肝癌部門

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研究概要

 現在、私たちは難治癌の診断・治療、および硬変肝の再生を2つの柱として研究活動を展開しています。前者には、1)腫瘍組織内皮細胞特異的に発現するマイクロRNAの同定とそれを標的とした腫瘍特異的血管新生抑制療法、2)Wntシグナル転写因子TCF-4アイソフォームによる癌幹細胞形質発現制御機構の解明、3)スルファサラジンによるCD44v9-xCTシステムを標的とした肝癌細胞の酸化ストレス耐性の克服、4)新規遺伝子THADAのアポトーシスおよび分化誘導作用の検討、5)肉腫様肝癌における免疫補助シグナル分子PD-L1の発現および新規機能解析、6)膵癌癌性腹水由来エクソソームに内在するCD133糖鎖の臨床的意義、7)膵液由来エクソソームのmicroRNA解析による膵癌高精度早期診断が含まれます。後者には、自己CD34陽性血管内皮前駆細胞によるC型肝硬変の再生治療が含まれます。このうち、3)については論文化されました(Cancer Sci. 2018 Sep;109(9):2801-2810)。

 2017年度、久留米大学は文部科学省の「私立大学研究ブランディング事業」に採択されました。先端癌治療研究センター・肝癌部門はその事業の一翼を担っています。本事業は、2019年度で終了しますが、強力な肝癌治療法であるNew FP療法をこれまで以上に広めていくことが使命です。

部門長 古賀浩徳

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研究活動

A. 「肝癌細胞においてCLAUDIN-2の2面的機能にはWntシグナルが関与している」

主研究者:古賀浩徳

【背景】我々は以前、CLAUDIN-2がWntシグナル標的遺伝子であること、その発現がWntシグナル中枢転写因子T-Cell Factor-4(TCF-4)isoformにより制御されていることを報告した(Exp Cell Res 2011, Liver Int 2013)。転写産物であるCLAUDIN-2(CLDN-2)は混合型肝癌細胞株で極めて高い発現を示し、それらの細胞の高い増殖能、sphere形成能、造腫瘍能に寄与していることがわかった(Koga et al., The Liver Meeting 2018)。しかしながら、そのようなCLDN-2の腫瘍促進効果は、必ずしもすべての肝癌細胞株において認められるものではなかった。上記とは逆の効果には、極めて低い細胞増殖能や造腫瘍能の喪失が挙げられるが、それらは少なくとも、腫瘍抑制因子LKB1介在性のAMPK活性化と関連していた。したがって、本研究の目的は、このCLDN-2の2面的機能の分子機構をさらに明らかにすることである。

【方法】ヒト肝癌細胞株Hep3BおよびHLFを用いた。レンチウイルスベースでのCLDN2ノックダウンとプラスミドによる過剰発現系で機能解析をおこなった。それらの細胞から抽出したRNAをcDNA microarrayおよびqPCRにて解析し、CLDN-2の2面的機能を制御している遺伝子の同定をおこなった。

【結果】CLDN2過剰発現Hep3B細胞は速い増殖能を獲得し、大きい移植腫瘍を形成した。ところが、HLFベースの過剰発現細胞(CLDN2-OE-HLF)では極端に増殖能が低下し、造腫瘍能も消失していた。増殖能の低下には細胞周期のG1 arrestが関与しており、p53やp21がmRNAおよび蛋白レベルで関与していた。cDNA microarrayおよびvalidation qPCRの結果、CLDN2-OE-HLF細胞ではコントロールに比べ、LRP4やAPCの発現量がそれぞれ7.9倍、1.6倍に増加していた。一方、CLDN2-OE-Hep3B細胞ではコントロールに比べ、それぞれ0.4倍、0.7倍で、逆に減少していた。興味深いことに、CLDN2-OE-HLF細胞では幹細胞因子Nanogが蛋白レベルで増加しており、それは同時にLKB1やAMPKの活性化およびp53、p21の発現増加と相関していた。

【結論】LRP4はFrizzledと協調してWntシグナル抑制的に働くことが報告されている。さらにAPCはWntシグナルにおける強力な腫瘍抑制因子である。したがって、CLDN2は肝癌細胞において、Wntシグナルに対して正と負のシグナルリレーに関与している可能性が示唆された。

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B. 肝線維症モデルマウスに対するヒトiPS細胞由来肝細胞様細胞及び血管内皮細胞を用いた新たな治療法の開発

