨床試験結果が2021年8月4日に報告されました(O`Brien MP, New England J Medicine 2021, 8/4)。濃厚接触者と認定され、重症化リスクが高い方に対して96時間以内に各600mgのイムデビマブとカシリビマブが皮下注射されています。重症化リスクの判断の基準は、「65歳以上」、「免疫抑制剤の使用」、「糖尿病」、「慢性腎疾患」、「心疾患、高血圧、または閉塞性肺障害がある55歳以上」、「肥満」です。また、重症化リスクの高い肥満の基準は、これまでBMIが35以上でした。しかし、米国CDCはBMIを25以上に最近変更されています。よって、この論文でも「BMI>25」を重症化リスク者に加えられています。無症状でありながらも感染が確認された方は、カクテル療法群では4.8%で偽薬群では14.2%と報告されています。感染して症状が出た方は、カクテル療法群では1.5%で偽薬群では7.8%です。また、唾液中に多くのウイルス粒子を認めた方(10,000個/mL以上)は、カクテル療法群では1.6%で偽薬群では11.3%と報告されています。抗体カクテルの皮下注射は、重症化予防に加えて、他人にうつす可能性も低くするのかもしれません。

[76版への追記箇所]


「(10) 血栓症 対 サイトカインストームは?」の章の「コロナによる死亡原因」への追記
スエーデンから新型コロナウイルス感染による死因の調査結果が2021年7月29日に報告されました(Katosoularis I, Lancet 2021, 7/29)。感染後2週以内に心筋梗塞のリスクを「6.61倍」、脳梗塞のリスクを「6.74倍」も増加させる可能性が報告されています。また、これらのリスクは、感染から時が経つにつれて減少するようです。感染後期ではなく「感染早期に起こり易い」事から考えると、新型コロナウイルスは直接または局所の急性血管炎を起こして間接的に血栓形成を誘発していると考えるのが科学的に妥当なようです。つまり、新型コロナウイルスは「脳梗塞・心筋梗塞誘発ウイルス」と表現できる、他のウイルスにはない作用を持っています。この特徴的作用により、「突然死」や「急激な悪化」といった通常の感染症では稀な経過や、「血管が詰まり易い高齢者に集中した死につながら重症化」がおこっているのかもしれません。

厚生労働省の人口動態統計月報年計によると、「急性心筋梗塞」による死者数は2019年の31,527人に対し2020年は30,524人と1,003人の減少を認めています。「脳梗塞」による死者数も2019年が59,267人で、2020年は56,860人と2,407人の減少です。新型コロナウイルス陽性であれば、新型コロナウイルスによる死者として取り扱われることからすると、結論を出すには時期尚早ですが、近い将来に心筋梗塞や脳梗塞を発症する状態にあった方の発症が、新型コロナウイルス感染により早められた可能性は否定できないのかもしれません。同様に、2020年は「新型コロナウイルス以外が原因の肺炎」による死者数は78,445人で2019年の95,518人に比べて17,073人も減少しています。また、速報値も確認してみました。5ヶ月経過して報告されるため2021年2月時点の値しかわかりませんが、心筋梗塞、脳梗塞、新型コロナ以外による肺炎の死者数は2021年初旬も昨年に比べて減っています。

「(28) 世界のワクチン効果の現状は?」の章への追記


3,100人の腎疾患のある患者さんに対するワクチン効果の調査結果が2021年7月22日に報告されました(Stumpf J Lancet Regional Health 2021, 7/22)。ファイザー社RNAワクチン接種では88%の、モデルナ社RNAワクチン接種では97%の腎疾患で透析を受けている患者さんに中和抗体の産生を誘導できると報告されています。血液透析を受けていてもワクチン効果は充分に期待できます。一方、腎移植を受けている方ではワクチンの効果が期待できない方も多いようです。腎移植を受けている方のうち、モデルナ社RNAワクチンでは49%に、ファイザー社RNAワクチンでは26%にしか中和抗体の産生が誘導できなかったようです。中和抗体ができにくい原因として免疫抑制剤の使用が挙げられています。

ファイザー社RNAワクチンを2回接種することにより、中和抗体を産生して我々を感染から守ってくれるB細胞部隊が完全に訓練されます。心強い事に、1回目接種後でも「CD8陽性のT細胞部隊」が訓練される可能性が2021年7月28日に報告されました(Oberhardt V, Nature 2021, 7/28)。CD8陽性のT細胞部隊は接近戦の名手で、我々の体内に入ってきた新型コロナウイルスを撃退してくれます。つまり、感染はしても重症化から我々を守ってくれます。ファイザー社RNAワクチンの感染予防効果は2回目を接種して14日目から認められますが、重症化予防効果は1回目を接種して10日目から認められる事が報告されています。CD8陽性T細胞部隊の早期の訓練が、1回目接種後の重症化予防に寄与しているのかもしれません。

「(29) ワクチン接種回数は?)の章の「1回接種と2回接種の比較」への追記
異なった種類のワクチン接種による効果がドイツから2つ報告されました。アストラゼネカ社DNAワクチンを接種して9~12週目にファイザー社RNAワクチンを接種しても、232人中229人に十分量の中和抗体が産生されたようです(Tenbusch M, Lancet Infectious Dis 2021, 7/29)。抗体ができなかった3人のうち1人は白血病に罹患されていたと報告されています。興味深い結果は「1回目接種から9~12週間もあけても問題が無かった」点です。ワクチン接種間隔を3週間と厳密に行わなくても、1~2か月の範囲内で柔軟に対処できる事を教えてくれているのかもしれません。中和抗体量は「surrogate neutralization(AU/mL)」の単位で示されています。中和抗体量は、「アストラゼネカ社DNAワクチンを2回接種」で106 AU/mL、「ファイザー社RNAワクチンを2回接種」で1,786 AU/mL、「アストラゼネカ社DNAワクチン接種後にファイザー社RNAワクチン接種」で3,377 AU/mLと報告されています。異なった種類のワクチンを接種した場合は、「効果が減弱するどころか、むしろ増強させる可能性」がある事を教えてくれています。

もう一つの論文では中和抗体量の評価に「antibody binding units (BAU/mL)」が用いられています(Schmidt T, Nature Medicine 2021, 7/26)。中和抗体量は、「アストラゼネカ社DNAワクチンを2回接種」で404 BAU/mL、「ファイザー社RNAワクチンを2回接種」で4,932 BAU/mL、「アストラゼネカ社DNAワクチン接種後にファイザー社RNAワクチン接種」で3,630 BAU/mLと報告されています。中和抗体は主に「感染予防」に寄与し、T細胞の活性化は「重症化予防」に寄与します。よって、この論文ではT細胞の活性化も調査されています。重症化予防に寄与する「CD4陽性T細胞」の活性化は「アストラゼネカ社DNAワクチンを2回接種」で0.04、「ファイザー社RNAワクチンを2回接種」で0.16、「アストラゼネカ社DNAワクチン接種後にファイザー社RNAワクチン接種」で0.17と報告されています。興味深い結果は、変異株に対しても重症化予防に寄与する可能性が報告されている「CD8陽性T細胞」の活性化です。CD8陽性T細胞の活性化は「アストラゼネカ社DNAワクチンを2回接種」で0.04、「ファイザー社RNAワクチンを2回接種」で0.06、「アストラゼネカ社DNAワクチン接種後にファイザー社RNAワクチン接種」で0.28と報告されています。異なった種類のワクチンを接種した方が変異株に対して、より強い免疫をもてるのかもしれません。

これまでの結果から考えると(Borobia AB, Lancet 2021, 6/25; Schmidt T, Nature Medicine 2021, 7/26;Tenbusch M, Lancet Infectious Dis 2021, 7/29)、アストラゼネカ社DNAワクチン接種後にファイザー社RNA接種した場合は「効果の減弱どころか、むしろ効果増強につながる」のかもしれません。免疫軍が強くなるためには「多様性」を持つ事が重要で、異なった敵に遭遇すればするほど多様性ができてきます。よって、免疫学的にみても矛盾しない結果かもしれません。

「(30) ワクチンの副反応とアナフィラキシーは?」の章の「DNAワクチンによる血栓症の可能性」への追記
562万人のアストラゼネカ社DNAワクチン接種者を対象とした「Global Safety Database」の大規模調査結果が2021年7月27日に報告されました(Bhuyan P, Lancet 2021, 7/27)。血栓症を起こす頻度は「100万人に2.3人」と報告されています。2回目の接種後1~13日目に起こるケースが多いようです。発症者の年齢は45歳から85歳で、発症部位は肺、脳、深部静脈の順で多いと報告されています。

「(31) ワクチン接種の判断は?」の章の「未成年」への追記
ドイツ連邦保健省のホームページによると、12歳以上16歳未満でワクチン接種が推奨されるのは、「肥満」、「免疫不全」、「チアノーゼを伴う先天性心疾患(O2 saturation < 80%)」、「肺・心機能障害」、「腎機能障害」、「精神発達遅延」、「ガン」、「ダウン症」、「糖尿病」のようです。

「(32) ワクチン接種後の再感染は?」の章への追記
ファイザー社RNAワクチンを2回接種後の再感染に関する調査結果がイスラエルから2021年7月28日に報告されました(Bergwerk M, New England J Medicine 2021, 7/28)。1,497人の医療従事者を対象とされています。1,497人中39人に再感染が認められています。再感染者の85%はアルファ株で、57%が家庭内感染が原因と報告されています。再感染者の33%は無症状で、67%が軽症です。入院された方はいらっしゃいません。31%の方には軽い症状が14日間続いたようです。

「(40) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(全てが諸刃の剣)?」の章の「比較の重要性」への追記
ワクチン接種が進み世界の状況も大きく変わりつつあるため、2021年7月30日時点の新型コロナウイルスに対する各国の対策を整理してみました。

イギリス(人口:約6600万人):2021年7月30日時点の新規感染者数は23,228人/日、新規死者数は85人/日です。18歳以上で2回目ワクチン接種が終了した方は70.5%です。イギリスでは、ジョンソン首相の政治生命をかけた英断により2021年7月19日に「規制解除」が行われました。解除を決められた2021年7月16日には、新規感染者数が51,273人/日にも達しています。イギリス公衆衛生庁(Public Health England, PHE)のホームページによると、解除後の対策として「訪問者とは屋外で会い、屋内で会う場合は窓やドアを開けての換気」、「混雑した場所や公共交通機関でのマスク着用」、「石鹸を使った20秒以上の定期的な手洗い」、「新型コロナ症状(COVID symptom:高熱、継続する咳の出現、または味覚または嗅覚の変化)が出た場合は自宅待機(自己隔離)して、自宅又はドライブスルーでPCR検査」、「入院時や、旅行時の抗原検査」を推奨されています。感染が診断されても「自宅待機が原則」です。

アメリカ(人口:約3億2000万人):2021年7月30日時点の新規感染者数は92,391人/日、新規死者数は382人/日です。2回目ワクチン接種が終了した方は49.8%です。米国疾病予防管理センター(CDC)は「If you are fully vaccinated, you can participate in many of the activities that you did before the pandemic」とホームページに示されています。「fully vaccinated」の定義は「ワクチン接種を2回うけて、既に2週間が経過された方」です。つまり、「ワクチンを2回接種して2週間が経過すれば、新型コロナウイルス・パンデミック以前の社会活動に戻して良い」と言われています。ただし条件も付いています。ワクチンを2回接種しても「感染拡大が起こっている地域での公共の屋内施設や公共の交通機関」または「家庭内にワクチン未接種者や免疫不全の患者さんがいる場合」はマスクの着用を義務付けられています。海外旅行をして帰国する場合は、アメリカへの入国時に「陰性証明書」が必要で、入国後3~5日以内にも再検査を受ける必要があるようです。濃厚接触者になった場合は、自宅待機(自主隔離)して接触後3~5日目に検査が必要です。もし、検査が陰性であっても「接触後から10日間の自宅待機」と「接触から14日間のマスク着用」が義務付けられています。検査で陽性になった場合も「自宅待機が原則」で「かかりつけ医と連絡」をとり、もし入院治療が必要と判断されれば入院となるようです。海外からの帰国時の対策以外は、季節性インフルエンザへの対応と大きな差はないと思います。

シンガポール(人口:約570万人):2021年7月30日時点の新規感染者数は133人/日、新規死者数は0人/日です。2回目ワクチン接種が終了した方は55.4%です。シンガポール保健省(Ministry of Health)のホームページによると、7月29日時点でICUで治療中の感染者は3人、酸素投与を受けている中等症患者数は30人と報告されています。この段階で、「新型コロナウイルスを季節性インフルエンザと同等」に取り扱われています。

イタリア(人口:約6000万人):2021年7月30日時点の新規感染者数は5,693人/日、新規死者数は15人/日です。2回目ワクチン接種が終了した方は50.5%です。イタリア保健省(Ministero dela Salute)のホームページによると、「Green Cerificate」制度が導入され2021年6月28日から日常の生活を取り戻しつつあるようです。「Green Cerificate」は「2回ワクチン接種者」、「過去に新型コロナウイルスに感染し回復した人」、「48時間以内に抗原検査またはPCR検査で陰性であった人」が定義のようです。Green Cerificateは、「コンサート」、「スポーツイベント」、「結婚式などの冠婚葬祭」等への参加や、「高齢者施設」への立ち入りに必要となるようです。また、県外に出るとき、また県外から戻る時にも必要です。

フランス(人口:約6700万人):2021年7月30日時点の新規感染者数は3,423人/日、新規死者数は24人/日です。2回目ワクチン接種が終了した方は45.5%です。イギリス保健省のホームページによると、マスク着用は、公共の屋内施設と公共交通機関で義務付けられています。屋内イベントは定員の75%を上限に制限されていますが、屋外イベントに定員の制限はありません。しかし、1,000人以上のイベントに参加するためには「Health Pass」が必要です。Health Passの条件は「2回目のワクチン接種が終了して2週間が経過した者」、「過去に新型コロナウイルスの感染歴があり、ワクチンを1回接種して2週間が経過した者」、「48時間以内に抗原検査またはPCR検査で陰性が確認できた者」、「新型コロナウイルス感染で入院治療を受け、回復してから15日以上が経過し6ヶ月は経っていない者」と定義されています。ナイトクラブなど飲酒を伴う職種は2021年7月9日から再開されています。また、国民に対し「アルコールゲルでの頻回な手指消毒」、「握手の禁止」、「顔を触らない」、「ソーシャルディスタンスの確保」、「1日3回以上の10分間の換気」、「咳エチケット」を呼びかけられています。

イスラエル(人口:約900万人):2021年7月30日時点の新規感染者数は2,328人/日、新規死者数は1人/日です。世界で最も早くワクチン接種が開始されましたが、2回目ワクチン接種が終了した方は7月30日時点で59.1%と、ワクチン接種の伸び悩みがあるようです。イスラエル保健省のホームページによると、社会活動を正常化させるため「Green Pass」制度が取り入れられています。Green Passの定義は「ワクチンの2回接種者」または「検査で陰性」の方です。100人を超える屋内・屋外イベントの参加にはGreen Passが必要なようです。また、ホテル、レストラン、カフェ、バー、ジムでもGreen Pass の提示が求められています。これまでの検査では、PCRと抗原検査の両方が認められていました。しかし、2021年8月8日からは、抗原検査の結果のみしかGreen Pass 取得には使えないようです。ただし、海外からの宿泊者も多いホテルではPCR検査結果も認められています。季節性インフルエンザの検査では抗原検査が使用されています。通常の検査体制に戻そうとされているのかもしれません。

ドイツ(人口:約8300万人):2021年7月30日時点の新規感染者数は10,735人/日、新規死者数は117人/日です。2回目ワクチン接種が終了した方は51%です。ドイツでは規制解除は行われていません。ただし、症状がでた場合は「自宅待機(自己隔離)」を原則とされているようです。ドイツ連邦保健省のホームページによると、「症状が出ても病院に行こうとせずに、自宅待機してかかりつけ医、夜間であればコールセンターに連絡して指示を仰ぐ」指針をしめされています。軽症者の受診のための外出による感染拡大、軽症者を入院させることにより生じる医療逼迫の危険性を考慮されているのかもしれません。症状が出た場合の自宅待機期間は10日間に設定されています。

先進国の中には、イギリス、アメリカ、シンガポールのように「新型コロナウイルスを季節性インフルエンザと同等の扱い」にされた国や、イタリア、フランス、イスラエルのように「ワクチンパスポートを活用して社会活動を正常化」に向かわせている国が出始めています。ドイツは規制を継続されていますが、「症状が出ても、病院に行かず、自宅待機による自主隔離」が原則です。感染力が強くても軽症者が多い「デルタ株」に対して、軽症者を入院させれば医療逼迫ひいては医療崩壊は確実です。「過剰に対処する事により自らの首を絞める」事を避けるために、この様な対策を各国は取られていると思います。

2021年8月2日の報道によると、日本も「入院治療が必要な方」または「重症化リスクが高い方」以外は、「自宅療養を原則」とした方針に舵を切られそうです。先進国の多くは自宅療養を既に原則としており、世界の現状を考慮した、感情ではなく科学的根拠に基づく適切な対応であると個人的には思います。ただし、酸素吸入が必要な中等症の感染者は入院させた方かよいと個人的には思います。日本でも新型コロナウイルス感染者の自宅療養が可能と考えられる理由を個人的にまとめてみました。

「厚生労働省の季節性インフルエンザの発生状況について(2019年)」によると、季節性インフルエンザに感染してクリニックを受診された方は、2018年が約1170万人、2019年が約730万人です。感染者は11月下旬から1月上旬の約2ヶ月間に集中します。つまり、ひと月あたり約500万人が季節性インフルエンザ感染で受診されている計算になります。もし、季節性インフルエンザの感染者を、全て療養施設や病院に入院させれば、即座に医療崩壊を起こす事は明らかです。事実、受診した方の殆どが自宅療養され、医師が危険と判断された方のみが入院される体制がとられています。

次にウイルスの怖さ、つまり「季節性インフルエンザに比べて、新型コロナウイルスで入院する必要がある感染者がどれだけいるか」の判断も重要と思います。2010年に季節性インフルエンザで尊い命を奪われた14歳以下の子供達は38人です。15歳から39歳では28人です。一方、新型コロナウイルス感染で亡くなった14歳以下の子供達は未だ「0人」、15歳から39歳では「38人(2021年7月28日時点)」です。40歳未満で新型コロナウイルスが季節性インフルエンザより怖いと言える根拠は無いと個人的には思います。また、季節性インフルエンザ感染者の主体は、30歳未満の子供達と若者達です。現在、新型コロナウイルス感染者の主体も20歳代です。年齢別感染割合と重症化リスクも、40歳未満では新型コロナウイルスと季節性インフルエンザで違いを見つけ出す事は難しいのかもしれません。

新型コロナウイルスは血栓症の誘発と言う特殊な武器を持つため(Katosoularis I, Lancet 2021, 7/29)、血管が詰まりやすい高齢者には驚異のウイルスとなります。高齢者にとっては、新型コロナウイルスは季節性インフルエンザより数百倍怖い敵、ひいてはエボラ出血熱よりも怖いと言っても過言ではなかったのかもしれません。しかし、2021年8月1日時点で65歳以上の高齢者の85.7%がワクチンの1回目接種が、73.1%に2回目接種が終了しています。つまり、「高齢者が感染すれば重症者が増える」状態からは脱出できていると考えられます。事実、2021年7月31日には過去最高の新規感染者数12,340人を記録していますが、8月2日の死者数は11人です。第4波では、今回より少ない感染者数で5月27日には死者数が118人に達しています。また、日本集中医療学会のホームページによると、人工呼吸器を装着されている全国の重症者は5月14日には763人に達しましたが8月2日時点では365人です。高齢者における新型コロナウイルスの怖さは、季節性インフルエンザに近づいてきていると考えてよいのかもしれません。

厚生労働省のホームページによると、新型コロナウイルス感染による死亡率は40歳代で0.1%、50歳代で0.3%と報告されています。死亡率は季節性インフルエンザよりも高くなります。よって、今後は40~60歳の重症化リスクを伴う方に焦点をあてた対策が必要かもしれません。また、40歳代と50歳代のワクチン接種率がわかれば、「規制完全解除」や「新型コロナウイルスの感染症分類の格下げ」に向けた大きな目安となるのかもしれません。

「(49) 治療法は?」の章の「抗ウイルス薬」への追記
抗生物質である「ドキシサイクリン」の新型コロナウイルス感染に対する臨床試験結果が2021年7月27日に報告されました(Butler CC, Lancet Respiratory Medicine 2021, 7/27)。2,689人の新型コロナウイルス軽症者が対象です。外来を受診された50~64歳の重症化リスクが高い方に「ドキシサイクリン」が内服投与されています。重症化リスクに用いられた指標は「免疫低下状態」、「高血圧」、「糖尿病」、「脳梗塞の既往」、「心疾患」、「喘息」、「肝機能障害」、「BMIが35以上の肥満」です。回復までに要した期間は、ドキシサイクリン投与群で9.6日、偽薬群では10.1日と報告されています。入院と死亡率は、ドキシサイクリン投与群では5.3%で、偽薬群の4.5%より高くなるようです。

 

[75版への追記箇所]

「これまでの結果からアフタコロナを考える」の章への追記
新型コロナウイルス蔓延の影響で、世界的に乳幼児の麻疹に対するワクチン接種が7.7%減少し、3種混合ワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風)の接種が7.9%減少した事が2021年7月14日に報告されました(Causey K, Lancet 2021, 7/14)。子供達にとって、麻疹、ジフテリア、百日咳、破傷風は、新型コロナウイルスよりも遥かに怖い病原体です。もし、外出を控えて接種されていない場合は、早急な接種をお勧めします。

「(2) 新型コロナが感染するには?」の章の「鍵と鍵穴」への追記
米国662万人、英国27万人、イスラエル10万人のスマートフォン入力情報をもとにした大規模解析結果が2021年7月22日に報告されました(Sudre GH、Lancet Digital Health 2021, 7/22)。PCRで陽性が確認された方のうち「43%になんらかの嗅覚異常」が認められたようです。想像以上に多い印象です。少しでも臭いの感じ方に違和感があれば、外出を控えられた方が無難です。その他の初期症状は多い順に「発熱」、「息切れ」、「咳」と報告されています。

「(9) 血栓症は?」の章の「コロナで重症化しやすい基礎疾患と血栓症」への追記
フランスから6,600万人を対象とした大規模調査結果が2021年7月15日に報告されました(Semenzato L, Lancet Regional Health 2021, 7/15)。「高脂血症でスタチンを服用」されている方の新型コロナウイルスに感染による入院率は0.89倍、死亡率は0.84倍に低下すると報告されています。

「(13) 抗体の役割は?」の章の「抗体陽性の意義」への追記
国立感染症研究所から興味深い研究結果が2021年7月2日に報告されました(Moriyama S, Immunity 2021, 7/2)。新型コロナウイルス感染により作られ始めた中和抗体量は2~4か月後から急激に減少するようです。この減少は、軽症者に比べて重症者に強い傾向があるようです。しかし、ご安心ください。中和抗体の量の減少に伴い、一つ一つの抗体が持つ新型コロナウイルスに対する効力は10か月かけて増強されて行くことが報告されています。つまり、新型コロナウイルスとの実戦経験をもとにB細胞軍が成熟し、戦法が「量から質」へと変化し、少数精鋭部隊に最終的には置き換わると考えてよいのかもしれません。また、少数精鋭部隊は非常に頼もしい限りで、質へと変化した抗体は「ブラジル由来変異株(ガンマ株)」や「南アフリカ由来変異株(ベータ株)」に対しても効果が発揮できると報告されています。国立感染症研究所(量より質)および米国エール大学(量より速さ)からの報告は、「抗体の効力は量だけでは判断できない」事を教えてくれています。

「(30) ワクチンの副反応とアナフィラキシーは?」の章へ「モデルナアーム(COVID-arm)」を追加
アナフィラキシーは「I型アレルギー」と呼ばれる機序により起こります。30分以内に症状がでる「即時型反応」を特徴とします。一方、「IV型アレルギー」に分類される病態は「遅延型」と呼ばれ、症状がでるまでに数日かかります。「モデルナアーム(海外ではCOVID-arm)」と呼ばれる副反応は「IV型アレルギー」に分類され、ワクチンを接種して7日目(2~12日)に接種部位に腫れなどの皮膚症状が出現します。何に反応してアレルギー反応が起こっているかは明らかではありませんが、RNAワクチンの添加物として含まれるポリエチレングリコール説が有力なようです。発症は女性に多く、81%が女性または90%が女性との報告があります(Johnston MS, JAMA Dermatol 2021, 6/1; McMahon DE, J Am Acad Dermatol 2021, p46)。平均年齢は38歳という報告と、44歳という報告があります。どちらにしても、モデルナアームは「中年女性に多い副反応」と考えて良いのかもしれません。米国では「モデルナアーム」ではなく「コービッドアーム」と呼ばれています。米国で報告された「コービッドアーム」のうち、83%がモデルナ社のRNAワクチン、17%がファイザー社RNAワクチンの接種後に起こっているようです。モデルナ社RNAワクチン接種後に「コービッドアーム」を起こす確率は1回目接種後で0.8%、2回目接種後で0.2%と報告されています。1回目接種後のみに起こった方、2回目接種後のみに起こった方、両方ともに起こった方がいらっしゃるようです。また、症状は平均3~4日で消失すると報告されています。数日で皮膚症状は消失するため、モデルアームに関しては、恐れられる必要は全くないと思います。何故なら、「IVアレルギー反応」は皆さんが経験の有る臨床検査にも用いられています。結核に対する免疫の有無の確認のために「ツベルクリン反応」を受けられた方は多いと思います。結核に対して強い免疫がある方では、皮膚に「水ぶくれ」や「潰瘍」ができますが、数日で回復します。これがIV型アレルギー反応です。

「(31) ワクチン接種の判断は?」の章の「18歳未満の接種による利益とリスク」への追記
2,260人を対象とした「12歳から15歳の若年層」に対するファイザー社RNAワクチンの臨床試験結果が2021年7月15日に報告されました(Frenck RW, New England J Medicine 2021, 7/15)。30μgのファイザー社RNAワクチンを2回接種後の幾何平均抗体価(genometric mean titer, GMT)は、12~15歳では「1,283」に達し、16~25歳の「730」より1,76倍高くなると報告されています。また、12~15歳のファイザー社RNAワクチン2回接種による感染予防効果は「100%」のようです。副反応として、「強い接種部の痛み」が1.5%に認められますが、16~25歳の3.4%より低くなるようです。また、「38℃以上の発熱」は20%に認められますが、16~25歳の17%と優位な差はないようです。「リンパ節の腫れ」は12~15歳で0.8%、16~25歳で0.2%と報告されています。

フランスからの6,600万人を対象とした調査結果(Semenzato L, Lancet Regional Health 2021, 7/15)では、新型コロナウイルス感染による死亡率は「ダウン症」で22.9倍、「精神発達遅滞」で7.3倍も増加する可能性が報告されました。また、若年者でも肥満の方は新型コロナウイルス感染で重症化の危険性が高い事も報告されています(Piroth L, Lancet Respiratory Medicine, 2020, 12/7)。12歳から18歳の若年者でも、「肥満」、「ダウン症」、「精神発達遅延」のある方は、ワクチンによる利益はリスクを大きく上回ると考えられます。

イギリスJCVI(Joint Committee of Vaccination and Immunisation)が2021年7月19日に16歳以下のワクチン接種対象者を助言されました。16歳以下でも「発達障害」、「ダウン症」、「免疫不全」、「学習障害」があれば、ワクチン接種を推奨されています。また、高齢者との同居者にも推奨されています。

「(34) 変異したウイルスに対するワクチン効果と各自の対策は?」の章の「デルタ株」への追記
米国CDCが2021年7月16日にデルタ株のクラスターを「Morbidity and Mortality Wee Report」に報告されました。オクラハマ州のスポーツジムでクラスターが発生し、194人が濃厚接触者として認定されています。日本との大きな違いは、このスポーツジムではマスク着用は無く、換気も不十分で、器具の消毒も不十分であったようです。この様な状態で屋内スポーツに興じれば多くの濃厚接触者が出る事は容易に推測できます。感染が確認された方のうち85%はワクチン未接種者で、6%は1回しか接種されていない方のようです。ワクチンを2回接種された4人にも感染が確認されましたが軽症のようです。やはり、ファイザー社RNAワクチンまたはモデルナ社RNAワクチンを2回接種すれば「デルタ株に対しても感染しにくく、感染しても軽症か無症状で済む」ようです。

イギリスから「National vaccination registry」を用いた国民単位での大規模調査結果が2021年7月21日に報告されました(Bernal JL, New England J Medicine 2021, 7/21)。38,592人の新型コロナウイルス感染者に対するウイルスの遺伝子検査も行われています。「アルファ株」の年代別感割合は、16歳~29歳が35.9%、30~49歳が48%、50~69歳が14.7%と報告されています。「デルタ株」では16歳~29歳が36.8%、30~49歳が46.7%、50~69歳が15.1%です。デルタ株とアルファ株の感染に年齢差は無いようです。日本では、デルタ株の感染蔓延により40歳代と50歳代の入院患者さんが増えたようですが「ワクチンにより65歳以上の入院が減った結果を反映している」と考えて科学的に妥当と思います。事実、ワクチンを2回接種するとデルタ株に対する予防効果が強いようです。ファイザー社RNAワクチンを2回接種した場合の感染予防効果は、アルファ株に対し93.7%、デルタ株に対し88%と報告されています。また、アストラゼネカ社DNAワクチンを2回接種した場合は、アルファ株では74.5%、デルタ株では67%のようです。

イギリスでは、欧州サッカー選手権の影響で「デルタ株」の感染拡大を認めながらも、ワクチン接種を考慮され2021年7月19日に「規制解除」に舵をきられました。解除後の2021年7月22日から新規感染者の「減少傾向」を認めています。ワクチン接種前の第2波では2021年1月8日に新規感染者数が68,053人/日に達し、死者数は1月20日には1,820人/日に上っています。一方、今回の第3波では新規感染者は2021年7月16日に51,273人/日に達しながらも、死者数は7月24日の86人/日が最高です。ワクチン接種により、死亡率は約16倍抑えられています。イギリスでは、新型コロナウイルスの医療的・社会的影響は、季節性インフルエンザと同程度になりつつあるのかもしれません。

イギリスの規制解除後の対策がヒントになる可能性があるため、イギリス公衆衛生庁(Public Health England, PHE)に示されている行動制限解除後のイギリスの対策を調べて見ました。大筋は以下に示す6点のようです。

  1. 訪問者とは屋外で会い、屋内で会う場合は窓やドアを開けての換気
  2. 混雑した場所や公共交通機関でのマスク着用
  3. 石鹸を使った20秒以上の定期的な手洗い
  4. 新型コロナ症状(COVID symptom)が出た場合は自宅待機(自己隔離)して、自宅又はドライブスルーでPCR検査を受ける(PCRキットは政府が自宅に郵送)
  5. 新型コロナ症状が無い場合は、自宅で抗原検査(抗原検査キットは政府が自宅に郵送)
  6. 他疾患で入院する場合や、旅行時には抗原検査を受ける

 

興味深い点は、症状により検査法が使い分けられています。新型コロナ症状(COVID symptom)は、「高熱」、「継続する咳の出現」、「味覚または嗅覚の変化」と定義されています。また、自宅療養(自主隔離)が原則行われているようです。感染者が多い「デルタ株」で、軽症の陽性者を入院させた場合、結果は火を見るよりも明らかなため合理的な対策かもしれません。例えば、季節性インフルエンザで発熱し、抗原検査で陽性となった感染者全てを観察入院させれば、数日で医療崩壊を起こすのかもしれません。 デルタ株の感染力は強いため「ワクチン接種者にも混雑した場所や公共交通機関でのマスク着用」を推奨されています。アメリカCDCも同様の指針で、「ワクチン接種者に対し、感染拡大地域の公共屋内施設でのマスク着用」を推奨されています。

