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おなかの免疫から考える、新型コロナウイルスに打ち勝つための独り言

第2波に備え

「免疫を理解し、新型コロナウイルスを正しく恐れるために」

(更新2020年8月6日、第30版)

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[免疫とは?]
免疫の役割は新型コロナウイルス等の病原体から我々の体を守ってくれる仕組みです。しかし、免疫はウイルスが体内に入らないように水際で防ぐ役割は担っていません。侵入してしまったウイルスを体から追い出す役割を担うのが免疫です。よって、免疫力が強いと症状が出ないままウイルスを追い出し、症状が出ても軽症で済みます。一方、免疫力が弱いと重症化や最悪の場合は死にも至ります。

これだけ進歩した現代科学・医療をもってしても、未知の新型コロナウイルスに対して悪戦苦闘が続いている状態です。一方、我々の体の免疫システムは、この未知の侵略者に対しでさえ的確に戦い勝利を収めてくれています。つまり、免疫が適切に働いていれば、新型コロナウイルスは「正しく恐れる」ウイルスなのかもしれません。事実、新型コロナウイルスが爆発的に蔓延したアメリカでさえ、免疫力がしっかりしていれば98%以上の方は無症状か軽症で済んでいます。また、6月21日の韓国新型感染症中央臨床委員会の発表では、「PCR陽性で入院した49歳以下の基礎疾患が無い患者さん」3,060人のうち、酸素投与が必要な中等症に陥ったのは0.1%と非常に少ないようです。同様に、7月10日の米国疾患管理予防センター (CDC)の報告でも、49歳以下のPCR陽性者で入院による治療が必要となった方は0.1%以下のようです。

[免疫の仕組みは?]
免疫は何種類もの細胞のチームプレイにより病原体を排除します。免疫細胞は自然免疫細胞と獲得免疫細胞に分けられます。病原体が入ってくると自然免疫細胞が数時間以内に攻撃を仕掛けます。自然免疫細胞は非常に血気盛んで、病原体を丸飲みしたり(貪食)、石(サイトカイン)を投げて相手を攻撃します。しかし、自然免疫細胞は「悪そうな相手」全てに対して、むやみやたらに攻撃を仕掛けるため、効率的な攻撃とは言えません。よって、たまに暴走してしまい「サイトカインストーム」と呼ばれる病気を起こしてしまう事もあります。自然免疫細胞が戦っている間、獲得免疫細胞は自然免疫細胞より情報を得て「本当に悪い主犯」を認識して、それを覚えこみます。我々の体の中で脳細胞だけが物を記憶できると思われがちですが、実はT細胞とB細胞と呼ばれる獲得免疫細胞も記憶することができます。しかし、獲得免疫細胞が敵を倒すための効率的な戦略をたて、主犯を記憶して戦いに参加できるには3日間以上の準備期間が必要です。この間は、自然免疫細胞が一人で戦う事になり、強敵や多勢の場合は苦戦してしまい我々に多くの症状が出てしまいます。

自然免疫細胞が苦戦しながらも3日間戦ってくれれば、準備が整った獲得免疫細胞が援軍として助けに来てくれます。獲得免疫細胞の中で「B細胞」は、弓矢(抗体)を使い、主犯に対し的確にピンポイントで攻撃を仕掛けます。また、刺さった矢が目印となり、自然免疫細胞は、これまでの様にむやみやたらに攻撃をしかけるのでなく、矢の刺さった主犯を的確に攻撃(抗体依存性細胞傷害)できるようになります。また、B細胞は、ウイルスの増殖を抑える事ができる特殊な矢(中和抗体)も放ち、敵の援軍を阻止します。同時に、獲得免疫細胞の中の「T細胞」も参戦してきます。T細胞は特殊部隊のような戦闘のエキスパートであり、至近距離から拳銃(サイトカイン)を使い的確に敵をしとめると共に、ナイフ(パーフォリン)を使った接近戦にも長けています。また、弓矢を使うB細胞の援護も担います。このチームプレイにより病原体は撃退され症状が急激に改善します。よって、この時期に入れば、特効薬を飲んだ様な印象を持たれる患者さんもおられるかもしれません。すなわち、免疫力は最強の抗ウイルス薬です。病原体の排除が終わると、免疫を抑制する機能を持つ特殊な獲得免疫細胞が、興奮した免疫細胞達を落ち着かせ健康状態へと戻していきます。この戦いの終息がうまくいかないと興奮した細胞達は暴徒化して、敵に代わり自身の細胞に対しても攻撃を仕掛けてしまい、自己免疫疾患を起こしてしまう事も稀にあります。

[免疫の基本概念、鍵と鍵穴は?]
免疫は「鍵(リガンド)」と「鍵穴(受容体)」の関係でコントロールされています。鍵が違うと家に入れないのと同じく、ウイルスが持つ鍵(スパイク)に会った鍵穴を見つけないと我々の体には侵入できません。新型コロナウイルスの鍵穴となるのは、血圧の調整に関与しているアンギオテンシン変換酵素2と呼ばれる分子です。この分子を足掛かりに新型コロナウイルスは我々の細胞に空き巣のように入って来ます。ウイルスは自分自身では増える事ができません。例えるとすれば、裸(DNAまたはRNA)の状態です。裸で出歩くと、直ぐに太陽光に焼き殺されてしまいます。細胞内に空き巣に入り、自分に合った洋服や靴を盗み、身支度が整ったら隣の細胞に再び空き巣に入ります。つまり、空き巣をしつづける事により生き延びています。厄介な事に、ウイルスは空き巣の間に自身の複製も多数作ります。これにより、空き巣に遭う被害細胞が増え、同時にウイルスの数もネズミ算式に増えてきます。このネズミ算式に増えたウイルスが咳や大声で吐き出されると、他人に感染させてしまいます。

ウイルス達は、それぞれ異なった「鍵穴」を使います。よって、使われた「鍵穴」に依存して違った合併症が起こってきます。例えば、我々を感染症から守てくれる免疫軍の主力部隊(T細胞)は、「CD4」と呼ばれる分子を持っています。このCD4を「鍵穴」として使うのがエイズです。よって、免疫の主力部隊が機能しなくなり、エイズでは免疫の低下が起こってしまいます。新型コロナウイルスは、血圧の調整に関与するアンギオテンシン変換酵素2と呼ばれる分子を「鍵穴」として使います。アンギオテンシン変換酵素2は、「血を固まりにくくする作用」も持つ事が報告されています(Fraga-Silva RA Mol Med 2010 p210; Fang C Blood 2013 p3023)。よって、この抑制機構がおかしくなり、合併症として血栓を起こしているのかもしれません。アンギオテンシン変換酵素2は腸管にも多く発現するので、下痢を起こす患者さんもいます。また、アンギオテンシン変換酵素2は、舌や嗅覚神経にも多く発現しています(Xu H, Int J Oral Sci 2020)。これにより、新型コロナウイルスに感染すると、味覚異常や嗅覚異常が起こると思われます。季節性インフルエンザでも、鼻が詰まると嗅覚異常はでますし、高熱が出ると味覚異常も感じます。一方、新型コロナウイルス感染では、他に症状が何もないのに味覚異常や嗅覚異常が起こるのが特徴かもしれません。「鼻は詰まってないのに、臭いがわからない」や「元気いっぱいなのに、味を感じない」などの症状があれば、新型コロナウイルス感染が疑われるのかもしれません。

[ワンチームとして働く免疫の戦士達は?]
免疫細胞には、多くの種類の細胞達がいます。これらの細胞達は各部隊を作り、異なった役割を、異なったタイミングで担います。それぞれ長所短所があるため、欠点を補いあい「One Team」として敵を撃退します。先発隊は「自然免疫」部隊です。敵を丸飲み(貪食)できる、好中球、マクロファージ、樹状細胞と、接近戦で敵に毒を注入(抗体依存細胞傷害)するナチュラルキラー細胞といった強者が揃っています。この中で、好中球は最初に出陣する特攻隊です。敵を丸飲みしながら、手榴弾(NADPH オキシダーゼ)も使って戦い、3日以内には死んでしまいます。自然免疫部隊は強者揃いですが、攻撃方法が野蛮で雑なため敵 の残党が残るのが欠点です。

 

自然免疫部隊の樹状細胞は、敵を丸飲みして食べた後に戦地を離れ「獲得免疫」部隊が待機している司令部(リンパ節)に移動します。獲得免疫部隊は、「B細胞」中隊と「T細胞」中隊からなります。司令部で敵の情報をT細胞中隊に伝えると共に、司令官(抗原提示細胞)の役目も担います。すなわち、T細胞中隊に「戦え(強敵だから援護が必要)(免疫活性)」、または「戦うな(敵は弱いので援護は必要ない)(免疫寛容)」の指示を、暗号(副刺激分子)を用いてだします。「戦え」の指示をだす場合、戦場に派遣する部隊をまず選びます。そして、選んだ部隊の兵隊を増やすため、栄養剤(サイトカイン)を与えます。次に、戦場の位置(臓器)も伝え、その場所に行くための切符(ホーミング受容体)もわたします。この指示がでると、選ばれたT細胞部隊は、樹状細胞の情報をもとに敵の顔を記憶します。一方、B細胞中隊は、戦場から流れてくる遺留品(抗原)を川の河口(血液)で独自に調査し、敵の特徴を記憶します。そして、B細胞部隊とT細胞部隊は協力して3日間かけて戦闘準備を整えた後に、戦場に向け出陣します。戦場では、樹状細胞に代わりマクロファージが指示(抗原提示)を出します。また、樹状細胞やマクロファージが誤った指示を出した場合や、戦死した場合は、B細胞が司令官の代役を務めます(2次的抗原提示)。

B細胞中隊は、弓矢の名手です。「胚中心」と呼ばれる丘の上から矢(抗体)を放ち、正確に敵に命中させます。腕が上がると「形質細胞」に昇格していきます。刺さった矢を目印に、強者揃いの自然免疫部隊が的確に攻撃を仕掛けます(抗体依存性細胞傷害)。また、B細胞中隊は、敵の援軍を阻止できる特殊な矢(中和抗体)も放ち、戦いを有利に進めます。T細胞中隊は、さらに「CD4陽性細胞」小隊と「CD8陽性細胞」小隊に分かれます。CD8陽性細胞小隊は、接近戦の名手です。敵と組みあいナイフ(パーフォリン)で刺し、その傷口から毒(グランザイム)を注入して敵を完全に抹殺します。CD4陽性細胞小隊は、屋内に潜む敵を倒すため、自然免疫細胞たちを指揮して急襲攻撃を担う特殊部隊や、種々の秘薬(異なったサイトカイン)を使い分け、飛び道具が特異なB細胞中隊の援助にあたる後方支援部隊などに分かれます。

