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 週刊:がんを生きよう


 第40回目  がんを生きた方々の悩みとご家族の悩み①


  若くして発症した胃がんや子宮頸がんの方々では慢性感染症が発がんの原因になっている
 場合があります。胃がんはピロリ菌、子宮頸がんはヒトパピローマウイルスです。もし、胃
 炎や子宮の炎症がある方、また、ご家族に胃がんや子宮頸がんに罹患した方がおられた場合、
 ぜひ、病院を受診して検査を受けられることをお勧めします。 今回からはテーマを変えて、
 これまで当方の個別化がんワクチン療法を受けられた方々の中から、懸命に「がんを生きた」
 と思われた方々の悩みとご家族の悩みを紹介させていただきます。一部は拙著「がんを生き
 よう:あなたのT細胞が主役です」(医学と看護社出版)に記載しております。

 患者さん(お一人目):食道がん手術後に転移性肺がんが出現し、抗がん剤治療を再開した
 ものの副作用が強くみられたため、がん治療が中止となりワクチン外来を受診されました。
 
  初診時所見: 軽度の咳、たん、口腔や咽頭の炎症や圧迫感などみられ、白血球減少症、
 貧血、血小板減少症、リンパ球減少症など抗がん剤の副作用が顕著であったために初めは臨
 床試験には不合格でした。しかしながら、その1か月後にはリンパ球減少症などが回復して
 いましたので、ワクチン投与が可能となりました。いつも御嬢さんと一緒に受診されていま
 した。
 対策と経過: 白血球減少症や貧血に対して十全大補湯、口腔や咽頭の炎症には半夏瀉心湯
 を処方して改善がみられました。ワクチン開始後まもなく体調が顕著に回復し、画像評価で
 もがん増悪を認められず、農作業を行うなど普通の日常生活を送ることができていました。
 その後、ご親戚の不幸があり体調を一時崩されたこともありましたがそれも改善することが
 できました。しかし奥様の三回忌法要後から徐々に体調不良となり、腫瘍マーカー増大と胸
 水貯留が出現し、当院への通院が不可能となりました。その後はご自宅で療養しておられま
 したが永眠されました。がんが見つかってから4年2か月、ワクチン外来受診日から数えて
 1年1か月を経ておりました。

  免疫反応: 1クール(6回投与)終了時の投与ワクチンへの免疫反応は極めて良好で、その
 後の免疫増強もありました。進行食道がんにて治療がないといわれ当院受診後から更に1年
 余も生存されました。当方ワクチンが貢献した可能性があると判断されます。

 考察: この方は、「奥様の三回忌法要を目標にしてがんを生きた」と推察された方です。
 奥様の三回忌法要を終えてから徐々に体調を崩し永眠されました。いつも御嬢さんが付き
 添ってがんワクチンセンターを受診されておりました。ワクチン外来受診日から数えて6か月
 程して受診されたある日、御嬢さんから「父が最近食事をあまり取らなくなりました。困って
 います。なにか良い方法はないでしょうか?」と質問をいただきまた。そこで、お父さん(患
 者さん)に食欲がないことの原因をお尋ねしたところ、「連れの3回忌を終えたので・・・」
 と受け取れる内容のお話しをされました。その時の診察や検査所見では特別な異常はありま
 せんでした。 この方以外にもご家族への想い(例えばご子息の結婚式)に関連して、その日
 を目標にして「がんを生きよう」とされる方が幾人もがんワクチン外来に受診されておられ
 ます。その方々の中には設定した目標の関連行事が終了した後から体調不良になる事があり
 ます。


 第41回目  がんを生きた方々の悩みとご家族の悩み②


 患者さん(お二人目): 体重減少、心窩部痛、食事後の食道閉塞感があり、精査したところ
 進行胃がん(StageIV)と診断され、手術と抗がん剤治療を受けられましたが8か月後に肺転移
 が出現し、その後3番目の抗がん剤治療中に当院を受診されました。

  初診時所見: 顔色不良、顔面や下肢の浮腫が目立ち、腹診では心窩部圧痛、舌診では暗赤
 色の肥大舌と舌裏静脈怒張があり、瘀血(おけつ)状態と診断されました。血液所見では肝