2021年7月26日時点のイギリスのワクチン接種率は、18歳以上で1回接種は88.1%、2回接種は70.5%とイギリス公衆衛生庁(Public Health England, PHE)が報告されています。日本では2021年7月26日時点で、46,250,270人が1回目接種を、31,476,719人が2回目接種を終了されています。イギリス同様に18歳以上の人口に換算すると、1回接種が約46%、2回接種が約31%の計算になります。また、65歳以上の高齢者では1回目接種が終了した方は、岐阜県の90.9%を筆頭に、最下位の北海道でも79.5%に達しています。2回目接種が終了した方も、最多の佐賀県が78.32%で最少の北海道でも57.37%です。また、欧米に比べ、日本には「マスク文化が浸透」しています。また、欧米人に比べて、日本人は「ファクターXにより新型コロナウイルスから守られている」のも事実です。さらに、イギリスで初期に使用されたアストラゼネカ社DNAワクチンに比べ、日本で用いられている「ファイザー社とモデルナ社RNAワクチンの効果が強い」のも事実です。これらのアドバンテージから考えると、ワクチン接種率は低くとも、イギリス同様の重症化抑制効果が日本でも働き始めていると考えて良いのかもしれません。

日本での新規感染者数は、第3波の2021年1月8日には7,955人/日で、第4波の5月8日には7,234人を記録しています。今回は、オリンピック開催日の7月22日に5,397人まで達し、7月25日時点でも5,017人と高止まりが続いています。死者数は、第4波の5月27日に118人/日を記録しましたが、今回はオリンピック直前(7月20日)の20人/日が最多で、7月25日は4人です。また、日本集中治療学会のホームページでは、新型コロナウイルス感染により人工呼吸器が装着された重症患者数を毎日更新されており、非常に有意義な情報を提供されています。https://crisis.ecmonet.jp/。世界的には、酸素投与が必要となった患者さんを「中等症」、人工呼吸器装着が必要となった患者さんを「重症」と取り扱っているようです。事実、本ホームページで引用している「New England of Journal Medicine」、「Lancet」、「Nature Medicine」等の掲載論文でも、人工呼吸器装着者を重症者として定義されています。日本で人工呼吸器を装着された患者さんが最多に達したのは、第3波では2021年1月20日の630人です。第4波では5月14日に763人に達し、その後徐々に減少していき7月3日には343人まで減少しています。今回は7月5日頃から新規感染者数は徐々に増え始めていますが、7月25日時点での人工呼吸器装着数は321人で、明らかな増加は認めていません。日本も、高齢者のワクチン接種によりイギリス同様に「感染者は増えても、重症者は抑制できる」フェーズに入ったと思います。

ワクチンが無い状態では、感染者数に相関して重症者も増え、勿論、中等症患者が増えれば相関して重症者数も増えます。この、相関性を無くすのがワクチンです。ワクチン接種の真の効果は「重症化予防」です。事実、ファイザー社RNAワクチンやモデルナ社RNAワクチンが新型コロナウイルス感染の重症化予防に寄与するT細胞部隊を強力に訓練する事は既に科学的に証明されています(Collier DA, Nature 2021, 6/30; Nathan A, Cell 2021, 6/29)。事実、イギリスの現在の状況が、感染者は増えても重症者数は抑制できる事を教えてくれています。また、重症者が減る事により、相対的に中等症患者さんの割合が増える可能性はあります。事実、イギリスでは2021年7月25日の新規入院患者さんは992人で、多くは中等症のため医療逼迫には陥っていません。ワクチンの真の効果は「重症化予防」のため、本来なら重症化していた感染者を模擬訓練を受けた免疫軍が守ってくれ、最悪でも中等症で留めてくれます。つまり、ワクチン接種が進んだ段階では、中等症患者さんが増えても、重症者の相関した増加は認めにくいのかもしれません。また、中等症患者さんでは酸素投与は必要になりますが、人工呼吸器装着は必要ありません。つまり、集中治療室を備えた大学病院などの大病院でなくとも、一般病院で充分に治療できる事を教えてくれています。イギリスで一日50,000人以上のデルタ株新規感染者を出しながらも医療逼迫は起こっていない現状、さらに日本の医療体制が毎年1,000万人以上の季節性インフルエンザに対処できている現状から考えると、新型コロナウイルス感染による中等症患者により、日本が医療逼迫に陥る可能性は一般的には考えにくいのかもしれません。

「(40) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(全てが諸刃の剣)?」の章の「オリンピック」への追記
日本のメダルラッシュが続いています。普段は、スポーツ観戦をしない私も「にわか柔道ファン、にわか水泳ファン、にわかスケボーファン、にわかバドミントンファン、にわかソフトボールファン、にわか卓球ファンなど」に変身し、日本選手がメダルを取ると拍手喝采をテレビの前で送っています。新型コロナウイルスの影響下でも選手達の血の滲むような努力の賜物が、私に元気を与え、新型コロナウイルスにより1年半もの間蓄積されたストレスを一挙に発散させてくれています。選手達に「おめでとう」そして「ありがとう」の気持ちで一杯です。

コンクリートに叩きつけられながらも、畳に抑えつけられながも弱音を吐かずにメダルを獲得した選手達、幼い頃から育んだチームプレーでこれまで勝てなかった相手を大逆転で撃破した選手達、本当に「凄い」の一言です。選手達のコメントを聞くと「あきらめない」、「日々の訓練」、「冷静に熱く燃える」、「チームプレー」が重要と感じます。コロナウイルス蔓延による悪環境の中でも、あきらめず日々の血の滲むような努力の賜物と思います。免疫軍も同様です。免疫軍も痛い思いをしながら日々訓練を続ける事により、どのような強敵にも「冷静」に、「臨機応変」に、そして「チームプレー」で立ち向かえる能力を獲得します。これにより、苦戦しても最後は勝利をおさめてくれます。しかし、コロナウイルス対策による免疫軍の練習不足が長引くと、弱い敵にさえ足をすくわれる危険性が出てきます。どのようなスポーツでもゼロリスクはありません。感染症も同様です。新規感染者数で一喜一憂せず、今のリスクと将来のリスクを考え冷静に対処する段階に入っているのかもしれません。

「(43) 季節性インフルエンザやその他の感染症との違いは?」の章への追記
「統計図書館ミニトピックスNo30」によると、大正7年にパンデミックを起こした「スペイン風邪」による日本の死者数は、大正7年8月から8年7月が257,363人、大正8年9月から9年7月が127,666人、大正9年8月から10年7月が3,698人のようです。国民の多くが感染により集団免疫を獲得し、年ごとに感染が終息する事を教えてくれています。スペイン風邪同様に、新型コロナウイルス第1波で多くの死者を出したイタリア、スペイン、フランスでは、第1波に比べて第2波、第3波と死者数は減っています。一方、第1波を乗り越えたイギリスやドイツでは第2波で死者数は爆発的に増えています。つまり、第1波を乗り切っても、第2波で、第2波を乗り切っても第3波で死者を伴う感染爆発を起こします。これが世界中の人が免疫を持たない新規ウイルスの特徴で、国民の大部分が感染して免疫をつけるまでウイルスの感染拡大は終息しません。事実、日本での死者数は、第1波より第2波で僅かに減少しましたが、第3波で増え、さらに第4波で増えています。しかし欧米のような感染爆発は認めていませ。事実、2021年7月26日時点での、日本における新型コロナウイルス感染による累積死者数(約1年6ヶ月間)は15,128人です。「マスク着用が浸透した文化」と「国民の自粛」により、スペイン風邪のような多くの犠牲者を出す前にワクチン接種が進んできています。

「(45) 重症化しやすい基礎疾患は?」の章への追記
フランスから新型コロナウイルス感染第1波について6,600万人を対象とした調査結果が2021年7月15日に報告されました(Semenzato L, Lancet Regional Health 2021, 7/15)。人口10万人あたりで、入院治療を受けられた方は134人、死者は24人と報告されています。平均入院日数は8日のようです。女性に比べ、男性の入院率は1.38倍、死亡率は2.08倍高いようです。また、40~44歳に比べ、85歳以上では入院率が5倍、死亡率は100倍以上も増加しています。死亡率が最も高い基礎疾患は「ダウン症」で、入院率が7倍、死亡率が22.9倍と報告されています。その他の死亡率が高い基礎疾患は、「精神発達遅滞」で7.3倍、「腎移植」で7.1倍、「肺移植」で6.2倍、「透析患者」で4.7倍、「肺ガン」で4.0倍の順になっています。「喫煙者」では入院率は0.86倍に減少し、死亡率は1.1倍に増えるという特殊な様式を示しています。特記すべきは、スタチンです。「高脂血症でスタチンを服用」されている方の入院率は0.89倍、死亡率は0.84倍に低下すると報告されています。

精神疾患:これまでに報告された論文をもとに、精神疾患に罹患されている130,807    人の女性と130,373人の男性の調査結果が2021年7月15日に報告されました(Vai B, Lancet Psychiatry 2021, 7/15)。新型コロナウイルス感染による死亡率は、健常人に比べて精神疾患がある方では2倍に増えると報告されています。不安障害の患者さんでは1.07倍のようです。また、重症化は使用されている薬にも影響されているようで、抗精神病薬服用者では3.71倍、抗不安薬服用者では2.58倍、抗うつ剤服用者では2.23倍に死亡率が増える可能性が報告されています。

「(49) 治療法は?」の章へ「抗体カクテル療法」を追加
新型コロナウイルスに感染すると抗体(特にIgG)が作り出されます。実際に感染して作り出されるIgGは「多様性」と表現されるように、全てのIgGが新型コロナウイルスの同じ部位(エピトープ)を標的とするのではなく、異なった部位を標的とします。つまり、敵の鍵、手首、腕、肘、足など異なった場所を狙うIgGが作り出されます。これらの中で、効果が強いと考えられるIgGが、遺伝子操作により生体外で大量に作り出され、新型コロナウイルスの治療薬として用いられています。(34:変異したウイルスに対するワクチン効果と各自の対策は?の章を参照)。これまでに10種類以上のIgGが新型コロナウイルス感染の治療薬として用いられています。IgGを利用した治療薬の欠点は、使用されるIgGすべてが同じ部位(エピトープ)を狙う点にあります。標的となる部位(エピトープ)は幾つかのアミノ酸で構成されます。ウイルスが変異してエピトープ内のアミノ酸が変わると、IgGの効果が減弱したり、ゼロになったりもします。例えば、メロン、イチゴ、ブルーベリーといった果物(アミノ酸)が盛られたパフェが大好きな「イム君」と「カシさん」がいます。イム君は、メロンがキュウリに変えられても、ブルーベリーが茄子に変えられても、野菜好きなため気にせず食べれます。しかし、カシさんは食欲が減弱し食べれません。一方、イム君は梅干しが嫌いなため、イチゴが梅干しに変えられると食べれなくなります。しかし、梅干し好きのカシさんは平気で食べれます。つまり、これら全てのスペシャルパフェ(変異株)をイム君一人で、またはカシさん一人では完食できません。しかし、2人が協力すると完食が可能になります。

IgGを用いた治療薬の効果も、ウイルスの変異(パフェの盛り付け)に強く影響されます。例えば、「REGN10987(イムデビマブ)」と呼ばれる治療薬はデルタ株に対し、「REGN10933(カシリビマブ)」はアルファ株とベータ株に対し、「LY-CV556」はアルファ株、ベータ株、ガンマ株、デルタ株に対し、「CB6」はアルファ株とベータ株に対し、「A19-46.1」はデルタ株に対して効果が顕著に低下する事が2021年7月1日に報告されています(Wang L, Science 2021, 7/1)。「IgGを用いた治療薬がウイルスの変異に弱い」という欠点を克服するための戦略が、「抗体カクテル療法」です。2種類のIgGを混ぜる事により「各々の弱点を補う」ことが可能になります。また、2種類を上手く選択すれば、新型コロナウイルスの更なる変異も予防できる可能性が報告されています(Wang L, Science 2021, 7/1)。REGN10987(イムデビマブ)はデルタ株に対して効果が減弱し、REGN10933は(カシリビマブ)はアルファ株とベータ株に対して効果が減弱します(Wang L, Science 2021, 7/1)。よって、REGN10987とREGN10933をカクテルにすると、各々の欠点を補いあい現在同定されている全ての変異株(VOC)に対して効果が期待できます。2021年1月21日の報告では、「REGN10987(イムデビマブ)とREGN10933(カシリビマブ)のカクテル療法」は、「免疫反応が開始されていない感染者、すなわち新型コロナウイルス感染初期段階」、又は「新型コロナウイルス量が唾液中に107個/mL以上も増えている感染者」に対しては、ウイルス量を約100倍減少させ重症化予防効果がある可能性が報告されています(Weinreich DM, New England J Medicine 2021, 1/21)。2021年7月14日に新たな臨床試験結果が報告されました(Douga M, New England J Medicine 2021, 7/14)。新型コロナウイルス感染で軽度か中等度の症状が出て外来を受診された1,035人を対象に、2,800㎎のイムデビマと2,800mgのカシリビマブのカクテルが投与されています。平均年齢は53.8歳で、投与は重症化リスクが高い方に限定されています。重症化リスクの判断の一つは「肥満」で、結果として投与を受けた患者さんの平均BMIは34.09と高値です。その他の重症化リスク判断要因は基礎疾患で、「慢性腎疾患」、「糖尿病」、「免疫不全」、「心血管障害」、「高血圧」、「慢性肺障害」の方に投与されています。投与後29日目に重症化した感染者は、カクテル投与群で「2.1%」、偽薬群で「7.0%」と報告されています。死者はカクテル投与群で0人、偽薬群では10人のようです。期待の持てる結果です。日本も2021年7月19日に、「イムデビマブとカシリビマブのカクテル療法」の使用をを承認されています。

東京都を含む42都道府県で、重症化を起こし易い65歳以上の高齢者の60%以上に2回目のワクチン接種が終了しています(2021年7月25日時点)。また、これまで承認されていた重症者に対する治療薬に加えて、軽症者に対する治療薬も承認されました。予防面さらには治療面でも画期的な進歩を遂げており、新型コロナウイルスに対する感染症分類を引き下げても問題はないのではないかと個人的には信じています。

変異が特徴であるウイルスに対する理想は、全ての変異株に対して効果を有するIgGです。医学の進歩は目覚ましく、遺伝子組み換え、分子レベルの構造解析、コンピュータ解析などを駆使して、全ての変異株を撃破できる超高性(ultrapotent)IgG作成の糸口となる情報も報告され始めています(Wang L, Science 2021, 7/1)。また、超高性IgGを新型コロナウイルス感染後により獲得される方もいらっしゃるようです。超高性IgGは「IGHV1-58重鎖」と「IGKV3-20/IGKJ1軽鎖」から構成されるIgGに含まれている可能性が報告されています。

 

[74版への追記箇所]


[これまでの結果から将来を考える](2021年7月10日時点)の章を新たに追加
ワクチン接種が進みながらもアメリカの新型コロナウイルスの2021年7月8日の新規感染者数は23,130人で死者数は366人、イギリスでは新規感染者数は32,048人で死者数は33人です。ほとんどが「デルタ株」の感染です。日本で1日あたりの新規感染者数が最多であった2021年1月19日の7,955人よりも多い数です。また、東京に緊急事態宣言の発出が決定された2021年7月8日の日本の新規感染者数は2,190人です。それでも、アメリカとイギリスは共に行動制限の解除に舵をきられました。日本でも、毎年1,000万人以上が季節性インフルエンザに感染し3,000人以上が亡くなられるように、共存が必要なウイルスを封じ込める事は不可能なため、多くの感染者は覚悟しなければなりません。しかし、ワクチンの真の役割である「重症化予防」は充分満たしてくれています。イギリスやアメリカでは、今が新型コロナウイルスと共存するための決断の時期と考えられたのかもしれません。行動制限を継続する事により、副作用が起こらなければ誰しも継続の道を選ぶと思います。しかし、継続する事により生じて来る副作用が許容範囲を超えて来たのかもしれません。どの国もドラえもんのような四次元ポケットは持ちません。行動制限を続ければ、いつかは財政破綻に陥るばかりが、失業者の増加、それに伴う自殺者や犯罪の増加といった社会的悪循環を招いてしまいます。

 

 

日本のこれまでの対策による経済面以外の「正の遺産」と「負の遺産」を整理してみました。厚生労働省の「令和2年度(2020)人口動態統計月報年計」によると、2020年度の死者数は1,372,648人で、2019年度の1,381,093人より「8,445人減少」しています。2021年5月11日のThe economisutによると、2019年に比べて2020年度に死者数が減少した国はごくわずかしかなく、「最も死者数が減少した国は日本」です。2位がフィリピン、3位が台湾、4位がタイ、5位がマレーシアの順のようです。一方、殆どの国では2019年に比べて、2020年は死者数が爆発的に増えています。アメリカでは597,490人、イギリスで119,320人、イタリアで116,410人、フランスで81,690人、ドイツでは81,660人の死者数の増加を認めています。日本の死者数は、2015年が1,290,500人、2016年が1,308,158人、2017年が1,340,567人、2018年が1,362,470人と、毎年0.99%から2.47%の割合で死者が継続的に増えています。世界一の高齢化社会である我が国では、「老衰」による死者が増え続け、2016年には老衰は日本における死亡原因の第5位でしたが、2018年には第3位となっています。事実、老衰による死者数は2019年の121,863人から2020年は132,435人と増加を認めています。すなわち、「超過死亡は自然に毎年増え続けている」のが日本の特徴です。それにも関わらず、日本の2020年の超過死亡はマイナスに転じています。

 

 

年齢別にみると、65歳以上(75歳~79歳以外)の2020年の死者数は2019年に比べて減少しています。2021年7月7日時点の60歳以上の新型コロナウイルス感染による累積死亡者は12,198人です。しかし、驚くことに2020年度は肺炎による死者数が、2019年の95,518人から78,445人へと著減しています。肺炎による死者は2020年だけでも17,073人減少しており、全年齢における新型コロナウイルス感染による累積死死者数14,959人を超えています。また、季節性インフルエンザによる死者数も2019年の3,575人から2020年は954人へと減少しています。一方、誤嚥性肺炎による死者数は2019年が40,385人に対して2020年は42,746人と僅かに増加しています。新型コロナウイルス対策で市中肺炎や季節性インフルエンザ肺炎を減少させ、死者数を減少に転じさせたのかもしれません。新型コロナウイルス対策の副産物として、市中肺炎や季節性インフルエンザ肺炎による高齢者の死者を減らせた事は良い事です。しかし、大きな副作用もでています。高齢者と異なり、15~29歳の若年者の死者数は2019年に比べ2020年度に増えています。2021年7月7日時点の新型コロナウイルス感染による29歳以下の死者数は僅か8人です。一方、警察庁の「自殺の状況」によると29歳以下の自殺者は2019年の2,776人から2020年では3,298人と522人も増えています。また、例年は7月、8月、9月の自殺者は減少を認めます。一方、2020年の自殺者数は、第1回目の緊急事態宣言が解除(2020年5月25日解除)された1か月後の7月から急激な増加を認め10月にピークに達しています。自殺者の増加により29歳以下の死者数は2020年に増えたと考えて良いのかもしれません。また、自殺者数は2021年も高止まりが続いています。2020年1月から6月までの自殺者数は10,784人(1月1,738人、2月1,685人、3月1,991人、4月1,834人、5月1,791人、6月1,745人)で、2019年同期間の9,578人(1月1,686人、2月1,464人、3月1,758人、4月1,507人、5月1,591人、6月1,572人)より1,206人増加しています。

結果から考えると、2020年の新型コロナウイルス対策は「60歳以上の死者を減らし、29歳以下の死者を増やした」傾向があるのかもしれません。NHK「特設サイト 新型コロナウイルス」によると2021年7月9日時点で、65歳以上の1回以上のワクチン接種率は岐阜県の86.18%を筆頭に、全都道府県で60%を超えています。東京都は73.61%です。よって、重症化を起こし易い高齢者にワクチン接種が充分にいきわたっていると考えられます。これらのデータを見ると、対策による副作用(若年者の自殺と経済への影響)が対策による効果(重症者の減少)を既に上回り始めていると感じます。さらなる副作用を誘発する前に、新型コロナウイルスを季節性インフルエンザと同じ取り扱いに変更する時期に入ったと個人的には思います。

新型コロナウイルスが出現した時には「エボラ出血熱のように封じ込めが可能」との考えもありました。しかし、不可能な事は明らかです。よって、「感染者数を極力減らして、重症者数を抑え、医療崩壊を防ぐ」が日本を含む多くの国の目標だったと個人的には理解しています。この目標達成のため「集団免疫の早期樹立に有効な若年者からのワクチン接種」ではなく、「重症者減少に有効な高齢者からのワクチン接種」に日本をはじめ多くの国が舵を切られました。この目標が達成できたため、イギリスやアメリカは集団免疫が獲得できていない現時点でも行動制限解除に舵をきられたのかもしれません。日本では、2021年7月14日時点で「2回目のワクチン接種も終了した65歳以上の高齢者」は、佐賀県の66.3%を筆頭に30都道府県で50%以上です。東京都も51.9%です。初期の緊急事態制限発出の理由であった「医療崩壊を防ぐ」は日本でも達成できて来ているのかもしれません。昨年は、ベッド数は豊富にありながらも、人工呼吸器を扱える医師の不足が問題になりました。事実、発展途上国では、人工呼吸器を装着しても新型コロナウイルス感染による死亡率は改善していません。人工呼吸器を装着しただけでは意味がなく、集中治療に熟練した医師が必要な事を教えてくれています。一方、「デルタ株」で入院治療が必要となる感染者の多くは「中等症」のようです。つまり、入院患者さんの多くは、高度医療を提供できる大学病院での人工呼吸器の装着がなくても、酸素投与が可能な病院であれば充分に対処できる事を教えてくれています。ほぼ全ての病院には酸素投与可能な病室は有ると思います。オリンピック開催地であるため、世界中が日本に注目しています。デルタ株感染の新規感染者数が2万人を超えながらも行動制限を解除される国がある中で、もし日本にデルタ株による医療崩壊の危険が生じれば、先人達の努力により作り上げられてきた「医療大国日本」の名声が、あっと言う間に地に落ちるのかもしれません。風評被害や過剰なデスクワークに邪魔されず、医療従事者が自由に新型コロナウイルス感染者を診療ができる体制づくり、すなわち「新型コロナウイルスの感染症分類の引き下げ」も一案なのかもしれません。

過度な感染対策は新型コロナウイルス感染を予防するために効果的ですが、長期間続くと以下に示す様な免疫学的にみて計り知れない副作用を将来起こしてくる危険性があります。

自己免疫疾患とアレルギー疾患の増加:「衛生仮説」として知られるように、過度な衛生状態は自己免疫疾患やアレルギー疾患の発症につながります。例えば、ある種の自己免疫疾患やアレルギー疾患は先進国で右肩上がりに増えていますが、衛生状態の悪い後進国では稀です。免疫軍は敵と味方を正確に区別する事により、「敵すなわち病原体には攻撃を仕掛け、味方すなわち自身の細胞には攻撃を仕掛けない」ように訓練されています。自身の細胞に攻撃を加えると、自己免疫疾患やアレルギー疾患が起こってしまいます。病原体は「分子擬態」と呼ばれる手法、すなわち「オレオレ詐欺」のように他人でありながら親族のふりをして免疫軍を攪乱してきます。通常の日常生活では、何らかの病原体に頻回に暴露されているため免疫軍は日夜訓練されている状態で、分子擬態には騙されません。しかし、過度な衛生状態で、免疫軍が訓練を怠ると分子擬態に騙されやすくなります。結果、本来病原体を攻撃するはずの免疫軍が内乱を起こし自身の細胞を攻撃して、一生涯治療が必要となる、または命にもかかわる重篤な自己免疫疾患やアレルギー疾患を起こしてしまいます。つまり、長引く過度な感染対策は、自己免疫疾患やアレルギー疾患を数年後には右肩上がりに増加させる危険性がでてきます。

感染症による重症化の危険性:新型コロナウイルスを始め病原体は変異する事が特徴です。免疫軍は種々の病原体と戦いによる実践訓練で「多様性」を身に着けてきます。つまり、変異したウイルスに対して、一撃必殺の「ストレートパンチ」は放てなくても「ジャブ」で敵の勢いをそぎ、徐々に敵を追い詰めていきます。つまり、戦いに時間がかかり症状が出たとしても、重症化の手前で変異した敵を撃破してくれます。一方、過度の衛生状態が続き、免疫軍の実践訓練がおろそかになると、臨機応変な多様な攻撃ができなくなります。結果、ストレートパンチ一辺倒の攻撃はウイルスにかわされ続け、最後に敵の一撃をくらいノックアウトされ、死の危険も出てきます。つまり、強力な変異株や新たなウイルスが出現した時には、予想を遥かに超えた死者が出る可能性を秘めてきます。例えば、山中伸弥先生がおっしゃるように、欧米人に比べて日本人は「ファクターX」により新型コロナウイルスから守られていることは間違いないと思います。ファクターXが何なのかは未だ明らかではありませんが、BCGに用いられるウシ結核菌など何らかの病原体に対する過去の免疫軍の訓練が功を奏している可能性も否定はできません。

即ち、過度な感染対策が続けば続くほど、「数年後には自己免疫疾患やアレルギー疾患が爆発的に増え」、「強力な変異株が現れた時には多くの方が犠牲になる」可能性を秘めてきます。新型コロナウイルスに対するワクチン接種も進み、できるだけ早く日常の生活に戻すステップに入ったのかもしれません。「いつ、マスクは外せる?」と非常に難しいご質問を多くの方から頂きます。代表的な風土病である季節性インフルエンザは毎年1,000万人以上の方が本邦で感染され、3,000人以上の方が亡くなられています。よって、「新型コロナウイルス感染による死者数が,年換算で3,000人以下」が日常の生活に戻す1つの指標としては妥当なような気が個人的にはしています。ただし、個人的な懸念は、今冬の季節性インフルエンザです。新型コロナウイルスの感染対策が功を奏して、日本の殆どの方の免疫軍は季節性インフルエンザとの実践経験が昨年はありません。よって、免疫軍が季節性インフルエンザに手こずってしまい、新型コロナウイルスでなく季節性インフルエンザによる重症者や死者が増える可能性も否定はできません。用心に越した事はないので、季節性インフルエンザワクチン接種は必ず受けられる事をお勧めします。

「(28) 世界のワクチン効果の現状は?」の章への追記
ファイザー社RNAワクチンとモデルナ社RNAワクチンの効果が想像を遥かに超えて強力で感染予防にも効果を示しています。よって、「ワクチン = 感染予防」と誤解される方が多く、インド由来デルタ株のような「感染予防を担う中和抗体の効力が低下する変異株」が出現すると、過剰な恐怖を感じられるのかもしれません。しかし、「ワクチンの真の目的は重症化予防」です。よって、イギリスやアメリカでは新規感染者数が日本の10倍以上でも「行動制限解除」に進まれています。

ウイルスは鍵の先端を頻回に変異させ、我々の細胞に侵入できる能力は維持しながら中和抗体からの攻撃を回避します。これがウイルスの特徴で、感染予防効果の減弱は全て想定内です。ファイザー社RNAワクチンとアストラゼネカ社DNAワクチン接種により誘導される中和抗体の効力は、「アルファ株」に比べて「デルタ株」では3~5倍低下する可能性が2021年7月8日に報告されました(Planas D, Nature 2021, 7/8)。事実、イギリスでは、アルファ株が流行した第2波での新規感染者数が最多を示したのは2020年12月31日の81,519人で、死者数は2021年1月21日に最多を記録して1,820人です。2021年7月10日時点で、1回以上のワクチン接種者はイギリス全人口の68.8%に達しています。しかし、「デルタ株」の蔓延により新規感染者が増加し2021年7月10日時点で35,200人に達しています。しかし、死者数は34人です。「アルファ株の死亡率2.23%(1,820 ÷ 81,519)」に比べて、ワクチン接種が浸透した時点での「デルタ株の死亡率は0.096%」と約23倍低くなり、季節性インフルエンザの死亡率と変わらなくなっています。

ワクチンの感染予防に寄与するのは、多様性を持つT細胞部隊です。各T細胞ごとに覚えている敵の部位が異なります。「鍵」を覚えているT細胞ばかりでなく、「鼻」、「目」、「ホクロ」といった異なった部位を覚えているT細胞も多く存在します。つまり、敵が鍵を変異させ、鍵を覚えたT細胞部隊が攻撃できなくなっても、「鼻」、「目」、「ホクロ」といった他の部位を覚えているT細胞が攻撃を仕掛けてウイルスを撃退してくれます。これが「多様性」です。T細胞は接近戦でウイルスと戦うため、ウイルスは我々の体内に入ってきます。つまり、感染はしてしまいます。しかし、入って来たウイルスを多様性を持つT細胞が速攻で攻撃してくれるため、無症状か軽症のうちに敵を撃退してくれます。T細胞は敵の七変化に対象できる非常に心強い味方です。

ファイザー社RNAワクチンとモデル社RNAワクチンが多様性を持つT細胞部隊を生み出すことが2021年7月1日に報告されました(Tarke A, Cell Reports Medicine 2021, 7/1)。これらのワクチンを接種され2週間が経過した平均年齢47歳の方が対象です。新型コロナウイルスに対して戦えるT細胞部隊の総数は、アルファ株(B1.1.7)では12%減少すると報告されています。つまり、変異した場所を覚えていたため「攻撃不能なT細胞」が12%いますが、それ以外の場所を覚えていたため「攻撃可能なT細胞」が88%もいて、感染しても無症状または軽症のうちにアルファ株を充分撃退できる事を教えてくれています。また、ベータ株(B1.351)に対しては6%、イプシロン株(CAL20C)に対しては14%、ガンマ株(P1)に対しては0%しか減少しないと報告されています。つまり、ファイザー社RNAワクチンとモデル社RNAワクチンは「どのような変異株に対しても強い重症化予防効果」がある事を科学的に示しています。

2021年7月12日に興味深い結果が報告されました(Arunachalam PS, Nature 2021, 7/12)。ファイザー社RNAワクチンは、南アフリカ由来「ベータ株」に対する中和抗体の効果が減弱し「感染予防効果も低下」するようです。しかし、心配される必要はないようです。接近戦の名手であるT細胞部隊はCD8陽性特殊部隊とCD4陽性特殊部隊に分類されます。ファイザー社RNAワクチンの2回接種により、どちらの部隊にも強力な免疫を引き出すと報告されています。同様な結果は既に報告されていますが、本研究ではファイザー社RNAワクチンを2回接種すれば、南アフリカ由来「ベータ株」を撃退できる自然免疫軍を100倍も増やす可能性が報告されています。自然免疫軍の中で「CD14」と「CD16」と呼ばれる分子を発現する炎症性単球(inflammatory monocyte)が特に強化されるようです。すなわち、ベータ株に感染しても、増強された自然免疫軍とT細胞部隊が同時に速攻攻撃を仕掛けて敵を追い出してくれます。つまり、ファイザー社RNAワクチンを2回接種後にベータ株に感染したとしても、殆どの方は無症状か軽症で済むことを教えてくれています。