主研究者:中村 徹

【背景】我々はこれまでCD34+細胞を用いた肝再生療法に関する基礎的・臨床的研究成果を数多く報告してきた。さらに治療効果を高めるためには、投与した細胞の標的組織への生着率向上と異なる種類の細胞投与による相加・相乗効果を評価することは大きな課題である。我々は足場材料として3次元的環境を初めて可能にした自己組織化ペプチド(PuraMatrix)を用いた肝再生治療の臨床応用を目指すこととし、今回肝線維症モデルマウスに対するヒトiPS由来肝細胞様細胞(iHep)及びiPS由来血管内皮細胞(iEC)移植による治療効果を検証したので報告する。

【方法】In Vitvo:ヒトiHep(ReproHepato)はReproCELLより購入し、ヒトiEC(MiraCell®)はTakara Bioより購入した。両細胞の細胞特性をFACS解析した。In Vitvo:免疫不全マウス腹腔内に4週間四塩化炭素(CCl4)を投与し肝線維症を作製した。その後以下の8群に群別した:生食水、PuraMatrixのみ、2×106 cells/kgのiHep、iEC或いは2種類の細胞を同量含む細胞(iMix)をPuraMatrix併用の有無で脾注し移植した。その間もCCl4は投与継続し、投与開始後57日目に屠殺した。線維化の評価はAzan染色及びαSMAに対する免疫組織化学、Real-time PCRで評価した。肝細胞の増殖活性は抗PCNA抗体を用いた免疫組織化学で検討した。

【結果】In Vitro: FACS解析にて、iHepはalbumin及びCYP3A4が陽性、iECはCD31、CD34が陽性であった。In Vivo: 肝線維化及びαSMA陽性面積率は、対照群と比較しPuraMatrix併用iHep、iEC、iMix移植群及びPuraMatrix非併用iMix移植群において有意に減少した。Real-time PCRによるCol1a1遺伝子発現は、iHep移植群においてのみPuraMatrix併用の有無で両群間に有意差を認めた。PCNA陽性肝細胞率は、対照群と比較しPuraMatrix併用/非併用iHep及びiMix移植群において有意に増加した。

【結語】PuraMatrix併用の有無に関わらず、iMix移植が肝線維症に対しより良い治療効果を得られることが示唆された。

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C. RAGE aptamerはNASHにおける肝線維化と肝癌を抑制する

主研究者:吉田隆文

 非アルコール性肝炎(NASH : non-alcoholic steatohepatitis)は肝硬変、肝癌を引き起こす。これまでにNASHの発症には終末糖化産物(Advanced Glycation End products: AGEs)の蓄積が関連することが示されている。AGEsはその受容体Receptor for AGEs(RAGE)を介して酸化ストレス、炎症を促進することが解っている。こうした背景からRAGE aptamer によるAGEs-RAGE系の抑制が、NASHに対する治療効果を有するかの検討を行った。マウスNASHモデル(Stelic Animal Model)に対してRAGE aptamerの腹腔内投与を行った時の肝臓の組織学的および生化学的解析を行った。免疫組織化学染色および定量的リアルタイムPCRの結果からRAGE aptamer投与は、Control aptamer投与に比べて有意に肝炎と肝線維化を抑制することが示された。また、RAGE aptamer投与によって、肝臓におけるインフラマソームNLRP3およびNADPH oxidaseコンポーネントの蛋白発現を優位抑制していた。さらにRAGE aptamer投与群の肝発癌が、Control aptamer投与に比べて有意に抑制されていた(Figure. 1)。これらの結果から、AGEs-RAGE系はNASHの肝線維化の進展および肝発癌に働き、AGEs-RAGE系の抑制によるNASHに対する治療効果の可能性が示された。

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D. 肝細胞癌における癌血管特異的なマイクロRNAの探索