「CD4陽性細胞」小隊は、さらに幾つかの特殊部隊に分かれます。代表的な特殊部隊は、「Th1細胞」部隊、「Th2細胞」部隊、「Th17細胞」部隊、「Treg細胞」部隊です。Th1細胞部隊は、自然免疫部隊の指揮をとりながら敵の潜んだ危険な屋内(細胞質内感染)にも果敢に急襲攻撃を行い「細胞性免液」と呼ばれる役割を担います。Th17細胞部隊は、援軍を呼ぶプロフェッショナルです。モールス信号(IL-17)を全身に飛ばすことにより、命知らずの好中球たちを戦場に呼び寄せ戦力アップに努めます。一方、Th2細胞部隊はB細胞中隊の後方支援にまわり、B細胞が使う矢の産生を手助けする「液性免疫」と呼ばれる役割を担います。Th1細胞部隊とTh2細胞部隊は、良きライバルとして互いに拮抗しあいます。すなわち、Th1細胞部隊はTh2細胞部隊を抑え込み、Th2細胞部隊はTh1細胞部隊を抑え込もうとします。良きライバル同士の競争により、免疫のバランスは保たれます。ウイルス感染症では、Th1細胞に「戦え」の指示が出され、寄生虫感染症では、Th2細胞に「戦え」の指示が出されます。よって、新型コロナウイルス感染では、Th1細胞部隊に指示が出されるため、Th1細胞が優位になります。そして、ウイルスが撃退された後に、Th1細胞部隊の興奮をおさえるためTh2細胞部隊が拮抗をはじめ、免疫のバランスが「戦闘モード」から「平時モード」に切り替わります。しかし、この拮抗がうまくいかないとTh1細胞部隊が暴走を始めて、自身の細胞まで傷つけ「自己免疫疾患」を起こしてしまいます。逆に、Th2細胞部隊が暴走してしまうと「アレルギー疾患」を起こします。

すなわち、我々の体は、病原体に打ち勝ちながら、自己免疫疾患を予防し、さらにはアレルギー疾患も予防する非常に繊細なバランスを常に保っているわけです。非常に複雑です。そして、この免疫のバランスを保つための職人が「Treg(制御性T細胞)」部隊です。Treg部隊は、ボクシングのセコンドのように、冷たいタオル(IL-10)で興奮した免疫兵を落ち着かせ、勢い余って味方に攻撃を仕掛けないように常に見張ってくれています。Th1細胞部隊とTh2細胞部隊の「相互に拮抗した抑制」とは異なり、Treg部隊は、自然免疫部隊、B細胞部隊、CD8陽性細胞小隊、Th1細胞部隊、Th2細胞部隊すべての免疫兵の監視を行い憲兵的な役割を担っています。

 

[細胞性免疫と液性免疫は?]
弓矢(抗体)が主に働いている状態が「液性免疫」です。一方、「細胞性免液」と呼ばれる状態では、接近戦の得意な兵隊達(細胞)が主体に働いています。つまり、「液性免疫」作戦では、飛び道具である弓矢(抗体)を用い、「細胞性免疫」作戦では急襲部隊が働きます。通常は、より強力な戦略とるため両方が混在します。「鍵」を持たない病原体は、細胞の中に空き巣に入れません。よって、細胞の外、つまり屋外で常に生活しています。この様な敵に対しては、遠くから放った矢(抗体)でも殺すことができるので、液性免疫が主戦法になります。一方、新型コロナウイルスのように「鍵」を持った病原体は、空き巣に入り室内に潜んでいます。室内にいるため、遠くから放った矢は当たりません。この様な場合は、室内(細胞内)への急襲攻撃が必要となり、接近戦の得意な部隊が導入されます。この急襲部隊が、Th1細胞が指揮をとる「細胞性免疫」となります。

Th2細胞部隊は「液性免疫」に関与するため、「Th2細胞が減れば抗体はできない」と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、完全な誤解です。感染症の時の抗体産生は、Th1細胞が主に援助しています。Th2細胞が「液性免疫」と呼ばれる所以は、Th2細胞が特異的に産生するインターロイキン-4(IL-4)と呼ばれるサイトカインにあります。IL-4の役割は特殊で、感染症で増加するIgGやIgAと呼ばれる抗体とは異なり、IgEと呼ばれる抗体を作りだします。このIgEが花粉症などのI型アレルギーを直接起こします。よって、「I型アレルギーの機序では、Th2細胞が液性免疫の主役」となります。一方、感染症で増加するIgGの産生はより複雑で、多くの種類の細胞が関与します。

[免疫がウイルスを殺すには?]
ウイルスは我々の細胞に空き巣のように侵入して、初めて増える事ができます。よって、空き巣をしている最中、すなわち、まさに増えようとしているところを狙えば、ウイルスを一網打尽にすることができます。この一網打尽に貢献しているのが、IgG型の弓矢(抗体)です。B細胞が、空き巣被害にあっている最中の細胞に矢を放ちます。これを目印に、強者揃いの自然免疫細胞とT細胞達が細胞を取り囲みウイルスを一網打尽にしてくれます。一網打尽の方法は、ウイルスが潜んでいる細胞を丸ごと食べてしまうか(貪食)、細胞の中に接着剤のような毒を流し込んで、細胞ごとウイルスを固めてしまうかです(抗体依存性細胞障害)。また、B細胞は「中和抗体」と呼ばれる特殊な矢も放ちます。中和抗体は、新型コロナウイルスが細胞に空き巣に入るために必要な鍵(スパイク)に引っ付き、鍵穴に差し込めないようにします。これにより、ウイルスは空き巣に入れなくなり、増える事ができずに死んでしまいます。よって、例外はありますが、ウイルスに特異的なIgG型の抗体を持つ人はウイルスから守られ、そして他人にうつさない事になります。

[免疫が低下する原因は?]


[コロナ感染を助長するその他の原因は?]

[世界から学ぶことは?]

[免疫力強化法は?]

【ここでボディーマスインデクス(BMI)を計算してみてください】
BMIの計算法:体重74キロで身長176 cm(1.76 m)の場合は
74 ÷ 1.76 ÷ 1.76 = 23.88で23.88がBMIです。

18.5以下の方は痩せすぎ、18.5から25は正常範囲、そして25以上で肥満の領域に入ってきます。BMIが25以下で耐糖能異常が無く、デザートを「太るから」と食べたいのに普段は控えている方は、今こそ本能の赴くままにお召し上がり下さい。ただし、摂取したエネルギー源を効率良く免疫細胞に取り込ませるには食後の軽い運動が必要です。免疫力強化と体重増加予防を兼ねて、食後の散歩(室内での30分程度の足踏みでも充分です)はお忘れなく。また、免疫の暴走を抑えるためにバランスを保つ事も重要で、食物繊維の摂取が手助けしてくれます。

1918年に起こったスペイン風邪のパンデミックでは、高齢者ではなく20歳から40歳までの若者に死亡者が集中する異なった様相を呈しています。サイトカインストーム(下記参照)と当時の栄養状態が働き盛りの若者を死に導いたと考えられています。ウイルスに打ち勝つためには「若くても栄養をしっかりと取らないといけない」と言う教訓かもしれません。

[腸管は?]
新型コロナウイルスが咳などの飛沫やエアロゾルを介して感染することはよく知られていますが、実は腸管にも感染します。コロナウイルスが侵入するためにアンジオテンシン変換酵素2を必要とするので、この酵素が発現する場所に感染が起こるわけです。アンジオテンシン変換酵素2は腸管にも多く発現するため、腸管に感染して下痢を起こす場合もあります。また、新型コロナウイルスは症状の消失後も糞便から約1週間検出できるとの報告もあります。よって、飛沫のみでなくノロウイルスのように排泄物により感染する可能性があるという事で、頻回な手洗いが予防には重要です。また、トイレで水を流す時はウイルスが空気中に飛び散る可能性があります。公衆便所などで水を流すときは便器の蓋をするか、蓋が無ければ空気中への飛散を防ぐため便器に腰かけたまま流すのが良いかもしれません。

最近報告された、人の遺伝子をほぼ網羅するゲノムワイド関連解析(GWAS)によると、CCR9、CXCR6、XCR1と呼ばれる遺伝子に異常があると、新型コロナウイルスによる重症化が起こり易い可能性が示唆されました(Ellinghaus D, N Engl J Med 2020 6/17)。これらすべては、腸管の免疫に深く関与している分子です(Mora JR. Mucosal Immunol 2008 p96; Olszak T. Science 2012 p489; Satoh-Takayama N. Immunity 2014 p776; Ohta T. Sci Rep 2016 p23505)。新型コロナウイルスの腸管への感染と重症化に、何らかの因果関係があるのかもしれませんが、今は何もわかっていません。

[血管は?]

アンジオテンシン変換酵素2は血管の内皮細胞にも発現し、血液を固める働きのある血小板の凝集を防いでいるとの基礎的研究もあります。新型コロナウイルスが血管のアンジオテンシン変換酵素2に結合することで、血を固まり易くして脳梗塞、肺塞栓、足の指の血栓症を起こす場合があるのかもしれません。また、尋常ではない急速な肺炎の進行が新型コロナウイルス肺炎の特徴です。感染免疫学の側面からは、この現象を説明するのは非常に難しい状態でした。しかし、新型コロナウイルスの血管内皮細胞への結合により血の塊が作られ、これにより血液が遮断され、最終的に虚血性の肺障害を起こしていると考えれば、肺炎の急速な進行は説明がつくのかもしれません。事実、新型コロナウイルスによる剖検の結果では、58%の患者さんに肺の血流が遮断された「肺塞栓」が認められることが報告されています(Ann Intern Med 2010, p62))。また、新型コロナウイルスで重症化した患者さんの特徴は、「血管の障害に伴う血液の凝固異常」であることも最近報告されました(Goshua G. Lancet Haematology 2020 /30)。このように新型コロナウイルスが重症化を起こす病態も解明されつつあり対処法もありますので、専門の医師にお任せください。
[小児は?]
新生児は母親由来の免疫因子(IgG)により生後半年間は守られ、その後は自身の未熟な免疫機構が6年以上かけて徐々に成熟していきます。一方、個人差は有りますが中高年から免疫機構は衰え始めます。すなわち、免疫力の弱い乳幼児と高齢者が一般的には感染症に対して重症化しやすくなります。事実、季節性インフルエンザでは乳幼児と高齢者に重症化が見られ、毎年1,000人から3,000人もの命を本邦で奪っています。2003年に発生したSARSは「SARS-CoV」と呼ばれるコロナウイルスが原因です。現在のCOVID-19は「SARS-CoV2」と呼ばれる新型コロナウイルスにより起こります。これら2つのコロナウイルスによる重症化の年齢は、これまでとは少し異なります。高齢者は重症化しやすいのですが、乳幼児や小児は殆ど重症化していません。病原性の高いSARS (致死率9.6%)の年齢別の死亡率は65歳以上で約50%、24歳未満では1%以下です。今回のCOVID-19の20歳未満の死亡率は、ほぼ0です。事実、米国CDCは「新型コロナウイルスによる17歳以下の入院率は、季節性インフルエンザより低い」と7月10日に報告しています。スイスのジュネーヴで最近行われた抗体検査では、10-19歳の抗体陽性率は9.6%でしたが、9歳以下では0.8%でした(Stringhini S. Lancet 2020 6/11)。新型コロナウイルスに感染すると、一般的には抗体が陽性となるため、9歳以下の感染のリスクは10歳台に比べて約10倍低い事を教えてくれているのかもしれません。つまり、「乳幼児・小児は新型コロナウイルスに感染しにくく、重症化も少ない」のかもしれません。