「(29) ワクチン接種回数は?」の章の「症状があり抗体も陽性の方」への追記
感染歴のある方に対するワクチン接種時期に対する興味深い結果が2021年7月1日に報告されました(Anichini G, New England J Medicine 2021, 7/1)。38人の過去の新型コロナウイルス感染者と、62人の感染歴の無い方にファイザー社RNAワクチンが接種され10日目に調査されています。中和抗体の幾何平均抗体価(genometric mean titer, GMT)は、感染歴のある方では569で、感染歴の無い方では118と報告されています。また、感染後2か月以内にワクチン接種を受けた場合のGMTは437(対象者8人)、2~3か月では559(対象者17人)、3か月以上経ってワクチン接種を受けて場合は694(対象者12人)です。対象者が少ないため結論を出すには時期尚早ですが、感染からある程度の期間を経てワクチン接種を受けた方が、より効果的なのかもしれません。

「(34) 変異したウイルスに対するワクチン効果と各自の対策は?」の章の「ベータ株」への追記
モデルナ社RNAワクチンのアルファ株とベータ株に対する感染予防効果が2021年7月9日に報告されました(Chemaitelly H, Nat Med 2021, 7/9)。「アルファ株」に対する感染予防効果は、1回目接種後14日目で88.1%、2回目接種後14日目で100%と報告されています。また、「ベータ株」に対する感染予防効果は、1回目接種後14日目で61.3%、2回目接種後14日目で96.2%のようです。また、重症化の予防効果は1回目接種後14日目で81.6%、2回目接種後14日目で95.7と報告されています。
「(34) 変異したウイルスに対するワクチン効果と各自の対策は?」の章の「デルタ株」への追記
イギリスからの最新の新型コロナウイルス感染情報が2021年7月12日に発信されました(Burki TK, Lancet Respiratory Medicine 2021, 7/12)。2021年7月6日時点で1回ワクチン接種を受けた方は86%、2回目の接種が終了された方は64%です。7月7日の新規感染者数は32,548人で、95%%は「デルタ株」の感染です。初期の新型コロナウイルスに比べて、「アルファ株」では感染力が60%増強し、「デルタ株」では更に60%増強したと報告されています。しかし、今回のデルタ株流行では、アルファ株に比べて入院者は極端に少なくなっています。デルタ株はアルファ株に比べて症状が弱いため、多くの感染者が出歩き感染拡大に拍車をかけているようです。このように感染力が強いウイルスに対して集団免疫を獲得するためには85%以上の国民がワクチンを接種する必要があるようです。ウイルスは人類との共存を模索し、最終的には「感染力を増しながら病原性が下がる」傾向にあります。例えば、日本でも季節性インフルエンザは毎年1,000万人以上に感染しますが、死者数は3,000人に留まっています。新型コロナウイルスも季節性インフルエンザに近づいて来たのかもしれません。イギリスで行動制限を解除した場合、デルタ株の新規感染者数は1日あたり10万人を超えると試算されています。それでも、2021年7月19日に行動制限解除が予定されています。マスク着用も必要なくなります。イギリスの結果を冷静に見守る必要があり、今後の対策決定に貴重な情報を提供してくれると思います。

(34) 変異したウイルスに対するワクチン効果と各自の対策は?」の章の「ラムダ株」への追記
ラムダ株に対するワクチン効果がチリから2021年7月7日に報告されました(Jara A, New England J Medicine 2021, 7/7)。試験期間は2021年2月2日から5月1日です。1,000万人の方に中国「シノバック社」の不活化ワクチンが接種されています。感染予防効果は65.9%、入院予防効果は87.5%、死につながる重症化の予防効果は86.3%と報告されています。また、490,760人にはファイザー社のRNAワクチンが接種されています。ファイザー社RNAワクチンの感染予防効果は92.6%、入院予防効果は96.2%、死につながる重症化の予防効果は91.0%と報告されています。ファイザー社RNAワクチンはラムダ株に対しても充分な効果が発揮できるようです。

(45) 重症化しやすい基礎疾患は?」の章の「遺伝因子」への追記
我々の体の基盤となるのは「ゲノム」すなわち遺伝子です。先天性代謝異常や先天性免疫不全症のように、たった1つの遺伝子の異常により生まれつき重篤な疾患が発症する場合もあります。また、「感受性遺伝子(Susceptibility gene)」と呼ばれる遺伝子の変異では、ある種の疾患にかかり易くなったり、かかりにくくなったりします。19か国の49,562人を対象とした新型コロナウイルス感染に対する感受性遺伝子の大規模調査結果が2021年7月8日に報告されました(COVID-19 Host Genetics Initiative, Nature 2021, 7/8)。新型コロナウイルスに感染しやすくする候補遺伝子は、「ABO loci」すなわち血液型と報告されています。また、新型コロナウイルスの鍵穴であるアンギオテンシン変換酵素2と相互作用する「SLC6A20」と呼ばれる遺伝子が含まれる「3p21.31 loci」も感染しやすくする候補として同定されています。その他の候補遺伝子は「CXCR6」、「LZTFL1」、「TFNAR2」、「OAS1/2/3」が挙げられています。また、間質性肺炎に寄与する可能性が報告されている「DPP9」と「FOXP4」が、新型コロナウイルス感染の「重症化を助長する候補遺伝子」として同定されています。特にFOXP4の遺伝子異常は、東アジアで新型コロナウイルス感染で重症化した方の32%に認められるようです。また、細胞性免疫の活性化に寄与する「TYK2」と呼ばれるキナーゼの遺伝子異常のある方では、新型コロナウイルス感染の重症化のリスクが低い可能性も報告されています。

「(48) 後遺症は?」の章への追記
新型コロナウイルス感染で重症化してICUに搬送された患者さんの85%には、脳梗塞、脳出血、脳炎、痙攣発作などの脳障害が認められるようです。脳細胞には新型コロナウイルスの鍵穴であるアンギオテンシン変換酵素2の発現が低い事が知られています。よって、「新型コロナウイルスが何故脳に感染するのか?」が大きな疑問でした。脳には血管が多く存在するため、脳内の血管を構成する血管内皮細胞への新型コロナウイルス感染説がこれまで提唱されていました。新たな仮説が2021年7月9日に報告されました(Wang L, Nat Med 2021, 7/9)。血管周囲には「血管周皮細胞(pericyte)」と呼ばれる細胞が存在します。血管周皮細胞に類似した「Pericyte-like cells」と呼ばれる細胞に新型コロナウイルスが感染して、脳内にウイルスを拡散させている可能性があるようです。

 

[73版への追記箇所]


「(15) 抗原検査は?」の章への追記
イギリスから6種類の「迅速抗原検査キット」の成績が2021年6月30日に報告されました(Pickering S, Lancet Microbe 2021, 6/30)。「Innova rapid」、「Supring Healthcare」、「E25BioRapid」、「Encode」、「SureScreen」と呼ばれる抗原検査キットが用いられています。「特異性」すなわち陽性であれば新型コロナウイルス感染と確定できる信頼性は、E25Bioが86%とやや低いですが、その他のキットは98%以上と報告されています。つまり、信頼性のある抗原検査キットを使えば、新型コロナウイルス感染ではない方を誤って隔離する可能性はほぼ無い事を教えてくれています。「感度」すなわち新型コロナウイルス感染を見逃さない信頼性は、PCRでCT値が23.7に設定された場合と同じと報告されています。ウイルス粒子数に換算すると、唾液中に300万個/mLのウイルスがあれば陽性になります。また、ウイルスが生体内で実際に増殖している場合は、感度は94.7%まで達するようです。つまり、PCRより感度が低くても、ヒトにうつす可能性がある感染者は抗原検査で探し出せる事を教えてくれています。ワクチン接種者では、PCRで陽性になってもウイルス排出量は非接種者より「16倍も少なく」、「無症状の方も多い」ことが報告されています(Shrotri M, Lancet Infectious 2021, 6/23)。すなわち、CT値30を判断基準にした場合、ワクチン接種者の多くは、ヒトにうつす可能性も非常に低く、何も症状がなくてもPCR陽性となるのかもしれません。つまり、ワクチン接種者では「陽性者=感染者」でないため、隔離する必要のない方を隔離してしまうリスクもあります。ワクチン接種も進み、通常の生活に戻す時期に入ったのかもしれません。季節性インフルエンザでクリニックを受診したら即座に結果が出る抗原検査が通常使われています。

「(28) 世界のワクチン効果の現状は?」の章への追記
ノバックス社ナノ粒子ワクチンの新型コロナウイルスに対する臨床試験結果がイギリスから2021年6月30日に報告されました(Heath PT, New England J Medicine 2021, 6/30)。18歳から84歳の15,187人を対象に、ナノ粒子ワクチン5μgが2回接種されています。感染予防効果は89.7%で、アルファ株に対しては86.3%、その他の変異株に対しては96.4%と報告されています。

「(29) ワクチン接種回数は?」の章の「1回接種と2回接種の比較」への追記
ファイザー社RNAワクチン1回接種後の各要因に依存した免疫反応の調査結果が2021年7月2日に報告されました(Lustig Y, Lancet Respiratory Medicine 2021, 7/2)。若年者では、ファイザー社RNAワクチンを1回接種して3週間後には71%の方に中和抗体が産生され、4週間後には96.5%の方が産生できるようです。若年者の中和抗体産生を「1」とした場合、66歳以上の高齢者では「0.25」へ、免疫不全の患者さんでは「0.21」へ低下すると報告されています。しかし、2回接種した場合は、若年者との差が縮小され、66歳以上の高齢者では「0.64」、免疫不全の患者さんでは「0.44」となるようです。また、中和抗体産生は、糖尿病で「0.88」、高血圧で「0.9」、心疾患で「0.86」、自己免疫疾患で「0.82」と僅かな低下を認めるようです。

ファイザー社RNAワクチンの80歳以上の140人を対象とした新型コロナウイルス感染予防効果が2021年6月30日に報告されました(Collier DA, Nature 2021, 6/30)。1回目接種後にできる中和抗体の量は加齢に伴い減少し、特に80歳以上で顕著なようです。アルファ株(B1.1.7)、ベータ株(B1.351)、ガンマ株(P.1)といった変異株にも対応できる中和抗体産生も80歳以上では非常に低い事が報告されています。また、抗体は「体細胞超変異」と呼ばれる機序によりウイルスへの結合力(affinity)を強化し、殺傷力を増していきます。抗体を産生するB細胞は、敵を倒すために日々研究(体細胞超変異)し、進化を続ける非常に頼もしい味方です。しかし、80歳以上の高齢者では体細胞超変異も低下している事が報告されています。B細胞が弱いと新型コロナウイルスの感染を許してしまいます。しかし、新型コロナウイルスが侵略して来ても、接近戦の名手である「T細胞部隊」が敵を一網打尽にしてくれます。つまり、感染してもT細胞部隊が重症化を防いでくれます。このT細胞部隊の新型コロナウイルスに対する攻撃力も高齢者では低下しているようです。しかし、2回ワクチンを接種すれば、高齢者でも中和抗体は増えてくると報告されています。高齢者ではワクチンを必ず2回接種する必要がある事を教えてくれています。また、新型コロナウイルスに対して、弱いながらも効力をもつ免疫力を維持するためには、定期的な接種も高齢者では必要かもしれません。

「(32) ワクチン接種後の再感染は?」の章への追記
新型コロナウイルスに感染した方は、現在確認されている警戒が必要な変異株(Variants of Concer)全てに対して、接近戦のプロフェッショナルである「CD8陽性T細胞部隊」が撃退してくれる事が最先端技術(structure-based network analysis)を用いて2021年6月29日に証明されました(Nathan A, Cell 2021, 6/29)。実際の新型コロナウイルス感染経験ほど強力ではないようですが、ファイザー社RNAワクチンとモデル社RNAワクチンも「アルファ株」、「ベータ株」、「ガンマ株」、「デルタ株」を撃退するには充分な「CD8陽性T細胞部隊」の免疫を引き出せるようです。

ファイザー社RNAワクチン接種後の再感染に関する調査結果がアメリカから2021年6月30日に報告されました(Thompson MG, New England J Medicine 2021, 6/30)。医療従事者を対象にされています。ワクチン接種を受けられた3,179人のうちPCRで陽性を認めた方は、1回目接種から14日以内では32人、2回目接種から14日以内で11人、2回目接種から14日以上経てば5人と報告されています。接種から時間が経てばたつほど少なくなります。一方、ワクチン接種を受けられなかった796人では、156人が陽性となっています。ワクチンを2回接種後の再感染(再陽性)予防効果は「91%」、1回接種では「81%」と報告されています。また、ワクチン接種者で発熱や悪寒などの全身症状が出た方は、未接種者に比べて58%少なく、症状が出ても感染期間は2.3日短くなるようです。ワクチン接種者で入院治療が必要となった方もいらっしゃらないと報告されています。また、検出できるウイルス量もワクチンを1回接種しただけで、未接種者に比べて40%少なくなると報告されています。ワクチン接種者、特に2回接種者では、感度の高いPCRで陽性になったからと言って「本当に再感染なのか?」または「症状も出ずヒトにうつす可能性も低い再陽性なのか?」について疑問を呈する結果と思います。隔離が必要でない方を隔離して社会活動を停止させてしまう可能性もあるため、ワクチン接種者に対しては、季節性インフルエンザのように抗原検査を用いるほうが科学的に見て妥当なのかもしれません。

またPCRて再陽性となった81人のウイルス遺伝子解析も行われています。ワクチン未接種では、8人にカリフォルニア株(B1.429)が、1人にエプシロン株(B1.427)が、1人にアルファ株(B1.1.7)が、1人にゼータ株(P.2)が検出され、カリフォルニア株が主体のようです。一方、ワクチン接種者では30%にエプシロン株が検出されています。エプシロン株に対しては、ワクチン効果が減弱する可能性があるのかもしれません。しかし、ご安心下さい。ワクチン接種者でエプシロン株に再感染されても、入院治療が必要となるような重症化は誰にも起こっていません。

「(33) ウイルスの変異は?」の章の「その他の変異株」への追記
日和見感染症と知られるカビの感染では、地域により原因となるカビの種類が異なります。日本や欧米では、アスペルギルスと呼ばれる「白カビ(white fungus)」が主原因です。一方、インド、ペルーやブラジルなどの南米、そしてロシアではムコール症と知られる「黒カビ(black fungus)」が主体です。黒カビは土壌に常在しており、インドの黒カビの人口あたりの感染者数はサンフランシスコの80倍以上です。インドでの「デルタ株」流行では第1波に比べて25~50歳の死者が増えています。この原因となったのが黒カビの2次感染の可能性が2021年6月30日に報告されました(Asrani D, Lancet Respiratory Medicine 2021, 6/30)。黒カビ感染が少ない日本では、他の変異株に比べてデルタ株流行による死者の増加は考え難いのかもしれません。また、時期尚早ですが、ペルーで流行しているラムダ株の重症化にも黒カビが関与している可能性は否定はできません。

「(34) 変異したウイルスに対するワクチン効果と各自の対策は?」の章の「インド由来変異株(WHOがデルタ株と命名)」への追記
インドでは「ホーリー祭」に伴う人出とデルタ株の出現により2021年5月6日には新型コロナウイルス感染者が41万人を超える爆発的な拡大を認めました。しかし、2021年6月24日には感染者数は5万人と急速な減少を認めています。この急速な減少には臨機応変なワクチン接種が功を奏した可能性が2021年6月29日に報告されました(Bekliz M, Lancet Microbe 2021, 6/29)。インドでは、アストラゼネカ社のDNAワクチンと、インドで開発されたコバクシン(BBV152)と呼ばれるウイルス全粒子不活化ワクチンが使用されています。感染拡大前は、医療従事者と60歳以上を優先にワクチン2回接種が行われていました。しかし、爆発的な拡大に対応するため、完璧な2回接種でなく、少しでも免疫をつけてもらうために、「18歳以上の国民の75%に、まずは1回接種する」方針に変えられ良い結果が導けたようです。感染拡大の強い地域からの優先接種も考慮されたようですが、地域の決定には時間を要するため、タイムロスをなくしてできるだけ早急に対象するための苦肉の策だったようです。しかし、「案ずるより産むが易し」で、この判断が正しかった事を結果が教えてくれているかもしれません。18歳以上の75%にワクチンが1回接種できた場合、ウイルスの実行再生産数が「2」で、皆さんが普通に生活されても死者数は37%減らせると報告されています。マスク着用やソーシャルディスタンスに心がければ45%減らせるようです。日本でこれまで指標とされてきた実行再生産数は「1.2」ぐらいで、大阪府の感染拡大時には「1.38」を示しています。インドとは余りにかけ離れています。また、義務化無くしてはマスクを着用されないインドと異なり、日本では殆どの方が自発的にマスクを着用されています。その上、日本で使用されているワクチンはインドで用いられているワクチンよりも効果が強い事が明白です。また、日本では稀な黒カビの2次感染がインドでの新型コロナウイルス感染による死亡率を増加させたようです(Asrani D, Lancet Respiratory Medicine 2021, 6/30)。どの様な状況を想定しても、「デルタ株」により日本がインドの様な被害に遭う可能性は無いと考えるのが科学的に妥当と思います。

「(40) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(全てが諸刃の剣)?」の章の「オリンピック」への追記
2021年6月11日から欧州ではサッカーのヨーロッパ選手権が行われています。やはり、皆さん熱狂されたようで、密な状態でマスクなしで大声で応援されている状態を情報番組で見ました。やはり、新型コロナウイルスの感染者も増え、スコットランドでは会場または会場外でサッカー観戦された1,991人が新型コロナウイルスに感染した事が2021年7月1日のNHK Newsで報道されました。2021年7月3日のスコットランドの新型コロナウイルス新規感染者数は3,108人でデルタ株が主体です。一方、第2波の2021年1月6日時点の新規感染者数は2,039人でアルファ株が主流です。今回の方が前回より感染は約1.5倍も拡大しています。しかし、1日あたりの死者数は、今回は4人(2021年7月3日)で前回の92人(2021年1月20)に比べて20倍以上も少なくなっています。ワクチンの真の役割は、感染しても重症化は防ぐです。事実、日本では季節性インフルエンザに毎年1,000万人以上が感染され、残念ながら3,000人以上の尊い命が奪われています。スコットランドでは2021年6月1日時点で65歳の高齢者の88.8%にワクチンの2回目接種が終了しています。高齢者に対するワクチンの真の効果を如実に表しているのかもしれません。

大谷翔平選手が二刀流で大活躍して世界中を魅了されています。私も彼の活躍に目が離せずテレビを観てしまいます。観客は普通に応援され、アメリカでは昔の生活に戻りつつあるような気がします。2021年7月6日の、アメリカの新規感染者は23,549人で死者数は714人です。また、イギリスではサッカーのヨーロッパ選手権で盛り上がりマスク無しで観客が応援し、2021年7月6日時点の新規感染者数は28,334人にまで達し死者数は37人です。それにも関わらず、ジョンソン首相は「ワクチン接種も進み、コロナとは共生が必要」との理由で、2021年7月19日からイギリスの行動制限を全面撤廃されるようです。東京都の7月6日の新規感染者数は都議選の影響もあるのか、少し増えて920人です。東京都の人口あたりの新規感染者数は、アメリカとほぼ同じで「イギリスの10分の1」です。新型コロナウイルスとは共生が必要なため、アメリカとイギリスでは感染者数を指標とされていないようです。共生が必要な季節性インフルエンザによる日本の感染者数は毎年1,000万人以上です。

やはり、重要な指標は死者数です。ワクチンの効果でイギリスの死者数は1日あたり37人と抑えられています。また、アメリカではワクチン未接種者に重症化が起こっており、2021年7月6日の新規死者数は714人です。一方、東京都の、これまでの新型コロナウイルス感染による累積死者数は2,244人です。1年間の累積と仮定すると「1日あたりの死者数は6.15人(2,244人÷365日)」の計算になります。また、東京都で死者数が最多になったのは、2021年1月31日の38人です。ワクチンが無かった状態の東京都の死者数は、アメリカやイギリスでワクチン接種が拡大した現時点より少ないのが現実です。また、2021年7月7日時点の65歳以上の高齢者に対する東京都のワクチン接種率は「68.58%」に達しています。東京都で重症患者が爆発的に増える要因を見つけ出す方が難しい現状かもしれません。例えば、100メートル走の世界記録が9秒58のとき、9秒00と脅威的なタイムを出す「日本国」と呼ばれる選手が現れました。しかし、寝不足により体調が優れない日があり、9秒30と一時的にタイムが落ちてしまいました。世界から見ればそれでも脅威的なタイムです。しかし、コーチから見ればタイムが落ちた事が心配で、より厳しいトーレニングを課してしまいました。これまでのトレーニング計画も、常人ではこなせない過激なものであったのに、更なるトレーニングが課せられ、残念ながら選手は骨折し世界記録どころか人生が一変してしまいました。このような事が起こらない事を、心から願うばかりです。

「(45) 重症化しやすい基礎疾患は?」の章への追記
スコットランドから電子カルテ情報をもとに、全人口の98.6%を網羅する新型コロナウイルスの2020年度の感染状況が2021年7月5日に報告されました(Simpson CR, Lancet Digital Health 2021, 7/5)。全人口のうち2020年に新型コロナウイルスに感染された方は「9.7%」にもおよぶと報告されています。感染者のうち6.8%の方が入院治療を受けられています。調査対象となった5,384,819人のうち、3,796人が新型コロナウイルス感染で亡くなられています。入院率と死亡率は年齢により増加していき75歳でピークに達するようです。男性では入院率が「1.47倍」、死亡率は「1.62倍」増えると報告されています。入院率が最も高い基礎疾患は「臓器移植で4.53倍」、死亡率が最も高い基礎疾患は「筋神経疾患で2.33倍」、次が在宅酸素療法を受けられている患者さんで1.62倍のようです。また、社会的・経済的地位の高い方は、入院率は「0.7倍」に、死亡率は「0.77倍」に低下すると報告されています。

「(49) 治療法は?」の章の「人工呼吸器」への追記
新型コロナウイルス感染で入院され人口呼吸器の装着なしでの死亡率は「57.7%」、ICUに搬入され人口呼吸器を装着された方の死亡率は「57.5%」で、死亡率に差が無いと2021年7月2日にアルゼンチンから報告されました(Estensoro E, Lancet Respiratory Medicine 2021, 7/2)。また、ブラジルでも人口呼吸器装着での死亡率は「58.2%」と報告されています(Kurtz P, Intensive Care Medicine 2021, 4/14)。しかし、「この様な結果は発展途上国に特異的で、先進国には認められない」との批判も2021年7月2日に掲載されています(Schultz MJ, Lancet Respiratory Medicine 2021, 7/2)。賛否両論のため、日本集中治療学会のホームページを確認してみました。日本において、新型コロナウイルス感染によりICUで人工呼吸器を装着され2021年7月5日時点で回復された患者さんは4,207人、亡くなられた患者さんは1,200人と報告されています。死亡率は「22.2%」の計算になり、ブラジルやアルゼンチンの結果とはかけ離れています。さすが、世界最高を誇る日本の集中医療で、日本に生まれて良かったと思える瞬間です。

新型コロナウイルス感染に対して「酸素投与」は優れた治療法のため、重症度に応じて「マスク型酸素投与」、「持続的気道陽圧(CAPS)」、「人工呼吸器」の使用をSchultz先生は推奨されています(Schultz MJ, Lancet Respiratory Medicine 2021, 7/2)。一方、「経鼻的酸素投与」は肺にストレスをかけるため、使用しないように警鐘も鳴らされています。

 

[72版への追記箇所]
「(10) 血栓症 対 サイトカインストームは?」の章の「サイトカインストーム治療薬」への追記
免疫細胞を働かせるためには「ヤヌスキナーゼ(JAK)」と呼ばれる酵素が必要でJAK1、JAK2、JAK3、TYK2の4種類が存在します。免疫軍に対する指令は、JAKの組み合わせにより効率よく伝達されていきます。よって、JAKを阻害すれば免疫細胞が指令に反応できなくなり免疫抑制効果が期待されるため、関節リウマチや潰瘍性大腸炎の治療に用いられています。JAK1/JAK3阻害薬である「トファシチニブ」の新型コロナウイルス感染重症者に対する臨床試験結果が2021年6月16日にブラジルから報告されました(Guimaraes PO, New England J Medicine 2021, 6/16)。新型コロナウイルス感染で重症化した289人が試験対象です。平均年齢は56歳で89.3%の患者さんにはステロイド治療が開始されています。28日目の死亡率は、トファシチニブ投与群で18.1%、偽薬群で29%と報告されています。

「(28) 世界のワクチン効果の現状は?」の章への追記
免疫細胞軍は敵の顔を覚えることなく即座に攻撃を仕掛ける「先鋒の自然免疫軍」、敵の顔を覚えて的確に接近戦で攻撃を仕掛ける「副将のT細胞部隊」、敵の顔を覚えて飛び道具(中和抗体)で敵が侵入するために用いる鍵をピンポイントで叩き落す「大将のB細胞部隊」に大別されます。B細胞部隊は敵の鍵を破壊できるため、ウイルスは我々の細胞に侵入できなくなります。つまり、中和抗体ができれば「感染予防効果」がでてきます。一方、T細胞部隊は接近戦で戦うため、体内に入ってきたウイルスと戦います。つまり、T細胞部隊は、感染予防でなく「重症化予防」に寄与します。また、T細胞部隊の攻撃により、新型コロナウイルスは我々の体内で増える事が難しくなります。よって、飛沫に排出されるウイルス量も減少し、ヒトにうつす可能性も低くなります。

ファイザー社RNAワクチンまたはアストラゼネカ社DNAワクチンを1回接種後の高齢者の調査結果がイギリスから2021年6月23日に報告されました(Shrotri M, Lancet Infectious 2021, 6/23)。高齢者施設の10,412人を対象とされ、平均年齢は86歳です。ワクチン接種以前に11.1%の方は既に新型コロナウイルス感染の既往があったようです。「ワクチン未接種者」に比べて、「ワクチン接種者」では1回目接種後28日目で新型コロナウイルス感染による重症化は44%まで、35日以降では38%まで減少したようです。また、診断にはPCRが用いられていますが、ワクチン接種者で陽性となった方のCT値の平均は「31.3」に対して、ワクチン未接種者では「26.6」と報告されています。つまり、ワクチン接種者ではPCRで陽性になっても、ウイルス量は「16倍以上少ない」計算になります。ファイザー社RNAワクチンとアストラゼネカ社DNAワクチンは1回接種でも「高齢者の重症化を半減させ、ヒトに感染させるリスクも16倍以上低下させる」事を教えてくれています。どちらのワクチンもT細胞部隊の攻撃を1回の接種で引き出せているのかもしれません。

全国民を対象とした同様な結果が2021年6月23日にイギリスから報告されています(Hyams C, Lancet Infectious Disease 2021, 6/23)。全年齢層においてファイザー社のRNAワクチン1回接種後21日目から、入院治療が必要となる重症化率は60から85%低下すると報告されています。80歳以上の高齢者でも重症化予防効果は57%あるようです。この結果は主に「アルファ株」を反映していますが、「デルタ株」に対しても期待が持てるのかもしれません。何故なら、現在イギリスでは「デルタ株」感染が再拡大しており、2021年6月24日時点の感染者数は16,702人/日です。しかし、死者数は21人/日に抑え込まれています。「アルファ株」感染が拡大した2021年1月の最大感染者数は68,000人/日で死者数は1,400人/日です。死亡率は「アルファ株」では2.05%に対し、「デルタ株」では0.126%の計算になります。もし、デルタ株の感染力が強くても、ワクチン接種が進めば「デルタ株」の怖さ(死亡率)は「アルファ株」より20倍以上低い事を教えてくれているのかもしれません。

イギリスからの2021年6月23日の報告によると(Harris RJ, New England J Medicine 2021, 6/23)、ファイザー社RNAワクチンまたはアストラゼネカ社DNAワクチンを1回接種した場合、濃厚接触者が家庭内で家族にうつす可能性は40~50%低下するようです。

エイズ患者さんでは、HIVウイルスが免疫軍の精鋭部隊であるCD4陽性T細胞に感染するため免疫力の低下が起こります。エイズ患者さん54人(平均年齢42.5歳)に対するアストラゼネカ社DNAワクチンの予防効果が2021年6月18日に報告されました(Frater J, Lancet HIV 2021, 6/18)。CD4陽性T細胞が末梢血中に「350細胞/μL」以上あれば、ワクチン効果が期待できると報告されています。

「(29) ワクチン接種回数は?」の章の「1回接種と2回接種の比較」への追記
ファイザー社RNAワクチン、モデルナ社RNAワクチン、アストラゼネカ社DNAワクチンは2回接種が原則のため、「同じワクチンを2回接種しなくてはいけないのか?」または「異なったワクチンでも良いのか?」の疑問がありました。この問題に取り組んだ臨床試験結果がスペインから2021年6月25日に報告されました(Borobia AB, Lancet 2021, 6/25)。18歳から60歳でアストラゼネカ社DNAワクチンを1回接種された676人が対象です。2回目の接種にはファイザー社RNAワクチンが用いられています。コントロール群では、2回目の接種は行われていません。アストラゼネカ社DNAワクチンとファイザー社RNAワクチンの組み合わせでも、2回目接種後14日目には中和抗体のgeometric mean titer (幾何平均抗体価)は「7,756.68 BAU/mL」まで増加すると報告されています。コントロール群は「99.8 BAU/mL」で70倍以上の差があります。また、T細胞免疫も充分に引き出せるようです。対象者数は少ないですが、「ワクチンの種類を1回目と2回目でスィッチしても問題ない」可能性を示す期待の持てる結果です。また、副反応も同じワクチンを2回接種する場合と差は無いようです。DNAワクチンとRNAワクチンといった手法の異なるワクチンでも、この結果です。日本で現在使用されているファイザー社とモデルナ社ワクチンは、どちらもRNAワクチンのため、国内の在庫状況により「ファイザー/ファイザー」、「モデルナ/モデルナ」、「ファイザー/モデルナ」、「モデルナ/ファイザー」といった柔軟な対応が取れるのかもしれません。

「(30) ワクチンの副反応とアナフィラキシーは?」の章の「妊婦さんの安全性」への追記
ファイザー社とモデルナ社のワクチンで用いられるRNAは「母乳には検出されない」と2021年6月23日のNature News Feature に報告されました(Hall S, Nature 2021, 594, 492-494)。また、RNAワクチンを2回接種後1週間目には、母乳中の新型コロナウイルスに対するIgAがピークに達するようです。IgAは新型コロナウイルスの体内への侵入を防いでくれる効果があります。ワクチンを接種を受けても「安心して赤ちゃんに母乳を与えれる」ことを教えてくれています。

米国CDC(2021年6月16日時点)はホームページで「妊婦さんは新型コロナウイルス感染での重症化のリスクがあるため、妊婦さんに対するワクチンの接種を推奨」されています。一方、「Experts believe vaccines are unlikely to pose a risk for people who are pregnant. However, there are currently limited data on the safety of COVID-19 vaccines in pregnant people. Most of the pregnancies reported in these systems are ongoing, so more follow-up data are needed for people vaccinated just before or early in pregnancy. We will continue to follow people vaccinated during all trimesters of pregnancy to understand effects on pregnancy and babies」と報告されていますwww.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/vaccines/recommendations/pregnancy.htm。特に、「just before or early in pregnancy」つまり「妊活中や妊娠初期の方」に対して安全性を担保できるデータは米国でも充分ではないのかもしれません。妊活をお考えの方は、ワクチン接種を済ませてから始められるほうが無難かもしれません。また、妊娠初期(13週以内)の方は、ワクチン接種時期に関してかかりつけ医にご相談される事をお勧めします。

