がんワクチン分子部門

研究概要

 久留米大学で独自開発してきたテーラーメイドがんペプチドワクチン療法の有効性は、多くのがん種を対象とする臨床試験において示されてきました。ワクチン投与群の成績を従来治療成績(ヒストリカルデータ)と比較する試験では、比較対照となる成績が最新の治療結果と異なる場合もあることから、対象となる患者集団を無作為にワクチン治療群と対照群に割付けるランダム化比較試験が後期臨床試験では推奨されています。さらに、多くの施設で同時に実施する多施設共同試験では医療機関ごとのバイアスの影響が排除され、極めて信頼性の高い結果が得られます。

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本年度は、膀胱がん、肝がん、及び非小細胞肺がんの患者を対象として多施設共同で進められていたがんペプチドワクチンのランダム化第Ⅱ相試験が終了し、それらの最終的な解析結果が纏まり、膀胱がんと肝がんの試験成績を論文発表することができました。また、去勢抵抗性前立腺がんでペプチドワクチン治療を受けている患者の網羅的遺伝子発現解析を次世代シーケンス技術により実施し、予後と相関する遺伝子群の同定を行いました。さらにそれら遺伝子の中でハプトグロビンのSNPsと予後との関係についても前立腺がんと非小細胞肺がんについて解析を行いました。

部門長 山田 亮

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研究活動

進行膀胱がんに対するテーラーメイドがんペプチドワクチンの多施設共同ランダム化第Ⅱ相比較試験

 プラチナ製剤を基本とする化学療法に抵抗性を示した転移を有する膀胱がん患者の予後は極めて不良である。本研究では、プラチナ製剤を基本とする化学療法に抵抗性を示した進行膀胱がん患者80名を支持療法にペプチドワクチン療法を上乗せした群(PPV:39例)と支持療法のみの群(BSC:41例)の2群にランダムに割付け、増悪までの期間(無増悪生存期間)と全生存期間を2群間で比較検討する多施設共同ランダム化第Ⅱ相比較試験を実施した。ペプチドワクチンは1週毎の8回投与、その後2週毎で4回投与した。その結果、無増悪生存期間では2群間に有意差は認められなかったが、全生存期間においては、支持療法群の4.1ヶ月に対し、ワクチン群では7.9ヶ月と有意に延長効果が認められた。

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C型肝炎ウイルス陽性進行肝細胞がんに対するテーラーメイドがんペプチドワクチンの多施設共同第Ⅱ相試験

 C型肝炎ウイルス陽性の進行肝細胞がん患者42名にペプチドワクチンを投与する多施設共同第Ⅱ相試験を実施した。テーライメイドがんペプチドワクチンにC型肝炎ウイルス由来のペプチド1種を加えたワクチンを1週毎に8回投与した。その結果、投与ペプチドに対する免疫増強が認められ、IgG抗体応答は予後との相関が認められた。

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ハプトグロビン遺伝子プロモーター領域の遺伝子多型(SNPs)は
去勢抵抗性前立腺がん患者の予後予測マーカーとなりうる

 個別化ペプチドワクチン療法(PPV)は明らかに臨床上の利益をもたらす強い免疫増強効果を伴った魅力的ながん免疫療法の一つの方法である。しかしながら、多くの抗がん剤でみられるように、PPVを受けた患者間でもその治療効果に差がある。従って、PPVで効果が最大限得られる患者を事前に判別するために、有用なバイオマーカーは臨床的な結果を予知するために強く求められている。臨床的な効果を予測可能な分子を検出するために、PPV投与前の去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)患者のPBMCの全ゲノム発現解析を実施した。Cox回帰分析では、myeloperoxidase, haptoglobin(Hp)および neutrophil elastaseのmRNA発現がワクチン投与されたCRPC患者間で全生存期間(OS)に統計学的に相関していた(P< 0.01)。これら3つの遺伝子のプロモータ領域の遺伝子配列解析で、急性期の血清糖タンパク質の1つであるHpのrs5472がワクチン投与されたCRPC患者間で全生存期間(OS)に強く相関していた(P = 0.0047)。更に、PPV投与前のPBMCsでのHp mRNA 発現(P < 0.001)およびCRPC患者血清のタンパク質レベル(P < 0.05)がrs5472に依存していた。Rs5472はHpの制御を介し、PPVによる免疫反応に重要な役割を果たしており、rs5472が有力な予後予測のバイオマーカーになると結論付けた。

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非小細胞肺がん患者におけるハプトグロビン遺伝子プロモーター領域の遺伝子多型(SNPs)

 ハプトグロビン遺伝子プロモーター領域の遺伝子多型(SNPs)が去勢抵抗性前立腺がん患者の予後予測マーカーとなりうる可能性が示唆された。そこで、がんペプチドワクチン療法を受けている進行非小細胞肺がん患者120例のハプトグロビン遺伝子プロモーター領域SNPs解析を行った。その結果、6か所のSNPsが同定され、rs5472とrs9927981は完全に連鎖していた。それぞれのアレル出現頻度について解析を行い、その中で頻度の高いrs5472/rs9927981 とrs4788458について予後との関係を調べたが、有意な相関は認められなかった。