主研究者:岩本英希

【目的】
血管新生は癌の進展に非常に重要な要素である。癌微小環境を形成する血管内皮細胞は特異的に癌血管内皮細胞(Tumor endothelial cell/ TEC)と呼ばれる。TECは正常臓器を形成する血管内皮細胞と比べ、形態的、機能的、遺伝子学的に異なると知られている。今日、血管新生阻害剤(Anti-angiogenic drug/ AAD)が切除不能進行肝細胞癌(HCC)に対して標準治療として使用されている。しかしながら、治療効果の低さ、副作用の多さなど解決されていない問題が残っている。我々は、従来のAADは癌血管だけでなく、正常臓器の血管構造へも影響する事を報告した(PNAS Vol110-No29 2013、Nature Communications 12680 2016)。従来のAADの標的分子である血管内皮細胞増殖因子(VEGF)は癌血管新生だけでなく、正常臓器血管構造の維持にも深く関わっているからである。本研究では、HCC内の癌血管とその周囲の肝臓血管(LSEC)の形態的、機能的、遺伝子学的違いを明らかにする事を目的とする。癌血管とLSECの違いを明らかにする事で、癌血管のみを抑制する治療標的分子を探索したい。

【方法】
3種類の肝細胞癌株をマウス肝臓に接種し同種同所移植モデルを作成した。TEC及びLSECを免疫染色法を用いて評価した。高分子デキストランをマウス尾静脈から投与し、血管の漏出性、灌流性を評価した。ビーズ吸着法を用いてTEC及びLSECのそれぞれの細胞分画を単離した。核酸を抽出し、DNA発現アレイとマイクロRNAアレイを行った。

【結果】
免疫染色の結果より、癌血管は無秩序に新生されており、漏出性が高く、低灌流を示している事が明らかとなった。その結果、癌は強い低酸素を呈していた。DNA発現アレイによる網羅的解析では、260個の癌血管特異的な遺伝子が検出された。遺伝子役割解析を行うと、癌血管はより増殖関連遺伝子、抗アポトーシス関連遺伝子がLSECに比べ大きく活性化していた。加えて、マイクロRNAアレイの結果、108個のマイクロRNAが癌血管特異的なマイクロRNAとして選定された。その内、極めて発現低下が見られた5つのマイクロRNAに着目した。

【考案】
肝細胞癌の癌血管は肝類洞血管内皮細胞と比べ、形態的、機能的、遺伝子学的違いを示した。5つの癌血管特異的なマイクロRNAを同定し、今後、機能解析を含め行っていく。最終的には癌血管のみを抑制する次世代の血管新生抑制治療の開発を目指す。


図1肝細胞癌の癌血管 無秩序な血管新生


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E. 「肝硬変モデルマウスにおけるALK5阻害剤投与による肝再生促進・抗線維化作用とその臨床応用の可能性」

主研究者:増田篤高、中村 徹

【目的】TGFβは肝線維化におけるkey cytokineであるが、肝実質細胞に対しては増殖抑制因子として知られている。我々はこれまで、硬変肝モデルマウスへ変異型TGFβ受容体遺伝子導入することでTGFβシグナル伝達を阻害し、肝線維化が抑制され、肝再生が促進することを報告した。現在、様々なTGFβシグナル伝達阻害剤の開発が行われているが、我々はTGFβ1型レセプターキナーゼ、ALK5阻害剤に着目し、慢性肝障害動物モデルを用いて肝再生促進効果、肝線維化抑制効果について検討した。

【方法】In Vitro: ヒト星細胞株LX-2にTGFβ1を添加し、ALK5阻害剤(ALK5i)投与によるSmad2リン酸化及びコラーゲン産生能の変化を蛋白、mRNAレベルで検討した。またHepG2及びHUVECにTGFβ1刺激下にALK5iを各種濃度で添加し、MTT増殖アッセイにより増殖抑制阻害効果を検討した。さらに、血管形成アッセイにて血管形成促進作用を検討した。In Vivo: C57BL6/J雄性マウス腹腔内に週2回8週間四塩化炭素(CCl4)を投与し肝硬変を作製した。CCl4投与開始後5週目よりvehicle、ALK5i(低用量、中用量、高用量)を1日2回経口投与し、その間もCCl4は投与し続け、投与開始後57日目に屠殺した。肝細胞及び血管内皮細胞増殖活性の評価をPCNA、E-cadherin、Isolectin B4を用いた蛍光免疫組織化学で検討し、線維化を含む肝細胞像の評価をHE染色及びAzan染色を用いて行った。ヒドロキシプロリンアッセイにより、コラーゲンの蓄積量を定量評価した。さらにRT2 Profiler PCR arrayを用いて各種増殖因子の発現を網羅的に比較検討した。