何故「乳幼児・小児は新型コロナウイルスに感染しにくいのか?」について、9歳以下の子供では鼻粘膜のアンジオテンシン変換酵素2の発現が低いことが報告されています(Bunyavanich S et al. JAMA 2020 5/20)。つまり、「新型コロナウイルスが体内に侵入するための鍵穴が少ない」ため、乳幼児・小児は感染しにくいのかもしれません。何故「乳幼児・小児は重症化しにくいのか?」について、伝染性単核球症と言う病気が教えてくれているかもしれません。エプスタイン・バール(EB)ウイルスが起こす病気ですが、幼少期で感染すると症状はほとんど無く、思春期に感染すると重篤な症状が出てしまいます。何故なら、EBウイルスは体を守ってくれるはずの免疫細胞(B細胞など)に感染し、この細胞を運び屋としてウイルスを身体中にばら撒くからです。免疫系が未熟な乳幼児では、「運び屋である免疫細胞」が少なく重症化から守られているのかもしれません。

新型コロナウイルスは、出産の時に母親から赤ちゃんにうつる「垂直感染」の可能性について賛否両論でした。7月23日の報告(Salvatore CM, Lancet 2020 7/23)によると、新型コロナウイルスに感染した116人の母親から生まれた赤ちゃん全てに、新型コロナウイルスは検出されていません。垂直感染の可能性は低いのかもしれません。また、感染した母親が母乳で育てた14日後の検査でも、全ての赤ちゃんにウイルスは陰性です。母乳による感染の危険性も低いのかもしれません。

小児は、新型コロナウイルスの重症化から守られていますが、稀に「小児発症性多臓器炎症症候群」と呼ばれる病気を合併する事があります。発症する頻度は10万人に2人と言われています(Levinson M, New Engl J Med 2020, 7/29)。川崎病に似た心臓と血管の症状や、皮膚や口腔粘膜など多くの臓器に症状がでてきます。小児発症性多臓器炎症症候群は、新型コロナウイルスの症状がでてから約25日たった回復の段階で発症し、平均年齢は8.3歳で、男児に多いようです。全身に波及する病気のため、80%以上は入院治療が必要となります。しかし、医療技術の進歩により、入院して死に至る可能性は2%です(Feldstein LR, New Engl J Med 2020, 7/23)。

多くの論文で、幼稚園や小学校の休園・休校は感染拡大防止に効果は無いと報告されてきています(Levinson M, New Engl J Med 2020, 7/29; Quinn HE, Lancet Child & Adolescent Health 2020, 8/3)。私は、この分野の専門ではないため、これらの論文の内容をご紹介させて頂きます。休園・休校措置の必要がない理由は、1)子供は感染しにくく重症化しにくい、2)子供が他人にうつす可能性は低く、事実、家庭内感染では「親から子供への感染」がほとんどである、3)「休園・休校措置をとらなくても感染拡大を助長しない」ことはフィンランド、ベルギー、オーストラリア、台湾、シンガポール、オランダ、フランス、イスラエル、ニュージーランドなどの多くの国で既に証明されている。これらの理由により、「園内・校内感染はゼロではないので、全ての社会活動が停止された場合は、休園・休校措置は必要である。一方、何らかの社会活動が開始された場合、これらの活動に比べて感染拡大の危険性の低い幼稚園・小学校を休園・休校にする理由はない」と締めくくっています(Levinson M, New Engl J Med 2020)。

[血液型は?]
血液型と新型コロナウイルス重症化の関連性が中国から最初に報告されましたが賛否両論の状況でした。最近、新型コロナウイルス感染後に呼吸管理を必要とした1,980人の重症患者さんの統計が欧州から報告されました(Ellinghaus D, MedRxiv 2020)。中国からの報告と類似して、O型のヒトは新型コロナウイルスによる重症化のリスクが低いのかもしれません。「血液型が?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、血液型を決定するのは蛋白では無く「糖鎖」と呼ばれる分子で僅かな粘着性を持っています。A型の人はA抗原と呼ばれる糖鎖を持ち、B型の人はB抗原と呼ばれる糖鎖を持ちます。一方、O型の人は、これらの糖鎖を持ちません。激しい嘔吐や下痢で我々を苦しめるノロウイルスも、好む血液型と嫌う血液型が存在します。また、重要なポイントは、新型コロナウイルスに合併し重症化を起こしてしまう血栓症です。2016年の111万人を対象とした大規模研究において、O型のヒトはO型以外のヒトに比べて肺塞栓症や深部静脈血栓症などの血栓症の発症が50%程度低いことも報告されています(Vasan SK Circulation 2016 p1449)。この様な血栓症の起こりにくさが、O型のヒトを新型コロナウイルスによる重症化から守ってくれているのかもしれません。

血液型と新型コロナウイルス重症化の関連は、ヒト遺伝子をほぼ網羅する「ゲノムワイド関連解析(GWAS)」によっても最近報告されました(Ellinghaus D, N Engl J Med 2020 6/17)。血液型がO型のヒトは重症化の危険性が低く、A型のヒトは高い可能性があるのかもしれません。
[サイトカインストームは?]
免疫は敵である病原体と戦う時、ボクシングのセコンド役のような制御性細胞が、興奮した自然免疫細胞達を落ち着かせます。これにより、自然免疫細胞は、むやみやたらにパンチを繰り出すのではなく冷静沈着に敵に攻撃が仕掛けることができるようになります。パンチに相当するのが、「炎症性サイトカイン」と呼ばれる可溶因子で、ウイルスの撃退に働きます。しかし、制御機能が働かないと、自然免疫細胞達が暴走して、炎症性サイトカインを一度に大量に放出します。これにより、ウイルスを撃退するはずの炎症性サイトカインが、逆に自身の臓器まで攻撃してしまうのがサイトカインストームと呼ばれる現象です。

サイトカインストームを起こす根本原因として考えられるのは、「血球貪食症候群」かもしれません。敵に毒を注入して殺すナチュラルキラー細胞は、通常の感染症では増えるのですが、新型コロナウイルス感染では逆に減っていると報告されています(Thevarajan I, Nat Med 2020 3/16)。同じように、毒を注入して敵を殺すCD8陽性T細胞も、新型コロナウイルス感染で減っているようです(Luo M JCI Insight 2020 6/16)。毒を注入して敵を撃退する兵隊がいなくなると、これらの兵隊の分まで頑張ろうと「敵を丸飲みにして撃退する」大食漢のマクロファージが張り切り過ぎてしまいます。結果、味方の細胞まで食べてしまい「血球貪食症候群」と呼ばれる合併症を起こし、サイトカインストーム現象も生じます。サイトカインストームや血球貪食症候群は、新型コロナウイルスに特異的な現象ではなく、EBウイルス、インフルエンザウイルス、連鎖球菌等の他の感染症をはじめ、生物学的製剤と呼ばれる薬での治療中におこる事があります。イギリスのオックスフォード大学より6月17日に、ステロイド系抗炎症薬であるデキサメタゾンの投与が、酸素供給が必要な重症患者さんの死亡率を低下させる可能性が報告されました。軽症者には効果はありませんでしたが、酸素供給が必要な患者さんの20-25人に1人、人工呼吸器が必要な患者さんの8人に1人の命を救っているようです。デキサメタゾンは免疫を抑制する薬の代表ですので、新型コロナウイルス感染により重症化に陥った患者さんの4-12.5%に、免疫の暴走により生じるサイトカインストームが合併している可能性を示唆しているのかもしれません。7月17日に、デキサメタゾンを投与した2,104人と、投与の無い4,321人の結果が報告されました(The Recovery Collaboration group, N Engl J Med 2020 7/17)。投与された患者さんの死亡率は22.9%で、されなかった患者さんは25.7%のようです。人工呼吸器が装着された重症患者さんに対しては、デキサメタゾン投与は死亡率を41.4%から29.3%に改善できたようです。一方、軽症者に対して効果は認められていません。

サイトカインストームを恐れて「免疫力を弱くしろ」と言われる方がいらっしゃいますが、完全な間違いです。免疫力を弱くすることは、新型コロナウイルスと戦う前に「白旗を上げ、重症化を待つ」のと同じです。事実、自己免疫疾患や重症のアレルギー疾患の治療のためにステロイドを止むを得ず使用されておられる患者さんが世界中に多くいらっしゃいます。例えば、炎症性腸疾患ですが、患者さんの安全を守るため「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究・久松斑」では世界の情報を逐一集積され治療にあたる医師達に随時配信されています。6月19日時点の報告では、新型コロナウイルスに感染した炎症性腸疾患患者さんにおいて、ステロイド治療を行われている患者さんは、他の治療に比べて入院率は約2~3倍に達し、死亡率も高いようです。同様に、関節リウマチでも、ステロイド治療を受けている患者さんの重症化率が高い事が報告されています(Mehta P, Lancet Rheumatology 2020, 7/31)。また、米国疾患管理予防センター(CDC)も「新型コロナウイルス重症化の危険性を伴う基礎疾患リスト」に「ステロイド等の免疫抑制剤使用中の疾患」を含めています。すなわち、新型コロナウイルス感染時に免疫力が低下していると、悪化の危険性が高いことを教えてくれています。皆さんにできる事は、新型コロナウイルスに感染しないように心がけ、もし感染しても無症状や軽症で済むように免疫力を強化することです。もし不幸にも、免疫が暴走してしまいサイトカインストームや血球貪食症候群が起こってしまったら、織り込み済みの合併症ですので専門の医師にお任せ下さい。

[血栓症は?]
新型コロナウイルス感染の重篤な合併症で、より頻度が高いかもしれないのが血栓症、特に肺塞栓症かもしれません。興味深いのは、血液を固まりにくくする「カモスタット」と「ナファモスタット」と呼ばれる薬で、日本では播種性血管内血液凝固症(DIC)と急性膵炎の治療に使われています。これらの薬は血液を固まらないようにするだけでなく、「セリンプロテアーゼ」と呼ばれる酵素の働きも止めてくれます。新型コロナウイルスは、鍵を鍵穴であるアンギオテンシン変換酵素2に差し込んで細胞内に入ってきます。しかし、鍵を差し込んでも、扉は開きません。鍵を回さないといけないわけです。この回す役を担うのが「TMPRSS2」と呼ばれるセリンプロテアーゼの一種です。実際には、回すわけでなく、鍵が鍵穴に差し込まれると、差し込まれた鍵を足掛かりに新型コロナウイルスを細胞に癒着させます。これにより、新型コロナウイルスが細胞内に入り込んできます。このセリンプロテアーゼの働きを、カモスタットが止めてくれる可能性が報告されています(Hoffmann M, Cell 2020 p271)。また、東京大学医科学研究所は、カモスタットに比べて、ナファモスタットは10倍近い効果が期待されることも報告しています。これらの薬は、新型コロナウイルスの細胞への侵入を防ぎながら、合併しやすい血栓症も抑制できる一石二鳥の効果を秘めているのかもしれません。最近の報告では、抗ウイルス薬が無効であった新型コロナウイルスの重症患者さん3人に、ナファモスタット(200mg/日)を4日間、引き続きカモスタット(600mg/日)を4日投与すると、全員が新型コロナウイルス陰性となり症状も改善したようです(Jang S, Int J Infect Dis 2020, 5/26)。東大病院の7月3日の報告によると、人工呼吸器を必要とした新型コロナウイルス重症患者11名(3名はECMO使用)に対して、ナファモスタットと抗ウイルス薬であるアビガンを併用投与したところ、1名の死亡を除き、7名は退院し3名は人工呼吸器を外せる状態まで改善したようです(Doi K Critical Care 2020, 7/3)。一方、藤田医科大学より7月10日に報告された「多施設非盲検ランダム化臨床試験」の結果では、アビガン投与は、無症状または軽症者のウイルス消失や解熱に貢献するかもしれないが、統計学的有意差はなかったようです。となると、ナファモスタットが重症患者における治療効果の主役を担ったのかもしれません。

