がんワクチン分子部門

研究概要

 今年度(平成29年度)採択された私立大学研究ブランディング事業では、久留米大学の現在の強みとして「テーラーメイドがんペプチドワクチン」を掲げています。「テーラーメイドがんペプチドワクチン」は久留米大学で独自開発されてきたがんの免疫療法です。近年、免疫チェックポイント阻害療法が急速な発展を遂げ、「免疫療法」はがんの4大治療法のひとつとして、その地位を確立しました。免疫チェックポイント阻害薬は免疫のブレーキを解除することにより抗腫瘍効果を発揮します。しかしながら、免疫チェックポイント阻害剤単独療法では3~4割の患者さんでしか有効性が認められません。このことは、ブレーキを解除しただけでは不十分で、効果的な抗腫瘍効果を得るには同時にアクセルを踏む必要性を示しています。

 免疫のアクセルに相当するのが「がんワクチン」です。がんワクチン分子部門では個々の患者さんの免疫応答に対応するテーラーメイドがんペプチドワクチンの開発を行っています。がんワクチン療法も単独では十分な抗腫瘍効果を得ることは難しいことから、他の治療法との併用療法の開発も行っています。また、テーラーメイドがんペプチドワクチンに続く次世代ワクチンの開発、さらには、それらの効果を評価するバイオマーカーの開発も行っています。

部門長 山田 亮

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研究活動

去勢抵抗性前立腺がんを対象とした漢方併用療法の免疫学的効能

 去勢抵抗性の前立腺癌患者70名での個別化ペプチドワクチンと漢方(補中益気湯と桂枝茯苓丸)との併用効果を漢方併用群とペプチドワクチン単独群に分け、無作為化第Ⅱ相試験を実施した。患者のHLAタイプと抗原特異的なIgG抗体価に従って、31ペプチドから2-4個のペプチドを選択し、8回投与した。ワクチン投与の前後にペプチド特異的なCTL、IgG、Treg、Mo-MDSC および IL-6の反応を測定し、臨床的効果を解析した。併用療法は重篤な副作用もなく忍容であった。ペプチド特異的なCTL、IgG、Tregおよび臨床的効果に有意な変化はなかった。併用群では、Mo-MDSCおよびIL-6は投与前後で安定していたが、単独群では、有意に増加していた。これらの結果から、漢方の併用は、Mo-MDSCまたはIL-6によって、誘導される免疫抑制の防止に有効であることが示唆された。

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局所療法耐性肝細胞がんを対象としたペプチドワクチン療法

 進行肝細胞癌患者の内、前治療として(A)局所療法のみを行ってきた患者群(26名)(B) 局所療法及び全身療法を行ってきた患者群(30名)とに分けてテーラーメイドペプチドワクチンの有用性について検討した。有害事象は既に他のがん種で報告しているように安全に投与する事ができた。投与ペプチドに特異的免疫反応に関しては1Kur終了時の細胞性免疫の上昇はそれぞれ46%と54%と有意な差はなく、液性免疫でも同様であった。生命予後の延長に関する検討では、一般に進行肝細胞癌患者に対して全身療法としてソラフェニブを導入した患者の生存期間は11~12カ月であり、今回の検討はA群で18.7カ月であり、6カ月以上長い。また、既にソラフェニブや他の化学療法の導入後であるB群でも8.5カ月の生存を得られたことから、ペプチドワクチンは進行肝細胞癌の患者に有用である可能性が示唆された。

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進行小細胞肺がん患者における個別化ペプチドワクチン療法に対する化学療法の前治療などによる影響について

 進行小細胞肺がん患者46名(平均年齢63歳、男性40名)を対象に個別化ペプチドワクチン(PPV)の第Ⅱ相試験を実施した。投与部の皮膚反応以外には、PPVに関連した重篤な有害事象は観察されなかった。PPV投与前に受けた化学療法の数によって、生存期間の中央値(OS)は異なり、化学療法なしでは466日、1レジメンでは397日、2レジメンでは401日、3レジメン以上では107日であった。2サイクル投与後にIgG反応が増強した非投与ペプチド数が多い患者のOSは統計学的に有意に延長した(1237日vs 382日;P=0.01)。これらの結果は安全性、免疫増強、OSの可能な延長の観点から小細胞肺がんに対するPPVの可能性を示唆している。

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再発卵巣がんを対象とした血漿High-mobility group box1への影響

 High-mobility group box 1(HMGB1)は損傷した細胞、活性化マクロファージ、腫瘍細胞などから細胞外へ放出される核蛋白質である。本研究では、再発した卵巣がん患者39名の凍結血漿サンプルを用いて、テーラーメイドペプチドワクチン投与前後のHMGB1レベルを解析した。HMGB1レベルはワクチン1サイクル投与後に減少しており、ワクチン投与後のHMGB1レベルとMDSC頻度は有意に関連性があることが示された。また、HMGB1レベルの変動はエピトープスプレディングと有意に関連していることが示唆された。これらの結果は血漿中のHMGB1ががんワクチン療法において有用なバイオマーカーになりうることを示している。

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胆道がん患者に対する個別化ペプチドワクチン療法に関する低用量CPA(シクロフォスファミド)の併用効果について

 1つ以上の化学療法に不応になった進行性胆道がん患者を低用量CPA+PPV群(24例)とPPV群(25例)に無作為に分け、第Ⅱ相試験として個別化ペプチドワクチン(PPV)の抗原特異的な免疫反応や臨床効果を調べた。CPA+PPV群ではPPV群に比べて投与ペプチドに対するT細胞反応は強く、無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)は統計学的に有意に延長した。PPV群では抗原特異的なT細胞反応の抑制に関与が考えられているIL-6値がワクチン後に有意に増加していた。これらの結果はIL-6を介した免疫抑制を阻害することによって進行性胆道がん患者にとって低用量のCPAをPPVに併用することは臨床的に有益であることを示している。

