がんワクチン分子部門

研究概要

 私立大学研究ブランディング事業では、久留米大学の現在の強みとして「テーラーメイドがんペプチドワクチン」を掲げています。「テーラーメイドがんペプチドワクチン」は久留米大学で独自開発されてきたがんの免疫療法です。近年、免疫チェックポイント阻害療法が急速な発展を遂げ、「免疫療法」は4大がん治療法のひとつとして、その地位を確立しました。免疫チェックポイント阻害薬は免疫のブレーキを解除することにより抗腫瘍効果を発揮します。しかしながら、免疫チェックポイント阻害剤単独療法では3~4割の患者さんでしか有効性が認められません。このことは、ブレーキを解除しただけでは不十分で、効果的な抗腫瘍効果を得るには同時にアクセルを踏む必要性を示しています。

 免疫のアクセルに相当するのが「がんワクチン」です。がんワクチン分子部門では個々の患者さんの免疫応答に対応するテーラーメイドがんペプチドワクチンの開発を行っています。がんワクチン療法もまた、単独では十分な抗腫瘍効果を得ることは難しいことが我々の実施した第Ⅲ相試験で明らかとなり、免疫チェックポイント阻害療法等の他の治療法との併用療法の重要性が明らかになりました。

 当部門では、ポストテーラーメイドがんペプチドワクチンとして、個々の患者さんの遺伝子変異により新規に出現するがん抗原(ネオアンチゲン)を標的とする完全個別化ワクチンや腫瘍局所における微小環境の改善を応用した次世代がんワクチンの開発の基礎研究も行っています。

 また、がん免疫療法の開発には、抗がん剤の開発で従来から用いられてきた効果関連指標では不十分で独自の指標(バイオマーカー)の開発が必要になってきます。そこで、がん免疫療法のバイオマーカーの開発も進めています。

部門長 山田 亮

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研究活動

再発膠芽腫に対するテーラーメイドがんペプチドワクチン第3相臨床試験

 HLA-A24陽性の再発膠芽腫患者を対象にテーラーメイドがんペプチドワクチンの無作為化2重盲検第Ⅲ相医師主導治験を多施設共同で実施しました。88名の再発膠芽腫患者を2:1の比率で無作為にワクチン投与群(n=58)とプラセボ群(n=30)に割り付けました。ワクチン投与群には、HLA-A24陽性患者用に開発されたワクチン候補ペプチド12種の中から、それぞれのペプチドに対する血中IgG抗体価を測定し、抗体価の高いもの上記4種を選択し、1週間隔で12週間皮下投与しました。その結果、主評価項目である全生存期間のプラセボに対する延長効果は認められませんでした。また副次評価項目である1年生存率、無増悪生存期間等についても有意な差を認められませんでした。投与ペプチドにSART2-93が含まれる群は含まれない群に比べ、既存のIgGレベル及びCTL応答が低い傾向にありました。血中のサイトカインCCL2が中間的なレベルの患者において予後良好であったことから、CCL2レベルの測定がバイオマーカーになることが示唆されました。

 本研究の成果はNeuro Oncol. 2019 Feb 19;21(3):348-359. doi: 10. 1093/neuonc/noy200. に公表されました。

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主要ヒノキ花粉アレルゲンCha o 3に特異的なドミナントT細胞エピトープの同定

 多くのヒノキ科・スギ科樹木由来の花粉が世界中で花粉症を引き起こしており、日本では、スギ(Cryptomeria japonica)やヒノキ(Chamaecyparis obtusa)の花粉が季節性アレルギー疾患の最大の原因となっています。近年、我々は新規の主要ヒノキ花粉アレルゲンCha o 3とその相同なスギ花粉アレルゲンCry j 4(どちらもセルラーゼに属する)を同定しました。両アレルゲンは高い相同性を有し(84%のアミノ酸配列が同一)、T細胞の交叉反応が見られました。しかし、同時に、Cry j 4の刺激に反応しないCha o 3特異的T細胞クローンも確立され、このことはCha o 3特有のエピトープが存在することを示唆しています。本研究では、20名のスギ・ヒノキ花粉症患者からCha o 3特異的T細胞株を確立し、5個のCha o 3特異的ドミナントT細胞エピトープを同定しました。このことは、日本のヒノキ花粉症に対するT細胞エピトープペプチドベを用いた新しいアレルゲン特異的免疫療法の開発を促進するものと期待され、更には、Cry j 4と共有しているが異なるCha o 3特異的なT細胞エピトープが存在する可能性も示しています。

 本研究の成果はAllergol Int. 2020 Jan;69(1):141-143. doi: 10.1016/j.alit.2019.07.008. に公表されました。

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去勢抵抗性前立腺がん患者を対象とした20種混合ペプチドワクチンと化学療法併用療法の無作為化第2相臨床試験