 機能異常、貧血、CRP高値、好中球比率増加とリンパ球減少症があり、腫瘍マーカーも高値
 でした。

  対策と経過: 一般状態不良な進行胃がんであることから、多めの漢方薬で症状改善を図り
 ました (貧血に十全大補湯、浮腫や瘀血に通導散と桂枝茯苓丸、心窩部痛・食道閉塞感に半
 夏厚朴湯)。また抗がん剤の投与間隔も延長してもらい、好物の菓子類、果物、お酒と外食を
 控えて、ご自宅での和食中心の食事を勧めました。その結果、数カ月後には種々の症状も消
 失し、腫瘍マーカーの低下や肝機能異常等も改善され、普通の日常生活が出来る程度まで快
 復しました。しかし3クール目のワクチン投与の数日前より、発熱、背部痛、下痢、食欲低
 下、強い疲労感などが出現し、血液検査でも好中球数増加とCRP高値を認めました。がんの
 急性増悪もしくは急性感染症が疑われ、早急に主治医に相談されることを勧めました。

  ~~~その後の経過はご家族からの連絡によるものです。~~~
 「その後、病院での精査も受けずに仕事に集中して、それが一段落した直後に意識混濁と
  なり病院に救急搬送されました。脳圧亢進状態が続き、そのまま改善することもなく、
  永眠された」とのことでした。

 免疫反応: 投与ワクチンに対する免疫増強は順調であり、ワクチンによるT細胞機能の復活
 が腫瘍マーカー低下や一般状態改善に寄与したと判断されます。

  考察: この方は、がんを生きよう!の目標を「仕事の完成」とした方と推測されます。ワ
 クチン開始直後から日常生活に留意されてきましたので腫瘍マーカー低下や症状改善がみら
 れました。しかし、心血を注いだある仕事を完成させるために、睡眠時間を削り、ご家族と
 のお食事の時間までも節約されたようでした。そのような無理な日常生活が比較的長く続い
 たことにより、上にお示ししたような病態悪化を招いたと判断されます。診断日から1年9
 か月、ワクチン外来受診日から数えて8か月経ておりました。

  がんワクチン外来にはこの方のように、特定の仕事を完成させることを「がんを生きる」こ
 との目標とされ、その達成後に急激に体調を崩される方が幾人もおられます。お看取りされ
 たご家族の悩みはとても深い悲しみと苦悩に満ちたものであったと推察されます。


 第42回目  がんを生きた方々の悩みとご家族の悩み③


 患者さん(三人目): 肛門痛や下血が見られたために精密検査を受けたところ内臓原発の
 悪性黒色腫と診断された方です。手術と抗がん剤治療を受けましたが、肝臓に転移が出現し
 たため、別の抗がん剤治療に変更されました。しかしながら、重篤な副作用も発症したため、
 全てのがん治療が中止となりました。その後、緩和ケア病院に通院して鎮痛薬と睡眠薬を受
 けておられましたが、免疫療法を希望してがんワクチン外来受診となりました。

  初診時所見: 普通の日常生活が過ごせており、食欲も良好でした。検査データでは軽度の
 貧血、リンパ球減少症および肝機能異常がみられる程度でした。

  対策と経過: 食事は玄米菜食とし、毎日お庭に出て草花の手入れに数時間費やすなど、普
 通の日常生活が維持できておりました。ワクチン投与のみにて9か月間は肝臓転移も縮小し、
 順調に経過しました。その後、腹水の出現や肝転移の増悪がありましたが、痛み止めを増量
 する程度でした。ワクチン投与を開始して18か月後よりはがん増悪が進みましたが、連日
 お庭に出て草花の手入れを続けられていました。しかし、徐々にワクチン外来への通院も
 困難になり自宅療養となり、肝性脳症が出現し永眠されました。直腸の悪性黒色腫と診断さ
 れてから3年9か月、もう治療法がありませんと宣告されてから3年、ワクチン外来に受診さ
 れてから2年2か月が経っておりました。

 免疫反応: 1クール終了時からワクチンに対する免疫増強は極めて良好で、その後も極めて
 高い免疫反応が継続しました。

  考察: この方は、がんを生きる目標を自然の草花とされた方です。ワクチン外来に受診さ
 れた当初から「死ぬのは怖くないけど、草むしりが出来ないのが怖い!」と繰り返し言われ、
 お庭の草花の手入れを生きがいとされた方でした。内臓に原発する悪性黒色腫の予後は不
