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おなかの免疫から考える、新型コロナウイルスに打ち勝つための独り言

未来を見据え

「免疫を理解し、新型コロナウイルスを正しく恐れるために」

(更新2021年2月25日、第56版)

本文中(タイトル以外)の下線は今回第56版で追記された箇所です。

PDF版はこちらからダウンロード(第56版)してください:

医療系の学生さんは、この補足資料PDFも参照してください。こちらをダウンロード
(営利目的以外であればご自由にお使い下さい)

[ワクチンのまとめ(2021年2月23日時点)]
多くの方から「ワクチンは安全か?」、「接種する必要はあるのか?」など様々なご質問を頂きましたので、ワクチンについて各々のご質問に則してまとめさせて頂きました。

(ワクチンの機序):免疫軍は、先鋒、副将、大将の順にウイルスとの戦いに加わって来ます。しかし、柔道と違う点は、別々に戦うのでなくチームとして戦います。つまり、最初は「先鋒だけ」、次は「先鋒と副将が協力」して、最後には「先鋒、副将、大将が総動員されたワンチーム」として戦いに挑みます。先鋒に勝っても、次には先鋒と副将の二人がかりでかかってこられ、それでも勝ちをおさめても、大将までまじえた先鋒と副将の3人がかりでかかってこられるわけです。これでは、どんなに強いウイルスでもひとたまりもありません。しかし、過去に感染した事のない未体験のウイルスに対しては、副将と大将が戦えるようになるには72時間以上が必要です。この間は、先鋒のみで戦わなければならず、敵の数が多いと苦戦してしまいます。このスキをぬって、ウイルスはネズミ算式に増え敵に優位な状況が作られてしまいます。また、ウイルスが増えるため、他人にうつす可能性もでてきます。この攻撃の時差を無くしてくれるのがワクチンです。ワクチンは、新型コロナウイルスに感染した時の対策を、先鋒、副将、大将の順に段階的に教えていきます。よって、ワクチンの効果がでるには2週間近くがかかります。その後、本物の新型コロナウイルスに感染すると、ワクチンで教育された先鋒、副将、大将が同時に総攻撃を即座にしかけ、一挙に敵を一網打尽にしてくれます。つまり、ワクチンは新型コロナウイルスが体内に入れないように水際作戦を担うわけでなく、入って来たウイルスを症状がでないうちに免疫軍が一網打尽にできるようにしてくれます。また、あっと言う間に敵を倒すので、ウイルスは増える事が出来ず、他人にうつす可能性もほぼ無くなります。

ワクチンは模擬のウイルスを使った「実践訓練」で「机上の勉学」ではありません。よって、ワクチン接種後早期に先鋒である自然免疫軍が実際にサイトカインと呼ばれる可溶性因子を産生します。これにより「接種部の痛みや腫れ」、「頭痛」、「倦怠感」、「微熱」などが起こります。つまり、「副反応」と呼ばれる現象は、新型コロナウイルスに対する免疫軍の訓練の開始を教えてくれ、恐れる必要はないと思います。一方、アナフィラキシーの機序は異なります。T細胞軍には、感染症に対処するTh1部隊と、アレルギーを起すTh2部隊が存在し両者が拮抗しあっています。Th1部隊は病原体のもつ抗原を認識して増え、Th2部隊はアレルギーの原因となるアレルゲンを認識して増えます。ワクチンは病原体の抗原を接種してTh1部隊を増やす手法です。しかし、重度なアレルギーがある方はTh2部隊が常時優位な状態にあり、ワクチンの添加物である脂肪をアレルゲンとして誤認して、Th2細胞部隊が増えてしまう可能性があります。アナフィラキシーが起こる危険性は新型コロナウイルスRNAワクチンでは約20万人に1人で、季節性インフルエンザワクチンの約100万人に1人より少し高くなります。よって、過去にアナフィラキシーを発症された経験のある重篤なアレルギー疾患の方はRNAワクチン接種対象から外されています。 (ワクチンの必要性):G7加盟国の新型コロナウイルス感染による死者数の動向をみると、2つのパターンに大別できます。昨年2~3月の第1波で多くの死者を出した国では、昨年12月から今年1月の第2波の死者数は第1波に比べ同程度、やや減少、または僅かに増加しています。イタリア、アメリカ、フランス、カナダ、イギリスがこのパターンを示しています。一方、第1波を抑え込み死者数が少なかった国では、第2波の死者数は約2~4倍に増えています。このパターンはドイツや日本に認められます。すなわち、いくら都市封鎖により死者数を一時的に抑え込んでも、いつかは「死者数の爆発的増加を認める波」がくるという事です。

言葉は悪いですが、共存が必要なウイルスが出現すると「サバイバルゲーム」が始まります。人類全員が感染して免疫を持つまでは終息はなく、感染に負けた方は亡くなり、打ち勝った方は生存していくことになります。過去の代表例は「スペイン風邪」かもしれません。この様なサバイバルゲームに終止符を打ったのがワクチンです。実際の感染に比べてリスクを極限まで低くしたワクチンにより、人類全員が感染したのと同じ状況を作り出してくれます。例えば、乳幼児にとって、出会う病原体全てが初めての体験になります。よって、ワクチン開発以前には多くの乳幼児が「サバイバルゲーム」を克服できずに亡くなっていました。1920年代には乳幼児期に1000人中189人(18.9%)が亡くなっていますが、現在ではワクチンさらには衛生状態の改善により乳幼児期の死亡率は1000人中約2人(0.19%)まで著減しています。本邦で乳幼児に接種されているワクチンは、「結核」、「ロタウイルス」、「ジフテリア」、「百日せき」、「破傷風」、「ポリオ」、「はしか」、「風疹」、「みずぼうそう」、「おたふくかぜ」、「季節性インフルエンザ」、「日本脳炎」、「B型肝炎」、「肺炎球菌」です。これほど多くの病原体と我々は既に共存しており、ワクチンのおかげでこれらの病原体との「サバイバルゲーム」に打ち勝ってきた事になります。一方、ワクチン接種が充分にいきわたらないアフリカでは乳幼児の死亡率は未だ1000人中77人です。この様にワクチンは「サバイバルゲームを解消してくれた救世主」です。しかし、新型コロナウイルスを「今共存しているウイルス」と同程度の風土病にするためには、最低でも「全国民の60%以上」が接種を受けなければ意味がありません。もし、60%に到達しなければ、今年12月には再び緊急事態宣言を発令しなくてはいけない状況が訪れる可能性も否定はできず、日本国の財政破綻さえも危惧されるのかもしれません。

(ワクチンの効果):ファイザー社のRNAワクチン接種が世界で最も進んでいるイスラエルからワクチン効果について2月18日に報告されました(Amit S, Lancet 2021, 2/18)。ファイザー社のワクチンは2回の接種が必要ですが、1回目接種後の結果報告です。新型コロナウイルス感染者は、ワクチン接種をしていない方では1万人に7.4人に認められますが、ワクチンの1回接種で、2週間たてば5.5人に、4週間たてば3人にまで減少しています。結果、わずか1回の接種でも89~91%の予防効果があるようです。非常に期待がもてる結果です。また、HIVや季節性コロナウイルスといった異なったウイルスを代用した実験により、変異株に対するファイザー社のRNAワクチンの効果について異なった結果が報告されていました。他のウイルスを代用するのでなく、新型コロナウイルス自体を持ちいた実験結果が2月8日に報告されました(Xie X, Nat Med, 2021, 2/8)。イギリス由来の501番目のアミノ酸が変異した「N501Y」株、さらには南アフリカ由来の3ヶ所のアミノ酸が変異した「E484K + N501Y + D614G」株に対してでさえ、ファイザー社のRNAワクチンは効果があると報告されています。また、「N501Y」変異株に対する中和効率がファイザー社のRNAワクチンで3.3倍、アストラゼネカ社のDNAワクチンで2.1倍低下する可能性が2月18日に報告されました(Supasa P, Cell, 2021, 2/18)。「エッ、3倍も低下」と心配されるかたもいらっしゃるかもしれませんが、ご安心下さい。抗体の強さは対数的に変化します。つまり、少なくとも10倍単位の変化で効果に影響が出始めるため、数倍単位で弱くなっても大勢に影響はないことになります。事実、著者たちも「N501Y変異株はワクチンから逃れる事はできない」と締めくくっています。

(高齢者とワクチン):「免疫が低下しているのでワクチンは意味がない」と思われる高齢者の方がいらっしゃるかもしれませんが、誤解です。皆さんは体内に様々な病原体を既に持たれています。例えば、リンパ節や脾臓が腫れてサイトカインストームを最も起こし易い「伝染性単核球症」と呼ばれる病気は、「EBウイルス」により引き起こされます。ほとんどの日本人は乳幼児期に親から感染し、EBウイルスを体内に一生涯持ち続けています。体がマヒしてしまい最後は寝たきり状態になってしまう「進行性多巣性白質脳症」という病気を起こす「JCウイルス」も、ほとんどの皆さんが体内にお持ちです。免疫軍が病原体が悪さをしないように常に見張ってくれているおかげで、命さえも脅かすこれらの病原体と我々の身体は日夜一緒に過ごす事ができています。過度な免疫低下により、これらの病気が発症してしまった方は例外ですが、それ以外の高齢者であれば「免疫が今でも伝染性単核球症や進行性多巣性白質脳症から守ってくれている」ように、ワクチンも新型コロナウイルスから守ってくれます。事実、新型コロナウイルスワクチンが71歳以上の高齢者にも有効な事は既に報告されています((Jackson LA, New England J Medicine 2020, 9/27)。

「余生が短いので、ワクチンは若者達に回したい」とお考えの高齢者の方もいらっしゃるかもしれませんが、お考え直し頂ければ幸いです。もし、若者達のみに限局して感染が起こっていれば、被害は季節性インフルエンザ以下で今のような状態にはなっていないと思います。高齢者に集中して激増する重症化により、医療の逼迫を招いているのが現状です。もし、ワクチン接種をされず重症化してしまうと、現在の「指定感染症2類相当」、さらには入院拒否すれば罰金を科せられる「特措法」下では、本人の意に反して入院を余儀なくされる可能性があります。すると、集中治療室の病床が使用され、一命をとりとめても、長期間のリハビリテーションが必要になり、集中治療室の病床を長期間に及び使用してしまう結果につながりかねません。これにより満床になれば、交通事故などで搬送される若者の受け入れが不可能となり、救える命を失う可能性もあります。新型コロナウイルスによる医療逼迫を防ぐためには「高齢者の方が重症化しない」、すなわちワクチン接種を早期にして頂く事が最善策と個人的には思います。

(過去の感染歴とワクチン):新型コロナウイルスに感染した経験がある方のワクチン接種についての判断は難しいのかもしれません。PCR陽性になった経験があっても、擬陽性の方も多く、発症しても軽症であれば抗体ができていない可能性も高く、ワクチンは受けられた方が無難かもしれません。一方。抗体はできていなくても新型コロナウイルス感染で何らかの症状が有ったヒトでは、1回のワクチン接種で1:100,000という高濃度の抗体産生が誘導され、2回目の接種は必要ない可能性が2月1日に報告されました(Saadat S, medRxiv 2021, 2/1)。しかし、米国国立衛生研究所(NIH)のアンソニー・ファウチ所長は、「検体数も26人と少なく判断するのは時期尚早」との警告を発せられています。抗体が陰性の方は2回接種するのが無難と私も思います。

事実、新型コロナウイルスに感染しても抗体が陰性の方109人の調査では、1回のワクチン接種では不十分な抗体量(1:1000)しか産生されていません(Krammer F, medRxiv 2021, 2/1)。一方、抗体が陽性であった方41名では、1回のワクチン接種で抗体量は1:10,000以上と充分量に達しているようです。新型コロナウイルス感染により少なからず抗体ができているわけですから、2回目の接種は必要ないかもしれません。また、B型肝炎や風疹などでは抗体濃度を調べて、ワクチン接種の必要性が判断されます。過去の新型コロナウイルス感染で、1:10,000以上の十分な濃度の中和抗体を既に持たれている方は、RNAワクチン接種の必要性はないのかもしれません。

(重症化リスクとワクチン):ワクチンに限らず、全ての薬に副作用は起こります。また、RNAワクチンは初めて用いられているため、現在の世界の状況から「重篤な副作用は稀」とは言えても、「100%安全で、将来的にも何も起こらない」とは誰も言えないと思います。しかし、少なくとも60%以上の国民がワクチン接種を受けなければ、今と同じ状態が繰り返され国家の財政破綻につながる危険も秘めてきます。よって、「接種による利益はリスクを上回る」と言うのが各国のワクチン承認の判断です。新型コロナウイルスで重症化する要因もわかってきているので、これまで報告された重症化要因をまとめてみました。要因が重なれば重なるほど重症化の危険は増してきます。「自分自身の新型コロナウイルスに対する重症化リスク」、「職場や家庭でうつしてしまう可能性のある方の重症化リスク」、「ワクチン接種による自分自身のリスク」を総合的に考えるうえでご参考にして頂ければ幸いです。


[9月28日時点でのまとめ]
4月に3ページから始めた「新型コロナウイルスに打ち勝つための独り言」も、報告された結果をアップデートしている内に60ページ以上になってしまいました。世界中の医師や研究者の努力により膨大なデータが蓄積されて来ている事を示しています。内容が多くなりすぎたので、9月28日時点での結果を、科学的根拠に基づき表にまとめてみました。

[免疫とは?]
免疫の役割は新型コロナウイルス等の病原体から我々の体を守ってくれる仕組みです。しかし、免疫はウイルスが体内に入らないように水際で防ぐ役割は担っていません。侵入してしまったウイルスを体から追い出す役割を担うのが免疫です。よって、免疫力が強いと症状が出ないままウイルスを追い出し、症状が出ても軽症で済みます。一方、免疫力が弱いと重症化や最悪の場合は死にも至ります。

これだけ進歩した現代科学・医療をもってしても、未知の新型コロナウイルスに対して悪戦苦闘が続いている状態です。一方、我々の体の免疫システムは、この未知の侵略者に対しでさえ的確に戦い勝利を収めてくれています。つまり、免疫が適切に働いていれば、新型コロナウイルスは「正しく恐れる」ウイルスなのかもしれません。事実、新型コロナウイルスが爆発的に蔓延したアメリカでさえ、免疫力がしっかりしていれば98%以上の方は無症状か軽症で済んでいます。また、6月21日の韓国新型感染症中央臨床委員会の発表では、「PCR陽性で入院した49歳以下の基礎疾患が無い患者さん」3,060人のうち、酸素投与が必要な中等症に陥ったのは0.1%と非常に少ないようです。同様に、7月10日の米国疾患管理予防センター (CDC)の報告でも、49歳以下のPCR陽性者で入院による治療が必要となった方は0.1%以下のようです。

[免疫の仕組みは?]
免疫は何種類もの細胞のチームプレイにより病原体を排除します。免疫細胞は自然免疫細胞と獲得免疫細胞に分けられます。病原体が入ってくると自然免疫細胞が数時間以内に攻撃を仕掛けます。自然免疫細胞は非常に血気盛んで、病原体を丸飲みしたり(貪食)、石(サイトカイン)を投げて相手を攻撃します。しかし、自然免疫細胞は「悪そうな相手」全てに対して、むやみやたらに攻撃を仕掛けるため、効率的な攻撃とは言えません。よって、たまに暴走してしまい「サイトカインストーム」と呼ばれる病気を起こしてしまう事もあります。自然免疫細胞が戦っている間、獲得免疫細胞は自然免疫細胞より情報を得て「本当に悪い主犯」を認識して、それを覚えこみます。我々の体の中で脳細胞だけが物を記憶できると思われがちですが、実はT細胞とB細胞と呼ばれる獲得免疫細胞も記憶することができます。しかし、獲得免疫細胞が敵を倒すための効率的な戦略をたて、主犯を記憶して戦いに参加できるには3日間以上の準備期間が必要です。この間は、自然免疫細胞が一人で戦う事になり、強敵や多勢の場合は苦戦してしまい我々に多くの症状が出てしまいます。

自然免疫細胞が苦戦しながらも3日間戦ってくれれば、準備が整った獲得免疫細胞が援軍として助けに来てくれます。獲得免疫細胞の中で「B細胞」は、弓矢(抗体)を使い、主犯に対し的確にピンポイントで攻撃を仕掛けます。また、刺さった矢が目印となり、自然免疫細胞は、これまでの様にむやみやたらに攻撃をしかけるのでなく、矢の刺さった主犯を的確に攻撃(抗体依存性細胞傷害)できるようになります。また、B細胞は、ウイルスの増殖を抑える事ができる特殊な矢(中和抗体)も放ち、敵の援軍を阻止します。同時に、獲得免疫細胞の中の「T細胞」も参戦してきます。T細胞は特殊部隊のような戦闘のエキスパートであり、至近距離から拳銃(サイトカイン)を使い的確に敵をしとめると共に、ナイフ(パーフォリン)を使った接近戦にも長けています。また、弓矢を使うB細胞の援護も担います。このチームプレイにより病原体は撃退され症状が急激に改善します。よって、この時期に入れば、特効薬を飲んだ様な印象を持たれる患者さんもおられるかもしれません。すなわち、免疫力は最強の抗ウイルス薬です。病原体の排除が終わると、免疫を抑制する機能を持つ特殊な獲得免疫細胞が、興奮した免疫細胞達を落ち着かせ健康状態へと戻していきます。この戦いの終息がうまくいかないと興奮した細胞達は暴徒化して、敵に代わり自身の細胞に対しても攻撃を仕掛けてしまい、自己免疫疾患を起こしてしまう事も稀にあります。

[免疫の基本概念、鍵と鍵穴は?]
免疫は「鍵(リガンド)」と「鍵穴(受容体)」の関係でコントロールされています。鍵が違うと家に入れないのと同じく、ウイルスが持つ鍵(スパイク)に会った鍵穴を見つけないと我々の体には侵入できません。新型コロナウイルスの鍵穴となるのは、血圧の調整に関与しているアンギオテンシン変換酵素2と呼ばれる分子です。この分子を足掛かりに新型コロナウイルスは我々の細胞に空き巣のように入って来ます。ウイルスは自分自身では増える事ができません。例えるとすれば、裸(DNAまたはRNA)の状態です。裸で出歩くと、直ぐに太陽光に焼き殺されてしまいます。細胞内に空き巣に入り、自分に合った洋服や靴を盗み、身支度が整ったら隣の細胞に再び空き巣に入ります。つまり、空き巣をしつづける事により生き延びています。厄介な事に、ウイルスは空き巣の間に自身の複製も多数作ります。これにより、空き巣に遭う被害細胞が増え、同時にウイルスの数もネズミ算式に増えてきます。このネズミ算式に増えたウイルスが咳や大声で吐き出されると、他人に感染させてしまいます。

ウイルス達は、それぞれ異なった「鍵穴」を使います。よって、使われた「鍵穴」に依存して違った合併症が起こってきます。例えば、我々を感染症から守てくれる免疫軍の主力部隊(T細胞)は、「CD4」と呼ばれる分子を持っています。このCD4を「鍵穴」として使うのがエイズです。よって、免疫の主力部隊が機能しなくなり、エイズでは免疫の低下が起こってしまいます。新型コロナウイルスは、血圧の調整に関与するアンギオテンシン変換酵素2と呼ばれる分子を「鍵穴」として使います。アンギオテンシン変換酵素2は、「血を固まりにくくする作用」も持つ事が報告されています(Fraga-Silva RA Mol Med 2010 p210; Fang C Blood 2013 p3023)。よって、この抑制機構がおかしくなり、合併症として血栓を起こしているのかもしれません。アンギオテンシン変換酵素2は腸管にも多く発現するので、下痢を起こす患者さんもいます。また、アンギオテンシン変換酵素2は、舌や嗅覚神経にも多く発現しています(Xu H, Int J Oral Sci 2020)。これにより、新型コロナウイルスに感染すると、味覚異常や嗅覚異常が起こると思われます。季節性インフルエンザでも、鼻が詰まると嗅覚異常はでますし、高熱が出ると味覚異常も感じます。一方、新型コロナウイルス感染では、他に症状が何もないのに味覚異常や嗅覚異常が起こるのが特徴かもしれません。「鼻は詰まってないのに、臭いがわからない」や「元気いっぱいなのに、味を感じない」などの症状があれば、新型コロナウイルス感染が疑われるのかもしれません。

[新型コロナが感染するには?]
新型コロナウイルスは、鍵を鍵穴である「アンギオテンシン変換酵素2」に差し込んで細胞内に入ってきます。しかし、鍵を差し込んでも、扉は開きません。鍵を回さないといけないわけです。この回す役を担うのが、我々の細胞がもつ酵素で、「TMPRSS2」と呼ばれるセリンプロテアーゼや「FURIN」と呼ばれるプロタンパク質転換酵素です。実際には、回すわけでなく、鍵が鍵穴に差し込まれると、差し込まれた鍵を足掛かりに、TMPRSS2が新型コロナウイルスを細胞に融合させます。すなわち、二人が一人になるという事です。これにより、新型コロナウイルスが細胞内に入り込んできます。侵入したウイルスは、細胞の部品を奪いネズミ算式に増え始めます。また、新型コロナウイルスは、細胞の持つ酵素を利用しなくても自ら鍵を回せる可能性も7月21日に報告されています(Cai Y, Science 2020 7/21)。10月20日に2つのグループにより同時に発表された報告によると、新型コロナウイルスが「FURIN」を利用して鍵を回すときには、血管内皮細胞に多く発現する「ニューロピリン1」呼ばれる分子による橋渡しが必要なようです(Daly JL, Science 2020, 10/20; Cantuti-Castelvetri L, Science, 2020, 10/20)。

ノーベル賞を今年受賞されたゲノム編集技術CRISPを用いて、細胞に数千種類の遺伝子を各々欠失させ、新型コロナウイルスが持つ鍵(スパイク)を発現させた水疱性口内炎ウイルスを感染させた生体外の実験結果が10月15日に報告されました(Wei J, Cell 2020, 10/15)。これまで報告されたように、アンギオテンシン変換酵素2を無くすと、ウイルスは感染できないようです。一方、これまでの報告とは異なり、鍵を回す役目を担うと考えられていた、「TMPRESS2」や「FURIN」と呼ばれる酵素を無くしても、ウイルスは感染できるようです。しかし、鍵を回せる可能性のあるもう一つの分子である「カテプシンL」を無くすと、ウイルスは感染できなくなると報告されています。

また、我々の身体の中で機能しているのは遺伝子ではなくタンパク質です。複雑なステップにより、遺伝子がタンパク質に変えられて始めて機能します。第1ステップでは、「転写因子」と呼ばれる分子がDNAに結合する必要があります。しかし、DNAはヒストンと呼ばれる土台にきつく巻き付いているため、転写因子が引っ付ける空間がありません。よって、きつく巻き付いたDNAを緩めてやる必要があり、「エピジェネティクス」と呼ばれる機序が、この仕事を担います。例えば、糸巻には糸がぎゅうぎゅうに巻き付いているため、巻き付いている糸を針穴に通す事はできません。針穴に通すためには糸巻に巻き付いた糸を緩めて手繰る必要があります。針穴に糸が通せれば、裁縫が始められるように、転写因子がDNAに引っ付くことができれば、その後はRNA、そして蛋白へと順調に変換されていきます。新型コロナウイルスは「HMGB1」と呼ばれる酵素を介して、DNAをほぐしてアンギオテンシン変換酵素2の発現に必要な転写因子をDNAに引っ付けている可能性が報告されました(Wei J, Cell 2020, 10/15)。すなわち、新型コロナウイルスは空き巣に入るために必要な鍵穴を我々に作らせる潜在能力をを持つのかもしれません。

ウイルスが細胞に空き巣に入り、細胞の部品を盗んで増えた後は、細胞から出て行き次の標的を襲います。すなわち、ウイルスが感染を拡大させるには細胞から出て行く必要があります。免疫軍はウイルスが潜んでいる細胞を、まずセメントでウイルスごと固めた後に爆破(アポトーシス)します。しかし、セメント漬けを忘れて爆破(壊死)してしまうと、ウイルスは撒き散らかされてしまいます。また、ウイルス自体は細胞の分泌機能を利用して外に出ることもできます。流し台の排水口を利用して外に出ていく状態です。新型コロナウイルスは、他のウイルスとは異なった方法で外に出て行く可能性も報告されました(Ghosh S, Cell, 2020, 10/27)。細胞は、老廃物や病原体を処理できる、掃除機のような機能を持つ「リソソーム」と呼ばれる小器官を持っています。新型コロナウイルスはリソソームを利用して外に出て行けるのかもしれません。例えば、掃除機に入りこみ排気口から外に吹き出されるような状態かもしれません。

[ワンチームとして働く免疫の戦士達は?]
免疫細胞には、多くの種類の細胞達がいます。これらの細胞達は各部隊を作り、異なった役割を、異なったタイミングで担います。それぞれ長所短所があるため、欠点を補いあい「One Team」として敵を撃退します。先発隊は「自然免疫」部隊です。敵を丸飲み(貪食)できる、好中球、マクロファージ、樹状細胞と、接近戦で敵に毒を注入(抗体依存細胞傷害)するナチュラルキラー細胞といった強者が揃っています。この中で、好中球は最初に出陣する特攻隊です。敵を丸飲みしながら、手榴弾(NADPH オキシダーゼ)も使って戦い、3日以内には死んでしまいます。自然免疫部隊は強者揃いですが、攻撃方法が野蛮で雑なため敵の残党が残るのが欠点です。

 

自然免疫部隊の樹状細胞は、敵を丸飲みして食べた後に戦地を離れ「獲得免疫」部隊が待機している司令部(リンパ節)に移動します。獲得免疫部隊は、「B細胞」中隊と「T細胞」中隊からなります。司令部で敵の情報をT細胞中隊に伝えると共に、司令官(抗原提示細胞)の役目も担います。すなわち、T細胞中隊に「戦え(強敵だから援護が必要)(免疫活性)」、または「戦うな(敵は弱いので援護は必要ない)(免疫寛容)」の指示を、暗号(副刺激分子)を用いてだします。「戦え」の指示をだす場合、戦場に派遣する部隊をまず選びます。そして、選んだ部隊の兵隊を増やすため、栄養剤(サイトカイン)を与えます。次に、戦場の位置(臓器)も伝え、その場所に行くための切符(ホーミング受容体)もわたします。この指示がでると、選ばれたT細胞部隊は、樹状細胞の情報をもとに敵の顔を記憶します。一方、B細胞中隊は、戦場から流れてくる遺留品(抗原)を川の河口(血液)で独自に調査し、敵の特徴を記憶します。そして、B細胞部隊とT細胞部隊は協力して3日間かけて戦闘準備を整えた後に、戦場に向け出陣します。戦場では、樹状細胞に代わりマクロファージが指示(抗原提示)を出します。また、樹状細胞やマクロファージが誤った指示を出した場合や、戦死した場合は、B細胞が司令官の代役を務めます(2次的抗原提示)。

B細胞中隊は、弓矢の名手です。「胚中心」と呼ばれる丘の上から矢(抗体)を放ち、正確に敵に命中させます。腕が上がると「形質細胞」に昇格していきます。刺さった矢を目印に、強者揃いの自然免疫部隊が的確に攻撃を仕掛けます(抗体依存性細胞傷害)。また、B細胞中隊は、敵の援軍を阻止できる特殊な矢(中和抗体)も放ち、戦いを有利に進めます。T細胞中隊は、さらに「CD4陽性細胞」小隊と「CD8陽性細胞」小隊に分かれます。CD8陽性細胞小隊は、接近戦の名手です。敵と組みあいナイフ(パーフォリン)で刺し、その傷口から毒(グランザイム)を注入して敵を完全に抹殺します。CD4陽性細胞小隊は、屋内に潜む敵を倒すため、自然免疫細胞たちを指揮して急襲攻撃を担う特殊部隊や、種々の秘薬(異なったサイトカイン)を使い分け、飛び道具が特異なB細胞中隊の援助にあたる後方支援部隊などに分かれます。

「CD4陽性細胞」小隊は、さらに幾つかの特殊部隊に分かれます。代表的な特殊部隊は、「Th1細胞」部隊、「Th2細胞」部隊、「Th17細胞」部隊、「Treg細胞」部隊です。Th1細胞部隊は、自然免疫部隊の指揮をとりながら敵の潜んだ危険な屋内(細胞質内感染)にも果敢に急襲攻撃を行い「細胞性免液」と呼ばれる役割を担います。Th17細胞部隊は、援軍を呼ぶプロフェッショナルです。モールス信号(IL-17)を全身に飛ばすことにより、命知らずの好中球たちを戦場に呼び寄せ戦力アップに努めます。一方、Th2細胞部隊はB細胞中隊の後方支援にまわり、B細胞が使う矢の産生を手助けする「液性免疫」と呼ばれる役割を担います。Th1細胞部隊とTh2細胞部隊は、良きライバルとして互いに拮抗しあいます。すなわち、Th1細胞部隊はTh2細胞部隊を抑え込み、Th2細胞部隊はTh1細胞部隊を抑え込もうとします。良きライバル同士の競争により、免疫のバランスは保たれます。ウイルス感染症では、Th1細胞に「戦え」の指示が出され、寄生虫感染症では、Th2細胞に「戦え」の指示が出されます。よって、新型コロナウイルス感染では、Th1細胞部隊に指示が出されるため、Th1細胞が優位になります。そして、ウイルスが撃退された後に、Th1細胞部隊の興奮をおさえるためTh2細胞部隊が拮抗をはじめ、免疫のバランスが「戦闘モード」から「平時モード」に切り替わります。しかし、この拮抗がうまくいかないとTh1細胞部隊が暴走を始めて、自身の細胞まで傷つけ「自己免疫疾患」を起こしてしまいます。逆に、Th2細胞部隊が暴走してしまうと「アレルギー疾患」を起こします。

すなわち、我々の体は、病原体に打ち勝ちながら、自己免疫疾患を予防し、さらにはアレルギー疾患も予防する非常に繊細なバランスを常に保っているわけです。非常に複雑です。そして、この免疫のバランスを保つための職人が「Treg(制御性T細胞)」部隊です。Treg部隊は、ボクシングのセコンドのように、冷たいタオル(IL-10)で興奮した免疫兵を落ち着かせ、勢い余って味方に攻撃を仕掛けないように常に見張ってくれています。Th1細胞部隊とTh2細胞部隊の「相互に拮抗した抑制」とは異なり、Treg部隊は、自然免疫部隊、B細胞部隊、CD8陽性細胞小隊、Th1細胞部隊、Th2細胞部隊すべての免疫兵の監視を行い憲兵的な役割を担っています。

 

[細胞性免疫と液性免疫は?]
弓矢(抗体)が主に働いている状態が「液性免疫」です。一方、「細胞性免液」と呼ばれる状態では、接近戦の得意な兵隊達(細胞)が主体に働いています。つまり、「液性免疫」作戦では、飛び道具である弓矢(抗体)を用い、「細胞性免疫」作戦では急襲部隊が働きます。通常は、より強力な戦略とるため両方が混在します。「鍵」を持たない病原体は、細胞の中に空き巣に入れません。よって、細胞の外、つまり屋外で常に生活しています。この様な敵に対しては、遠くから放った矢(抗体)でも殺すことができるので、液性免疫が主戦法になります。一方、新型コロナウイルスのように「鍵」を持った病原体は、空き巣に入り室内に潜んでいます。室内にいるため、遠くから放った矢は当たりません。この様な場合は、室内(細胞内)への急襲攻撃が必要となり、接近戦の得意な部隊が導入されます。この急襲部隊が、Th1細胞が指揮をとる「細胞性免疫」となります。

Th2細胞部隊は「液性免疫」に関与するため、「Th2細胞が減れば抗体はできない」と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、完全な誤解です。感染症の時の抗体産生は、Th1細胞が主に援助しています。Th2細胞が「液性免疫」と呼ばれる所以は、Th2細胞が特異的に産生するインターロイキン-4(IL-4)と呼ばれるサイトカインにあります。IL-4の役割は特殊で、感染症で増加するIgGやIgAと呼ばれる抗体とは異なり、IgEと呼ばれる抗体を作りだします。このIgEが花粉症などのI型アレルギーを直接起こします。よって、「I型アレルギーの機序では、Th2細胞が液性免疫の主役」となります。一方、感染症で増加するIgGの産生はより複雑で、多くの種類の細胞が関与します。

[免疫がウイルスを殺すには?]
ウイルスは我々の細胞に空き巣のように侵入して、初めて増える事ができます。よって、空き巣をしている最中、すなわち、まさに増えようとしているところを狙えば、ウイルスを一網打尽にすることができます。この一網打尽に貢献しているのが、IgG型の弓矢(抗体)です。B細胞が、空き巣被害にあっている最中の細胞に矢を放ちます。これを目印に、強者揃いの自然免疫細胞とT細胞達が細胞を取り囲みウイルスを一網打尽にしてくれます。一網打尽の方法は、ウイルスが潜んでいる細胞を丸ごと食べてしまうか(貪食)、細胞の中に接着剤のような毒を流し込んで、細胞ごとウイルスを固めてしまうかです(抗体依存性細胞障害)。また、B細胞は「中和抗体」と呼ばれる特殊な矢も放ちます。中和抗体は、新型コロナウイルスが細胞に空き巣に入るために必要な鍵(スパイク)に引っ付き、鍵穴に差し込めないようにします。これにより、ウイルスは空き巣に入れなくなり、増える事ができずに死んでしまいます。よって、例外はありますが、ウイルスに特異的なIgG型の抗体を持つ人はウイルスから守られ、そして他人にうつさない事になります。

[免疫が低下する原因は?]

世界各国の2021年1月までに蓄積された結果からも、新型コロナウイルスの重症化は加齢に伴い増加する事は明らかです。日本「COVID-19対策ECMOnet」の2021年2月7日の報告によると、これまでに新型コロナウイルス感染により人工呼吸器(ECMOを含む)の装着が必要となった患者さんは、20歳未満で4人、20~29歳で16人、30~39歳で30人、40~49歳で165人、50~59歳で468人、60~69歳で808人、70~79歳で1,124人、80歳以上で503人のようです。加齢により生理的予備機能が低下することで、ストレスに対し不健康になりやすくなります。私は専門外ですが、この評価のために「臨床的フレイルスコア」と呼ばれる指標が用いられているようです。臨床的フレイルスコアと新型コロナウイルス感染による入院中の死亡率の解析が2月9日に報告されました(Sablerolles RSG, Lancet Health Longevity, 2021, 2/9)。8カ国に及ぶ2,434人の調査結果です。臨床的フレイルスコアが「中等度以上」になると、入院中の死亡率が優位に増加するようです。中等度の臨床的フレイルスコアとは「日常生活に補助を必要とする」状態のようです。一方、動作が緩慢となり歩行器や杖が必要となった状態は、「軽度」な臨床的フレイルスコアとなるようで、入院中の死亡率の増加は認めないと報告されています。つまり、高齢で杖をつかれていても、免疫力がしっかりされた方は多くいらっしゃると言う事になります。

[コロナ感染を助長するその他の原因は?]

[日本と世界は?]

米国空母セオドア・ルーズベルト集団感染の最終調査結果が11月11日に報告されました(Kaper MR, New England J Medicine 2020, 11/11)。乗員4,779人の平均年齢は27歳で、初期のPCR検査で1,271人が陽性、その後5週間のうちに1,000名以上が陽性となっています。入院率は1.1%、ICUでの治療が必要になった方は0.3%、そして亡くなられた方は1名です。PCR検査時には76.9%の方が無症状でしたが、経過中に55%の方に何らかの症状が出ています。最も多い症状は順に、「頭痛」、「咳」、「嗅覚または味覚異常」、「鼻詰まり」のようです。微熱を含む発熱は13.2%の感染者にしか出現しておらず、38℃を超えた感染者は2.8%と非常に少ないようです。また、米国陸軍での集団感染いついても11月11日に報告されています(Letizia AC, New England J Medicien 2020, 11/11)。毎日の問診表と体温測定が義務づけられていましたが、これにより感染が判明した方は約10%のようです。残り90%の方は、定期的に行われるPCR検査で感染が判明しています。やはり、問診や検温により感染者を探し出すことは困難のようです。重症化を起こし易い方が多い高齢者施設などへの重点的および定期的PCR検査が必要なのかもしれません。

[免疫力強化法は?]