血液型がO型の方は、血栓症を起こしづらい体質のため新型コロナウイルス重症化の可能性が低いことがわかってきています。逆に、脳血管障害、心血管障害、高血圧は、血栓症を起こしやすい状態のため、新型コロナイルス重症化の危険性を高めるのかもしれません。

日本人には稀ですが、「鎌状赤血球症」と「サラセミア」と言う貧血を起こす病気があります。これらの病気は、新型コロナウイルスの重症化を起こし易い事が、米国CDCより報告されています。赤血球はサラサラ流れるように球形をしていますが、鎌状赤血球症では名前のとおり「三日月型」をしています。これにより血が詰まりやすくなり、鎌状赤血球症の患者さんは新型コロナウイルス重症化の危険性が高いのかもしれません。一方、サラセミアも赤血球の形は変わりますが、鎌状赤血球症ほどイビツではありません。
結果、鎌状赤血球症ほど重症化の危険度は高くないようです。また、新型コロナウイルスによる重症化には人種差があるようです。重症化の危険度は、黒人系、アメリカ・インディアン、アラスカ先住民に高く、次に高いのがヒスパニック系と米国CDCが報告しています。人種的に、鎌状赤血球症は黒人系に多く、次にヒスパニック系である事がよく知られています。
また、アメリカ・インディアンとアラスカ先住民では「肥満遺伝子」を持つ方が多く、新型コロナウイルス重症化の一因である肥満者の割合が高いようです(Zamora-Kapoor A. Public Health 2019 p85)。肥満も血栓症の危険因子として知られています。これらの蓄積されてきた情報から考えると、新型コロナウイルス重症化の一番の原因は血栓症と考えてよいのかもしれません。

事実、11,116人の新型コロナウイルス感染者の解析により、新型コロナウイルスの特徴は「凝固系の活性化」と「補体の活性化」、すなわち「血栓をできやすくする」と8月3日に報告されました(Ramlall V, Nat Med 2020, 8/3)。補体は自然免疫を司る可溶性因子で、地雷の様な役割を担い侵入してきた病原体を撃退します。一方、血栓症の形成にも深く関与しています。この論文では、新型コロナウイルス感染で重症化の危険性が高い新たな基礎疾患も報告しています。進行すると失明に至ってしまう「黄斑変性症」と呼ばれる目の病気があります。機序は明らかではありませんが、「補体の活性化」と「血管新生」が原因と考えられています(Mitchell P, Lancet 2018 p1147)。黄斑変性症の患者さんは、体質的に補体の活性化が強く新型コロナウイルスによる死亡率が高いようです(Ramlall V, Nat Med 2020, 8/3)。黄斑変性症は「加齢性黄斑変性症」として知られるように高齢者に多い病気ですが、若年発症でも重症化の危険性が高いと報告しています。黄斑変性症は白人に多い病気です。黄斑変性症の第一人者であられる飯田知弘先生は東京女子医科大学のホームページで、加齢性黄斑変性症は日本でも近年増加してきているが、欧米の主体をなす「萎縮性黄斑変性」と異なり、血管新生が原因の「滲出性黄斑変性」が日本では主体であると言われています。新型コロナウイルス感染で致死率の高い基礎疾患である、鎌状赤血球症は黒人系に多く、萎縮性黄斑変性症は白人系に多く、また両者は肥満率も高いわけです。これらが「新型コロナウイルスによる死亡者数が、アジアに比べ欧米で格段に多い」理由の一つなのかもしれません。

 

[日本の救命率は?]
新型コロナウイルス感染が重症化した場合、サイトカインストームや血栓症といった機序の異なった合併症が起こってきます。例えば、免疫抑制作用のあるステロイドはサイトカインストームが合併した場合に有効です。しかし、ステロイドは血を固める副作用があるので、血栓症を合併してしまった場合は、悪化させる危険性があるかもしれません。よって、医師の各々の合併症に則した臨機応変な対応が重要になります。特記すべきは、重症患者さんの治療にあたる集中治療室(ICU)での日本の救命率です。新型コロナウイルス感染の重症化により、集中治療室で呼吸管理を伴う治療が施された患者さんの死亡率は、中国武漢で61.5%(Yang X, Lancet Respir Med 2020 p475)、米国シアトルで50%(Bhatraju PK, N Engl J Med 2020 5/21)、イタリアでは治療中を除くと61.3%です(Grasselli G, JAMA 2020 4/6)。また、欧州において新型コロナウイルスをうまく制御しているドイツでさえ、呼吸器管理が必要となった患者さんの死亡率は52.5%に達しています(Karagiannidis C, Lancet 2020 7/28)。一方、日本集中治療医学会のホームページ(6/17時点)によると、治療中患者を除いた死亡率は、人工呼吸器管理の患者さんで25.8%、体外式膜型人工肺(ECMO)管理の患者さんで26.9%と世界最高水準の救命率です。命の危険にさらされながらも休む間もなく治療にあたられ、世界最高水準を維持されている救命救急医療に携われる皆様に、この場をおかりして心より敬意を払うとともに感謝申し上げます。

[免疫の撹乱は?]

病原体の中には免疫を撹乱させるものも多数あります。代表的な撹乱方法は「分子擬態(構造擬態)」と呼ばれるものです。「オレオレ詐欺」のように、他人でありながら息子に成りすましてきます。つまり、味方のように見せかけることにより、免疫細胞の敵味方の区別を見誤らせ、味方(自身の体)に攻撃を仕掛けるように仕組みます。例えば、マイコプラズマという病原体は、この方法により免疫の反乱を導きギランバレー症候群、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性の肺炎などを誘発することがあります。胃に感染するピロリ菌も自己免疫性血小板減少性紫斑病を起こしますし、性病であるクラミジアも反応性関節炎と呼ばれる自己免疫反応を起こすことがあります。新型コロナウイルス感染に伴い、稀にですがギランバレー症候群や、小児に川崎病の合併を引き起こす事も報告されています。よって、新型コロナウイルスも免疫を撹乱する能力を持っていると思われます。事実、ヒトコロナウイルス(Human corona virus、HcoV-229E, NL63, OC43, HKU1)と呼ばれる弱毒性のコロナウイルスは、新型コロナウイルスが現在のパンデミックを起こす以前に、全世界に既に蔓延しています。事実、インフルエンザ流行期の10%以下の患者さんがヒトコロナウイルス陽性と各国から報告されています。そして、ヒトコロナウイルスの中のHcoV-229E型が川崎病の原因である可能性もいわれています(J Med Virol 2014 p2146)。また、後遺症として「脱毛」も最近報告されていますが、円形脱毛症は自己免疫疾患です。

こういう症例が報道されると「免疫力は下げた方が良い」と思う方がいらっしゃいますが、完全な間違いです。まずは、免疫力を高め、新型コロナウイルスを体から追い出す事が先決です。その後におこる合併症は、新型コロナウイルスに特異的でなく他の感染症でも起こりえる折り込み済みの病気ですので、専門の医師にお任せ下さい。

[抗体の役割は?]

「抗体が陰性で良かった、感染が無いので仕事に行ける」と思う方がいらっしゃるかもしれませんが、完全な誤解です。感染早期に産生されるIgM型抗体でさえ陽性になるには感染後約1週間は必要で、抗体検査が陰性だからといって「今、感染していない」という証明には全くなりません。今、「感染しているか、いないか」を判断するにはPCRか抗原検査が適しています。

賛否両論ですが、個人的には、新型コロナウイルスに対するIgG型抗体が陽性であれば「他人にうつさない、そして自身も守られている」と考えていいと思います。ウイルスは自らで増える事はできません。我々の細胞に感染し、細胞内の部品を利用することにより初めて増える事ができます。ウイルスが細胞内で増えるところを自然免疫細胞と協力して一網打尽にしてくれるのがIgG型抗体です。よって、IgG型抗体を持っていれば、ウイルスは増える事ができず、感染しても症状はほとんど無く、他人にうつす事もまずないという事になります。麻疹、風疹、流行性耳下腺炎などを起こすウイルスに対してIgG型抗体が陽性であれば「守られている」そして「ヒトにうつさない」と日常診療では判断されていると思います。事実、院内感染防止のため、これらのウイルスに対する抗体検査は、多くの病院で入職者に対して義務付けられていると思います。

一方、「抗体が作られない(免疫記憶が誘導できない)」や「抗体が役に立たない(抗体がすぐ消失する)」などの例外的な感染症も稀にあるため、「抗体は新型コロナウイルスから我々を守れるのか?」という疑問も早期にはありました。しかし、米国ハーバード大学のアカゲザルを使った基礎研究により「IgG抗体は新型コロナウイルスから守ってくれる」事が証明されています。また、ヒト化マウスを用いた最近の基礎研究では、鍵穴であるアンギオテンシン変換酵素2に新型コロナウイルスが鍵を差し込むのを抗体が妨げ、感染を抑制していることも明らかとなっています(Sun et al. Cell 6/10)。同様に、ヒトにおいても抗体が新型コロナウイルスのアンギオテンシン変換酵素2への結合を阻害することが報告されています(Seydoux E et al. Immunity 2020 6/5)。臨床面においても、新型コロナウイルス再陽性の患者さんの多くは、既に新型コロナウイルスに対するIgG型の抗体を持っており、無症状か軽症ですむ事が欧米から報告されています。同様に、韓国疾患管理予防センター(KCDC)も、新型コロナウイルス再陽性になった患者さんの96%に抗体があり、半数以上は無症状で、症状があっても軽症である事を5月19日に報告しています。非常に有意義な情報は、KCDCの再陽性者285人の追跡調査です。再陽性者の濃厚接触者に感染者は一人も出ていない事を報告しています。期待を持たしてくれるのが、最近の予備的臨床試験結果の報告です(Duan K et al. PNAS 2020 p490)。新型コロナウイルス感染による重症患者10名に、既に回復した患者から採取したIgG型抗体を含む血清200 mLを1回投与しています。すべての患者さんの症状は3日以内に改善し、PCRで全員にウイルスが検出できなくなったと報告しています。すなわち、IgG型抗体を持っていれば新型コロナウイルスに対して「自身も守られ」そして「他人にうつさない」事を基礎と臨床の両側面から証明しているのかもしれません。

免疫といえば「B細胞が作りだす抗体」だけと思われがちですが、誤解です。自然免疫軍のみが働く場合もあります。代表例は、自己炎症性疾患です。自己免疫疾患と異なり獲得免疫軍が出陣してこないため、抗体(自己抗体)は作られません。また、自然免疫軍とT細胞軍だけが働く代表疾患は、「IV型アレルギー」に分類される病気で、接触性皮膚炎などがあります。やはりB細胞軍が出陣しないため抗体は作られません。よって免疫記憶が有るかを調べるためには、抗体検査でなく、接触性皮膚炎を起こしていると疑われる物質を塗り、皮膚が赤くなるかどうかを見る「パッチテスト」が用いられます。ツベルクリン反応もIV型アレルギーです。結核の感染では、抗体ができないため、皮膚に死んだ結核菌を接種して皮膚が赤くなるかどうか、即ち「T細胞が免疫を持っているか」を見ます。このように、B細胞軍が出陣してこない場合も多くあります。また、弱い敵のため、B細胞軍が出陣してきても短期間しか抗体を作らない場合もあります。このような場合は、再攻撃に備えて敵の顔を覚えたB細胞軍は生き残りますが、抗体はすぐになくなってしまいます。つまり、「抗体の有無」では、「免疫が有るのか、無いのか」は分かりません。
[抗原検査と抗体検査は?]