 良で、もう治療法がないといわれてからの生命予後は4~6か月といわれております。この方
 は普通の日常生活を最後まで維持され、またT細胞機能もきわめて良好な方でした。そのこと
 が長期生存に寄与したと判断されます。

 まとめ: はじめの方は奥様の三回忌法要後から徐々に体調不良となり、二人目の方は仕事に
 集中し一段落した後から急に体調不良となり永眠されました。三人目の方は草花の手入れを
 最後まで楽しまれた方です。T細胞は「自己と非自己を識別して非自己のみ排除して自己を
 守る仕組み」ですから生きる希望のある限り機能する仕組みといえますので、生きる希望を
 見失った場合には一時的に低下や不全状態になります。目標を達成するために普通の日常生活
 を犠牲にしますと、たとえ短期間であっても、取り返しのつかない免疫抑制が起こることが
 あります。そのような場合には残されたご家族の悲嘆が長引きます。ご自分とご家族が悔い
 のない人生を過ごすためには、最後まで普通の日常生活を過ごせる人生設計をお勧めいたし
 ます。


 第43回目  がんを生きた方々の悩みとご家族の悩み④ 『最終回』です


 患者さん(四人目):  時々咳や痰が見られたために、地元の病院で精密検査をした所
 右上肺の肺腺がんで、左肺に転移が有り病期IVと診断され、分子標的薬を内服されておら
 れました。ご高齢でありましたが、一般状態は良好でした。遠方からの受診でしたが、ご家
 族(とくにご子息)がとてもワクチン治療への熱意が高く、いつもお付き添いされて受診さ
 れていました。

  初診時所見: 通常の日常生活が過ごせており、食欲も良好でした。検査データでは軽度の
 肝機能異常がみられる程度でした。

 対策と経過: 毎日穏やかな日々を過ごすことを目標とされ、読書と写経に多くの時間を費
 やしながら普通の日常生活が維持できておりました。ワクチン投与を開始した後、早い時期
 より投与部の皮膚反応が出現していましたので、早期のワクチン効果が期待できました。遠
 方からの受診でありましたために、ご家族の都合などもあり、ワクチン投与6回目にて一時
 中止となりました。しかし、その数か月後に再開されました。画像評価で腫瘍の縮小もみら
 れ、部分寛解(partial response、 PR)との評価も得ました。腫瘍縮小があったために、
 その後は長期間、ワクチン外来に受診されませんでしたので当方ワクチンは終了となりまし
 た。
   しかしながら、PRと診断されてから約1年後に、右肺がんの増悪が見られたために、ワ
 クチン外来に再受診となりました。再受診の際にも穏やかな日々をすごされており、読書と
 写経に多くの時間を費やすなど、普通の日常生活が維持できておりました。その後、脳転移
 も出現したために、抗がん剤やガンマーナイフ(脳転移への放射線治療)を受けながら、2-3
 か月に1回のペースでワクチン投与も併用しておられました。その間は病態が安定しておりま
 したが、再開後7回のワクチン投与で再度、長期間ワクチン外来に受診されなくなりましたの
 で、当方ワクチンは再び終了となりました。
  その後について、ご家族からの連絡ではありますが、やはり読書と写経を中心に穏やかな
 日常生活をすごしておられました。そして、病期IVの肺がんと診断されてから約5年弱、当
 方ワクチン外来を受診されてから4年余りで永眠されたとお聞きしました。

  免疫反応: ワクチン投与開始後、早期より投与部の皮膚反応が出現し、かつ再受診時の免
 疫検査では投与ペプチド4種類に対して強い抗体反応が持続していました。それに加えて、投
 与されていないペプチドに対しても特異抗体の増加が見られ、当方ワクチンへ効果が極めて
 良好であったことが確認されました。

  考察: この方は、がんを生きる目標を「穏やかな日々」とされた方です。ワクチン外来受
 診当初から「読書と写経でゆっくり過ごしております」と繰り返し言われておりました。こ
 の方は普通の日常生活を最後まで維持され、またT細胞機能もきわめて良好な方でした。その
 ことが長期生存に寄与したと判断されます。

   今回を持って週刊「がんを生きる」はしばらく休刊させていただきます。