【ここでボディーマスインデクス(BMI)を計算してみてください】
BMIの計算法:体重74キロで身長176 cm(1.76 m)の場合は
74 ÷ 1.76 ÷ 1.76 = 23.88で23.88がBMIです。

18.5以下の方は痩せすぎ、18.5から25は正常範囲、そして25以上で肥満の領域に入ってきます。BMIが25以下で耐糖能異常が無く、デザートを「太るから」と食べたいのに普段は控えている方は、今こそ本能の赴くままにお召し上がり下さい。ただし、摂取したエネルギー源を効率良く免疫細胞に取り込ませるには食後の軽い運動が必要です。免疫力強化と体重増加予防を兼ねて、食後の散歩(室内での30分程度の足踏みでも充分です)はお忘れなく。また、免疫の暴走を抑えるためにバランスを保つ事も重要で、食物繊維の摂取が手助けしてくれます。

1918年に起こったスペイン風邪のパンデミックでは、高齢者ではなく20歳から40歳までの若者に死亡者が集中する異なった様相を呈しています。サイトカインストーム(下記参照)と当時の栄養状態が働き盛りの若者を死に導いたと考えられています。ウイルスに打ち勝つためには「若くても栄養をしっかりと取らないといけない」と言う教訓かもしれません。

[腸管は?]
新型コロナウイルスが咳などの飛沫やエアロゾルを介して感染することはよく知られていますが、実は腸管にも感染します。コロナウイルスが侵入するためにアンジオテンシン変換酵素2を必要とするので、この酵素が発現する場所に感染が起こるわけです。アンジオテンシン変換酵素2は腸管にも多く発現するため、腸管に感染して下痢を起こす場合もあります(Wu Y. Lancet Gastroenterol Hepatol 2020, p434)。厄介な事に、消化器症状が無くてもウイルスが糞便中に排出されていることも報告されています(Diza LA, Gastroenterology 2020 5/8)。また、新型コロナウイルスは症状の消失後も糞便から約1週間検出できるとの報告もあります。よって、飛沫のみでなくノロウイルスのように排泄物により感染する可能性があるという事で、頻回な手洗いが予防には重要です。また、トイレで水を流す時はウイルスが空気中に飛び散る可能性があります。公衆便所などで水を流すときは便器の蓋をするか、蓋が無ければ空気中への飛散を防ぐため便器に腰かけたまま流すのが良いかもしれません。医療関係者は感染症対策の訓練を受けたプロフェッショナルでありながら、新型コロナウイルス感染では世界的に医療従事者の院内感染が多いような気がしてなりません。あくまでも個人的見解ですが、医療従事者でも気が緩んでしまう職員用トイレでの感染の可能性もゼロではないかもしれません。


最近報告された、人の遺伝子をほぼ網羅するゲノムワイド関連解析(GWAS)によると、CCR9、CXCR6、XCR1と呼ばれる遺伝子に異常があると、新型コロナウイルスによる重症化が起こり易い可能性が示唆されました(Ellinghaus D, N Engl J Med 2020 6/17)。これらすべては、腸管の免疫に深く関与している分子です(Mora JR. Mucosal Immunol 2008 p96; Olszak T. Science 2012 p489; Satoh-Takayama N. Immunity 2014 p776; Ohta T. Sci Rep 2016 p23505)。新型コロナウイルスの腸管への感染と重症化に、何らかの因果関係があるのかもしれませんが、今は何もわかっていません。

興味深い結果が7月3日に報告されています(Ahmad I, Clinical Gastroenterology and Hepatology 2020, 7/3)。グーグルトレンド検索で、「味覚異常」、「食欲不振」、「下痢」がトピックとして上位を占めた4週間後に新型コロナウイルス感染者数のピークを迎えているようです。味覚異常に加えて、軽度の消化器症状が新型コロナウイルス感染の前兆なのかもしれません。事実、新型コロナウイルス感染者の31.9%から61.3%の方に消化器症状が最初に出現しています(Cholankeril G, Gastroenterology 2020, p775; Redd WD, Gastroenterology 2020, p765)。消化器症状のうち最も多いのが「食欲不振」で、34.8%の感染者に認められています(Redd WD, Gastroenterology 2020, p765)。「食欲不振」は夏バテやストレスなど種々の原因で起こるため我々が頻回に経験している症状です。よって、見逃されがちなのかもしれません。「食欲不振」を感じたら、新型コロナウイルス感染も念頭にいれ、用心に越した事はないのかもしれません。特に、食欲不振により水分まで控えられると、「新型コロナウイルスのテロ行為である血栓症」の危険も増してきます。「食欲不振」を感じたら、水分補給による脱水予防、そして血液を停滞させないための適度の運動に心がけ、血栓症の予防に努められることをお勧めします。

抗体は早期に産生されるIgM、その後に産生されるIgG、アレルギーで増えるIgE、そして粘膜で産生されるIgAに分類されます。粘膜と言えば口腔粘膜や腸管粘膜が代表です。よって、IgAは唾液や便中に多く含まれます。新型コロナウイルス感染では、IgGのみでなくIgAも血液中に増える事が報告されています(Varnaite R, J Immunol 2020, 9/2; Moderbacher CR, Cell 2020, 9/16)。また、アイスランドからの報告によるとIgGのみで無く、IgAの検出も可能な「pan-Ig」(ロッシェ社)と呼ばれる検査キットを用いる方が抗体の検出率は高いと報告されています(Gudbjartsson DF, New Engl J Med 2020, 9/1)。つまり、新型コロナウイルス感染では、季節性インフルエンザの様にIgGに代表される全身性の免疫ばかりでなく、IgAに代表される腸管の免疫も関与しているのかもしれません。 また、新型コロナウイルス感染者の息(呼気)には、腸内細菌叢の乱れを示唆するガスの変化が認められる事も10月24日に報告されています(Ruszkiewicz DM, EClinical Medicine 2020, 10/24)。

新型コロナウイルスの爆発的流行に見舞われた南アメリカから、8か国728,282人の感染者を対象とした調査結果が10月21日に報告されました(Ashktorab H, Gastroenterology 2020, 10/21)。国により主要症状が異なっているようで、消化器症状を伴う患者さんは10.5%から53%と大きな幅があります。下痢を伴う患者さんはアルゼンチンで3.1%、チリで10%、ペルーで13.6%、そしてメキシコが一番多く22%のようです。また、死亡率も国々で異なり、アルゼンチンは3.2%で、一番高い国はメキシコで16.7%です。下痢は脱水を起こしてしまう危険性を伴います。すると、血液中の水分量が減少するため血が濃くなり固り易くなります。新型コロナウイルス感染の症状として下痢が多いメキシコでは、新型コロナウイルスのテロ行為である血栓症が起こり易いため、死亡率が高い可能性も否定はできません。下痢を起こした方は、脱水を予防するためしっかりと水分補給されることをお勧めします。「お好み焼き」は、すぐ固まりますが、水分を多く含んだ「もんじゃ焼き」は固まらないのと一緒です。また、脱水を恐れて「止瀉薬で下痢を止めよう」とは絶対に思わないで下さい。下痢は「物理的障壁」と呼ばれ、我々の身体を守るためウイルスに対する「水際作戦」を担ってくれています。つまり、下痢はウイルスを腸から洗い流してくれています。戦闘において、敵の数が少なければ少ないほど戦いは優位に運べます。よって、下痢を止めると腸にウイルスが留まってしまい、免疫軍も苦戦を強いられる結果へとつながります。下痢になったら、体の反応にまかせて、しっかりとウイルスをトイレで腸から追い出し、脱水予防のため水分補給をしっかりとされることをお勧めします。

[血管は?]

アンジオテンシン変換酵素2は血管の内皮細胞にも発現し、血液を固める働きのある血小板の凝集を防いでいるとの基礎的研究もあります。新型コロナウイルスが血管のアンジオテンシン変換酵素2に結合することで、血を固まり易くして脳梗塞、肺塞栓、足の指の血栓症を起こす場合があるのかもしれません。また、尋常ではない急速な肺炎の進行が新型コロナウイルス肺炎の特徴です。感染免疫学の側面からは、この現象を説明するのは非常に難しい状態でした。しかし、新型コロナウイルスの血管内皮細胞への結合により血の塊が作られ、これにより血液が遮断され、最終的に虚血性の肺障害を起こしていると考えれば、肺炎の急速な進行は説明がつくのかもしれません。事実、新型コロナウイルスによる剖検の結果では、58%の患者さんに肺の血流が遮断された「肺塞栓」が認められることが報告されています(Ann Intern Med 2010, p62))。また、新型コロナウイルスで重症化した患者さんの特徴は、「血管の障害に伴う血液の凝固異常」であることも最近報告されました(Goshua G. Lancet Haematology 2020 /30)。このように新型コロナウイルスが重症化を起こす病態も解明されつつあり対処法もありますので、専門の医師にお任せください。


[小児は?]
新生児は母親由来の免疫因子(IgG)により生後半年間は守られ、その後は自身の未熟な免疫機構が6年以上かけて徐々に成熟していきます。一方、個人差は有りますが中高年から免疫機構は衰え始めます。すなわち、免疫力の弱い乳幼児と高齢者が一般的には感染症に対して重症化しやすくなります。事実、季節性インフルエンザでは乳幼児と高齢者に重症化が見られ、毎年1,000人から3,000人もの命を本邦で奪っています。2003年に発生したSARSは「SARS-CoV」と呼ばれるコロナウイルスが原因です。現在のCOVID-19は「SARS-CoV2」と呼ばれる新型コロナウイルスにより起こります。これら2つのコロナウイルスによる重症化の年齢は、これまでとは少し異なります。高齢者は重症化しやすいのですが、乳幼児や小児は殆ど重症化していません。病原性の高いSARS (致死率9.6%)の年齢別の死亡率は65歳以上で約50%、24歳未満では1%以下です。今回のCOVID-19の20歳未満の死亡率は、ほぼ0です。事実、米国CDCは「新型コロナウイルスによる17歳以下の入院率は、季節性インフルエンザより低い」と7月10日に報告しています。スイスのジュネーヴで最近行われた抗体検査では、10-19歳の抗体陽性率は9.6%でしたが、9歳以下では0.8%でした(Stringhini S. Lancet 2020 6/11)。新型コロナウイルスに感染すると、一般的には抗体が陽性となるため、9歳以下の感染のリスクは10歳台に比べて約10倍低い事を教えてくれているのかもしれません。つまり、「乳幼児・小児は新型コロナウイルスに感染しにくく、重症化も少ない」のかもしれません。

何故「乳幼児・小児は新型コロナウイルスに感染しにくいのか?」について、9歳以下の子供では鼻粘膜のアンジオテンシン変換酵素2の発現が低いことが報告されています(Bunyavanich S et al. JAMA 2020 5/20)。つまり、「新型コロナウイルスが体内に侵入するための鍵穴が少ない」ため、乳幼児・小児は感染しにくいのかもしれません。何故「乳幼児・小児は重症化しにくいのか?」について、伝染性単核球症と言う病気が教えてくれているかもしれません。エプスタイン・バール(EB)ウイルスが起こす病気ですが、幼少期で感染すると症状はほとんど無く、思春期に感染すると重篤な症状が出てしまいます。何故なら、EBウイルスは体を守ってくれるはずの免疫細胞(B細胞など)に感染し、この細胞を運び屋としてウイルスを身体中にばら撒くからです。免疫系が未熟な乳幼児では、「運び屋である免疫細胞」が少なく重症化から守られているのかもしれません。

新型コロナウイルスは、出産の時に母親から赤ちゃんにうつる「垂直感染」の可能性について賛否両論でした。7月23日の報告(Salvatore CM, Lancet 2020 7/23)によると、新型コロナウイルスに感染した116人の母親から生まれた赤ちゃん全てに、新型コロナウイルスは検出されていません。垂直感染の可能性は低いのかもしれません。また、感染した母親が母乳で育てた14日後の検査でも、全ての赤ちゃんにウイルスは陰性です。母乳による感染の危険性も低いのかもしれません。

11月9日の報告では、新生児の新型コロナウイルスの感染率は0.056%で、感染していた24%は未熟児出産のようです(Gale C, Lancet Child & Adolescent Health, 2020, 11/9)。母親も感染していた割合は26%と報告されています。感染の確認された2%に死亡が認められましたが、新型コロナウイルスが原因ではないようです。著者達は「胎盤内感染は起こらず、出産時の経膣感染も稀である」としめくくっています。

「経腟分娩による新生児の感染は稀」と述べられていたので、頻度を調べてみました。中国からの報告では2%、中国以外の報告では2.7%のようです。7月30日の米国からの報告によると、新型コロナウイルスに感染された936人の母親から生まれた新生児のうち、27人(3.2%)が新型コロナウイルス陽性であったようです(Kotlyar AM, Am J Obstctrics Gynecology 2020, 7/30)。また、羊水中には新型コロナウイルスは検出されていません。すなわち、分娩中に新生児が感染したことになります。分娩時の母親で新型コロナウイルスが顕著に検出された部位は肛門と糞便で陽性率は9.7%です。分娩時に膣からではなく、肛門や糞便由来の新型コロナウイルスに新生児が暴露してしまった可能性があるのかもしれません。また、母親のIgGは胎盤を介して胎児に移行するため、母親が新型コロナウイルスの鍵に対するIgGを持っていれば、新生児も母親のIgGで守られていることになります。また、ユニセフは「Healthy Newborn Netwoks」のガイドラインを引用して、新型コロナウイルスに感染した新生児のほとんどは無症状で、もし症状がでても軽症ですむと報告していますhttps://www.healthynewbornnetwork.org/resource/covid19-interim-guidance-who/)。

母乳にはIgA型の矢が含まれ新生児の免疫を補助してくれます。また、母親とのスキンコンタクトは新生児に計り知れない精神的さらには肉体的な利益をもたらします。母親が新型コロナウイルスに感染された場合に、母乳をやめて新生児を母親からか離す対策を取られている国もあるようです。この対策が原因となる生後12ヶ月までの新生児の死亡率は、新型コロナウイルス感染自体による死亡率の67倍以上に増える可能性が2月22日に報告されました(Rollins N, Lancet Global Health, 2021, 2/22)。「母親が新型コロナウイルスに感染していても、新生児を母親から引き離してはいけない」と著者達は警鐘を鳴らされています。

小児は、新型コロナウイルスの重症化から守られていますが、稀に「小児発症性多臓器炎症症候群」と呼ばれる病気を合併する事があります。発症する頻度は10万人に2人と言われています(Levinson M, New Engl J Med 2020, 7/29)。川崎病に似た心臓と血管の症状や、皮膚や口腔粘膜など多くの臓器に症状がでてきます。小児発症性多臓器炎症症候群は、新型コロナウイルスの症状がでてから約25日たった回復の段階で発症し、平均年齢は8.3歳で、男児に多いようです。全身に波及する病気のため、80%以上は入院治療が必要となります。しかし、医療技術の進歩により、入院して死に至る可能性は2%です(Feldstein LR, New Engl J Med 2020, 7/23)。

多くの論文で、幼稚園や小学校の休園・休校は感染拡大防止に効果は無いと報告されてきています(Levinson M, New Engl J Med 2020, 7/29; Quinn HE, Lancet Child & Adolescent Health 2020, 8/3)。私は、この分野の専門ではないため、これらの論文の内容をご紹介させて頂きます。休園・休校措置の必要がない理由は、1)子供は感染しにくく重症化しにくい、2)子供が他人にうつす可能性は低く、事実、家庭内感染では「親から子供への感染」がほとんどである、3)「休園・休校措置をとらなくても感染拡大を助長しない」ことはフィンランド、ベルギー、オーストラリア、台湾、シンガポール、オランダ、フランス、イスラエル、ニュージーランドなどの多くの国で既に証明されている。これらの理由により、「園内・校内感染はゼロではないので、全ての社会活動が停止された場合は、休園・休校措置は必要である。一方、何らかの社会活動が開始された場合、これらの活動に比べて感染拡大の危険性の低い幼稚園・小学校を休園・休校にする理由はない」と締めくくっています(Levinson M, New Engl J Med 2020)。


幼稚園から高校にいたる教育施設での928,000人を対象とした新型コロナウイルス感染の調査結果が12月8日にイギリスから報告されました(Ismail SA, Lancet Infectious Disease, 2020, 12/8)。これまでの報告の様に、これらの教育施設でのクラスターの発生は他に比べて少ないようです。また、幼稚園、小学校、中学校、高校を比較すると、クラスターの発生は小学校に多い傾向があるようです。クラスターの原因となったのは、73%が教員と報告されています。「教員間」の感染は47%、「教員から生徒」が15%、「生徒から教員」が29%、「生徒間」が9%のようです。やはり、子供達は新型コロナウイルスに感染しにくいと考えて良いと思います。著者達は、「密を避けるための職員室の分散」および「クラスターが発生した場合の早期の対応」を推奨しています。

日常の活動性が高い若年者が多い大学の調査結果が12月15日に報告されました(Tupper P, Proc Natl Acad Sci USA、2020, 12/15)。「席ぎめ」、「ソーシャルディスタンス」、「マスク着用」の組み合わせで感染予防効果は著名に増加するようです。また、ソーシャルディスタンスは「離れれば離れるほど」効果はありますが、1メートルの距離でも効果はでるようです。

米国で1000万人以上を対象としたスマートフォン位置情報の数理的解析により、ヒトにうつしてしまった可能性のある年代別の割合が2月2日に報告されました(Monod M, Science 2021, 2/2)。0~9歳が2.7%、10~19歳が7.1%、20~34歳が34%、35~49歳が38.2%、50~64歳が15.1%と報告されています。20代の若者より、35歳以上の中年層からの感染が多いのかもしれません。しかし、接触を指標とした解析のため、実際に感染に寄与したかは不明です。日本では、保健所の皆さんの多大なる努力により膨大なクラスター情報が既に蓄積されていると思います。クラスター発生に寄与した可能性のある年齢層の解析は、今後の対策決定に非常に役に立つのかもしれません。

フランスより327人の乳幼児(平均年齢は1.9才)と197人のスタッフ(平均年齢は40歳)を対象とした託児所の解析結果が2月8日に報告されました(Lachassinne E, Lancet Child & Adolescent Health, 2021, 2/8)。新型コロナウイルスのスタッフの感染率6.8%に対し、乳幼児は3.7%と低いようです。また、乳幼児の感染の多くは、スタッフからではなく家庭内感染が原因のようです。

[血液型は?]
血液型と新型コロナウイルス重症化の関連性が中国から最初に報告されましたが賛否両論の状況でした。最近、新型コロナウイルス感染後に呼吸管理を必要とした1,980人の重症患者さんの統計が欧州から報告されました(Ellinghaus D, MedRxiv 2020)。中国からの報告と類似して、O型のヒトは新型コロナウイルスによる重症化のリスクが低いのかもしれません。「血液型が?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、血液型を決定するのは蛋白では無く「糖鎖」と呼ばれる分子で僅かな粘着性を持っています。A型の人はA抗原と呼ばれる糖鎖を持ち、B型の人はB抗原と呼ばれる糖鎖を持ちます。一方、O型の人は、これらの糖鎖を持ちません。激しい嘔吐や下痢で我々を苦しめるノロウイルスも、好む血液型と嫌う血液型が存在します。また、重要なポイントは、新型コロナウイルスに合併し重症化を起こしてしまう血栓症です。2016年の111万人を対象とした大規模研究において、O型のヒトはO型以外のヒトに比べて肺塞栓症や深部静脈血栓症などの血栓症の発症が50%程度低いことも報告されています(Vasan SK Circulation 2016 p1449)。この様な血栓症の起こりにくさが、O型のヒトを新型コロナウイルスによる重症化から守ってくれているのかもしれません。

血液型と新型コロナウイルス重症化の関連は、ヒト遺伝子をほぼ網羅する「ゲノムワイド関連解析(GWAS)」によっても最近報告されました(Ellinghaus D, N Engl J Med 2020 6/17)。血液型がO型のヒトは重症化の危険性が低く、A型のヒトは高い可能性があるのかもしれません。

[サイトカインストームは?]
免疫は敵である病原体と戦う時、ボクシングのセコンド役のような制御性細胞が、興奮した自然免疫細胞達を落ち着かせます。これにより、自然免疫細胞は、むやみやたらにパンチを繰り出すのではなく冷静沈着に敵に攻撃が仕掛けることができるようになります。パンチに相当するのが、「炎症性サイトカイン」と呼ばれる可溶因子で、ウイルスの撃退に働きます。しかし、制御機能が働かないと、自然免疫細胞達が暴走して、炎症性サイトカインを一度に大量に放出します。これにより、ウイルスを撃退するはずの炎症性サイトカインが、逆に自身の臓器まで攻撃してしまうのがサイトカインストームと呼ばれる現象です。

サイトカインストームを起こす根本原因として考えられるのは、「血球貪食症候群」かもしれません。敵に毒を注入して殺すナチュラルキラー細胞は、通常の感染症では増えるのですが、新型コロナウイルス感染では逆に減っていると報告されています(Thevarajan I, Nat Med 2020 3/16)。同じように、毒を注入して敵を殺すCD8陽性T細胞も、新型コロナウイルス感染で減っているようです(Luo M JCI Insight 2020 6/16)。毒を注入して敵を撃退する兵隊がいなくなると、これらの兵隊の分まで頑張ろうと「敵を丸飲みにして撃退する」大食漢のマクロファージが張り切り過ぎてしまいます。結果、味方の細胞まで食べてしまい「血球貪食症候群」と呼ばれる合併症を起こし、サイトカインストーム現象も生じます。サイトカインストームや血球貪食症候群は、新型コロナウイルスに特異的な現象ではなく、EBウイルス、インフルエンザウイルス、連鎖球菌等の他の感染症をはじめ、生物学的製剤と呼ばれる薬での治療中におこる事があります。イギリスのオックスフォード大学より6月17日に、ステロイド系抗炎症薬であるデキサメタゾンの投与が、酸素供給が必要な重症患者さんの死亡率を低下させる可能性が報告されました。軽症者には効果はありませんでしたが、酸素供給が必要な患者さんの20-25人に1人、人工呼吸器が必要な患者さんの8人に1人の命を救っているようです。デキサメタゾンは免疫を抑制する薬の代表ですので、新型コロナウイルス感染により重症化に陥った患者さんの4-12.5%に、免疫の暴走により生じるサイトカインストームが合併している可能性を示唆しているのかもしれません。7月17日に、デキサメタゾンを投与した2,104人と、投与の無い4,321人の結果が報告されました(The Recovery Collaboration group, N Engl J Med 2020 7/17)。投与された患者さんの死亡率は22.9%で、されなかった患者さんは25.7%のようです。人工呼吸器が装着された重症患者さんに対しては、デキサメタゾン投与は死亡率を41.4%から29.3%に改善できたようです。一方、軽症者に対して効果は認められていません。

サイトカインストームを恐れて「免疫力を弱くしろ」と言われる方がいらっしゃいますが、完全な間違いです。免疫力を弱くすることは、新型コロナウイルスと戦う前に「白旗を上げ、重症化を待つ」のと同じです。事実、自己免疫疾患や重症のアレルギー疾患の治療のためにステロイドを止むを得ず使用されておられる患者さんが世界中に多くいらっしゃいます。例えば、炎症性腸疾患ですが、患者さんの安全を守るため「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究・久松斑」では世界の情報を逐一集積され治療にあたる医師達に随時配信されています。6月19日時点の報告では、新型コロナウイルスに感染した炎症性腸疾患患者さんにおいて、ステロイド治療を行われている患者さんは、他の治療に比べて入院率は約2~3倍に達し、死亡率も高いようです。同様に、関節リウマチでも、ステロイド治療を受けている患者さんの重症化率が高い事が報告されています(Mehta P, Lancet Rheumatology 2020, 7/31)。148,557人の閉塞性肺障害(COPD)の患者さんと、818,490人の喘息患者さんの解析結果が9月24日に報告されました。吸入ステロイドであっても、高濃度の使用は新型コロナウイルスの重症化を高めるようです(Schultze A, Lancet Respiratory Medicine 2020, 9/24)。また、米国疾患管理予防センター(CDC)も「新型コロナウイルス重症化の危険性を伴う基礎疾患リスト」に「ステロイド等の免疫抑制剤使用中の疾患」を含めています。すなわち、新型コロナウイルス感染時に免疫力が低下していると、悪化の危険性が高いことを教えてくれています。皆さんにできる事は、新型コロナウイルスに感染しないように心がけ、もし感染しても無症状や軽症で済むように免疫力を強化することです。もし不幸にも、免疫が暴走してしまいサイトカインストームや血球貪食症候群が起こってしまったら、織り込み済みの合併症ですので専門の医師にお任せ下さい。

[血栓症は?]
(コロナ血栓症の機序):新型コロナウイルス感染の重篤な合併症で、より頻度が高いかもしれないのが血栓症、特に肺塞栓症かもしれません。興味深いのは、血液を固まりにくくする「カモスタット」と「ナファモスタット」と呼ばれる薬で、日本では播種性血管内血液凝固症(DIC)と急性膵炎の治療に使われています。これらの薬は血液を固まらないようにするだけでなく、「セリンプロテアーゼ」と呼ばれる酵素の働きも止めてくれます。新型コロナウイルスは、鍵を鍵穴であるアンギオテンシン変換酵素2に差し込んで細胞内に入ってきます。しかし、鍵を差し込んでも、扉は開きません。鍵を回さないといけないわけです。この回す役を担うのが「TMPRSS2」と呼ばれるセリンプロテアーゼの一種です。実際には、回すわけでなく、鍵が鍵穴に差し込まれると、差し込まれた鍵を足掛かりに新型コロナウイルスを細胞に癒着させます。これにより、新型コロナウイルスが細胞内に入り込んできます。このセリンプロテアーゼの働きを、カモスタットが止めてくれる可能性が報告されています(Hoffmann M, Cell 2020 p271)。また、東京大学医科学研究所は、カモスタットに比べて、ナファモスタットは10倍近い効果が期待されることも報告しています。これらの薬は、新型コロナウイルスの細胞への侵入を防ぎながら、合併しやすい血栓症も抑制できる一石二鳥の効果を秘めているのかもしれません。最近の報告では、抗ウイルス薬が無効であった新型コロナウイルスの重症患者さん3人に、ナファモスタット(200mg/日)を4日間、引き続きカモスタット(600mg/日)を4日投与すると、全員が新型コロナウイルス陰性となり症状も改善したようです(Jang S, Int J Infect Dis 2020, 5/26)。東大病院の7月3日の報告によると、人工呼吸器を必要とした新型コロナウイルス重症患者11名(3名はECMO使用)に対して、ナファモスタットと抗ウイルス薬であるアビガンを併用投与したところ、1名の死亡を除き、7名は退院し3名は人工呼吸器を外せる状態まで改善したようです(Doi K Critical Care 2020, 7/3)。一方、藤田医科大学より7月10日に報告された「多施設非盲検ランダム化臨床試験」の結果では、アビガン投与は、無症状または軽症者のウイルス消失や解熱に貢献するかもしれないが、統計学的有意差はなかったようです。となると、ナファモスタットが重症患者における治療効果の主役を担ったのかもしれません。九州大学病院から一例ですが、同様の結果が報告されました(Iwasaki S, J Infect Chemotherapy 2020, 9/9)。ECMOによる管理が必要な重症患者さんにナファモスタットと新型コロナウイルスに有効な可能性が示唆されていたヒドロキシクロロキンを投与すると、症状は改善し退院に至ったようです。ヒドロキシクロロキンに新型コロナウイルス感染を阻止する効果は乏い事は8月6日に報告されているので(Boulware DR, N Engl J Med 2020, 8/6)、ナファモスタットが効いた可能性は否定できません。

ヒトでは委細な研究が難しいため、「尾長ざる」を用いた研究結果が10月9日に報告されました(Aid M, Cell 2020, 10/9)。新型コロナウイルス感染は「補体の活性化」と「自然免疫軍(マクロファージ)の活性化」を引き起こし、これにより血管の炎症(血管内皮炎)を惹起させて血栓症を直接引き起こしているようです。

 (コロナで重症化しやすい基礎疾患と血栓症):血液型がO型の方は、血栓症を起こしづらい体質のため新型コロナウイルス重症化の可能性が低いことがわかってきています。逆に、脳血管障害、心血管障害、高血圧は、血栓症を起こしやすい状態のため、新型コロナイルス重症化の危険性を高めるのかもしれません。 

日本人には稀ですが、「鎌状赤血球症」と「サラセミア」と言う貧血を起こす病気があります。これらの病気は、新型コロナウイルスの重症化を起こし易い事が、米国CDCより報告されています。赤血球はサラサラ流れるように球形をしていますが、鎌状赤血球症では名前のとおり「三日月型」をしています。これにより血が詰まりやすくなり、鎌状赤血球症の患者さんは新型コロナウイルス重症化の危険性が高いのかもしれません。

一方、サラセミアも赤血球の形は変わりますが、鎌状赤血球症ほどイビツではありません。結果、鎌状赤血球症ほど重症化の危険度は高くないようです。

 また、新型コロナウイルスによる重症化には人種差があるようです。重症化の危険度は、黒人系、アメリカ・インディアン、アラスカ先住民に高く、次に高いのがヒスパニック系と米国CDCが報告しています。人種的に、鎌状赤血球症は黒人系に多く、次にヒスパニック系である事がよく知られています。また、アメリカ・インディアンとアラスカ先住民では「肥満遺伝子」を持つ方が多く、新型コロナウイルス重症化の一因である肥満者の割合が高いようです(Zamora-Kapoor A. Public Health 2019 p85)。肥満も血栓症の危険因子として知られています。これらの蓄積されてきた情報から考えると、新型コロナウイルス重症化の一番の原因は血栓症と考えてよいのかもしれません。

事実、11,116人の新型コロナウイルス感染者の解析により、新型コロナウイルスの特徴は「凝固系の活性化」と「補体の活性化」、すなわち「血栓をできやすくする」と8月3日に報告されました(Ramlall V, Nat Med 2020, 8/3)。補体は自然免疫を司る可溶性因子で、地雷の様な役割を担い侵入してきた病原体を撃退します。一方、血栓症の形成にも深く関与しています。この論文では、新型コロナウイルス感染で重症化の危険性が高い新たな基礎疾患も報告しています。進行すると失明に至ってしまう「黄斑変性症」と呼ばれる目の病気があります。機序は明らかではありませんが、「補体の活性化」と「血管新生」が原因と考えられています(Mitchell P, Lancet 2018 p1147)。黄斑変性症の患者さんは、体質的に補体の活性化が強く新型コロナウイルスによる死亡率が高いようです(Ramlall V, Nat Med 2020, 8/3)。黄斑変性症は「加齢性黄斑変性症」として知られるように高齢者に多い病気ですが、若年発症でも重症化の危険性が高いと報告しています。黄斑変性症は白人に多い病気です。黄斑変性症の第一人者であられる飯田知弘先生は東京女子医科大学のホームページで、加齢性黄斑変性症は日本でも近年増加してきているが、欧米の主体をなす「萎縮性黄斑変性」と異なり、血管新生が原因の「滲出性黄斑変性」が日本では主体であると言われています。新型コロナウイルス感染で致死率の高い基礎疾患である、鎌状赤血球症は黒人系に多く、萎縮性黄斑変性症は白人系に多く、また両者は肥満率も高いわけです。これらが「新型コロナウイルスによる死亡者数が、アジアに比べ欧米で格段に多い」理由の一つなのかもしれません。

 

肥満だけでなく、BMIが18.5以下の痩身の方も栄養不足により免疫力が低下してしまいます。よって、感染症による重症化は一般的に「太り過ぎの方」と「痩せ過ぎの方」の両方に起こり易くなります。しかし、新型コロナウイルス感染では、重症化は肥満者にのみ起こる傾向があるようです。肥満の方は、「高コレステロール血症」や赤血球の多い「多血症」を合併しやすく血栓が出来やすい状態です。逆に、痩身の方は「鉄欠乏性貧血」すなわち血栓が起こりにくい傾向にあります。免疫力が低下しながらも、新型コロナウイルス重症化の危険性が肥満と痩身で異なるのは、「血栓のできやすさ」で説明がつくのかもしれません。非常に興味深いのが、高コレステロール血症の治療に世界中で使われている「スタチン」と呼ばれる薬です。8,990人の新型コロナウイルス感染者の検討で、スタチンを長期間服用している方では、新型コロナウイルスによる重症化が約30%押さえられると報告されました(Kow CS, Am J Cardiol 2020, 8/12)。9月16日には、同様の結果が米国ハーバード大学関連病院からも報告されています(Nicholson CJ, medRxiv 2020, 9/16)。また、スタチンには水溶性と、より吸収しやすくされた脂溶性があるようですが、新型コロナウイルスの重症化が少ないのは脂溶性スタチンを常用されている患者さんとの報告もあります(Rossi R, Intern Emerg Med. 2020, 10/3)。なぜスタチンが新型コロナウイルスの重症化を予防できるかは不明ですが、スタチンには血栓症のリスクである「高コレステロール血症の改善」に加えて、「血管の炎症を押さえる」作用もあるようです(Kow CS, Am J Cardiol 2020, 8/12)。

季節性インフルエンザ感染で入院治療が必要となった重症者には貧血の方が多く含まれますが、新型コロナウイルス感染で重症化した患者さんには肥満の方が多く含まれることが12月7日に報告されました(Piroth L, Lancet Respiratory Medicine, 2020, 12/7)。また、若年者でも肥満の方は新型コロナウイルス感染で重症化の危険性が高いようです。

新型コロナウイルスはアンギオテンシン変換酵素2を鍵穴として細胞に侵入してきます。驚くことに、我々の細胞が作りだす「コレステロール」と「フォスファチジルイノシトール・フォスフェート」が、新型コロナウイルスがアンギオテンシン変換酵素2に鍵を差し込んだ後の侵入を手助けしている可能性が12月8日に報告されました(Wang R, Cell 2020, 12/8)。すなわち、コレステロールは新型コロナウイルスの空き巣を手助けする内通者なのかもしれません。スタチンはコレステロールの合成を抑制する薬であり、新型コロナウイルスの内通者を少なくすることにより重症化を抑制している可能性も否定はできません。

[血栓症 対 サイトカインストームは?]
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は、何らかの原因で血管から液体が漏れ出し肺の中に水が溜まるため、呼吸不全すなわち息ができなくなる状態の総称です。肺に水が溜まるため、海でおぼれた様な状態になります。急性呼吸窮迫症候群はサイトカインストーム、敗血症、肺炎、肺塞栓症、誤嚥、火傷などいろいろな病気の重症化で見られます。例えば、サイトカインストームは小さな血栓(微小血栓)が至る所にできる播種性血管内凝固症候群(DIC)を起こしてしまい、これにより急性呼吸窮迫症候群が起こることもあります。8月27日に2つのグループが同時に出した報告によると、新型コロナウイルス感染でも、サイトカインストームで見られるような急性呼吸窮迫症候群をおこします。しかし、通常とは異なる、新型コロナウイルス特異的な急性呼吸窮迫症候群も起こるようです。この新型コロナウイルス特異的急性呼吸窮迫症候群こそが致死的重症化の主原因で、D-ダイマーの顕著な増加を伴う血栓症が原因である可能性を報告しています(Grasselli G, Lancet Respiratory Med 2020, 8/27; Singapore P, Lancet Respiratory Med 2020, 8/27)。つまり、新型コロナウイルス感染による致死的重症化の主な原因は、サイトカインストームによる2次的な微小血栓症より、むしろ新型コロナウイルスが血管のアンギオテンシン変換酵素2に直接引っ付いて起こしてしまう血栓症、つまりエコノミークラス症候群に似たような病態なのかもしれません。

急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を起こす事が知られているサイトカインストーム、2次的血球貪食症候群、マクロファージ活性化症候群と、新型コロナウイルス感染による急性呼吸窮迫症候群を比較した結果が9月29日に報告されました(Webb BJ, Lancet Rheumatology 2020, 9/29)。サイトカインストーム、2次的血球貪食症候群、マクロファージ活性化症候群による急性呼吸窮迫症候群では、やはり免疫の暴走を示す指標であるフェリチン、乳酸脱水素酵素(LDH)、可溶性インターロイキン2受容体が「extremely high」と表現されており「非常に高値」のようです。一方、新型コロナウイルス感染による急性呼吸窮迫症候群では、フェリチンとLDHは「moderate to high」と表現されており、非常に高いレベルまでには達していないようです。興味深い事に、新型コロナウイルス感染では、可溶性インターロイキン2受容体は「mildly low to normal」すなわち「ほぼ正常」と表現されており、これが新型コロナウイルス感染の特徴を反映している可能性もあるかもしれません。一方、血栓症の指標であるD-ダイマーやフィブリノーゲンの値は、新型コロナウイルス感染による急性呼吸窮迫症候群では「extremely high」と表現されていますが、サイトカインストーム、2次的血球貪食症候群、マクロファージ活性化症候群による急性呼吸窮迫症候群では「moderate to high」と表現されています。すなわち、「免疫を介してではなく、ウイルスにより直接誘導される血栓」が新型コロナウイルス感染による重症化の主原因と考えて良いのかもしれません。