「(31) ワクチン接種の判断は?(65歳以上の高齢者 vs 成人 vs 未成年)」の章への追記
18歳から50歳未満:ウイルス変異株の感染に必要な部位の構造解析と人工頭脳を駆使した数理解析により、「感染力の増加(感染者が増える)」、「悪性度の増加(重症者・死者が増える)」、「免疫回避機構の獲得(ワクチンが効かない)」の3つが揃うと「最悪の変異株」へと進化する可能性が2021年6月24日に報告されました(Cai Y, Science 2021, 6/24)。現在、この様な最悪のコロナウイルス変異株は未だ世界に出現していないと報告されています。数か月前まで世界で騒がれた「イギリス由来変異株(アルファ株)」、「南アフリカ由来変異株(ベータ株)」、「ブラジル由来変異株(ガンマ株)」、さらには現在問題となっている「インド由来変異株(デルタ株)」も「最悪の変異株」ではありません。「最悪の変異株」の襲来に今後見舞われる可能性もあります。この様な最悪の変異株が発生した時に最も頼りになるのは「免疫軍の交叉反応」です。ワクチン等で実践訓練を行うことにより免疫軍は交叉免疫を獲得し、変異した敵と遭遇しても苦戦しながらも最後は敵を撃退してくれます。例えば、「死んでしまうところが重症化で済んだ」や「入院治療が必要なところが微熱だけで済んだ」など、本来起こりうる最悪の状態の手前で交叉免疫が必ず歯止めをかけてくれます。よって、ワクチンは「最悪の変異株」の襲撃に備えるためにも必要かもしれません。

16歳から30歳における新型コロナウイルス感染の「後遺症」について2021年6月23日にスエーデンから報告されました(Blomberg B, Nat Med 2021, 6/23)。新型コロナウイルスに感染し軽症のため自宅待機で回復した16歳から30歳までの若者でも、52%の方に何らかの後遺症が6か月間続く可能性が報告されています。6ヶ月継続した後遺症のうち多い順に、「嗅覚・味覚障害」が28%、「倦怠感」が21%、「息切れ」が13%、「集中力低下」が13%、「記憶障害」が11%と報告されています。一方、0歳から15歳になると後遺症が残る確率は13%と大幅に低下するようです。味や臭いがわからなくなると食事も楽しくありません。集中力や記憶力が低下すると、大学生では試験やレポートで点が取れず進級の危機にもさらされかねません。6ヶ月続く可能性がある後遺症を予防するためにも、ワクチン接種は有効です。

18歳未満の接種による利益とリスク:
米国CDCが若年者のワクチン接種に関して声明を2021年6月23日に出されました。米国ではファイザー社RNAワクチンが1億7千万人に既に接種されていますが、「心筋炎」を起こされた方は約1,000人と報告されています。初発症状は「胸痛」、「息切れ」、「動悸」のようです。頻度は17万人に1人と非常に少ないため「若年者でもワクチンによる利益はリスクを上回る」と判断されています。CDCの「Cases by Age Groups」(2021年6月27日時点)によると、「0~4歳で155人」、「5~17歳で315人」の尊い命が米国では新型コロナウイルスにより奪われているため、科学的に妥当な判断と個人的には思います。一方、厚生労働省の報告によると2021年6月23日時点で、新型コロナウイルス感染による日本での20歳未満の死者は未だ「0人」です。また、重症者も「0人」と報告されています。日本では「基礎疾患の無い18歳未満における、ワクチン接種による利益の推測」は難しそうで、各自の判断が重要かもしれません。

「(32) ウイルスの変異は?」の章の「その他の変異株」への追記
蛋白を構成する「アミノ酸」や、作られた蛋白に付加される「糖鎖」は各々が電荷を帯びていて、磁石の様に引き合ったり、引き離したりを繰り返し新型コロナウイルスが我々の細胞に侵入するために必要な「鍵(スパイク)」の立体構造を作り出します。鍵(スパイク)は「RBD」、「S1」、「S2」の3つの部位により構成されます。しかし、スパイク以外の部位に位置するアミノ酸も重要な役割を担っている事が、クリスタル構造解析と数理解析により2021年6月24日に2つのグループより同時に報告されました(Sophie M-C, Science 2021, 6/24;Cai Y, Science 2021, 6/24)。木を支えるのに「支え棒」が使われるように、鍵とは異なる部位から鍵を支えて正常な形を維持しているイメージかもしれません。この支え方により鍵の型が変形します。鍵穴にピッタリはまる立体構造が維持できれば感染力は強くなり、鍵穴にはまらない形に変形すると感染力は弱くなります。新型コロナウイルスでは、アミノ酸配列で「570番目に位置するアラニン(A570)」、「982番目に位置するセリン(S982)」、「1118番目に位置するアスパラギン酸(D1118)」が鍵の形を安定化(stabilize)させるために重要な役割を担っているようです。一方、鍵の型を安定させるアミノ酸ばかりでなく、「716番目に位置するスレオニン(T716)」のように鍵の型を不安定(distabilize)にする部位もあるようです。つまり、「安定化」と「不安定化」に関わる変異のバランスにより、ウイルスの感染力や毒性は左右されます。これまで世界で検出された変異株のうち、イギリス由来変異株(アルファ株)が最もバランスが取れていると報告されています。

2021年6月21日にペルーで感染拡大を続けている「ラムダ株(C.37)」の全遺伝子配列が報告されました(Wink PL, medRxiv 2021, 6/21)。「L452Q」、「G75V」、「T76I」、「F490S」、「L452Q」、「D614G」、「T859N」など、これまで報告された変異株と同じく10か所以上に遺伝子変異を持つようです。ラムダ株では、452番目のアミノ酸が、他の変異株のようにアルギニン(R)への変異でなくグルタミン(Q)(L452Q)へ変異しているようです。また、246番目から252番目のアミノ酸が欠失していると報告されています。ウイルスは変異する事が特徴のため、季節性インフルエンザのように膨大な種類の変異株が新型コロナウイルスでも次々に出現しています。どのような変異株に対しても、各自の感染対策に変化はなく、日本で現在使用されているワクチンも有効です。よって、新たな変異株の出現で一喜一憂するのでなく、冷静な対応が必要なのかもしれません。WHOが新型コロナウイルス変異株を「Variants of Interests(注意が必要な変異株)」と「Variants of Concerns(警戒が必要な変異株)」に分類されているので2021年6月28日時点の分類を整理してみました。

「(33) 変異したウイルスに対するワクチン効果と各自の対策は?」の章の「イギリス由来変異株「N501Y」(WHOがアルファ株と命名)」への追記
デンマークから50,958人の新型コロナウイルス感染者を対象とした「アルファ株」感染の特徴が2021年6月22日に報告されました(Bager P, Lancet Infectious Disease 2021, 6/22)。他の変異株に対して、「アルファ株」では60歳以上の感染者割合が22.9%から11.3%に低下したようです。ウイルス自体の影響より、高齢者に焦点をあてた感染予防対策が功を奏した可能性が報告されています。一方、「0歳から29歳」の感染者割合は、「アルファ株」と他の変異株で差はないようです。

「南アフリカ由来変異株「E484K + N501Y + D614G」(WHOがベータ株と命名)」への追記
アカゲザルを用いた実験で、アストラゼネカ社DNAワクチンが「ベータ株」に対して交叉免疫により強力なT細胞部隊が誘導できる可能性が2021年6月23日に報告されました(Yu J, Nature 2021, 6/23)。つまり、アストラゼネカ社DNAワクチンはベータ株に対する感染予防効果は低下しても、重症化予防には充分貢献できることを意味します。

「(39) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(全てが諸刃の剣)?」の章の「オリンピック」への追記
NHKの新型コロナウイルス特設サイトによると、2021年6月26日時点で、佐賀県の72.3%を筆頭に殆どの都道府県では65歳以上の高齢者の50%以上に1回目のワクチン接種は終了しています。人口の多い東京都でも55.7%です。また、日本で感染拡大を始めた「デルタ株」に対してもワクチンの重症化予防効果は明らかです。また、日本集中治療学会のホームページによると、日本で新型コロナウイルス感染者用に使用可能な人工呼吸器装着数は2021年5月27日時点で1,969に達しています。これまで人工呼吸器が必要な患者さんが最大に達したのは2021年5月14日の760人で、6月27日時点では381人です。オリンピックを前に、医療体制は整いつつ、重症化患者さんの減少も期待できるのかもしれません。季節性インフルエンザでは毎年1,000万人の方が日本で感染され、3,000人以上が亡くなられています。ワクチンのおかげで、日本における新型コロナウイルスも、季節性インフルエンザのように「感染者は多くても、死者は限定的で医療崩壊は起こさない」感染症になろうとしているのかもしれません。つまり、今後は「感染者数ではなく、重症者数が重要な指標」になると個人的には思います。

「(42) 季節性インフルエンザやその他の感染症との違いは?」の章への追記
感染症にかかると免疫軍が消費され、一時的な免疫低下が起こります。良い例が「熱の花」として知られる「単純ヘルペス感染症」です。単純ヘルペスは免疫力が維持されている時は、免疫軍が攻撃を仕掛ける事が出来ない「神経節」に潜みます。季節性インフルエンザなどに感染して免疫軍が消費され免疫力が低下すると、単純ヘルペスウイルスは神経叢から出てきて我々の細胞に攻撃を仕掛け、口の周りに痛みを伴う小さな水疱が多数出現します。しかし、免疫力が回復すると、ウイルスは即座に神経節に退却して再び免疫力が低下する機会を待ちます。また、感染症が長く続いても免疫力が低下して「日和見感染」を起こします。「日和見感染」とは、健常人に対しては病原性を発揮できない弱い微生物が、免疫力の低下に伴い突然狂暴化する状態です。季節性インフルエンザ感染で重症化した感染者の19%には「アスペルギルス」と呼ばれるカビの日和見感染を認めます(Rijnaders BJ, Clinical Infectious Disese 2020, p1764)。この2次感染が死亡率の増加を招いてしまいます。新型コロナウイルス感染で亡くなられた677人の剖検(死体の病理解剖)の結果では、アスペルギルスなどの日和見感染は2%の方にしか認められないと2021年6月23日に報告されました(Kula BE, Lancet Microbe 2021, 6/23)。「免疫力低下」と「2次感染」が重症化につながる季節性インフルエンザと異なり、新型コロナウイルス感染による重症化の主原因は「それ以外」つまり「血栓症」と考えてよいのかもしれません。

 

[71版への追記箇所]
「(26) 集団免疫は?」の章への追記
イスラエルからファイザー社RNAワクチン接種後の集団免疫に関する調査結果が2021年6月10日に報告されました(Milman O, Nat Med 2021, 6/10)。66歳以上の高齢者に高いワクチン接種率が達成された地域では、高齢者の接種終了後「28日目」から、接種を受けていない16歳から50歳においても感染者数が減少したようです。日本でも2021年6月17日時点で多くの高齢者が接種を終了した都道府県もあり、若年者の感染者も減少する事を願っています。

「(28) 世界のワクチン効果の現状は?」の章への追記
モデルナ社RNAワクチン接種後の長期間調査結果が2021年6月10日に報告されました(Doria-Rose N, New England J Medicine 2021 6/19)。接種後209日目でも充分な中和抗体が維持できるようです。中和抗体の幾何平均抗体価(genometric mean titer, GMT)の平均値は、18歳から55歳で「92,451」、56歳から70歳で「62,424」、71歳以上で「49,373」と報告されています。加齢に伴い中和抗体量も減少します。しかし、ご安心下さい。GMTが僅か「406」でも、新型コロナウイルスの感染が半分に抑えられる事が生体外の実験で示されています。71歳以上のGMT「49,373」でも100倍以上の値であり、充分に感染が抑制できることを教えてくれています。

新型コロナウイルス変異株の再感染予防に関するアストラゼネカ社DNAワクチンとファイザー社RNAワクチンの383,812人を対象とした調査結果が2021年6月9日にイギリスから報告されました(Pitchard E, Nat Med 2021, 6/9)。イギリスではワクチン接種は「80歳以上の高齢者、医療従事者、介護職員」に最初に、次に「70~79歳の高齢者」の優先順位で行われたようです。2021年4月14日時点で、18歳以上の国民の62%に少なくとも1回のワクチン接種が終了しています。PCR陽性で判定した1回目接種後21日目の感染予防効果は、アストラゼネカ社DNAワクチンで61%、ファイザー社RNAワクチンで66%と報告されています。2回目接種後の感染予防効果は、アストラゼネカ社DNAワクチンで79%、ファイザー社RNAワクチンで80%のようです。「CT値30」を基準値に用いたため、殆どの再感染者(再陽性者)は無症状か軽症で、ウイルス排出量も減少していたようです。「CT値30」は、検体中のウイルス核酸を「2の30乗」倍すなわち人工的に10億倍以上増やしてしてから基準値に達しているかを判断します。よって、PCR陽性であっても、「症状が無く」さらに「ヒトに感染させるほどのウイルス量を排出していない方」を「感染者」と考えるのは合理的でないため、感度の低い「CT値25」での評価も行われています。「CT値25」はウイルス核酸を「2の25乗」倍すなわち3,000万倍以上増やして判断するため、「CT値30」に比べて32倍感度が低くなります。「CT値25」を用いると、1回目接種後21日目でさえ感染予防効果は75%まで達するようです。この結果は、「アストラゼネカ社DNAワクチンとファイザー社RNAワクチンどちらも変異株の感染予防に有効であること」さらに「CT値30での陽性者を全て再感染者と考えるには医学的に問題がある可能性」を教えてくれているのかもしれません。

「(29) ワクチン接種回数は?」の章の「1回接種と2回接種の比較」への追記
臓器移植を受けられた患者さんは、免疫軍による拒絶反応を予防するため強力な免疫抑制治療が行われています。よってファイザー社のRNAワクチンにさえ反応が弱く、2回接種しても中和抗体ができる方は54%と少ないようです。しかし3回目を投与すると、2回目で中和抗体ができなかった24人のうち、8人に中和抗体ができたと2021年6月14日に報告されました(Couzin-Frankel, Science 2021, 6/14)。臓器移植のみでなく、自己免疫疾患などのため強力な免疫抑制剤で治療中の方も多くいらっしゃいます。この様な患者さんは新型コロナウイルス感染による重症化のリスクも高いため、ワクチンの3回打ちも一考かもしれません。

470万人のワクチン接種者を対象とした調査結果が2021年6月14日に報告されました(Kustin T, Nat Med 2021, 6/14)。813人にワクチン接種後に変異株の陽性結果がPCRででています。再感染を起こされた方の内、87.6%はイギリス由来変異株(B.1.1.7)、1.6%は南アフリカ由来変異株(B.1.351)と報告されています。再感染が認められる期間は、イギリス由来変異株では2回目接種から14日以内、南アフリカ由来変異株では2回目接種後6日以内と報告されたいます。変異株に対しても十分な免疫を持つためには2回接種が必要なようです。事実、米国バイデン大統領も「インド由来変異株などの予防のため、ワクチンは必ず2回接種するように」と2021年6月19日に呼びかけられています。

新型コロナウイルス感染歴のある方のワクチン効果の調査結果が2021年6月14日に報告されました(Wang Z, Nature 2021, 6/14)。63人の新型コロナウイルス感染者のうち、41%はファイザー社のRNAワクチン接種を受けられていたようです。過去に感染しワクチン接種を受けられていなかった方の中和抗体は6~12か月間検出可能と報告されています。一方、過去に感染しワクチン接種を受けられた方では「より多くの量の抗体が維持される」ばかりか「変異株に対しても充分な効果が獲得できる」ようです。変異株対策のためには、新型コロナウイルス感染の経験がある方もワクチン接種を受けられた方が無難かもしれません。

「(30) ワクチンの副反応とアナフィラキシーは?」の章の「DNAワクチンによる血栓症の可能性」への追記
アストラゼネカ社のDNAワクチン接種後の血栓症に関する調査結果がイギリスから2021年6月10日に報告されました(Scully M, New England J Medicine 2021, 6/10)。23人がアストラゼネカ社のDNAワクチンを1回目接種後6日目から24日目に発症されています。22人は「血栓症」を、1人は「出血」を起こされています。年齢は21歳から77歳で、14名は女性です。13人に「脳梗塞」が、4人に「肺塞栓」が、2人に「肝臓の門脈塞栓」が認められています。死亡率は30%と報告されています。発症者のD-ダイマー平均値は「31,301 FEU」と非常に高値となるようです。また、22名はPF4に対する抗体が陽性と報告されています。

アストラゼネカ社のDNAワクチン接種後の血栓症に対する治療の可能性が2021年6月9日にカナダから報告されました(Bourguignon A, New England J Medicine 2021, 6/9)。アストラゼネカ社のDNAワクチン接種後に「副腎動脈塞栓を発症した72歳女性」、「肺塞栓と左足血栓を発症した63歳男性」、「肺塞栓・脳塞栓・肝静脈塞栓を発症した69歳男性」に対して、血小板減少性紫斑病や重症筋無力症の治療に用いられている「経静脈的免疫グロブリン療法(IVIG)」、「血栓除去療法」、「血を固まらなくするための抗凝固療法」が併用して行われています。皆さん命の危機から脱せられたようです。

「(31) ワクチン接種の判断は?」の章への追記
ワクチンに限らず、全ての薬に副作用は起こります。また、RNAワクチンは初めて用いられているため、現在の世界の状況から「重篤な副作用は稀」とは言えても、「100%安全」とは誰も言えないと思います。しかし、少なくとも60%以上の国民がワクチン接種を受けなければ、今と同じ状態が繰り返され国家の財政破綻につながります。よって、「接種による利益はリスクを上回る」と言うのが各国のワクチン承認の判断です。つまり、ワクチンを接種するか否かの判断は、「自分自身の新型コロナウイルスに対する重症化リスク」、「職場や家庭でうつしてしまう可能性のある方の重症化リスク」、「ワクチン接種による自分自身のリスク」を総合的に考えたうえでの各自の判断になります。よって、判断の参考になるかもしれない情報を以下に示します。

50歳以上: 2021年6月8日発表の厚生労働省の国内発生状況によると、新型コロナウイルス感染による死亡率は50歳代で0.269%、60歳代で1.29%、70歳代で4.77%、80歳代で13.1%です。季節性インフルエンザより死亡率が高くなる50歳以上では、「接種による利益はリスクを大きく上回る」と考えて良いと思います。また、加齢に伴いワクチンの副反応も弱くなるため、「ワクチンを接種しない理由は無い」のかもしれません。

20歳から50歳未満: 20歳から50歳未満の方で肥満や基礎疾患がない方では新型コロナウイルス感染の重症化リスクが低いため、ワクチンによる自分自身の利益は少ないかもしれません。一方、20歳から50歳未満の方は、暴走しにくいように教育されたしっかりした免疫力を持たれます。つまり、ワクチンに対しても想定通りに免疫軍が反応するため重篤な副反応は考えにくく、ワクチンによるリスクも低いと思われます。一方、活動性の高い年齢層であるため、他人にうつしてしまう可能性が非常に高くなります。日本に集団免疫を獲得させ日常の生活を取り戻すためには、60%以上の国民にワクチン接種を行う必要があります。ワクチン接種によるメリットは低いけれども、リスクも低い20歳から50歳未満の方には「日常生活を早期に取り戻すため」さらには「日本の未来のため」に「おもいやりのワクチン接種」を心よりお願いいたします。

また、ワクチン接種による将来的なメリットもあります。免疫軍は訓練をすればするほど成長して、どのような敵の変化にも対処できるようになります。よって、ワクチンによる実践訓練を2回行えば、どのような敵(変異株)に対しても重症化から我々を守ってくれます。よって、今後ワクチン効果が減弱する変異株が出現した場合、最も重大な問題に直面する人達は「ワクチン未接種者」の可能性が2021年6月14日に報告されています(Kustin T, Nat Med 2021, 6/14)。事実、イギリスでは2021年6月19日時点で、「デルタ株」の感染により806人が入院中です。722人はワクチン接種を受けていないか、1度しか受けなかった方です。また、これまでの感染様式と異なり、デルタ株感染の60%は家庭内感染で、ワクチン接種を受けなかった家庭がデルタ株感染のホットスポットとなっているのかもしれません。

ワクチンパスポートを入国時に義務化する国も想定されるため、海外旅行、海外出張、海外留学などを考えられている方には、ワクチン接種は大きなメリットになるかもしれません。

20歳未満の接種による利益とリスク: 20歳未満の新型コロナウイルス感染による日本での死者数は未だ「0」(2021年6月17日時点)で、ワクチン接種による利益は余りないのかもしれません。一方、15歳未満ではワクチン接種による一般的な副反応も強く、「リンパ節腫脹」など成人では認められない副反応も起こるようです(Frenck RW, New England J Medicine 2021, 5/27)。また、免疫力は強いけれでも、免疫軍の病原体との実戦経験が少ないため、小児ではワクチン接種により「病原体」のみでなく「自分自身の細胞」にも攻撃を仕掛けることが稀にあります。例えば、麻疹(はしか)のワクチン接種後に血小板減少性紫斑病を起こす場合や、水痘(水ぼうそう)のワクチン接種後に心筋炎を起こすこともあります。ファイザー社のRNAワクチン接種後に若年男性が「心筋炎」を発症した症例も、頻度は高くありませんが最近報告され始めています(Marshall M, Pediatrics 2021, 6/4: Mouch SA, Vaccine 2021, 5/28)。ファイザー社のRNAワクチン接種後に、胸痛や発熱を起こし「心筋炎」と診断された方は16歳、19歳、17歳、18歳、17歳、16歳、14歳、16歳、17歳、20歳、21歳、29歳、45歳で、20歳未満に集中しています。また、全員が「男性」です。ほとんどの方は2回目接種後24時間から72時間で発症されていますが、1回目接種後16日目に発症された方もいらっしゃるようです。皆さん比較的軽症で、非ステロイド性抗炎症薬、コルヒチン、IVIGなどの治療により4日から8日で退院されています。

「RNAワクチンは、自分の遺伝子(DNA)に取り込まれないか?」との質問をよく頂きます。理論上は取り込まれません。しかし、生体の反応は未知な面も多く複雑なため「絶対に取り込まれない」と言い切れる科学者は少ないのかもしれません。万が一取り込まれる可能性が稀にでもあるとすれば、我々の遺伝子はDNAのため、DNAワクチンの方がRNAワクチンよりリスクは高いと考えるのが妥当と思います。また、遺伝子が取り込まれる状態は、「細胞が分裂」すなわち「細胞が増えている」時です。勿論、細胞分裂は「成長期」に多いため、子供ほどRNAワクチンに対する「未知のリスク」は高くなるのかもしれません。

「(32) ウイルスの変異は?」の章の「N501Y変異株(イギリス由来)」への追記
新型コロナウイルスの起源がコウモリ由来のウイルスである根拠が2021年6月9日に報告されました(Zhou H, Cell 2021, 6/9)。2019年5月から11月に捕獲されたコウモリ411匹の解析が行われています。24種類のコロナウイルスが検出され、特にコウモリ由来の「Rhinolophus Pusillus virus (RpYN06)」と呼ばれるウイルスは、新型コロナウイルスと非常に類似性があるようです。また、RpYN06ウイルスは中国南部、南ラオス、ベトナムのコウモリに検出できると報告されています。

「(32) ウイルスの変異は?」の章の「その他の変異株:インド由来変異株(WHOがデルタ株と命名)」への追記
2021年6月14日に米国CDCのホームページを見ると、インド由来変異株のうち「B.1.617.2」株(WHOによる新名称はデルタ株)がVariants of Concernsへと警戒レベルが格上げされました。新たに69番目と70番目のアミノ酸が欠失することにより感染性が増した可能性があるのかもしれませ(Sheikh A, Lancet 2021, 6/14)。

[(33) 変異したウイルスに対するワクチン効果と各自の対策は?] インド由来変異株(WHOがデルタ株と命名):
米国CDCは、2021年6月14日にインド由来変異株「B.1.617.2」(WHOによる新名称はデルタ株)の警戒レベルを「Variants of Interests」から「Variants of Concerns」へ格上げされました。また、デルタ株に対する調査結果も2021年6月14日にスコットランドから報告されました(Sheikh A, Lancet 2021, 6/14)。デルタ株は、若者においても入院が必要となる重症化率を「1.85倍増加」させる可能性が報告されています。しかし、肥満や基礎疾患などの重症化要因が無い方では、重症率に変化は与えないようです。重症化要因を多く持つ方は、デルタ株に対して注意が必要かもしれません。

また、スコットランドにおけるワクチンの「デルタ株」に対する予防効果も報告されています(Sheikh A, Lancet 2021, 6/14)。2回接種後14日目の感染予防効果は、ファイザー社のRNAワクチンではイギリス由来変異株(WHOによる新名称はアルファ株)に対して92%、デルタ株に対して79%と報告されています。また、アストラゼネカ社のDNAワクチンではアルファ株に対して73%、デルタ株に対して60%のようです。イギリス公衆衛生庁(Public Health England, PHE)は、デルタ株感染で入院治療が必要となる重症化の予防効果は、ファイザー社RNAワクチン2回接種後で96%、アストラゼネカ社DNAワクチン2回接種後で92%と2021年6月14日に報告されました。また、ワクチン接種後の再感染率は0.4%と2021年6月17日に報告されています。ファイザー社のRNAワクチンはデルタ株に対しても充分な感染予防と重症化予防効果を発揮してくれるようで「ひと安心」です。また、ファイザー社RNAワクチンはデルタ株に対して有効である事が生体外の実験でも2021年6月10日に報告されました(Liu J, Nature 2021, 6/10)。

イギリス公衆衛生庁(PHE)の2021年6月19日の報告では、イギリスで検出される新型コロナウイルスの99.9%は「デルタ株」のようです。60%の感染は「家庭内感染」と報告されています。高齢者施設などでは多くの方が、2回のワクチン接種をすでに終了されています。よって、これまでの感染様式と異なり、ワクチン接種を受けられなかった家庭がデルタ株感染のホットスポットとなっているのかもしれません。また、PHEは「判断は時期尚早であるが、デルタ株による死亡率はアルファ株より低い」可能性を報告されています。

スコットランドでは2021年6月1日時点で65歳の高齢者の88.8%にワクチンの2回目接種が終了しています。「アルファ株」が流行した2020年10月28日時点の一日あたりの感染者数は1,357人で、「デルタ株」が流行している2021年6月16日時点は950人と再度増加を認めています。しかし、死者数は2020年10月28日が34人/日に対し、現在は毎日1人と完全にデルタ株感染による死者数を抑え込んでいます。また、イギリスでも、「アルファ株」が流行した2021年1月7日時点の感染者数は57,234人/日で、「デルタ株」が流行傾向を示している2021年6月16日時点は7,723人と増加の兆しを認めています。しかし、2021年1月時点の死者数のピークは1,228人/日(1月27日)に対して、6月16日時点の死者数のピークは9人とデルタ株感染による死者数が完全に抑え込めています。やはり、ファイザー社のRNAワクチン接種が高齢者に進めば、「デルタ株の流行で感染者が増えたとしても、重症化する方は少なく医療崩壊を招く可能性がほぼなくなる」事を教えてくれているのかもしれません。

NHKの新型コロナウイルス特設サイトによると2021年6月19日時点の65歳以上の高齢者で1回以上ワクチン接種を受けられている方が50%を超える都道府県は、佐賀県の61.8%を筆頭に岐阜、石川、岡山、愛知、和歌山、鳥取、山形、山口、宮崎、福井、高知の12県もあります。東京都も46.2%に達しています。高齢者の接種率が最も低いのは北海道の30.9%です。地域別で見て接種率が最も低いのは、関東甲信越では栃木県の33.8%、東海北陸では静岡県の36.9%、近畿では兵庫県の37.4%、中国では広島県の39.9%、四国では愛媛県の39.4%、九州沖縄では沖縄県の37.7%です。接種率が低くても全都道府県で30%を既に超えています。高齢者の接種が進めば、感染者が増えても重症者が増えない事はイギリスとスコットランドが教えてくれています。今後は、「感染者数」で右往左往するのでなく、「重症者数」を主体に公的対策を判断するフェーズに入ったのかもしれません。

「(38) お腹の免疫から考える新型コロナウイルス対策は?」の章への追記
「老化した細胞」が新型コロナウイルス感染による炎症を助長している可能性が2021年6月8日に報告されました(Camell CD, Science 2021, 6/8)。新型コロナウイルスが持つ「spike protein 1」と呼ばれる物質に老化細胞が過剰に反応してしまうようです。これにより、近くにある若い細胞に混乱を招き、ウイルスを攻撃する物質を放出できなくすると共に、ウイルスの侵入を手助けする物質も放出させてしまうようです。老化予防に効果がある可能性がこれまでに報告されている「フィセチン」の経口投与(20mg/体重kg)が、新型コロナウイルスの重症化予防に貢献できる可能性がマウスを用いた実験で示されています。フィセチンを多く含む食品はイチゴ(16mg/100g)です。この報告が正しければ、イチゴは重症化予防に少しは貢献してくれるかもしれません?