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HLA-A11およびA33型を持つがん患者のペプチドワクチン療法に対する免疫学的な評価

 世界的に少ないHLA-A11およびA33の遺伝子型をホモでもつ大腸がん、胃がん、乳がん、肺がん、膵臓がん等の患者(31例)に個別化がんペプチドワクチン(PPV)を投与し、その免疫学的な効果を評価した。HLA-A11およびA33の患者でも、ペプチド特異的なCTL反応(4/12および2/9)およびペプチド特異的なIgG抗体反応(6/14および4/10)がそれぞれ増強された。また、4例のHLA-A11および7例のHAL-A33の患者でSD(病状の安定)が得られた。

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非小細胞肺がん患者を対象としたハプトグロビンSNP解析

 本研究では120名の進行非小細胞肺がん患者を対象にハプトグロビン遺伝子の5’隣接領域(nt-840から+151)の遺伝子多型解析を行った。この領域内において6か所で一塩基多型(SNP)が確認され、それらのうち2か所(rs5472とrs9927981)では完全にリンクしていた。これら2か所rs5472/rs9927981とrs4788458ではマイナー対立遺伝子頻度は他の3か所に比べて高いことが分かった。rs5472とrs9927981における遺伝子型頻度はA/AまたはC/C(42.5%,n=51)、A/GまたはC/T(40.8%,n=49)、G/GまたはT/T(16.7%,n=20)であった。rs4788458における遺伝子型頻度はT/T(34.2%,n=41)、T/C(40.0%,n=48)、C/C(25.8%,n=31)であった。これら3か所のSNPとペプチドワクチン開始後の全生存期間との相関は認められなかったため、テーラーメイドペプチドワクチン療法を受けた非小細胞肺がん患者において、これらのハプトグロビンSNPが予後予測因子として有用ではないことが示された。

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リンパ球特異的タンパク質チロシンキナーゼ(Lck)のCTLエピトープペプチドに対する特異的抗体の抗腫瘍作用

 多くの健常人及びがん患者においてリンパ球特異的タンパク質チロシンキナーゼ(Lck)由来のCTLエピトープペプチドに対する液性免疫応答が見られるが、その抗体の生物学的活性/意義は解明されていない。本研究ではLck抗原のCTLエピトープペプチド(Lck486-494)を認識するモノクローナル抗体(anti-Lck-486-mAb)の生物学的活性を検討した。このモノクローナル抗体はin vitroでは免疫複合体を形成し、マウス骨髄細胞から樹状細胞への成熟を誘導し、マウスモデルにおいては腫瘍浸潤T細胞を抑制し腫瘍増殖を抑えた。また、ペプチドワクチン投与前にこのモノクローナル抗体を投与することで、さらなる抗腫瘍効果がみられた。

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転移性上部尿路上皮がんにおける二次療法としての個別化ペプチドワクチンの有用性について

 プラチナ製剤を含む化学療法に耐性になった転移性上部尿路上皮がん患者48名について、HLAタイプやペプチド特異的なIgG抗体価に合せて最大4個のペプチドを週1回で6回皮下投与し、個別化ペプチドワクチンの安全性、免疫能への影響、全生存期間への効果を評価した。ペプチドワクチンは重篤な副作用もなく忍容であった。化学療法と併用された患者の生存期間は13.0ヶ月で、ペプチドワクチン単独では4.5ヶ月で、平均すると7.3ヶ月であった。CTL陽性の患者では、CTL陰性の患者に比べて、有意に長命であった。多変量Cox回帰解析では、低Bellmuntスコアー及び低BAFF値が患者の全生存期間と有意に相関していた。本研究では化学療法に耐性になった転移性上部尿路がん患者にとって、ペプチドワクチンは重篤な副作用なしにペプチド特異的なCTLを明らかに誘導し、サルベージ化学療法と併用した時に生存期間の延長をもたらす可能性を示唆した。

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ヒトパピローマウイルス(HPV)予防ワクチンの免疫学的なモニタリング法について

 現在、ヒトパピローマウイルス(HPV)予防ワクチンはHPV感染予防に大きな成果を収めているが、広く利用可能な免疫学的なモニタリング法がほとんどない。本研究では、予防ワクチン接種後の健康な女性において、免疫反応をモニタリングするためのHPVワクチン由来のB細胞およびT細胞エピトープを同定することを目的とした。HPVワクチンに反応するIgGなどの抗体レベルをマルチプレックス サスペンションアレイで、また特異的T細胞反応をIFNγエリスポット法で評価した。HPVワクチンと反応した抗体レベルは、予防接種後、2、7、12ヵ月後に血漿中で統計学的に有意な増加がみられた。エピトープ・マッピングでB細胞エピトープとしてHPVワクチンのアミノ酸配列を特定した。更に、HPVワクチンで免疫後のHLA-A2および-A24拘束性のHPVワクチンのエピトープに対するT細胞反応は増大した。この事は、HPVワクチン接種によってT細胞とB細胞の特異免疫反応が同時に誘発されることを示唆している。同定されたB細胞とT細胞エピトープは、HPV予防ワクチン接種後の免疫反応をモニタリングするバイオマーカーとして有用であるかもしれない。

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がんワクチン外来

 2009年4月の「がんワクチン外来」開設から2018年5月末までの延べ受診者数は39,387人、新患の総数は3,208人となっています。なお、テレビで特集番組が放映された後の数か月間は受診者数の増加が認められました。

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