沿革
久留米大学生理学講座統合自律機能部門は旧生理学第二講座として1955年に発足しました。初代教授 纐纈教三先生(元久留米大学学長)、第二代教授 赤須 崇先生(元久留米大学医学部長)、第三代教授 鷹野 誠先生につづき、中島則行が2024年4月から第四代教授として着任いたしました。
本部門は伝統的に一般生理学および神経系の電気生理学で多くの実績を上げてきました。神経生理学の黎明期における纐纈先生のご活躍については、同門の久場健司先生(名古屋大学名誉教授)の記事(日本生理学雑誌69巻12号362-377頁)をぜひご一読下さい。
実験室には今でも纐纈先生の「
真実を教授するのは師に非ず書に非ず、それは実験動物である(惑童師)」
という額が架かっています。「惑童」は「わくどう」と読み、古い博多弁で「ガマガエル」のことです。これは古くから生理学の領域では実験動物として「カエル」を利用してきたことにちなんでいます。
この額の意味するところは、「Study Nature, not Book」という格言と同じです。新しい技術が導入され研究対象が変わることがあっても、時代を超えて変わることのないSpiritとして、大切に守っていこうと思っています。
部門紹介
本部門では、教室伝統の電気生理学にとどまらず、最新の分子生物学やイメージング技術を積極的に導入し、 イオンチャネルの生体内における機能を多角的に研究しています。また、ダイバーシティ&インクルージョン活動にも取り組んでおり、特に女性医師・研究者を取り巻く環境の整備に取り組んでいます。個人の自由・自主・自律を尊重しつつ、部局の枠を超えた協力・交流も取り入れながら、新たな生理学フロンティアの開拓を目指します。
現在進行中の主なプロジェクト(2024/4/1 改訂)
※詳細は各研究者にお問い合わせ下さい。
<神経系>
- 中枢神経系におけるcAMPシグナルとOMPの機能解明(中島N、中島A、鷹野)
嗅神経にはOMP(olfactory Marker Protein)という小型蛋白質が発現していますが、長いあいだその機能は不明でした。我々はOMPとHCN4チャネルのC端部との構造的類似に気づき、OMPはcAMP結合ドメインを持つことを発見しました。その結果、OMPは細胞内のcAMP濃度変化を緩衝するという作用をもち、嗅神経の活動を安定化させる機能を持つことを証明しました(2020/5/24 日本経済新聞朝刊・電子版に掲載)。OMPは中枢神経系において嗅神経以外の様々な部位にも発現しています。現在我々はその機能を解明すべく、電気生理学・分子生物学を基盤技術とし、ゲノム編集など新技術も取り入れて、精力的に研究に取り組んでいます。
⇐クリックすると3Dモデルの全容が動画でご覧になれます Nat Commun, 11(1), 2188, 2020 |
<心臓・循環系>
- 不整脈におけるHCNチャネルの病態生理学的機能の解明(鷹野、武谷)
HCNチャネルとは膜電位の過分極と、細胞内cAMPによって活性化される陽イオンチャネルです。このチャネルは心臓の洞房結節で初めて発見されたため、ペースメーカーチャネルとも呼ばれています。HCNチャネルにはHCN1~4のサブタイプが存在し、そのうちHCN4は1999年に石井および鷹野によって初めて遺伝子クローニングされました。ほんらい自動能をもたない固有心筋にHCNチャネルが異所性に発現すると、不整脈をおこすと考えられています。我々は心不全における心室性不整脈や心房細動におけるHCNチャネルの病態生理学的機能の解明をめざしています。
HCN4発現部位を蛍ルシフェラーゼの化学発光により可視化したマウスの洞房結節 J Physiol, 596(5), 809, 2018 |
- 内向き整流Kチャネルの構造機能相関(栁)
<脊髄>
- 脊髄後角におけるHCN4発現ニューロンの機能解明(中川、中島N、鷹野;新潟医療福祉大学・八坂教授および九大薬・津田教授との共同研究)
HCN4は脊髄後角のⅡ~Ⅲ層の興奮性介在ニューロンに限局して発現しています。この領域には触刺激情報と機械的侵害刺激情報が入力しています。この領域の局所神経回路における情報処理に異常が生じることが、神経障害性疼痛の原因の一つと考えられています。我々は脊髄後角の局所神経回路におけるHCN4チャネルの機能を解明することを目指しています。
発光イメージングによるHCN4発現ニューロンの可視化 Molecular Brain, 12, 54, 2019 |
<その他>
- HCN4を発現する消化管間質細胞や腎被膜下細胞の機能解明(中島N、武谷、鷹野)
- 泌尿生殖系組織の粘膜下間質細胞の機能解明(武谷、鷹野;名古屋市立大学・橋谷教授との共同研究)
準 備 中