上記に示すように、免疫の暴走で顕著に増加するはずの「可溶性IL-2受容体」が、新型コロナウイルス感染では軽度にしか増加しない事が報告されています(Webb BJ, Lancet Rheumatology 2020, 9/29)。同様の結果が10月5日に報告されました。季節性インフルエンザ感染ではIL-2を産生するCD4陽性のT細胞部隊が増えるのですが、新型コロナウイルス感染ではむしろ減少するようです(Meckiff BJ, Cell 2020, 10/5)。

サイトカインストームの原因と考えられるインターロイキン6(IL-6)の血中濃度を、新型コロナウイルス感染が重症化した患者さん1,245人と、その他の感染症で重症化した患者さん2,767人で比較検討された結果が10月16日に報告されました(Leisman DE, Lancet Respiratory Medicine, 2020, 10/16)。IL-6の正常値は8 pg/mLですが、新型コロナウイルスの重症化患者さんの平均値は36.7 pg/mLと上昇を認めます。しかし、「新型コロナウイルス以外の急性呼吸窮迫症候群」では460 pg/mL、病原体が全身を犯す「敗血症」では983 pg/mLと更なる増加を認めます。さらに、「サイトカインストーム」では3,110 pg/mLと新型コロナウイルス重症化の約100倍にも達します。このように蓄積されてきた結果から考えると、新型コロナウイルスの重症化の主な原因は「ウイルスが直接起こす血栓症」と考えるのが妥当と思います。それでは、「免疫抑制剤であるデキサメタゾンが何故きくのか?」と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。実は、デキサメタゾンには、「免疫抑制作用」だけでなく「繊維化の抑制」と呼ばれる作用もあります。怪我をしたら瘢痕が残ります。これが繊維化です。皮膚の瘢痕であれば、美容面以外では大きな問題にはなりません。しかし、酸素を取り込んでいるいる肺では異なります。瘢痕が激しいと、酸素を取り込むための空間(肺胞)が狭くなり、息ができなくなる「肺繊維症」に陥ってしまいます。新型コロナウイルス感染でも肺が損傷され繊維症が起こります。デキサメタゾンは、この肺繊維症を抑制することにより治療効果を発揮している可能性も報告されています(Horby P, New Engl J Med 2020, 7/17)。

事実、新型コロナウイルスは「血管内皮細胞」と呼ばれる血管の細胞の中に空き巣に入り、内皮細胞を直接破壊して血栓を作っている事も報告されています(Ackermann M, N Engl J Med 2020, p120)。また、血栓ができると、その下流にいる細胞は息ができず死んでしまいます。よって、詰まった場所を回避して「まわり道(側副血行路)」を作り、下流に血液が流れるように、我々の体は突貫工事(新生血管)を始めます。このような突貫工事が、新型コロナウイルス感染で亡くなられた方の肺には多く認められるようです。やはり、新型コロナウイルス感染による重症化の主原因は、ウイルスが直接引き起こす血栓症なのかもしれません。

血液中の数千種類のたんぱく質を網羅的に解析できる「プロテオミックス」と呼ばれる手法を用いた解析結果が10月20日に報告されました(Shu T, Immunity 2020, 10/20)。血栓ができるには幾つかの機序がありますが、新型コロナウイルス感染で重症化および亡くなられた患者さんでは、血小板同士が引っ付きあって不可逆性の血栓ができる機序(血小板の脱顆粒)と補体の活性化に伴い血栓ができる機序の両方が過剰に働いているようです。また、新型コロナウイルス由来のnsP2とnsP7と呼ばれる蛋白が、血栓ができて重症化した患者さんの血液中には認められることも報告されています。よって、重症化患者さんではウイルスが体中にばら撒かれ、至る所で血栓を作っているのかもしれません。これらの血栓発生の機序をもとに、著者たちはPAR-1と呼ばれるトロンビン受容体の阻害薬およびXa因子の阻害薬が、新型コロナウイルス感染に伴う血栓症の治療には有効な可能性を提言しています。

サイトカインストームを起こしていると考えられるインターロイキン-6の機能を阻害する薬(抗IL-6受容体抗体)の新たな臨床試験結果が10月21日に報告されました(Stone JH, New Engl J Med, 2020, 10/21)。243人の重症患者さんを対象としています。抗IL-6受容体抗体で治療された患者さんの18%で入院14日後に症状が悪化しています。一方、偽薬が投与された患者さんでは14.9%です。著者は、抗IL-6受容体抗体は新型コロナウイルスの重症化患者さんに治療効果はないと締めくくっています。やはり、新型コロナウイルス重症化の主な原因はサイトカインストームではなく血栓症なのかもしれません。

インターロイキン-6の機能を阻害する薬(抗IL-6受容体抗体)の臨床試験結果が12月7日にも報告されました(Salama C, New Engl J Med, 2020, 12/7)。新型コロナウイルス感染者に対して249名に抗IL-6受容体抗体が、128名に偽薬が投与されています。人工呼吸器の装着に至る重症化は、抗IL-6受容体抗体投与群では12%で偽薬投与群では19.3%と、抗IL-6受容体抗体は病気の進行を遅らせているようです。しかし、最終的な生存率には差が無かったことが報告されています。やはり、新型コロナウイルス感染による死亡の原因は、免疫の暴走より、むしろ血栓症なのかもしれません。

サイトカインストームの原因となる、インターロイキン1と呼ばれる炎症性サイトカインの受容体を阻害する治療の臨床試験結果が1月22日に報告されました(The CORIMMUNO-19 collabaoratove group, Lancet Respiratory Medicine, 2021, 1/22)。軽症から中等症の新型コロナウイルス感染者59名に投与されたいますが、偽薬群に対して治療効果は認めなかったと報告されています。一方、59名の投与者のうち、重篤な副作用である敗血症が10名に、肝臓の溶解が7名に認められたため臨床試験は中止されてます。

アジスロマイシンと呼ばれる抗生剤は、好中球の抑制を介した免疫調整機能も持つため、サイトカインストームに対しても有効な可能性が示唆されていました。7,763人の新型コロナウイルス感染者を対象としたアジスロマイシンの臨床試験結果が2月2日にイギリスより報告されました(RECOVERY collaborative group, Lancet, 2021, 2/2)。死亡率はアジスロマイシン投与群で22%、非投与群でも22%と治療効果はないようです。また、入院期間や重症化率にも変化はなかったと報告されています。

(コロナによる死亡原因):これまでに蓄積された報告から考えると、新型コロナウイルス感染により死に至る主な原因は「血栓症」と考えて間違いないと思います。よって、急速に病気が進行したり、脳梗塞のように多くの方が後遺症を残してしまうのかもしれません。新型コロナウイルスによる血栓症の機序としては2つあるようです。1次的血栓症では、新型コロナウイルスが血管に感染して「血を固める役割を担う血小板」を集めて血栓を直接作ります。2次的血栓症では、新型コロナウイルスが免疫軍を攪乱して免疫の暴走、すなわちサイトカインストームをおこし、これにより免疫軍の特攻隊である好中球が過剰に集まってきます。結果、渋滞により小さい血管が詰まってしまい、至る場所に血栓ができる播種性血管内凝固症候群に陥ります。9月25日に報告された新型コロナウイルス感染で亡くなられた方の解剖解析では、15人の方に血小板が集まった血栓(血小板凝集)が、10人の方に好中球が集まった血栓(好中球プラグ)が認められたようです(Schurink B, Lancet Microbe 2020, 9/25)。つまり、約6割(15/25)の方は新型コロナウイルスが直接起こす1次的血栓症で、約4割の方はサイトカインストームにより導かれる2次的血栓症なのかもしれません。

血小板が血を固めますが、「つなぎ」も必要です。お好み焼きでも、豚肉(赤血球)とキャベツ(血小板)だけでは型になりません。卵(フィブリン)も必要です。卵(フィブリン)の元となるのがフィブリノーゲンと呼ばれる物質で、新型コロナウイルスの重症者では非常に高値になる事が報告されています(Webb BJ, Lancet Rheumatology 2020, 9/29)。しかし、豚肉、キャベツ、卵がそろえばオムレツはできますが、お好み焼きにはなりません。やはり、小麦粉が必要になります。この小麦粉の役割を担うのが「補体」です。C5aと呼ばれる補体を抗体製剤で阻害すると、新型コロナウイルスの重症患者に起こる肺の血栓症が40%から13%に減少したことが9月28日に報告されました(Vlaar APJ, Lancet Rheumatology, 2020, 9/28)。各グループの患者数は15名と少ないのですが、期待が持てる結果かもしれません。事実、C5aの血中濃度は新型コロナウイルス感染の重症化に伴い増加するようです(Carvelli J, Nature 2020, 7/29)。C5aは血栓症に関与するばかりでなく、「アナフィラトキシン」としても働き、マクロファージの暴走や、特攻隊である好中球を呼び寄せる働きもあります。つまり、C5aはサイトカインストームの発症にも寄与する可能性があるわけで(Carvelli J, Nature 2020, 7/29)、C5aの阻害は「血栓阻害」と「サイトカインストーム改善」といった一石二鳥の作用を発揮する可能性も否定はできません。

種々の因子を人口頭脳で縦断的に解析した結果が11月26日に報告されました(Bernardes JP, Immunity, 2020, 11/26)。血栓では酸素を運ぶ役割を担う赤血球が集められて固まってしまいます。よって、酸素の運び屋が少なくなるため、これを補おうと我々の身体は赤血球を突貫作業で作り始めます。この時に作り出されるのが「巨核球」と呼ばれる赤血球の前駆細胞です。新型コロナウイルスで亡くなられた患者さんでは、著名な巨核球の増加が認められるようです。著者たちは、新型コロナウイルス感染による致死的重症化は「免疫以外の機序により導かれる」と締めくくっています。やはり、重症化の殆どは、新型コロナウイルスの「テロ行為である血栓症」と考えて良いのかもしれません。

ナファモスタットのように「血栓阻害」と「新型コロナウイルス増殖抑制」、抗C5a抗体のように「血栓阻害」と「サイトカインストーム改善」といった一石二鳥の作用が期待される治療法が、重症化患者さんに試され始めています。新型コロナウイルスに感染し不幸にも重症化しても、「命は必ず救える」ステップへ前進してきていると信じています。

[日本の救命率は?]
新型コロナウイルス感染が重症化した場合、サイトカインストームや血栓症といった機序の異なった合併症が起こってきます。例えば、免疫抑制作用のあるステロイドはサイトカインストームが合併した場合に有効です。しかし、ステロイドは血を固める副作用があるので、血栓症を合併してしまった場合は、悪化させる危険性があるかもしれません。よって、医師の各々の合併症に則した臨機応変な対応が重要になります。特記すべきは、重症患者さんの治療にあたる集中治療室(ICU)での日本の救命率です。新型コロナウイルス感染の重症化により、集中治療室で呼吸管理を伴う治療が施された患者さんの死亡率は、中国武漢で61.5%(Yang X, Lancet Respir Med 2020 p475)、米国シアトルで50%(Bhatraju PK, N Engl J Med 2020 5/21)、イタリアでは治療中を除くと61.3%です(Grasselli G, JAMA 2020 4/6)。また、欧州において新型コロナウイルスをうまく制御しているドイツでさえ、呼吸器管理が必要となった患者さんの死亡率は52.5%に達しています(Karagiannidis C, Lancet 2020 7/28)。一方、日本集中治療医学会のホームページ(6/17時点)によると、治療中患者を除いた死亡率は、人工呼吸器管理の患者さんで25.8%、体外式膜型人工肺(ECMO)管理の患者さんで26.9%と世界最高水準の救命率です。

日本集中治療学会や日本救急医学会など7学会の協力からなる「日本COVID-19対策ECMOnet」の2月7日の報告によると、ECMOを含めた人工呼吸器装着患者数は昨年の第1波の2020年4月26日で315人、今回は2021年1月20日に623人と約2倍となり2月7日時点では504人へと減少傾向に入ったようです。第1波の救命率は73%と世界最高であったうえ、今回12月から1月の救命率も78%と、さらなる向上が認められています。重症患者さんの治療を続けられている、横須賀共済病院の長堀薫病院長が「この危機の状態のなか必要なのは、医師としての使命感」と2月3日におしゃっていました。自らの危険もかえりみず日夜治療に当たられ、新型コロナウイルス感染から国民の命を世界最高レベルで守って頂いている、集中治療室の医療従事者の方々に心より敬意を払うとともに感謝申し上げます。

ECMOを含む人工呼吸器の装着が必要となった患者さんは、20歳未満で4人、20~29歳で16人、30~39歳で30人、40~49歳で165人、50~59歳で468人、60~69歳で808人、70~79歳で1,124人、80歳以上で503人のようです。新型コロナウイルス感染による重症化は加齢に伴い増加する事を教えてくれています。また、日本の集中治療室での世界最高水準の医療レベルを肥満者も教えてくれるのかもしれません。人工呼吸器を装着された患者さんの死亡率は、標準体重の方で18%、1度肥満 (BMI25~30)で17%、2度肥満(BMI30~35)で17%、3度肥満(BMI35~40)で10%、4度肥満(BMI40以上)で15%です。世界では致死率の高い肥満であっても、日本では命を守ってくれています。一方、日本の世界最高の医療技術を持ってしても、重症化してしまった高齢者の救命は難しいようです。ECMOを含む人工呼吸器を装着された患者さん(現在装着中の患者さんを含む)で亡くなられた方は、40~49歳で6.7%(11/165)、50~59歳で6.0%(28/468)、60~69歳で13.5%(109/808)、70~79歳で21.0%(236/1124)、80歳以上で35.4%(178/503)です(https://crisis.ecmonet.jp/)。やはり、高齢者関連施設に焦点を当てた重点的な検査体制、老若を問わず陽性者全員を入院・療養させるのでなく、高齢者に限定した観察入院と早期の治療介入が必要なのかもしれません。

[免疫の撹乱は?]

病原体の中には免疫を撹乱させ、感染からの回復後に自己免疫疾患の発症を誘導するものも多くあります。例えば、マイコプラズマという病原体は、ギランバレー症候群、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性の肺炎などを誘発することがあります。胃に感染するピロリ菌も自己免疫性血小板減少性紫斑病を起こしますし、性病であるクラミジアも反応性関節炎と呼ばれる自己免疫反応を起こすことがあります。夏風邪やヘルパンギーナの原因であるコクサッキーウイルスも心筋炎を起こすことがあります。新型コロナウイルス感染に伴い、稀にですがギランバレー症候群、心筋炎、自己免疫性肝炎、小児に川崎病の合併を引き起こす事も報告されています。よって、新型コロナウイルスも免疫を撹乱する能力を持っていると思われます。事実、ヒトコロナウイルス(Human corona virus、HcoV-229E, NL63, OC43, HKU1)と呼ばれる弱毒性のコロナウイルスは、新型コロナウイルスが現在のパンデミックを起こす以前に、全世界に既に蔓延しています。事実、インフルエンザ流行期の10%以下の患者さんがヒトコロナウイルス陽性と各国から報告されています。そして、ヒトコロナウイルスの中のHcoV-229E型が川崎病の原因である可能性も報告されています(J Med Virol 2014 p2146)。また、後遺症として「脱毛」も最近報告されていますが、円形脱毛症は自己免疫疾患です。

こういう症例が報道されると「免疫力は下げた方が良い」と思う方がいらっしゃいますが、完全な間違いです。まずは、免疫力を高め、新型コロナウイルスを体から追い出す事が先決です。その後におこる合併症は、新型コロナウイルスに特異的でなく他の感染症でも起こりえる折り込み済みの病気ですので、専門の医師にお任せ下さい。

[免疫の撹乱の機序は?]

病原体の代表的な撹乱方法は「分子擬態(構造擬態)」と呼ばれるものです。「オレオレ詐欺」のように、他人でありながら息子に成りすましてきます。つまり、味方のように見せかけることにより、免疫細胞の敵味方の区別を見誤らせ、味方(自身の体)に攻撃を仕掛けるように仕組みます。

また、免疫細胞自体の問題により、感染症の後に自己免疫疾患を起こしてしまう場合もあります。T細胞は、自分自身の細胞(自己)には攻撃を仕掛けず、敵すなわち新型コロナウイルスなどの病原体に対しては攻撃ができるように教育されています。生まれてすぐに胸腺と呼ばれる幼稚園(臓器)で最初に教育を受けます。ここでの教育法は野蛮で残忍です。敵に対して戦えないT細胞は殺され、戦えるT細胞だけが年長組に進級していきます。進級したら、「自分自身に対して攻撃性を持っているか?」の試験を受けます。ここで自分自身に対しても攻撃性を持っていると判断されれば殺されてしまいます。すなわち、「敵に対しては攻撃ができ、自分自身には攻撃を仕掛けない」優等生だけが卒園していきます。例えば、ディ・ジョージ症候群と呼ばれる生まれつき胸腺が無い病気があります。T細胞の教育ができないため、急襲攻撃部隊(細胞性免疫)が働かず重篤な感染症を繰り返してしまいます。

次に、T細胞は「リンパ節」と呼ばれる小学校に進学します。ここで、司令官が出すサイン(副刺激分子)が「戦え」の意味なのか、「戦うな」の意味なのかを勉強します。多くの種類のサインを覚えないといけないので大変です。「戦うな」のサインの代表は、本庄佑先生が発見されノーベル賞を受賞されたPD-1と呼ばれる分子と、James P. Allison先生が発見されたCTLA-4と呼ばれる分子です。よって、これらの分子を薬で阻害すると「戦うな」から「戦え」の指示に変わり、T細胞がガン細胞に攻撃を仕掛けられるようになります。現在では、非小細胞性肺癌や悪性黒色腫などの治療に「免疫チェックポイント阻害療法」として用いられています。

T細胞とB細胞は同じ獲得免疫細胞部隊に所属しながらも、違う幼稚園で教育をうけます。弓矢の達人であるB細胞が教育を受けるのは、骨髄と呼ばれる幼稚園です。また、卒業してもB細胞はT細胞に比べて非常に慎重です。敵に出会って攻撃をするとき、最初に「IgM」と呼ばれる矢を試し射ちをします。IgMは5量体として知られ、胴体の部分が5本分の矢からなります。太いので敵に当たり憂いのですが、そのぶん矢のスピードが落ちて殺傷能力は高くありません。この試し射ちが終わると、B細胞は「胚中心」と呼ばれる隠れ家に移動して、胴体の部分が1本で殺傷能力に優れた「IgG」へと矢を変更します(クラススイッチ)。この時、すでに敵と一戦交えたT細胞から情報を得て(T細胞依存性抗体産生)、敵に最大限のダメージが与えられるように矢先の形も微調整します(体細胞超突然変異)。この段階に入ると、敵の弱点を知り尽くしたT細胞とB細胞の最強のタッグチームが組まれ、強敵でも撃退してくれます。

強いのは良いのですが、敵の殺し方が重要になります。ウイルスは我々自身の細胞(家)に空き巣に入り潜んでいます。通常は、B細胞が放った矢で敵の居場所を教えて、急襲部隊がその家の壁に穴をあけ、セメントの様に全てが固まる毒を注入してウイルスと家を一塊(アポトーシス)にして一網打尽にします。実は、この殺し方が重要です。もし、家を爆破(壊死)してしまうと、家の破片、すなわち自分自身の蛋白が敵であるウイルスの破片と一緒に、あたり一面に飛び散ってしまいます。この飛び散った自身の蛋白を獲得免疫細胞たちが誤って敵と認識してしまい、自分自身の細胞にも攻撃をはじめる可能性も出てきます。新型コロナウイルスの重症例では、血管、心臓の筋肉、肝臓の細胞が破壊された時に出て来る破片(酵素)の上昇が認められています。これにより、血管炎を主体とする川崎病、心臓の心筋炎、または肝臓の自己免疫性肝炎を稀に起こしてしまう可能性も否定はできません。しかし、あまり恐れられる必要は無いのかもしれません。例えば、爆破により、敵の死骸に加えて家からお金も飛び散ったとします。獲得免疫細胞たちは「胸腺」幼稚園と「リンパ節」小学校でしっかりと教育されているので、100万円が降ってきても無視すると思います。しかし、もし激しい爆破(重篤な臓器障害)で1億円が降ってきたら、出来心で拾ってしまうかもしれません。この様な「出来心」は想定内ですので、防犯のため憲兵である制御性T細胞(Treg細胞)が常に見回ってくれています。つまり、免疫機構は、幼稚園での教育(中枢免疫寛容)、小学校での教育(末梢免疫寛容)、出来心を起こさせない敵の撃退法(アポトーシス)、そして憲兵による巡視(acxtive auppression)の何段階にもおよぶ監視機構で、自己免疫疾患すなわち犯罪が起こらないような体制を整えています。しかし、残念ながら、我々の社会と同様に、それでも犯罪つまり自己免疫疾患はゼロにはなりません。

[抗体の役割は?]

「抗体が陰性で良かった、感染が無いので仕事に行ける」と思う方がいらっしゃるかもしれませんが、完全な誤解です。感染早期に産生されるIgM型抗体でさえ陽性になるには感染後約1週間は必要で、抗体検査が陰性だからといって「今、感染していない」という証明には全くなりません。今、「感染しているか、いないか」を判断するにはPCRか抗原検査が適しています。

賛否両論ですが、個人的には、新型コロナウイルスに対するIgG型抗体が陽性であれば「他人にうつさない、そして自身も守られている」と考えていいと思います。事実、新型コロナウイルスに感染された患者さんのB細胞を抽出して598種類の抗体を作成したところ、40種類は新型コロナウイルスを中和、すなわち細胞への侵入を抑える能力がある事が9月18日に科学的に証明されました(Kreye J, Cell 2020, 9/18)。ウイルスは自らで増える事はできません。我々の細胞に感染し、細胞内の部品を利用することにより初めて増える事ができます。ウイルスが細胞内で増えるところを自然免疫細胞と協力して一網打尽にしてくれるのがIgG型抗体です。よって、IgG型抗体を持っていれば、ウイルスは増える事ができず、感染しても症状はほとんど無く、他人にうつす事もまずないという事になります。麻疹、風疹、流行性耳下腺炎などを起こすウイルスに対してIgG型抗体が陽性であれば「守られている」そして「ヒトにうつさない」と日常診療では判断されていると思います。事実、院内感染防止のため、これらのウイルスに対する抗体検査は、多くの病院で入職者に対して義務付けられていると思います。

一方、「抗体が作られない(免疫記憶が誘導できない)」や「抗体が役に立たない(抗体がすぐ消失する)」などの例外的な感染症も稀にあるため、「抗体は新型コロナウイルスから我々を守れるのか?」という疑問も早期にはありました。しかし、米国ハーバード大学のアカゲザルを使った基礎研究により「IgG抗体は新型コロナウイルスから守ってくれる」事が証明されています。また、ヒト化マウスを用いた最近の基礎研究では、鍵穴であるアンギオテンシン変換酵素2に新型コロナウイルスが鍵を差し込むのを抗体が妨げ、感染を抑制していることも明らかとなっています(Sun et al. Cell 6/10)。同様に、ヒトにおいても抗体が新型コロナウイルスのアンギオテンシン変換酵素2への結合を阻害することが報告されています(Seydoux E et al. Immunity 2020 6/5)。臨床面においても、新型コロナウイルス再陽性の患者さんの多くは、既に新型コロナウイルスに対するIgG型の抗体を持っており、無症状か軽症ですむ事が欧米から報告されています。同様に、韓国疾患管理予防センター(KCDC)も、新型コロナウイルス再陽性になった患者さんの96%に抗体があり、半数以上は無症状で、症状があっても軽症である事を5月19日に報告しています。非常に有意義な情報は、KCDCの再陽性者285人の追跡調査です。再陽性者の濃厚接触者に感染者は一人も出ていない事を報告しています。期待を持たしてくれるのが、最近の予備的臨床試験結果の報告です(Duan K et al. PNAS 2020 p490)。新型コロナウイルス感染による重症患者10名に、既に回復した患者から採取したIgG型抗体を含む血清200 mLを1回投与しています。すべての患者さんの症状は3日以内に改善し、PCRで全員にウイルスが検出できなくなったと報告しています。すなわち、IgG型抗体を持っていれば新型コロナウイルスに対して「自身も守られ」そして「他人にうつさない」事を基礎と臨床の両側面から証明しているのかもしれません。

トランプ大統領の強い意向により、命の危険が差し迫っている重症患者さんに限り、新型コロナウイルス感染から回復した患者さんの「血漿」を治療目的で投与する事を米国食品医薬品局(FDA)が8月23日に承認しました(https://www.fda.gov/vaccines-blood-biologics/investigational-new-drug-ind-or-device-exemption-ide-process-cber/recommendations-investigational-covid-19-convalescent-plasma)。血液から赤血球を取り除いた血漿には、中和抗体が含まれるため治療効果が期待でき、簡便に行える利点があります。一方、血漿には抗体以外の物質(例えばサイトカインなど)も全て含まれてしまいます。また、血清(serum)とは異なり、血液を固める作用がある凝固因子までも含んでいます。よって、時間をかけて良いところだけを取り出した中和抗体とは異なり、血漿投与には良い面と悪い面が混在してしまうため強い治療効果が望めない可能性も否定はできません。まずは、米国の結果を注視する必要があると思われます。

9月15日に米国ニューヨーク市のマウント・サイナイ病院から「血漿投与」を行った新型コロナウイルス感染者39名の結果が報告されました(Liu STH, Nat Med 2020, 9/15)。血漿投与を受けた方の死亡率は12.8%、受けなかった方の死亡率は24.4%で、「血漿投与」は死につながる重症化の改善に効果があるのかもしれません。一方、人工呼吸器が既に装着されていた重症度の高い患者さんに対する治療効果はなかったようですが、血を固まらなくする抗凝固剤との併用で治療効果が増したようです。「血漿投与」により重篤な副作用は起こらなかった事も報告されています。

新型コロナウイルスから回復された患者さんの血漿を使った臨床試験の結果が11月24日に報告されました(Simonovich VA, New England J Med 2020, 11/24)。鼻からの酸素投与が必要な中等症の新型コロナウイルス感染者228人に対し、回復患者さんからの血漿が500mL投与されています。コントロール群は105名です。30日後の回復状況を比較検討されていますが、残念ながら治療効果は認められなかったようです。投与量が正確に把握できる精製された抗体(IgG)製剤と異なり、血漿では正確なIgGの投与量は把握できません。つまり、血漿を提供して頂いた回復患者さんの状態により敵を射止める矢(IgG)の量が異なってきます。また、血漿には血を固めてしまう成分が含まれている可能性も否定はできません。つまり、お好み焼き(血栓)を固めるのに必要な、小麦粉(補体)や卵(フィブリン)も混じっている可能性もあるわけです。よって、安定した治療効果が得られず、治療効果について賛否両論の報告がなされているのかもしれません。

血漿療法に関して非常に興味深い結果が2つのグループから報告されました。1つ目は、3,082人の新型コロナウイルス感染者を対象とした臨床試験です。高濃度(1:2,560以上)の新型コロナウイルスに対するIgGを含む血漿を投与された患者さんでは死亡率は22.3%、中等度の濃度の場合は27.3%、そして低濃度では29.6%と報告されています(Joyner MI, New England J Medicine, 2021, 1/13)。やはり、高濃度のIgGを含む血漿を投与する必要があるようです。最も重要なポイントは、血漿投与は、人工呼吸器の装着が必要になるまで重症化してしまった患者さんには効果がない事です。つまり、重症改善ではなく、重症化予防に用いる必要があるのかもしれません。事実、1月6日の報告も同様な結果を示しています(Libster R, New England J Medicine 2021, 1/6)。75歳以上、または65歳以上で重症化の危険がある基礎疾患を伴う新型コロナウィルス感染者160人を対象としています。新型コロナウイルスに対するIgGが高濃度(1:1000以上)に含まれる血漿が250mL投与されています。また、新型コロナウィイルスによる症状が出てから72時間以内の早期投与が行われています。投与群の重症化率は16%で、プラセボ群では31%のようです。重症化を半減(48%減少)させた事になります。つまり、血漿療法は高濃度のIgGを用い、早期に投与すれば非常に有効かもしれません。3日間と言う超短期間で退院されたトランプ大統領に、一番最初に投与されたのも、新型コロナウィルスに対するIgG抗体製剤です。高齢者の感染者数が増えれば増えるほど、重症者も増え医療現場を逼迫させる事は明らかで、これが新型コロナウイルスの大きな問題点と思います。血漿投与または抗新型コロナウィルスIgG製剤の早期投与が高齢者の重症化を抑制して、この問題克服に光明をもたらしてくれると願っています。

平均年齢62.5歳と、75歳より若い年齢の新型コロナウイルス感染者に対する血漿療法の臨床試験結果が2月18日に報告されました(Simonovich V, New England J Medicine 2021, 2/18)。18歳から高齢者に至る平均年齢62.5歳の新型コロナウイルス感染者228人に血漿が、105人に偽薬が投与されています。酸素飽和度が93%以下に下がった方に、発症から8日以内に500mLの血漿が投与されています。使用された血漿に含まれる新型コロナウイルスのスパイに対するIgGの濃度にはバラつきがあるようで、1:800から1:3,200と報告されています。血漿投与群の死亡率は10.96%、偽薬群は11.43%で優位差はなかったようです。サプリメントTable3(Table S3)を見ると、血漿投与された感染者でも、偽薬群に比べて投与7日目でさえ抗体価が増えていません。やはり、血漿療法の効果を引き出すには「高濃度の抗体が含まれる血漿」を使う必要があるのかもしれません。また、サブ解析を見ると、65歳以上では治療効果があり、逆に65歳以下では悪化の傾向がありそうです。血漿療法は高齢者に特化して用いる方が、より効果的で安全性も高いのかもしれません。

免疫といえば「B細胞が作りだす抗体」だけと思われがちですが、誤解です。自然免疫軍のみが働く場合もあります。代表例は、自己炎症性疾患です。自己免疫疾患と異なり獲得免疫軍が出陣してこないため、抗体(自己抗体)は作られません。また、自然免疫軍とT細胞軍だけが働く代表疾患は、「IV型アレルギー」に分類される病気で、接触性皮膚炎などがあります。やはりB細胞軍が出陣しないため抗体は作られません。よって免疫記憶が有るかを調べるためには、抗体検査でなく、接触性皮膚炎を起こしていると疑われる物質を塗り、皮膚が赤くなるかどうかを見る「パッチテスト」が用いられます。ツベルクリン反応もIV型アレルギーです。結核の感染では、抗体ができないため、皮膚に死んだ結核菌を接種して皮膚が赤くなるかどうか、即ち「T細胞が免疫を持っているか」を見ます。このように、B細胞軍が出陣してこない場合も多くあります。また、弱い敵のため、B細胞軍が出陣してきても短期間しか抗体を作らない場合もあります。このような場合は、再攻撃に備えて敵の顔を覚えたB細胞軍は生き残りますが、抗体はすぐになくなってしまいます。つまり、「抗体の有無」では、「免疫が有るのか、無いのか」は分かりません。

IgM、IgG、IgAの少なくとも3種類が新型コロナウイルス感染では産生され、敵に対する殺傷力も異なります。また、IgGとひとまとめに呼ばれがちですが、標的となる場所が異なり「ウイルスのどこに当たるか」で殺傷力も異なってきます。新型コロナウイルスが我々の細胞に空き巣に入るための鍵(RBD, receptor binding domain)を標的とした抗体は、殺傷能力が最も強い事が多くの研究により報告されています(Kreye J, Cell 2020, 9/23)。また、鍵を持つための腕(スパイク)を標的としても殺傷効果は得られるようです。一方、新型コロナウイルスばかりでなく季節性コロナウイルスにも存在するツノ(ヌクレオペプシド)を標的とした場合には、やはり急所を外れるため効果的な殺傷効果は得られないようです。殺傷力の高い「鍵に対する抗体」は、B細胞とT細胞が協力して初めて作り出されます。よって、免疫軍が総動員で戦った場合、すなわち中等症以上に陥った患者さんに認められはじめます(Kreye J, Cell 2020, 9/23; Meckiff BJ, Cell 2020 10/5)。また、「鍵に対する抗体」は感染後226日までは消失しないとも報告されています。一方、免疫軍が総戦力で戦う必要がなかった無症状や軽症の患者さんでは、「ツノに対する抗体」が認められ、感染後早期に消失してしまうと報告されています。すなわち、「ツノに対するIgG」ではなく「鍵に対するIgG」が陽性であれば、新型コロナウイルスからすでに守られていると考えて良いと思います。最初に減少するのは「ツノに対するIgG」である事が11月3日にも報告されています(Chen Y, Cell 2020, 11/3)。「鍵に対するIgG」が高ければ新型コロナウイルス感染からの回復が早いようです。一方、「ツノに対するIgG」が増えても症状に変化は無いと報告されています。


時間が経つにつれて、「鍵に対するIgG」が減ってしまい低濃度になったとしても新型コロナウイルスに対する予防には充分である事が、アカゲザルを用いた基礎研究により12月4日に報告されました(McMahan K, Nature 2020, 12/4)。

英国インペリアル大学より、「REACT study」と呼ばれる36万人にもおよぶ大規模なIgG抗体の調査結果が報告されました。「IgG抗体陽性者が3か月で6%から4.4%へ減少した」と報告されたため、「免疫はできない」と心配される方がいらっしゃるかもしれませんが、ご安心下さい。投稿前の論文がインペリアル大学のホームページで閲覧できたので読んでみました(https://www.imperial.ac.uk/media/imperial-college/institute-of-global-health-innovation/MEDRXIV-2020-219725v1-Elliott.pdf)。
6月から9月までの間に、新型コロナウイルスに対するIgG抗体をFortress Diagnostic社の簡易キットを用いて3回測定されています。論文およびFortress Diagnostic社のホームページには、「新型コロナウイルスのどの部位を認識するIgGを検出できるか」については記載がないようなので、早期に消失する傾向のある「ツノに対するIgG」なのか、長期間保持される「鍵に対する抗体」なのかは不明です。一回目での陽性者は6 %でしたが、2回目では4.8 %へ、3回目では4.4 %へと陽性者が減少しています。すなわち、陽性者中の26.6%([6% - 4.4%] ÷ 6%)の方のIgGは消失したことになります。この減少は年齢層で異なり、18-20歳では14.9%、75歳以上で39%と報告されています。しかし、この抗体キットの感度は84.8%と論文中に著者は記載しており、陽性者であっても15.2%(100%–84.8%)の方は陽性にはならないという事を示しています。18-20歳の14.9%という値と非常に近いため、若年者でIgG抗体を3か月以内に消失した方はいなかったと考えるのが科学的には妥当と思います。一方、75歳以上では23.8% (39%–15.2%)の方のIgG抗体が消失した計算になりますが、科学的な判断は非常に難しいようです。何故なら、今回の研究では、抗体検査を全て自分自身で行わなければなりません。抗体キットに付いてくるビデオを見て、自ら指先に専用器具で針をさし、一滴の血液を上手く採取して、キットの指定された穴にうつさなければなりません。慣れれば簡単ですが、慣れないとミスが起こります。当講座でも医学部2年生の実習でアレルゲンに対するIgE抗体を検出する簡易キットを使いますが、操作ミスはやはり起こってしまいます。特に、老眼などがあると、近くが見えづらく操作の誤りも起こり易いかもしれません。事実、今回の検査対象者の中で、キットの操作に慣れている方が多い医療従事者では、抗体が消失した方はおられないようです。

約13,000人の医療従事者を対象とした抗体検査結果が12月23日に報告されました(Lumley SF, New England J Medicine, 2020, 12/23)。11,364人が抗体陰性で、1,265人が抗体陽性でした。抗体陰性者のうち、その後の定期的PCR検査で新型コロナウイルスの感染が判明した人は223名(1.96%)です。また、PCRで感染が判明した223名のうち、100人(44.8%)は無症状のようです。一方、抗体陽性者のうち、その後にPCRで感染が判明した方は2名(0.16%)です。やはり、抗体は新型コロナウイルスの再感染から我々を守ってくれているようです。また、「抗体は少なくとも6ヶ月以上は保持され我々を守ってくれている」と報告されています。

同様の内容が1月6日にも報告されました(Dan JM Science 2021, 1/6)。ひとたび「鍵に対する矢」が作られると、その量は103日目で半分にはなりますが、6~8ヶ月後でも新型コロナウイルスを撃退するには十分量の矢が88%の方には保たれるようです。また、放った矢が消失した後も、B細胞は最低で半年間は生存できる事からすると、「鍵に対する矢」が作られた人は1年以上は守られていると考えるのが妥当と思います。また、新型コロナウイルスといつでも戦えるT細胞軍のうち、CD8陽性部隊は125日から225日で半分になり、CD4陽性部隊はは94日から153日で半分になるようです。また、既存のコロナウィルス感染の報告からすると、T細胞は半分になった後は非常にゆっくりと減っていく可能性が高く、完全に無くなるまでには17年を要する可能性もあるようです(Dan JM Science 2021, 1/6)。


[新たな概念は?]