 平成29年4月以降、新しい企画で、がんワクチンについての記載を予定しております。
 ご愛読ありがとうございました。
                   久留米大学 がんワクチンセンター 伊東恭悟

 前回までの物語


  第1~4回目  :飲むがんワクチン物語マウス版 ①~④
  第 5~ 7回目  :ヒト白血病物語 ①~③
  第 8~11回目 :膵臓がんと口内細菌の物語 ①~④
  第12~14回目 :抗がん治療が出来ない方々 乳がんの方の物語 ①~③
  第15~16回目 :抗がん治療が出来ない方々 肺がんの方の物語 ①~②
  第17~20回目 :抗がん治療が出来ない方々 がん進行が著しく
         がん治療効果が期待できない希少がんの方の物語 ①~④


 第21回目  個別化ペプチドワクチンの効きにくい方々:
                 リンパ球数の少ない方の物語①


  今回からは「個別化ペプチドワクチンの効きにくい方々についての物語」を掲載いたし
 ます。唐突にプロ野球のお話で申し訳ありませんが、名監督野村克也氏が、ある雑誌に
 「勝った試合の原因ははっきりしないが、負けた試合の原因ははっきりしている」と述べ
 られていました。

  個別化ペプチドワクチンでも、効きにくい方の場合には必ず原因があります。但し、全て
 の方で効きにくい原因を明解に説明できるわけではありません。また原因が複数あり、一つ
 に特定できない場合が殆どです。しかし、個別化ペプチドワクチンを受けられても効かな
 かった方々の原因を明確にすることは、このワクチンの効力向上に不可欠な作業ですので、
 皆様と一緒に考えていきたいと思います。

  まず、最初はリンパ球が少ないため当方ワクチンを受けられない方を取り挙げます。詳し
 くは、「がんを生きよう~あなたのT細胞が治療の主役です。伊東恭悟著、医学と看護社
 に記載しておりますが、何故リンパ球が少ないとワクチンが効きにくいかを説明いたします。

  「リンパ球は身体の中に1兆個近く存在します。その中の大部分はT細胞と呼ばれる細胞で、
 末梢血中のリンパ球の70〜80%を占めます。そのうち、100億個近くが毎日死滅して、新し
 く生まれています。その多くは夜間に誕生します。このT細胞にはがん細胞を見つけ、直接
 攻撃するキラーT細胞と他のリンパ球であるB細胞には抗体を作らせ、ナチュラルキラー
 (NK細胞)のがん細胞を攻撃する力を強めるヘルパーT細胞があります。がんを攻撃する
 T細胞はがんの目印であるペプチド分子(8~10個のアミノ酸)を認識して増殖します。この
 仕組みを利用し、体内にペプチド分子を投与して、がん細胞を攻撃するT細胞を増やすことに
 よりがんを制御する治療法ががんペプチドワクチン療法と呼ばれています。

  従って、身体のリンパ球が少ないと、がんの目印のペプチドを投与してもT細胞があまり
 増えないので、効果が得難いことになります。 T細胞のおかげで、私たちは感染症やがん
 などの病気から守られています。しかし、びっくりしたことに、当方がんワクチン外来を
 受診された方の内、約10人にお一人はリンパ球数の基準値(1,000個/mm3以上)を満た
 していませんでした。

  2015年からはリンパ球数が500個/mm3以上であれば適格(ワクチンを受けられる)と
 する特別な臨床試験も開始しておりますが、それでも、500個/mm3以下の方が多数おられ
 ます。今回は3名の方を紹介してリンパ球減少症の原因を探り、対策を提案いたします。

 お一人目の方(乳がん):
  1年前に乳房のしこりに気づき、検査を受け、初期の乳がんと診断され、まず手術前抗がん
 剤の開始となりましたが、急速ながん増悪が起こり急いで摘出手術となり、その後半年に
 わたり複数の抗がん剤を用いたがん治療を受けられました。しかし、全く効果がなく、増
 悪と転移がみられ、抗がん剤を変更されましたが、全身転移が見られましたので、新たな
 抗がん剤投与となりました。その時点でがんワクチンを希望され、リンパ球減少症の状態で
 ワクチン外来に来られました。