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CTLエピトープとヘルパーエピトープを内含する新規ロングペプチドの同定

 HLA-A2陽性のがん患者に対するTヘルパーエピトープによるがんペプチドワクチンの開発を目的として、ペプチド特異的細胞傷害性T細胞(CTL)を誘導可能なsrcファミリーチロシンリン酸化酵素であり、転移がんで異所性発現が見られるLck由来のペプチドの同定を試みた。94種類のペプチドの内、HLA-A2結合モチーフを有するCTLエピトープを内部に包含する3種類のTヘルパーエピトープ・ロングペプチドが、患者由来のIgGによって高頻度に認識され、効果的にCD4陽性およびCD8陽性でIFNγ産生するT細胞を誘導した事から選択された。これらのロングペプチドで患者のPBMCを刺激すると、HLA-A2およびLck陽性のがん細胞株に対するHLA-クラスIおよびクラスⅡ依存性の傷害活性を示した。以上のことから、これらの3種類のロングペプチドは、転移に関与するLck陽性がん細胞を有するHLA-A2陽性の患者に対するペプチドワクチンとして有用であると考えられた。

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子宮頸がん患者に対するテーラーメイドペプチドワクチンの臨床試験

 抗がん剤治療を既に受けた子宮頸がん24例に対してテーラーメイドがんペプチドワクチンを投与しました。重篤な有害事象はなく、投与ペプチドに対して半数の方でペプチド特異的免疫増強がえられ、24例中1例でがんの縮小がみられました。生存期間中央値は250日(24例)であり、その中でワクチン投与前の一般状態が良好(PS=0)の14例の生存期間中央値は478日、また、ワクチン投与部の皮膚反応が陽性であった17例の生存期間中央値は443日でした。これらより、テーラーメイドがんペプチドワクチンは、治療抵抗性の子宮頸がん症例の生命予後を延長する可能性が示唆されました。

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がんペプチドワクチン療法治療患者における顆粒球関連因子のバイオマーカーとしての有用性

 がんワクチンは必ずしも投与された患者に有益な効果を引き出すとは限らないので、臨床的な効果を予測するためのバイオマーカーの同定は強く要望されている。末梢血中の単核球細胞(PBMC)における異常な顆粒球の存在が個別化ペプチドワクチン(PPV)投与された進行性前立腺がん患者の予後の悪さに関与していると既に報告している。ワクチン投与前の血清中に顆粒球から放出される可溶性因子(matrix metalloproteinase 9 (MMP-9), myeloperoxidase (MPO), arginase 1 (ARG1), 抑制性サイトカインであるTGFβなど)が進行がん患者のPPV投与後の予後予測診断に役立つかどうかを調べた。胆道癌での多変量COX回帰解析では、血清中のMMP-9の高い患者は全生存期間(OS)を悪化させるが、一方、MPO, ARG1, TGFβレベルはOSとは相関しないことが示された。同様に、膵がんや非小細胞肺がんを含む別のタイプの進行がんでは、MMP-9レベルの高い患者は低い患者よりは予後が悪いことが示された。まとめるとワクチン投与前のMMP-9レベルはPPV投与が有効と考えられる進行がん患者を選択するためのバイオマーカーとして非常に有用だと考えられた。

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HLA-A26ホモ患者におけるHLA-A26拘束性ペプチドワクチンの免疫学的評価

 日本人の11%程度が保有すると報告されているHLA-A26に拘束性をもつ4種のCTLエピトープペプチドをテーラーメイドペプチドワクチンの臨床試験で現在使用しており、それらのペプチドに対する免疫学的反応をHLA-A26+/A26+のがん患者において調査した。ワクチン投与前の血清でペプチド特異的なIgG反応の陽性を示した2個から4個のペプチドをHLA-A26+/A26+の多種がん患者に皮下投与し、ペプチド特異的なCTL反応やIgG抗体、そのほかサイトカインや細胞表面マーカーをワクチン投与の前後に測定した。

 投与部位にグレイド1または2の皮膚反応が多くの患者に観察されたが、ワクチン投与に関連する重篤な副作用は認められなかった。ペプチド特異的なCTL反応およびIgG抗体の上昇はワクチン投与後の患者で増加した。

 本試験で安全性と高い免疫学的反応が見られたことから、これら4つのCTLエピトープのペプチドを用いたテーラーメイドペプチドワクチンはHLA-A26を保有する進行がん患者に適用することができると考えられた。

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がんワクチン外来

 2009年4月の「がんワクチン外来」開設から2016年6月末までの延べ受診者数は34,615人、新患の総数は2,925人となっています。なお、テレビで特集番組が放映された後の数か月間は受診者数の増加が認められました。

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