「(39) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(全てが諸刃の剣)?」の章の「オリンピック」への追記
オリンピック開催に伴い感染拡大が懸念されている変異株は、インド由来変異株「B.1.617.2」(WHOによる新名称はデルタ株)です。インドでは、これまで爆発的な流行が2回起こっています。第1波は2020年9月12日頃で1週間平均の感染者数は91,506人です。第2波はデルタ株が流行した2021年5月9日頃で1週間の平均感染者数は391,008人と1回目の4倍以上増えています。しかし、デルタ株がインドのような感染爆発をオリンピックを契機に日本で起こす可能性は非常に低いと思います。何故なら、インドでの感染爆発の原因は「ホーリー祭」です。ホーリー祭はヒンズー教のお祭りでインド3大祭りの一つです。世界一過激な祭りとも言われているため、2021年のホーリー祭の様子を検索してみました。マスク無しで人々が密集され、カラフルな色素パウダーや溶液を身体中に塗り合われています。「2021ホーリー」で検索するとYouTube等種々の媒体でホーリー祭を見られますので、一度閲覧される事をお勧めします。この様な「マスク無し」、「人々の密着」、「顔を含めた身体への接触」などがオリンピック会場で起こるとは考えにくいのかもしれません。また、65歳以上の高齢者の8割以上にアストラゼネカ社のDNAワクチンまたはファイザー社のRNAワクチン接種が終了しているスコットランドやイギリスでは、デルタ株による感染者数は増加傾向を示しています。しかし、死者数は抑え込まれています(33:変異したウイルスに対するワクチン効果と各自の対策は?の章のインド由来変異株をご参照下さい)。日本でも高齢者に対するワクチン接種が進んでいます。「デルタ株」の感染拡大を起こしたとしても、医療崩壊につながるような重症者数には達しないと考えるのが妥当かもしれません。

「(42) 季節性インフルエンザやその他の感染症との違いは?」の章への追記
新型コロナウイルス流行に伴う都市封鎖で人流が抑制され、多くの感染症が減少しています。この人流抑制が緩和された後に最初に感染者が増加する病原体は、鼻風邪ウイルスとして知られる「ライノウイルス」の可能性がドイツから2021年6月7日に報告されました(Oh DY, Lancet Regional Health 2021, 6/7)。

「(44) 重症化しやすい基礎疾患は?」の章の「高血圧」への追記
新型コロナウイルスに感染した平均年齢75歳の高齢者204人に対して、100人に「アンギオテンシン変換酵素阻害剤」や「アンギオテンシン受容体拮抗剤」の服用が継続され、104人には服用が中止された臨床試験結果が2021年6月11日に報告されました(Bauer A, Lancet Respiratory Medicine 2021, 6/11)。感染30日目の死亡率は「薬剤投与継続者」で12%(12人/100人)、「薬剤投与中止者」で7.7%(8人/104人)で統計学的な有意差は認めなかったと報告されています。一方、「薬剤投与中止」で多臓器不全の抑制や早期回復を導ける可能性も報告されています。

「(48) 治療法は?」の章の「ステロイド」への追記
新型コロナウイルスに感染された関節リウマチ患者さん8,297人の調査結果が2021年6月18日に韓国から報告されました(Shin YH, Lancet Rheumatology 2021, 6/18)。関節リウマチ患者さんでは、感染率が1.19倍、重症化率は1.26倍、死亡率が1.69倍増えると報告されています。また、1日あたり「10mg以上のステロイド」を服用されている患者さんでは、感染率が1.47倍、重症化率は1.76倍、死亡率が3.34倍も増えるようです。強いステロイド治療を受けられている方は注意が必要なようです。

 

[70版への追記箇所]
「(19) 再感染は?」の章の「交叉免疫」への追記
南アフリカより新型コロナウイルス変異株に対する「交叉免疫」の可能性が2021年6月3日に報告されました(Moyo-Guete T, New England J Medicine 2021, 6/3)。南アフリカ・ケープコッドの2000年12月31日から2021年1月15日の調査では、90%以上の感染者に南アフリカ由来変異株(B.1.351)が検出されたようです。南アフリカ由来変異株の感染者の血清を調べると、ブラジル・アマゾン由来変異株(P.1)に対しても幾何平均抗体価(genometric mean titer, GMT)が203と充分な効果を有する中和抗体を持たれていると報告されています。南アフリカ由来変異株(B.1.351)とブラジル・アマゾン由来変異株(P.1)では13か所以上もアミノ酸配列が異なるため、交叉免疫がしっかりと機能している科学的根拠なのかもしれません。

「(28) 世界のワクチン効果の現状は?」への追記
イスラエルからワクチン接種状況が2021年6月4日に報告されました(Muhsen K, Lancet Regional Health 2021, 6/4)。2020年3月から2021年2月までのイスラエルでの新型コロナウイルスの累積感染者数は774,030人で、人口1,000人あたり84.5人が感染したと報告されています。また、累積死亡者数は5,687人で人口1,000人あたり0.62人です。現時点では、65歳以上の75%にワクチン接種が終了し、1週間平均感染者数は2021年1月18日時点の「8,168人」から6月4日には「15人」と劇的に減少しています。しかし、ワクチン接種に課題も残るようです。感染蔓延期に、最も感染者数を多く出し感染対策がうまくいっていなかった地域では、ワクチン接種率も何故か低いようです。

「(30) ワクチンの副反応とアナフィラキシーは?」の章の「DNAワクチンによる血栓症の可能性」への追記
アストラゼネカ社のDNAワクチン接種後に血栓症を起こした患者さん全てに、PF4/ヘパリン複合体に対する抗体が陽性であった結果が2021年6月3日にドイツとオーストラリアから報告されました(Greinacher A, New England J Medicine 2021, 6/3)。接種後5~16日目に22歳から49歳の11人が血栓症を発症されています。9人は女性で、体内の数か所に血栓が起こったようです。脳血栓が9名、肺血栓が3名、腹腔内静脈血栓が3名に認められています。ヘパリン投与歴が無いにも関わらず、全員にPF4/ヘパリン複合体に対する抗体が陽性であったと報告されています。また、ノルウェーからもアストラゼネカ社DNAワクチン接種後の血栓症が2021年6月3日に報告されました(Shultz NH, New England J Medicine 2021, 6/3)。接種後7~10日目に32歳から52歳の5人に血栓症が発症しています。女性は4名です。PF4/ポリアニオン複合体に対する抗体が全員に陽性と報告されています。

「(31) ウイルスの変異は?」の章の「N501Y」変異株(イギリス由来)」への追記
新型コロナウイルスの感染力増強に501番目のアミノ酸が重要な役割を担う事が2021年6月7日にもスペインから報告されました(Hodcroft EB, Nature 2021, 6/7)。スペインでは2020年夏に爆発的な感染拡大を認めています。最初にスペインに入ってきたのは「EU1」と呼ばれる新型コロナウイルスで、「D614G」変異が加わる事により少し感染力が増し、さらに「N501Y」変異が加わり感染力は大幅に増強したようです。

「(38) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(全てが諸刃の剣)?」の章の「公共対策」への追記
エボラ出血熱や2002年に中国で発生した重症呼吸器症候群は病原性が高く、感染者が出歩く事が難しいため封じ込めは可能でした。また、2009年にパンデミックを起こした豚インフルエンザ(H1N1)は感染力は強くても病原性が弱いため、事なきを得ました。しかし、新型コロナウイルスは、免疫学的には弱いウイルスであるがため無症状者が多く感染拡大を起こし易いうえ、血栓症という致死的なテロ行為を起し高齢者の死亡者を増やしてしまいます。これまで人類が経験したことがないウイルスと考えてよいのかもしれません。よって、各国の感染対策専門家チームも経験がなく、新型コロナウイルスの感染抑制は困難を極めています。この様な新たなウイルスに対応するには、政府や感染対策専門家からの「top-down」による対策に加えて、各個人・各自治体が知恵を絞り現場に則した「bottom-up」対策の有効性が2021年6月4日に報告されました(Chan EYY, Lancet 2021, 6/4)。事実、日本でも「黙食」という対策が飲食店からもたらされ、「山梨モデル」と呼ばれる飲食店の感染予防対策、「和歌山モデル」や「練馬モデル」と呼ばれる効率的なワクチン接種法などが自治体独自で作り出されています。各個人、各自治体に則した臨機応変な「bottom-up」対策こそが、新型コロナウイルスに対しては効果的かもしれません。

「(38) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(全てが諸刃の剣)?」の章の「オリンピック」への追記
新型コロナウイルス感染による日本での死亡率は2021年6月2日の厚生労働省の報告から計算すると、40歳未満で0.0091%(32人÷351,800人)に対して60歳以上では6.12%(10,525人÷171,890人)であり、40歳未満と60歳以上では約672倍も差があります。世界各国も高齢者に重症者、死者が集中する同様の結果を示しています。よって欧米でワクチン接種が開始される時、数理モデルにより「早期に集団免疫を獲得させ感染者を減らすには、若年者からの接種」、一方「早期に重症者を減らすためには高齢者からの接種」が有効な事が示されています(Matrajt L, Science 2021, 2/3)。重症者の増加に伴う医療逼迫が一番の問題のため、日本を含む多くの国は「早期の集団免疫獲得より、早期の重症者減少」を目的に「高齢者の優先接種」に舵を切られたと個人的には理解しています。そして、高齢者優先接種が非常に効率的であった事を世界の結果が今教えてくれていると思います。

ワクチン接種は、人口の多い都市部より、例外はありますが、人口の少ない地方自治体のほうが進んでいます。各種報道によると、2021年6月8日時点、人口が多い東京都でさえ65歳以上の高齢者のワクチン接種率は20%を超えています。このペースで行けば今月末には高齢者の接種率は50%以上が期待できるのかもしれません。つまり、オリンピック開幕時には「第2のゴール」である集団免疫獲得は難しい状況ですが、「第1のゴール」である「医療逼迫を起こすような重症者の増加は起こさない」は達成できると考えるのが科学的には妥当と個人的に思います。また、オリンピックは真夏にあるため、冬場や春先のような感染が起こりやすい状態では無いのかもしれません。

「(39) 高齢者保護とFocused Protectionは?」の章の「高齢者保護」への追記
世界的にみて、新型コロナウイルス感染による死亡者の40%以上は高齢者施設の入居者である事が2021年6月1日に報告されました(Andrew MS, Lancet Health Longevity 2021, 6/1)。「高齢者の免疫力低下と血栓症の起こり易い健康状態」、「共用スペースが多い施設の構造」、「職員の過剰労働」などの要因が重なる事により、他の感染症では見られないような高齢者施設での死者の集中が起こっている可能性があるようです。

「(41) 季節性インフルエンザやその他の感染症との違いは?」への追記
新型コロナウイルス感染で入院治療が必要になった平均年齢74歳の1,080人を対象とした細菌学的調査結果が2021年6月2日に報告されました(Russell CD, Lancet Microbe 2021, 6/2)。季節性インフルエンザ感染で入院される高齢者は「細菌との同時感染(co-infection)」が特徴なのに対して、新型コロナウイルス感染ではウイルスの感染後2日以降に起こる「細菌の2次感染(secondary infection)」が特徴と報告されています。また、季節性インフルエンザでは同時に感染する細菌肺炎により致死的重症化を起こしてしまいますが、新型コロナウイルス感染では細菌感染の有無により死亡率に変化はないと報告されています。感染しやすい細菌の種類も少し異なるようです。季節性インフルエンザ感染では肺炎球菌や黄色ブドウ球菌が多いのに対して、新型コロナウイルス感染者の肺から検出された細菌の17.8%が黄色ブドウ球菌、12.7%がインフルエンザ桿菌、9.3%が緑膿菌と報告されています。

「(47) 治療法は?」の章の「抗ウイルス薬」への追記
我々の細胞は「鉄・硫黄中心(ion-sulfur)」と呼ばれる呼吸鎖を持ち生命維持に重要な役割を担っています。新型コロナウイルスは鉄・硫黄中心を利用して増殖している可能性が2021年6月3日に報告されました(Maio N, Science 2021, 6/3)。「TEMPOL」と呼ばれる安定ニトロキシドにより鉄・硫黄中心を酸化すれば、新型コロナウイルスが鉄・硫黄中心を利用できなくなり、増殖が抑制できる可能性が報告されています。
「(47) 治療法は?」の章の「血栓治療薬」への追記
免疫が弱いと感染症による重症化の危険が高まるいっぽう、強すぎると自己免疫疾患やアレルギーなどを起こしてしまいます。また、強力な人流抑制は新型コロナウイルスの感染抑制には効果を発揮しますが、計り知れない経済的損失、失業者や自殺者の増加、ひいては犯罪の増加といったリスクを伴います。つまり、全てに完璧は無く「利益とリスクを理解したうえでのバランスが重要」となります。同様な事が、血栓症の治療に対しても起こる可能性が2021年6月4日にブラジルから報告されました(Lope RD, Lancet 2021, 6/4)。血が固まり易くなると血栓症が起こり、固まりにくくしすぎると今度は出血が起こり易くなるようです。新型コロナウイルス感染で入院されD-ダイマーが正常値を超えていた患者さんを2群に分け、304人に血栓予防のための治療が、残りの311人には積極的な血栓治療が施されています。予防的治療としては、84.2%の感染者には低分子のヘパリンを精製した「エノキサパリン」と呼ばれる薬40㎎(BMIが40以下の場合)が1日1回皮下投与され、15.5%の感染者にはヘパリン5000Uが8~12時間毎に皮下投与されています。一方、積極的治療として、90.3%の感染者に血小板第X因子を阻害する「リバーロキサハシ」と呼ばれる薬15~20mgが毎日経口投与され、9.4%の感染者には「エノキサパリン」が体重1キロあたり1mgの量が1日2回皮下投与されています。予防的投与と治療的投与で重症化率や入院期間に統計学的有意差は認めなかったと報告されています。一方、脳出血などの出血を伴う副作用を起こしてしまった患者さんは、治療的投与群で12%、予防的投与群では3%と報告されています。やはり、新型コロナウイルスに合併する血栓症の治療においても血栓と出血のバランスを考慮する必要があるのかもしれません。また、今回の調査対象となった、入院患者さんの平均年齢は49~50歳で、BMIの平均は30.3です。ブラジルで入院治療が必要となった多くの感染者は肥満のようです。肥満人口が多い国では、新型コロナウイルス感染による重症化率や死亡率も高くなるのかもしれません。

「(47) 治療法は?」の章の「新薬」への追記
医学の進歩は目覚ましく、変異株に対する新治療戦略の候補が2つ報告されました。1つ目は「ラクダ」から採取した、新型コロナウイルスに対する「ナノボディー」(別名、variable heavy chain domains of a heavy chain, VHH)と呼ばれる抗体です(Xu J, Nature 2021, 6/7)。我々のIgGは分子量が~50kDaに対して、ナノボディーは~15kDaと三分の一以上小さいのが特徴です。ウイルス表面は複雑な構造で、ヒトのIgGは大きいためウイルスの細胞表面の先端にしか引っ付けません。そして、このウイルス先端部が変異の最も起こり易い領域です。よって、治療目的で用いられる中和抗体(IgG)製剤がウイルスの変異により効力を失う場合があります。この問題を克服してくれる可能性を秘めたのがナノボディーです。小さいため、細胞表面の先端部から、より深部に入りこむことができます。この深部では変異が稀にしか起こらないため、いくら細胞表面先端部が変異しても充分に効果を発揮してくれる可能性を秘めています。

もう1つはIgGとIgMを組み合わせた「IgM-14」と呼ばれる抗体です(Ku Z, Nature 2021, 6/3)。IgMは5量体と呼ばれ、J鎖と呼ばれる鎖でIgG構造が5つ繋がれたものです。1つのIgGは1つの標的しか認識しません。我々の体が持つIgMも、同じ標的を認識するIgG構造が5つ繋がれているため標的は1つです。「IgM-14」は遺伝子組み換え技術により、異なった標的を認識する5種類のIgGを繋ぎ合わせてIgMを人工的に作り出しています。つまり、5つの標的を狙えるIgMになります。例えば、イギリス由来変異株特異的IgG、インド由来変異株特異的IgG、南アフリカ由来変異株特異的IgG、アマゾン由来変異株特異的IgG、カリフォルニア由来変異株特異的IgGを繋げれば、これらの変異株全てに対応できるIgMができあがります。マウスを用いた実験で、IgM-14を点鼻薬のように投与すれば、これらの変異株の感染が予防できる可能性も示されています。

 

[69版への追記箇所]
「(7) 新生児、小児、学生は?」の章への追記
飛沫中に含まれるイギリス由来変異株(B.1.1.7)のウイルス量に関する大規模調査結果が2021年5月25日にドイツから報告されました(Jones TC, Science 2021, 5/25)。20~65歳に比べて、20歳未満の飛沫に含まれるウイルス量は16%~49%まで、すなわち半分以上少ないと報告されています。また、飛沫に含まれるウイルス量は、20歳以降では年代別な差は認めないようです。「イギリス由来変異株であっても、子供がうつす可能性は低い」事を示す科学的根拠の一つです。また、20歳未満の重症化率も低く、新型コロナウイルス感染拡大が起こってから1年以上が経過しても、日本における新型コロナウイルス感染による20歳未満の死者はいまだ「0」です。

「(13) 抗体の役割は?」の章の「抗体の寿命」への追記
抗体を産生する能力を得たB細胞は形質細胞へと更に成長(分化)していきます。形質細胞には寿命が1年以内の短命な「short-lived plasma cells」と、数十年も生き続ける「long-lived plasma cells」に分類されます。感染者の血液の解析により、新型コロナウイルス感染では短命な「short-lived plasma cells」に成長して行くとの考えが主流でした。しかし、新型コロナウイルス感染による軽症者の骨髄を解析すると、長寿の「long-lived plasma cells」が骨髄に潜んでいることが2021年5月24日に報告されました(Turner JS, Nature 2021, 5/24)。新型コロナウイルス感染で産生された抗体(IgG)は感染後7か月頃から減りはじめ、約11か月で検出可能範囲ギリギリまで減少します。しかし、抗体が無くなっても、新型コロナウイルスが再び感染してくれば、長寿の「long-lived plasma cells」が即座に抗体産生を再開してくれ我々を守ってくれることになります。判断は時期尚早ですが、「新型コロナウイルスに対して終生免疫が獲得できる」可能性や、「新型コロナウイルスが夏風邪程度の風土病になる」可能性も出て来たのかもしれません。

「(28) 世界のワクチン効果の現状は?」への追記
小児に対するファイザー社RNAワクチンの臨床試験結果が2021年5月27日に報告されました(Frenck RW, New England J Medicine 2021, 5/27)。12歳から15歳までの2,260人を対象とされています。2回目接種7日目で感染予防効果は100%と報告されています。副反応も接種部の腫れや痛みが主体のようです。2回目接種後に38℃以上の高熱がでた割合は、「12歳から15歳」で20%、「16歳から25歳」で17%と報告されています。12歳から15歳でワクチン接種を受けた1,131人のうち1人に40℃以上の高熱がでていますが、2日後に解熱したようです。また、12歳から15歳で特徴的な副反応は「リンパ節の腫脹」と報告されています。リンパ節は獲得免疫細胞軍が指示を受ける指令基地です。獲得免疫細胞数が増えれば増えるほど基地も大きくなりリンパ節腫脹につながります。つまり、ワクチン接種により、12歳から15歳では、成人よりはるかに多い獲得免疫兵が、新型コロナウイルスと戦える準備ができた事を教えてくれています。事実、獲得免疫軍のB細胞部隊が作る中和抗体の量は「16歳から25歳」に比べて、「12歳から15歳」では1.76倍も多いと報告されています。

ファイザー社RNAワクチンが誘導する免疫反応の調査結果が2021年5月27日に報告されました(Sahin U, Nature 2021, 5/27)。1回目接種後3週時点で49~1,161 U/mLの中和抗体が産生されると報告されています。個人差は非常にあるようですが、1回目接種後3週目には、感染予防に充分な中和抗体が既にできる方もいらっしゃる事になります。2回目接種後1週目には中和抗体量は、さらに増加して691~8,279 U/mLに、9週目には1,384~29,910 U/mLにまでに達するようです。ファイザー社RNAワクチンは1回で30μgのRNAが接種されていますが、10μgでも同等の中和抗体の産生が誘導できるようです。しかし、30μgを接種した方が抗体が長く維持できると報告されています。T細胞軍は「CD4陽性部隊」と「CD8陽性部隊」が協力して敵を倒します。季節性インフルエンザなどの既存のワクチンに比べて、ファイザー社RNAワクチンは10倍以上も「CD4陽性部隊を強化」できると報告されています。また、CD8陽性部隊に対しては「多様性(poly reactivity)」も誘導できるようです。つまり、CD8陽性部隊が敵の至る所を攻撃できるようになり、敵が変異しても撃退してくれる事を意味します。ファイザー社RNAワクチンは、「中和抗体産生を強く誘導して感染を予防」してくれるばかりでなく、「T細胞免疫も強力に引き出し、変異したウイルスに対しでさえ重症化を予防」してくれるようです。非常に頼もしいかぎりです。

無症状者が多い新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ難しさを世界が教えてくれています。よって、日本の緊急事態宣言は「重症者の数を最低限に抑えて医療崩壊を防ぐ目的」で発出されています。重症化を起こしやすい方は、65歳以上の高齢者です。事実、2021年5月26日の厚生労働省の報告によると、これまでの新型コロナウイルスの累積陽性者数は60歳以上で166,262人で、死者数は10,320人です。一方、20歳代では、陽性者数は157,869人にも関わらず死者数は7人で、季節性インフルエンザより少ない状態です。事実、日本での新型コロナウイルス感染による死亡率は20歳代(7 ÷ 157,869)は0.004%の計算になります。一方、60歳以上の死亡率(10,320 ÷ 166,262)は6.2%で、20歳代に比べて死亡率は1,400倍以上も高くなります。政府が十分量のワクチンを既に確保されたおかげで、新型コロナウイルスのワクチン接種は急速に進み2021年6月2日には1,000万人を超えました。感染蔓延の抑制に必要な集団免疫確保のための6,000万人以上には達していません。しかし、重要な点は、重症化を起こしやすい65歳以上の高齢者3,500万人のうち500万人以上は既にワクチンが接種された事実です。2021年1月初期と同じような感染爆発が起こったとしても、重症者数は2割程度減少する計算になります。緊急事態宣言を発出する原因となった「医療崩壊の危険性」は無くなってきていると個人的には信じています。緊急事態宣言の発令の目安となる「警戒ステージ分類の基準」も、各年齢層のワクチン接種率を参考に見直す時期に入ったのかもしれません。

「(31) ウイルスの変異は?」の章の「その他の変異株」への追記
ブラジル・アマゾン由来変異株(P.1)の発生経路の調査結果が2021年5月25日に報告されました(Naveca FG, Nat Med 2021, 5/25)。アマゾンで2020年3月17日に発見された「B.1.195」と呼ばれる変異株が、2020年5~6月に「B.1.1.28」と呼ばれる変異株に進化し、2020年11月から現在の「P1」変異株に更なる進化を遂げたようです。その後P1変異株は僅か2か月で主流となるほどの急速な速さで蔓延を起こしています。「ヒト・ヒト感染の速さ」が、この様な急速な度重なる変異をもたらした可能性があるようです。何故なら、アマゾン領域でマスクやソーシャルディスタンス等の感染予防対策をとられる方は40%以下のようです。やはり、マスクやソーシャルディスタンス等の感染対策が変異株発生の予防につながるのかもしれません。

アマゾン由来変異株(P.1)は、アマゾンから帰国した日本人旅行者に2021年1月12日にブラジル以外で初めて検出されています。日本の検疫の水際対策で検出し、日本国内での流行を防いだことになります。日本の水際対策もしっかりしている事を示唆する科学的根拠かもしれません。また、変異株の流入を水際対策で完璧に防ぐことは不可能に近い事は世界が既に教えてくれています。例えば、PANGOの2021年6月3日のホームページによると、イギリス由来変異株は完璧な防疫を続けていた台湾を含む135か国に既に蔓延しています。また、アマゾン由来変異株は53か国へ、インド由来変異株は61か国へ、南アフリカ由来変異株は92か国へと広がっているようです。また、2021年6月2日に神戸大学から「日本国内で変異した可能性がある新たな新型コロナウイルス変異株」も報告されました。もし、水際対策で防げても、変異は日本国内でも起こる事を教えてくれています。事実、数限りない種類の新型コロナウイルスの変異株が世界中から報告され続けています。2021年6月3日時点で報告されている変異株の種類にご興味があられる方は、https://cov-lineages.org/lineage_description_list.htmlをご覧ください。また世界中から蓄積された膨大な情報により各アミノ酸変異の特徴も解明され、変異株も未知ではなくなってきました。、「変異株」という言葉で過剰に反応することなく、科学的根拠にもとずいた冷静な対応・対策が必要なのかもしれません。

「(34) マスク文化は?」の章の「マスクの着用法」への追記
数理モデルを用いた統計解析により、マスク着用が新型コロナウィルス感染予防の最善策である根拠が2021年5月20日に報告されました(Cheng Y, Science 2021, 5/20)。「不織布マスク」を着用すれば、屋外での会話による感染は予防できるようです。ただし、あくまでも普通の会話での解析です。屋外でも、大人数で大声を出せば、飛散するウイルス量が増えて不織布マスクだけでは予防は難しいのかもしれません。事実、ウイルス量が多くなる屋内では、不織布マスクだけでは不十分な可能性が指摘されています。屋内では「不織布マスク」に加えて「換気の徹底」と「ヒトとの距離の確保」が最低限必要なようです。

「(35) 感染に必要なウイルス量は?」への追記
ドイツから25,381人の新型コロナウイルス感染者を対象とした、飛沫中に含まれるウイルス量の大規模調査結果が2021年5月25日に報告されました(Jones TC, Science 2021, 5/25)。イギリス由来変異株(B.1.1.7)に感染直後、無症状者、軽症者、入院治療が必要となった重症者の別に調べられています。10億個ものウイルスを飛沫に含み「スパースプレッダー」になりうる可能性がある方は8%もいらっしゃるようです。唾液中に10億個ものウイルスを含んでいる可能性がある方は、「重症者」ばかりでなく「軽症者」の中にも多くおられるようです。また、イギリス由来変異株は増殖力が強いため(約2.6倍)、他の新型コロナウイルスに比べて飛沫中のウイルス量も1.05倍に増えていると報告されています。ウイルス量がピークに達するのは、症状が出て1.8日目のようです。やはり、「倦怠感、微熱、味覚・嗅覚障害等の軽度な症状のため、無理をしてでも仕事に行く」モーレツ社員タイプが最も感染拡大を助長していることを教えてくれています。「私がいなければ仕事がはかどらない」という思いで無理をして働くと、数日後には部下全員が新型コロナウイルス感染で隔離されてしまい「私一人では何もできない」という状態になるのかもしれません。

「(38) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(全てが諸刃の剣)?」の章の「公共対策」への追記
スペインから非常に興味深い「前向き試験」の結果が2021年5月27日に報告されました(Revollo B, Lancet Infectius Disease 2021, 5/27)。18歳から59歳の1,047人に抗原検査を午前中に行い、陰性を確認しています。半数の方は帰宅してもらい、残りの半数の方には検査から5時間以内にコンサートなどの屋内イベントに参加してもらっています。8日後に「transcription-mediated amplication test (TMA)」と呼ばれる最も感度の高い手法で、新型コロナウイルスが検査されています。自宅待機群465人中に陽性者は13人(3%)で、屋内イベント参加群495人中に陽性者は15人(3%)で、優位差はなかったと報告されています。TMAは感度が高すぎ陽性であっても感染している判断は難しいため、一般的に用いられているRT-PCRでも検査が行われています、どちらの群においてもRT-PCRでの陽性者は1名で、差はなかったと報告されています。調査対象人数が少ないので結論を出すには時期尚早ですが、充分な感染予防対策をとっていれば「屋内イベントは新型コロナウイルスの感染源になりにくい」のかもしれません。

「(38) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(全てが諸刃の剣)?」の章の「オリンピック」への追記
2021年6月1日にオーストリアからソフトボールのオリンピック選手が入国されました。万全を期すに越したことはありませが、余りに過剰に反応されている方もいらっしゃるような懸念があります。何故なら、選手と関係者は全員ワクチンを接種されています。もし、この選手達が新型コロナウイルスの感染源になるのであれば、ワクチンの効果は無いと言う事になります。つまり、日本はワクチン接種が進んでも、永遠に緊急事態宣言が必要な事を意味します。個人的には「ワクチンを接種された方は人にうつす可能性はほぼ無くなり」そして「日本もワクチン接種が進めば昔の生活が取り戻せる」と強く信じています。

しかし、注意が必要な点もあります。新型コロナウイルスワクチンといっても全てが同じではありません。例えば、中国シノバック社の不活化ワクチンの感染予防効果は低く、変異株に対応できない可能性も多く報告されています(NATURE NEWS 2021, 1/15;NATURE NEWS 2021, 5/4)。事実、2021年6月2日時点でシノバック社の不活化ワクチン接種率が49%のバーレーン、57%のチリでは、新型コロナウイルス変異株の感染拡大が再度起こっています。やはり、海外選手や関係者のワクチン接種率、さらには使用されたワクチンの種類を把握して、選手団や種目に適した臨機応変な対応が必要なのかもしれません。

「(38) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(全てが諸刃の剣)?」の章の「比較の重要性」への追記
ロックダウン等の人流抑制により最も減少した感染症は「市中肺炎」の可能性が2021年6月1日に報告されました(Brueggemann AB, Lancet Infectious Disease 2021, 6/1)。市中肺炎では、健常人の咽頭に存在する「肺炎球菌」や「インフルエンザ桿菌」といった細菌が、高齢者などの免疫力の低下した方に感染すると致死的な誤嚥性肺炎などをおこしてしまいます。2016年には、全世界で240万人もの尊い命を市中肺炎が奪っています。世界28か国(残念ながら日本は含まれていません)の統計によると、ロックダウンの発令により、肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、髄膜炎菌による感染者は38%減少し、8週間ロックダウンが継続されると82%も減少したと報告されています。市中肺炎の発生頻度が、「実際に感染につながるヒト・ヒト接触を、どれだけ抑制したか」を判断する科学的指標になるのかもしれません。日本では、誤嚥性肺炎により毎年30,000人以上の高齢者が亡くなられています。新型コロナウイルスのパンデミックにも関わらず、2020年度の日本の死者数は減少しています。誤嚥性肺炎による死者の減少が一因を担った可能性は否定はできません。もしそうであれば、「自粛に依存しながらも各自の計り知れない努力」そして「思いやりのマスク文化」により、海外でのロックダウン以上の効果を日本では出せているのかもしれません。

新型コロナウイルス感染者が爆発的に増えた時のフランスの対策が2021年5月25日に報告されました(Leone M, Lancet Regional Health, 2021, 5/25)。フランスでは集中治療室のICUベッド数は5,400床です。日本のICUベッド数は6,500床(日本集中治療学会のホームページ)ですので、人口当たりのICUベッド数はフランスの方が日本より多いようです。フランスでは、感染者数増加時に「術後管理用」や「中等症用のcare unit」のベッドを代用してICUベッド数を19,571床まで増床したと報告されています。また、人工呼吸器管理のため、473人の麻酔科研修医を、追加されたベッド対応に派遣する対応をとられたようです。しかし、最終的には「ICUベッド数の不足と、新型コロナウイルス感染による死者数には相関性がなかった」と報告されています。

「(43) 重症化しやすい基礎疾患は?」の章の「関節リウマチ」への追記
関節リウマチで関節外に病変のある患者さん57人を対象とした、新型コロナウイルス感染による重症化の調査結果が2021年5月28日に報告されました(Hsu T Y-T, Lancet Rhematology 2021, 5/28)。感染した場合、健常人に比べて関節外病変のある関節リウマチ患者さんでは、集中治療室で治療が必要となる重症化率は2.08倍、人工呼吸器装着が必要となる確率は2.6倍高くなると報告されています。しかし、重症化率は高いのですが、死亡率や後遺症の発症率は健常人と有意差は認めないと報告されています。

 

 

[68版への追記箇所]
「(7) 新生児、小児、学生は?」への追記
新型コロナウイルス感染により子供に稀に発症する「小児発症性多臓器炎症症候群」の調査結果が2021年5月24日に報告されました(Penner J, Lancet Child & Adolescent Health 2021, 5/24)。平均年齢10.2歳で42人の「小児発症性多臓器炎症症候群」患者さんが調査されています。発症時には96%に腹痛、下痢、嘔吐などの消化器症状が認められています。また、発症時にはCRP、LDH、フェリチンなどの炎症の指標が著増していますが、6週で正常値に回復しています。死者も認められず、6か月後に後遺症が残る事もほとんど無いと報告されています。

「(29) ワクチンの副反応とアナフィラキシーは?」の章の「DNAワクチンによる血栓症の可能性」への追記
アストラゼネカ社のDNAワクチン接種後に血栓症を起こした患者さん9人の調査結果が2021年5月9日にも報告されました(Vayne C、New England J Medicine 2021, 5/19)。全員女性で、平均年齢は44歳と報告されています。脳血栓が6人に、腹腔内静脈血栓が5人に起こっています。2人には脳と腹腔両方に血栓が起こった計算になります。やはり、血を固めるはずの血小板が減少しながらも、血が固まり血栓ができるヘパリン起因性血小板減少症と類似した病態を示しています。ヘパリン起因性血小板減少症では、血小板第4因子(PF4)とヘパリンが手を繋いだ複合体と呼ばれる物質に対して抗体を作り出します。よって、ヘパリン起因性血小板減少症の診断には、PF4/ヘパリン複合体に対する抗体が用いられます。一方、アストラゼネカ社のDNAワクチン接種で血栓症を起こした患者さんでは、PF4/ヘパリン複合体に対する抗体は検出されず、PF4が硫酸ポリビニル(PVS)と手を繋いだ複合体に対する抗体が検出されると報告されています(Vayne C、New England J Medicine 2021, 5/19)。同様な結果が2021年5月20日にも報告されました(Muir KL, New England J Medicine 2021, 5/20)。アストラゼネカ社のDNAワクチン接種後14日目に腹腔内静脈血栓が起こった48歳の女性です。PF4/ヘパリン複合体に対する抗体は陰性で、PF4/PVSに対する抗体が強陽性と報告されています。生体内では、アミノ酸や糖鎖などが複雑に絡み合い立体的な分子を作り出します。これにより、分子の電荷を変化させます。つまり、磁石のように引き合う力を変化させることにより、好みの分子には強力にくっつき、有害な分子は弾き飛ばせるようになります。PVSは我々の体内には存在しないため、PVSに類似した磁石力を持つ生体内の何らかの分子とPF4が複合体を作り血栓を起こしている可能性もあるのかもしれません。