新型コロナウイルスに関して認められる現象の多くは、医学部の学生の教科書的な基本概念で説明がつけられるのかもしれません。一方、未だ賛否両論である2つの免疫分野の謎に、新型コロナウイルスは答えを出してくれる可能性があります。また、「自己免疫反応」による「免疫低下」という新らたな概念が9月24日に報告されました。

もう一つ新たな仮説が10月5日に報告されました(Meckiff BJ, Cell 2020, 10/5)。濾胞Th細胞(Tfh)はB細胞に活力を与える援助細胞ですが、新型コロナウイルス感染では、この「濾胞Th細胞」がB細胞を殺してしまう「細胞傷害性濾胞Th細胞」へと豹変する可能性が示されました。この豹変した細胞は、新型コロナウイルス感染で重症化した方のみに認められています。すなわち、細胞傷害性濾胞Th細胞が出現しなければ抗体が産生され回復に向かうが、細胞傷害性濾胞Th細胞が出現してしまえば抗体産生ができなくなり、より重症化へと進んでいく可能性も否定はできません。

このホームページを閲覧して頂いた方から貴重なご質問を頂いたのでご紹介させて頂きます。新型コロナウイルス感染で胚中心が消失すれば、矢をIgMからIgGへ変えるクラススイッチが起こらないため、IgGができないのではないかと言うご質問です。私の説明不足で申し訳ありません。もし「クラススイッチは胚中心で起こるか?」と問われれば答えは〇になります。しかし、「クラススイッチは胚中心でしか起こらないか?」と問われれば答えは×になります。B細胞は非常に複雑で、「クラススイッチがおこることにより胚中心は作られ、胚中心が無くてもクラススイッチは起こる」という結論になるのかもしれません。例えば、マウスでクラススイッチを起こらなくすると胚中心は消失します。事実、ヒトにおいても、クラススイッチに必要な遺伝子が生まれつき欠失すると、高IgM血症という病気を起こしてしまい、胚中心も消失してしまいます。つまり、クラススイッチに依存して胚中心ができているのかもしれません。一方、胚中心はリンパ濾胞という組織の中にできます。よって、リンパ濾胞が無くなると胚中心も無くなります。リンフォトキシンと呼ばれるサイトカインが無くなると、リンパ濾胞と共に胚中心も消失しますが、IgGは無くなる事はありません。すなわち、胚中心が無くてもクラススイッチは起こるという事になります。事実、今回の新型コロナウイルス感染においても、胚中心は消失しながらも、コロナ特異的IgGは作られています(Kaneko N, Cell 2020 8/14 11572)。
また、胚中心では、殺傷力を強くするために矢先の微調整(体細胞高頻度突然変異)が繰り返されます。人類は、新型コロナウイルスに対して「余り微調整をしなくても十分に殺傷力を持つように変えることができる矢(抗体)」を既に持っている可能性が8月20日に報告されました(Kreer C, Cell 2020, p843)。なぜ、このような矢(抗体)を持っているかについて2つの可能性が挙げられています。コロナウイルスのようなRNAウイルスは数億年前から存在しているようで(Shi M, Nature 2018 p197), ウイルスはヒトと共存して生きている事からすると、人類は進化の過程でこの様な矢が既に備わっているのかもしれません。また、4種類のヒトコロナウイルスは、既に世界中に蔓延しています。これらのウイルスの過去の感染による交叉免疫により、このような矢が備わっている可能性もあります。

抗体を産生するB細胞の成長は、「出世魚」のように複雑です。未熟な段階から成長して来たB細胞は、武器である矢をより強力に研ぎ澄ましながら再び成長して「形質芽細胞」へと出世します。この段階での生き残りは厳しく、形質芽細胞は短命です。しかし、達人の領域、すなわち「形質細胞」まで出世できれば長寿となります。この成長のためには情報を収集する対策本部(胚中心)が必要です。よって胚中心が無くなると、長寿の形質細胞が減り、短命の形質芽細胞が増えるのかもしれません。事実、8月17日に新型コロナウイルス感染では、形質芽細胞が増える事が報告されました(Laing AG, Nat Med 2020, 8/17; Mathew D, Science 2020, 9/4)。短命と聞いて「免疫は、やはりできない」と誤解される方がいらっしゃるかもしれませんが、ご安心下さい。短命と言うのは、「麻疹(はしか)のように一生涯維持される終生免疫はできない、つまり季節性インフルエンザの様に毎年予防接種をうける必要がある」と言う事です。

このように、新型コロナウイルスに対してB細胞の反応が弱いのは間違いないと思います。この解釈として、正反対の可能性が有ります。「新型コロナウイルスは最強のB細胞軍さえ撃退してしまう怖い敵だ」と「新型コロナウイルスはB細胞軍が全力で戦う必要がない弱い敵だ」です。個人的には、後者すなわち「新型コロナウイルスは弱い敵」で間違いないと思います。なぜなら、もしB細胞軍を撃退するほどの強い敵であれば、免疫力のしっかりした方にも重症化がおこります。しかし、49歳以下で基礎疾患がなく免疫力がしっかりした方の重症化率は、季節性インフルエンザより低いのが現実です。ただ注意点は、新型コロナウイルスは警戒を怠ると「たまにテロを起こす」弱い敵と言うことです。このテロ行為、即ち血栓症が、血栓ができやすい健康状態の方に重症化を招いてしまうので、このような方に対する重点的な対策が必要なのかもしれません。

先天性免疫不全症として知られるように、感染制御に必要な遺伝子が生まれつき欠失すると死につながる感染症を起こしてしまう事は既存の概念です。一方、新型コロナウイルスによる重症肺炎で亡くなられた987人の解析が新たな概念をもたらすのかもしれません。亡くなられた987人中101人(10.2%)の患者さんに、I型インターフェロンに分類されるサイトカインであるインターフェロンαとインターフェロンωに対する自己抗体が検出されたようです(Bastard P, Science 2020, 9/24)。また、この様な自己抗体は無症状や軽症の方には検出されていません。つまり、総攻撃の段階で、新型コロナウイルスを撃退するために投下された爆弾を、敵と内通していた弓矢の名手のB細胞部隊が反乱を起こし、爆弾が敵陣へ着弾する前に叩き落して敵の手助けをしている状態です。通常、自己免疫反応は、免疫の暴走により自分自身の細胞を攻撃する免疫過剰の状態です。一方、I型インターフェロンに対する自己抗体は、敵が攻撃をしやすいように内部から手助けをするスパイの様な新たな自己免疫反応に分類されるのかもしれません。「敵のテロ行為による血栓」が起きたり、「味方の暴走による自爆すなわちサイトカインストーム」が起きたり、「敵を手助けするための反乱」がおきたり、体内の免疫反応も我々の社会と同様に非常に複雑という事です。ただし、これらの合併症は、稀にしか起こらないうえに既に織り込み済みですので、恐れられることなく、この様な合併症が不幸にも起こった場合は医師にお任せください。


[抗原検査と抗体検査は?]

FDAでは95%以上の感度と90%以上の特異度が抗体検査キットには最低限必要と推奨しています。アメリカ国立衛生研究所(NIH)やアメリカ国立がん研究所(NCI)等と連携して抗体検査キットの精度を独自調査して、精度の低い抗体検査キットに対しては、市場からの回収を要請しているようです。6月15日時点でFDAが使用を承認した抗体検査キットと、精度が低いため市場からの回収を指示された抗体検査キットを製造する会社名をFDAのホームページから引用しています。ここに示した以外の多くの抗体検査キットは現在承認待ちの状態ですので、https://www.fda.gov/medical-devices/emergency-situations-medical-devices/faqs-testing-sars-cov-2#offeringtestsよりご確認下さい。FDAのホームページを7月29日に再度確認しましたが、6月15日以降に新たに承認されたキットは3つしかありません。逆に、88種の抗体検査キットが市場からの撤去を指示されているようです。7月29日時点の承認された抗体検査キットをリストに示しています。また、厚生労働省は、アッボト社とロシェ社のどちらのキットにおいても陽性となった抗体は、新型コロナウイルスの増殖を抑制できると報告しています。

日本では、ソフトバンク(Orient Gene 社とINNOVITA社のキット使用)の抗体検査で陽性者は0.43%でしたが、神戸市で行われた抗体検査(Kurabo社キット使用)では陽性者は3.3%(Doi A, MedRxiv 2020)と結果に開きがあるようです。また、日本赤十字社が行った抗体検査では、「新型コロナウイルスが流行する以前の昨年1月から3月に採取した血液中に0.4%の陽性」が認められたと報告しています。2000年代からすでに、弱毒性のヒトコロナウイルスは全世界に蔓延しており、季節性インフルエンザ流行期の5~10%の患者さんにヒトコロナウイルス感染が認められています(Jpn Infect Dis 2018, p167)。よって、このヒトコロナウイルスに対するIgG型抗体を持つヒトも既におられ、「交叉現象」と呼ばれる作用により新型コロナウイルスに対しても弱い陽性を示しているのかもしれません。新型コロナウイルス特異的なイムノクロマトキットを使用していない場合は、弱陽性は、新型コロナウイルス感染ではなく、ヒトコロナウイルス感染の既往を反映している可能性も考慮しながらの慎重な検査結果の判断が必要かもしれません。

[新型コロナウイルスに対する免疫検査は?]
免疫分野の世界的リーダー達から多くの結果が蓄積されて来ており、「推測や思い込み」ではなく「科学的根拠」に基づき判断がてきる段階に入っているのかもしれません。また、早期の段階でカロリンスカ研究所から報告されたように、「新型コロナウイルスは弱い敵で、約6割の方は自然免疫軍とT細胞軍だけで充分太刀打ちでき、B細胞軍の出陣が必要な方は約3割に留まる」のかもしれません(Sekine T. BioRxiv 2020 6/29)。よって、「免疫を持っているか、いないか」を調べるためには、抗体だけでは不十分で、T細胞も見ないといけないと言うことになります。つまり、抗体陽性であれば新型コロナウイルスに対する免疫を持っていることになりますが、抗体陰性でも、T細胞による免疫で既に守られている方がおられるという事です。抗体陰性の方がT細胞免疫を持っているかを調べるためには、皮内テストかインターフェロンγ遊離試験が必要になります。良い例は結核の感染です。結核感染では抗体はできません。よって、T細胞免疫を見るため、皆さんも経験のあるツベルクリン反応と呼ばれる皮内テストが検査に使われます。ツベルクリン反応は死んだ結核菌を皮膚に打ち込む必要がありますが、インターフェロンγ遊離試験は採血により検査ができます。新型コロナウイルスに対する免疫を持つ人の数を正しく把握するには、まず抗体検査を行い、陰性であれば無毒化した新型コロナウイルスに対する皮内テストかインターフェロンγ遊離試験が必要なのかもしれません。そして、どちらかが陽性であれば、新型コロナウイルスから守られているライセンスになると個人的には強く信じています。

[PCRは?]

[再感染は?]
PCRが陰性となり退院後に再び陽性となる患者さんが、5%から15%いる事が報告されています。韓国疾患管理予防センター(KCDC)の5月19日の報告では、再陽性率は地域によって異なり12.8%から48.7%と幅があった事を示しています。再陽性になった患者さんの半数以上は無症状で、症状があっても軽症です。最近の欧米の報告では再陽性の患者さんの多くは、既に新型コロナウイルスに対するIgG型の抗体を持っていることが報告されています。KCDCも再陽性患者の96%に抗体が確認されたと報告しています。これらの結果は、再陽性の患者さんは既に免疫により新型コロナウイルスから守られている事を教えてくれています。事実、KCDCの285人の再陽性者の追跡調査の結果、再陽性者の濃厚接触者に感染者は一人も出ていません。また、再感染の最大の原因は、退院時のPCR結果が偽陰性であった可能性が8月20日に報告されました(Osmann AA, New Microbes New Infection 2020, 8/20)。すなわち、新型コロナウイルスが残っているのに退院させられ、その後のPCRで体内に残っていた新型コロナウイルスが検出されたようです。しかし、すでに免疫を持っているので症状も無く、ヒトにうつすことも無いという事です。

[免疫にとっての新型コロナウイルスの強さは?]

中国武漢市の調査では、新型コロナウイルスに感染しても無症状であった患者さんは、症状が出た患者さんに比べてIgG型抗体の血中濃度が低く、そのうえ、退院後約8週で40%の患者さんの抗体が陰性になったと報告しています(Lung QX. Nat Med 2020 6/18)。この結果を見て、「抗体はすぐに消えるので、新型.コロナウイルスに対して免疫はできない」と心配される方がいらっしゃるかもしれませんが、ご安心下さい。自家製の抗体検出キットを使用しているので精度は不明ですが、この結果が正しいとすれば「免疫細胞にとって、新型コロナウイルスは弱い敵」である事を教えてくれていると個人的には思います。

自然免疫細胞のみで対処できる弱い相手には、戦闘のエキスパートである獲得免疫細胞は出てこないか、出てきてもアッという間に引き上げてしまいます。良い例が夏風邪です。仕事を休むほどではないが、少しだるく熱っぽい感じが長く続きます。アデノウイルスと呼ばれる弱い敵のため、自然免疫細胞だけで対処してしまい、悪化はしなくても敵の根絶までは至らず軽い症状がだらだらと続いてしまいます。科学的に見ても、新型コロナウイルス感染では64.5%の患者さんにリンパ球の減少、すなわち獲得免疫細胞の減少が認められており(Li L-Q, J Med Virol 2020 p577)、自然免疫細胞が中心的に戦っていると思われます。また、新型コロナウイルスは、自然免疫細胞だけでも十分に太刀打ちできる敵である事は、ダイヤモンドプリンセス号の事例が教えてくれているのかもしれません。感染者に高齢者が多いにも関わらず、無症状者は58%でした。高齢者の免疫力が低下する原因は獲得免疫の衰えです。事実、新型コロナウイルスに対する獲得免疫反応は65歳から衰えはじめ、75歳を超えると顕著に低下する事が9月16日に報告されています(Moderbacher CR, Cell 2020, 9/16)。すなわち、あまり衰えない自然免疫細胞だけで、無症状のうちに新型コロナウイルスを追い出したのかもしれません。また、幼少期に受けたBCGによる自然免疫の訓練が、重症化の予防に寄与してくれる可能性も否定はできません。一方、自然免疫細胞だけでは太刀打ちできなかった場合に、援軍である獲得免疫の戦闘能力が衰えているため、高齢者は重症化へとつながるのかもしれません。事実、重症化した患者さんの免疫学的特徴は、急襲部隊であるCD4陽性T細胞に指示を出す司令官(樹状細胞)の機能不全、及び指示を出すために必要なHLA-DRと呼ばれる器具の不足が原因と報告されています(Arunachalam PS, Cell 2020, 8/11; Zhou R, Immunity 2020, 8/3)。つまり、重症化を起こしてしまう患者さんでは、獲得免疫の衰えが認められるということです。9月9日に報告された高齢者施設の解析結果も同様の可能性を示唆しています (Ladhani SN, EClinical Medicine 2020, 9/9 )。感染しても43.8%の高齢者は無症状で、ひとたび症状が出てしまうと死亡率は35.7%と非常に高くなるようです。

6月29日にスエーデンのカロリンスカ研究所より興味深い結果が報告されました(Sekine T. BioRxiv 2020 6/29)。新型コロナウイルスに対して攻撃できるように、T細胞が既に敵の顔を覚えているヒトは、抗体を持つヒトの約2倍いると報告されました。また、感染しても症状がでなかった患者さんにもT細胞の記憶は認められています。今年5月に献血された血液を調べると、約30%の方に新型コロナウイルスに対するT細胞の記憶が既に備わっており、抗体陽性者よりも多いようです。病原体が侵入してくると、先鋒である自然免疫細胞が最初に挑みます。相手が強敵であれば、戦闘のエキスパートである獲得免疫細胞が参戦してきます。獲得免疫細胞は、T細胞とB細胞に分かれ、副将であるT細胞が最初に攻撃を挑みます。次に、「T細胞依存性抗体反応」と呼ばれる機序により、T細胞から「敵の弱点」を聞いた大将であるB細胞が参戦してきます。つまり、第一波の攻撃を先鋒の「自然免疫軍」がしかけ、第二波の攻撃を副将の「T細胞軍」がしかけます。そして、第三波攻撃では、大将である「抗体を産生するB細胞」も加わります。1対1で戦う柔道とは異なり、免疫軍では「先鋒だけ」、次に「先鋒と副将」、そして「先鋒、副将、大将」と戦力を増強していき、敵が強ければ最後には免疫軍の総力戦で戦いを挑みます。季節性インフルエンザウイルスに対しては、総力戦が必要なため、ほぼ全員の患者さんに抗体が陽性となります。カロリンスカ研究所の報告からすると、B細胞が参戦する前の、副将による第2波攻撃で新型コロナウイルスを撃退できたことになります。また、これまでの報告からすると、第一波の自然免疫による先鋒の攻撃で、新型コロナウイルスを撃破する場合もあるようです。すなわち、新型コロナウイルスは、「免疫軍の総力戦が必要でない場合が多い、弱いウイルス」と思います。事実、軽症から中等症に移行する段階で、免疫反応が獲得免疫軍(T細胞とB細胞)の参戦により大きく変化する事が10月28日に報告されました(Su Y, Cell, 2020, 10/28)。新型コロナウイルス感染者の大部分の方は無症状か軽症ですので、感染しても殆どの方は「先鋒の自然免疫軍だけで新型コロナウイルスを追い出している」と考えて良いと思います。




英国のロイヤル・フリー病院で計画された、19人の健常人に新型コロナウイルスを意図的に感染させる研究計画が10月20日に英国政府に承認されました。これが、「新型コロナウイルスは弱い」と教えてくれているのかもしれません。なぜなら、強いウイルスなら人体実験は絶対許可されないはずです。

ただし過信は禁物です。免疫軍が手を抜いてしまうため、生き残ったウイルスが免疫軍の目を盗みながら血管にテロ行為を行い突然の爆発(血栓)を起こしたり、免疫兵の一部を騙して混乱させ、反乱(サイトカインストームや自己免疫疾患)を仕組んだりする可能性もあるのかもしれません。

1つの因子に着目した、これまでの数理解析とは異なり、新型コロナウィルスの変異、年齢別の免疫反応、ウィルス拡散の早さなどの様々な因子を考慮した数理的解析結果が1月12日に報告されました(Lavine JS, Science 2021, 1/12)。人口あたりの死者数が日本に比べ数十倍も多い海外のデータ解析ですが、それでも集団免疫ができて新型コロナウィルスが風土病になった時には、季節性インフルエンザより弱い可能性が示唆されています。やはり、免疫軍にとり、新型コロナウィルスは季節性インフルエンザより弱い敵と考えてよいのかもしれません。ただし、新型コロナウィルス感染により重症化しやすい高齢や肥満などの素因、血栓症を起こしやすい基礎疾患が有る方は、免疫が無い状態では新型コロナウィルスが傍若無人にふるまい死者が爆発的に増えてしまいます。やはり、弱いウィルスに対しては、重症化の危険性が高い人、例えば高齢者関連施設などへの重点的な対策が有効と個人的には思います。

今回の数理的解析結果は、その他にも多くの貴重な情報を提供してくれています(Lavine JS, Science 2021, 1/12)。「いつ季節性インフルエンザのような風土病になるか?」ですが、あまりに多くの因子が関与するため判断は難しく、著者達も本文中には明言されていません。ただし、提示された表には0.5年から10年と幅の広い可能性が示されています。つまり、早ければ今後半年で、遅くても10年後には風土病となるのかもしれません。また、「ワクチンの今後の必要性」についても推測されています。世界的にみて子供達は重症化しにくいのが新型コロナウィルスの特徴です。この状態が続けば、ワクチンは数年で必要なくなると推測されています。つまり、ワクチン接種が必要ない夏風邪程度になるのかもしれません。また、新型コロナウィルスが変異して子供達の重症化が増えた場合は、毎年のワクチン接種が必要になると推測されています。つまり、季節性インフルエンザ程度になると言う事と思います。

免疫反応に寄与する「ありとあらゆるデータ」を経時的に取り込み人工頭脳により包括的に解析した結果が2月10日に報告されました(Liu C, Cell, 2021, 2/10)。自然免疫軍のうち刺殺/毒殺が特異な「ナチュラルキラー細胞部隊」と、ウイルスの増殖を抑制するIFN-α/βと呼ばれるサイトカインを産生する「形質細胞様樹状細胞部隊」の機能が感染時に低下している場合に、新型コロナウイルスの重症化が起こり易いようです。一方、これらの細胞が時機を逸して、回復期に暴れ出すとサイトカインストームといった合併症を起こしてしまうと報告されています。普通のウイルスに対しても、自然免疫軍が弱っていると先制攻撃が不十分となり重症化につながります。また、感染後期になると、興奮した免疫軍が暴走して自身の細胞に攻撃を仕掛けないように歯止めがかかり始めます。この「歯止め」がうまくいかないと、サイトカインストームや自己免疫疾患が起こってしまいます。これが感染症に対する「免疫反応の基本概念」です。つまり、新型コロナウイルスに対しても、「先制攻撃がうまくいかなければ重症化の危険性がでる」そして「回復期に、免疫細胞の歯止めに失敗すればサイトカインストームに陥る」という事になります。これらの結果から科学的に言える事は「新型コロナウイルスは特殊なウイルスではなく、免疫反応が通常どうりに起こる普通のウイルス」という事です。

82人の健常人、204人の新型コロナウイルス感染からの回復者、92人の新型コロナウイルス感染中の患者に対する獲得免疫に関する調査結果が2月9日に報告されました(Bonifacius A, Immunity 2021, 2/9)。新型コロナウイルスに感染しても軽症で済んだ方では、B細胞部隊は出陣せず、つまり抗体は産生されない状態でT細胞部隊のみで新型コロナウイルスを撃退しているようです。一方、中等症以上に悪化してしまうと、B細胞部隊も出陣してT細胞部隊と協力し新型コロナウイルスを撃退していると報告されています。つまり、これまでの多くの報告で示されているように、新型コロナウイルスは、大将であるB細胞が出るまでもなく、先鋒の自然免疫軍や副将のT細胞部隊で対処できる、「免疫軍にとって弱い敵」と考えて間違いないと個人的には思います。ただし、血栓症を起こし易い基礎疾患がある方や高齢者では注意が必要です。新型コロナウイルスが、我々の細胞に空き巣に入るために使う鍵穴「アンギオテンシン変換酵素2」が血管内皮細胞にも発現するため、「血栓というテロ行為」を起こされてしまいます。感染症の悪化であれば早くとも半日以上かけて進行します。一方、血栓症は突然起こるため、「さっきまで元気だった方が急に亡くなった」という突然死をまねく可能性もでてきます。

[患者さんが教えてくれる新型コロナウイルスの強さは?]
10月28日に「LY-COV555」と呼ばれる中和抗体の臨床試験結果が報告されました(Chen P, New Engl J Med 2020, 10/28)。効果は投与量により異なり、2,800mgの一回投与で効果があるようです。一方、この臨床試験結果が、新型コロナウイルスの弱さを物語っているかもしれないと個人的には思います。453人の人工呼吸器を必要としない軽症から中等症の患者さんを対象としています。特記すべき点は、約70%の方は、65歳以上またはBMIが35以上(過度な肥満)で新型コロナウイルス重症化のリスクが高い方です。この様な加齢や肥満に伴う免疫力低下がありながら、偽薬投与群の患者さんでさえ、11日までにウイルス量は0.03%にまで減少しています。すなわち、免疫軍にとって弱いウイルスであるがゆえに、高齢や肥満であっても自然経過でウイルスを撃退できたと考えてよいのかもしれません。また、この様な弱いウイルスの場合は自然経過で治癒する方が多いため、薬剤投与群と偽薬群で優位差が出にくく臨床試験を難しくしているのかもしれません。新型コロナウイルスに対する治療的効果を判定するには、重症者を対象とする臨床試験の必要があるのかもしれません。

繰り返しになりますが、免疫軍は最初に「自然免疫部隊」が、次に「T細胞部隊」、そして抗体を産生する「B細胞部隊」の順番で敵の強さに合わせて出陣してきます。B細胞部隊は、まず殺傷力の低いIgM型の矢により威嚇射撃を行い、それでも敵が退散しなければ、T細胞部隊と情報を共有して、より殺傷力の強い「敵の鍵を狙える矢(IgG)」に変えて行きます。殺傷力の強い矢には、2つの効果があります。1つは、ウイルスが持つ鍵を潰して、細胞の中に空き巣に入れなくしてくれます。ウイルスは空き巣に入り、細胞内の物を盗んで増えて行くので、1つ目の作用でウイルスの増殖が止まります。もう1つの作用は、当たった矢を目印に自然免疫部隊とT細胞部隊が連携してウイルスにそう総攻撃をしかけ一網打尽にしてくれます。ここまで来れば一安心です。しかし、ウイルスが弱いため、このような総攻撃にまで達した方は少ないのかもしれません。例えば、嗅覚や味覚異常しか無かった方は、身体の一部分での自然免疫部隊とウイルスの鍔迫り合いのため、総力戦には至っていないと思います。このような方は、敵を記憶できる獲得免疫軍が参戦していないため新型コロナウイルスに再びかかってしまうかもしれません。しかし、睡眠不足や深酒で免疫力を落としていなければ、前回同様に無症状か軽症のうちに新型コロナウイルスを自然免疫部隊が追い払ってくれると思います。ただし、人にうつす可能性はあるので自宅待機をお勧めします。新型コロナウイルス感染に伴い「背中に大きな石を乗せられたようで、動けなかった」といったような倦怠感が強く出た方もいらっしゃいます。このような方は、より広範囲で免疫軍とウイルスの戦いが起こっていた可能性が高く、免疫軍が総力戦で戦ったのかもしれません。すなわち、大将であるB細胞に免疫記憶、すなわち敵の攻略法を知り尽くした段階にあり、再びウイルスが入ってきても敵が増える前に追い出してくれると思います。敵が増える事が出来ないので人にうつす可能性は、ほぼ無くなります。

命中した矢(IgG)を目印に自然免疫部隊とT細胞部隊が新型コロナウイルスに総攻撃を加えて一網打尽にしてくれる事が11月3日に2つのグループから報告されました(Zohar T, Cell 2020, 11/3; Chen Y, Cell 2020, 11/3)。新型コロナウイルス感染で亡くなられた方では、IgG(特にIgG1)の量が増えず、IgGによって導かれる自然免疫部隊とT細胞部隊の攻撃も起こらないようです。一方、亡くなられた方にも、自然免疫部隊とT細胞部隊の攻撃を誘導できないIgMやIgAの増加は認めているようです。また、「敵の鍵をねらうIgG」の濃度が早く上昇する患者さんほど、新型コロナウイルス感染からの回復も早いようです。

T細胞部隊はアルファとベータと呼ばれる2本の鎖からなるT細胞受容体を介して敵を認識します。皆さんが生まれつき持っている遺伝子(ゲノム)を、「遺伝子再編成」と呼ばれる機序で配列をシャッフルして膨大な数の組み合わせを作っていきます。これにより無限大に近い組み合わせが作りだされ、いろいろな敵と戦えるようになります。よって、指紋と同様に、T細胞には同じものが存在しなくなります。地球上でも異なった指紋を持つ77億もの人々が共存しているように、我々の身体の中にも、異なった指紋(T細胞受容体)を持つT細胞が、血液1ccあたりに100万個以上も共存しています。一方、遺伝子のシャッフルを受けないT細胞も僅かながら存在します。このようなT細胞は人類共通の遺伝子より作り出されるため、全ての人が持たれており「Public Motif」と呼ばれます。人類の誕生から備わっていた可能性もあり「原始的なT細胞」です。この原始的T細胞が新型コロナウイルスと戦ってくれている可能性が11月13日に報告されました(Shomuradova AS, Immunity 2020, 11/13)。戦闘を開始するために72時間以上が必要な一般的なT細胞と違い、原始的T細胞は時差なく自然免疫軍と同調して新型コロナウイルスに攻撃を仕掛けてくれます。最初から先鋒と副将が同時攻撃をしかけるわけです。やはり、敵はひとたまりもなく、獲得免疫が正常に保たれている49歳以下の方では99.9%の方は無症状か軽症なのかもしれません。また、自然免疫だけで戦う場合は、人間と同じように一人では心細いのか、冷静さを失いむやみやたらに武器(サイトカイン)を発射してしまいます。発熱はこれらのサイトカインにより誘導されます。事実、自然免疫軍だけが関与する「自己炎症性疾患」と呼ばれる病気は発熱が特徴で、昔は「不明熱」と呼ばれていた病気にあたります。「季節性インフルエンザに感染して38℃以上の熱が出た」という経験は多くの方がお持ちと思います。しかし、新型コロナウイルス感染で発熱が非常に少ないのが特徴のようです。例えば、微熱を含めてめも13.2%の方に、38℃以上になると2.8%の方にしか発熱はなかったと報告されています(Letizia AC, New England J Medicine 2020, 11/11)。また、スェーデンは6月時点に、大将(B細胞)までが参戦して新型コロナウイルスを追い出した方は約4人に1人で、約4人に3人は先鋒(自然免疫)と副将(T細胞)の協力で追い出していた可能性を報告されています((Sekine T. BioRxiv 2020 6/29)。事実、スェーデンの抗体陽性率は集団免疫レベルにまで達していないにも関わらず、第2波の影響で感染者数が現在増え続けながらも、死者数は増えていません。感染を阻止するのでなく、感染しても「早期に敵を追い出し、重症化を防ぐ」のが免疫の役割ですので、スェーデンでは「先鋒と副将による集団免疫」が既にできている可能性が高いのかもしれません。

同様の結果が11月26日にも報告されました(Bacher P, Immunity 2020, 11/26)。人類は、新型コロナウイルスに即座に攻撃を仕掛けることができるCD4陽性のT細胞部隊を生まれつき持っているようです。これらのT細胞は、過去の季節性コロナウイルス感染により誘導されたものではない事も示されています。高齢により免疫力が低下すると、このT細胞部隊の戦闘力が低下してしまうようです。

「免疫軍にとって新型コロナウイルスは弱い敵という事は理解できたが、自分は免疫力が低下しているのでやはり怖い」と心配される方がいらっしゃると思いますが、過度に恐れられる必要が無い事を11月4日に報告された白血病患者さんの症例が教えてくれます(Avanzato VA, Cell 2020, 11/4)。白血病の患者さんは、獲得免疫細胞がガンに侵されるためT細胞部隊やB細胞部隊が戦えない状態です。つまり、僅かに残った自然免疫軍だけでウイルスと戦っています。よって、通常では最も感染症の犠牲になってしまう基礎疾患で、我々が日常遭遇して何も起こらない弱い病原体に対してでさえ「日和見感染症」と呼ばれる重篤な感染症を起こしてしまいます。やはり免疫力が無いため新型コロナウイルスを排除する事が出来ず、今回報告された白血病患者さんでは新型コロナウイルスが70日間も検出されています。しかし、驚く事に症状は何も出ていません。わずかに残った自然免疫軍だけで、新型コロナウイルスの増殖を抑え込んでいる事になります。また、白血病は、「汎血球減少」として知られるように、極度の貧血に見舞われます。また、血小板も減少するため、新型コロナウイルスお得意のテロ行為、すなわち血栓症からも身を守れたのかもしれません。この患者さんは「IVIG」と呼ばれる治療を受けられていました。つまり、他人のIgGを投与されています。しかし、ウイルスの検出は続きました。勿論、通常のIVIGには新型コロナウイルスに対する抗体は含まれていません。よって、新型コロナウイルス感染から回復された患者さんの血漿、すなわち新型コロナウイルスに対するIgGが2回投与されました。すると、感染性のあるウイルスは検出できなくなり退院されています。この結果は、「白血病のような免疫力の超低下状態でも、血栓症のリスクが無ければ充分身を守れる」そして「IgG抗体は新型コロナウイルスを一網打尽にしてくれる」事を教えてくれているのかもしれません。

一方、新型コロナウイルスが身体に居座り続ける事による注意も必要です。11月11日に「抗リン脂質抗体症候群」の症例が報告されました(Choi B, New England J Medicine 2020, 11/11)。自分を攻撃する自己抗体により血栓症を起こす病気です。よって、血栓を予防する治療は日常から続けられています。1回目の感染では5日でPCR陰性となり退院されました。しかし、72日目に再度陽性となり入院され陰性となり退院、そして105日目に再び陽性となり、残念ながら154日目に亡くなられています。ウイルスの遺伝子検査の結果、体内でウイルスが変異を続けていた事が報告されています。上述した白血病患者さんとの違いは、「血栓症が起こり易い病気である」、「デキサメタゾンの増量の繰り返えしで免疫力を過度に低下させている」そして「抗ウイルス薬レムデシビルは投与だけで新型コロナウイルスに対するIgGは投与されていない」のようです。また、トランプ大統領には新型コロナウイルスに対するIgGが投与された後にレムデシビルが投与された事は記憶に新しいかもしれません。やはり、免疫力が過度に低下した状態では、長期間ウイルスが体内に居座り続けて変異の可能性が高まるので、「新型コロナウイルスの鍵を打ち抜くIgG」投与による早期の駆除が必要かもしれません。事実、新型コロナウイルスの鍵があるスパイク部分の614番目に位置するアミノ酸がアスパラギン酸からグリシンへ変化すると感染力が強くなることが11月12日に報告されました(Hong YJ, Science 2020, 11/12)。

これまでに蓄積された基礎と臨床の両側面からの結果に加え患者さん達からの教訓は、新型コロナウイルスの重症化には「免疫力低下 + 血が固まり易い = 重症化」といった方程式がある事を教えてくれているのかもしれません。つまり、2つの要因が重なって初めて重症化するという事です。

[弱いからこそ困る事は?]
また、弱いウイルスであるがゆえに、新型コロナウイルス感染では困った事も起こります。「弱いテロウイルス」、「把握しにくい万引きウイルス」、「懲りないゴキブリウイルス」といった「困ったウイルス」の特徴を兼ね備えているかもしれません。

(弱いテロウイルス):新型コロナウイルスは弱い敵のため、免疫軍が手を抜いてしまいます。そのすきを見て、テロ行為すなわち「血栓症」を起こす「弱いテロウイルス」と考えてよいと個人的には思います。血栓症の起こりやすい状態の方は注意が必要です。また、健康に問題が無い方も血栓予防に心がけられることをお勧めします。

(把握が難しい万引きウイルス):新型コロナウイルスは弱いため、先鋒(自然免疫)や副将(T細胞)で対処できる場合が多く、大将であるB細胞が出てきません。よって、殺傷力の強い「敵の急所を標的とした矢(IgG)」が作られない方も多いようです。約3割というワクチンの低い接種率から考えると、季節性インフルエンザを「怖い」と思われている方は少ないのかもしれません。しかし、季節性インフルエンザは昨年も本邦で3,325人もの尊い命を奪った比較的強いウイルスです。よって感染してしまうと、大将であるB細胞との激戦がおこるため「敵の急所を標的とした矢(IgG)」が、ほぼ全ての方に作られます。よってIgG抗体を測定するだけで、どれだけの方が実際に季節性インフルエンザに感染していたかについての疫学的な調査が簡単に行えます。一方、新型コロナウイルスの場合は、IgG抗体が作られない方が多いため、疫学的に感染者数を把握するにはIgG検査だけでは不十分です。T細胞の免疫を見るため、結核の免疫検査で使われているような「皮内テスト」や「IFN遊離試験」も必要となります。しかし、そこまでしても、敵の顔を記憶できない自然免疫軍だけで新型コロナウイルスを追い出してしまう場合は、感染歴を知る事は現在の検査法ではできません。すなわち、新型コロナウイルスの実際の感染者数を正しく把握する事は不可能に近いのかもしれません。例えば、殺人(エボラ出血熱)のような重罪の件数は正確に把握できます。しかし、万引き(新型コロナウイルス)のような軽犯罪の件数を正確に把握することは難しいのが現状です。

