腎不全

はじめに

近年、慢性腎臓病患者(以下CKD)は増加傾向を示し、全国で1300万人と推測されている。腎臓内科を始めとしてCKDの啓発、早期治療を行い末期腎不全への進行を食い止めている努力がなされている。しかしながら、末期腎不全患者は年々増加傾向を示している。2009年の透析医学会による報告では、患者数は290,675名であり、前年度より8,053名の増加であった。毎年約1万人程度の新規患者の増加を認め、30万人を超える勢いである。今後も糖尿病など生活習慣病患者の増加もありこの傾向は持続するものと思われます。 末期腎不全治療には主に3つの腎代替療法があります。人工血液透析、腹膜透析、腎移植です。それぞれの割合は血液透析施行例が95%程度を占めております。最近、腹膜透析も徐々に増加しておりますが、3.4%と約1万人程度です。腎臓移植については生体腎移植と献腎移植があり、献腎移植はさらに脳死下と心停止下に分けられます。2008年は計1201例の移植術が行われそのうち、生体腎が991例(82.5%)献腎(心停止下)184例(15.3%)、献腎(脳死下)26例(2.2%)でした。現在では血液透析患者が最も多いのですが、腹膜透析、腎移植も最近では増加傾向にあります。それぞれ利点、欠点がありこれらを十分患者さん本人が理解し的確に選択し、治療を行う必要があると考えております。  今回は末期腎不全治療であるこれらの3つの治療法について説明させていただきます。 当院では腎臓内科と協力しこれらの治療を行っております。血液透析は腎センターにて35台の透析器を導入し、3クール制を導入しています。腹膜透析は最近当院でも著しく増加しており、カテーテル挿入、抜去術は泌尿器科医、腎臓内科医が協力して施行しております。腎移植はこの2年間は施行しておりませんが、それ以前は年間5例程度施行しております(計42例)。現在の日本では血液透析が圧倒的に多いですが、腹膜透析、移植にも利点は多くあり今後これらの治療法の普及、腎不全患者さんへの啓蒙が必要と思われます。患者さんにあった腎代替療法の選択が必要と思われ、その援助ができればと考えております。

各治療法の利点、欠点の比較

 

腎移植

腹膜透析

血液透析

生命予後

優れている

腎移植に比べ低い

腎移植に比べ低い

腎機能

かなり正常に近いレベル(60~70%)

悪いまま

悪いまま

生活の質(QOL)

優れている

移植に比べ悪い

移植に比べ悪い

合併症

透析より少ない

移植より多い

移植より多い

心血管障害など

社会復帰率

非常に高い

高い

低い

薬剤

免疫抑制剤など

慢性腎不全、合併症の薬

 

(高血圧、貧血、二次性副甲状腺機能亢進症など)

必要な手術

腎移植手術

カテーテル留置術

ブラッドアクセス

手術におけるリスク

やや高い

あまりない

ほとんど無い

通院回数

術後1年以降 月1回程度

月1回程度

週3回5時間

食事飲水制限

少ない

やや多い

多い

旅行出張など

自由

制限あり

制限あり

スポーツ

移植部位の保護が必要

腹圧に注意

特になし

妊娠・出産

可能

ほぼ不可能

ほぼ不可能

入浴

問題なし

問題なし

透析後はシャワーがいい。

その他の欠点

免疫抑制剤を生涯内服する必要性あり

カテーテル留置が必要

ブラッドアクセスが必要

免疫力の低下、感染症のリスク、拒絶反応

腹膜炎、トンネル感染の可能性

透析中の血圧低下、かゆみなど

再発腎炎などによる腎機能廃絶の可能性

腹膜機能低下による腎機能障害

 

 

腹膜の透析膜としての寿命

 

その他の利点

透析による束縛からの解放

血液透析よりは自由度が高い

最も日本で普及

腎臓の働き

腎臓は左右の腰の上方の後腹膜に存在します。腎臓では血液をろ過し、尿を作ります。この時、体に必要な物質や水分は再吸収し、余分なものを尿として排出します。また、血圧を維持するホルモンや血液を造るホルモンを排出しております。尿を造るだけではなく、血圧の維持、貧血の改善などにも重要な役割を担っています。腎機能が低下した状態を腎不全と呼びます。末期腎不全になると腎機能の改善は不可能なものになってしまいます。末期腎不全に陥ると尿量低下や倦怠感、むくみ、高K血症、心不全など重大な問題を引き起こし透析などの腎代替療法が必要になります。代替療法は正常腎機能の約10%程度まで低下した時に必要となります。

I 透析療法

腎臓に代わって人工的に用いて血液を浄化する方法です。ブラッドアクセスを用いて施行する血液透析と腹膜カテーテルを用いて施行する腹膜透析があります。

A, 血液透析

ブラッドアクセス(シャント;前腕の動脈と静脈を吻合する手術を行い、静脈に動脈血を吻合したもの。)を用い、透析ごとに穿刺施行します。これより脱血しダイアライザ(透析器)を通じ血液を浄化、水分を除去します。 血液透析は1回4から5時間施行し、週3回の治療が必要です。  合併症としては透析導入時に頭痛、嘔気などをおこす不均衡症候群、血圧低下、貧血などがあります。