  初診時の所見では、強い倦怠感と胸骨部痛・心窩部痛があり顔面浮腫が顕著でした。舌肥
 大と舌裏静脈怒張があり、微小血流障害も疑われました。血液検査では、肝機能異常、重度
 の白血球減少症(正常者の約1/8)とリンパ球減少症(正常者の約1/5)と強い赤血球減少
 症(貧血)が認められました。これは骨髄から産生される血液細胞の広範な減少であり重度
 の免疫不全状態といえます。

  即座にお勧めできる対策としては、免疫不全状態が改善されるまで抗がん剤の中断を主治
 医にお願いすることでした。その他に方法がないかと希望されましたので、免疫機能の改善
 が期待できる補中益気湯と痛みや血流改善のための血府逐瘀湯(煎じ薬、第19回で記載済み)
 を処方いたしました。そしてリンパ球数が改善次第ご連絡いただくことにしておりました。

  その後主治医のもとで白血球の一種である好中球を増やす点滴薬を受けて、白血球数は、
 ある程度回復しましたが、リンパ球数はワクチン投与できるところまでは回復していません
 でした。 この方の場合、リンパ球減少症の原因は抗がん剤の副作用と推測されます。使用
 された全ての抗がん剤において主作用よりも副作用(免疫抑制作用)が強かったと判断され
 ます。抗がん剤治療を中断することがリンパ球減少症の解消になります。初回受診後はご連
 絡がありませんので、その後の経過につきましては不明です。
 
  二人目については次回掲載予定です。


 第22回目  個別化ペプチドワクチンの効きにくい方々:
                 リンパ球数の少ない方の物語②


 お二人目の方(舌がん):
  1年半ほど前に、口内炎のため病院を受診し、舌がんと頸部リンパ節転移と診断され、手術
 を受けられました。その後、残っていた腫瘍が増大し、放射線治療を受けられましたが、肺
 転移が見つかり、その他にも拡張型心筋症、鬱血性心不全、完全房室ブロック、糖尿病、
 気管支喘息などの合併症もあるため、「もうがんの治療法がない」といわれ、がんワクチン
 外来を受診されました。

  初診時には痛みを伴う顔面腫脹、便秘、不眠、唾液分泌不全による口腔内乾燥がみられ、
 口内炎が強く、舌は黄色舌苔に覆われていました。血液検査では、肝機能や腎機能の異常、
 白血球内の比率異常(好中球比率の増多とリンパ球比率の減少)のためにワクチンを受ける
 ことができないと説明しました。

  腫瘍マーカー異常もあり、がんの増悪が続いていました。身体の炎症を引き起こすイン
 ターロイキン6(IL-6)というサイトカインも高値でした。 とてもがっかりされ、なんとか
 してほしい(リンパ球を増やしてほしい)と切望されましたので、まず漢方薬で一般状態の
 改善を図りました。

  具体的には舌がん再発部の炎症と口内炎に対して半夏瀉心湯と黄連解毒湯、血流改善に
 当帰芍薬散を処方したところ、2週後には改善傾向を示しましたが、リンパ球数はまだ適格
 ラインに到達していませんでした。その後、上気道炎が発症し体調悪化が見られましたので
 抗菌剤と十全大補湯と半夏厚朴湯を追加処方しました。その2週間後になり、漸く体調も症状
 も改善しリンパ球数も1,005個/mm3とギリギリですがワクチン投与可能のレベルまで回復
 しましたので、初診から7週後にワクチン投与開始となりました。

   ワクチン開始後にも、左顔面~頸部にかけての痛み、不眠、血痰、左眼閉鎖不全など、
 がん増悪や放射線治療による後遺症の諸症状が出現し、その都度 漢方薬を変えながら症状
 改善を図りました。その効果が出始めたのは、7回目のワクチン投与日(開始から2か月後)
 あたりからでした。食欲改善もみられ、普通の日常生活も送れるようになりました。

  しかし12回ワクチン投与日になり、原因はわかりませんが、生きる希望がなくなったの
 で、ワクチンを含めて全ての治療を中止したい旨の連絡があり、ワクチン投与は終了となり
 ました。各種合併症のために抗がん剤投与を受けることがありませんでしたので、ワクチン
 投与開始前の免疫反応は極めて良好であり、12回投与時の免疫反応も強い増強効果を認めて
 いました。

   この方のリンパ球減少症は、白血球内の比率異常(好中球比率の増多とリンパ球比率の