「(30) ウイルスの変異は?」の章の「「N501Y」変異株(イギリス由来)」への追記
コロナウイルスの501番目のアミノ酸がヒトアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合を主に左右している可能性が2021年5月24日に報告されました(Liu K, Cell 2021, 5/24)。コウモリ由来のコロナウイルスRaTG13は501番目のアミノ酸を介して、ヒトACE2に結合できるようです。しかし、コウモリ由来のコロナウイルスは501番目のアミノ酸はアスパラギン酸「D」であるため、ACE2への結合が新型コロナウイルスに比べて70倍以上弱いようです。このコウモリ由来コロナウイルスの501番目のアミノ酸(D501)がアスパラギン「N」(N501)へ変異してヒトに感染できるようになり、チロシン「Y」に変異して(N501Y)、更に感染力を増強させているようです。この結果は、新型コロナウイルスはコウモリ由来で「N501」の変異に最大の注意が必要な事を教えてくれているのかもしれません。

「(30) ウイルスの変異は?」の章の「その他の変異株」への追記
米国CDCが2021年5月17日に、注意が必要な変異株を「Varinats of Interest」 と「Variannts of Concern」の2群に分類されました。「Variants of Concern」の方がより危険なウイルスという事になります。やはり、イギリス由来変異株「正式名称B.1.1.7」、南アフリカ由来変異株「B.1.351」、カリフォルニア由来変異株「B.1.427」、ブラジル(アマゾン)由来変異株「P.1」に最大限の注意が必要なようです。一方、インド由来変異株「B.1.617.2」は最大限注意が必要な「Variants of Concern」には分類されていません。

 

 

変異株の殆どは多くの変異をすでに持っています。感染力は、「N501Y」変異を持つと~50%強くなり、「L453R」変異があると~20%強くなるようです。「L453R」変異は「適応性」を獲得するための変異の可能性が報告されています(Thesnokova V, BioRxiv 2021, 3/11)。つまり、少し感染力が増しながら、逆に毒性が弱くなります。これにより、感染しても無症状者が多くなり、ウイルスが蔓延しやすくなります。「E484K」変異は感染力に変化は与えませんが、中和抗体の効果を減弱する作用をもちます。よって、「N501Y」変異と「E484K」変異の2つを兼ね備える南アフリカ由来変異株「B.1.351」とブラジル(アマゾン)由来変異株「P.1」が現時点では最も危険な新型コロナウイルスになるのかもしれません。

 

世界中の新型コロナウイルスの変異情報を集積し解析しているPANGOの2021年5月24日の報告では、日本でこれまで検出された変異株は、イギリス由来変異株「B.1.1.7」が2,560人、南アフリカ由来変異株「B.1.351」が70人、アマゾン由来変異株「P.1」が70人です。一方、インド由来変異株「B.1.617.2」は127人と増加傾向を示しているようです。インド由来変異株は「L452R」変異のため、「N501Y」変異を持つイギリス由来変異株「B.1.1.7」より感染力は弱いけれども、適応性を持っているかもしれません。

「(31) 変異したウイルスに対するワクチン効果と各自の対策は?」の章の「インド由来変異株」への追記
2021年5月21日の英国公衆衛生庁(Public Health England)の報告によると、ファイザー社RNAワクチンを2回接種した場合の感染予防効果は、イギリス由来変異株「B.1.1.7」に対して93%で、インド由来変異株「B.1.617.2」に対しては88%と報告されました。1回接種では、インド由来変異株「B.1.617.2」に対して効果が弱い可能性があるため、ワクチンは必ず2回接種するように呼びかけられています。一方、アストラゼネカ社のDNAワクチンのインド由来変異株に対する感染予防効果は60%と報告されています。

「(37) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(全てが諸刃の剣)?」の章の「公共対策」への追記
厚生労働省の2021年5月26日の報告によると、2020年度の妊娠届けは872,226件で2019年の916,590件に比べて4.8%も減少したようです。第1回目の緊急事態宣言は2020年4月7日に一部地域に、4月16日に全国へ発令され、5月25日に解除されています。妊娠届けは、2020年5月に急激に減少し、9月頃から増加傾向に入り、12月には、ほぼ例年なみに回復しています。やはり、緊急事態宣言直後の妊娠控えが多いのかもしれません。

「(37) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(全てが諸刃の剣)?」の章の「オリンピック」への追記
オリンピックに対する医学的見地が2021年5月25日にNew England Journal of Medicine に掲載されました(Sparrow AK, New England J Medicine 2021, 5/25)。最も安全な対策はオリンピック・パラリンピックの中止ですが、バラバラになっている世界中の国が一丸となれる数少ない重要な機会である事も考慮しないといけないとの意見です。やはり、「感染リスク」と「世界平和に繋がるメリット」のバランスと言う事になります。オリンピック・パラリンピックのリスクを最小限に抑えて成功させるには、科学的根拠に基づく対策の強化のようです。ファイザー社がオリンピック・パラリンピック選手に無償で提供されるワクチンにより感染リスクは間違いなく激減します。しかし、完璧をきすためには、ワクチン接種対象外の年齢の選手や、個人的理由または社会的理由によりワクチンが接種できていない選手達がいる事も考慮する必要性を強調されています。つまり、全ての種目に同一の対策を取るのでなく、各競技ごとに異なる対策を講じる必要があるようです。例えば、ワクチン接種対象外の16歳以下の選手が多い体操、水泳、跳び込みでは異なった対策を助言されています。各競技ごとに選手のワクチン接種率を把握する必要があるのかもしれません。また、種目ごとでも感染リスクが異なるため、異なった感染対策を助言されています。例えば、屋外競技でヒトと接する機会の少ないセーリングやアーチェリーは「低リスク」、屋外でもヒトと頻回に接触する「ラグビー」や「サッカー」は中等度リスク、そして屋内でヒトと密に接する柔道やレスリングは「高リスク」となります。また、毎日行えるPCRや抗原検査の確保、選手達の個室の確保、移動バスでのN95マスクの無償提供も推奨されています。個人的には、すぐに結果が出て、どこでも行える抗原検査の活用が理想的と思います。また、選手に集団感染が起こった場合の、専用病院の確保も提言されています。アメリカ海軍等は、1,000床を有し何処にでも移動できる病院船を所有されています。万が一に備え、病院船の日本への寄港をアメリカに要請するのも一案かもしれません。

「(40) 季節性インフルエンザとの違いは?」の章への追記
報道で知り、国立感染症研究所のホームページを確認して見ると2021年5月7日に興味深い結果が報告されています。自粛の効果で、新型コロナウイルス以外のほとんどの感染症が2020年度は激減しています。一方、新型コロナウイルスと同様に、我々の細胞を癒合(合胞体)させて増殖するRSウイルス感染は約2倍も増えていると報告されています。偶然の可能性は勿論あります。しかし、新型コロナウイルスはRSウイルスと同じ要因(例えば、湿度と気温のバランスや昼夜の寒暖差など)に左右されて感染拡大をしている可能性も否定はできないのかもしれません。私は後者の可能性を強く期待しています。なぜなら、RSウイルスは2021年11週目(3月後半)から爆発的に増え始め、現時点(5月)には減少傾向に入っているようです。新型コロナウイルスも同様の経過をたどってくれる事を祈っています。

「(42) 重症化しやすい基礎疾患は?」の章の「重症化因子」への追記
エジプト、エチオピア、ガーナ、ケニア、リビア、マラウィ、モザンビーク、ニジェール、ナイジェリア、南アフリカと言った10カ国64基幹病院から、6,679人の重症新型コロナウイルス感染者の調査結果が2021年5月22日に報告されました(The Africa COVID-19 Critical care outcomes study, Lancet 2021, 5/22)。これまでの他国からの報告と同様に、死亡率は糖尿病で1.25倍、慢性肝疾患で3.48倍、慢性腎疾患で1.89倍、入院24時間以内の心肺低下で4.43倍増加すると報告されています。

19歳から100歳までの3,400万人を対象とし、死に繋がる重症化リスクを検証するためのQCovid modelの結果がイギリスから2021年5月25日に報告されました(Nafilyan V, Lancet Digital Health 2021, 5/25)。新型コロナウイルス感染による死亡率は、2020年1月24日から4月20日の期間は0.08%、2020年5月1日から7月28日の期間で0.04%と報告されています。死亡のリスク因子は高い順から、70歳以上、糖尿病、認知障害、高齢者者施設と報告されています。つまり、これらの重症化リスクの高い方々にワクチンが行き渡れば、医療逼迫は解消されると考えられます。

「(42) 重症化しやすい基礎疾患は?」の章の「ガン」への追記
ガン患者さんの新型コロナウイルス感染による死亡率の調査結果が2021年5月20日に報告されました(Bange EM, Nat Med 2021, 5/20)。新型コロナウイルスに感染して中等症に陥ったガン患者さん100人の予後が調査されています。中等症に陥った場合の死亡率は、前立腺ガンや乳ガンなどの固形ガンで38%、白血病などの血液ガンでは55%と報告されています。また、血液ガンの患者さんでは、IgMやIgGが著減していることも示されています。しかし、非常に期待が持てる結果も示されています。抗体が産生できなくても、接近戦の名手であるCD8陽性のT細胞部隊がワクチンにより敵を覚え、重症化から守ってくれると報告されています。矢(抗体)の達人であるB細胞がいなくても、新型コロナウイルスは撃退できる事を教えてくれる科学的根拠です。事実、B細胞や抗体を無くす効果がある「抗CD20抗体療法」を受けている患者さんでも、ワクチンの重症化予防効果は充分あるようです。

「(42) 重症化しやすい基礎疾患は?」の章の「重症化因子」への追記
エジプト、エチオピア、ガーナ、ケニア、リビア、マラウィ、モザンビーク、ニジェール、ナイジェリア、南アフリカと言った10カ国64基幹病院から、6,679人の重症新型コロナウイルス感染者の調査結果が2021年5月22日に報告されました(The Africa COVID-19 Critical care outcomes study, Lancet 2021, 5/22)。これまでの他国からの報告と同様に、死亡率は糖尿病で1.25倍、慢性肝疾患で3.48倍、慢性腎疾患で1.89倍、入院24時間以内の心肺低下で4.43倍増加すると報告されています。

19歳から100歳までの3,400万人を対象とし、死に繋がる重症化リスクを検証するためのQCovid modelの結果がイギリスから2021年5月25日に報告されました(Nafilyan V, Lancet Digital Health 2021, 5/25)。新型コロナウイルス感染による死亡率は、2020年1月24日から4月20日の期間は0.08%、2020年5月1日から7月28日の期間で0.04%と報告されています。死亡のリスク因子は高い順から「70歳以上」、「糖尿病」、「認知症」、「高齢者者施設に入居」と報告されています。つまり、これらの重症化リスクの高い方々にワクチンが行き渡れば、医療逼迫は解消されると考えられます。

「(46) 治療法は?」の章の「人工呼吸器」への追記
同様の結果が、6,679人の重症新型コロナウイルス感染者を対象としたアフリカ諸国の調査でも2021年5月22日に報告されました(The Africa COVID-19 Critical care outcomes study, Lancet 2021, 5/22)。死亡率は、酸素投与が必要なかった感染者に対して、経鼻やマスクを介して酸素を投与された方は2.72倍、持続的気道陽圧(CAPS)では3.93倍、人工呼吸器装着では15.27倍も増えたと報告されています。人工呼吸器装着に至ると言う事は重症度も高い事を示唆し、死亡率が高くなる事は理解できます。しかし、アフリカでの医療体制を考慮したとしても、持続的気道陽圧と人工呼吸器装着での死亡率に4倍近い差が出る事は考えにくいのかもしれません。

[67版への追記箇所]
「(10) 血栓症 対 サイトカインストームは?」の章の「サイトカインストーム治療薬の効果」への追記
透析のような手法で体内から炎症性サイトカインを除去できる「CytoSorb」の臨床治験結果が2021年5月14日に報告されました(Supady A, Lancet Respiratory Medicine 2021, 5/14)。新型コロナウイルス感染でECMO装置が必要となった重症化患者さんに使用されています。Cytosorbents社のホームページによると、Cytosorbは55kDaより小さい疎水性のタンパク質が除去できるようです。理論上では、IL-1、IL-8、TNF-αモノマー、IL-6、IFN-γといった炎症性サイトカインに加えて、IL-10といった免疫抑制サイトカインも除去できることになります。IL-6の平均値が357 pg/mLに達しECMO装置が必要となった新型コロナウイルス感染者17人にCytosorbが使用されています。IL-6は98.6 pg/mLへ低下も30日後の生存率は僅か18%と報告されています。コントロール群は、IL-6 の平均値が289 pg/mLに達した17人のECMOを装着された重症者です。CytosorbなくともIL-6は112 pg/mLまで低下し、生存率は76%%と報告されています。つまり、Cytosorbが劇的に死亡率を増やしたことになります。サイトカインと呼ばれる免疫因子には、悪玉もあれば善玉もあります。これらを一挙一絡げで除去してしまうと新型コロナウイルス感染を治すどころか、悪化させてしまう事を教えてくれているのかもしれません。

「(14) 新たな免疫学的概念は?」の章の「BCG」への追記
2021年5月19日時点で緊急事態宣言が発出された都道府県は東京、京都、大阪、兵庫、愛知、福岡、北海道、岡山、広島です。上述したように、1999年から2002年にBCG接種率の著減があった都道府県(Kinoshita M, J Infect 2020, p625)は、東京都(31.3%)、神奈川県(35.6%)、広島県(36.9%)、京都府(42.1%)、岡山県(45.8%)、福岡県(46.5%)、宮城県(49.3%)、高知県(51.5%)、大阪府(55.6%)、北海道(55.7%)、熊本県(56.1%)、大分県(56.3%)、兵庫県(57.2%)、愛知県(61.8%)のようです。、緊急事態宣言が出された都道府県は、全てBCG接種の暗黒期があった都道府県です。偶然の可能性は勿論ありますが、BCGが感染拡大抑制に貢献している可能性も否定はできないのかもしれません。一方、BCGに重症化の予防効果は無い可能性が台湾から報告されました(Su W-J, Int J Environ Res Public Health 2021, p4303)。台湾では1979年から日本株BCGが接種されています。新型コロナウイルスに台湾で感染した25歳から33歳でBCG接種歴が無い方は106人で、中等症まで悪化した方は14.2%、重症化した方は0.9%と報告されています。また、同年齢でBCG接種歴のある方では78人が感染され、中等症は19.2%で重症化はゼロと報告されています。

「(26) 集団免疫は?」の章への追記
ワクチンによる集団免疫の誘導が高齢者施設を対象とした米国の調査で2021年5月19日に明らかにされました(White EM, New England J Medicine 2021, 5/19)。280の高齢者施設を対象とされ、Genesis Health Careのデジタル化診療情報が用いられています。対象となった高齢者は1回以上のワクチン接種を受けられた18,242人と、ワクチン接種を受けられていない3,990人です。80.4%の方にファイザー社のRNAワクチンが、19.6%の方にモデルナ社のRNAワクチンが接種されています。新型コロナウイルスに感染された方は、ワクチン接種1回目から14日以内では4.5%、15日から28日目で1.4%、2回目接種後14日以内で1.0%、14日目以降で0.3%と報告されています。また、感染しても、ほとんどの方は無症状で済んでいるようです。喜ばしいことに、ワクチン接種を受けられていない高齢者の感染率も4.3%から、他の人が2回目ワクチン接種を終えられて42日目以降では0.3%へと激減しています。ワクチン接種者18,242人と非接種者3,990人から計算すると、82%の方がワクチンにより免疫を持てば集団免疫が高齢者でも充分に誘導できる事を示す心強い科学的根拠です。

 

「(27) ワクチン開発と結果は?」の章の「世界のワクチン効果結果」への追記
新型コロナウイルスに対するワクチン効果の大規模調査結果に関する18論文を数理解析した結果が2021年5月17日に報告されました(Khoury DS, Nat Med 2021, 5/17)。1:10から1:30の比較的低濃度の抗体が産生された段階で50%の感染予防効果がでるようです。同等の効果を得るためには、季節性インフルエンザでさえ1:40と少し多めの抗体が必要となります。やはり、免疫軍にとって新型コロナウイルスは季節性インフルエンザより弱い敵である事を示唆する科学的根拠の一つかもしれません。ワクチン効果の持続は、各ワクチンの初期の感染予防効果の強さに依存するようです。95%の感染予防効果を持つワクチンでは接種後250日目に77%へと低下すると報告されています。一方、70%しか感染予防効果がないワクチンでは32%へと低下するようです。しかし、ご安心下さい。感染予防効果は低下しても、ワクチンの主目的である重症化の予防効果は250日目でも充分に保たれると報告されています。

2021年5月15日に九州、四国、中国地方は例年より3週間早く梅雨入りしました。私は、梅雨は好きではありませんが、今年はありがたいと思っています。湿度が高くなるため新型コロナウイルスの飛散距離も下がり感染リスクが減ってくるのかもしれません。また、夏も近づいています。日本と緯度が近いイラン、イラク、レバノン、スペインでは新型コロナウイルス感染者数の減少傾向を認めています。また、徐々にではありますが、日本のワクチン接種率も増えてきています。ワクチン、梅雨、夏と揃い始めて新型コロナウイルスの爆発的な蔓延の危険性は減ってきているのかもしれません。小さな感染拡大は起こるかもしれませんが、このまま終息のゴールに向かってくれると個人的には強く信じています。

「(31) 変異したウイルスに対するワクチン効果と各自の対策は?」の章の「南アフリカ由来変異株」への追記
アストラゼネカ社DNAワクチンの南アフリカでの臨床試験結果が2021年5月20日に報告されました(Madhi SA, New England J Medicine 2021, 5/20)。18歳から65歳までのHIVが陰性の方に、アストラゼネカ社DNAワクチンが2回接種されています。ワクチン接種者750人中に軽症から中等症の新型コロナウイルス感染者は19人(2.5%)で、偽薬投与群717人中では23人(3.2%)と報告されています。感染予防効果は29.1%と低いようです。南アフリカの新型コロナウイルス感染者のうち95.1%は、南アフリカ由来変異株と報告されています。変異株で計算すると、アストラゼネカ社のDNAワクチンの感染予防効果は10.4%とさらに低くなるようです。

「(31) 変異したウイルスに対するワクチン効果と各自の対策は?」の章の「インド由来変異株」への追記
2021年5月19日のロイターの報道によると、感染症数理モデルの世界的第一人者で、第1波の時にイギリスのロックダウンを強行されたインペリアル大学のニール・ファーガソン教授が、インド由来変異株に関する意見を述べられています。「100%の自信はないが、感染力は当初懸念されたほど強くないだろう」と言う見解です。インド由来変異株は移民の方によりイギリスに持ち込まれ、移民の方の「多世代世帯」と「スラム街」といった特殊な生活様式により変異株の急速な拡大を一部の地域で起こした可能性が考えられるようです。また、ジョンソン首相は「インド由来変異株に対してワクチンが充分な予防効果がある事を示すデータが蓄積されてきている」と述べられています。

「(37) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(諸刃の剣効果)?」の章の「公共対策」への追記
警察庁の報告によると、2021年4月の自殺者は1,799人で2020年の同月の1,507人に比べて292人、つまり19%の増加を認めています。また、内閣府の発表によると日本の2020年のGDPは4.6%の減少で戦後最大の下げ幅のようです。また、2021年1月~3月期は5.1%の減少で、さらに低下しています。

「(37) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(諸刃の剣効果)?」の章の「比較の重要性」への追記
世界28ヵ国の新型コロナウイルス対策の比較が2021年5月17日に報告されました(Haldane V, Nature Medicine 2021, 5/17)。無症状の感染者が多い新型コロナウイルスは封じ込める事は困難なため、医療体制の確保が各国の最重要課題のようです。日本と共通の対策と異なった対策をまとめてみました。

● 共通の対策
多くの国では軽症さらには中等症であっても自宅待機を余儀なくされているようです。

多くの国では緊急手術以外は延期の対策をとられているようです。

多くの国では、感染拡大抑制の失敗の経験をもとに、高齢者施設または高齢者を対象とした集中的検査体制にシフトされているようです。

● 異なった対策
人材確保のためドイツ、ロシア、スペイン、イギリス、ベトナムでは、医学部と看護学部の学生を臨床現場に派遣しているようです。

多くの国では「shift of primary care workers to emergency」、すなわち総合診療科の先生方を集中治療室の援助に派遣しているようです。日本にあてはめると、開業医の先生方を新型コロナウイルスの拠点病院に派遣するイメージなのかもしれません。また、集中治療を担当された医療従事者には、ボーナス、昇給、税金の免除などの特典が付与されています。

多くの国では「passive testing」、すなわち感染者の追跡が行われています。Passive testing は2つに大別されるようです。殆どの国で行われるのが「forward contact tracing」と呼ばれる、感染者と接触者を同定する手法です。一方、日本では「backward contact tracing」、つまり感染源まで見つけ出す手法が用いられています。効果は、日本で用いられている「backward contact tracing」が高いようですが、あまりに労力がかかるため他国では敬遠されているようです。世界各国が、労力がかかるために敬遠されている手法を、少ない人員でありながらも休日返上でこなされている保健所の皆様に心より感謝申し上げます。本当にありがとうございます。

多くの国では医療情報や個人情報などの紐付けによるデジタル化によって感染拡大の包括的管理が行われているようです。

現在の検査法では、感染者を正確に把握する事は不可能なため、どの国においても感染者数は過小評価の可能性が報告されています。つまり、正確に把握できれば母数が増えるため、新型コロナウイルス感染による死亡率は、現在の推定値より間違いなく下がる事になります。ニュージーランド、スウェーデン、アメリカでは検査結果に関わらず、何らかの症状がある方全てを感染者としてカウントする「syndromic surveillance」と呼ばれる新たな手法が用いられ始めたようです。

医療体制が逼迫しないためには「reallocation」、「recruitment」、「financial and social support」が必要と報告されています。つまり、「医師の配置替え」、「休職中の医療従事者や学生の活用」、「経済的援助と風評被害の予防」となるのかもしれません。また、過去の感染症に基づく科学的根拠でなく、新型コロナウイルスで得られた新たな科学的根拠に基づき柔軟に対処して行く必要があるようです。

「(46) 治療法は?」の章の「人工呼吸器」への追記
新型コロナウイルス感染で入院治療が必要となった63,972人を対象とした驚きの結果がイギリスから2021年5月14日に報告されました(Docherty AB, Lancet Respiratory Medicine 2021, 5/14)。イギリスの第一波早期(2020年3月9日から4月26日)での入院死亡率は32.3%に対し、後期(2020年6月15日から8月2日)では16.8%と半減しています。よって、短期間で死亡率が半減した理由を調査されたようです。多くの要因が関与し非常に複雑なようですが、「ステロイドの使用」と、驚くことに「人工呼吸器の使用減少」が死亡率低下に寄与している可能性が報告されています。新型コロナウイルス感染により重症化しても、酸素マスクや経鼻からの高濃酸素投与と的確な薬剤投与で命が救える方が多い事を教えてくれているのかもしれません。また、残念ながら、新型コロナウイルス感染により重症化し、人工呼吸装着まで行なっても命を救えない方もいらしゃる事も教えてくれています。その方々を重症と言う理由だけで人工呼吸器を備えた施設に移すと、集中治療室などの医療従事者に負担が集中し医療逼迫を起こし、救える命も救えなくなる悪循環の結果、死亡者の増加につながっている可能性も否定はできません。人工呼吸器装着の必要性の可否を科学的根拠に基づき的確に判断する事が医療逼迫を回避するためにも、新型コロナウイルス感染による死亡者数を減らすためにも重要な事をイギリスが教えてくれているように思います。

 

[66版への追記箇所]
「(3) 免疫が低下する原因とコロナ感染助長因子は?」の章の「 妊娠」への追記
米国CDCの報告によると、2020年1月22日から2021年5月3日までの米国の新型コロナウイルス感染者の累計は3,248万人(32,481,455人)で死者数は57万人(578,520人)です。死亡率は1.78%の計算になります。一方、妊婦さんの感染者は88,880人で、死者は99人です。死亡率は0.11%と全国民に比較して10倍以上低くなります。妊婦さんは新型コロナウイルス感染による重症化リスクは低い可能性もあるのかもしれません。

「(9) 血栓症は?」の章の「コロナ血栓症の機序」への追記
1つ1つの細胞を解析する「single cell analysis」 と呼ばれる最先端技術を持ちいて、新型コロナウイルスの遺伝子が最も多く検出される細胞は「血管内皮細胞」と「貪食細胞」であることが2021年4月29日に証明されました(Delorey TM, Nature 2021, 4/29)。自然免疫軍は侵入して来たウイルスをがむしゃらに食べるため(貪食)、貪食細胞に新型コロナウイルスの遺伝子(死骸)が多く検出される事は、通常の感染症に認められる反応で想定内と思います。一方、血管内皮細胞にウイルス遺伝子が多く検出される事は珍しく、血管内皮細胞への感染が新型コロナウイルスの特徴と考えるのが妥当と思います。つまり、新型コロナウイルスは血管内皮細胞へ感染して血栓を作り出す事を示す新たな科学的根拠なのかもしれません。

「(9) 血栓症は?」の章の「コロナで重症化しやすい基礎疾患と血栓症の関連」への追記
1,700万人を対象とした新型コロナウイルス感染による重症化の人種差がイギリスから4月30日に報告されました(Mathur R, Lancet 2021, 4/30)。2020年8月3日までの第1波の感染率は、白人に比べて黒人て1.08倍、インドなどの南アジア人で1.08倍に増え、東洋人を含むその他の人種では0.77倍減少すると報告されています。重症化の危険性も黒人や南アジア人で高くなるようで、入院率は黒人で1.78倍、南アジア人で1.48倍も増えています。また、死亡率も黒人で1.51倍、南アジア人で1.26倍増加しています。一方、「N501Y」変異株が増え始めた2020年9月1日以降では、黒人の重症化率は高いままですが、南アジア人の重症化率は白人レベルまで低下したようです。

「(10) 血栓症 対 サイトカインストームは?」の章の「サイトカインストーム治療薬の効果」への追記
新型コロナウイルス感染の重症患者さんに対する抗IL-6受容体阻害療法の効果について大規模臨床試験結果が2021年5月1日に報告されました(RECOVERY collaborative group, Lancet 2021, 5/1)。平均年齢は63.6歳で、炎症の指標であるCRPの平均値が143 mg/L(日本の単位では14.3 mg/dL)と高値を示し、酸素飽和濃度が92%以下に低下した重症患者さんに投与されています。2,094人の患者さんにはステロイドが投与され、2,022人の患者さんに抗IL-6受容体阻害薬(Tocilizumab)が投与されています。入院28日目の死亡率は、ステロイド投与群では35%で、抗IL-6受容体阻害群では31%と報告されています。抗IL-6受容体阻害療法は約10人に1人の重症患者さんの尊い命が救える計算になります。また、CRPが75 mg/mL(日本の単位で7.5 mg/dL)を越えた低酸素状態であれば、人工呼吸器使用の有無に関わらず効果はあるようです。

「(20) 免疫にとっての新型コロナウイルスの強さは?」への追記
新型コロナウイルス感染で亡くなられた患者さんと他の疾患で亡くなられた患者さんの細胞を1つ1つ細胞単位で解析(single cell analysis)した結果が2021年4月29にも2つ同時に報告されました。ひとつは「細胞単位」で(Delores TM, Nature 2021, 4/29)、もうひとつは「核単位」で(Melms JC, Nature 2021, 4/29)解析が行われています。どちらの報告も、新型コロナウイルス感染で死に至った方では、T細胞軍の中で接近戦の名手であるCD8部隊が上手く機能していないと報告されています。また、CTHRC1と呼ばれる分子を発現する繊維芽細胞が増えて肺の機能を廃絶する肺繊維症を起こしてしまう可能性も報告されています。

「(27) ワクチン開発と結果は?」の章の「世界のワクチン効果結果」への追記

米国エール大学の岩崎明子先生達のグループが非常に興味深い結果を2021年5月5日に報告されました(Lucas C, Nat Med 2021, 5/5)。新型コロナウイルス感染の重症化は「中和抗体の量ではなく」「どれだけ早期に作り出されるか」に左右される可能性が報告されています。つまり、抗体産生を始めるスタートダッシュが重要という事になります。初感染では獲得免疫軍つまり抗体を産生するB細胞部隊が働き始めるまでに72時間以上が必要です。この時差を解消して、敵が侵入して来たら即座に抗体が産生できるようにしてくれるのがワクチンです。新型コロナウイルスに対して多くの会社のワクチンは予想を遥かに超えた効果を示しています。やはり、これ程の効果は「ワクチンによるスタートダッシュの改善」によりもたらされている可能性があるのかもしれません。

「(31) 変異したウイルスに対するワクチン効果と各自の対策は?」の章の「イギリス由来変異株「N501Y」」への追記
ほぼ全国民を対象とした、新型コロナウイルスに対するファイザー社RNAワクチンの感染予防効果の調査結果がイスラエルから2021年5月5日に報告されました(Haas EL, Lancet 2021, 5/5)。2021年1月24日から4月3日までの新型コロナウイルス感染者は232,263人で、重症者は4,481人、死者は1,113人です。4月3日時点での感染者の94.5%は「N501Y」イギリス由来変異株と報告されています。つまり、イギリス由来変異株の現時点での重症化率は1.93%、死亡率は0.48%の計算になります。4月3日には16歳以上の国民の72.1%にファイザー社RNAワクチンの2回接種が終了し、その後感染者は劇的に減少しています。年齢別の感染予防効果は、16歳から44歳で96.1%、45歳から64歳で94.9%、65歳から74歳で94.8%、75歳から84歳で95.1%、85歳以上で94.1%と報告されています。また、死亡につながる重症化の予防効果は、16歳から44歳で100%、45歳から64歳で95.8%、65歳から74歳で96.9%、75歳から84歳で97.6%、85歳以上で97.4%です。この大規模調査は「ファイザー社RNAワクチンの感染予防および重症化予防効果は非常に高く高齢者にも有効である」、「イギリス由来のN501Y変異株に対しても強い予防効果を持つ」、そして「16歳未満に接種しなくても集団免疫は充分確保できる」事を科学的に教えてくれています。

「(31) 変異したウイルスに対するワクチン効果と各自の対策は?」の章の「南アフリカ由来変異株「E484K + N501Y + D614G」」への追記
南アフリカにおけるノバックス社のナノ粒子ワクチンの臨床試験結果が2021年5月5日に報告されました(Shinde V, New England J Medicine 2021, 5/5)。感染者の51%は南アフリカ由来の「E484K + N501Y + D614G」変異株が原因です。感染予防効果は60.1%と報告されています。非常に興味深い結果は、ワクチン接種時に既に新型コロナウイルスに対する抗体が陽性、つまり「既に感染した経験がある方」は30%もいらっしゃり今回の解析から除外されています。この結果は、南アフリカ国民の35%から60%は既に感染歴があるというこれまでの報告と類似します。ジョンホプキンス大学のJHU CSSE COVID-19によると、2021年5月5日時点の南アフリカの新型コロナウイルス感染者累計数は約160万人で死者数は54,735人です。死亡率は3.42%の計算になります。一方、南アフリカの人口は5,856万人で、そのうち30%が既に感染していたとすると、感染者累計は約1,756万人の計算になります。死者数は54,735人ですので、死亡率は0.31%となり、季節性インフルエンザと同程度です。また、南アフリカでは第2波に比べて感染者が1/10以下に減少した状態を現在維持しています。ワクチン接種前に自然感染により「集団免疫を既に獲得している」可能性と、季節が真逆の南半球にある南アフリカでは「夏だったため感染が抑えられていた」可能性の2つが考えられます。どちらにしても良い情報かもしれません。集団免疫を獲得できていないとすると「夏になると感染は自然に抑制できる」事を教えてくれています。もし、感染抑制が夏と関係ないとすれば「集団免疫が常に備わるほど南アフリカでは感染が蔓延していた」、つまり「新型コロナウイルスの死亡率は季節性インフルエンザ並み」という事になります。事実、無症状者が多い感染症では死亡率は流行期に推測された値より大幅に低下する傾向があるようです。私は「夏に感染は減少し」さらに「死亡率は南アフリカ由来の変異株でさえ季節インフルエンザと同程度」のどちらも正しい事を祈っています。