(懲りないゴキブリウイルス):敵の顔を覚えて一網打尽にしてくれる獲得免疫軍でなく、敵の顔を覚える事ができない先鋒の自然免疫だけで新型コロナウイルスを追い払うため、「敵は、懲りずに何度も入ってきては追い出される」を繰り返すかもしれません。1回目の感染で無症状か軽症の方に起こる可能性が高いと考えられますが、再び感染しても無症状か軽症で済むと思います。「倦怠感がある」や「喉が痛い」などの軽い症状がでる鼻風邪や夏風邪に繰り返し感染された経験がある方もいらっしゃると思いますが、その状態に近いと思います。一方、1回目の感染で強い症状がでて、獲得免疫軍がウイルスと戦った経験がある方では、敵の顔はしっかり覚えられているため、この様な繰り返し感染は起こりにくいと思います。例えば、ゴキブリ(新型コロナウイルス)は出てきて、叩き殺され、また出て来て叩き殺されるを繰り返します。しかし、専門業者(獲得免疫細胞)に駆除をたのまれる方は少ないと思います。ただし、ゴキブリは、たまに食中毒(血栓症)の原因となる危険があるので注意は必要です。一方、白アリ(季節性インフルエンザ)は、放置すると家(体)を破壊する危険性が出てきます。よって、増えて来ると専門家(獲得免疫軍)に駆除をしてもらう必要があります。一度駆除してもらうと、しばらくの間は問題ありません。

これまで報告された新型コロナウイルスの再感染では無症状か軽症でしたが、異なった再感染の症例が10月12日に報告されました(Tillett RL, Lancet Infectious Disease 2020, 10/12)。1回目とは遺伝子が少し異なる新型コロナウイルスに感染され、再感染では鼻からの酸素投与が必要な中等症まで病気が悪化してしまったようです。1度目の感染で抗体が陽性となりながら、2度目の感染で病気はひどくなっているため、「免疫はできない」と心配される方がいらっしゃるかもしれません。しかし、ご心配はご無用です。大将であるB細胞が本気で参戦するとT細胞と協力(T細胞依存性抗体産生)して、敵にとって致命的な「急所(鍵、RBD)を狙える矢」に変更し、一発で相手をしとめます。一方、弱い相手であれば,B細胞は「急所を外れた」致命傷とはならない矢を試し射ちしただけで休憩に入ってしまいます。すなわち、完成した免疫はできていない状態で留まります。「抗体がすぐに消失した」という報告もありますが、消失した抗体の殆どは「敵のツノ(ヌクレオカプシド、N)、すなわち急所を外れた場所」に当たる殺傷力の弱い矢です。一方、「敵の急所に当たる矢」が作られた場合は、感染後226日目までは残ることが報告されています(Kreye J, Cell 2020, 9/23; Ripperger TJ, Immunity 2020, 10/13)。今回、再感染で中等症に陥った患者さんが持っていたのは「敵のツノ」に当たる弱い矢です。よって、「1回目の感染では、B細胞が手を手を抜いてしまい敵の顔を覚えていなかった」と考えるのが妥当と思います。よって、2回目の感染では少し手こずってしまったようですが、無事に退院されています。また、再感染と証明された症例は、香港、オランダ、ベルギー、エクアドルそして今回と合わせて5例です。全世界の感染者数3,800万人から計算すると,再感染は約700万人に1人起こる計算になります。あまり心配される必要は無いのかもしれません。

[病原体に適した臨機応変な対策は?]
流行を起こす病原体は2つのタイプに大きく分けられ、各々の病原体に適した臨機応変な対応が必要なのかもしれません。

[超過死亡は?]
残念ながら我々は不老不死では無いため多くの人が毎年亡くなられています。2018度人口動態統計によると、日本における死亡原因の一位は「悪性腫瘍」で37万人、2位は「心疾患」で20万人、3位は「老衰」で10万人、4位は「脳血管疾患」で10万人、5位は「肺炎」で9万人の命を毎年奪っています。
一方、感染症などが猛威を振るった年は予期せぬ死者が出てしまい推測された死亡者数を超えてきます。これが「超過死亡」です。

感染症による死者数を完全に把握することは容易ではありません。よって、「超過死亡」の変動を見ていくのが、今回のように突然発生した新型コロナウイルスのような感染症の死者を把握するための「一つの目安」となるのかもしれません。例えば、2016年からの季節性インフルエンザ流行期の東京を見てみると、人口密度が高いため、季節性インフルエンザによる死者が非常に多くなるようです。事実、超過死亡(青線)が3年連続で、例年から推測されるベースライン(緑線)を超え、さらには閾値(赤線)も超えています。特に2018年冬から2019年春の期間は、ベースラインを超える死者が一週間で120人以上も認められており、例年にない増加です。

事実、日本における2018年冬から2019年春の季節性インフルエンザによる死者は3,325人と例年に比べて多くなっています。一方、昨年冬から今年3月までの超過死亡は低く抑えられています(https://www.niid.go.jp/niid/ja/from-idsc/9627-jinsoku-qa.html)。新型コロナウイルスに対する国民一丸の感染対策が、毎年多くの方の命を奪っている季節性インフルエンザの流行も抑制した結果なのかもしれません。事実、1月から3月までの日本の統計では、死者数は昨年に比べて増えるのではなく、逆に0.7%下回っています。一方、季節性インフルエンザによる死者が減少する3月末には、超過死亡が例年激減しますが、6月18日のBBC News Japanによると3月の日本の超過死亡は0.3%と少し増えています。すなわち、新型コロナウイルスによる死者が、この時期の超過死亡の原因となっているのかもしれません。また、同時期の韓国の超過死亡は5%と報告されています。

感染流行時期から考えて、新型コロナウイルスによる死者が4-5月に最多になると推測されるため、この時期の超過死亡は重要な意味をもつのかもしれません。各都道府県から5月の死者数の速報値が出され、超過死亡について異なった意見が出されています。多くの統計学者が、「過去数年間の死者数を平均した値」と「今年度の値」の比較に警鐘を鳴らされていたため、専門分野ではありませんが私なりに調べてみました。人口動態統計によると、日本の死者数は、2015年が1,290,500人、2016年が1,308,158人、2017年が1,340,567人、2018年が1,362,470人、2019年が1,376,000人でした。毎年0.99%から2.47%の割合で死者が継続的に増えています。世界一の高齢化社会である我が国では、「老衰」による死者が増え続け、2016年には老衰は日本における死亡原因の第5位でしたが、2018年には第3位となっています。すなわち、感染症などの突然の出来事が無くても、超過死亡は自然に毎年増え続けています。つまり、超過死亡を解析するときは、自然増加の考慮も必要かもしれません。例えば、2015年の死者数と比べると2019年の死者数は6.63%増えています。また、2015年から2018年の死者数を平均して比べると、2019年の死者数は3.8%増えていることになります。2018年と比べると、2019年の死者数の増加は0.99%に留まります。すなわち統計学の先生方が言われるように、比較対象の選び方により値は大きく変わり、前年度との比較が最も誤差が少ないようです。


残念ながらアジア諸国のデータは載っていませんが、Financial Timesが欧米の超過死亡率をリアルタイムで報告しています(https://www.ft.com/content/a26fbf7e-48f8-11ea-aeb3-955839e06441)。

やはり、新型コロナウイルスの爆発的な広がりを見せた国は超過死亡も多く、スペインは56%、イギリス49%、イタリアは43%です。また、人口密度の高い都市部での超過死亡は、驚きの数値となっています。例えば、アメリカのニューヨーク市では251%、イギリスのロンドン市では99%、スペインのマドリッド市では157%、フランスのパリ地域圏では81%です。欧米各国の超過死亡率と、札幌医科大学フロンティア医学研究所が示されている100万人あたりの死者数を比較してみました。値は6月25日時点を使用しています。相関の傾向はありそうですが、正比例のような相関は認められませんでした。ベルギーは高齢者施設での死者は、PCRの検査などはせず、老衰であっても全員コロナウイルス感染による死者に含んでいます。よって、コロナウイルス感染者数が見かけ上多くても、実際の超過死亡は低くなるのかもしれません。一方、オランダやスペインの超過死亡率は、コロナウイルス感染による死者数から推測される値より高いのかもしれません。新型コロナウイルス感染による死者を見逃している可能性もありますし、医療崩壊により新型コロナウイルス感染以外の患者さんが多く亡くなられた可能性もあります。また、超過死亡は、全ての死因を含むので、経済破綻による自殺者や殺人による被害者が増えたのかもしれません。統計の素人である私には、難しそうで、超過死亡の解釈は統計学の専門家にお任せしないといけない事がわかりました。

新型コロナウイルス感染による死亡は男性に多い事がわかっています。しかし、新型コロナウイルス感染が爆発的に増えた国々の超過死亡は特殊な変化をするようです。感染ピーク時の直後には、予想通りに男性の超過死亡が多くなります。しかし、その後に女性の死亡も増え始め、超過死亡は最終的には男女に差が認められなくなるようです(Kontis V, Nat Med 2020, 10/14)。原因は不明ですが、女性の方が他疾患で何らかの症状が有っても受診を控えられ最終的に手遅れとなっている可能性や、自殺などの可能性も否定はできません。

[集団免疫は?]
新型コロナウイルスを根絶させることは難しく、2009年にパンデミックを起こした豚インフルエンザのように共存が必要となると思われます。この共存に必要なのが集団免疫です。集団免疫の確立には60%以上の国民が新型コロナウイルスに対する抗体を持つ必要があります。また、統計学の進歩により20~40%の抗体保持者で集団免疫が確立可能との意見も出され始めています。予防接種や特効薬が開発されるまでの間は、「医療崩壊を起こさず、救える命を救う」そして「経済打撃による自殺者を出さない」といった非常に難しいバランスを保ちながら集団免疫を獲得させるしかないのかもしれません。新型コロナウイルスが季節性インフルエンザのように沈静化するのは、ハーバード大学の試算では2022年以降と言われており、長期戦が必要かもしれません。最も重要な目標は、感染者数ではなく「死者数を最低限に抑える」すなわち「感染による、そして自殺や犯罪による死者を最低限に抑える」になると思います。日本では、自粛に依存し、個人情報を保護しながら、PCR検査数も少なく、より病原性が高く変異した新型コロナウイルスに対してでさえ、現在の人口当たりの死者数は他国と比べても低い状況です。「医療水準の高さ」「思いやりの精神」「マスク文化」「BCG接種」と日本独特の複合要因がOne Teamとして働いた結果と思われます。また、集団免疫が確立されるまでは第2第3の流行が起こる可能性は非常に高く、抗体保持者割合の地域ごとの把握は、次の流行時の対策方針を決めるためにも有用なのかもしれません。また、台風シーズンが迫っており、免疫弱者である高齢者が多く利用する可能性のある避難所の対策は急務かもしれません。

米国では新型コロナウイルスの流行が7月に入っても歯止めがかかりません。その中でも、4月に爆発的流行を起こしたニューヨーク市では感染が抑えられています。ニューヨーク市のホームページによると、一日あたりの感染者数は4月6日に6,378人でしたが、7月に入り100人以下と60倍以上の減少を継続的に認めています。ニューヨーク市の抗体陽性者は5月18日時点で24.7%と既に高く、その後も抗体陽性者は増加していると考えられます。また、カロリンスカ研究所より、抗体が陰性であっても免疫(T細胞免疫)を持つヒトは、抗体陽性者の2倍はいることが報告されています。すなわち、新型コロナウイルスに何らかの免疫を持つヒトが、ニューヨーク市には既に半数以上おられる可能性が高く、「集団免疫獲得」の初期段階にあるのかもしれません。また、ニューヨーク市は「マスク着用義務化」を早期に取り入れており、集団免疫とマスクによる相乗効果により効果的に流行を抑えているのかもしれません。ニューヨーク市の積極的な感染対策に比べて、スエーデンでは国民の自主性にまかせ対策をとっていません。ニューヨーク市と同様に爆発的流行を起こしてしまいましたが、6月25日の感染者数1,333人から現在は208人へと、対策を何もとることなく徐々に減少してきています。スエーデンの抗体陽性者は5月25日時点で7.3%ですが、カロリンスカ研究所は「抗体陰性でも、T細胞の免疫を持っている人を含めると、約30%は既に免疫を持っている」という可能性を報告しています。よって、スエーデンも集団免疫獲得の初期段階である可能性も否定はできません。ニューヨーク市とスエーデンの今後の動向を注視していくことにより、新型コロナウイルス対策のヒントを教えてくれるかもしれません。 9月3日時点でも、スエーデンとニューヨーク市では感染者の増加は認めていません。

全米の抗体検査の結果が9月25日に報告されました(Anand S, Lancet 2020, 9/25)。全米の成人で見ると、新型コロナウイルスに対する抗体を持っている方は9.3%ですが、非常に地域差があります。第一波で膨大な感染者を出した、ニューヨークを含むアメリカ北東部では抗体保有率は27.2%です。この地域では、感染の流行は現在認めていません。一方、第一波で感染者が少なかったカリフォルニアなどのアメリカ西部の抗体保有率は、僅か3.5%です。そして、爆発的な感染拡大を現在認めています。集団免疫が成立する事を明らかに示しています。

8月30日のCNNの報道によると、ブラジルでは、観光名所である世界文化遺産フェルナンド・デ・ノローニャ諸島に入島するには、「PCR陰性」ではなく「過去のPCR陽性」証明書を求めているようです。また、同時に「抗体陽性証明書」の提示も求めている事からすると、「免疫を既に持っている方に限定して観光地を解放」する新たな対策をとっているようです。挑戦的ですが、免疫学的にみると合理的かもしれません。今後、この島で新型コロナウイルス流行が起こらなければ、集団免疫の科学的根拠となるため注視が必要かもしれません。

10月19日に米国ニューヨーク市の6月6日までの新型コロナウイルスによる死亡率が報告されました(Yang W, Lancet Infectious Dis 2020, 10/19)。全年齢層の死亡率は1.39%で、44歳以下で0.116%、75歳以上で14.2%です。高い値ですが、あくまでも感染が確認された患者さんの死亡率です。アメリカでは90.2%の感染者が見逃されている事からすると(Anand S, Lancet 2020, 9/25)、実際の死亡率は、この値の1 / 10以下になると思います。また、日本では米国の値よりさらに低くなると思います。この報告で重要な点は、第1波の感染者の動向が統計学的に示されれている事です。感染拡大が潜伏的に始まった1~2週間後にPCR陽性者がピークに達し、その後1週間後に死者数がピークに達するようです。第1波のため「集団免疫がない場合の感染様式」を反映していると思います。つまり、集団免疫がゼロの段階ではPCR陽性者がピークになった1週間後に死者数がピークになる事を教えてくれています。免疫は水際作戦を担いません。つまり、ウイルスが入って来るの防げません。入って来たウイルスを重症化する前に追い出すのが免疫の仕事です。よって、集団免疫ができれば、PCRでの陽性者は増えても、重症者の数は増えにくくなります。事実、集団免疫戦略をとったスェーデンでは、現在感染者は増えていますが死者数は増えていません。集団免疫樹立に近づいているのかもしれません。また、日本でも第1波の時は感染者数がピークに達した後に死者数も爆発的に増えました。しかし、第2波では感染者数が第1波より多いにも関わらず、死者数は第1波より少ない状態です。時期早々ですが、集団免疫を少しずつ獲得していると期待しています。

欧米では感染拡大が再度起こっています。Reuters COVID-19 Global Trackerに各国の新型コロナウイルス感染者数と死者数の変化がタイムリーに示されていたので確認してみました。私は統計学の専門家ではありませんが、素人目にも5つのパターンに分けられそうな気がします。ご興味のあられる方はReuters COVID-19 Global Trackerのサイトでご確認下さい(https://graphics.reuters.com/world-coronavirus-tracker-and-maps/)。一つ目は、第2波での死者数が第1波を大きく超えるパターンです。ギリシャ、ハンガリー、ポーランドなど第1波で感染を抑え込めた国々に認められる傾向があるようです。二つ目のパターンは、第2波では感染者数が第1波を超えながらも、死者数は第1波より少ないパターンです。しかし、第2波の感染者数の増加に伴い、第1波ほどではないにしろ死者数の増加は始まっています。イタリア、ベルギー、スイスなど第1波に医療崩壊に近い爆発的な流行を起こし、その後長期間のロックダウンを行った国々に見られる傾向があるようです。三つ目は、集団免疫を目指しロックダウンなどの対策を取らなかったスェーデンです。ロックダウン等の措置が無いため、第1波後も感染者数は緩やかにしか減少していません。現時点では感染者数が第1波を超えてきましたが、死者数は増えていません。スェーデンの6月5日時点の100万人あたりの死者数は、世界で5番目でしたが、10月28日時点では15番目まで下がって来ています。四つ目は、感染者が持続して増え続けるパターンで、アメリカに認められます。しかし、死者数は逆に緩やかな減少傾向を認めています。これらの結果は、新型コロナウイルスに対し集団免疫はできれば、感染者は増えても軽症で済み、死につながる重症化は少なくなることを教えてくれているのかもしれません。五つ目のパターンは日本です。第2波で感染者数は第1波より増えても、死者数は爆発的には増えていません。「おもいやりのマスク着用」や「医療水準の高さ」により、重症者を極力抑えながら集団免疫の確立途中なのかもしれません。 スェーデンでは感染者数は10月24日に第一波を超えましたが、11月10日時点で死者は未だ増えていません。

 

[予防接種は?]
病原体が侵入すると数時間以内に自然免疫細胞軍が戦いを挑み始め、3日以上を経て戦闘のエキスパートである獲得免疫細胞軍が援軍に入り、強力なチームプレイにより病原体を完全に撃退します。問題は3日間の時差です。病原体が強いと自然免疫細胞軍は苦戦を強いられ病原体に有利な展開に持ち込まれてしまいます。よって、最初から自然免疫細胞軍と獲得免疫細胞軍を同時に投入することができれば、余裕をもって病原体を撃退できることになります。何故、獲得免疫細胞の参戦までに3日間が必要かというと、脳細胞のように勉強が得意でないので、敵の顔を覚えるのに3日もかかってしまうからです。よって、戦闘能力を失わせた病原体に一度顔合わせをさせる事により、病原体の顔を獲得免疫細胞に覚えさせておき、再び本物の病原体に出会ったら3日の時差なく獲得免疫細胞が即座に攻撃できるようにしているのが予防接種(ワクチン)です。日本では、インフルエンザ菌、肺炎球菌、ロタウイルス、結核、麻疹(はしか)、風疹(三日はしか)、水痘(水疱瘡)、流行耳下腺炎(おたふく風邪)、ポリオ、ジフテリア、百日咳、破傷風、季節性インフルエンザ、日本脳炎、A型肝炎、B型肝炎、ヒトパピローマウイルス(子宮頸がん)など多くの感染症に対する予防接種が義務化及び任意で接種されており、多くの人の命を感染症から守ってくれています。

毒性は弱くしてありますが、生きた病原体を顔見せのために用いるのが生ワクチンです。生きているので一度できた免疫は長続きしやすくなりますが、副作用も多くなり免疫低下状態の方には使用できないのが欠点です。不活化ワクチンは、死んだ病原体の体の一部を抜き取りワクチンに用います。病原体の一部であるため安全性は高いのですが、一度できた免疫が長続きしないのが欠点です。これに分類されるのが季節性インフルエンザの予防接種です。免疫が長続きしないため毎年の定期接種が必要となります。また、「病原体の中の、どの部分を顔見せに用いるか」により、誘導される免疫の強さが異なってきます。病原体の急所、例えば細胞の中に空き巣に入るために必要な鍵の部分をうまくワクチンに利用できれば、ウイルスの侵入まで防げる効果的な攻撃につながります。一方、急所を外れた部分をワクチンに用いてしまうと、効果的な免疫はできません。また、一度できた免疫ができるだけ長続きするような部位をワクチンのために選ぶのも重要となります。よって、効果的かつ免疫が長続きする部位をワクチンのために探さないといけないため、開発には時間がかかります。遺伝子組み換えワクチンは、病原体の弱点と思われる部位の蛋白を遺伝子組み換え技術により作り出し、ワクチンに用います。B型肝炎ワクチンが、これに分類されます。B型肝炎ワクチンは複数回接種しないといけないように、免疫が付きにくいのが欠点です。DNAワクチンは、病原体の構成タンパクを作りだすDNAを、ベクターと呼ばれる運び屋を使って筋肉内に注射します。注射された遺伝子情報をもとに、筋肉細胞が病原体の蛋白を作り出します。すなわち、これまでのワクチンでは、「体外」で作られた蛋白を接種していましたが、DNAワクチンでは「体内」で病原体の蛋白を作らせて獲得免疫細胞に覚えさせることになります。克服しないといけない問題はありますが、DNAワクチンは次世代ワクチンと呼ばれる新たな手法です。SARSの経験から、コロナウイルスに対するワクチン開発は一筋縄では行かない可能性もあり、予防接種のパイオニアである大阪大学では、不活化ワクチン、遺伝子組み換えワクチン、DNAワクチンの3つの手法を用いて幅広く新型コロナウイルスに対するワクチン開発に取り組まれています。世界最先端の知識を駆使して早急に実用化できるワクチンが開発されると信じています。

DNAからRNAが作られ、そして蛋白が作られます。DNAに代わりRNAを用いるワクチンは「RNAワクチン」と呼ばれます。DNAに比べてヒトのゲノム(遺伝子配列)に取り込まれにくく、RNAワクチンの方が、安全性が高いともいわれています。7月14日に、新型コロナウイルスに対するmRNA-1278と呼ばれるRNAワクチンの第Ⅰ相臨床試験の結果が報告されました。このRNAワクチン接種により、新型コロナウイルスの増殖を押さえる中和抗体が作られ、急襲部隊として働くT細胞がいつでも戦えるように、T細胞の記憶が誘導できたようです。7月20日にも、新たな無作為化比較臨床試験(single-blind)の結果が報告されました(Folegatti PM Lancet 2020 7/20)。無毒化した「チンパンジー由来のアデノウィルス」の表面に、新型コロナウイルスが使う鍵(スパイク)を引っ付けて接種します。すなわち、「狼の皮を被った羊」を打ち込み、敵が使う鍵を覚えさせます。この接種により、14日以内にT細胞が記憶し、いつでも新型コロナウイルスに急襲攻撃ができるようになります。また、28日以内に「敵の鍵を潰す中和抗体」が91%の人にできています。2回接種すると100%の人に中和抗体ができるようです。アデノウィルスワクチンの有効性が中国からも同時に報告されています(Zhu F-C, Lancet 2020 7/20)。ただ、運び屋として、無毒化した「ヒト由来のアデノウィルス」を使っています。重篤な副作用はありませんでしたが、ヒト由来のため風邪に似た症状が副作用として出やすいようです。また、すでにヒト由来のアデノウィルスに対して抗体を持つ方も多く、ワクチンのための運び屋が排除されてしまい効果が弱まる可能性も否定は出来ません。RNAワクチンもアデノウィルスワクチンも最先端の技術を使った次世代ワクチンで、どちらのワクチンもB細胞の免疫(抗体)とT細胞の免疫の両方が引き出せています。

新たなタイプのワクチンが、第二相臨床試験に成功した事が、9月2日に報告されました。工業・化学分野のナノテクノロジーと医学が融合した「ナノ粒子ワクチン」です。アデノウイルス・ワクチンは弱毒化したアデノウイルスに新型コロナウイルスのタンパク質を引っ付けてワクチンに使います。ナノ粒子ワクチンは、アデノウイルスでなく、ウイルスの模型をプラモデルのように作り、その模型に新型コロナウイルスのタンパク質を引っ付けてワクチンに使います。

医学の進歩はすごいもので、これまでの知識を活用した多くのワクチンが出揃ってきています。すべてに一長一短があるので、簡単にまとめてみました。あくまでも個人的見解です。タンパク質を利用するには時間がかかるので、スピード面では遺伝子を利用したワクチン、すなわちDNAワクチンとRNAワクチンが優位になります。これらのワクチンの欠点は、我々のゲノムに取り込まれてしまう可能性が否定できず、その場合、10年後20年後に何が起こるかは誰も予想は出来ないのかもしれません。また、この観点からすると、ゲノムに直接取り込まれる可能性が高いかもしれないDNAワクチンの方が、リスクが高いかもしれません。安全面から考えた場合、我々が慣れ親しんでいる不活化ワクチンが優位になると思います。ただ準備に時間がかかるのが欠点です。効果面から考えると、顔などの身体の一部でなく全身をワクチンに使う、アデノウイルスワクチンやナノ粒子ワクチンがより効果的と考えられます。その分、接種した直後の副作用が強くなる欠点があるのかもしれません。弱毒化でもウイルス自体を使うと過剰な免疫反応を起こす可能性は否定できません。よって、理論的には、ヒトアデノウイルスワクチン、次にチンパンジーアデノウイルスワクチン、そして模型を使うナノ粒子ワクチンの順でリスクは低くなるかもしれません。チンパンジーアデノウイルスワクチン接種者の中に、1人横断性脊髄炎を発症したことが9月9日に報告されました。横断性脊髄炎は、多発性硬化症と呼ばれる自己免疫疾患に合併しやすく、梅毒やウイルス性髄膜炎などの感染症でも起こる事があります。また、ワクチンでも稀に起こす事も報告されています。よって、即座に臨床試験を中止され、ワクチンとの関連性を調査されています。適切な対応であり、良い結果に繋がる事を期待しています。また、一つが失敗しても最先端技術を駆使したワクチンに加え、原点に戻ったワクチンも第二段三段と開発•試験中ですので、「ワクチンはできない」と不安になられる必要はないと思います。ただ、次世代型に分類されるワクチンには未知の点も多く、任意接種で良いのかもしれません。

11月9日にファイザー製薬からRNAワクチンの暫定結果が報告されました。43,538人にワクチンを接種して、新型コロナウイルスに感染してしまった人は94名と少なく、90%以上の予防効果があるようです。現在、164名の感染が疑われた方の調査が行われているようです。

11月16日にモデルナ社のRNAワクチン(mRNA-1273)の暫定結果が報告されました。94.5%の有効率のようで、9月29日の第Ⅰ相試験の結果によると、71歳以上の高齢者にもT細胞による「細胞性免疫」とIgGによる「液性免疫」の両方を誘導できるようです(Jackson LA, New England J Medicine 2020, 9/27)。ファイザー社とモデルナ社のワクチンは、どちらもRNAワクチンに分類されます。RNAは細胞に取り込まれてタンパク質に変換されないと意味がありません。よって、両社のワクチンは、ナノ粒子技術によりRNAの周囲を脂肪粒子で取り囲み、細胞が取り込めるように設計されています。ファイザー社のBNT162は-80℃での超低温保存が必要ですが、モデルナ社のmRNA-1273は冷蔵保存が可能という利点があるようです。定かではありませんが、保存温度の違いは用いられるRNAによるのかもしれません。mRNA-1273では通常のRNAが用いられています。一方、自然免疫細胞軍は「トル様受容体」を介してRNAを認識する事ができるため、これによる副作用が起こる可能性もでてきます。この可能性を最小限におさえるため、BNT162では使用されるRNAに「塩基の再構成」と呼ばれる「ヌクレオチド修飾」、すなわちRNAに操作が加えられています(Mulligan MJ, Nature 2020, 8/12)。また、細胞に取り込まれたRNAが蛋白に変換(翻訳)されないと、ワクチンとしては働きません。ヌクレオチド修飾は蛋白質への変換を促進する作用もあるようです。また、mRNA-1273とBNT162では作り出される蛋白質も異なります。新型コロナウイルスは鍵を使って我々の細胞に侵入してきます。直接の鍵となるのが「RBD」と呼ばれる部位、その鍵を直接支えるのが「S-1」と呼ばれる部位、そのS-1を支えるのが「S-2」と呼ばれる部位です。鍵(RBD)を手(S-1)で持ち、手首(S-2)で鍵を回すイメージかもしれません。BNT-162は鍵(RBD)を標的とし、mRNA-1273は手首(S-2)を標的とするように設計されています。鍵を狙う方が効果はありますが、逆に鍵を鍵穴に差し込まれてしまうと狙えないという欠点も出てきます。一方、手首を狙えば鍵を叩き落すほどの効果は無くとも、鍵を鍵穴に刺しこまれていても、手首を射抜いて鍵を回せなくすることが可能となります。どちらも一長一短で現段階では優越の判断は困難と思います。

チンパンジー由来のアデノウイルスの骨格に新型コロナウイルスのスパイク部分(鍵から手首までの全体)を引っ付けたAZD1222と呼ばれるワクチンの暫定結果が、11月23日にアストラゼネカ社から報告されました。現在イギリスで行われている12,390人を対象とした臨床試験と、ブラジルで行われている10,300人対象の臨床試験の暫定報告です。2,471人には、最初に25万個のウイルス粒子が接種され1か月後に50万個のウイルス粒子が接種されています。予防効果は90%と報告されています。一方、2回とも50万個のウイルス粒子を接種された方は8,895人で、効果は62%と低下するようです。重篤な副作用は起きていないようです。AZD1222には冷蔵保存が可能と言う利点があります。一方で、量が少ない群に効果がある事からすると「免疫寛容の誘導」の可能性も否定はできず、効果は投与方法に依存する欠点があるのかもしれません。

ワクチンに限らず、治療薬にも完璧なものはありません。全てに一長一短があります。この速さで、これだけの種類の最先端技術を用いたワクチンが使用可能になるのは、関係者の科学的知識の蓄積、さらには昼夜を問わない努力の賜物と思います。この場をお借りして心より感謝もうしあげます。

ファイザー社のワクチンBTN162の臨床試験結果が12月10日に発表されました(Polack FP, New England J Medicine, 2020, 12/10)。BTN162を2回接種された21,720人のうち、新型コロナウイルスに感染された方は8人で、偽薬を接種された21,728人のうち感染者は162人と報告されています。予防効果は95%です。多かった副反応は「短期間で消失する注射部位の痛み」、「倦怠感」と「頭痛」のようです。また、12月9日からBTN162ワクチンの接種がイギリスで開始されました。また、アメリカの食品医薬品局(FDA)も「接種による利益はリスクを上回る」との理由でBTN162を12月10日に承認するようです。アメリカでもBTN162接種が数日のうちに始まるのかもしれません。「これにより、新型コロナウイルスがもたらした暗闇の扉が開かれ、世界に「平穏な元の生活」さらには「より良く進化した元の生活」がとり戻せると強く信じています。新型コロナウイルスの重症化は高齢者に集中するため、高齢者に対する接種が優先されています。また、妊婦さんと重いアレルギーがある方は接種をお控え下さい。

Johnson & Johnson社のDNAワクチンの臨床試験結果が1月13日に報告されました(Sadoff J, New England J Medicine 2021, 1/13)。このDNAワクチンは新型コロナウイルスのスパイク全体を標的としています。805名を対象としており、摂取後29日目には90%に57日目には100%の方に中和抗体が認められたようです。全身性の副反応では、倦怠感、頭痛、筋肉痛の順で多いようです。また、この様な副反応は、高齢者に比べて免疫力の強い若者に多い傾向があるようです。

中国のシノバック社のDNAワクチンの予防効果は50.4%で、他社の90%以上に比べ低い事が報告されました(Mallapaty S, NATURE NEWS 2021, 1/15)。ただし、ご心配はご無用です。シノバック社のワクチンは日本での使用は計画されていません。

ピーナッツなどの食べ物や治療で用いられる局所麻酔薬でも「アナフィラキシーショック」と呼ばれ、早急に治療を施さなければ命にかかわる状態に陥る事があります。通常のワクチンでも「100万人に1人」の確率で、アナフィラキシーショックは起こります。新型コロナウイルスに対するRNAワクチンでは、アナフィラキシーショックが起こる確率が「10万人に1人」と高くなるようです(Castells MC, New England J Medicine 2020)。RNAワクチンでは、細胞に取り込ませやすくするために、RNAを脂肪粒子で取り囲み、安定化のためにポリエチレングリコールも使用されています。これらの脂肪粒子やポリエチレングリコールがアナフィラキシーショックの原因と考えられているようです(Castells MC, New England J Medicine 2020)。よって、過去に食物、ワクチン、薬剤などでアナフィラキシーショックを起こしてしまった経験があるアレルギー体質の方は、RNAワクチン接種対象者からイギリスや米国では除外されているようです。

世界の子供達の夢を壊さないために、WHOが「サンタクロースは新型コロナウイルスに対する免疫を持っているので大丈夫」との粋なメッセージを発信されました。サンタクロースが世界中に免疫(ワクチン)を配り、新型コロナウイルスの流行も早急に終息し平穏な生活が戻ると強く信じています。

新型コロナウイルスに対して、個人個人で異なる意見があり、議論を交わしながら、国外の情報も加味しながら、皆で知恵を出し合いながら最善の道を選んで行くべきと個人的には思います。新型コロナウイルスの対策は、「これが完璧」と言うものは無く、非常に難しい舵取りとなるのは世界を見ても明らかです。ただし、一つ気になる論調が最近認められます。「緊急事態宣言推進に賛成されながら、副反応を恐れワクチン接種を否定される」意見です。この説であれば、現状をそのまま維持することになり、結果は火を見るより明らです。新型コロナウイルスからの復活を世界に比べ非常に遅らせ、日本の国力低下、最悪の場合は財政破綻まで招いてしまう可能性もあると思います。新型コロナウイルスを「正しく恐れ」、「科学的に理解し」、「完璧を求め過ぎず」、明るい未来のため次のステップを冷静に考える時かもしれません。ワクチンだけでなく治療薬も含めて完璧なものはありません。効果がありますが、必ず副作用や副反応もあります。しかし、その副反応や副作用を過度に恐れると、前進は無く、将来の日本を背負って立つ子供達や若者達に莫大な負の遺産を残してしまうと思います。

様々なシナリオを考慮した数理モデルを用いて、効果的なワクチン接種法の可能性が2月3日に報告されました(Matrajt L, Science 2021, 2/3)。抗体の効果が1年継続するとの過程では、過去の新型コロナウイルス感染による抗体保持者とワクチン接種者をたして60%以上に達しないと集団免疫は樹立できないようです。2月5日の厚生労働省の報告では、感染者の多い東京都でさえ抗体陽性者は0.91%と低い事から考えると、日本では60%以上の方がワクチンを接種される必要があるようです。

ファイザー社のワクチンは0.3mLと微量の投与です。一方、普通の注射器では、針と本体の間に約0.1mLの死腔があるため、0.3mLを打ち込むには0.4mLが必要です。よって「死腔の無い特殊な注射器」がこの余分を無くすためには必要です。特殊な注射器がない場合は、1瓶から6人に接種できるはずが5人になるようです。これにより、1,000万人以上の方のワクチン接種が遅れる可能性が報道されています。死腔を無くすために「エアートラップ」、すなわち空気の利用も可能かもしれません。最初に空気を0.1mL注射器に吸い、次に空気と混ざらない様にワクチン液を吸えば、ワクチン液を空気が押し出してくれ、押し出した空気は死腔に残る事になります。接種時には血液の逆流が無い事を確認するため、もしわずかな空気が打ち込まれても動脈への混入は無いと思われます。1000万人のワクチン接種の遅れる不利益を考えれば、臨機応変に対応するための一案なのかもしれません。