B, 腹膜透析

腹腔内に留置したカテーテルを用い、腹膜機能を利用して血液を浄化する方法です。血液透析ではシャントから血液を体外に出して浄化しますが、腹膜透析では腹腔内に透析液を一定時間留置し、腹膜を介して透析を行います。終了すれば腹腔内にたまった透析液を体外に排出します。自宅でも行うことが可能で、透析のたびに通院する必要がありません。  定期的に腹膜透析を施行する必要があります。皮下にカテーテルを埋め込みます。異物が長期留置された状態になるため、感染のリスクがあります。(腹膜炎、出口部感染、トンネル感染など)腹膜機能の低下、感染症などで腹膜透析施行困難になることがあります。その場合は血液透析、腎移植といった他の治療法に移ります。

透析療法の合併症

1、 貧血

慢性腎不全の状態では腎臓から造血ホルモンであるエリスロポエチンが分泌されないため貧血の進行がみられます。最近ではエリスロポエチン製剤の進歩にて対応が可能になってきております。

2、 腎性骨異栄養症

ビタミンD活性化障害のため低カルシウム血症、リンの排泄低下もあり副甲状腺機能亢進症となり骨からカルシウムを動員します。その結果、骨がもろくなり、線維性骨炎や骨折をきたしやすい状態に陥ります。

3、 動脈硬化症

動脈の内側にコレステロールやカルシウムがたまり血管が細くなります。そのため血管の流れが悪くなることによっておこる状態です。脳梗塞、心筋梗塞、狭心症、虚血性大腸炎などの原因となることがあります。

4、 高血圧

慢性じん不全では高血圧を合併することが多くなります。水分や塩分摂取が多くなるために起こります。水分が過剰になると肺水腫、心不全などを起こします。高血圧が持続すると脳出血などのリスクも高くなります。

5、 悪性腫瘍

長期透析を行っている人は悪性腫瘍の発生率が高いといわれております。

6、 感染症

腎不全の状態では免疫力の低下もあり感染をきたしやすくなります。尿路感染症やかぜをこじらせて肺炎にかかる確率も高くなります。結核にかかることもあります。

Ⅱ 腎移植

 透析患者は30万人近くまで増加しているにも関わらず、腎移植は年間1200例程度しか行われていないのが現状です。2010年の臓器改正法案の施行により今後増加することが期待されます。
 腎移植には腎臓の提供(ドナー)が必要となります。腎移植には大きく分けて生体腎移植と献腎移植の2種類あります。生体腎移植は家族、配偶者などからふたつある腎臓のうちひとつを提供してもらいます。献腎移植は脳死あるいは心臓死の方より提供を受ける治療法です。
 生体腎移植では血液型によってABO血液型一致、不一致、不適合に分けられます。献腎移植では血液型が一致していることが前提になりますので不適合移植はありません。以前は不適合などは成績にも影響を与えておりましたが、免疫抑制剤の進歩、技術の進歩などもあり安全に施行できるようになってきております。
 移植が成功して腎臓が機能すれば、免疫抑制剤を内服し続ける必要性はありますが、通常の生活が可能となります。

腎移植手術

腎移植の手術は自分の腎臓は原則としてそのまま残します。献腎、生体腎ともに移植手術は同様の方法で施行します。提供された腎臓を下腹部の左右どちらかにいれ、動脈、静脈、尿管をそれぞれ吻合します。手術は全身麻酔で施行し、約4時間程度かかります。術前1週間より入院し、手術後約1カ月で退院できます。

生体腎ドナー手術

生体ドナーの腎臓摘出手術は一般的な開腹手術と内視鏡化手術(後腹膜鏡下手術、用手補助下)があります。近年、内視鏡下に摘出する施設が多くなってきております。手術は全身麻酔下で行い約3時間程度かかります。内視鏡下手術では術後1週間程度で退院が可能です。

ドナーの適応

生体腎移植のドナーは親族に限定しております。血縁者(両親・兄弟姉妹・子供など3親等以内の姻族です。配偶者でもドナーになれます。  ドナーになる前提条件は、自発的に腎臓の提供を申し出ていること。あくまで見返りのない善意の提供であること。ドナー手術の安全性・リスクを十分理解し術前・中・後の医学的ケアに協力できること。医学的に心身ともに健康な成人であること。以上の要件をみたす必要があります。ドナートレシピエントの血液型は免疫抑制剤の進歩もあり不適合の場合でも移植は可能となりました。

免疫抑制剤

腎移植施行時には拒絶反応の抑制のため、免疫抑制剤を内服してもらいます。生体腎の際には1カ月から数週間前より前もって内服を開始してもらいます。多くはカルシニューリンインヒビターを中心にステロイド、代謝拮抗薬、抗体を用いた4剤併用療法が主になります。術後1カ月以降は徐々に漸減し、3剤にて維持免疫療法を施行しております。

移植後の合併症

手術に伴う外科的な合併症では、創感染、血腫、リンパのう腫、尿漏、腎動脈狭窄などが考えられます。また内科的合併症としては拒絶反応(超急性、急性、慢性)があります。拒絶反応の治療には免疫抑制剤の変更、増量、血漿交換などで対応します。また、免疫抑制剤の副作用として腎機能低下、耐糖能異常、高脂血症、、高尿酸血症があります。ステロイド内服による骨障害、耐糖能異常があります。

腎移植の成績

腎移植の成績は生体腎移植で生体腎移植で1年、5年、10年生着率がそれぞれ94%,82%,68%程度で生存率は腎移植後10年で85%あります。献腎移植の場合は生体の成績を10%ほど下回るといわれてきましたが、最近では免疫抑制剤の進歩もあり成績は向上してきております。