FDAでは95%以上の感度と90%以上の特異度が抗体検査キットには最低限必要と推奨しています。アメリカ国立衛生研究所(NIH)やアメリカ国立がん研究所(NCI)等と連携して抗体検査キットの精度を独自調査して、精度の低い抗体検査キットに対しては、市場からの回収を要請しているようです。6月15日時点でFDAが使用を承認した抗体検査キットと、精度が低いため市場からの回収を指示された抗体検査キットを製造する会社名をFDAのホームページから引用しています。ここに示した以外の多くの抗体検査キットは現在承認待ちの状態ですので、https://www.fda.gov/medical-devices/emergency-situations-medical-devices/faqs-testing-sars-cov-2#offeringtestsよりご確認下さい。FDAのホームページを7月29日に再度確認しましたが、6月15日以降に新たに承認されたキットは3つしかありません。逆に、88種の抗体検査キットが市場からの撤去を指示されているようです。7月29日時点の承認された抗体検査キットをリストに示しています。また、厚生労働省は、アッボト社とロシェ社のどちらのキットにおいても陽性となった抗体は、新型コロナウイルスの増殖を抑制できると報告しています。

日本では、ソフトバンク(Orient Gene 社とINNOVITA社のキット使用)の抗体検査で陽性者は0.43%でしたが、神戸市で行われた抗体検査(Kurabo社キット使用)では陽性者は3.3%(Doi A, MedRxiv 2020)と結果に開きがあるようです。また、日本赤十字社が行った抗体検査では、「新型コロナウイルスが流行する以前の昨年1月から3月に採取した血液中に0.4%の陽性」が認められたと報告しています。2000年代からすでに、弱毒性のヒトコロナウイルスは全世界に蔓延しており、季節性インフルエンザ流行期の5~10%の患者さんにヒトコロナウイルス感染が認められています(Jpn Infect Dis 2018, p167)。よって、このヒトコロナウイルスに対するIgG型抗体を持つヒトも既におられ、「交叉現象」と呼ばれる作用により新型コロナウイルスに対しても弱い陽性を示しているのかもしれません。新型コロナウイルス特異的なイムノクロマトキットを使用していない場合は、弱陽性は、新型コロナウイルス感染ではなく、ヒトコロナウイルス感染の既往を反映している可能性も考慮しながらの慎重な検査結果の判断が必要かもしれません。

[再感染は?]
PCRが陰性となり退院後に再び陽性となる患者さんが、5%から15%いる事が報告されています。韓国疾患管理予防センター(KCDC)の5月19日の報告では、再陽性率は地域によって異なり12.8%から48.7%と幅があった事を示しています。再陽性になった患者さんの半数以上は無症状で、症状があっても軽症です。最近の欧米の報告では再陽性の患者さんの多くは、既に新型コロナウイルスに対するIgG型の抗体を持っていることが報告されています。KCDCも再陽性患者の96%に抗体が確認されたと報告しています。これらの結果は、再陽性の患者さんは既に免疫により新型コロナウイルスから守られている事を教えてくれています。事実、KCDCの285人の再陽性者の追跡調査の結果、再陽性者の濃厚接触者に感染者は一人も出ていません。

[免疫にとっての新型コロナウイルスの強さは?]

中国武漢市の調査では、新型コロナウイルスに感染しても無症状であった患者さんは、症状が出た患者さんに比べてIgG型抗体の血中濃度が低く、そのうえ、退院後約8週で40%の患者さんの抗体が陰性になったと報告しています(Lung QX. Nat Med 2020 6/18)。この結果を見て、「抗体はすぐに消えるので、新型.コロナウイルスに対して免疫はできない」と心配される方がいらっしゃるかもしれませんが、ご安心下さい。自家製の抗体検出キットを使用しているので精度は不明ですが、この結果が正しいとすれば「免疫細胞にとって、新型コロナウイルスは弱い敵」である事を教えてくれていると個人的には思います。自然免疫細胞のみで対処できる弱い相手には、戦闘のエキスパートである獲得免疫細胞は出てこないか、出てきてもアッという間に引き上げてしまいます。良い例が夏風邪です。仕事を休むほどではないが、少しだるく熱っぽい感じが長く続きます。アデノウイルスと呼ばれる弱い敵のため、自然免疫細胞だけで対処してしまい、悪化はしなくても敵の根絶までは至らず軽い症状がだらだらと続いてしまいます。科学的に見ても、新型コロナウイルス感染では64.5%の患者さんにリンパ球の減少、すなわち獲得免疫細胞の減少が認められており(Li L-Q, J Med Virol 2020 p577)、自然免疫細胞が中心的に戦っていると思われます。また、新型コロナウイルスは、自然免疫細胞だけでも十分に太刀打ちできる敵である事は、ダイヤモンドプリンセス号の事例が教えてくれているのかもしれません。感染者に高齢者が多いにも関わらず、無症状者は58%でした。高齢者の免疫力が低下する原因は獲得免疫の衰えです。すなわち、あまり衰えない自然免疫細胞だけで、無症状のうちに新型コロナウイルスを追い出したのかもしれません。また、幼少期に受けたBCGによる自然免疫の訓練が、重症化の予防に寄与してくれる可能性も否定はできません。一方、自然免疫細胞だけでは太刀打ちできなかった場合に、援軍である獲得免疫の戦闘能力が衰えているため、重症化へとつながるのかもしれません。

6月29日にスエーデンのカロリンスカ研究所より興味深い結果が報告されました(Sekine T. BioRxiv 2020 6/29)。新型コロナウイルスに対して攻撃できるように、T細胞が既に敵の顔を覚えているヒトは、抗体を持つヒトの約2倍いると報告されました。また、感染しても症状がでなかった患者さんにもT細胞の記憶は認められています。今年5月に献血された血液を調べると、約30%の方に新型コロナウイルスに対するT細胞の記憶が既に備わっており、抗体陽性者よりも多いようです。病原体が侵入してくると、自然免疫細胞が最初に挑みます。相手が強敵であれば、戦闘のエキスパートである獲得免疫細胞が参戦してきます。獲得免疫細胞は、T細胞とB細胞に分かれ、T細胞が最初に攻撃を挑みます。次に、「T細胞依存性抗体反応」と呼ばれる機序により、T細胞の援助を得てB細胞が参戦してきます。つまり、第一波の攻撃を「自然免疫」がしかけ、第二波の攻撃を「T細胞」がしかけます。そして、第三波攻撃では、「抗体を産生するB細胞」も加わり、免疫軍の総力戦で戦いを挑みます。季節性インフルエンザウイルスに対しては、総力戦が必要なため、ほぼ全員の患者さんに抗体が陽性となります。カロリンスカ研究所の報告からすると、B細胞が参戦する前の、第2波攻撃で新型コロナウイルスを撃退できたことになります。また、これまでの報告からすると、第一波の自然免疫による攻撃で、新型コロナウイルスを撃破する場合もあるようです。すなわち、新型コロナウイルスは、「免疫軍の総力戦が必要でない場合が多い、弱いウイルス」なのかもしれません。

ただし過信は禁物です。免疫軍が手を抜いてしまうため、生き残ったウイルスが免疫軍の目を盗みながら血管にテロ行為を行い突然の爆発(血栓)を起こしたり、免疫兵の一部を騙して混乱させ、反乱(サイトカインストームや自己免疫疾患)を仕組んだりする可能性もあるのかもしれません。

[病原体に適した臨機応変な対策は?]
流行を起こす病原体は2つのタイプに大きく分けられ、各々の病原体に適した臨機応変な対応が必要なのかもしれません。

[超過死亡は?]
残念ながら我々は不老不死では無いため多くの人が毎年亡くなられています。2018度人口動態統計によると、日本における死亡原因の一位は「悪性腫瘍」で37万人、2位は「心疾患」で20万人、3位は「老衰」で10万人、4位は「脳血管疾患」で10万人、5位は「肺炎」で9万人の命を毎年奪っています。
一方、感染症などが猛威を振るった年は予期せぬ死者が出てしまい推測された死亡者数を超えてきます。これが「超過死亡」です。

感染症による死者数を完全に把握することは容易ではありません。よって、「超過死亡」の変動を見ていくのが、今回のように突然発生した新型コロナウイルスのような感染症の死者を把握するための「一つの目安」となるのかもしれません。例えば、2016年からの季節性インフルエンザ流行期の東京を見てみると、人口密度が高いため、季節性インフルエンザによる死者が非常に多くなるようです。事実、超過死亡(青線)が3年連続で、例年から推測されるベースライン(緑線)を超え、さらには閾値(赤線)も超えています。特に2018年冬から2019年春の期間は、ベースラインを超える死者が一週間で120人以上も認められており、例年にない増加です。

事実、日本における2018年冬から2019年春の季節性インフルエンザによる死者は3,325人と例年に比べて多くなっています。一方、昨年冬から今年3月までの超過死亡は低く抑えられています(https://www.niid.go.jp/niid/ja/from-idsc/9627-jinsoku-qa.html)。新型コロナウイルスに対する国民一丸の感染対策が、毎年多くの方の命を奪っている季節性インフルエンザの流行も抑制した結果なのかもしれません。事実、1月から3月までの日本の統計では、死者数は昨年に比べて増えるのではなく、逆に0.7%下回っています。一方、季節性インフルエンザによる死者が減少する3月末には、超過死亡が例年激減しますが、6月18日のBBC News Japanによると3月の日本の超過死亡は0.3%と少し増えています。すなわち、新型コロナウイルスによる死者が、この時期の超過死亡の原因となっているのかもしれません。また、同時期の韓国の超過死亡は5%と報告されています。