[ウイルスの変異は?]
英国公衆衛生庁は「変異した新たな新型コロナウイルスVUI-202012/01」を12月14日に報告しました。季節インフルエンザウイルスが頻繁に変異を続けるように、新型コロナウイルスでも4,000種以上の変異株が既に報告されています。鍵(RDS)は、新型コロナウイルスが持つアミノ酸の451番目から509番目にあたる58個のアミノ酸で作られています。これらのアミノ酸が相互作用して立体構造を作り出し鍵の形を形成します。即ち多くのアミノ酸は鍵の土台で、鍵穴であるアンギオテンシン変換酵素2に直接ハマり込む部分(アミノ酸)は僅か5つしかありません(Wang Y, J virol 2020, 00127-20)。新型コロナウイルスでは、501番目のアスパラギン(N)、494番目のセリン(S)、493番目のグルタミン(Q)、455番目のロイシン(L)、486番目のフェニルアラニン(F)が「直接ハマり込む部分」にあたります。今回見つかった変異株VUI-202012では501番目のアスパラギン(N)がチロシン(Y)に変わっているようです。英国公衆衛生庁は「感染力は1.7倍強くなっている」と報告しています。また、定かではありませんが、「子供にも感染し易くなっている」との報道もあります。やはり、鍵穴に直接ハマり込む部分の変化ですので「感染力」が強くなったのかもしれません。一方、感染力に変化を与える部位の変化に限局しているので、「怖さ」即ち重症化率には変化はありません。「感染し易くはなるが、重症化の危険がある方はこれまでと変わらない」と言う事です。ワクチンは1つのアミノ酸を標的とするのではなく、鍵全体を標的とします。よって、「ワクチンの効果に影響は与えない」と報告されています。例えば、赤いベンツの盗難車を警察(ワクチン)が追跡している最中に、犯人がバックミラーだけを青く塗り変えても、警察は誤魔化されないと思います。

生体に影響を及ぼすのは「タンパク質」であり、タンパク質は「RNA」と呼ばれる遺伝子(リボ核酸)により作り出されます。新型コロナウイルスもRNAを持っており、これが頻繁に変異してきます。RNAはアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、ウラシル(U)と呼ばれる僅か4種類の分子(ヌクレオチド)により作られています。このヌクレオチドが3つ組み合わさることにより、1つのアミノ酸を作り出します。しかし、遺伝子の組み合わせとアミノ酸は1対1の関係ではありません。例えば「CGG,」、「CGU」、「CGC」、「CGA」、「AGA 」、「AGG」の6種類の組み合わせは、どれもがアルギニンと呼ばれる1つのアミノ酸を作ります。つまり遺伝子が1つ変異しても、アミノ酸の変異まで至る場合は少ない事になります。例えば、新型コロナウイルスが持つCG“G”という遺伝子配列がCG“U”に変異しても、CG“C”に変異しても、CG“A”に変異しても、作り出されるアミノ酸は同じで、結局はアルギニンが作り出されます。生体に影響を与えるのはタンパク質のため、アミノ酸の変化なくしては何も影響を与えません。遺伝子が変異した新型コロナウイルスは4,000種以上も報告されていますが、ほとんどが遺伝子の変異だけでアミノ酸への変異には至っていません。つまり、「ウイルスが変異した」という言葉に恐れるのでなく、「実際にアミノ酸が変異しているか」をまず知る必要があります。
これまでアミノ酸の変化まで至った変異を持つ新型コロナウイルスの代表は、614番目のアミノ酸であるアスパラギン酸(D)がグリシン(G)に変わった「D614G」と呼ばれる変異株と、222番目のアミノ酸がアラニン(A)からバリン(V)に変わった「A222V」と呼ばれる変異株でした。614番目のアミノ酸は「S1」と「S2」の間に位置するため、細胞への侵入を左右する「鍵」の形成には直接関与していません。しかし、614番目の変異はウイルスの増殖を活発化する可能性があるようで、ハムスターを用いた実験により「D614G」変異株は気管支の上皮細胞の中で増殖しやすい事が報告されています(Hou YJ, Science 2020, p1464)。現在(12月31日時点)、日本で感染拡大を起こしているのが、感染力が増した「D614G」変異株です。

一方、イギリスで感染が拡大している「VUI-202012/01」と呼ばれる新たな変異株は、「鍵」の形を決める位置にあたる501番目のアミノ酸がアスパラギン(N)からチロシン(Y)に変わる「N501Y」型になります。つまり、鍵の相性を左右するため感染力も1.7倍に増加したようです。また、同時期に南アフリカから報告された変異株も、501番目のアミノ酸がチロシン(Y)へと変わっています。感染力が上がった変異株に対して「細心の感染予防対策は必要ですが、過度に恐れる必要はない」と個人的には思います。事実、「ウイルスは感染力を増加させながら進化を続けるが、病原性を増加させるものではない」との指摘もあります(Editorial Comment, Science 2020, 370, p1430c)。また、「感染力」が強くなると、逆に「重症化の起こり易さ(病原性)」は弱くなるとの説もあります。イギリスでの現在(12月31日時点)の新型コロナウイルス感染者の半数以上は、N501Y変異株によるものです。変異前の新型コロナウイルスが猛威をふるった第1波でのイギリスでの感染者数のピークは約5,000人/日で、変異株が感染拡大している現在の感染者数のピークは約50,000人/日と約10倍多くなっています。変異株の感染力が強いため、感染者数が増えていると考えるのが妥当かもしれません。一方、死者数は第1波のピークで約1,100人/日ですが、現在は約900人/日です。1日あたりの感染者数が約10倍増えながらも、1日当たりの死者数に差はない事から考えると「病原性は低下」しているのかもしれません。

また、イギリスの「N501Y」型は世界各国で検出されており、日本でも静岡県で検出されたようです。「N501Y」が最初にイギリスから報告された時に、米国国立衛生研究所(NIH)のアンソニー・ファウチ所長がおっしゃた言葉が思い出されます。新たな変異ウイルスが検出された時には、そのウイルスは数か月以上前からすでに拡散している状況であり、世界中に拡散されている可能性は非常に高い。すなわち、「N501Y」は既に日本で拡散している可能性は否定はできません。しかし、過度に恐れられる必要はないと思います。「N501Y」は、「感染力」は強くなっていますが、「毒性(怖さ)」は弱くなっていると考えられます。また、日本で接種予定のワクチンも有効です。今一番注意しないといけないウイルスの変異は、ワクチンの効果が無くなる変異と思います。

南アフリカから報告された変異株について気になる結果が1月7日に報告されました(Callaway E, Nature News, 1/7/2021)。484番目のアミノ酸がグルタミン酸(E)からリシン(K)に変わる変異も起こしているようです。484番目は「鍵の土台」を作る場所にあるため注意は必要かもしれません。

スコットランドて最初に発見された、スパイクの439番目のアミノ酸がアスパラギン(N)からリシン(K)に変異した「N439K」変異株は、鍵穴であるアンギオテンシン変換酵素2への結合が強くなっている事が1月28日に科学的に証明されました(Thomson EC, Cell 2021, 1/28)。一方、この変異はウイルスの複製や病原性には影響を与え無いと報告されています。つまり、「N439K」は、感染力は強くなっても、怖さには変化がないことになります。また、日本で用いられるワクチンの効果にも影響は無いようです。一方、「N439K」に対しては、治療目的で既に使用されている国もある、「REGN10987とREGN10933」と呼ばれる抗体製剤の効果は減弱する可能性が報告されています。

新型コロナウイルスに実際感染して免疫軍との激戦が起こると、新型コロナウイルスの「どの部位でも狙える矢(IgG)」が作り出されます。T細胞部隊とB細胞部隊が密に情報を交換する事により、常に敵の急所を狙います。例えば、顔面を狙っていた矢に対してウイルスがうまく防御できるようになると、次はわき腹を狙い始めます。すなわち、免疫軍は、ウイルスのディフェンスを見ながら狙う場所を変えて敵をしとめます。一方、ワクチンはウイルス全体ではなく、一部分を抗原に用いるため全体を狙う多彩な攻撃はできません。しかし、ワクチンに用いられた部位の範囲内であれば、多彩な攻撃が仕掛けられます。例えば、頭をワクチンに用いた場合、顔面へのストレートパンチが防御されるようになると、アッパーにより顎を狙い始めます。すなわち、実際に感染してしまえば、ウイルスがどのようなディフェンスをしたとしても、加齢などにより衰えていない限りは免疫軍は狙いを変えて必ず相手をしとめてくれます。ワクチンも、敵が少しのディフェンスを覚えても柔軟に対処してくれますが、敵が「頭全体を完全に守るディフェンス」まで覚えてしまうと効果は無くなってきます。一方、抗体製剤は、常に同じ場所を狙い柔軟性がないのが欠点です。相手が完璧に顔面をガードしているのに、常に顔面にストレートパンチを放っているのと同じ状態です。よって、抗体製剤はウイルスの変異に対しては非常にもろくなります。治療目的で既に使用されている国もある、「REGN10987とREGN10933」と呼ばれる2種類の抗体を混ぜた抗体製剤に対してディフェンス(耐性)法を既に獲得した新型コロナウイルス変異株も出現してきているようです(Starr TN, Science 2021, 1/25)。REGN10933は、「Y489H」や「F486I」と呼ばれる変異株、オランダとデンマークでミンクに流行を起こした「Y453F」と呼ばれる変異株に対して効果は無いと報告されています。また、REGN10987は「N439K」変異株に対しては効果が引き出せないようです。REGN10987とREGN10933のどちらに対してもディフェンスができる「E406W」と呼ばれる変異株も存在するようです。一方、イギリスで流行中の「N501Y」変異株に対しては、REGN10987とREGN10933のどちも治療効果があると報告されています。

変異する事がウイルスの特徴です。季節性インフルエンザでも日々変異を続けています。よって新型コロナウイルスでも変異したウイルス株がどんどん発見されてきます。事実、南アフリカだけでも、すでに16種類の変異株が発見されています(Tegally H, Nature Medicine, 2021, 2/2)。よって、相手の素性もわからず「変異」と言う言葉により過剰に怖がっても意味がありません。医学の進歩は凄いもので、この問題点を克服するため「どのような変異が起れば注意が必要か」、すなわちワクチンの効果が落ちる可能性のある仮想変異が1月27日に報告されました(Liu Z, Cell Host & Microbe, 2021, 1/27)。新型コロナウイルスのスパイクの486番目のアミノ酸がフェニルアラニン(F)からセリン(S)に変異した場合(F486S), 及び484番目のグルタミン酸(E)が他のアミノ酸に変異した場合は、ワクチンの効果が低下する可能性があるようです。また、現在既に発見されている世界中の変異株の内、オセアニア地域由来の477番目のセリン(S)がアスパラギン(N)に変異した「S477N」株に対しては、ワクチンの効果が少し落ちる可能性も報告されています。

ウイルス変異がワクチン効果に及ぼす影響について新たな報告が2月10日にありました(Wang Z, Nature, 2021, 2/10)。モデルナ社とファイザー社のワクチンはB細胞の反応、すなわち矢(IgG)の産生を充分に引き出せるようです。どちらのワクチン接種でも異なった部位を狙う最低でも128種類の矢(IgG)が作り出され多彩な攻撃が仕掛けられます。これらの矢は、新型コロナウイルスが空き巣に入るための「鍵」を構成する土台の「どの部位を狙うか」により4つに分類されると報告されています。「クラスI」に分類される矢は417番目と501番目のアミノ酸を標的とし、「クラスII」の矢は484番目と493番目のアミノ酸を標的とし、「クラスIII」の矢は439番目と440番目のアミノ酸を標的とするようです。これらの標的以外を狙う矢は「クラスIV」に分類されています。モデルナ社とファイザー社のワクチンでは、「クラスI」と「クラスII」の矢(IgG)が主に作り出される傾向にあり、イギリスで流行している514番目のアミノ酸が変異した「N501Y」株、および南アフリカで流行している484番目のアミノ酸に変異を持つ「E484K」株に対してはワクチン効果が低下する可能性が報告されています。

今回の報告では「イギリスで流行中のN501Y株に対してワクチン効果の低下」が推測されています。一方、以前の論文では「ワクチン効果に影響はない」と報告されており賛否両論の結果です。今回の報告では「新型コロナウイルスのスパイクを発現させたHIVウイルス」が用いられ、以前の報告では「新型コロナウイルスのスパイクを発現させた季節性コロナウイルス」が用いられています。使用するウイルスの種類により結果が異なった可能性は否定はできませんが、どちらの結果が正しいかを今判断する事は難しいと思います。しかし、世界中で既に1億人を超えるワクチン接種が進行中ですので「答え」は直ぐにわかると思います。

研究は爆発的な速度で進んでおり非常に心強い限りです。他のウイルスを代用するのでなく、新型コロナウイルス自体を持ちいた実験結果が2月8日に報告されました(Xie X, Nat Med, 2021, 2/8)。イギリス由来の501番目のアミノ酸が変異した「N501Y」株、さらには南アフリカ由来の3ヶ所のアミノ酸が変異した「E484K + N501Y + D614G」株に対してでさえ、ファイザー社のRNAワクチンは効果があると報告されています。また、「N501Y」変異株に対する中和効率がファイザー社のRNAワクチンで3.3倍、アストラゼネカ社のDNAワクチンで2.1倍低下する可能性が2月18日に報告されました(Supasa P, Cell, 2021, 2/18)。抗体の強さは対数的に変化します。つまり、10倍から100倍単位の変化で効果に影響が出始めるため、2.1倍や3.3倍の変化では大勢に影響は与えません。事実、書者たちも「N501Y変異株はワクチンから逃れる事はできない」と締めくくっています(Supasa P, Cell, 2021, 2/18)。

 

世界各国から報告されている新型コロナウイルスの遺伝子変異を解析する事により、イギリスに流入した新型コロナウイルスの起源が1月8日に報告されました(du Plessis L, Science 1/8 2021)。初期は中国から流入し、その後は33%がスペインから、12%がイタリアから、29%がフランスから流入したようです。やはり、爆発的な流行を認めている国から流入する傾向があるようです。やはり、感染拡大国からの新型コロナウイルスの流入を防ぐためには水際作戦が重要になるのかもしれません。しかし、オリンピックの開催や経済を考えると簡単に解決できる問題ではないと思います。ワクチンは、「自身を守る」だけでなく、「他人にうつす危険性」もほとんどなくしてくれます。現在、世界各国で急速にワクチン接種が進んでいる現状からすると、「ワクチン接種の証明」と「新型コロナウイルスのスパイクまたは鍵(RBD)に対するIgG陽性」を日本への入国のライセンスとするのも一つの手かもしれないと個人的には思います。

[マスク文化は?]
日本の「マスク文化」が世界を変えようとしているかもしれませ。普通のマスクでは、感染は完全には防げません。完全に防ぐためには、「N95」と呼ばれる特殊なマスクが必要となります。N95を付けたとしても、「頭隠して尻隠さず」です。目薬をさして、にがいと感じられる方は多いと思います。実は、目と喉は涙管と呼ばれる管でつながっています。すなわち目にウイルスが入ると喉に行ってしまうため、完全な予防には目の保護も必須になります。このような理由により、欧米では医療関係者以外は、マスクは殆どされていませんでした。

一方、日本では、飛沫を飛ばさず他人にうつさないと言う「思いやりの精神」からマスク文化が定着しています。日本では、「PCR検査数が非常に少ないため、多くの感染者は見逃されている」と言うのが大方の予想でした(私も、そう思っていました)。しかし、精度が担保された抗体検査キットを用いた抗体調査により、日本の感染者数は予想より遥かに少ない事がわかってきています。これだけ感染の蔓延を押さられたのは、昼夜無く働かれクラスターを潰して行かれた保健所の皆さまの努力、そして「思いやりの精神によるマスク文化」の賜物かもしれません。「自分を守る」ためでなく、「他人、特に免疫弱者にうつさない」ためのマスク着用は、「知らず知らずのうちに感染を広める危険性がある無症状者」の多い新型コロナウイルスに対する感染予防対策の主軸を担ってくるのかもしれません。事実、マスク嫌いのアメリカでさえ、ニューヨーク州知事が「外出時のマスク着用を義務化」しました。これにより、ニューヨークでの感染者の爆発的な増加に歯止めがかかっています。また、ニューヨーク、イタリア、武漢の感染者数推移の解析から、「マスク着用」は、「外出自粛」や「ソーシャルディスタンス」よりも効果的に新型コロナウイルスの感染予防につながっていることが最近報告されています(Zhang R et al. PNAS 2020, 6/11)。スペイン、フランス、ドイツ、イタリアでも「マスクの着用」を最近義務化しており、7月2日にはマスクが大嫌いな米国のトランプ大統領でさえマスク着用を指示しました。また、マスク着用に違反すれば罰金を科せる国も出てきています。マスクの有効性を世界が認めた結果と思います。

「新型コロナウイルスなんか怖くないのでマスクはしない」や「新型コロナウイルスにかかってもいいのでマスクはしない」と言われる方がいらっしゃるかもしれませんが、誤った表現と思います。結果的には、「人にうつしたいから、マスクをしない」になる事をご理解下さい。ただし熱中症の危険を伴う季節に入ります。人との距離が保てる屋外では、マスクを外される事をお勧めします。また、日本小児科学会と米国小児科学科は、窒息死や熱中症の危険性が高まる2歳未満の乳幼児には、「マスク着用」を推奨していません。

季節性インフルエンザは口蓋垂の奥の上咽頭と呼ばれる場所に多くが居座ります。よって、検査のため、上咽頭に達するように鼻から棒を入れて検体を採取します。一方、新型コロナウイルスでは唾液を検体として使った方が感染後10日までは検査での陽性率が高いようです(Fournier J, N Engl J Med 2020, 8/28)。つまり、新型コロナウイルスは唾液にも多く含まれるため飛び散り易く、季節性インフルエンザより感染力が強い事を教えてくれているのかもしれません。やはり、「マスクは唾を飛ばさない、すなわち、ヒトにうつさない」ために大事なのかもしれません。 感染を広めているのは、ひとにぎり(19%)の感染者であるようです(Adam DC, Nat Med 2020, 9/17)。このようなスーパースプレッダーにならないためにも、人と接する際のマスク着用はお勧めします。 この重要性を、トランプ大統領が反面教師として教えてくれているのかもしれません。マウス着用を推奨されましたが、大統領選を意識された発言で、見せかけでしかマウスは着用されなかった可能性も否定はできません。事実、ホワイトハウスにクラスターが発生しています。「見せかけ」でなく、どうしたら他人にうつさないかを考えた「思いやりのマスク着用」が必要かもしれません。

シンガポールから13,026人の濃厚接触者に関する調査結果が11月2日に報告されました(Ng O-T, Lancet Infectious Disease 2020, 11/2)。家庭内の濃厚接触者が実際に感染していた確率は5.9%、職場での濃厚接触者で1.3%、社会活動(social contact)による濃厚接触者では1.3%のようです。一番の感染リスクは「会話」であると報告されています。やはり、飛沫防止が新型コロナウイルスに対する最善の予防策かもしれません。また、濃厚接触者であっても30歳未満では感染の可能性が低い事も報告されています。

11月30日に報告された中国温州での調査結果も、新型コロナウイルスに感染した方の32.8%が無症状であることが示されています(Shi Q, Nat Med 2020, 11/30)。また、感染した人のうち75.9%の方は、無症状の感染者からうつされているようです。8時間以上の接触により感染の危険が高まる可能性も報告されています。やはり、「ヒトにうつさない」ためには、「マスクを着用して、接触時間を極力短くする」ことが重要なようです。また、コロナ疲れのため「見せかけの予防対策」が目に付くようになってきた気がします。例えば、「マスクで鼻を覆わない」、「ソーシャルディスタンスがとれているからと大声を出す」、「手のひらだけを消毒する」などが頻繁に見受けられます。やはり、飛沫の拡散を最小限におさえるため「マスクで鼻まで被い大声をさけ」、接触感染予防のため「指先を含めた念入りな消毒や手洗いを行う」といった感染予防の基本にかえる必要があるのかもしれません。

マスクについての議論を報道番組で多く見られるようになりました。サージカルマスクと呼ばれる不織布マスク、次に布マスク、そしてウレタンマスクの順でウィルスの拡散防止が強い事は事実です。しかし、一番大事なポイントは着用の仕方です。不織布マスクでも、鼻を出しては意味がありません。もし、外科医が鼻を出して手術をすれば大問題となります。患者さんが手術中に感染してしまい、「マスクは一応していました」との言い訳は誰も聞いてくれないと思います。また、不織布マスクの多くには、鼻の型に合わせられるように金属がついています。この金属を曲げて鼻の型に合わせないと、鼻と頬の間に隙間ができて、そこからウィルスが素通り状態となります。一方、布マスクであっても内側に不織布マスクを着用されている方も多くいらっしゃいます。つまり、マスクの種類だけでは判断は難しく、「見せかけのマスク着用」ではなく、「どうしたら飛沫を最小限に抑えられるかを考えた効果的なマスクの着用」が必要と思います。また、皆さんが知恵を出し合われて各自の新型コロナウイルス対策が日々進化していると感じています。例えば、博多のカレー屋さんが提唱された「黙食」に感銘を受けています。「黙って食べる」事により飛沫は抑制でき、簡単で非常に効果的な感染対策と個人的には思います。

米国疾患管理予防センター(CDC)の2月10日の「Morbidity and Mortality Weekly Reports」が、感染予防には「不織布マスクの上に布マスクを着ける二重マスク」、または「双方がマスクを着用する」重要性が報告されました。新型コロナウイルスの直径は約10μmですが、実験に用いられた塩化カリウム粒子の直径は0.1~7μmと少し小さいため、報告された数値以上の予防効果は実際にはあるのかもしれません。また、咳をした条件下ですので、咳や大声を出さない状態では、数値以上の予防効果が期待できると思われます。不織布マスクの予防効果は、「着用の仕方」に完全に依存するようです。不織布マスクでも、皮膚とマスクの間に隙間ができるような着用方法では、ウイルスへの暴露は42%しか防げず、布マスクの44.3%より低くなります。不織布マスクを使用する時は、肌に密着させ息がもれていないか確認する必要があるのかもしれません。呼吸に合わせてマスクが前後に動けば、息漏れがなく適切に着用されている指標になるのかもしれません。鼻を覆っていても頬との間に隙間ができるだけで予防効果は劇的に減少するわけですから、「鼻を出したマスク着用」は論外かもしれません。一方、二重マスクにすると92.5%も減らせるようです。「自らを感染から守るためには、二重マスクが最適」と考えられます。

(相手がマスクを着用しておらず、あなたが感染する可能性): もし不織布マスクを皮膚との隙間がある状態で着用しており、感染者がマスクを着用していない場合はウイルスはわずか7.5%しか防げないと報告されています。一方、適切に不織布マスクを着用していれば64.5%、二重マスクを着用していれば83%防ぐ事ができるようです。
(あなたがマスクをしており、マスクを着用していない人にうつす可能性): ヒトにうつさないためには、最低限でも鼻を隠してマスクをしていれば、ある程度の効果はあるようです。もし、相手がマスクを着用しておらず、あなたが皮膚との隙間がありながらも不織布マスクを着用していれば、相手の暴露は41.3%減少します。また、皮膚に密着させて不織布マスクを着用していれば62.9%、二重マスクを着用していれば82.2%も相手の暴露を減らす事ができます。

(双方がマスクを着用している場合の感染の可能性): やはり相乗効果ですので、双方がマスクを着用する事が非常に重要です。どちらもマスクを着用さえしていれば、感染の可能性は84.3%減少するようです。どちらも皮膚との隙間無く適切に不織布マスクを着用していれば95.9%、どちらも二重マスクを着用していれば96.4%減少すると報告されています。つまり、双方が適切に不織布マスクを着用していれば、二重マスクの必要性はなくなるのかもしれません。

これまでのマスクに関する解析は、正面に飛ばす飛沫に関するものが主体でした。つまり、人と向き合った時に、どうしたら感染が予防できるかというものです。今回のCDCの研究は、正面ではなく、縦3.1m、横3.1m、高さ2.1mの四方八方の空間に飛び散るウイルス量を検討されています。つまり、「換気の良くないオフィスなどに長時間滞在する場合」に役に立つ情報かもしれませ。例えば、オフィスに鼻を出してマスクを着用されているヒトがいらっしゃれば、二重マスク着用が安全かもしれません。一方、皆さんが適切に不織布マスクを着用されていれば、それだけで充分に感染は予防できると思われます。また、重症化の可能性の高い方や、高齢者施設などで重症化する可能性の高い人と接触される職員の方は、二重マスクの着用が有効かもしれません。それ以外の状況では、双方が適切のマスクを着用する事で充分に感染が予防できると考えられます。

また、マスクをすると息苦しくなるため、鼻を出していらっしゃる方もいらっしゃいます。これ自体が、呼吸機能の低下を暗示しています。つまり新型コロナウイルスに感染した場合の重症化の危険性が高くなるえ、ヒトにうつす可能性も増えてきます。新型コロナウイルス感染により重症化を起こし易い方は既に明らかです。よって、病床の逼迫を防ぐためにも、「マウス着用により息苦しさを感じる方」の優先的なリーモートワーク推奨、さらには「高齢者と同居されている方」にも積極的なリモートワークを推奨し、重症化の危険が低い方は適切なマスク着用下での通常の勤務体制にもどし、早期の経済回復にむける時期に入ってきているのかもしれないと個人的には思います。

PCR検査数も少なく、個人情報を尊重しながら、さらにロックダウンも行わず、世界に比べて日本の感染拡大が非常に少ない理由は、「思いやりのマスク着用」と個人的には強く信じています。事実、2021年1月28日時点で、G7加盟国の人口100万人あたりの感染者数は、札幌医科大学フロンティア医学研究所によるとフランスが48,082人、アメリカが76,874人、イタリアが41,116人、カナダが20,181人、イギリスが54,507人、ドイツが25,827人に対して日本は2,945人です。日本の感染者数はG7加盟国平均の約15分の1という計算になります。また、人口100万人あたりの新型コロナウイルス感染による死者数は、フランスが1,128人、アメリカが1,284人、イタリアが1,429人、カナダが502人、イギリスが1,445人、ドイツが639人にに対して日本は41人です。日本の新型コロナウイルス感染による死者数はG7加盟国平均の約26分の1という計算になります。

また、厚生労働省より新型コロナウイルスに対する抗体陽性者数が2月5日に報告されました。東京都で0.91%、大阪府で0.58%、愛知県で0.54%、福岡県では0.19%です。米国ニューヨーク市の抗体保有者の平均は27%で、劇的な感染拡大を認めたQueens地区では50%以上といった海外の抗体陽性者数とは比較にならないほど低い値です。PCRでの陽性者数に加えて、抗体陽性者数も「日本は、国民の努力により世界で最も感染拡大を抑えている国の一つ」であると明らかに示しています。PCR検査数も少なく、個人情報を尊重しながら、さらにロックダウンも行わず、ここまで感染が抑制できている日本を世界は「ミラクル」と見ていると思います。

マスク着用が義務付けられながら感染拡大の抑制が認められない国や地域もあるため、マスクの効果に疑問の論文もありました。しかし、これは「義務付けられても結局マスクを着用していない、又は見せかけで着用されている方が多い」事が原因であると1月19日に報告されています(Rader B, The Lancet Digital Health, 2021, 1/19)。一方、日本では多くの方が、他人にうつさないために真剣にマスクを着用され、「見せかけでなく真の思いやりのマスク着用」が浸透していると思います。私は通勤で電車を使いますが、昨年初期と異なり、ほとんどの方はマスクを正しく着用され私語も慎まれています。多くの皆さんは、新型コロナウイルスをヒトにうつさないためにはどうすればよいのかを既に心得られていると思います。事実、例年認められる季節性インフルエンザの流行もほぼ完璧に抑えられています。

我々の身体でウイルスに対して水際作戦を担うのは「物理的障壁」や「化学的障壁」と呼ばれる機構です。喉や気管支の表面を粘液が覆って、ウイルスが細胞に直接引っ付けないようにしてくれています。つまり、粘液は「番犬」のような役割をしてくれているわけです。ウイルスが空き巣に入るための鍵を持っていたとしても、番犬が扉に近づけないようにしてくれるため、ウイルスは空き巣に入る事が難しくなります。寒冷に伴う乾燥は、粘液を破壊してしまいます。つまり番犬がいない状態になってしまい、ウイルスが簡単に空き巣に入ってきます。冬場は入念なお肌のお手入れが必要になるように、実は喉や気管支もお手入れを望んでいるわけです。そして、マスクが喉や気管支のお手入れをしてくれています。マスクは保湿効果があるため、喉や気管支が乾燥から守られ番犬も働いてくれることになります。また、寒冷に伴う乾燥はウイルスの拡散(飛ぶ距離)も助長します。よって、暖かくなれば、番犬も今以上に活躍してくれ、ウイルスの拡散も減少するため、感染拡大は減少傾向に向かうと思われます。日本気象協会 白石圭子先生の1月25日の報告では、緊急事態宣言中の2月前半に寒気が一時的に南下する可能性はあるようですが、その後は例年より暖かい傾向があるようです。期待が持てる気象情報かもしれません。

新型コロナウイルスは金属などの表面で長生きできる事はウイルスに適した環境を用いた実験系で証明されています。しかし、多くの要因が複雑に絡み合う日常環境(real life)では、異なってくるようです。もし、新型コロナウイルスがテーブルなどに付着しており、それに触れる事により感染してしまう可能性は、10,000回に5回のようで、ノロウイルスや季節性インフルエンザに比べて非常に低い事が報告されています(Lewis D, Nature, News Feature 2021, 1/29, p26、Goldman E, Lancet Infectious Dis 2020, p892, Mondelli MU, Lancet Infectious Dis 2020, 9/29)。事実、米国疾患予防センター(CDC)も、「transmission through surface is not thought to be a common way that COVID-19 spreads」、すなわち、テーブルや椅子を触る事により起こる手指感染は新型コロナウイルスでは一般的では無いと方針を変えられました。米国では、飛沫を予防するマスクではなく、手指からの感染予防に重きが置かれてきた歴史があります。しかし、今回の新型コロナウイルスの爆発的流行の経験より、手指からの感染予防でなく、「マスクによる飛沫予防」に舵を切られたのかもしれません。

[ウイルス量は?]

282件のクラスターに関する委細な解析結果がスペインより2月2日に報告されました(Marks M, Lancet Infectious Disease, 2021, 2/2)。新型コロナウイルスによる感染の確率は、飛沫に含まれるウイルス量に依存するようです。1mLの唾液に100万個のウイルスが含まれていた場合の感染率は12%、100億個以上含まれていた場合は24%へと倍増するようです。また、クラスター発生の引き金となった感染者のうち、症状があった方は僅か6%のようです。また、ウイルスの量に依存して潜伏期も変化すると報告されています。1mL中に1000万個のウイルスが含まれる唾液に暴露された場合の平均潜伏期間は7日、10億個以上の場合は5日と短くなるようです。もし、この結果が正しいとすると、少なくとも4つの事を、科学的見地から教えてくれているのかもしれません。

  1. 「どれだけ多くのウイルスを含む飛沫に暴露するか」により、「感染してしまうか」または「感染しないか」が決まるという事になります。逆の見方をすると、「相手が感染していても、飛沫を最小限にとどめて、接触時間を短くできれば感染のリスクは非常に低くなる」事を教えてくれています。つまり、「マスク着用」、「3密回避」、「接触時間短縮」が感染予防には非常に重要という事です。
  2. 指手から感染を起こすノロウイルスは、1,200個の非常に少ない数でも感染を起こしてしまいます(Ettayebi K, mSphere, 2021, e01136)。一方、新型コロナウイルス感染では、数万個以上のウイルスへの暴露が必要となるため、唾などに触れない限りは、「触れたテーブルなどから感染するリスク」は低いのかもしれません(Lewis D, Nature, News Feature 2021, 1/29, p26、Goldman E, Lancet Infectious Dis 2020, p892, Mondelli MU, Lancet Infectious Dis 2020, 9/29)。こまめな消毒は必要ですが、あまり神経質になられる必要はないのかもしれません。
  3. 感度が低いため、抗原検査は無症状者に対しては不向きと考えらていました。しかし、新型コロナウイルス感染は、暴露されるウイルスの数に依存するという事は、「多くのウイルスを排出する無症状者しか感染を引き起こさない」、逆に「感染していてもウイルス量が少なければ人にはうつさない」という事になります。つまり、抗原検査でも「ヒトにうつす可能性のある無症状者」を見つけ出せ、感染予防対策がとれる事を教えてくれているのかもしれません。
  4. 感染症は免疫軍と病原体との戦いです。よって、相手の数が少なければ少ないほど免疫軍は優位に立てます。一方、相手が強敵であれば、敵の数に限らず免疫軍は苦戦を強いられてしまいます。敵の数に依存して感染の発症が決まるという事は、「免疫軍にとって新型コロナウイルスは弱い」という新たな科学的根拠かもしれません。

新型コロナウイルスが我々の細胞に侵入するために必要な「ヒトのアンギオテンシン変換酵素2」を発現させたネズミに感染を起こさすためには、200万個の新型コロナウイルスを鼻から入れる必要があるようです(Qiao J, Science 2021, 2/18)。やはり、大量のウイルス暴露が感染には必要です。「ウイルスに少しでも暴露してはいけない」と神経質になりすぎず、「大量に暴露しなければ大丈夫」と余裕のある予防対策で充分なのかもしれません。マラソンでも最初から全力疾走するとゴールまで持ちません。ワクチンによりゴールも見えて来ました。ゴール直前で失速しないよう余裕を持った予防対策が合理的かもしれません。

[うがいは?]
大阪府の吉村知事が8月4日に「うがい」を推奨されました。感染予防の鉄則は「マスク」「手洗い」「うがい」です。新型コロナウイルスでは、マスクと三密が全面にでてしまっているので、再度「うがい」を思い起こすのには良い機会かもしれません。感染症は、免疫軍とウイルスの戦いであり、敵の数が少ないほど免疫軍が優位にたてます。うがいにより体内(組織)に入ってこようとする敵を、水際で極力減らす事は感染予防には重要です。ただ、この目的のためには「塩水のうがい」でも充分効果が発揮できると思います。また、うがい薬は、体内に既に入ってしまったウイルスには効果はありません。

患者さんの飛沫に直接曝露してしまう歯科の先生がたは非常に大変ですが、多くの工夫を既にされています。治療前のマウスウォッシュは、口の中にいて飛沫と一緒に出て来る新型コロナウイルスを減少させ、感染の危険性を減らしくれます。事実、アメリカ、イギリス、ニュージーランドの歯科医師学会では、新型コロナウイルス対策として、診察前に1% 過酸化水素水または0.2% ポピドンヨードによるマウスウォッシュを推奨しています(Zamal M, Oral Dis 2020, 6/3)。会議など人前で話す直前のマウスウォッシュも、飛沫中の新型コロナウイルスを減少させ、他の人にうつす危険性を減らせるかもしれません。

[お腹の免疫から考える新型コロナウイルス対策は?]
未知の新型コロナウイルスの全容も見え始めてきました。免疫力が維持できていれば、「正しく恐れる」ウイルスと思います。免疫細胞のエネルギー源は、腸内細菌が糖分や澱粉を分解してできるアデノシン3リン酸です。よって、BMIが25以下のかたは、いつもは我慢していた食後のデザートを免疫力強化のため今こそ食べて下さい、特に疲れている時や睡眠不足の時にはお勧めです。カレーがお好きな方は、カレーライス(ルーが多め)からライスカレー(ごはんが多め)にするなど少しの工夫で免疫力は維持できます。ただし、肥満は大敵です。食後の30分程度の軽い運動は、摂取したエネルギー源を効率良く免疫細胞に取り込ませるのに必要です。肥満の予防も兼ねて「食後」の運動はお忘れなく。ただし、「食前」の運動はお腹がすいてしまい余分なものまで食べてしまううえ、免疫細胞への取り込みも促進しないので逆効果です。

「免疫軍にとって新型コロナウイルスは季節性インフルエンザよりも弱い敵」と個人的には思います。ただし、新型コロナウイルスは密かに「テロ行為(血栓症)」を企てるウイルスですので、血栓症になり易い方は特に注意が必要です。血栓症の予防が新型コロナウイルスに対する重要な対策の一つとなるのかもしれません。基本的な血栓の予防法は、血液が濃いと固まり易くなるため、水分補給をしっかりと行い脱水を避ける。また、血液がうっ滞しても血は固まり易くなるので、うっ滞を避けるために体をこまめに動かす。そして、血液をサラサラにする効果があるエイコサペンクエン酸(青魚やアナゴ)、クエン酸(梅干、御酢、レモン)、アリシン(玉ねぎやニンニク)を多めに摂るのが良いかもしれません。

また、新型コロナウイルス感染では稀に免疫の暴走を認める事もあり、免疫のバランスを保つ事も重要です。このバランスを保つのが酪酸です。酪酸は食物繊維が腸内細菌に代謝されて作られるので、野菜の摂取はお忘れなく。新型コロナウイルスに感染しても無症状・軽症で済むように、食事でバランスを保ちながら免疫力を強化しましょう。

[新型コロナウイルスに打ち勝つためのバランスは?]