【成績】In Vitro: galunisertibは肝星細胞の活性化を抑制し、コラーゲン産生を阻害した。またHepG2細胞はTGFβ1刺激下にも関わらず、ALK5iを併用することで、濃度依存的に細胞増殖抑制阻害効果を認めた。HUVECはTGFβ1刺激にて血管形成能、細胞増殖活性の両方に促進傾向が見られたが、ALK5iを併用することでその変化は顕著になった。In Vivo: vehicle群と比較しALK5i投与群では投与量依存性に肝線維化面積の減少、ヒドロキシプロリン量の減少を認め、肝線維化の進行を抑制できた。さらに、有意な肝/体重比の増加、肝細胞、血管内皮細胞の両方でPCNA率の増加、肝細胞の増殖因子としてIL-6、エピレグリンの発現増加を認めた。

【結論】TGFβは増殖抑制因子で、肝細胞の増殖活性を負に調節していると考えられていることから、ALK5i投与によりTGFβシグナル伝達を特異的に阻害し、肝細胞増殖を促進した。さらには血管内皮の増殖も亢進させ、肝再生を促進した。また、肝星細胞の活性化を抑制することで肝線維化の進行を抑制できたと考えられた。galunisertibが肝硬変症に対する有効な治療薬になり得る可能性が示唆された。

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F. 膵液中エクソソーム由来膵癌特異的microRNAの同定による膵癌早期診断

主研究者:阪上尊彦、岩本英希、古賀浩徳

【背景】膵癌は最も予後不良な悪性腫瘍の一つであり、その予後改善が大きな課題である。予後不良な理由の一つは、早期発見が非常に困難である事であり、早期発見の為のバイオマーカーの発見が求められる。これまでのバイオマーカーに関する膵癌エクソソームの検討は血清を利用したものがほとんどだが、実用化に至っていないのが現状である。【目的】本研究では、より病巣と密接に関係する膵液中から膵癌に特異的なエクソソーム中microRNAを抽出し、エクソソーム中microRNAが膵癌の早期診断に有用かどうか調べる事が目的である。【方法】膵癌および非膵癌由来の膵液からエクソソームを超遠心法で抽出する。エクソソームの確認の為に、エクソソームから蛋白を抽出し、Western blot法でエクソソーム特異的蛋白を同定する。次に、Transmission Electron Microscopyを用いて、膵癌および非膵癌由来のエクソソームに形態学的な相違があるかを確認する。加えて、Nanoparticle Tracking Analysisを行い、由来の異なる膵液中エクソソームの数、大きさ、ばらつきなどの特徴があるかを評価する。さらに、マイクロアレイデータから独自の手法を用いて、膵癌細胞特異的microRNAの絞り込みを行う。【今後の展望】今後は、マイクロアレイの結果と整合性の取れたmicroRNAを判別するために、validation PCRを進め、さらに有望なmicroRNAを選別する。その上で、多数臨床検体を用いて、同定された膵癌特異的なmicroRNAの一致率を評価する。また、同定されたmicroRNAの機能解析を行う。

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G. ヒト肝癌細胞におけるPD-L1の発現とその免疫外機能の検討

主研究者:田中俊光、古賀浩徳

【背景と目的】近年、がん薬物療法において、PD-1/PD-L1などを標的とする免疫チェックポイント阻害剤の臨床応用が目覚ましい。その治療効果は、しばしば腫瘍内浸潤リンパ球におけるPD-1や腫瘍細胞におけるPD-L1の発現量と相関しているといわれていたが、必ずしも相関しない例も多く見られる。一方、以前よりPD-1やPD-L1には免疫チェックポイント機能とは独立した別の細胞内シグナル伝達系を制御する機能があると言われていた。そこで今回我々は、ヒト肝癌細胞株におけるPD-L1の発現を検討し、その発現量と細胞機能との関連を検討した。

【材料と方法】ヒト肝癌細胞株Huh-7、Hep3B、HepG2、HLFの他、久留米大学病理学講座で樹立された肝癌細胞株(HAK-1A, HAK-1B, KMCH-1, KMCH-2, KYN-1, KYN-2, HAK-5)およびヒト胎児由来不死化肝細胞株(OUMS-29)、合計12種類を用いた。PD-L1の発現はwestern blotおよびreal-time PCRで評価した。さらに、レンチウイルスベースでのPD-L1ノックダウン細胞株で機能解析を行った。また、PD-L1と共役しうるRTKを探索する目的で、Proteome Profiler Human Phospho-RTK Array Kit(以下、p-RTK array)を用いた解析をおこなった。さらにRecombinant Human IGF-1、IGF-1R阻害薬(Linstinib)を用いて、細胞増殖に差があるかをMTSアッセイで評価した。