感染流行時期から考えて、新型コロナウイルスによる死者が4-5月に最多になると推測されるため、この時期の超過死亡は重要な意味をもつのかもしれません。各都道府県から5月の死者数の速報値が出され、超過死亡について異なった意見が出されています。多くの統計学者が、「過去数年間の死者数を平均した値」と「今年度の値」の比較に警鐘を鳴らされていたため、専門分野ではありませんが私なりに調べてみました。人口動態統計によると、日本の死者数は、2015年が1,290,500人、2016年が1,308,158人、2017年が1,340,567人、2018年が1,362,470人、2019年が1,376,000人でした。毎年0.99%から2.47%の割合で死者が継続的に増えています。世界一の高齢化社会である我が国では、「老衰」による死者が増え続け、2016年には老衰は日本における死亡原因の第5位でしたが、2018年には第3位となっています。すなわち、感染症などの突然の出来事が無くても、超過死亡は自然に毎年増え続けています。つまり、超過死亡を解析するときは、自然増加の考慮も必要かもしれません。例えば、2015年の死者数と比べると2019年の死者数は6.63%増えています。また、2015年から2018年の死者数を平均して比べると、2019年の死者数は3.8%増えていることになります。2018年と比べると、2019年の死者数の増加は0.99%に留まります。すなわち統計学の先生方が言われるように、比較対象の選び方により値は大きく変わり、前年度との比較が最も誤差が少ないようです。

残念ながらアジア諸国のデータは載っていませんが、Financial Timesが欧米の超過死亡率をリアルタイムで報告しています(https://www.ft.com/content/a26fbf7e-48f8-11ea-aeb3-955839e06441)。


やはり、新型コロナウイルスの爆発的な広がりを見せた国は超過死亡も多く、スペインは56%、イギリス49%、イタリアは43%です。また、人口密度の高い都市部での超過死亡は、驚きの数値となっています。例えば、アメリカのニューヨーク市では251%、イギリスのロンドン市では99%、スペインのマドリッド市では157%、フランスのパリ地域圏では81%です。欧米各国の超過死亡率と、札幌医科大学フロンティア医学研究所が示されている100万人あたりの死者数を比較してみました。値は6月25日時点を使用しています。相関の傾向はありそうですが、正比例のような相関は認められませんでした。ベルギーは高齢者施設での死者は、PCRの検査などはせず、老衰であっても全員コロナウイルス感染による死者に含んでいます。よって、コロナウイルス感染者数が見かけ上多くても、実際の超過死亡は低くなるのかもしれません。一方、オランダやスペインの超過死亡率は、コロナウイルス感染による死者数から推測される値より高いのかもしれません。新型コロナウイルス感染による死者を見逃している可能性もありますし、医療崩壊により新型コロナウイルス感染以外の患者さんが多く亡くなられた可能性もあります。また、超過死亡は、全ての死因を含むので、経済破綻による自殺者や殺人による被害者が増えたのかもしれません。統計の素人である私には、難しそうで、超過死亡の解釈は統計学の専門家にお任せしないといけない事がわかりました。

[集団免疫は?]
新型コロナウイルスを根絶させることは難しく、2009年にパンデミックを起こした豚インフルエンザのように共存が必要となると思われます。この共存に必要なのが集団免疫です。集団免疫の確立には60%以上の国民が新型コロナウイルスに対する抗体を持つ必要があります。また、統計学の進歩により20~40%の抗体保持者で集団免疫が確立可能との意見も出され始めています。予防接種や特効薬が開発されるまでの間は、「医療崩壊を起こさず、救える命を救う」そして「経済打撃による自殺者を出さない」といった非常に難しいバランスを保ちながら集団免疫を獲得させるしかないのかもしれません。新型コロナウイルスが季節性インフルエンザのように沈静化するのは、ハーバード大学の試算では2022年以降と言われており、長期戦が必要かもしれません。最も重要な目標は、感染者数ではなく「死者数を最低限に抑える」すなわち「感染による、そして自殺や犯罪による死者を最低限に抑える」になると思います。日本では、自粛に依存し、個人情報を保護しながら、PCR検査数も少なく、より病原性が高く変異した新型コロナウイルスに対してでさえ、現在の人口当たりの死者数は他国と比べても低い状況です。「医療水準の高さ」「思いやりの精神」「マスク文化」「BCG接種」と日本独特の複合要因がOne Teamとして働いた結果と思われます。また、集団免疫が確立されるまでは第2第3の流行が起こる可能性は非常に高く、抗体保持者割合の地域ごとの把握は、次の流行時の対策方針を決めるためにも有用なのかもしれません。また、台風シーズンが迫っており、免疫弱者である高齢者が多く利用する可能性のある避難所の対策は急務かもしれません。

米国では新型コロナウイルスの流行が7月に入っても歯止めがかかりません。その中でも、4月に爆発的流行を起こしたニューヨーク市では感染が抑えられています。ニューヨーク市のホームページによると、一日あたりの感染者数は4月6日に6,378人でしたが、7月に入り100人以下と60倍以上の減少を継続的に認めています。ニューヨーク市の抗体陽性者は5月18日時点で24.7%と既に高く、その後も抗体陽性者は増加していると考えられます。また、カロリンスカ研究所より、抗体が陰性であっても免疫(T細胞免疫)を持つヒトは、抗体陽性者の2倍はいることが報告されています。すなわち、新型コロナウイルスに何らかの免疫を持つヒトが、ニューヨーク市には既に半数以上おられる可能性が高く、「集団免疫獲得」の初期段階にあるのかもしれません。また、ニューヨーク市は「マスク着用義務化」を早期に取り入れており、集団免疫とマスクによる相乗効果により効果的に流行を抑えているのかもしれません。ニューヨーク市の積極的な感染対策に比べて、スエーデンでは国民の自主性にまかせ対策をとっていません。ニューヨーク市と同様に爆発的流行を起こしてしまいましたが、6月25日の感染者数1,333人から現在は208人へと、対策を何もとることなく徐々に減少してきています。スエーデンの抗体陽性者は5月25日時点で7.3%ですが、カロリンスカ研究所は「抗体陰性でも、T細胞の免疫を持っている人を含めると、約30%は既に免疫を持っている」という可能性を報告しています。よって、スエーデンも集団免疫獲得の初期段階である可能性も否定はできません。ニューヨーク市とスエーデンの今後の動向を注視していくことにより、新型コロナウイルス対策のヒントを教えてくれるかもしれません。

[予防接種は?]
病原体が侵入すると数時間以内に自然免疫細胞軍が戦いを挑み始め、3日以上を経て戦闘のエキスパートである獲得免疫細胞軍が援軍に入り、強力なチームプレイにより病原体を完全に撃退します。問題は3日間の時差です。病原体が強いと自然免疫細胞軍は苦戦を強いられ病原体に有利な展開に持ち込まれてしまいます。よって、最初から自然免疫細胞軍と獲得免疫細胞軍を同時に投入することができれば、余裕をもって病原体を撃退できることになります。何故、獲得免疫細胞の参戦までに3日間が必要かというと、脳細胞のように勉強が得意でないので、敵の顔を覚えるのに3日もかかってしまうからです。よって、戦闘能力を失わせた病原体に一度顔合わせをさせる事により、病原体の顔を獲得免疫細胞に覚えさせておき、再び本物の病原体に出会ったら3日の時差なく獲得免疫細胞が即座に攻撃できるようにしているのが予防接種(ワクチン)です。日本では、インフルエンザ菌、肺炎球菌、ロタウイルス、結核、麻疹(はしか)、風疹(三日はしか)、水痘(水疱瘡)、流行耳下腺炎(おたふく風邪)、ポリオ、ジフテリア、百日咳、破傷風、季節性インフルエンザ、日本脳炎、A型肝炎、B型肝炎、ヒトパピローマウイルス(子宮頸がん)など多くの感染症に対する予防接種が義務化及び任意で接種されており、多くの人の命を感染症から守ってくれています。

毒性は弱くしてありますが、生きた病原体を顔見せのために用いるのが生ワクチンです。生きているので一度できた免疫は長続きしやすくなりますが、副作用も多くなり免疫低下状態の方には使用できないのが欠点です。不活化ワクチンは、死んだ病原体の体の一部を抜き取りワクチンに用います。病原体の一部であるため安全性は高いのですが、一度できた免疫が長続きしないのが欠点です。これに分類されるのが季節性インフルエンザの予防接種です。免疫が長続きしないため毎年の定期接種が必要となります。また、「病原体の中の、どの部分を顔見せに用いるか」により、誘導される免疫の強さが異なってきます。病原体の急所、例えば細胞の中に空き巣に入るために必要な鍵の部分をうまくワクチンに利用できれば、ウイルスの侵入まで防げる効果的な攻撃につながります。一方、急所を外れた部分をワクチンに用いてしまうと、効果的な免疫はできません。また、一度できた免疫ができるだけ長続きするような部位をワクチンのために選ぶのも重要となります。よって、効果的かつ免疫が長続きする部位をワクチンのために探さないといけないため、開発には時間がかかります。遺伝子組み換えワクチンは、病原体の弱点と思われる部位の蛋白を遺伝子組み換え技術により作り出し、ワクチンに用います。B型肝炎ワクチンが、これに分類されます。B型肝炎ワクチンは複数回接種しないといけないように、免疫が付きにくいのが欠点です。DNAワクチンは、病原体の構成タンパクを作りだすDNAを、ベクターと呼ばれる運び屋を使って筋肉内に注射します。注射された遺伝子情報をもとに、筋肉細胞が病原体の蛋白を作り出します。すなわち、これまでのワクチンでは、「体外」で作られた蛋白を接種していましたが、DNAワクチンでは「体内」で病原体の蛋白を作らせて獲得免疫細胞に覚えさせることになります。克服しないといけない問題はありますが、DNAワクチンは次世代ワクチンと呼ばれる新たな手法です。SARSの経験から、コロナウイルスに対するワクチン開発は一筋縄では行かない可能性もあり、予防接種のパイオニアである大阪大学では、不活化ワクチン、遺伝子組み換えワクチン、DNAワクチンの3つの手法を用いて幅広く新型コロナウイルスに対するワクチン開発に取り組まれています。世界最先端の知識を駆使して早急に実用化できるワクチンが開発されると信じています。

DNAからRNAが作られ、そして蛋白が作られます。DNAに代わりRNAを用いるワクチンは「RNAワクチン」と呼ばれます。DNAに比べてヒトのゲノム(遺伝子配列)に取り込まれにくく、RNAワクチンの方が、安全性が高いともいわれています。7月14日に、新型コロナウイルスに対するmRNA-1278と呼ばれるRNAワクチンの第Ⅰ相臨床試験の結果が報告されました。このRNAワクチン接種により、新型コロナウイルスの増殖を押さえる中和抗体が作られ、急襲部隊として働くT細胞がいつでも戦えるように、T細胞の記憶が誘導できたようです。7月20日にも、新たな無作為化比較臨床試験(single-blind)の結果が報告されました(Folegatti PM Lancet 2020 7/20)。無毒化した「チンパンジー由来のアデノウィルス」の表面に、新型コロナウイルスが使う鍵(スパイク)を引っ付けて接種します。すなわち、「狼の皮を被った羊」を打ち込み、敵が使う鍵を覚えさせます。この接種により、14日以内にT細胞が記憶し、いつでも新型コロナウイルスに急襲攻撃ができるようになります。また、28日以内に「敵の鍵を潰す中和抗体」が91%の人にできています。2回接種すると100%の人に中和抗体ができるようです。アデノウィルスワクチンの有効性が中国からも同時に報告されています(Zhu F-C, Lancet 2020 7/20)。ただ、運び屋として、無毒化した「ヒト由来のアデノウィルス」を使っています。重篤な副作用はありませんでしたが、ヒト由来のため風邪に似た症状が副作用として出やすいようです。また、すでにヒト由来のアデノウィルスに対して抗体を持つ方も多く、ワクチンのための運び屋が排除されてしまい効果が弱まる可能性も否定は出来ません。RNAワクチンもアデノウィルスワクチンも最先端の技術を使った次世代ワクチンで、どちらのワクチンもB細胞の免疫(抗体)とT細胞の免疫の両方が引き出せています。