(デザート):全てにおいてバランスは重要です。免疫力はウイルスに打ち勝つために必要ですが、過度にパワーアップしてしまうと自身の細胞にも攻撃を仕掛けてしまいます。バランスを保ちながら免疫力をパワーアップすることが重要で、食物繊維が手助けしてくれます。甘味は免疫強化に必要ですが、食べ過ぎて太りすぎてしまうと免疫力が逆に落ちてしまいます。BMIが30を超えると重症化の危険性が増すので注意が必要です。肥満予防、そして甘味から得たエネルギー源を免疫細胞に効率よく取り込ませるため、食後の運動はお忘れなく。

(運動):適度な運動は免疫力強化につながりますが、過度な運動は免疫力を逆に落としてしまいます。「適度とはどれぐらい」とご質問をよく受けますが、個人差が非常に強いと思います。例えば、いつもジョギングされている方が3キロ走っても朝飯前と感じます。すなわち適度な運動です。一方、普段走った事が無い方が3キロ走ると翌日は「足が棒のよう」と感じられると思います。これは疲労を蓄積した過度の運動です。

(入浴):お風呂は免疫力を強くしてくれます。しかし、熱いお風呂に長くつかり、体が「ゆでダコ」のように赤くなった場合は、血管の拡張により免疫力の低下をまねきます。

(マスク):予防面でも同様です。マスクは感染予防には重要ですが、マスクをして激しい運動をすると熱中症や低酸素血症といった危険な状態を招いてしまいます。特に近年は高温多湿のため、熱中症は昨年だけでも本邦で1,581人の命を奪っています。屋外でヒトとの距離がとれるところではマスクを外す習慣が必要かもしれません。また、高齢者の熱中症は屋内での発症も多いため、屋内の熱中症対策も急務かもしれません。総務省消防庁の速報値によると、8月3日から8月9日の間に熱中症で救急搬送された方は6,664人です。一方、同期間に新型コロナウイルス感染が確認された方は約8,200人です。新型コロナウイルス対策をとりながら、熱中症も予防しないといけない大変な状況と思います。しかし、多くの皆さんは、各自で対策をとられこの難題を克服されているようで、感銘を受けています。なぜなら、2019年8月3日から8月9日までの熱中症での搬送者は15,299人で、今年は昨年よりも劇的に減っています。

(次亜塩素水):「次亜塩素酸」は新型コロナウイルスを殺すためには有効ですが、誤って使うと肺炎を起こしてしまいます。事実、新型コロナウイルス対策のため、窓を締め切り頻繁に次亜塩素酸で部屋を消毒していた姉妹2人が、新型コロナウイルス感染ではなく、次亜塩素酸による肺炎で入院となった症例もあります。また、「次亜塩素水」ですが、空気中の低濃度散布は健康被害を引き起こす可能性があります。次亜塩素水のウイルス除去に対する有効性もアルコール等に比べて低く、使用に関する注意点が6月26日に経済産業省から通達されました。要点は、「次亜塩素水は紫外線で壊されるため遮光での保存が必要」、「皮脂などの汚れも次亜塩素水を破壊してしまうため、消毒場所の汚れをあらかじめ除去しておく必要がある」、「表面がヒタヒタになるまで次亜塩素水をたらし、しばらくして拭き取る」です。

蓄積された結果からすると、テーブルなどに触れて感染してしまう可能性は、新型コロナウイルスでは季節性インフルエンザやノロウイルスに比べて低いようです(Lewis D, Nature, News Feature 2021, 1/29, p26、Goldman E, Lancet Infectious Dis 2020, p892, Mondelli MU, Lancet Infectious Dis 2020, 9/29)。ゼロではないので、こまめな手洗いやテーブルなどの定期的な消毒は必要です。しかし、次亜塩素水やオゾンを常時噴霧したり、紫外線の持続照射などの過剰な対策は必要ないのかもしれません。紫外線は遺伝子変異を起こすため、皮膚がんや失明にいたる眼疾患を将来起こす可能性は否定できません。また、高濃度の次亜塩素水やオゾンも重篤な健康被害をもたらしてしまいます。例えば、害虫をしとめるには殺虫剤は非常に有効ですが、部屋を閉め切り噴射し続ける方はいらっしゃらないのかもしれません。つまり、新型コロナウイルスは殺せても、数年後に皮膚がん、失明、重篤な健康被害を起こししまえば、元も子もありません。

(公共対策):外出規制は感染者数を抑制出来きますが、長引くと財政破綻による自殺や犯罪の増加、そして子供達のはかり知れない精神的影響を起こしてしまいます。欧米では、ロックダウンにより、病院受診者や健康診断が減っています。これにより早期発見が遅れてしまい、5年後には、乳癌での死者が7.9~16.6%、大腸癌の死者が15.3~16.6%、肺癌の死者が4.8~5.3%、食道癌の死者が5.8~6%増えると試算されました(Maringe C, Lancet 2020 7/20)。癌による日本の死者は、昨年は37万人です。欧米の試算が正しく、そして日本がロックダウンを行っていたとすれば、少なくとも2万人以上の救えた命を5年後には失っていたのかもしれません。フランスやアメリカからロックダウンに伴い、心筋梗塞の患者さんの入院が減った事が報告されました。フランスの病院では心筋梗塞で入院された患者さんは、ロックダウン前の686人から481人に減少したようです。多くの患者さんが新型コロナウイルスの感染を恐れて、症状があっても受診を控えられているのかもしれません。結果、早期に受診されないため、病院での心筋梗塞の死亡率がロックダウン前の3%からロックダウン後には5%へと増加しています(Mesnier J, Lancet Public health 2020, 9/17)。また、精神疾患では50%以上、心疾患では43%、糖尿病では49%の患者さんの診断の遅れもイギリスから報告されています(Williams R, Lancet Public Health 2020, 9/23)。

都市封鎖の大腸ガンに及ぼす影響が1月14日に報告されました(Morris EJA, Lancet Gastroenterology Hepatology 2021, 1/14)。大腸ガンの発見が63%減少し、大腸内視鏡の検査数も92%も減少したようです。大腸ガンから命を救うためには、早期発見が重要な事は明らかです。よってイギリスでは、数年後には大腸ガンで約3,500人の救えるはずの尊い命が奪われる可能性があります。



また、経済学者の茂木洋之先生は、リクルートワークス研究室の「働く論点」で、「2021年の日本国内の自殺者は4万人以上の可能性もある」と5月時点で警鐘を鳴らされています。緊急事態宣言が発令された4~6月の日本のGDPは27.8%の減少で、戦後最悪と8月17日に報告されました。GDPの減少に相関して失業者も増えてきます。失業率に依存して自殺者数も増えるそうですので、茂木先生の警鐘が現実味を帯びてきているのかもしれません。 事実、警察庁の発表によると、昨年8月の自殺者数は1,603人で、今年8月の自殺者数は1,849人と一か月間の自殺者数が249人増えたようです。また9月の速報値によると昨年9月の自殺者数は1,662人に対し今年9月は1,805人で143人の増加を認めています。 10月の自殺者の速報値が報告されました。10月の自殺者は2,153人で、昨年に比べて614人増えています。10月の新型コロナウイルス感染による死者数を超えている状態です。11月の自殺者数は1,798人で昨年より179人増えています。8月から11月の僅か4か月間で、昨年に比べて自殺者数は1,185人増えているようです。

メンタルの疾患で通院されていた約1,421万人の調査結果がイギリスから1月11日に報告されました(Carr MJ, Lancet Public Health, 2021 1/11)。都市封鎖により、うつ病患者さんの通院が43%、不安障害の患者さんの通院が47.3%、新規の患者さんが36.4%減少したようです。充分な治療が受けられない事により、病状が悪化し自殺者が増加してくる懸念が示されています。986万人を対象としたイギリスからの2月18日の報告でも、都市封鎖により初診者数が「糖尿病」で65%、「うつ病」で47%、「摂食障害」で38%減少したようです(Mansfield KE, Lancet Digital Health, 2021, 2/18)。

内閣府男女共同参画局が12月24日に発表された「コロナ下の女性への影響について」によると、6月から9月までの4か月間の家庭内暴力は2019年の13,840件から2020年では16,920件へと20%以上増えているようです。2019年に比べて2020年は自殺者が増えていますが(上記参照)、原因は女性の自殺の増加のようです。また、女性の自殺者の半数は出産年齢である39歳以下の方です。緊急事態宣言が長ければ長いほど、家庭内暴力も増え続け出産も減少し、社会問題である少子化を更に助長してしまうのかもしれません。将来の日本を担う子供達のためにも早急な対策が期待されます。

「実行再生産数」は1人が何人の方に感染させるかの指標で、「1」を超えると感染拡大の危険が出てくることになります。「公共イベントの中止」「学校閉鎖」「10人以上の集会の規制」「外出規制」「移動制限」といった対策が実行再生産数に及ぼす影響について131か国の調査結果が10月22日に報告されました(Li Y, Lancet Infectious Disease, 2020, 10/22)。この様な対策をとった後に効果が表れるのは8日後、そして対策を解除した後に、再び感染者の増加が認められるのは17日目からのようです。実行再生産数を最も抑え込めるのは「公共イベントの中止」で「0.76」に低下すると報告されています。また、「10人以上の集会の規制」と組み合わせると実行再生産数は「0.71」に低下するようです。一方、規制を解除後に実行再生産数を増やす可能性が高いのは、「10人以上の集会の規制の緩和」で「1.25」、そして「学校閉鎖の解除」で「1.24」のようです。しかし、学校閉鎖についての統計は、「学校側が何も対策をとっていない場合」の試算となります。また、幼稚園児と小学生は、中学生や高校生に比べて感染のリスクが低い事はわかっていますが、今回の調査では幼稚園から高校までが一括して学校として取り扱われています。

世界41か国を対象とした「実行再生産数」に影響を与える調査結果が12月15日にも報告されました(Brauner JM, Science 2020, 12/15)。実行再生産数を、1000人以上の集会の禁止で23%、100人以上の集会の禁止で34%、10人以上の集会の禁止で42%減少させることができるようです。また、濃厚接触(face-to-face)が生じる仕事の禁止では18%、外出制限では13%、大学を含む学校閉鎖では38%へ減少できると報告されています。

14,622人の濃厚接触者の解析結果が11月24日に報告されました(Sun K, Science 2020, 11/24)。19%の一握りの感染者が感染を拡大させている可能性が9月17日に報告されていました(Adam DC, Nat Med 2020, 9/17)。今回の報告でも、僅か15%の感染者が感染を拡大させていると報告されています。新型コロナウイルスを巻き散らかすスーパースプレッダーにならないように、人前でのマスク着用は最低限必要なのかもしれません。また、感染の殆どは地域内で起こっており、他県からの持ち込みは少ない事も報告されています。やはり、これまで報告されているように家庭内感染が最も多いようです。感染の鍵をにぎるのは接触時間です。よって、外出制限が発動されると家庭ですごす時間が長くなり、家庭内感染が増加してしまうようです。

集団生活では感染のリスクが高くなる事を、フランスのホームレスの方を対象とした2月5日の報告が示しています(Roederer T, Lancet Public Health, 2021, 2/5)。818人のホームレスの方の抗体検査の結果、52%の方が陽性と報告されています。このうち68%の方には症状が無く、無症状のうちに感染を経験していたことになります。陽性者は「worker`s residence(正しい翻訳はわかりませんが、「タコ部屋」を意味しているかもしれません)」に滞在している方に多く、陽性率は88.7%のようです。このうち21%の方は5人以上で部屋をシェアされています。また、シェルターに滞在中のホームレスの方の陽性率は50.5%で、このうち59%の方は2人で部屋をシェアされています。

(指定感染症):新型コロナウイルスは「指定感染症」に現在認定されています。感染者や疑いのある方を即座に保健所に知らせないといけないため、感染者数の把握には非常に有効です。また、重篤な感染症の封じ込めには絶大な効果を発揮します。一方、入院や宿泊施設での隔離が原則となります。無症状や軽症者の多い場合は、「入院してまでの治療が必要ない方」のために病院のベッドや医療従事者が使われてしまいます。結果、ベッド不足や医療従事者のマンパワー不足に陥り、新型コロナウイルス以外の病気の治療が疎かになり医療崩壊へと繋がる危険性も秘めてきます。例えば、季節性インフルエンザは昨年も本邦で3,325人の尊い命を奪っています。死者数が多いからといって、季節インフルエンザを指定感染症に認定してしまったら、結果は火を見るより明らかかもしれません。

季節性インフルエンザに約1,200万人の方が毎年本邦で感染されています。このうち、2019年度に入院治療が必要になった患者さんは20,389人と国立感染症研究所が報告されています。、季節インフルエンザの入院は冬場の約4カ月間に集中することから考えると、毎月5,000人以上の入院治療が必要な中等症以上の感染者は、日本は問題なく対応できる計算になります。勿論、院内感染を防ぐため感染予防対策はしっかりと取られています。また、日本の人口当たりの病床数は世界でも最多です。一方、一日あたりの新型コロナウイルスの新規感染者数は、日本の2,514人(11月22日)に比べて、人口が日本の半分のフランスで約6万人(11月6日)、人口が日本の約3倍のアメリカでは約18万人(11月19日)です。フランスやアメリカでは、日本より病床数が少いうえに、一日の新規感染者数が日本の25倍以上という危機的状態です。それでもギリギリの状態で医療崩壊を起こさず踏ん張っています。また、日本のように「おもいやりのマスク文化」が浸透していないため、アメリカなどでは「マスク着用反対」のデモまで行われ感染拡大に歯止めがかからない状態です。これらの科学的根拠から考えると、日本での医療崩壊は起こらないと考えるのが妥当かもしれません。しかし、もし日本で医療崩壊が起こるとすれば、過剰な規制や風評被害による医療従事者の疲弊しかないのかもしれません。弱い新型コロナウイルスではなく、ヒトの感情に誘発される医療崩壊は決して起こさないように注意が必要かもしれません。

(衛生仮説):衛生仮説として知られる概念があります。免疫は常に外敵と戦う事により、学び成長しています。この成長により、敵が整形手術をして来ても、過去の戦いから学んだ経験を活かし、敵と認識して追い出します。また、オレオレ詐欺のように騙しに来ても、迷わされることはありません。しかし、過度な清潔状態では訓練の機会が失われ、免疫細胞は敵に簡単に騙されアレルギーや自己免疫疾患が起こり易くなってしまいます。日本では、アレルギー疾患や炎症性腸疾患が右肩上がりに増えて来ています。戦後からの衛生状態の劇的改善により、免疫が敵と戦う訓練の回数が減ってしまった事が主な原因と考えられています。つまり、非衛生状態では感染症が増え、過度に清潔な状態ではアレルギー疾患や自己免疫疾患が増えるため、常にバランスが重要と言うことです。新型コロナウイルス対策のために過度な衛生状態が続けば、数年後にはアレルギー疾患や自己免疫疾患が爆発的に増える可能性も否定はできません。

食物アレルギーの予防は「3歳まではアレルギー物質を食べさせない」が世界共通でした。しかし、2008年に「二重抗原暴露仮説」が提唱されました(Lack G, J Allergy Clin Immunol 2008, p1331)。「アトピー性皮膚炎などの傷口から食物が暴露した後に、その食物を食べると食物アレルギーになる」よって「皮膚の傷に食物が暴露する前に食べさせる」という新説です。この新説が正しい事は多くの臨床試験ですでに証明されており、多くの国の臨床ガイドラインも変更されています。日本アレルギー学会も食物アレルギーガイドラインを「食物アレルギーを恐れて離乳を遅らせない、そしてアトピー性皮膚炎など炎症のある皮膚は保護する」へと変更しています。ここで問題となるのが、マスクの長期着用により口の周りの皮膚がただれる事です。もし、ただれた皮膚に食物が触れてしまうと、その食物に対するアレルギーを起こす可能性があるかもしれません。口の周りの肌の入念なお手入れが重要かもしれません。また、ヒトと接しない時にはマスクを外されることをお勧めします。

(比較の重要性):科学や医学において「比較」が無ければ何も言えません。つまり、優れている、おとっていると言うのでなく、「何に対して優れている」、「何に対しておとっている」と言う必要があります。例えば、私はお腹が邪魔して鉄棒で逆上がりは出来ないと思います。よって、クルクル逆上がりをしている子供達を見ると凄いと思います。しかし、私から見て凄いからと言って、その子供達がオリンピックの体操に出場すれば、結果は火を見るより明らかです。その子供達は、大車輪を行っている選手を見れば凄いと思います。大車輪ができる選手も、鉄棒から手を離すG難度を平気でこなしている選手を見ると凄いと感じると思います。新型コロナウイルスにおいても同様です。「どの病気に比べて怖いのか」、「世界に比べてどうなのか」などを比較をしないと誤った判断を招いてしまう可能性が高くなるのかもしれません。また、逆もしかりです。G難度をこなして世界トップクラスの選手に、専門外の方から「空中で10回転もできないのか」と言われても「人間の限界を超えた要望」になってしまいます。完璧、すなわち「新型コロナウイルスの撲滅」は理想です。しかし、不可能であり共存が必要な事は世界が既に教えてくれています。他国と比較しながら臨機応変に科学的に判断していかないと、数年後には膨大な負の遺産を残してしまうのかもしれません。

各国の対策を総合的そして客観的に評価できるのは、命をどれだけ重視したかを反映する「平均寿命の変化」、経済をどれだけ重視したかを反映する「GDPの変化」となるのかもしれません。平均寿命に変化が少なくGDPが激減すれば「命重視」、平均寿命が激減しGDPに変化が少なければ「経済重視」となると思います。また、「平均寿命は新型コロナウイルス終息直後には変化が無く、その後は自殺者などの増加により数年かけて低下し続けた場合」は、新型コロナウイルスにより重症化しやすい方々を重症化を起こしにくい方々が命をかけて守ってくれた事になるのかもしれません。勿論、「平均寿命」と「GDP」の変化を最小限に、さらには長期的に抑えた国の対策が最も評価できると思います。今後出てくる、平均寿命とGDPを世界と比較して、初めて日本の対策の評価ができるのかもしれません。その時こそ、「不要だった対策」、「過剰だった対策」、「今後必要な対策」が洗い出されるのかもしれません。

(検査法の使い分け):新型コロナウイルス検査の使い分けについて9月30日に意見が出されました(Mina MJ, New Engl J Med 2020, 9/30)。新型コロナウイルス感染は、ウイルスが体内に侵入し急速に増える「潜伏期(pre-infectious)」を経て、ウイルス量がピークに達する「感染期(infection)」、そして徐々に減ってくる「回復期(post-infectious)」にわかれます。潜伏期には症状は出ませんが人にうつす可能性があります。感染期に入ると、自然免疫軍と新型コロナウイルスの激戦が始まり種々の症状が出始めます。自然免疫軍が苦戦してしまうと新型コロナウイルスは増え続けますが、獲得免疫軍が参戦を始めると新型コロナウイルスも制圧されはじめ、このころをピークにウイルスの数も減り始めます。回復期に入ると、新型コロナウイルスは免疫軍のコントロール下にあるため、症状は残ってもヒトにうつしてしまうようなウイルスの増殖は無くなります。PCRのように検出感度が高い検査では、潜伏期、感染期、回復期全ての段階で陽性となります。症状が出る前の濃厚接触者の検査には優れていますが、人にうつす可能性がほぼ無い回復期の方も陽性と診断され隔離対象となってしまう欠点があります。一方、検出感度が低い抗原検査では、回復期の患者では陽性になりませんが、症状のない潜伏期の患者さんも陰性となってしまいます。よって、濃厚接触者などの検査には使えない欠点があります。両者の利点と欠点を利用し、濃厚接触者や重点的検査の必要な高齢者施設では感度の高いPCR検査を用い、症状のある方を診察するクリニックでは感度の低い抗原検査を用いるといったバランス感のある検査法の活用が合理的なのかもしれません。ただし、最も重要なポイントは、どちらの検査においても、陰性だからといって感染していない証明にはならないという事です。感度の高いPCRでさえ10%以上の感染者は「偽陰性」すなわち、感染していても結果は陰性となってしまいます。「スーパースプレッダー」にならないためにも、症状があれば検査結果に関わらず仕事を休まれる事を強くお勧めします。


1月17日のNHK News Webによると、医療従事者に対し無症状でも、抗原検査の使用を厚生労働省が認められたようです。非常に合理的で有効な対策と個人的には思います。抗原検査(定性)は感度が低いため、無症状の感染者を全て見つけけ出すには不向きです。しかし、ウィルス量が多ければ多いほど、人にうつしやすくなります。つまり、人にうつしやすい無症状者は、抗原検査でも見つけ出せる可能性があります。一方、PCRが陽性でもウイルス量が少なければヒトにうつす可能性は非常に低いと考えられます。事実、PCR再陽性となった感染者の濃厚接触者に新型コロナウイルス感染は認められていません(Osmann AA, New Microbes New Infection 2020, 8/20)。つまり、「感染者を探し出すのでなく、他人にうつす可能性がある方を探し出す」対策が、新型コロナウイルスに対しては適していると思います。また、抗原検査には、30分以内に結果が出て、いつどこでも行えるという利点があり臨機応変な対応が可能です。完璧ではありませんが、院内感染の予防に多大な貢献をしてくると信じています。また、高齢者施設従事者に適応されれば、高齢者の感染者数を減少させ、重症患者さん増加にも歯止めがかけられると信じています。

完璧にするのは最善策です。しかし、最善策を取ろうとすると過剰な労力による逆効果も起こってしまいます。PCRは感染者を探し出すには現時点の手法では最善策です。しかし、毎週1回は行わないと意味が無く現実的に不可能です。また、見逃しも10%以上あるという欠点もあります。「感染者を探し出す」のでなく「ヒトにうつす可能性があり、感染を広めてしまう可能性のある方」を抗原検査で探し出す方が現実的でより高い効果が得られると思います。例えば、年始にお客さんが来るので、隅々まで完璧に掃除するのは重要ですが、掃除に気を取られ過ぎて、おせち料理用の煮物を火にかけているのを忘れ火事になってしまったら元も子もありません。特に、感染拡大阻止が難しく、未知の段階に比べ多くが解ってきた新型コロナウィルスに対しては、完璧で無くても、死につながる重症者を減らせる可能性がある合理的かつ実現性を伴った対策が必要なのかもしれません。

すなわち、「共存が必要なウイルス」に対しては「これが正しい」と言う選択肢はありません。個人個人で、そして、その時その時の状況に応じて異なると言う事です。新型コロナウイルスを正しく理解し、自身にあった最善の対策を臨機応変にとることが必要なのかもしれません。

[高齢者保護とFocused Protectionは?]
(高齢者保護):新型コロナウイルスに関して多くの結果が蓄積され全容が見え始めています。厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症の国内発生動向」によると、2020年9月2日時点の新型コロナウイルスによる49歳以下の死者は23人で、2021年2月3日時点では63人です。昨年も、3,325人もの尊い命を奪った季節性インフルエンザから考えると、49歳以下の方にとって新型コロナウイルスはインフルエンザほど怖くないようです。一方、新型コロナウイルスは、2020年9月2日時点で1,071人、2021年2月3日時点では4,739人もの70歳以上の方の尊い命を奪っています。しかし、「人口動態統計」によると、誤嚥性肺炎による日本の死者数は毎年3万人以上で2017年は35,788人です。高齢者にとって新型コロナウイルスは誤嚥性肺炎ほど怖くないのかもしれません。また、全年齢層での新型コロナウイルス感染の死者数は、9月2日時点で1,248人です。一方、警察庁によると、昨年も3,215人もの尊い命を交通事故が奪っています。交通事故の方が新型コロナウイルスより怖いのかもしれません。つまり、新型コロナウイルスは「49歳以下では季節性インフルエンザより怖くなく」、「高齢者では誤嚥性肺炎より怖くない」事になるのかもしれません。

ただし、高齢者にとって新型コロナウイルスは驚異である事は事実です。やはり、49歳以下の方と高齢者では異なったバランス感のある対策が必要なのかもしれません。9月9日に高齢者施設の委細な研究結果が報告されました。新型コロナウイルスに感染した高齢者のうち43.8%は無症状です(Ladhani SN, EClinical Medicine 2020, 9/9 )。同様に、高齢者の多いダイヤモンド・プリンセス号の集団感染でも無症状者は58%でした。一方、症状がでた高齢者の死亡率は35.7%と非常に高くなります。つまり、高齢者には無症状の方が多く、知らず知らずのうちに施設内で感染を広めてしまうのかもしれません。そして、感染して症状が出てしまうと重症化を非常に起こしやすいと言う悪循環が起こるのかもしれません。また、この研究では、感染者全員のウイルス遺伝子配列も解析しています。驚く事に、異なった変異を持つ40種類以上の新型コロナウイルスが施設内で検出されています。すなわち、知らず知らずのうちに、いたる所から施設内に新型コロナウイルスが持ち込まれているのかもしれません。やはり、49歳以下の検査は症状のある方のみに限定して、残りの検査能力全てを高齢者関連事業者(高齢者施設とデイケアサービス)、その利用者、そして高齢者と同居されている方に集中するのが合理的なのかもしれません。また、たまに行うのでなく週一回の検査は必要かもしれません。

スェーデンから高齢者に関する調査結果が10月27日に報告されました(Branden M, Lancet Healthy Longevity 2020, 10/27)。新型コロナウイルス感染による死者が多いのは、集団生活を行う高齢者施設の高齢者と、人口密度が高い地域で66歳未満の働いている方と同居されている高齢者のようです。やはり、高齢者関連施設に特化した重点的なPCR検査が必要なのかもしれません。また、都市部で高齢者と同居されている方も細心の注意が必要です。

65歳以上を対象とした長期型介護福祉施設(long-term care facility)の大規模アンケート調査結果が2月11日にイギリスから報告されました(Shallcross L, Lancet Healthy Longevity, 2021, 2/11)。9,081施設中でアンケートに答えられた施設は56.4%で、160,033人の入居者と248,954人のスタッフが対象です。新型コロナウイルスの感染率は、入居者で10.5%、スタッフで3.8%です。9.1%の施設に大規模クラスターが起こっています。いくつかの要因が重なりクラスターが起こってしまうようです。この要因は、「感染疑いによる欠勤時のスタッフの賃金補償の不備」、「入居定員を超えた入居者数」、「入居者あたりのスタッフ数の不足」、「感染者の隔離対策の不備」です。また、スタッフが少ないと1人のスタッフが感染者も非感染者も介護しなくてはならず、これもクラスター発生の要因のようです。また、スタッフを一時的に増やすため人材派遣を活用すると、これもクラスター発生の要因となるようです。結果、潤沢な人員を確保できている非営利の施設では、クラスターの発生が少ないと報告されています。長期型介護福祉施設でのクラスター発生予防の難しさを浮き彫りにしている結果なのかもしれません。大阪府の吉村知事が指揮されているように、高齢者施設の高齢者に加えてスタッフに対するワクチンの早期接種が対策の一つかもしれません。

 

(FOCUSED PROTECTION):行政の対策について世界で激論が交わされ始めているようです(Burki TK, Lancet Respiratory Medicine, 2020, 11/24)。多くの国で現在行われているのが、都市封鎖などの行動制限により新型コロナウイルスの流行速度を抑える 「John Snow Memorandum」と呼ばれる戦略です。歴史的に流行速度が落とせる事が確実な手法です。一方、国民全員に行動制限を出す必要はないと言う「Focused Protection」と呼ばれる新たな戦略も提唱されています。「重症化の危険性のある人達を守る事に全勢力を注ぎ、重症化する危険性の無い人達にはインフルエンザ同様の対策に留め、経済を維持する」と言う戦略です。主に3つの理由により提唱されているようです。

  1. これまでの感染症と異なり、新型コロナウイルス感染では限られた方しか重症化しない。
  2. 一人でも感染者が出れば躊躇なく町を封鎖出来る中国と異なり、都市封鎖などの行動制限は新型コロナウイルスの流行を一時的に抑制するだけで、最終的に第2波に多くの国が見舞われている。
  3. 行動制限により数年後に起こりえる計り知れない副作用の懸念が払拭できない。

都市封鎖などの行動制限は劇薬にあたります。効果は強いのですが、強い副作用も起こしてしまいます。何度も劇薬を使い、その病気は治しても副作用で死んでしまっては意味がありません。劇薬の効果と副作用の影響を慎重に判断する時期に入っているのかもしれません。

まずは日本の現状を客観的に見てみました。厚生労働省の11月25日の報告では、新型コロナウイルスによる死者数は高齢者に集中しています。また、8月から11月の4か月間の新型コロナウイルスによる死者数は約1,145人です。一方、同4か月間の自殺者数は7,715人で、昨年の同期間に比べて増えた自殺者数も1,185人で新型コロナウイルス感染による死者数を僅かに超えています。「発症前の無症状の方が感染を広げている」という蓄積された結果(Sun K, Science 2020, 11/24)、さらには、症状が有っても軽いため約91%の方は検査を受けられていない事実(Quel C, Nat Med, 2020, 10/29)から考えると、国民全体を対象とした流行の抑制は難しいのかもしれません。また、第1波の緊急事態宣言による副作用も自殺者の増加という形で見え始めているようです。また、高齢者の感染者が増えれば、重症者が増える事も明らかです。やはり、高齢者を対象とした重点的な対策が新型コロナウイルスに対しては合理的であると個人的には思います。

「John Snow Memorandum」と「Focused Protection」のどちらも最優先課題は「医療崩壊を起こさない」です。よって、日本の医療体制と感染者状況を欧米諸国(イギリス、ドイツ、アメリカ、フランス)および医療崩壊を第1波で起こしてしまったイタリアと比較してみました。経済協力開発機構(OECD)によると、人口あたりの日本の医師数は、アメリカと同程度で低い水準にありますが、医師達が最も頼りにする看護師さん達は充分に確保されています。また、病床数の多さは世界でもずば抜けています。医療崩壊を起こしてしまったイタリアは病床数が日本の1/4と非常に少ないようです。最も重要な点は、新型コロナウイルス感染よる集中治療室での救命率が世界最高レベルであるように、最高水準の医療レベルが日本の特徴です。客観的に見て、日本の医療体制と水準は欧米に引けを取らないどころか、卓越していると言っても過言でないのかもしれません。しかし、感染者数が多すぎれば、やはり日本といえども過信はできません。よって、次に日本の新型コロナウイルスの感染者数を見てみました。世界の情報を毎日更新されている札幌医科大学医学部付属フロンティア医学研究所ゲノム医科学部門のデータを引用させて頂いています。これまでの累積感染者数が欧米に比べて数十倍少ないのが日本の特徴です。また、日本でも感染者が増え始めた11月23日から1週間の新規感染者数を比べても、欧米の数十分の一です。例えば、11月の人口100万人あたりの新規感染者数(1週間)は、アメリカの3,496人に対して日本は114人です。また、新型コロナウイルスの重症化を起こし易い肥満や鎌状赤血球症などの基礎疾患が日本人には少ないのも特徴です。事実、人口100万人あたりの新型コロナウイルスによる死者数は日本が17人なのに対して、イギリスが859人、ドイツが205人、アメリカが809人、イタリアが919人、フランスが809人です。客観的にみて、日本は医療体制も充実し、最高水準の医療レベルを維持し、欧米に比べて数十倍少ない感染者に遭遇している現状です。もし、この状態で医療崩壊を起こす可能性があるのであれば、今こそ「欧米に比べて少ない感染者数で、なぜ医療崩壊の危機に直面するのか?」を早急に調査そして改善する必要があるのかもしれません。

東京新聞のWeb記事によると、1月13日に菅首相の記者会見で米国ブルームバーグ社の記者が、「1日に万単位の感染者が出る国と比べると、かなり水準が違うにもかかわらず、日本では医療崩壊の懸念が出ている理由」に関する質問をされたようです。私も米国ハーバード大学医学部に22年間勤務した経験上、世界各国の医療従事者と話す機会がありますが、皆さん日本の医療崩壊の可能性については「Are You Sure?」、つまり「信じられない」と言う一応の反応です。世界中の多くの医療従事者や研究者達はブルームバーグ社の記者と同じ疑問を抱いているのかもしれません。一方、日本の新型コロナ治療に当たられている現場は逼迫しているのも事実です。欧米に比べて少ない感染者数と重症者数で医療現場が逼迫してしまう原因を調査し早急に改善してこそ、最先端の医療技術と医療体制を誇る「医療大国としての日本」の地位を世界で維持できると共に、多くの命を救えると真に思います。

日本の看護師さんの数は、世界でもトップクラスのはずですが、人手不足が起こっているようです。「新型コロナウイルス」と言う単語が付加されるだけで過剰に増えてしまう業務による疲弊、および風評被害等により仕事を敬遠される方もいらっしゃるのかもしれません。また、命を守る最後の砦は集中治療室です。日本医師会COVID-19有識者会ホームページに、スエーデンのカロリンスカ大学病院の宮川詢子先生がスエーデンの状況を詳しく報告されていたので読んでみました(https://www.covid19-jma-medical-expert-meeting.jp/topic/3743)。人口1,000人あたりの病床数は日本が12床以上に対してスェーデンでは約2床と非常に少ないため、医療戦力を最後の砦である集中治療室に集中されています。しかし、集中治療室勤務は、命の危険も伴い風評被害も受けやすいため給料を220%へと増やされているようです。日本でも新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長が「人員確保のための行政による金銭的サポート」を提言されています。大阪府の吉村知事も新型コロナ専門病院の看護師さん達に50万円の特別手当を支給されるようです。看護師さん無しでは医療は成り立ちませんので、人手不足が早急に解決できると祈っています。

「コロナ疲れ」、「コロナ観の相違」など初期の段階に比べ日本の状況も変わってきています。やはり、新たな戦略が新型コロナウイルスには必要なのかもしれません。「Focused protection」の対策としては、重症化の危険性がありながらも働いている方に対する公費による「サバティカル制度」の導入、すなわち公費による長期休暇をとってもらう事が提言されています。また、重症化の危険が高い方に対し、公費により宿泊所を提供することも助言されています。高齢者と同居されている方も、職種に応じて「リモートワーク」、「サバティカル」、「宿泊所の提供」が選択できれば、より効率的かもしれません。12月1日に小池東京都知事が「GO TO トラベルに、高齢者および基礎疾患のある方の自粛」をお願いされました。また、菅総理も容認されています。新型コロナウイルスによる重症化の危険性の高い方の命を守りながら経済もまわす「focused protection」の現れかもしれません。

また、高齢者施設の保護が非常に重要と思います。PCR検査による感染拡大阻止には、「たまに行う検査でなく、最低でも1週間に1度のP検査が必要」なことも報告されています(Grassly NC, Lancet Infectious Disease, 2020 8/18)。高齢者関連施設の職員に対する公費による週1回の定期的PCR検査が重症化患者数の抑制には効果があるのかもしれません。また、「新型コロナウイルスの鍵に対するIgG」が備わった方はヒトにうつす可能性はほぼ無くなるため、PCR検査を免除しても良いのかもしれません。やはり、日本の誇りは「思いやりのマスク文化」です。感染者全てがヒトにうつしているわけではなく、約15~18%の限られた方がヒトにうつしている事もわかっています(Sun K, Science 2020, 11/24)。重症化の危険が無い方は、「症状が無くても自分は感染しているかもしれない、だから絶対に高齢者にはうつさない」という思いやりの気持ちでのマスク着用を心よりお願いします。

様々なシナリオを考慮した数理モデルを用いて、効果的なワクチン接種法について2月3日に報告されました(Matrajt L, Science 2021, 2/3)。この数理モデルが、「focused Protection」の重要性を教えてくれているのかもしれません。「死者数を早期に減らす」ためには、「高齢者からワクチン接種を開始」する事が有効のようです。しかし、ワクチン効果が弱くなり早期の感染者数減少には至らないと報告されています。一方、「感染者を早期に減らす」には「若者からワクチン接種を開始」する事が有効のようです。しかし、早期の死者数減少にはつながらないようです。ワクチン接種においてでさえ、「高齢者に焦点をあてた死者数の減少」か「若者に焦点をあてた感染者数の減少」を選択しなくてはいけません。つまり、両方の目的を同時に達成する事は不可能に近く、「二兎を追う者、一兎をも得ず」となるのかもしれません。事実、多くの国では「ロックダウンにより感染者を減らし、それにより死者数も減らす」という対策をとられ、今の現状です。

[死亡率との相関因子は?]
日本株BCGの接種国では新型コロナウイルスによる死亡率が低い傾向を認めたため、新型コロナウイルス感染に影響を及ぼす可能性が報告されている以下の要因と新型コロナウイルスによる100万人あたりの死者数(5月21日現在)を比較してみました。人口あたりの死者数は、札幌医科大学フロンティア医学研究所のデータを使わせて頂いています。世界各国の結果を毎日アップデートしてくださるため、我々研究者には非常に有用で、この場をお借りして札幌医科大学フロンティア医学研究所の皆様に心より感謝申し上げます。

(BCG以外の検討項目)

死亡率が低い国すべてに共通して認められるのはBCG接種だけでした。また、最近になり爆発的に患者数が増えながら、BCGを接種しているロシアやインドでは依然死亡者数が欧米に比して非常に少ない状態です。同じく、感染者数が爆発的に増えているブラジルでは、他国と異なり細菌数が少なく特殊なモロー株を使っています。日本株BCGを接種している国の7月7日時点の100万人あたりの死亡者数は、イラク61人、サウジアラビア55人、パキスタン21人、フィリピン12人、日本7.7人、韓国5.5人、マレーシア3.7人と他国に比べて依然低いようです。といわれるBCGを接種しています。よって、日本株やソ連株に比べて抑制効果は疑問でしたが、ブラジルでも欧米に比べて死亡者は少ないのかもしれません。事実、6月15日での100万人あたりの死者数は、イタリア568人、アメリカ349人、ブラジル203人、ロシア47人、日本7.3人、インド6.7人です。また、ブラジルやロシアでは、その後爆発的に感染者が増え、7月7日時点の人口100万人あたりの感染者数は、イタリアの2,992人を遥かに超えて、ロシアは4,662人そしてブラジルは7,451人です。一方、7月7日時点の100万人あたりの死亡者数は、イタリアが576人、ロシアで69人、ブラジルで305人です。感染者数から考えると、イタリアに比べて死亡率はブラジルで4.7倍低く、ロシアでは13倍低い計算になります。

死亡率が突出して高い国を見ると、「高齢者が多く」、「肥満率が高く」、「BCGが義務付けられていない」という3つの共通点があるのかもしれません。すなわち、高齢による免疫力低下、BCGによる免疫訓練の欠如、そして肥満による横隔膜の動きが制限されウイルスを肺からはき出しにくい状態が重なることにより、死へとつながる重症化を引き起こしてしまうのかもしれません。事実、BMIが30を超えるような肥満の方に死者が集中しています。最近の統計学的報告でもBMIが30-35を超えると新型コロナウイルスによる死亡率があがる事が報告されています。また、衛生状態や医療体制に問題があるため、アフリカでは19万人以上の死者がでると当初は推測されていました。しかし、感染が拡大しながらも欧米諸国に比べて死者が非常に少ない状態です。アフリカの殆どの国でBCG接種が義務付けられていること、人口の60%以上が25歳未満の若年者である事が影響しているのかもしれません。また、日本を含むBCG接種が義務付けられている国では結核感染が未だ認められ、全世界で毎年400万人以上の命を奪っています。結核感染自体も新型コロナウイルス重症化の軽減に何らかの影響を及ぼしている可能性も否定はできません。

[重症化の決定は?]