カーターから385,853人を対象としたファイザー社のRNAワクチンの効果結果が2021年5月5日に報告されました(Abu-Raddad LJ, New England J Medicine 2021, 5/5)。カーターでは、イギリス由来の変異株が44.5%で南アフリカ由来の変異株が50%と両方が均等に蔓延しているようです。2回目を接種して14日目の感染予防効果は、イギリス由来変異株に対しては89%, 南アフリカ由来変異株では75%と報告されています。南アフリカ由来変異株に対して感染予防効果は少し下がるのかもしれません。しかし、ご安心下さい。ワクチンの真の目的は重症化の予防です。ファイザー社RNAワクチンの重症化予防効果は、どちらの変異株に対しても97.4%と非常に高いようです。

「(37) 新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは(全てが諸刃の剣)?」の章の「公共対策」への追記
新型コロナウイルスの流行が及ぼした19,763人の患者さんを対象とした精神疾患への影響が2021年5月6日にイギリスから報告されました(Pierce M, Lancet Psychiatry, 2021, 5/6)。コロナウイルスの第1波中でも精神状態が安定し非常に良好だった患者さんは37.3%、良好だった患者さんは39.3%、一時的に悪化したが改善した患者さんは12%、そのまま悪化が続いている患者さんは4.1%と報告されています。

「(42) 重症化しやすい基礎疾患は?」の章の「非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)」への追記
非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)は、痛みを抑えたり熱を下げるために広く用いられている薬です。ある種のNSAIDが新型コロナウイルス感染による重症化のリスクを増やす可能性が初期段階に報告されたため、確認のための大規模調査が行われ、その結果がイギリスとスコットランドから2021年5月7日に報告されました(Drale TM, Lancet Rheumatology 2021, 5/7)。感染が判明した時点でNSAIDを常時服用されていた方4,211人と、服用されていない67,968人が対象となっています。NSAID使用の有無により新型コロナウイルス感染の重症化に影響を及ぼす事はないと報告されています。また、NSAIDの種類の違いで影響を及ぼす事もないようです。

「(44) 重症化の予兆は?」の章の「検査値の変化」への追記
上述したような「異所性発現」つまり「普段は作らない細胞が炎症性因子を作り始める」現象が新型コロナウイルス感染の重症化の一因である可能性が2021年4月29日にも報告されました(Melms JC, Nature 2021, 4/29)。主に免疫細胞が作る「インターロイキン-6(IL-6)」と呼ばれる炎症物質を、肺の上皮細胞が重症化患者さんでは突然作り出しているようです。例えば、交通渋滞が起こったとします。全ての渋滞を同時に解消する事は難しいため、ドライバーに少しの遅れは理解してもらいながら、安全第一に警察官がフエを吹いて交通整理を始めました。路上で見ていた通行人の1人が「右側の道路が混んでいるのに警察官は何をしているんだ」と突然右側の道路の車両を優先させるためにフエを吹きはじめました。また、もう1人の通行人は左の道路の車には高齢者が乗っているのを見つけ、「高齢者優先」と思い左側の車を優先させるためにフエを吹き始めました。すると、もう1人が「皆んな平等」と、幹線道路に出られずに困っていたあぜ道のバイクに優先を示すフエを吹き始めました。結果は火を見るよりも明らかかもしれません。我々の体中でも、時間をかけてでもウイルスを撃退するために免疫軍が働いている最中に、専門外の異なった細胞が目先の状態だけを見てサイトカインを放出すると死につながる重症化を引き起こしてしまいます。体の内外を問わず注意が必要です。

「(45) 後遺症は?」への追記
新型コロナウイルス感染で重症化したが人工呼吸器の装着なくして回復された135人の退院後の呼吸機能の調査結果が2021年5月5日に中国から報告されました(Wu X, Lancet Respiratory Medicine 2021, 5/5)。対象者の平均年齢は60歳です。呼吸機能障害は徐々に改善し退院12ヶ月でほぼ消失される方が多いようです。一方、24%の方には、画像診断(high-resolution CT)での異常所見と呼吸機能障害が残る可能性が報告されています。

 

 

[65版への追記箇所]

「(6) 腸管は?」への追記
新型コロナウイルスに感染して症状が出てしまう方では「IgA2」と呼ばれる抗体が少ない可能性が2021年4月20日に報告されました(Stephenson E, Nat Med 2021, 4/20)。ヒトのIgAには「IgA1」と「IgA2」の2種類があります。IgA1は唾液や母乳に含まれ乳児を感染症から守ってくれます。IgA2は腸で作られお腹から我々を感染症から守ってくれています。バランスの取れた食事を摂り腹の免疫(腸管免疫)を健康に保つ事が、新型コロナウイルスから守ってくれるのかもしれません。

「(9) 血栓症は?」の章の「血栓症と後遺症」への追記
新型コロナウイルス感染で重症化した患者さん130人の血液から採取した78万個の細胞を一つ一つ細胞単位で解析(single cell analysis)した結果が2021年4月20日に報告されました(Stephenson E, Nat Med 2021, 4/20)。重症化した患者さんの血液中には、血小板の起源である「メガカリオサイト」になる造血幹細胞が増えていると報告されています。これまでの報告のように、血栓形成に伴う二次的変化と思われます。また、血小板と接触した単球は肺胞マクロファージと呼ばれる肺の掃除屋になるようです。

「(27) ワクチン開発と結果は?」の章の「世界のワクチン効果結果」への追記
スコットランドから約133万人の接種者を対象とした新型コロナウイルスに対するワクチン効果の調査結果が2021年4月23日に報告されました(Vasileiou E, Lancet 2021, 4/23)。1回目接種後28日から34日でさえ、治療が必要となる入院率はファイザー社RNAワクチンで91%、アストラゼネカ社のDNAワクチンで88%減少させるようです。80歳を越えると効果は僅かに下がるようで、16歳から64歳では92%、65歳から79歳で93%、80歳以上で83%と報告されています。

イギリスから23,324人の医療従事者を対象とした新型コロナウイルスに対するファイザー社RNAワクチン効果の調査結果が2021年4月21日に報告されました(Hall VJ, Lancet 2021, 4/23)。1回目接種後21日目までにPCRで感染が確認された方は71人、2回目接種後7日目までは9人です。PCRで陽性が確認された方のうち、66%は無症状のようです。ファイザー社RNAワクチンの感染予防効果は、1回目接種後21日目で70%、2回目接種後7日目で85%と報告されています。また、過去に新型コロナウイルスに既に感染した人や妊娠年齢である35歳以下の女性はワクチンを受けられないようです。

「(29) ワクチンの副反応とアナフィラキシーは?」の章の「妊婦さんの安全性」への追記
16歳から54歳の35,691人の妊婦さんを対象としたファイザー社とモデルナ社のRNAワクチンの安全性の調査結果がアメリカから2021年4月21日に報告されました(Shimaburuko TT, New England J Medicine, 2021, 4/21)。2回目接種後の副反応は、接種部の痛み91.9%、倦怠感71.5%、頭痛55.4%、接種部以外の筋肉痛54.1%、悪寒36.7%、発熱34.6%と報告されています。発熱に関して、38°C以上の高熱が出た方は1回目接種では1%以下で2回目接種では8%のようです。また、新生児の死亡はゼロです。私は産科の専門家では無いため判断できませんが、気になる点は自然流産です。調査期間中に出産時期に至った方は827人で、自然流産が104人(12.6%)で未熟児が1人(0.1%)と報告されています。自然流産のうち、92.3%は妊娠13週以内に認められています。著者達は、「Preliminary findings did not show obvious safe signals among pregnant persons who received RNA vaccine」と締めくくっています。つまり、現時点では、RNAワクチンが妊娠さんに安全とは言えないと言う事で、さらなる調査が必要なようです。

「(31) 変異したウイルスに対するワクチン効果と各自の対策は?」の章の「インド由来変異株」への追記
インド由来の変異株が問題となっています。カリフォルニア由来の「L452R」変異と南アフリカ由来やブラジル由来変異株の特徴である「E484Q」変異の両方を持つため、「Double mutant (二重変異株)」と呼ばれています。2021年4月24日のナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)で米国スクリプス研究所のKristian Andersen 先生が、インド由来変異株は「L452R」と「E484Q」の2ヵ所の変異に加えて約11ヵ所の変異も加わっており「二重変異株」の呼び名は不適切とおしゃていました。ウイルスは日々変異を繰り返します。事実、各地域で新たに発見される変異株は、既に数ヵ所以上の変異を持っています。つまり、限られた箇所の変異だけをPCRで検査しても意味がなく、ウイルスの全長遺伝子解析(DNAシークエンス法)により全ての変異を把握する必要があります。

カリフォルニア由来の変異株は「L452R」の変異を持つウイルスとして知られていますが、「S13I」と「W152C」の変異も持っていることが2021年4月20日に報告されました(Deng V, Cell 2021,4/20)。感染力は20%程度増強していますが、イギリス由来の「N501Y」変異株よりは弱いと報告されています。2020年5月に発見され、2020年9月に蔓延を始め2021年初頭にはカリフォルニアで検出される新型コロナウイルスの半分以上まで拡大を続けています。カリフォルニア由来の変異株に対する抑制効果を調べる生体外の実験では、既存の新型コロナウイルス感染者の血漿では4~6.7倍、ワクチン接種者の血漿では抑制効果が2倍低下する可能性があるようです。しかし、生体外での実験における、この程度の低下ではワクチン効果の大勢に影響ない事は既にわかっています。事実、カリフォルニア州の2020年12月26日の新規感染者数は64,987人ですが、ワクチン接種が進んだ2021年4月27日の新規感染者数は1,839人と30倍以上の減少を認めています。

カリフォルニア由来変異株は「適応性の高いウイルス」と表現されています(Thesnokova V, BioRxiv 2021, 3/11)。感染力は20%程度しか増強していないにも関わらず、変異を繰り返し世界中に既に蔓延しています。つまり、人類と共存しやすい適応性を持っていると言う事になるのかもしれません。強毒化したウイルスは人類と共存できないため、弱毒化していると考えるのが妥当かもしれません。カリフォルニア由来変異株に、ワクチン効果の低下をもたらす可能性がある「E484Q」変異が加わったウイルスがインド由来の変異株です。インド由来変異株についての情報は現時点でほぼ無い状態で、細心の注意が必要かもしれません。しかし、Kristian Andersen 先生が言われるように「インド由来変異株に対するワクチン効果は少し低下しても大勢に影響は無い」と個人的には信じています。また、インド由来変異株は感染力を増しても毒性は減弱している可能性も否定はできません。なぜなら、変異株流行前の2020年4月27日時点のインドの新規感染者数は77,266人で死者数は3,293人です。死亡率は1.37%の計算になります。一方、変異株が主体をしめた2021年4月27日時点での新規感染者数は360,927人で死者数は3,293人です。昨年に比べて感染者数は爆発的に増えていますが、死亡率は0.91%と逆に低下傾向を示しています。

「(31) 変異したウイルスに対するワクチン効果と各自の対策は?」の章の「変異株の再感染」への追記
RNAワクチンを2回接種後に新型コロナウイルスに再感染された2名の委細な調査結果が2021年4月21日に報告されました(Hacisuleyman E, New England J Medicine, 2021, 4/21)。どちらの感染者にも7箇所以上の変異を認めるウイルスが検出されていますが、全てが共通した変異ではありません。2人に共通して認められるウイルスの変異は「T951I」、「D614G」、「Del142-145」です。少し気になる変異は「Del142-145」と呼ばれる新たなタイプの変異です。これまで注目されていた変異は、「点突然変異」と呼ばれる1つのアミノ酸が違うアミノ酸に変わる変化です。一方、1個から数個のアミノ酸がなくなる変異もあり「Deletion(del)、欠失変異」と呼ばれます。「Del142-145」では142番目から145番目までの3つのアミノ酸が欠失した変異を意味します。また、アミノ酸が新たに付加される「挿入変異」もあります。新型コロナウイルスでは、アミノ酸が立体構造を作り出すことにより我々の細胞が持つ「アンギオテンシン変換酵素2(鍵穴)」にはまり込む「鍵の型」を作り出します。アミノ酸はそれぞれ異なった電荷を帯びており「陽電荷を帯びたアミノ酸」や「負の電荷を帯びたアミノ酸」もあります。つまり、異なった強さを持つ「プラス」と「マイナス」の磁石がミクロの世界に存在しているわけです。よって1つのアミノ酸が変わっても、各々のアミノ酸の引き合い方が異なり立体構造が少し変形します。当然、あるべきはずのアミノ酸が抜けてしまっても、余分なアミノ酸が付加されても立体構造は変化します。これにより、鍵の構造が変わり、鍵穴との結合力が変化します。鍵と鍵穴がより密着できるようになれば感染力は強くなりますが、逆に密着が弱くなり感染力が低下する場合もあります。

この様なお話をすると、多くの変異を普通に持ち始めている新型コロナウイルスを過剰に恐れられる方がいらっしゃるかもしれませんが、ご安心下さい。再感染された1人目の方では2回目接種後19日目に「咽頭痛」、「鼻詰まり」、「頭痛」、「嗅覚異常」が出現していますが、1週間で症状は消失しています。2人目の方では、2回目接種後36日目に「倦怠感」、「鼻詰まり」、「頭痛」が出現し、約1週間で回復に向かわれています。また、1人目の感染者では1mLの唾液中に195,000個のウィルスが、2人目では400個のウイルスしかPCRで検出されていません。100万個以上のウイルスが新型コロナウイルス感染には必要と言う報告からすると(Marks M, Lancet Infectious Disease, 2021, 2/2)、2人の再感染者が他人にうつす可能性は非常に低いと考えられます。つまり、ウイルスが変異してワクチン接種にも関わらず感染したとしても、「軽症で済み人にうつす可能性も低くなる」と言うことです。実は、これがワクチンの真の目的です。

免疫軍は、「先鋒の自然免疫部隊」、「副将のT細胞部隊」、「抗体を産生する大将のB細胞部隊」に大別できます。自然免疫部隊とT細胞部隊はウイルスと「接近戦で戦い」撃退します。つまり、敵が我々の体内に入って来て戦い始めるため、何らかの症状がでてしまいます。一方、B細胞部隊は「飛び道具である中和抗体」が使えます。中和抗体は離れた場所から敵の侵入に必要な鍵を破壊するため、敵は我々の体内に侵入できなくなります。つまり、新型コロナウイルスは感染ができなくなるわけです。ファイザー社やモデルナ社のRNAワクチンそしてアストラゼネカ社やジョンソン・エンド・ジョンソン社のDNAワクチンと言った「次世代型ワクチン」は予想を遥かに超えた効果です。強力な中和抗体産生を誘導してくれ、感染予防も完璧に行ってくれています。よって、「ワクチン = 感染予防」と思われがちですが、ワクチンの本来の目的は「感染しても死につながる重症化を起こさせない」です。「鍵という限られた標的」を狙うB細胞の手法では、変異が得意なウイルスにいつかは攻略される可能性があります。しかし、ウイルスがどんなに変異しても、接近戦によりウイルスの体のどこへでも攻撃が仕掛けられるT細胞部隊は、手こずりながらも敵を撃退してくれます。良い例が季節性インフルエンザかもしれません。「ワクチンを接種したのに、感染してしまい体がきついや熱が出た」という経験がある人もいらっしゃると思います。季節性インフルエンザも日々変異を続けているため、ワクチンで備わったB細胞部隊の攻撃が、敵にかわされて感染してしまいます。しかし、T細胞部隊が手こずりながらもウイルスを撃退してくれるため、症状が出ても死につながる重症化を起こさずに済みます。つまり、ワクチンは「感染を予防する」だけでなく、「重症化の予防」も担ってくれています。「高齢」、「基礎疾患」、「肥満」など新型コロナウイルス感染により重症化のリスクが高い方はワクチン接種を強くお勧めします。日本集中治療学会の2021年4月21日のECMOnetによると、大阪府でECMO装着が必要となった感染者の平均年齢が67歳から、変異株に置き換わった第4波では53歳へと下がっています。世界で認められているように、日本でも変異株が主流をなすと考えられるため、40歳以上の中年層の方も積極的にワクチンを接種をされた方が無難かもしれません。また、肥満に関する691万人を対象とした調査結果が2021年4月28日に報告されました(Gao M, Lancet Diabetes Endocrinology 2021, 4/28)。肥満の定義はボディーマスインデックス(BMI)が30以上で、正常は18.5から25の範囲です。驚くことに、「BMIが23を超える」と新型コロナウイルスの重症化の危険性が出始め、体重の増加に正比例して重症化率も増えると報告されています。体重と重症化の比例は「40歳未満の若年者」に強く認められるようです。40歳未満でもBMIが23を超える方はワクチン接種を受けられた方が無難と思います。

「(40) 季節性インフルエンザとの違いは?」への追記
新型コロナウイルスは合胞体と呼ばれる細胞を作り出す、つまり我々の細胞を接着剤で引っ付ける特徴があるようです(Braga L, Nature 2021, 4/7)。これは「RSウイルス」の特徴で、特殊な季節性の感染様式を示します。季節性インフルエンザ感染は冬に増えますが、RSウイルスは冬ばかりでなく「朝と昼の寒暖差の激しい春先」にも増えるようです。また、ウイルスは変異を繰り返すため、最近では秋にもRSウイルスの感染拡大が認められるようになっています。気象予想士の天達武史さんが「いよいよ初夏に入る」と言われていました。新型コロナウイルスにとって感染拡大を起こしにくい季節に入るとひたすら願っています。新型コロナウイルスは合胞体を作り出すことによりウイルス自体も増えている可能性が2021年4月23日に報告されました(Asarnow D, Cell 2021, 4/23)。また、鍵穴をねらう抗体(中和抗体)に加えて、合胞体形成を抑制できる抗体も新型コロナウイルスの増殖を阻止できるようです。

「(45) 後遺症は?」への追記
季節性インフルエンザと比較した新型コロナウイルスの後遺症に関する調査結果が2021年4月22日にも報告されました(Al-Aly Z、Nature 2021, 4/22)。新型コロナウイルス感染による軽症者73,435人、重傷者13,654人、季節性インフルエンザて入院治療が必要となった方13,997人が調査対象となっています。新型コロナウイルス感染で重症化した感染者では回復しても、季節性インフルエンザよりも後遺症が残り易いようです。新型コロナウイルス感染で重症化して起こりやすい後遺症は、「心筋梗塞などの冠動脈疾患」、「血栓による塞栓症」、「脳梗塞」、「肺の障害に伴う低酸素血症」のようです。やはり、「血管が詰まりやすい状態」で、血栓症予防が新型コロナウイルスに対する最善策と個人的には強く信じています。

 

 

 

[64版への追記箇所]
「(11) 日本の救命率は?」への追記
フランスからECMOの治療成績が2021年4月19日に報告されました(Lebreton G, Lancet Respiratory Medicine 2021, 4/19)。「高齢者」、「腎機能の低下している方」、「心停止で搬入された感染者」、「人口呼吸器装着からECMOへの移行期間が長い患者さん」では救命が難しいと報告されています。フランスでECMOを装着された新型コロナウイルス感染者の90日目の生存率は46%のようです。一方、日本集中治療学会のホームページによると2021年4月21日時点で、ECMOが装着されて回復された患者さんは330人で、亡くなられた患者さんは186入と報告されています。生存率は63%の計算になり、フランスより非常に高い生存率です。日本の最先端医療に心より感謝申し上げます。

「(19) 再感染は?」への追記
海兵隊に入隊した18歳から20歳の新兵さん3,249人を対象とした、新型コロナウイルスの再感染の調査結果がフランスから2021年4月15日に報告されました(Letizia AG、Lancet Respiratory Medicine, 2021, 4/15)。入隊時の抗体検査で、中和抗体が1:150以上ある方を感染歴有りと判断されています。182人が抗体陽性で、その後PCR検査で再感染が認められた方は19人(10%)です。一方、2,247人が抗体陰性で、その後1,079人(48%)が感染されています。また、抗体陽性でありながら再感染した方は、皆さん抗体量(抗体価)が低かったようです。しかし、新型コロナウイルスに感染しても、ウイルス量は抗体陰性の方に比べて10倍少ないと報告されています。つまり、「新型コロナウイルスに感染して無症状や軽症で済んだ方の5人に1人は再感染する可能性があるが、人にうつす可能性は低い」と考えて良いと思います。

「(22) 原始人が教えてくれる新型コロナウイルスは?」への追記
新型コロナウイルスに感染歴がなくともT細胞軍の中のCD8と呼ばれる接近戦の専門家は、新型コロナウイルスを攻撃できる事が2021年4月13日と4月15日に報告されました(Lineburg KE、Immunity 2021、4/13; Nguyen HO、Immunity 2021, 4/15)。中和抗体と異なり、CD8特殊部隊は、新型コロナウイルスの鍵(スパイク)ではなく、「B7/N105」と呼ばれる角の部分を記憶して攻撃を仕掛けます。つまり、新型コロナウイルスの角を掴み、接近戦で敵の急所を刺し、傷口から毒を塗り込み敵を完全に撃退してくれる心強い味方です。CD8特殊部隊に司令を出すためには、ヒト白血球抗原(HLA)と呼ばれる抗原提示分子が必要です。HLAは何千種類もあり、各個人はCD8特殊部隊用に6種類の、CD4特殊部隊用に2種類のHLAを持っています。つまり、持っているHLAは人それぞれ異なります。「HLA-B*07:02」と呼ばれるHLAを持っている人に新型コロナウイルスを撃退してくれるCD8特徴部隊が備わっているようです。これらのCD8特殊部隊の起源については論争中です。季節性コロナウイルスの感染による交叉免疫により生まれた可能性(Lineburg KE, Immunity 2021, 4/13)と人類に元々備わっている原始的な細胞の可能性(Nguyen HO、Immunity 2021, 4/15)が少なくともあるようです。しかし、起源が何にしろ、新型コロナウイルスを撃退してくれるCD8特殊部隊が備わっている方がいらっしゃる事は、これまで蓄積された結果から間違いないと思います。

「(28) ワクチン接種回数は?」の章の「ワクチン投与法」への追記
2021年4月16日の報道によると、調布市はワクチン接種会場を駅前に設置され、接種を受ける方は動かず、医療従事者が動いて問診や接種を行われるようです。個々の間には遮蔽板も設置され、本当に素晴らしい対応で感銘を受けています。既存の概念にとらわれず、皆さんが知恵を出しあわれる事こそが、できるだけ早く新型コロナウイルスに打ち勝つための最善策と個人的には信じています。2021年4月18日の情報番組で河野大臣が「ワクチンは現時点で予定通り国内に入って来ており、自治体から足りないとの要請があれば、いつでも追加供給が可能な状態」とおっしゃっていました。どれだけ早く各自治体がワクチン接種を多くの住民に行えるかが今後の鍵となるのかもしれません。

「(29) ワクチンの副反応とアナフィラキシーは?」の章の「DNAワクチンによる血栓症の可能性」への追記
アストラゼネカ社のDNAワクチン接種後に血栓症が起こった23人の調査結果が2021年4月16日にイギリスから報告されました(Scully M, New England J Medicine 2021, 4/16)。血栓症は1回目の接種後6日目から24日目に起こっています。14人は女性で、平均年齢は46歳(21歳から77歳)と報告されています。やはり、「血栓症と血小板の減少」が特徴のようです。フィブリノーゲンは低下か正常で、Dーダイマーは増加するようです。特記すべき所見として、22人に「血小板第4因子(PF4)に対する自己抗体」が認められています。ドイツとオーストラリアからも同様の結果が2021年4月9日に報告されています(Greinacher A、New England J Medicine, 2021, 4/9)。アストラゼネカ社DNAワクチンの1回目接種後5日目から16日目に11人の方に血栓症が起こっています。9人は女性で平均年齢は36歳(22歳から49歳)と報告されています。血栓症は多臓器に起こる可能性があるようで、11人中9人に「脳静脈血栓」が、3人に「内臓静脈血栓」が、3人に「肺塞栓」が認められています。また、PF4に対する自己抗体も陽性と報告されています。ノルウェーからも同様の結果が4月9日に報告されています(Schultz NH, New England J Medicine、2021, 4/9)。アストラゼネカ社のDNAワクチンを1回接種して7日目から10日目に5人の方に血栓症が起こっています。やはり、「血小板の減少と血栓症が特徴」のようです。これまでの報告からすると、アストラゼネカ社のDNAワクチン接種では「1回目の接種後2週間以内に比較的若い女性に、抗PF4抗体陽性で血小板の減少を伴う静脈の血栓症が起こり易い」のかもしれません。このようお話しをすると、ワクチンは怖いと思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、ご安心ください。管総理が訪米中にファイザー社CEOと交渉され、RNAワクチン5000万回分の追加供給が9月までに可能となったようです。日本で既に使用され安全性が担保されているファイザー社のRNAワクチンで接種対象年齢全員に接種が可能な計算になります。ほっと一安心です。

新型コロナウイルスの「鍵、手、手首すべてを含むスパイク領域」を用いるDNAワクチンの副作用が新型コロナウイルスの正体を明らかにしてくれるのかも知れません。「血小板第4因子(PF4)」は血小板自体が持つ物質です。PF4に対する抗体の産生は「ヘパリン起因性血小板減少症」と呼ばれ病気の特徴で、未だ機序は謎で厚生労働省の難病に指定されています。血を固まらなくするために治療としてヘパリンを投与する場合がありますが、これにより抗PF4抗体が産生され始め、血が固まらなくなるどころか逆に固まり始めて血栓を作る奇病です。DNAワクチン接種後に血栓症が起こった方では入院時、つまりヘパリンとは無関係に既に抗PF4抗体ができています。DNAワクチンに用いられるベクターの影響も否定はできませんが、新型コロナウイルスの「鍵、手、手首を担うスパイク」と呼ばれる部位が、ヘパリン様の作用を起こしヘパリン起因性血小板減少症に類似した血栓症を引き起こしている可能性があるのかもしれません。新型コロナウイルスの血栓を作る機序が解明できれば、死につながる可能性のある敵のテロ行為を防ぐことができ、新型コロナウイルスを恐れる必要はなくなるのかもしれません。

「(30) ウイルスの変異は?」の章の「その他の変異株」への追記

ブラジル由来の変異株とそれ以外の新型コロナウイルスの感染力の比較が2021年4月14日に報告されました(Faria NR, Science 2021, 4/14)。ブラジル由来変異株では感染拡大速度が1.7倍から2.4倍、死亡率が1.2倍から1.9倍増加すると報告されています。また、ブラジル由来変異株では「N501Y」、「E484K」、 「K417T」の三箇所の変異に加え、「L18F」、「T20N」、「P26S」、「D138Y」、「R190S」、「H655Y」、「T1027I」の最低でも7箇所の変異も起こってきているようです。ウィルスの変異を止める事ができないことは季節性インフルエンザが既に教えてくれています。また、米国NIHのアンソニーファウチ所長が言われるように「変異株が僅か数%検出できた段階でも、既に数ヶ月前から徐々に感染拡大が始まっている」と考えるのが科学的に妥当です。つまり、変異株が増え始めてからの変異の検査は、変異株ごとに治療法が異なる場合は意味がありますが、無い場合は意味が殆ど無いと思います。例えば、崖崩れが起こっている最中では止めようがありません。しかし、崖崩れの起こる場所を予知して未然に防ぐことは可能です。つまり、危険性の高い変異株を予知・早期発見する事が重要で、全都道府県に観察地点を数か所設置し継続した検査が科学的にも合理的と思います。また、ウィルスは日々変異を続けるため、「既存の変異」だけを検査しても意味はなく、ウィルスRNAの全長が解析できるシークエンス法が必要となります。

「(31) 変異したウイルスに対するワクチン効果と各自の対策は?」の章の「ブラジル由来変異株「E484K + N501Y + K417T」」への追記
ブラジル由来の変異株に対して、モデルナ社のRNAワクチンに誘導される中和抗体の効果は4.8倍、ファイザー社のRNAワクチンで誘導される中和抗体の効果が3.8倍低下する可能性が「生体外の実験」を用いて2021年4月17日に報告されました(Wang P、Cell Host Microbe 2021, 4/17)。中和抗体の「生体内の効果」は対数的、つまり10倍単位の変化でようやく影響を与えます。また、中和抗体以外にもT細胞部隊が実際は生体内でウイルスの撃退を行ってくれていますが、中和抗体の生体外実験ではT細胞の効果は加味されません。つまり、生体外実験でのこの程度の低下では、これまで蓄積された結果からすると、大勢に影響は無いと考えて良いと思います。

「(36) お腹の免疫から考える新型コロナウイルス対策は?」への追記

イギリスから48,400人の新型コロナウイルス感染者を対象とした非常に興味深い調査結果が2021年4月13日に報告されました(Sallis R, British Journal of Sports Medicine, 2021, 4/13)。高血圧や閉塞性肺障害よりも、「運動不足」が新型コロナウイルス感染の重症化を起こしやすいようです。運動をしている人に比べて、運動をしていない人の入院治療が必要となる重症化は2.26倍、死亡率は2.49倍も増加するようです。運動の定義は「早歩きなどを一週間に最低2時間30分以上」と定義されています。「歩く時は早歩き」を心掛けたり、緊急事態宣言下では「自宅でテレビを見る時、立って足踏みをしながら見る」など体を動かすようにお心がけ下さい。

「(40) 季節性インフルエンザとの違いは?」への追記
新型コロナウイルスは「合胞体」と呼ばれる細胞を作り出す、つまり我々の細胞を接着剤で引っ付ける特徴があるようです(Braga L, Nature 2021, 4/7)。これは「RSウイルス」の特徴で、特殊な季節性の感染様式を示します。季節性インフルエンザ感染は冬に増えますが、RSウイルスは冬ばかりでなく「朝と昼の寒暖差の激しい春先」にも増えるようです。また、ウイルスは変異を繰り返すため、最近では秋にもRSウイルスの感染拡大が認められるようになっています。気象予想士の天達武史さんが「いよいよ初夏に入る」と言われていました。新型コロナウイルスにとって感染拡大を起こしにくい季節に入るとひたすら願っています。

 

 

[ワクチン副反応とアナフィラキシーのまとめ(2021416日時点)]

ワクチンは模擬のウイルスを使った「実践訓練」で「机上の勉学」ではありません。よって、ワクチン接種後早期に先鋒である自然免疫軍が実際にサイトカインと呼ばれる可溶性因子を産生します。これにより「接種部の痛みや腫れ」、「頭痛」、「倦怠感」、「微熱」などが起こります。つまり、殆どの「副反応」と呼ばれる現象は、新型コロナウイルスに対する免疫軍の訓練の開始を教えてくれ、恐れる必要はないと思います。