[マスク文化は?]
日本の「マスク文化」が世界を変えようとしているかもしれませ。普通のマスクでは、感染は完全には防げません。完全に防ぐためには、「N95」と呼ばれる特殊なマスクが必要となります。N95を付けたとしても、「頭隠して尻隠さず」です。目薬をさして、にがいと感じられる方は多いと思います。実は、目と喉は涙管と呼ばれる管でつながっています。すなわち目にウイルスが入ると喉に行ってしまうため、完全な予防には目の保護も必須になります。このような理由により、欧米では医療関係者以外は、マスクは殆どされていませんでした。

一方、日本では、飛沫を飛ばさず他人にうつさないと言う「思いやりの精神」からマスク文化が定着しています。日本では、「PCR検査数が非常に少ないため、多くの感染者は見逃されている」と言うのが大方の予想でした(私も、そう思っていました)。しかし、精度が担保された抗体検査キットを用いた抗体調査により、日本の感染者数は予想より遥かに少ない事がわかってきています。これだけ感染の蔓延を押さられたのは、昼夜無く働かれクラスターを潰して行かれた保健所の皆さまの努力、そして「思いやりの精神によるマスク文化」の賜物かもしれません。「自分を守る」ためでなく、「他人、特に免疫弱者にうつさない」ためのマスク着用は、「知らず知らずのうちに感染を広める危険性がある無症状者」の多い新型コロナウイルスに対する感染予防対策の主軸を担ってくるのかもしれません。事実、マスク嫌いのアメリカでさえ、ニューヨーク州知事が「外出時のマスク着用を義務化」しました。これにより、ニューヨークでの感染者の爆発的な増加に歯止めがかかっています。また、ニューヨーク、イタリア、武漢の感染者数推移の解析から、「マスク着用」は、「外出自粛」や「ソーシャルディスタンス」よりも効果的に新型コロナウイルスの感染予防につながっていることが最近報告されています(Zhang R et al. PNAS 2020, 6/11)。スペイン、フランス、ドイツ、イタリアでも「マスクの着用」を最近義務化しており、7月2日にはマスクが大嫌いな米国のトランプ大統領でさえマスク着用を指示しました。また、マスク着用に違反すれば罰金を科せる国も出てきています。マスクの有効性を世界が認めた結果と思います。

「新型コロナウイルスなんか怖くないのでマスクはしない」や「新型コロナウイルスにかかってもいいのでマスクはしない」と言われる方がいらっしゃるかもしれませんが、誤った表現と思います。結果的には、「人にうつしたいから、マスクをしない」になる事をご理解下さい。ただし熱中症の危険を伴う季節に入ります。人との距離が保てる屋外では、マスクを外される事をお勧めします。また、日本小児科学会と米国小児科学科は、窒息死や熱中症の危険性が高まる2歳未満の乳幼児には、「マスク着用」を推奨していません。

[うがいは?]
大阪府の吉村知事が8月4日に「うがい」を推奨されました。感染予防の鉄則は「マスク」「手洗い」「うがい」です。新型コロナウイルスでは、マスクと三密が全面にでてしまっているので、再度「うがい」を思い起こすのには良い機会かもしれません。感染症は、免疫軍とウイルスの戦いであり、敵の数が少ないほど免疫軍が優位にたてます。うがいにより体内(組織)に入ってこようとする敵を、水際で極力減らす事は感染予防には重要です。ただ、この目的のためには「塩水のうがい」でも充分効果が発揮できると思います。また、うがい薬は、体内に既に入ってしまったウイルスには効果はありません。

患者さんの飛沫に直接曝露してしまう歯科の先生がたは非常に大変ですが、多くの工夫を既にされています。治療前のマウスウォッシュは、口の中にいて飛沫と一緒に出て来る新型コロナウイルスを減少させ、感染の危険性を減らしくれます。事実、アメリカ、イギリス、ニュージーランドの歯科医師学会では、新型コロナウイルス対策として、診察前に1% 過酸化水素水または0.2% ポピドンヨードによるマウスウォッシュを推奨しています(Zamal M, Oral Dis 2020, 6/3)。会議など人前で話す直前のマウスウォッシュも、飛沫中の新型コロナウイルスを減少させ、他の人にうつす危険性を減らせるかもしれません。

[お腹の免疫から考える新型コロナウイルス対策は?]
未知の新型コロナウイルスの全容も見え始めてきました。免疫力が維持できていれば、「正しく恐れる」ウイルスと思います。

免疫細胞のエネルギー源は、腸内細菌が糖分や澱粉を分解してできるアデノシン3リン酸です。よって、BMIが25以下のかたは、いつもは我慢していた食後のデザートを免疫力強化のため今こそ食べて下さい、特に疲れている時や睡眠不足の時にはお勧めです。カレーがお好きな方は、カレーライス(ルーが多め)からライスカレー(ごはんが多め)にするなど少しの工夫で免疫力は維持できます。ただし、肥満は大敵です。食後の30分程度の軽い運動は、摂取したエネルギー源を効率良く免疫細胞に取り込ませるのに必要です。肥満の予防も兼ねて「食後」の運動はお忘れなく。ただし、「食前」の運動はお腹がすいてしまい余分なものまで食べてしまううえ、免疫細胞への取り込みも促進しないので逆効果です。

新型コロナウイルスの重症化の原因の一つは血が固まってしまう事にあります。血液をサラサラにする効果があるエイコサペンクエン酸(青魚)、クエン酸(梅干しや御酢)、アリシン(玉ねぎやニンニク)を多めに摂るのも良いかもしれません。また、新型コロナウイルス感染では稀に免疫の暴走を認める事もあり、免疫のバランスを保つ事も重要です。このバランスを保つのが酪酸です。酪酸は食物繊維が腸内細菌に代謝されて作られるので、野菜の摂取はお忘れなく。新型コロナウイルスに感染しても無症状・軽症で済むように、食事でバランスを保ちながら免疫力を強化しましょう。

[新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは?]

すなわち、「共存が必要なウイルス」に対しては「これが正しい」と言う選択肢はありません。個人個人で、そして、その時その時の状況に応じて異なると言う事です。新型コロナウイルスを正しく理解し、自身にあった最善の対策を臨機応変にとることが必要なのかもしれません。

[死亡率との相関因子は?]
日本株BCGの接種国では新型コロナウイルスによる死亡率が低い傾向を認めたため、新型コロナウイルス感染に影響を及ぼす可能性が報告されている以下の要因と新型コロナウイルスによる100万人あたりの死者数(5月21日現在)を比較してみました。人口あたりの死者数は、札幌医科大学フロンティア医学研究所のデータを使わせて頂いています。世界各国の結果を毎日アップデートしてくださるため、我々研究者には非常に有用で、この場をお借りして札幌医科大学フロンティア医学研究所の皆様に心より感謝申し上げます。

(BCG以外の検討項目)

死亡率が低い国すべてに共通して認められるのはBCG接種だけでした。また、最近になり爆発的に患者数が増えながら、BCGを接種しているロシアやインドでは依然死亡者数が欧米に比して非常に少ない状態です。同じく、感染者数が爆発的に増えているブラジルでは、他国と異なり細菌数が少なく特殊なモロー株を使っています。日本株BCGを接種している国の7月7日時点の100万人あたりの死亡者数は、イラク61人、サウジアラビア55人、パキスタン21人、フィリピン12人、日本7.7人、韓国5.5人、マレーシア3.7人と他国に比べて依然低いようです。といわれるBCGを接種しています。よって、日本株やソ連株に比べて抑制効果は疑問でしたが、ブラジルでも欧米に比べて死亡者は少ないのかもしれません。事実、6月15日での100万人あたりの死者数は、イタリア568人、アメリカ349人、ブラジル203人、ロシア47人、日本7.3人、インド6.7人です。また、ブラジルやロシアでは、その後爆発的に感染者が増え、7月7日時点の人口100万人あたりの感染者数は、イタリアの2,992人を遥かに超えて、ロシアは4,662人そしてブラジルは7,451人です。一方、7月7日時点の100万人あたりの死亡者数は、イタリアが576人、ロシアで69人、ブラジルで305人です。感染者数から考えると、イタリアに比べて死亡率はブラジルで4.7倍低く、ロシアでは13倍低い計算になります。

死亡率が突出して高い国を見ると、「高齢者が多く」、「肥満率が高く」、「BCGが義務付けられていない」という3つの共通点があるのかもしれません。すなわち、高齢による免疫力低下、BCGによる免疫訓練の欠如、そして肥満による横隔膜の動きが制限されウイルスを肺からはき出しにくい状態が重なることにより、死へとつながる重症化を引き起こしてしまうのかもしれません。事実、BMIが30を超えるような肥満の方に死者が集中しています。最近の統計学的報告でもBMIが30-35を超えると新型コロナウイルスによる死亡率があがる事が報告されています。また、衛生状態や医療体制に問題があるため、アフリカでは19万人以上の死者がでると当初は推測されていました。しかし、感染が拡大しながらも欧米諸国に比べて死者が非常に少ない状態です。アフリカの殆どの国でBCG接種が義務付けられていること、人口の60%以上が25歳未満の若年者である事が影響しているのかもしれません。また、日本を含むBCG接種が義務付けられている国では結核感染が未だ認められ、全世界で毎年400万人以上の命を奪っています。結核感染自体も新型コロナウイルス重症化の軽減に何らかの影響を及ぼしている可能性も否定はできません。

[重症化の決定は?]