【結果】上記細胞株において、肉腫様肝癌細胞株HAK-5で極めて強いPD-L1の発現を認めた。そこでPD-L1をknockdown(KD)したHAK-5細胞株(PD-L1-KD-HAK-5)を樹立した。PD-L1-KD-HAK-5は対照と比べ、polygonalな上皮様細胞に形態変化しており、上皮間葉移行(EMT)とは逆の過程(MET)が進行していると考えられた。PD-L1-KD-HAK-5では増殖能が著しく低下していた。p-RTK array 解析では、PD-L1-KD-HAK-5において、IGF-1RとAXLのリン酸化亢進を認めた。western blotにおいても、PD-L1-KD-HAK-5でp-IGF-1R(Tyr1135)、IGF-1Rβ、p-AXLの発現の増加を認めた。Recombinant Human IGF-1添加後のMTSアッセイでは、PD-L1-KD-HAK-5において細胞増殖能が有意に増加し、逆にIGF-1R阻害薬(Linstinib)を添加すると著しい低下を認めたことから、新たに発現したIGF-1Rは機能的であることが示された。現在、western blotにて、PD-L1発現低下に対するIGF-1R発現増強のメカニズムを検討中である。。


【結論・展望】 肉腫様肝癌細胞において、PD-L1は細胞増殖を促進させることがわかった。また、PD-L1 KDによりIGF-1RやAXLの逆説的な活性化(リン酸化)が誘導され、その下流シグナルが活性化していることが示唆された。IGF-1Rは細胞増殖や抗アポトーシスに関与すること推察される。今後は、PD-L1 KD細胞におけるIGF-1R下流のシグナル活性化機構を検討していく予定である。


(左図)p-RTK array解析 上段:HAK5 control細胞株 下段:HAK5 PD-L1-KD細胞株
(右図)western blot


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H. マルチキナーゼ阻害薬治療によりimmune coldな腫瘍である肝細胞癌をImmune hotな腫瘍へと変える可能性がある

主研究者:鈴木浩之、岩本英希

【背景】

 現在、肝細胞癌(HCC)に対してソラフェニブ・レゴラフェニブ・レンバチニブといったマルチキナーゼ阻害薬(TKI)が治療に用いられるようになっているが、満足な治療効果が得られているとは言い難い。近年、肝細胞癌に対する治療として免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の治療効果が評価されており、今後の承認に期待が集まっている。さらにTKIとICIの併用療法の臨床試験が行われ、非常に良好な結果が報告されている。

 肝細胞癌は元来、その免疫微小環境はimmune coldな腫瘍として知られ(Wada et al. Hepatology 1998)、さらにimmune coldな腫瘍はICIに対し治療抵抗性があるとされている。ICIを用いた肝細胞癌治療戦略においてimmune coldな腫瘍をimmune hotな腫瘍へと変えることは非常に重要であると考えられる。

【方法】

 我々はC57BL/6マウス由来の肝癌細胞株をC57BL/6マウスの背側皮下に移植することにより肝細胞癌の免疫同系統マウスモデルを作製した。腫瘍の生着を確認後、4週間の経口TKI治療を行った。TKI治療によって免疫微小環境がどのように変化したかを評価するため、免疫組織化学染色を用いて、免疫担当細胞の細胞表面マーカーを染色し、高倍率視野中に存在する免疫担当細胞数を測定した。

【結果】

 コントロール群と比較してTKI治療群の腫瘍の増大速度は有意に抑制された。コントロール群では免疫担当細胞数の数は少なく、ヒトHCCと同様に免疫同系統肝癌マウスモデルでも腫瘍免疫微小環境はimmune coldであることが示唆された。TKI治療群では、コントロール群と比較してCD8陽性細胞やCD4陽性細胞などの免疫担当細胞数の有意な増加を認め、TKIが腫瘍免疫微小環境をimmune coldからhotに変化させたことが示唆された。

【結論】

 HCCの免疫同系統肝癌マウスモデルにおいて、TKIは腫瘍免疫微小環境をimmune ‘cold’から‘hot’へと変化させた。TKIがimmune ‘cold’なHCCをimmune ‘hot’な腫瘍へと変化させ、そこにICIを組み合わせることで、相乗効果が得られている可能性を本研究では示した。

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