 減少)によるものです。白血球内の比率異常の原因は、がん再発に伴う局所炎症(舌、頸部、
 左顔面など)と微小循環障害(漢方では瘀血)と診断されます。その対策としては、感染症
 がある場合には抗菌剤が有効です。また抗炎症作用を有する漢方薬(黄連解毒湯が代表です)
 や駆瘀血作用を有する漢方薬(桂枝茯苓丸、当帰芍薬散、通導散など)が有効です。この方
 の場合には、抗菌剤と漢方薬にてリンパ球減少症が改善し、ワクチン投与可能となりました。

  次回は3人目の方(乳がん)を紹介し、リンパ球減少症の原因についても報告します。

 第23回目  個別化ペプチドワクチンの効きにくい方々:
                 リンパ球数の少ない方の物語③


 三人目の方(子宮がん):
  1年前より不正性器出血と腰痛がありましたが、放置しておりましたところ増悪が見られた
 ために病院で受診され、進行子宮頸がん、リンパ浮腫、蜂窩織炎と診断されました。早急に
 治療を必要とする病態でした。

  しかし、主治医の推奨するがん治療を全て拒否して民間療法(その内容については話され
 ませんでした)を実施して更に病態が悪化したために、ご主人と一緒にがんワクチン外来を
 受診されました。

   初診時所見では、両下肢の浮腫が著明で腰痛と下腹部痛が強く見られました。また胸水貯
 留、両下肢蜂窩織炎、心窩部圧痛、舌肥大、舌裏静脈の怒張を認め、血液所見では低アルブ
 ミン血症、CRP高値、IL-6高値、白血球内の比率異常(好中球比率の増多とリンパ球比率の
 減少)、更に腫瘍マーカーが極めて高い値でした。

  これらより、がんの進行により全身がむしばまれた状態(悪液質と専門用語では呼ばれて
 います)でした。リンパ球減少のためにワクチン投与が開始できないことをお伝えしました。
 免疫機能の改善に補中益気湯、微小循環障害に駆瘀血剤(当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、通導散)
 を処方し、主治医のもとで抗がん剤治療や補液などを受けられることをお勧めしました。
 一般状態の改善後に再受診予定となりましたが、数週間後に回復傾向が見られないとの連
 絡をいただきました。その後の経過につきましては不明です。

  この方のリンパ球減少症も2人目の方同様に、白血球内の比率異常によるものです。その
 主な原因は未治療のがん進行による全身の循環障害があげられます。その場合の対策として
 は、まず適切ながん治療の実施となります。血液循環改善を図る漢方薬の効果は極めて限定
 的と判断されますし、抗生物質(抗菌剤)の効果は期待できません。

   まとめ(リンパ球減少症の原因)
  1人目の方のようにリンパ球数そのものが少ない場合は、抗がん剤や放射線治療での免疫
 抑制の他に、栄養失調、亜鉛不足、先天性の免疫不全症、血液のがん、一部の感染症、自己
 免疫病の治療薬(ステロイド剤など)の長期服用、腎不全などが原因として挙げられます。

  また2人目や3人目の方のように、リンパ球数そのものが少ない場合ではなく、好中球比率
 増加した比率異常の原因には、がん局所やその周辺組織の感染症が一番多く、がんやがん治
 療後の局所の非感染性の腫れ(炎症)も大きな原因になります。がん細胞は自らが生き延び
 るために血管を通じて、栄養(特に糖分)を確保する必要があります。

  そのためには、がん塊の周囲に血管を張り巡らそうとして、いろいろな炎症誘導因子を産
 生することが知られています。従って、がんの周囲を傷がある状態と似た状態にしますので、
 がんは「治らない傷」と呼ばれています。 このことはがんの特徴と何故ワクチンが効かない
 かを理解するうえで大切なことの一つですので、次回、更に詳しく掲載します。

 第24回目  個別化ペプチドワクチンの効きにくい方々:
                 リンパ球数の少ない方の物語④


 「がんが治らない傷である」ことに最初に気付いたのはハーバード大学外科のフォルクマン
 先生です。彼は「血管は正常細胞が生きるのに必要な酸素や栄養分を供給し、代謝によって