 12種類のがん関連抗原に由来する20種類の細胞傷害性T細胞(CTL)エピトープペプチドからなる新規がんペプチドカクテルワクチン(KRM-20)を開発し、去勢抵抗性前立腺がん患者(CRPC)において、化学療法(ドセタキセルとデキサメタゾン)と併用したときの抗腫瘍効果増強作用を検討しました。二重盲検プラセボ対象無作為化第二相臨床試験を実施し、10箇所の医療機関で登録された化学療法未実施のCRPC患者を無作為に1:1で化学療法併用KRM-20群(n=25)と化学療法のみのプラセボ群(n=26)に分けました。化学療法との併用においてKRM-20投与による毒性増強はありませんでした。2群間において前立腺特異抗原(PSA)が50%以上低下した症例割合に差はなく、無増悪生存期間や全生存期間にも差はありませんでした。投与ペプチド特異的免疫応答はワクチン併用群で有意に増加していました。サブグループ解析から、KRM-20はリンパ球数が26%以上もしくはPSAが11.2ng/mLより低い群において有効な治療法となることが示唆されました。

 本研究の成果はCancer Immunol Immunother, 2020 Feb 5. doi: 10.1007/s00262-020-02498-8.に公表されました。

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CD4/CD8比はペプチドワクチン投与IgG非応答卵巣がん患者の予後因子である

 免疫療法は全ての患者に効果が現れるわけではないので、がん免疫療法において有用なバイオマーカーを特定するのは急務です。我々は、テーラーメイドペプチドワクチン療法において早期のペプチド特異的IgG応答の誘導が良好な予後のバイオマーカーになりうることを報告してきましたが、長期生存者の中には、早期IgG応答を示さない症例もありました。本研究ではテーラーメイドペプチドワクチン療法を受けた進行期もしくは再発卵巣がん患者において古典的T細胞マーカー(末梢血中のCD8カウントとCD4/CD8比)の有用性を検討しました。その結果、IgG非応答群(n=25)においてCD8増加群(n=7)もしくはCD4/CD8比減少群(n=10)の全生存期間が有意に長いことが示されました(p=0.018及びp=0.0055)。このことは、ペプチドワクチン投与IgG非応答卵巣がん患者においてCD8の増加及びCD4/CD8比の減少が良好な予後予測因子であることを示唆しています。

 本研究の成果はCancer Sci. 2020 Apr;111(4):1124-1131. doi: 10.1111/cas.14349.に公表されました。

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テーラーメイドペプチドワクチンにおけるバイオマーカーの同定:2,588がん症例の解析

 がんペプチドワクチンの臨床試験を1990年代より実施してきましたが、十分な臨床的効果を示すに至りませんでした。この結果を解明するために、テーラーメイドペプチドワクチン(PPV)療法を受けた2,588名の患者(肺がん399名、前立腺癌354名、大腸癌344名を含む)について、予後不良に関連するバイオマーカーの探索・解析を行いました。ワクチン投与前の高値の好中球数、単球数、血小板数、CRP及び他の可溶性炎症因子と、低値のリンパ球数、赤血球数が全生存期間(OS)と逆相関関係にあり、この中でも、64.8%以上の好中球数と25.1%以上のリンパ球数が最も有用な予後不良因子及び予後良好因子として示されました。投与ペプチド特異的抗体反応とOSに関連が見られましたが、投与前のペプチド特異的免疫レベルはOSに影響はありませんでした。以上より、投与前の炎症関連因子がPPV療法における低臨床効果に関連していることが示唆されました。

 本研究の成果はInt J Oncol. 2020 Jun;56(6):1479-1489. doi: 10.3892/ijo.2020.5019. に公表されました。

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血漿DNA integrity:がん免疫療法の新たなバイオマーカー

 がん細胞は増殖する過程で一部は常に死細胞となり、治療に伴いより多くの細胞が死に至ります。正常な細胞もまた一部は常に死細胞となり生体の恒常性を保っています。がん細胞が死に至る過程(病理的な細胞死)は主にネクローシスであり、一方で正常細胞の生理的な細胞死はアポトーシスによります。ネクローシスでは200塩基以上、かつ不揃いの長いDNA断片が細胞外に放出されます。一方、アポトーシスでは200塩基より短い揃ったサイズのDNA断片が細胞外に放出されます。細胞外に放出されたDNAは循環血中で検出することができます。血漿DNA integrity(DNAの完全性)は、血漿中の総DNA断片に対するネクローシスで生じた長いDNA断片の比率で表します。

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 血漿DNA integrityが、がん免疫療法の新たな効果指標(バイオマーカー)となりうるかについて、テーラーメイドがんペプチドワクチン療法を受けた婦人科がん(卵巣がん、子宮内膜がん)および肺がん患者について解析を行いました。その結果、バイオマーカーとしての有用性が示唆されました。

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血漿中のDNA integrityとワクチンで誘導される抗腫瘍免疫とは逆相関する:卵巣がんでの解析

 テーラーメイドペプチドワクチン療法第II相試験に登録された39名の進行もしくは再発卵巣がん患者の血漿を用いて、ワクチン投与前後の血漿DNA integrityと投与ペプチド特異的免疫応答との関連を解析しました。血漿DNA integrityはワクチン投与後に下がる傾向があり、血漿DNA integrityが減少した症例は、投与ペプチド特異的IgG応答群と非応答群ではそれぞれ91.7%と59.3%で逆相関関係が見られました(p=0.0445)。同様の傾向がCTL応答においても見られ、CTL応答群と非応答群において血漿DNA integrityの減少症例数は92.6%と56.0%でした(p=0.0283)。以上より、がんワクチン療法における血漿DNA integrityのバイオマーカーとしての有用性が示されました。

 本研究の成果はCancer Immunol Immunother. 2020 May 11. doi: 10.1007/s00262-020-02599-4.に公表されました。

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