私もファイザー社のRNAワクチンを2021322日に接種しましたが、免疫機構の経時的変化を身をもって体験させてもらいました。夕方に接種しましたが、当日は全く何もありませんでした。翌朝になると、接種部位に違和感があり、押さえると痛みを感じました。昼になると腕を上げると痛みを感じるようになり接種部位が少し腫れた状態でした。その後、症状は徐々に消失し、4日目には押さえても全く痛みを感じなくなりました。これが、まさに免疫反応です。

今回のファイザー社のワクチンはRNAのため、筋肉細胞に取り込まれた後に、新型コロナウイルス由来のタンパク質に変換されて初めて働き始めます。よって、タンパク質に変換されるまでは、免疫細胞はワクチンで接種された溶液を異物としては認識しません。よって、接種後数時間は無症状のはずです。もし、この段階で免疫細胞が働いた場合はワクチンの添加物である脂肪粒子に反応した事になり、アレルギー反応が強く疑われます。筋肉細胞内に取り込まれたRNAがタンパク質に変換され蓄積されて来ると、いよいよ「先鋒の自然免疫軍の実戦訓練開始」です。私の場合は、夕方に接種して翌朝に痛みが出たので、実戦訓練開始までに12時間以上を要したのかもしれません。自然免疫軍は、筋肉から放出された新型コロナウイルス由来のタンパク質をがむしゃらに食べ始めます(貪食)。これにより炎症性サイトカインと呼ばれる可溶性因子を作りだし、接種部位周辺に撒き散らかします(免疫の基礎概念についてはPDF版「(1)免疫の基本概念は?」をご参照下さい)。

炎症性サイトカインは幾つかの作用を持ちます。「痛みを誘導」して血管の細胞にも働きかけます。これにより、血管の壁を作っている細胞の間が開いてしまい、その隙間から血管内の水分が漏れだし始めます。結果、漏れだした水分が組織に溜まり「接種部位の腫れ」が起こってきます。また、血管の壁の繋ぎが緩むため血管が開き、血流も増えるため接種部位の「熱感」や「発赤」が起こります。

 

 接種部位で炎症性サイトカインを放出した後、自然免疫軍の精鋭部隊は、筋肉から所属リンパ節へと移動します。所属リンパ節は、身体中を循環している獲得免疫軍の休息の場です。ここで、樹状細胞は休息している獲得免疫軍のT細胞部隊に指示を出します。ワクチン接種部位で食べてきたワクチン由来のタンパク質の一部をT細胞部隊に見せて(抗原提示)、「このタンパク質は敵の一部なので、このタンパク質を持っている相手に遭遇したら敵とみなして即座に攻撃を行え」と指示します。これにより、T細胞部隊は敵を覚え、再び遭遇したら時差なく攻撃ができるようになります。自然免疫細胞は「T細胞にハッパをかける」ため、再び炎症性サイトカインを放出します。炎症性サイトカインは脳細胞に作用して発熱物質としても働きます。また、所属リンパ節は身体の主要幹線道路に位置しています。よって、炎症性サイトカインが幹線道路である血液中に放出され、全身を駆け巡ります。結果、脳細胞も刺激されて「微熱」が出始めます。また、全身の血管が少し開くため「頭痛」や「倦怠感」を感じることもあります。また、「悪寒」、「関節痛」、「悪心」などを起こす可能性もあります。免疫力の強い方では炎症性サイトカインが多く放出されるため、38℃を超える発熱もでるかもしれませんが、解熱薬を数回服用されれば熱は下がると思います。

すなわち、接種後数時間してから感じる「接種部位の痛みや腫れ」、「37度台の微熱」、「悪寒」、「倦怠感」、「頭痛」などの副反応は、ワクチンによる「免疫軍の訓練開始の証」であり、恐れられる必要はありません。私は、このような副反応が出ると「免疫軍が訓練を開始した」と安心すると共に「免疫軍がんばれ!」と心の中で呟いています。

私は412日に2回目の接種を終えました。免疫記憶にもとづく反応も教科書どおりに起こることを、身をもって再認識させられました。午後4時に接種し午後8時頃に「接種部の痛み」と同時に「さむけ(悪寒)」と「倦怠感」が出現しました。翌朝には37.3℃の微熱と倦怠感がありました。仕事中も倦怠感と悪寒が続き、早めに仕事を切り上げ帰宅して熱を測ると38.5°Cになっていました。解熱剤を飲み早々に就寝し、朝起きると汗でびっしょりの状態で、体温を測ると36.6°Cの平熱に戻っていました。その後は何も問題はありませんでした。このようなお話をすると副反応は怖いと思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、逆に「ワクチンが命を救ってくれた」と感謝するべきかもしれません。理由は、私の副反応を例にとると以下のようになります。

新型コロナウイルスの一部を接種するワクチンに対しでさえ、38.5°Cの高熱が出てしまいました。もし本物の新型コロナウイルスに感染していたら同様の反応が起こっていた事になります。RNAワクチン接種では、打ち込まれたRNAと同じ数の新型コロナウイルス由来のタンパク質しか最大でも作られません。よって、免疫軍がヘマをやらかしても、敵は増えないため問題なく訓練は終了します。よって、副反応は数日で自然に消失するはずです。一方、実際の感染では、新型コロナウイルスは生きているので増える事ができます。よって、免疫軍がヘマをすると、その隙をついてウイルスはネズミ算式に増えてしまい、最悪の場合は重症化にもつながります。つまり、ワクチンでは一晩で熱は下がりましたが、実際に新型コロナウイルスに感染していたら「より高い熱が数日続いた」と考えられます。

最も注意しなくてはいけないのは、新型コロナウイルスは「血栓症をテロ行為として仕組んでくる」点です。朝起きて汗びっしょりになっていたと言う事は、寝ている間は水分補給ができないため「脱水状態が長時間続いた」ことになります。脱水は血栓を起こしやすくするため、実際に感染していたら「新型コロナウイルスの思う壷」にはまってしまいます。事実、新型コロナウイルス感染の重症化因子の一つは、38.439℃を超える高熱です。高血圧治療中の私は血栓症のリスクが高いため、もしワクチンでなく実際の新型コロナウイルス感染であったならば、朝起きると肺に血栓ができてしまっており、そのまま救急車で救命センターに運ばれていた可能性も充分考えられます。

実際に新型コロナウイルスに感染すると、ワクチン接種の副反応で起る以上の問題が起る事になります。私の副反応から考えると、実際に新型コロナウイルスに感染していたら私は死んでいた可能性もあったと思います。心からRNAワクチンに感謝しています。

実際の新型コロナウイルス感染とは異なり、RNAワクチン接種による副反応は殆どが「想定内の反応」で

す。個人差は勿論ありますが、熱が出ても一過性で済みますし、痛みが強くても自然に消失すると思います。米国CDCによると、ファイザー社のRNAワクチンを接種された1,215万人のうちの副反応の頻度は、「接種部の痛み67.7%」、「倦怠感28.6%」、「頭痛25.6%」、「接種部以外の筋肉痛17.2%」、「発熱7.4%」、「関節痛7.1%」、「悪寒7%」、「悪心7%」、「接種部の腫れ6.8%」と報告されています。また、ファイザー社のRNAワクチンで起る副反応の頻度は、「50歳未満で65%」、「50歳から65歳未満で25%」、「65歳以上で4%」のようです。また、「新型コロナウイルスの過去の感染歴」がある方や「1回目接種より2回目接種」で強い副反応がでるようです。やはり、免疫力が強ければ強いほど副反応も強いようです。

「免疫力が弱っているのでワクチンを打っても効果が無い」と思われている高齢者の方がいらっしゃるかもしれませんが、誤解です。RNAワクチンは免疫力の低下した高齢者でも、新型コロナウイルスを撃退するために充分な抗体産生を誘導する事が既に報告されています。高齢者では、RNAワクチン接種で「副反応も少なく、死にもつながる可能性がある新型コロナウイルス感染が予防」できることになり、これほどの幸運はないのかもしれません。

しかし、免疫軍がワクチンに対して過剰に反応すると、想定外の反応が起こる方も稀にいらっしゃるかもしれません。「解熱剤を飲んでも38度を超える発熱が続く」、「接種部の腫れや痛みが接種後24時間を超えても悪化を続けている」、「麻痺」などが起こった場合は、かかりつけ医または指定のワクチンセンターにご相談ください。また、「アナフィラキシーショック」や「DNAワクチンの副作用として血栓症が起こる可能性」にご興味がある方はPDF版の「(29)ワクチンの副反応とアナフィラキシーは?」をご覧ください。

 

[疫学データのまとめ2021322日時点)]

322日に緊急事態宣言も解除されました。新型コロナウイルスのパンデミックが発生して既に1年が経過し、世界中から膨大なデータが既に蓄積されているため2021322日時点でのデータを整理してみました。また、人口規模や経済状態により感染対策の効果も異なるため、人口・経済状態が近いG7加盟国と比較して表にまとめています。

 

(新型コロナウイルス感染死者数):札幌医科大学フロンティア医学研究所のデータを見ると、日本の新型コロナウイルス感染による死者数はG7加盟国に比べて非常に少ないのが現実です。2021322日時点で100万人あたりの死者数は、日本が69人、カナダが600人、ドイツが892人、フランスが1,411人、アメリカが1,638人、イタリアが1,735人、そしてイギリスが1,861人で最多です。イギリスの死者数は日本の約27倍です。つまり、様々な要因により日本人は新型コロナウイルスの重症化から守られていると考えて良いと思います。その要因のうち、日本に根付いている「思いやりのマスク文化」が多大な貢献をしてくれていると個人的には思います。

 

(重症化年齢):世界各国と同様に、死につながる重症化は日本でも高齢者に集中しています。厚生労働省の報告によると2021317日時点の新型コロナウイルス感染による日本での死者数は、49歳以下で73人、50代で183人、60代で601人、70歳以上で7,059人です。また、新型コロナウイルス感染による高齢者の死者数は季節性インフルエンザによる例年の死者数3,325人を超えています。しかし、高齢者に起こる「誤嚥性肺炎」による例年の死者数35,788人よりは少ないのも事実です。誤嚥性肺炎は肺炎球菌などの日和見感染菌が起こします。つまり、感染しても健常人では何も起こりませんが、高齢者だと致死的な肺炎を起こしてしまう可能性のある細菌です。また、肺炎球菌も共存が必要で、約35%の高齢者に常在しています。高齢者施設などに焦点をあてた重点的検査、さらには陽性となった高齢者に対する早期の予防的治療介入が尊い命を守るためには必要なのかもしれません。

 

(超過死亡):The Center for Evidence Based Medicine202133日の報告によると、2020年の総死者数は新型コロナウイルスの影響により、G7加盟国では3.3%から12.9%の範囲で増加を認めています。一方、厚生労働省の人口動態統計速報値によると、日本の20201月から10月の死者数は逆に1.1%減少しています。「自粛」に依存した状態での「死者数の増加ではなく減少」という驚きの結果は、日本人の「国民性の高さ」さらには世界トップの救命率を誇る「集中治療医療の質の高さ」の賜物かもしれません。

 

(自殺者数):警察庁によると、2020年の日本の自殺者数は2019年に比べて4.5%増えています。特に、2019年に比べて2020年の自殺者は、20歳代で404人、10歳代で118人も増加しており「若年者の自殺者増加が顕著」です。また、女性の自殺者も増加しています。将来の日本を背負う若者達が、新型コロナウイルスによる重症化が季節性インフルエンザよりも低いにも関わらず自らの命を絶つ状況です。「数か月先を見る」のではなく、「10年先を冷静に見据える」時期に入ったのかもしれません。(委細ははPDF版の「(37)新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは?」をご参照下さい)

 

 

 

(国内総生産):経済協力開発機構(OECD)によると、G7加盟国のうち、2020年の国内総生産(GDP)の最大の減少を認めたのはイギリスの9.9%で、最小の減少はアメリカの3.5%です。日本では4.8%の減少を認めています。G7加盟国中、新型コロナウイルス感染による死者数は最低なうえ、GDP低下も2番目に少ない結果です。

 

PCR検査数):OECDによると、第1波が発生した昨年5月時点での人口1000人あたりのPCR検査数は、G7加盟国ではイタリアの34.9件を筆頭に、軒並み10件を超えていますwww.oecd.org/coronavirus/policy-responses/testing-for-covid-19-a-way-to-lift-confinement-restrictions-89756248/)。一方、日本は2.2件とPCR検査数は非常に少ないにも関わらず、新型コロナウイルス感染者数と死者数がG7加盟国中で最も少ないのも事実です。また、厚生労働省によると、昨年5月(第1波)に比べて12月(第3波)ではPCR検査数は約10倍に増えています。しかし、感染者数と死者数は共に第3波で顕著に増えたことは周知の事実と思います。単にPCR検査数を増やしたからといって、感染拡大抑制にはつながっていないのかもしれません。事実、319日の報告では、「受けたい方が検査を受ける」PCR検査体制では、「感染者を減らすどころか、逆に24%も増加させる」危険性も報告されています。重症化やクラスター発生の危険性が高い高齢者関連施設などへの重点的調査介入が有効なことを蓄積された結果が教えてくれているのかもしれません。PCRについてはPDF版「(17)PCRは?」をご参照下さい)

 

(医療体制):OECDによると、G7加盟国のうち人口1000人あたりの医師数は日本が最低で2.5人、次がアメリカの2.6人です。最多はドイツの4.3人です。また、医療従事者数(Total health and social employment)は最低がイタリアの32人で、最多はドイツの71人です。日本は65人です。人口1,000人あたりの病床数は、日本がダントツの13ベットで、最低はカナダの2.5ベットです。東京都の人口が1,200万人とすると東京都には15万以上の病床がある計算になり、医療崩壊は数値的には考えにくい状況です。G7加盟国の中で実際に医療崩壊を起こした国はイタリアだけです。ワクチン接種も開始され、少なくとも「予防法」が存在するステージに入ってきました。医療崩壊に繋がりかねない、過度な規制による「過剰な仕事量」や「風評被害」に伴う医療従事者の疲弊を法的緩和していく時期に入ったのかもしれません。

 

 

(変異株):イギリス由来の変異株による感染がG7加盟国の主流となっており、日本でも同様の結果が想定されます。イギリス由来の変異株は、感染力が少し強くなるため、それに伴う高齢者の死亡率の増加も報告されています。しかし、60歳未満の死亡率は変わらないようです。また、日本で使用される可能性があるワクチンは、全てイギリス由来の変異株に有効です。一方、南アフリカ由来の変異株に対しては最大限の注意が必要です。(変異株についてはPDF版の「(30)ウイルスの変異は?」と「(31)変異したウイルスに対するワクチン効果と各自の対策は?」をご参照下さい)

 

[ワクチンのまとめ2021223日時点)]

多くの方から「ワクチンは安全か?」、「接種する必要はあるのか?」など様々なご質問を頂きましたので、ワクチンについて各々のご質問に則してまとめさせて頂きました。

(ワクチンの機序):免疫軍は、先鋒、副将、大将の順にウイルスとの戦いに加わって来ます。しかし、柔道と違う点は、別々に戦うのでなくチームとして戦います。つまり、最初は「先鋒だけ」、次は「先鋒と副将が協力」して、最後には「先鋒、副将、大将が総動員されたワンチーム」として戦いに挑みます。先鋒に勝っても、次には先鋒と副将の二人がかりでかかってこられ、それでも勝ちをおさめても、大将までまじえた先鋒と副将の3人がかりでかかってこられるわけです。これでは、どんなに強いウイルスでもひとたまりもありません。しかし、過去に感染した事のない未体験のウイルスに対しては、副将と大将が戦えるようになるには72時間以上が必要です。この間は、先鋒のみで戦わなければならず、敵の数が多いと苦戦してしまいます。このスキをぬって、ウイルスはネズミ算式に増え敵に優位な状況が作られてしまいます。また、ウイルスが増えるため、他人にうつす可能性もでてきます。この攻撃の時差を無くしてくれるのがワクチンです。ワクチンは、新型コロナウイルスに感染した時の対策を、先鋒、副将、大将の順に段階的に教えていきます。よって、ワクチンの効果がでるには2週間近くがかかります。その後、本物の新型コロナウイルスに感染すると、ワクチンで教育された先鋒、副将、大将が同時に総攻撃を即座にしかけ、一挙に敵を一網打尽にしてくれます。つまり、ワクチンは新型コロナウイルスが体内に入れないように水際作戦を担うわけでなく、入って来たウイルスを症状がでないうちに免疫軍が一網打尽にできるようにしてくれます。また、あっと言う間に敵を倒すので、ウイルスは増える事が出来ず、他人にうつす可能性もほぼ無くなります。

ワクチンは模擬のウイルスを使った「実践訓練」で「机上の勉学」ではありません。よって、ワクチン接種後早期に先鋒である自然免疫軍が実際にサイトカインと呼ばれる可溶性因子を産生します。これにより「接種部の痛みや腫れ」、「頭痛」、「倦怠感」、「微熱」などが起こります。つまり、「副反応」と呼ばれる現象は、新型コロナウイルスに対する免疫軍の訓練の開始を教えてくれ、恐れる必要はないと思います。一方、アナフィラキシーの機序は異なります。T細胞軍には、感染症に対処するTh1部隊と、アレルギーを起すTh2部隊が存在し両者が拮抗しあっています。Th1部隊は病原体のもつ抗原を認識して増え、Th2部隊はアレルギーの原因となるアレルゲンを認識して増えます。ワクチンは病原体の抗原を接種してTh1部隊を増やす手法です。しかし、重度なアレルギーがある方はTh2部隊が常時優位な状態にあり、ワクチンの添加物である脂肪をアレルゲンとして誤認して、Th2細胞部隊が増えてしまう可能性があります。アナフィラキシーが起こる危険性は新型コロナウイルスRNAワクチンでは約20万人に1人で、季節性インフルエンザワクチンの約100万人に1人より少し高くなります。よって、過去にアナフィラキシーを発症された経験のある重篤なアレルギー疾患の方はRNAワクチン接種対象から外されています。

 

(ワクチンの必要性):G7加盟国の新型コロナウイルス感染による死者数の動向をみると、2つのパターンに大別できます。昨年23月の第1波で多くの死者を出した国では、昨年12月から今年1月の第2波の死者数は第1波に比べ同程度、やや減少、または僅かに増加しています。イタリア、アメリカ、フランス、カナダ、イギリスがこのパターンを示しています。一方、第1波を抑え込み死者数が少なかった国では、第2波の死者数は約24倍に増えています。このパターンはドイツや日本に認められます。すなわち、いくら都市封鎖により死者数を一時的に抑え込んでも、いつかは「死者数の爆発的増加を認める波」がくるという事です。

 

 

言葉は悪いですが、共存が必要なウイルスが出現すると「サバイバルゲーム」が始まります。人類全員が感染して免疫を持つまでは終息はなく、感染に負けた方は亡くなり、打ち勝った方は生存していくことになります。過去の代表例は「スペイン風邪」かもしれません。この様なサバイバルゲームに終止符を打ったのがワクチンです。実際の感染に比べてリスクを極限まで低くしたワクチンにより、人類全員が感染したのと同じ状況を作り出してくれます。例えば、乳幼児にとって、出会う病原体全てが初めての体験になります。よって、ワクチン開発以前には多くの乳幼児が「サバイバルゲーム」を克服できずに亡くなっていました。1920年代には乳幼児期に1000人中189人(18.9%)が亡くなっていますが、現在ではワクチンさらには衛生状態の改善により乳幼児期の死亡率は1000人中約2人(0.19%)まで著減しています。本邦で乳幼児に接種されているワクチンは、「結核」、「ロタウイルス」、「ジフテリア」、「百日せき」、「破傷風」、「ポリオ」、「はしか」、「風疹」、「みずぼうそう」、「おたふくかぜ」、「季節性インフルエンザ」、「日本脳炎」、「B型肝炎」、「肺炎球菌」です。これほど多くの病原体と我々は既に共存しており、ワクチンのおかげでこれらの病原体との「サバイバルゲーム」に打ち勝ってきた事になります。一方、ワクチン接種が充分にいきわたらないアフリカでは乳幼児の死亡率は未だ1000人中77人です。この様にワクチンは「サバイバルゲームを解消してくれた救世主」です。しかし、新型コロナウイルスを「今共存しているウイルス」と同程度の風土病にするためには、最低でも「全国民の60%以上」が接種を受けなければ意味がありません。もし、60%に到達しなければ、今年12月には再び緊急事態宣言を発令しなくてはいけない状況が訪れる可能性も否定はできず、日本国の財政破綻さえも危惧されるのかもしれません。

 

(ワクチンの効果):ファイザー社のRNAワクチン接種が世界で最も進んでいるイスラエルからワクチン効果について2021218日に報告されました。ファイザー社のワクチンは2回の接種が必要ですが、1回目接種後の結果報告です。新型コロナウイルス感染者は、ワクチン接種をしていない方では1万人に7.4人に認められますが、ワクチンの1回接種で、2週間たてば5.5人に、4週間たてば3人にまで減少しています。結果、わずか1回の接種でも8991%の予防効果があるようです。非常に期待がもてる結果です。また、HIVや季節性コロナウイルスといった異なったウイルスを代用した実験により、変異株に対するファイザー社のRNAワクチンの効果について異なった結果が報告されていました。他のウイルスを代用するのでなく、新型コロナウイルス自体を持ちいた実験結果が28日に報告されました(Xie X, Nat Med, 2021, 2/8)。イギリス由来の501番目のアミノ酸が変異した「N501Y」株、さらには南アフリカ由来の3ヶ所のアミノ酸が変異した「E484K + N501Y + D614G」株に対してでさえ、ファイザー社のRNAワクチンは効果があると報告されています。また、「N501Y」変異株に対する中和効率がファイザー社のRNAワクチンで3.3倍、アストラゼネカ社のDNAワクチンで2.1倍低下する可能性が218日に報告されました。「エッ、3倍も低下」と心配されるかたもいらっしゃるかもしれませんが、ご安心下さい。抗体の強さは対数的に変化します。つまり、少なくとも10倍単位の変化で効果に影響が出始めるため、数倍単位で弱くなっても大勢に影響はないことになります。事実、著者たちも「N501Y変異株はワクチンから逃れる事はできない」と締めくくっています。(ワクチン効果についてはPDF版の「(27)ワクチン開発は?」と「(28)ワクチン接種回数は?」をご参照ください)

 

(高齢者とワクチン):「免疫が低下しているのでワクチンは意味がない」と思われる高齢者の方がいらっしゃるかもしれませんが、誤解です。皆さんは体内に様々な病原体を既に持たれています。例えば、リンパ節や脾臓が腫れてサイトカインストームを最も起こし易い「伝染性単核球症」と呼ばれる病気は、「EBウイルス」により引き起こされます。ほとんどの日本人は乳幼児期に親から感染し、EBウイルスを体内に一生涯持ち続けています。体がマヒしてしまい最後は寝たきり状態になってしまう「進行性多巣性白質脳症」という病気を起こす「JCウイルス」も、ほとんどの皆さんが体内にお持ちです。免疫軍が病原体が悪さをしないように常に見張ってくれているおかげで、命さえも脅かすこれらの病原体と我々の身体は日夜一緒に過ごす事ができています。過度な免疫低下により、これらの病気が発症してしまった方は例外ですが、それ以外の高齢者であれば「免疫が今でも伝染性単核球症や進行性多巣性白質脳症から守ってくれている」ように、ワクチンも新型コロナウイルスから守ってくれます。事実、新型コロナウイルスワクチンが71歳以上の高齢者にも有効な事は既に報告されています(Jackson LA, New England J Medicine 2020, 9/27)。

 

「余生が短いので、ワクチンは若者達に回したい」とお考えの高齢者の方もいらっしゃるかもしれませんが、お考え直し頂ければ幸いです。もし、若者達のみに限局して感染が起こっていれば、被害は季節性インフルエンザ以下で今のような状態にはなっていないと思います。高齢者に集中して激増する重症化により、医療の逼迫を招いているのが現状です。もし、ワクチン接種をされず重症化してしまうと、現在の「指定感染症2類相当」、さらには入院拒否すれば罰金を科せられる「特措法」下では、本人の意に反して入院を余儀なくされる可能性があります。すると、集中治療室の病床が使用され、一命をとりとめても、長期間のリハビリテーションが必要になり、集中治療室の病床を長期間に及び使用してしまう結果につながりかねません。これにより満床になれば、交通事故などで搬送される若者の受け入れが不可能となり、救える命を失う可能性もあります。新型コロナウイルスによる医療逼迫を防ぐためには「高齢者の方が重症化しない」、すなわちワクチン接種を早期にして頂く事が最善策と個人的には思います。

 

(過去の感染歴とワクチン):新型コロナウイルスに感染した経験がある方のワクチン接種についての判断は難しいのかもしれません。PCR陽性になった経験があっても、擬陽性の方も多く、発症しても軽症であれば抗体ができていない可能性も高く、ワクチンは受けられた方が無難かもしれません。一方。抗体はできていなくても新型コロナウイルス感染で何らかの症状が有ったヒトでは、1回のワクチン接種で1:100,000という高濃度の抗体産生が誘導され、2回目の接種は必要ない可能性が21日に報告されました(Saadat S, medRxiv 2021, 2/1)。しかし、米国国立衛生研究所(NIH)のアンソニー・ファウチ所長は、「検体数も26人と少なく判断するのは時期尚早」との警告を発せられています。抗体が陰性の方は2回接種するのが無難と私も思います。

 

事実、新型コロナウイルスに感染しても抗体が陰性の方109人の調査では、1回のワクチン接種では不十分な抗体量(11000)しか産生されていません(Krammer F, medRxiv 2021, 2/1)。一方、抗体が陽性であった方41名では、1回のワクチン接種で抗体量は1:10,000以上と充分量に達しているようです。新型コロナウイルス感染により少なからず抗体ができているわけですから、2回目の接種は必要ないかもしれません。また、B型肝炎や風疹などでは抗体濃度を調べて、ワクチン接種の必要性が判断されます。過去の新型コロナウイルス感染で、1:10,000以上の十分な濃度の中和抗体を既に持たれている方は、RNAワクチン接種の必要性はないのかもしれません。(ワクチン接種回数についての可能性はPDF版の「(28)ワクチン接種回数は?」をご参照ください)

 

(重症化リスクとワクチン):ワクチンに限らず、全ての薬に副作用は起こります。また、RNAワクチンは初めて用いられているため、現在の世界の状況から「重篤な副作用は稀」とは言えても、「100%安全で、将来的にも何も起こらない」とは誰も言えないと思います。しかし、少なくとも60%以上の国民がワクチン接種を受けなければ、今と同じ状態が繰り返され国家の財政破綻につながる危険も秘めてきます。よって、「接種による利益はリスクを上回る」と言うのが各国のワクチン承認の判断です。新型コロナウイルスで重症化する要因もわかってきているので、これまで報告された重症化要因をまとめてみました。要因が重なれば重なるほど重症化の危険は増してきます。「自分自身の新型コロナウイルスに対する重症化リスク」、「職場や家庭でうつしてしまう可能性のある方の重症化リスク」、「ワクチン接種による自分自身のリスク」を総合的に考えるうえでご参考にして頂ければ幸いです。

 

 

 

[2020928日時点でのまとめ(新たな情報も少し追記しています)]

20204月に3ページから始めた「新型コロナウイルスに打ち勝つための独り言」も、報告された結果をアップデートしている内に60ページ以上になってしまいました。世界中の医師や研究者の努力により膨大なデータが蓄積されて来ている事を示しています。内容が多くなりすぎたので、2020928日時点での結果を、科学的根拠に基づき表にまとめてみました。

 

(1)       死亡者数から見て、新型コロナウイルスは日本人にとって、基礎疾患の無い49歳以下の方では季節性インフルエンザより怖くなく、高齢者では誤嚥性肺炎よりも怖くないと思います。

 

 

(2)       免疫学的に見て、新型コロナウイルスは「先鋒」である自然免疫でも対処できる「弱い敵」であると思います。ただし、弱いながら免疫軍の目を盗み「血栓」を起こす「テロウイルス」であると考えられます。血栓症を起こしやすい方は注意が必要で、日頃から血栓症予防に心がける必要があるかもしれません。特に、食欲がなくなったり、熱が出たときは十分な水分補給が必要です。(委細はPDF版の「(9)血栓症は?」と「(20)免疫にとっての新型コロナウイルスの強さは?」をご参照ください)

 

 

 

(3)       新型コロナウイルスは弱いため、高齢者でも約4割の方は無症状です。一方、高齢者では獲得免疫が低下しているため、ひとたび症状が出ると約3割の方は重症化してしまいます。すなわち、高齢者施設では、「知らず知らずのうちに感染を広めてしまう方」と「重症化しやすい方」が混在されている状況が推測されます。高齢者関連施設に特化した重点的検査(Focused Protection)、さらには症状が出た方への早期の治療介入が必要かもしれません。(委細はPDF版の「(38)高齢者保護とFOCUSED PROTECTIONは?」をご参照ください)

 

 

(4)       一方、9歳未満の子供達は、新型コロナウイルスに感染しにくく、重症化も起こしにくいため、幼稚園や小学校では季節性インフルエンザに準じた対応で充分なのかもしれません。(委細はPDF版の「(7)新生児、小児、大学生は?」をご参照ください)

 

 

(5)       世界の現在の状況は「集団免疫はできる」事を教えてくれています。ただし、「免疫を持つか?」の判断には、新型コロナウイルスは免疫軍にとって弱い敵のため、従来のIgG型抗体検査では不十分です。既存のIgA型抗体検査に加え、新型コロナウイルスに対する細胞性免疫を確認するための皮内テストやIFN遊離テストの開発が必要です。

 

(6)       人口あたりのPCR検査数が日本の10倍以上のアメリカでさえ90.8%の感染者が見逃されています。また、「PCR陰性」は「感染していない証明にならない」事もわかっています。むやみやたらに行うPCR検査でなく、高齢者施設などへの重点的なPCR検査の方が合理的かもしれません。

 

(7)       感染拡大防止には、「人にうつさないための、思いやりマスク」が重要です。ただし、マスク着用による健康被害も懸念されるため、他人に接しない所では、マスクを外す習慣が必要と思います。(委細はPDF版の「(33)マスク文化は?」をご参照ください)

 

(8)       風評被害による医療の萎縮、そして「本当に検査が必要な方」が検査を躊躇する悪循環を招いている可能性が危惧されます。「風評被害を起こさない環境作り」が重要かもしれません。

 

(9)       季節性インフルエンザとの同時流行に備え、症状があれば近くのクリニックで新型コロナウイルスと季節性インフルエンザの迅速検査を同時に受けられる体制が理想的と思います。

 

(10)      医学的に考えると、強いウイルスであれば免疫力の低下した高齢者に相当数の犠牲者がでてしまいます。すると、世界一の高齢化社会である日本の死亡者数は他国より多くなるはずです。しかし、結果は逆で、PCR検査数が少ないにも関わらず日本の死者数は他国に比べて顕著に低いのが現実です。新型コロナウイルスの死につながる基礎疾患は、血栓症を起こしやすい鎌状赤血球症、萎縮性黄斑変性症、肥満等です。これらの疾患は、日本人には稀であることが幸いしているかもしれません。また、自然免疫が主に戦う高齢者でも、無症状の方が多くいらっしゃいます。幼少期に自然免疫を訓練してくれた日本株BCGが、重症化から守ってくれている可能性も否定はできません(委細はPDF版の「(14)新たな免疫学的概念は?」をご参照ください)。また、日本の集中治療室での救命率は世界最高水準です(委細はPDF版の「(11)日本の救命率は?」をご参照ください)。このような多くの恩恵により「他国の人に比べて、日本人は新型コロナウイルスの死に繋がる重症化から守られている」と考えてよいと思います。