重症化を左右するのは、免疫力と敵(病原体)の強さのバランスです。免疫力は「正常」、弱まった状態の「免疫低下」、ほぼ働かない状態の「免疫不全」に大別されます。免疫不全では、「日和見感染」として知られるように、我々が常に持っている「常在細菌」に対してでさえ死に至る感染症を起こしてしまいます。代表例は、高齢者の誤嚥性肺炎です。口腔内細菌と呼ばれる我々が口の中に普通に持っている細菌でさえ、肺に入ってしまうと死に至る肺炎を起こしてしまいます。誤嚥性肺炎は2017年だけでも本邦で35,788人もの尊い命を奪っています。免疫低下の状態では、常在細菌に対して問題はおこしませんが、季節性インフルエンザのように少し強い敵に対しては、苦戦して重症化してしまう場合があります。免疫が正常であれば、季節性インフルエンザのような弱い敵は、無症状か軽症のうちに撃退しますが、エボラ出血熱やSARSのような強い敵に対しては苦戦してしまい重症化の危険性もでてきます。重症化を理解するためには、免疫力だけでなく、敵、すなわち新型コロナウイルスの強さを知る必要があります。季節性インフルエンザと新型コロナウイルス感染症の類似点と相違点を日本のデータをもとに整理してみました。

[新型コロナと季節性インフルエンザの同時流行の時の検査は?]
基礎研究において鉄則があります。身体に重要な役割を担っている可能性のある新しい分子が発見されたとします。世界中の研究者が実験を開始するのですが、道具がありません。よって、初期の道具として遺伝子が使われます。発見された分子の遺伝子配列さえわかれば、熟練した研究室では数日以内にPCRによる検討が開始できます。そしてPCRの結果を元にした多くの論文が発表されます。遺伝子と異なり、タンパク質を基本とした道具の作成には時間がかかってしまいます。しばらくすると、タンパク質を基本とした道具ができ始め、PCRを使った論文とタンパク質を使った論文が入り乱れ始めますが、初期段階ではPCR結果の信用性の方が高いかもしれません。なぜなら、精度が担保されたタンパク質の道具を作り出すには技術と時間が必要だからです。しかし、時の流れと共に精度が担保された多くのタンパク質の道具も使えるようになります。この時期になると、PCRの結果だけを使い有名な科学・医学誌に投稿すると査読者達から必ず言われるお決まりの言葉があります。「タンパク質レベルで結果を再確認しなさい」です。何故なら、我々の身体に直接影響しているのは遺伝子ではなく、タンパク質だからです。新型コロナウイルスが我々の体に入るために必要な鍵は「スパイク」と呼ばれるタンパク質です。もし遺伝子があっても、スパイクが作られていなければ何もできません。

例えば、料理の材料(遺伝子)は揃えて、料理(タンパク質)を作っても、調味料を入れ忘れて味がなければ食べられません。また、死体にも遺伝子は残ります。遺伝子が陽性であっても、ウイルスが死んでいれば何もおこしません。料理を作っても腐らしてしまえば、誰も食べられないのと一緒です。すなわち、遺伝子が陽性でも、ウイルスが機能している確証はもてません。言い換えれば、料理に使われる食材だけを見て、その料理の味は判断できないという事です。よって、日常的にクリニックで季節性インフルエンザ流行時に行われているように、新型コロナウイルスの診断もPCR検査からタンパク質を検出する道具、すなわち抗原検査への移行期なのかもしれません。抗原検査には、「定性検査(陽性か陰性を判断する)」と「定量検査(ウイルス量も計算する)」の2種類があります。簡便に行えるのは定性検査で、PCRに比べて感度は落ちてしまうため無症状の患者さんには使用できません。しかし、症状がある患者さんでは、発症して2日目から9日目まではPCRと同等の感度があると厚生労働省が報告しています。つまり、「発熱などの症状がある」ためクリニックを受診される患者さんには、定性型の抗原検査も使用可能です。

「なぜ抗原検査の充実が必要か?」の最大の理由は、季節性インフルエンザと新型コロナウイルスの同時流行が冬に襲って来ると想定できるからです。この対策のため、季節性インフルエンザの予防接種を前倒しして開始した国もあるようです。もし現在の日本の制度で同時流行したら、どうなるでしょうか?熱が出たら、まず保健所で新型コロナウイルスのPCR検査を受けて、陰性ならかかりつけのクリニックに行ってインフルエンザの抗原検査を受ける事になるのかもしれません。この診断の遅れが、昨年だけでも本邦で3,325人もの尊い命を奪ったインフルエンザによる死者が激増する可能性も否定はできません。やはり、熱が出たら、「かかりつけのクリニックで季節性インフルエンザと新型コロナウイルスの抗原検査を同時に受ける」のが最善と個人的には思います。また、このためには、現在の新型コロナウイルスの指定感染症(二類相当)への分類が大きな壁になるのかもしれません。

8月18日に報告された数理モデルの試算では、PCR検査を毎週行えば100人に感染するはずが23人に抑え込め、検査をしなくても症状のある方が自宅待機するだけで43人に減少するようです(Grassly NC, Lancet Infectious Disease 2020, 8/18)。この試算が正しく、「毎週のPCR検査」と「検査無し」で、この差しか生じないのであれば、「ガムシャラなPCR検査」より「症状があれば自宅待機」を主軸とした対策のほうが合理的なのかもしれません。ただし、新型コロナウイルスは免疫弱者や血栓症を起こしやすい方には凶暴です。重症化の危険性がある方が多い高齢者施設などの職員に対しては、これまで以上の「週1回の重点的PCR検査」が必要かもしれません。それ以外の方にとっては、新型コロナウイルスは弱い敵であるため、症状があれば近くのクリニックで新型コロナと季節性インフルエンザの抗原検査を同時に受け、入院治療の必要がない感染者は必ず自宅待機する。また、重症化の危険がある方が同居されている場合は、ホテルなどの指定された療養施設で自己隔離する。そして、新型コロナウイルスに感染しても30%以上の方は無症状のため、「自分は感染しているかもしれない、だから免疫弱者には絶対うつさない」と常に想定して、ヒトと接する場では必ず「思いやりマスク」を着用する。このような対策で、新型コロナと季節性インフルエンザをたした死者数でさえ、昨年の季節インフルエンザによる死者数3,325人を下回ることができると個人的には信じています。

10月24日に興味深い結果が報告されました。吹き出す息(呼気)に含まれるガスの成分が新型コロナウイルス感染では特殊なのかもしれません。2施設の研究で、80~81.5%の精度で季節性インフルエンザ感染などの他の呼吸器疾患と区別できる可能性が報告されています(Ruszkiewicz DM, EClinical Medicine 2020, 10/24)。新型コロナウイルス感染者の呼気中では、エタノール、アセトン、オクタナールが増えて、メタノールモノマーが減っているようです。これらのガスの異常は、肺よりむしろ消化管や膵臓の変化が原因となっているようです。肺などの呼吸器に主に感染する季節性インフルエンザとは異なり、新型コロナウイルスは消化管など種々の臓器に感染するのかもしれません(Baum SG, New England J Med, 2020, 10/21)。また、呼気検査は、臨床ではピロリ菌感染の診断に、日常では飲酒運転の取り締まりに用いられており、キット化できれば簡便に行える手法です。今後、風船を吹くらませるだけで、簡単にクリニックで新型コロナウイルスの診断ができる日が来ることを願っています。

症状とスマートウオッチによる体調変化を組み合わせる事により、新型コロナウイルス感染を検出する取り組みが10月29日に報告されました(Quel C, Nat Med, 2020, 10/29)。30,529人を対象としています。3,811人に何らかの症状が出現し、実際PCR検査で陽性が確認された方は54人です。また、症状が軽いため3,751人もの方は検査を受けられていないようです。この結果も、感染者を探し出す困難さを浮き彫りにしているのかもしれません。PCR陰性者に比べてPCRが陽性であった方に多く認められた症状は、「咳」、「息苦しさ」、「味覚・嗅覚異常」のようです。、体調の変化では、心拍数には変化はないようですが、睡眠や日常の活動性が感染者では低下しているようです。

新型コロナウイルスの検出期間について、79もの論文を統計学的に整理した結果が11月19日に報告されました(Cevik M, Lancet Microbe 2020, 11/19)。PCR陽性となる期間は上気道(鼻、咽頭、喉頭)で平均17日、最長で83日のようです。糞便では平均17.2日、最長で126日です。しかし、PCRは感度が高いためウイルスの死骸(抜け殻)を検出しているようで、ヒトに感染させる可能性のある生きたウイルスは、症状が出てから9日以内にほぼ全例で消えています。よって自己隔離は10日で充分と推奨されています。これまでの多くの報告されていたように、ヒトにうつす可能性が高い時期は、症状が出る以前の数日間と、症状が出た後5日目までのようです。

濃厚接触により感染した14,622人の調査結果が11月24日に報告されました(Sun K, Science 2020, 11/24)。濃厚接触から平均5.3日目(2.7~8.3日)で発症するようです。12歳未満の子供は感染しにくく、65歳以上になると感染しやすい事も報告されています。一方、感染のさせやすさ、すなわち人にうつす危険性に年齢差は無いようです。最も感染させる可能性が高い時期は、症状が出る直前のようです。これまで多くのグループから報告されたように、新型コロナウイルスは無症状のうちに知らず知らずのうちに人にうつしてしまう事になります。マスク着用により飛沫を飛ばさない事が、最善の予防策かもしれません。

PCRは感度が高いため、感染力が無く死骸となった新型コロナウイルスまで検出してしまう欠点は多く報告されています。日本に比べてPCRを多用している韓国からも同様の結果が1月27日に報告されました(Kim M-C, New England J Medicine 2021, 1/27)。病原性を持つ、すなわちヒトにうつす可能性がある新型コロナウイルスが実際に潜んでいる期間は、症状がでてから平均で7日間、長くても12日間のようです。一方、PCRは死骸も捕まえてしまうため、平均で34日間は陰性とならないようです。これまで世界中で蓄積されてきた科学的根拠からすると、感染していても「PCRで見逃される方は最低でも10人に1人以上」はいらっしゃるため、PCR陰性でも感染していない証明にはなりません。その上、「PCRでは人にうつす可能性の無い多くの方を感染者として扱っている」ことになります。つまり、PCRでは全てが曖昧になってしまいます。季節性インフルエンザで日常行われているように、「症状がある方にのみに行う抗原検査」、「クラスター阻止と定点観測に限局したPCR」による公共対策、さらには新型コロナウイルスの特徴である高齢者の重症化に対応するため、「高齢者関連施設への定期的抗原検査またはPCR検査」の導入が合理的かつ効果的ではないかと個人的には思います。新型コロナウイルスを特別扱いせず、通常の対応に戻し始める時期に入ったのかもしれません。

病院の初診時に行われるルーチンの血液検査結果および身体所見を人口知能により解析することにより77.4%の感度(新型コロナウイルス感染者を見逃さない確率)と95.7%の特異性(新型コロナウイルス感染以外を陽性と判断しない確率)て新型コロナウイルス感染を診断できる可能性が12月11日に報告されました(Soltan AAS, Lancet Digital Health 2020. 12/11)。155,689人の患者さんの中に含まれていた437人の新型コロナウイルス感染者を早期発見できるかを検討しています。最終判断には人工頭脳による包括的解析が必要ですが、新型コロナウイルス感染の可能性が高まる幾つかの指標も示されています。酸素飽和度の正常値は96%以上ですが、初診での新型コロナウイルス感染者の平均値は95.3%と僅かに低下しているようです。酸素飽和度はパルスオキシメーターで簡単に測定できるため、新型コロナウイルス感染者、特に早期治療が必要となる可能性がある感染者を探し出すには有用かもしれません。血液検査では「炎症を示唆するCRPの増加」、「血液の固まり易さを示唆するプロトロンビン時間の短縮」が新型コロナウイルス感染では認められるようです。新型コロナウイルスの重症化で免疫の獲得免疫部隊であるリンパ球が減る事は多く報告されます。一方、初診時では「アレルギーに関与している好酸球と好塩基球が減る」可能性も示されています。また、救命センターに救急搬送された新型コロナウイルス感染者では、血液ガスの検査で「カルシウムの増加」と「酸素が足りなくなると増えてくるメトヘモグロビンの増加」が認められるようです。

[重症化しやすい人は?]
これまでの報告をもとにすると、新型コロナウイルスの重症化を最も招きやすい要因は、「高齢」、「基礎疾患」、そして「肥満(BMI>30)」になります。基礎疾患によっても重症化の危険性は異なるようで、米国疾患管理予防センター(CDC)は、「重症化の可能性が高い病気」「重症化の可能性が中等度の病気」、「重症化の可能性はあるが低い病気」に基礎疾患を分類しています。また、男性型脱毛症はアンドロゲンの過剰産生により、幼少時のBCG未接種は自然免疫細胞の訓練不足により、O型以外の血液型の方は血栓症のリスクが増える事により、新型コロナウイルス感染の重症化の危険を伴うかもしれません。これらの要因が多ければ多いほど、重症化の危険性が増すのかもしれません。よって、いくつかの要因がある方は、新型コロナウイルス再流行時には「感染予防」のための、より一層の注意が必要かもしれません。また、米国CDCは7月10日に重症化の危険性があるため注意が必要な人は、「65歳以上で基礎疾患のある人」と「85歳以上の高齢者」と位置付けています。また、若くても「肥満」や「基礎疾患」のある方は注意が必要です。

 

糖尿病だから重症化しやすいわけでなく、重症化の危険性は血糖値のコントロール状態に依存している可能性が8月13日に報告されました(Holman N, Lancet Diabetes & Endocrinology 2020, 8/13)。I型糖尿病ではHbA1cが10以上、またはBMIが20以下で重症化しやすいようです。II型糖尿病ではHbA1cが7.6以上で重症化の危険性が増えるので、「かかりつけ医」の指示に従い、適度の運動を交えて血糖値を安定させることをお勧めします。また、肥満は高齢者より、むしろ若年者を重症化に導く可能性も報告されています(Holman N, Lancet Diabetes & Endocrinology 2020, 8/13)。若くてBMIが30を超えている方、例えば身長176cmで体重が92キロ以上の方は注意が必要です。また、新型コロナウイルスによる死亡率が、腎移植後の患者さんにおいて非常に高い可能性がスペインから8月13日に報告されました(Cresp M, Transplantation 2020, 8/13)。新型コロナウイルスに感染した腎移植後の患者さん414人の検討では、ICUへの入院率は12.1%、人工呼吸器装着率は17.6%、そして死亡率は26.3%です。理由は明らかではありませんが、腎移植歴のある患者さんにおいては細心の注意を払われる事をお勧めします。 一方、肝臓移植自体は新型コロナウイルスの重症化のリスクとならない事が8月28日に報告されました(Webb GJ, Lancet Gastroenterol Hepatol 2020, 8/28)。

8月24日に米国マウント・サイナイ病院から新型コロナウイルス感染者1,484人を対象とした検討が報告されました。死につながる重症化の危険因子は、高い順に、加齢、IL-6増加(> 70pg / mL)、IL-8増加(50 pg / mL)、TNFα増加、肥満、男性、慢性腎不全、慢性心不全、心房細動、不眠と報告されました。統計学的に優位差があるのは、慢性腎不全までのようです(Del Valle DM, Nat Med 2020, 8/24)。統計学的有意差はありませんでしたが、不眠も重症化を起こす危険因子の上位に位置付けられています。新型コロナウイルス対策として、十分な睡眠をとられることをお勧めします。

 

健康診断で「耐糖能異常」、「脂質代謝異常」、「高血圧」、「肥満」を指摘されながらも放置されている方がいらっしゃるかもしれません。これらの疾患を放置してしまえば、新型コロナウイルス感染による重症化が起こり易くなることは明らかです。自分の命を守るため、今こそ近所の医師にご相談下さい。

2020年3月1日から5月31日の期間の119,741人の新型コロナウイルス感染による入院患者さんを対象とした大規模調査結果がイギリスから2月15日に報告されました(Navaratnam AV, Lancet Respiratory Medicine, 2021, 2/15)。91,541人は退院されていますが、28,200人(30.8%)は入院中に亡くなっています。入院しても死につながる危険を伴う要因は、「70歳以上の高齢」で、特に「70歳以上の男性」では著名に死亡率が増加するようです。また、インドやパキスタンなどの「南アジア人」の死亡率も高いようです。その他の入院中の死亡率が上がる要因は、「血管の病気」で1.227倍、「心不全」で1.606倍、「脳梗塞」で1.176倍、「痴呆症」で1.496倍、「膠原病」で1.242倍、「糖尿病」で1.295倍、「慢性腎疾患」で1.158倍、「ガン」で1.542倍、「転移ガン」で2.053倍、「肥満」で1.476倍と報告されています。また、これまでの報告とは少し異なる点は「肝疾患」です。中等症から重症の肝障害では死亡率が5.433倍も爆発的に増える可能性が報告されています。

[重症化率は?]
PCR検査の増加により、新型コロナウイルスの「氷山の一角」ではなく「全貌」が見え始めています。全貌(感染者した人の母集団)が見え始めた事により、初期に報告された重症化率や死亡率が多くの国で減少して来ているようです。事実、米国と韓国から「基礎疾患の無い49歳以下の重症化率は0.1%以下」と報告されています、即ち1000人に1人以下です。また、3月1日からデータが蓄積されている米国CDC(weekly Summary)の7月24日の報告では、全年齢における重症化率は0.12%と報告されました。

日本集中治療学会では、新型コロナウイルス感染で人工呼吸器を使用されている重症患者数を随時更新され非常に貴重な情報を提供されています。7月29日に報告された日本の感染者数は8,446人で、人工呼吸器が使用されている患者さんは74人、すなわち0.88%となります。重症化率は、米国の値0.12%より約7倍多くなります。この0.88%が正しいかもしれませんが、新型コロナウイルス感染では無症状や軽症が多いことからすると、感染者数は8,446人ではなく、既に59,122人(8,446人 x 7)いらっしゃると考えるのが妥当かも知れません。また、第一波の時に感染者数が最多(現在の感染者数)だったのは4月26日の9,557人で、人工呼吸器を必要とする患者さんが最多となったのは、4月27日の311人です。重症化率は3.25%という計算になり非常に高いようです。4月27日時点に人工呼吸器を必要とされた患者さんは、今回より4.2倍多くいらっしゃいます。となると、59,122人 x 4.2倍で、248,312人の方が第一波で既に感染されていた可能性も否定はできません。すなわち、感染者数を正確に把握することは不可能にちかく、「感染者数」で一喜一憂するのではなく、新型コロナウイルスの「流行状況」そして「深刻さ」をより反映している「重症化した患者さんの数」を見て、慎重かつ冷静な判断が必要なのかもしれません。

感染者が増加し続けているので、8月4日時点で感染者数は12,391人になりました。感染者数の増加に伴い人工呼吸器が必要な患者さんも104人と増えています。重症化率は、4月27日が3.25%、7月29日が0.88%、そして8月4日が0.84%と第一波に比べて減少の傾向を認めています。また、他国から報告されているように、感染者数の掘り出しにより分母が増えれば増えるほど、重症化率も低下するのかもしれません。

人工呼吸器が必要となった重症患者さんが、大阪府では8月12日に49人と劇的に増えています。8月12日時点での大阪府の新型コロナウイルス感染者数は1,674人ですので、重症化率は2.9%です。同日の東京都の重症化率は0.64% (感染者数3,612人で人工呼吸器が必要な患者さん23人)です。重症化率が大阪府では東京都に比べて4.5倍高くなっています。米国CDCでは「85歳以上の方」と「基礎疾患のある65歳以上の方」に対して重症化の危険性を呼びかけています。8月6日から12日までに感染が確認された方の内、80歳以上は大阪府で6.5%(新規感染者数約975人中、80歳以上は約63人)、東京都で1.4% (新規感染者数約2188人中、80歳以上は約31人)です。80歳以上の感染者割合が、東京都に比べて大阪府では4.6倍高くなっています。80歳以上の感染者割合に依存して、重症化率も増えるようです。高齢者とくに80歳以上の方に対する感染予防の徹底した対策、そして、免疫強者は「マスクを必ずして、高齢者には絶対にうつさない」という心がけが重要かもしれません。また、高齢者の方で「マスクをすると息苦しいから」という理由で、マスクなしで外出される方がいらっしゃるかもしれません。実は、この症状が「呼吸機能が低下していて重症化の危険性が高い」事を教えてくれています。このような症状のある方は、感染流行時の外出は控えられた方が得策です。

重症化率が低くても感染者が増えれば、それに相関して重症者数が少なからず増えてきます。また、高齢者の感染率が増えれば、重症者も増えます。つまり、医療崩壊を起こさないためには「免疫弱者にうつさない」ことが非常に重要で、無症状や軽症で済む免疫強者ほど「思いやりのマスク着用」が必要です。

免疫力や新型コロナウイルスによる重症化のリスクは日々変動します。体質的に重症化のリスクが低くても、飲み過ぎは免疫力を低下させると共に、脱水により血栓症の危険性を増してしまいます。睡眠不足や蓄積した疲労も免疫力を顕著に下げてしまいます。自分は大丈夫と思い、夜通し飲んでしまうと「何故私が集中治療室にいるの?」という結果になるかもしれません。また、免疫軍が新型コロナウイルスと戦い勝利を収めないと、重症化につながります。戦いにおいては、敵の数が少なければ少ないほど有利です。新型コロナウイルスに大量に曝露してしまうと、いくら免疫力が強くても苦戦してしまう事になります。免疫強者でも、新型コロナウイルスに大量曝露する行動や場所は避ける事をお勧めします。

 

[合併症の症状は?]
新型コロナウイルスが爆発的に蔓延したアメリカでさえ、免疫力が維持されていれば98%以上の方は無症状か軽症ですみます。しかし、何らかの症状が出た患者さんのうち、49歳以下で1.7%、50~65歳で4.5%、65歳以上では7.4%の方が入院による治療が必要となるとの報告が5月にされました。しかし、PCR検査数の増加により母集団も増加したため、7月10日の米国CDCの新たな報告では入院率も減少したようです(https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/covid-data/covidview/index.html#hospitalizations)。新たな報告では、PCRで陽性が確認された患者さん10万人のうち入院治療が必要となった方は、0~4歳で9.4(0.01%)、5~17歳で4.4(0.005%)、18~29歳で37.3(0.04%)、30~39歳で66.3(0.06%)、40~49歳で104.4(0.1%)、50~64歳で161.7(0.16%)、65~74歳で230.6(0.23%)、75~84歳で381.5(0.38%)、85歳以上で590.3(0.59%)と報告されました。非常に少ないですが、重症化はゼロではありません。新型コロナウイルスの重症化の原因の一つは血栓症です。血栓症は血が固まり突然に血管が詰まる事により起こる病気で、エコノミークラス症候群も肺の血栓症が原因です。血管が詰まる場所により重症度や症状が異なります。また、ウイルス増殖の継続やサイトカインストームなども重症化の原因となります。新型コロナウイルスが未知であった段階と異なり、これらの合併症は既に織り込みですので、以下の様な症状が出た場合は専門の医師に早急にご相談して下さい。

共存が必要なウイルスに対しては、「がむしゃらに感染者を探し出す」ではなく、「重症化する危険性の高い感染者」を早期に探しだし適切な治療を開始する事が重要と思います。重症化した患者さんに特異的な血液検査の所見も蓄積されてきています(Gupta A, Nat Med 2020 p1017)。血栓ができると増えてくるD−ダイマーの検査は、血栓症の合併による重症化の危険性を秘めた患者さんを探し出すのに有効な可能性も報告されています。サイトカインストームは、刺殺と毒殺が得意なCD8陽性T細胞の減少や、免疫の暴走を止めるCD4陽性制御性T細胞の減少などが引き金になります。これらの細胞群を含むリンパ球の減少を察知するための白血球分画検査も、重症化の予知には有効かもしれません。各々の患者さんに最適な治療を行うために、AIを活用した「個別化医療」の取り組みが多くの疾患で既に始まっています。予想通り、AIを活用し「新型コロナウイルス感染が重症化する患者さんを早期に探しだす」試みも行われているようです(Zheng Y, Patterns 2020, 7/29)。D−ダイマーの増加やリンパ球減少に加えて、サイトカインストームを起こすインターロイキン6により作り出される「CRP(C反応性蛋白)」の増加、筋肉特に心臓の筋肉が壊されると出てくるCK(クレアチンキナーゼ)やLDH(乳酸脱水素酵素)の増加、肝臓が壊されると出てくるALTやASTと呼ばれる2種のトランスアミナーゼの増加、肝臓が機能しない時や栄養状態が悪いと下がってくるアルブミンの低下が、重症化の危険性を秘めた感染者を早期に探し出すために有効な指標になるかもしれません。また、CRPが52.14 mg/mLを超えた場合や、全身性炎症の指標であるプロカルシトニンが0.1 ng/mLを超えた場合は死亡につながる可能性がある事も9月14日に報告されています(Xu J-B, Sci Rep 2020, 9/14)。S100A8とS100A9と呼ばれる2つの蛋白より構成され「カルプロテクチン」と呼ばれる抗菌作用のある物質も重症および亡くなられた患者さんで増加していることが10月20日に報告されました(Shu T, Immunity 2020, 10/20)。

血小板の起源である巨核球や、マクロファージの起源である単球がS100A8とS100A9を発現する事が、サイトカインストームの原因となる可能性が2月3日に報告されました(Ren X, Cell 2021, 2/3)。

また、血管内皮細胞から発見され、心筋梗塞などの虚血性疾患や血管炎症のマーカーとして臨床で用いられている「ペントラキシン3」と呼ばれる物質も、新型コロナウイルス感染で17.3 ng/mLに増加し、感染後早期に亡くなられる方では、さらに39.8 ng/mLまで増加する事が11月18日に報告されました(Brunetta E, Nat Immunol 2020, 11/18)。

また、重症者の中で、サイトカインストームが原因の患者さんを探し出す指標も報告されました(Laing AG. Nat Med 2020, 8/17; Vaninov N. Nat Rev Immunol 2020 p277)。免疫軍を戦場に呼び寄せるIP-10(CXCL-10)と呼ばれるケモカインの血中濃度が350 pg/mlを超える場合や、敗血症などで著増するプロカルシトニンやフェリチンが激増した場合はサイトカインストームの可能性が示唆されるようです。免疫軍は非常に統率された組織です。戦況を冷静に判断して援軍を呼び寄せる担当も決まっています。一方、兵隊を戦場に呼び寄せる事ができるIP-10と呼ばれるケモカインは、免疫兵以外も作れます。免疫細胞以外の一般の細胞がパニックによりIP-10を過剰に発すると、新型コロナウイルスに勝てるはずが、逆に暴動(サイトカインストーム)を導いてしまいます。事実、IP-10の上昇は「獲得免疫軍の乱れ」を示して事が9月16日に報告されました(Moderbacher CR, Cell 20209/16)。我々の身体の中と同じようなことが、身体の外(社会)で起こらないとは限りませんので、「新型コロナウイルスを正しく恐れ、パニックにならない」ことが重要です。

また、高熱で発症した場合も重症化率が上がる可能性が報告されました。ニューヨーク市マウントサイナイ病院からの報告では38.4℃以上で(Yadaw AS, Lancet Digital Health 2020, e516)、中国武漢からの報告では39℃以上(Wu R, The Innovation 2020, 8/28)で重症化の可能性が出て来るようです。

[治療法は?]

新型コロナウイルスのような未知の病原体に対しては、①「封じ込める」、②「ウイルスを殺す特効薬で発病させない」、③「予防接種により感染拡大を防ぐ」、④「病気になっても命は救う」が対策となります。①が理想ですが、残念ながら新型コロナウイルスは「共存が必要なウイルス」のようです。②と③については、実現が近づきつつあり、④の「病気になっても命は救う」は、科学的そして臨床的根拠に基づき確実に成果が出てきています。
トラプ大統領が新型コロナウイルスに感染されました。74歳という年齢に加え39℃を超える発熱、そして血液中の酸素濃度の低下から考えると、これまでであれば人工呼吸器の装置が必要になり長期間の入院の可能性が非常に高かったと思います。しかし、結果は僅か3日間の入院で退院されています。治療の賜物と考えるのが妥当かもしれません。トランプ大統領に不整脈があるかは不明ですが、血栓予防のための少量のアスピリンを常用されています。発熱の翌日に投与されたのは、未承認の新薬で敵を一網打尽にできる矢(中和抗体)が2種類入っています。その翌日に投与されたのが、ウイルスの増殖を押さえるレムデシビルで、最後に免疫抑制薬であるデキサメタゾンが投与されています。すなわち、「血栓を予防」しながら、矢で「新型コロナウイルス軍に大打撃」を与え、その後に抗ウイルス薬で「隠れ家に潜むウイルスも一網打尽」にして、最後に「免疫軍の暴走を防ぐ」ためにデキサメタゾンで免疫兵を落ち着かせる順番で4段階の波状攻撃的な理にかなった治療戦略だったのかもしれません。

抗体を利用した「新型コロナウイルスを撃退する」治療薬も、今回トランプ大統領が使われた2種類の新型コロナウイルスに対するIgG型抗体を含む「カクテル抗体」を始めいくつか出てくると思われます。また、抗体を含んだ「血漿投与」も期待が持てる結果が報告されています(Liu STH, Nat Med 2020, 9/15)。

形質細胞様樹状細胞と呼ばれる免疫細胞が産生するインターフェロンαとβには、ウイルスの増殖を抑制する作用があります。よって、C型肝炎の治療にインターフェロンαまたはβの皮下注射や静脈注射が持ちいられていましたが、副作用が強いのが欠点でした。この問題を克服するため、携帯用のネブライザーによりインターフェロンβを吸入させる第2相臨床試験の結果が11月12日に報告されました(Monk PD, Lancet Respiratory Medicine 2020, 11/12)。人工呼吸器が必要ない中等症101名が対象となっています。毎日1回の吸引が14日間行われ、14日目に44%の患者さんが回復されています。一方、偽薬群で回復された患者さんは22%て、インターフェロンβの吸入は新型コロナウイルス感染からの回復を早めてくれるのかもしれません。また、副作用も頭痛程度でとどまるようです。

インターフェロンαとβはI型インターフェロン(IFN)に分類されます。III型IFNもI型IFNと同様の作用がある事は既に報告されています。III型IFNに分類されるインターフェロンλ1(別名:IL-29)の臨床試験結果が2月5日に報告されました(Feld JJ, Lancet Respiratory Medicine, 2021, 2/5)。新型コロナウイルスに感染した30名に対して、症状が出てから7日以内にインターフェロンλ1が皮下注射されています。7日後に新型コロナウイルス量が100万個/mL以下になった患者さんは、インターフェロンλ1投与群では79%、偽薬投与群では38%のようです。

免疫軍が新型コロナウイルスに敗れてしまうと、医師の助けが必要になります。しかし、新型コロナウイルスが蔓延を始めた初期の段階では武器の種類も少なく、医師達は竹槍で新型コロナウイルスに立ち向かうような状態だったのかもしれません。しかし、作用の異なる数々の薬、すなわち武器を医師達が既に使える段階に入ってきています。重症化しても、尊い命は救える段階に入ったのかもしれません。竹槍しか使えなかった初期でさえ、日本の集中治療室の救命率は世界トップです。この世界最高水準の医療に数々の武器が加われば「鬼に金棒」かもしれません。


新型コロナウイルスを正しく恐れ、「うつさない」「うつらない」を心掛け、感染してしまっても無症状・軽症で済むように免疫力を強化しましょう。また、水分補給に心がけ新型コロナウイルスのテロ行為である血栓症を予防しましょう。それでも、合併症の兆候が不幸にも出てしまったら躊躇せずに医師に相談しましょう。


文責:久留米大学医学部免疫学講座 溝口充志

 

 


M5岩野彩子さんがRMCPでブラウン大学のJack Wands研究室で行った実験がCells (IF: 4.829)にアクセプトされました。

 


4月6日の西日本新聞 (https://www.nishinippon.co.jp/item/n/598230/) と4月15日のRKB毎日放送の今日感モーニング(写真)で免疫強化についてお話させて頂きました。多くの皆様にお世話になりありがとうございました。

April 2020, My opinion to strengthen immunity for fighting against COVID19 was published in Nishinihon newspaper and broadcasted in RKB Mainichi TV. Millions of Thanks to related persons in this regard!!



 


ブラウン大学からNoahが本学形成外科と循環器内科でのクリニカルクラークシップに参加のため来日しました。 残念ながらコロナウイルスの影響で急遽帰国となってしまいました。

January, 2020. Noah from Brown University Alpert Medicine joined our clinical clerkship, but Corona virus concern unfortunately forced him to return USA. We are very much looking forward to seeing you again.


 Innternational Online Conference

手振り身振りを含めた実践英語を肌で感じてもらうため、月2回行われていたハーバード大学医学部とのSKYPEテレビ会議には、本学医学部学生をはじめ久留米大学附設中学の生徒さん達にも多数参加して頂きました。今後も不定期ではありますがInternational Online Conferenceを継続致しますので宜しくお願い致します。

The International Online Conference through SKYPE has been held to enhance our international collaborations and provide students an opportunity to understand practical English (with body language) from experience. This conference will be continued on an irregular basis.




助教・大学院生募集! 当講座では免疫学研究に興味のある助教・大学院生を募集しています。