重症化を左右するのは、免疫力と敵(病原体)の強さのバランスです。免疫力は「正常」、弱まった状態の「免疫低下」、ほぼ働かない状態の「免疫不全」に大別されます。免疫不全では、「日和見感染」として知られるように、我々が常に持っている「常在細菌」に対してでさえ死に至る感染症を起こしてしまいます。代表例は、高齢者の誤嚥性肺炎です。口腔内細菌と呼ばれる我々が口の中に普通に持っている細菌でさえ、肺に入ってしまうと死に至る肺炎を起こしてしまいます。誤嚥性肺炎は2017年だけでも本邦で35,788人もの尊い命を奪っています。免疫低下の状態では、常在細菌に対して問題はおこしませんが、季節性インフルエンザのように少し強い敵に対しては、苦戦して重症化してしまう場合があります。免疫が正常であれば、季節性インフルエンザのような弱い敵は、無症状か軽症のうちに撃退しますが、エボラ出血熱やSARSのような強い敵に対しては苦戦してしまい重症化の危険性もでてきます。重症化を理解するためには、免疫力だけでなく、敵、すなわち新型コロナウイルスの強さを知る必要があります。季節性インフルエンザと新型コロナウイルス感染症の類似点と相違点を日本のデータをもとに整理してみました。

[重症化しやすい人は?]
これまでの報告をもとにすると、新型コロナウイルスの重症化を最も招きやすい要因は、「高齢」、「基礎疾患」、そして「肥満(BMI>30)」になります。基礎疾患によっても重症化の危険性は異なるようで、米国疾患管理予防センター(CDC)は、「重症化の可能性が高い病気」「重症化の可能性が中等度の病気」、「重症化の可能性はあるが低い病気」に基礎疾患を分類しています。また、男性型脱毛症はアンドロゲンの過剰産生により、幼少時のBCG未接種は自然免疫細胞の訓練不足により、喫煙は閉塞性肺障害をおこすことにより、O型以外の血液型の方は血栓症のリスクが増える事により、妊娠28週以降では(推測的には)ホルモンおよび栄養バランスの障害により、新型コロナウイルス感染の重症化の危険を伴うかもしれません。これらの要因が多ければ多いほど、重症化の危険性が増すのかもしれません。よって、いくつかの要因がある方は、新型コロナウイルス再流行時には「感染予防」のための、より一層の注意が必要かもしれません。また、米国CDCは7月10日に重症化の危険性があるため注意が必要な人は、「65歳以上で基礎疾患のある人」と「85歳以上の高齢者」と位置付けています。また、若くても「肥満」や「基礎疾患」のある方は注意が必要です。

[重症化率は?]
PCR検査の増加により、新型コロナウイルスの「氷山の一角」ではなく「全貌」が見え始めています。全貌(感染者した人の母集団)が見え始めた事により、初期に報告された重症化率や死亡率が多くの国で減少して来ているようです。事実、米国と韓国から「基礎疾患の無い49歳以下の重症化率は0.1%以下」と報告されています、即ち1000人に1人以下です。また、3月1日からデータが蓄積されている米国CDC(weekly Summary)の7月24日の報告では、全年齢における重症化率は0.12%と報告されました。

日本集中治療学会では、新型コロナウイルス感染で人工呼吸器を使用されている重症患者数を随時更新され非常に貴重な情報を提供されています。7月29日に報告された日本の感染者数は8,446人で、人工呼吸器が使用されている患者さんは74人、すなわち0.88%となります。重症化率は、米国の値0.12%より約7倍多くなります。この0.88%が正しいかもしれませんが、新型コロナウイルス感染では無症状や軽症が多いことからすると、感染者数は8,446人ではなく、既に59,122人(8,446人 x 7)いらっしゃると考えるのが妥当かも知れません。また、第一波の時に感染者数が最多(現在の感染者数)だったのは4月26日の9,557人で、人工呼吸器を必要とする患者さんが最多となったのは、4月27日の311人です。重症化率は3.25%という計算になり非常に高いようです。4月27日時点に人工呼吸器を必要とされた患者さんは、今回より4.2倍多くいらっしゃいます。となると、59,122人 x 4.2倍で、248,312人の方が第一波で既に感染されていた可能性も否定はできません。すなわち、感染者数を正確に把握することは不可能にちかく、「感染者数」で一喜一憂するのではなく、新型コロナウイルスの「流行状況」そして「深刻さ」をより反映している「重症化した患者さんの数」を見て、慎重かつ冷静な判断が必要なのかもしれません。

感染者が増加し続けているので、8月4日時点で感染者数は12,391人になりました。感染者数の増加に伴い人工呼吸器が必要な患者さんも104人と増えています。重症化率は、4月27日が3.25%、7月29日が0.88%、そして8月4日が0.84%と第一波に比べて減少の傾向を認めています。また、他国から報告されているように、感染者数の掘り出しにより分母が増えれば増えるほど、重症化率も低下するのかもしれません。

重症化率が低くても感染者が増えれば、それに相関して重症者数が少なからず増えてきます。また、高齢者の感染率が増えれば、重症者も増えます。つまり、医療崩壊を起こさないためには「免疫弱者にうつさない」ことが非常に重要で、無症状や軽症で済む免疫強者ほど「思いやりのマスク着用」が必要です。また、田舎は高齢者が多く医療体制も整っていないところがほとんどです。もし、田舎で感染者の拡大が起これば、重症化率も顕著となり医療崩壊も懸念されます。都会から田舎への移動、すなわち今年の「お盆の里帰り」は慎重に考えた方が無難かもしれません。

免疫力や新型コロナウイルスによる重症化のリスクは日々変動します。体質的に重症化のリスクが低くても、飲み過ぎは免疫力を低下させると共に、脱水により血栓症の危険性を増してしまいます。睡眠不足や蓄積した疲労も免疫力を顕著に下げてしまいます。自分は大丈夫と思い、夜通し飲んでしまうと「何故私が集中治療室にいるの?」という結果になるかもしれません。また、免疫軍が新型コロナウイルスと戦い勝利を収めないと、重症化につながります。戦いにおいては、敵の数が少なければ少ないほど有利です。新型コロナウイルスに大量に曝露してしまうと、いくら免疫力が強くても苦戦してしまう事になります。免疫強者でも、新型コロナウイルスに大量曝露する行動や場所は避ける事をお勧めします。

 

[合併症の症状は?]
新型コロナウイルスが爆発的に蔓延したアメリカでさえ、免疫力が維持されていれば98%以上の方は無症状か軽症ですみます。しかし、何らかの症状が出た患者さんのうち、49歳以下で1.7%、50~65歳で4.5%、65歳以上では7.4%の方が入院による治療が必要となるとの報告が5月にされました。しかし、PCR検査数の増加により母集団も増加したため、7月10日の米国CDCの新たな報告では入院率も減少したようです(https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/covid-data/covidview/index.html#hospitalizations)。新たな報告では、PCRで陽性が確認された患者さん10万人のうち入院治療が必要となった方は、0~4歳で9.4(0.01%)、5~17歳で4.4(0.005%)、18~29歳で37.3(0.04%)、30~39歳で66.3(0.06%)、40~49歳で104.4(0.1%)、50~64歳で161.7(0.16%)、65~74歳で230.6(0.23%)、75~84歳で381.5(0.38%)、85歳以上で590.3(0.59%)と報告されました。非常に少ないですが、重症化はゼロではありません。新型コロナウイルスの重症化の原因の一つは血栓症です。血栓症は血が固まり突然に血管が詰まる事により起こる病気で、エコノミークラス症候群も肺の血栓症が原因です。血管が詰まる場所により重症度や症状が異なります。また、ウイルス増殖の継続やサイトカインストームなども重症化の原因となります。新型コロナウイルスが未知であった段階と異なり、これらの合併症は既に織り込みですので、以下の様な症状が出た場合は専門の医師に早急にご相談して下さい。

共存が必要なウイルスに対しては、「がむしゃらに感染者を探し出す」ではなく、「重症化する危険性の高い感染者」を探しだし早期より適切な治療を開始する事が重要と思います。重症化した患者さんに特異的な血液検査の所見も蓄積されてきています(Gupta A, Nat Med 2020 p1017)。血栓ができると増えてくるD−ダイマーの検査は、血栓症の合併による重症化の危険性を秘めた患者さんを探し出すのに有効な可能性も報告されています。サイトカインストームは、刺殺と毒殺が得意なCD8陽性T細胞の減少や、免疫の暴走を止めるCD4陽性制御性T細胞の減少などが引き金になります。これらの細胞群を含むリンパ球の減少を察知するための白血球分画検査も、重症化の予知には有効かもしれません。各々の患者さんに最適な治療を行うために、AIを活用した「個別化医療」の取り組みが多くの疾患で既に始まっています。予想通り、AIを活用し「新型コロナウイルス感染が重症化する患者さんを早期に探しだす」試みも行われているようです(Zheng Y, Patterns 2020, 7/29)。D−ダイマーの増加やリンパ球減少に加えて、サイトカインストームを起こすインターロイキン6により作り出される「CRP(C反応性蛋白)」の増加、筋肉特に心臓の筋肉が壊されると出てくるCK(クレアチンキナーゼ)やLDH(乳酸脱水素酵素)の増加、肝臓が壊されると出てくるALTやASTと呼ばれる2種のトランスアミナーゼの増加、肝臓が機能しない時や栄養状態が悪いと下がってくるアルブミンの低下が、重症化の危険性を秘めた感染者を早期に探し出すために有効な指標になるかもしれません。

新型コロナウイルスのような未知の病原体に対しては、①「封じ込める」、②「ウイルスを殺す特効薬で発病させない」、③「予防接種により感染拡大を防ぐ」、④「病気になっても命は救う」が対策となります。①が理想ですが、残念ながら新型コロナウイルスは「共存が必要なウイルス」のようです。②と③については、実現に向け世界中の科学者達が日夜努力されていますが、もう少し時間がかかるかもしれません。一方、④の「病気になっても命は救う」は、科学的そして臨床的根拠に基づき確実に成果が出てきています。事実、新型コロナウイルスの全貌が見えない初期の段階でさえ、日本のICUの救命率は他国に比べてズバ抜けています。さらに、東大病院などから「命を救う」ための新たな効果的な治療戦略も報告され、着実に進歩を遂げています。また、免疫学的に見て、新型コロナウイルスは「弱いウイルス」と個人的には思います。よって、新型コロナウイルスは、間違いなく「正しく恐れるウイルス」です。
新型コロナウイルスを正しく恐れ、「うつさない」「うつらない」を心掛け、感染してしまっても無症状・軽症で済むように免疫力を強化しましょう。それでも、合併症の兆候が不幸にも出てしまったら躊躇せずに医師に相談しましょう。
文責:久留米大学医学部免疫学講座 溝口充志

 

 


4月6日の西日本新聞 (https://www.nishinippon.co.jp/item/n/598230/) と4月15日のRKB毎日放送の今日感モーニング(写真)で免疫強化についてお話させて頂きました。多くの皆様にお世話になりありがとうございました。

April 2020, My opinion to strengthen immunity for fighting against COVID19 was published in Nishinihon newspaper and broadcasted in RKB Mainichi TV. Millions of Thanks to related persons in this regard!!



 


ブラウン大学からNoahが本学形成外科と循環器内科でのクリニカルクラークシップに参加のため来日しました。 残念ながらコロナウイルスの影響で急遽帰国となってしまいました。

January, 2020. Noah from Brown University Alpert Medicine joined our clinical clerkship, but Corona virus concern unfortunately forced him to return USA. We are very much looking forward to seeing you again.


 Innternational Online Conference

手振り身振りを含めた実践英語を肌で感じてもらうため、月2回行われていたハーバード大学医学部とのSKYPEテレビ会議には、本学医学部学生をはじめ久留米大学附設中学の生徒さん達にも多数参加して頂きました。今後も不定期ではありますがInternational Online Conferenceを継続致しますので宜しくお願い致します。

The International Online Conference through SKYPE has been held to enhance our international collaborations and provide students an opportunity to understand practical English (with body language) from experience. This conference will be continued on an irregular basis.




助教・大学院生募集! 当講座では免疫学研究に興味のある助教・大学院生を募集しています。