ドイツ留学手記           東京女子医科大学整形外科     宗像 裕太郎

―ドイツ整形災害外科学会へ参加してきました―
2010年4月現在、ドイツのベルリンで臨床留学中です(注)。 2009年11月に入りやっと医師活動許可が下りたため、現在は執刀医として人工股関節置換術や人工膝関節置換術の経験を積ませていただいております。 2009年10月23日、日本で言えば日本整形外科学会にあたるドイツ整形災害外科学会(Deutscher Kongress für Orthopädie und Unfallchirurgie)の1プログラムとして、第13回日独整形外科学会が催されました。最近は2年ごとに日本とドイツで交互に開催されており、それぞれ日整会、独整会の場を借りる形で開催されております。日本側の現代表は、久留米大学の永田見生教授。独側の代表は私が現在お世話になっている HELIOS Klinikum Emil von BehringのScholz教授です。ということで、当然自分は何らかの発表をしなければならない立場に置かれており、今回口演発表してきました。 Uncemented ceramic on ceramic arthroplasty for dysplastic osteoarthritis with Perthes-like-deformity (coxa plana and relative overgrowth of the greater trochanter) というタイトルです。他の日本側参加者は、事務局のある久留米大学関係の先生方(永田教授、樋口教授も含め)、昭和大学藤が丘病院の先生方、京都府立医大の長谷教授、慶友人工関節センターの泉田先生、他にもたくさんの先生方が参加されました。ドイツ側からもベルリンをはじめ、ミュンヘン、ライプツィヒなど、各地の先生方が参加されて、様々なテーマを発表されていました。個人的に最も興味深かったのは、久留米医療センターの石橋先生が発表された、人工股関節置換術に用いたアルミナセラミックに対するアレルギー反応と思われる尋常性乾癬の一例報告や、 Sana Kliniken Sommerfeld, Klinik für EndoprothetikのHalder先生が発表された、人工股関節置換術における最小侵襲手術の有用性に関して各パラメーターにおける比較検討でした(結論は最小侵襲手術を推奨しないものでした)。

基本的に両国の参加者とも英語での発表ですが、一部の日本側の先生は(いずれも5年程度のドイツ留学歴のある方々ですが)質疑応答も含め、完全ドイツ語でした。本当にすごいなぁと素直に感動してしまいました。自分もどうにか初の海外学会口演発表を終わらせ、昼休みの間に学会会場を散策することにしました。

場所はICC Berlinという国内最大級の見本市会場を使用しているのですが、なにより驚いたのは、とにかく業者ブースの多さです。入り口は1ヶ所しかなく、クロークでコートなどを預けた後(なんと有料!!)、発表が行われる会場まで向かうのですが、そこまでの道のりはすべて業者のブースで占められております。まるで迷路のような道のりを抜け、どこにも立ち寄らず最短距離でたどり着いたとしても15分~20分かかります。とにかく、機械の業者はもちろんのことレントゲン、イメージ、MRIのメーカー、装具のメーカー、電子カルテのメーカー、研究用ソフトのメーカーなど、とにかくどこに行っても業者ブースだらけで、学会はおまけで、業者の見本市がメインか?と錯覚するほどです。しかも、日本では一部大手メーカーでしか見られないバーコーナーが、中規模レベル以上のブースはほとんどが備えており、通常のドリンクやクッキー、チョコなどのつまみは当たり前。中にはクレープを焼いていたり、ベルリン名物カリーブルスト(ソーセージを輪切りにしてケチャップ、カレー粉をまぶした軽食。ベルリンでは至る所で売っている、軽食の代表格)や、黒パンに生ハムをのせたものまであります。もちろんすべて無料です。また、手術機械の展示も、日本とは違い、まるでデパートで貴金属を陳列しているような雰囲気のメーカーもありました。非常に興味深かったのは、一角に骨接合材料の歴史をたどったミニ博物館のような展示があったことです。スミス・ピーターソン三翼釘からオリジナルのキュンチャー、ガンマネイルの各形態など、進化の過程を見ることができました。

途中休憩をはさみながらですが、朝9時半から夕方6時半までの間発表は続き、終了後、ドイツ側のホストであるScholz教授主催のパーティーへ向かいました。会場は、オールドカーの展示(販売もしているようですが)場に併設されたレストランで、当日は我々以外にも2組がパーティーを行っておりました。日本語、英語、ドイツ語が飛び交う不思議な状況でした。

ドイツ留学経験者の諸先輩方のお話を伺うと、どれだけ昔は大変だったか、想像するだけで恐ろしくなります。ここ10年程度の留学者は手術研修のみで、外来などをする必要はないため、医師たちとコミュニケーションが取れればよいため、英語がある程度できればドイツ語の語学力は必ずしも必須ではありませんが(もちろん日常生活や、看護師達とのコミュニケーションのため、ある程度のドイツ語は出来る必要はありますが)、 20年ほど前に留学されていた先生方の話では、まず語学学校に通い、それから外来をまかされ、それが十分できないと手術をさせてもらえなかった、という例が多かったようです。また、日本食がなかなか手に入らず、夢にまで見るような日々が続いたことなど、醤油がたいていのスーパーに売っており、日本食材の宅配をインターネットで頼むこともできる現在の我が家の環境とは大きく異なり、いかに自分が恵まれているか、思い知らされました。

次回は2年後、日本で日整会に合わせて催される予定です。演題はもちろん留学経験者でなくても希望者でなくてもどなたでも出すことが出来るので、興味のある方は是非参加してみてください。


ドイツ留学手記           昭和大学医学部整形外科

Deutsch-Japanische Orthopädische und Unfallchirurgische Tagung
本文へジャンプ
Germany International


イメージ