 発生する老廃物を運び去る。がん細胞も例外ではなく、栄養を取り、老廃物を排泄しなくて
 はならない。従って、がんが生き延びるためには、毛細血管が張り巡らされていなければな
 らない。勢いよく成長するためには、次々と新しい血管がつくられなくてはならない」
 (「がんによる血管新生」)と考えました。

 そしてがん増殖と血管新生の関係について次のような仮説を立てました。
   ① 微小がんは栄養を得るための新しい血管網を作らない限り、危険ながんへと進行する
    ことはない。
   ② がん細胞は増殖する際に血管新生因子を放出して血管を新生させ、加速度的に新しい
    分岐血管を作り上げていく。
   ③ 体の他の部分に拡がっていった(転移した)がん細胞は、新しい血管を呼び寄せる力
    のない限り、危険ではない。

  フォルクマン先生は、マウスから摘出し試験管皿にいれた甲状腺とマウスの甲状腺の中に、
 それぞれに同じ数のがん細胞を移植しました。その結果、マウスの甲状腺に移植したがんは
 ドンドン増えて、マウスは死亡しましたが、試験管皿の甲状腺では、いつまでたっても、が
 んが増殖しませんでした。

  そこで、移植したがんが死滅していたかもしれないので、がん細胞を試験管皿の甲状腺から
 取り出して調べてみました。そうしますと、がん細胞は生きていました。試験管の中では、
 自由に培養するとドンドン増殖したわけです。

  この実験から、試験管皿におかれた甲状腺のように周囲に血管がないところではがん細胞
 は栄養が届かないので、がんは増殖できませんが、身体の中の甲状腺では周囲に血管があり
 ますので、栄養を取るために血管を作らせるたんぱく質(血管新生因子)を産生して、血管
 を多数作らせるとフォルクマン先生は考えました。

  このフォルクマン先生の仮説は当時嘲笑され長い間無視されてきました。しかし二十年と
 いう長い研究の後に、血管新生抑制因子の発見とその抗がん効果を証明することで立証され
 ました。 このフォルクマン先生の研究を、免疫反応の立場から見てみましょう。

  私達の身体に傷ができると免疫機能が作用して炎症反応を起こし、感染源や異物を排除し
 た後で、傷ついた組織を修復できるようになっております。炎症反応とは「発赤、熱感、
 腫脹、疼痛」で定義されるような症状を伴っており、免疫反応の一つです。

  免疫反応は、傷ができると炎症を起こす免疫反応を作動させ傷を修復します。そして傷を
 修復した後は終息のための免疫反応を作動させて、炎症(腫れ)をなくします。 しかし、
 がんはいつまでも腫れが引かず炎症が持続するように免疫反応をコントロールします。その
 ため、がんの周りにはいつも血管が豊富に存在します。元々血管が無いところに、がん細胞
 は炎症を起こす成分(サイトカインといい、血管新生因子がその代表です)を産生して新た
 に血管を作らせます(血管新生といいます)。

  ですからがんの周りは、いつも腫れていて「治らない傷」の状態になっています。ここで
 は免疫細胞のうち好中球やマクロファージといわれる食細胞ががんの成長を促す役回りをし
 ています。がん細胞の指示で炎症をがんの周りに起こさせて腫れをつくり栄養分を運ぶ役割
 を担っております。更に悪いことにそのような炎症細胞は、がんを殺すT細胞を寄せ付けない
 し、寄ってきても殺せないようにしてしまいます。

  このシリーズで取りあげた2人目のかたと3人目のかたは好中球が多くなっておりましたが、
 その原因はまさに「治らない傷」のためです。 実際に炎症を起こす物質(ここでは炎症性因
 子と呼びます)は、がん患者さんの予後と強く相関しています。炎症誘導因子には、C反応
 性タンパク質(CRP)や炎症性サイトカイン(IL-6、IL-8、BAFF)などがあります。

  多くのがんで、これらの炎症性サイトカインの血中濃度が高い患者さんほど短命ですし、
 がんワクチンの効果も期待できません。 次回は、リンパ球減少症の対策について掲載します。

 第25回目  個別化ペプチドワクチンの効きにくい方々:
                 リンパ球数の少ない方の物語⑤


 リンパ球減少症の対策として、まず医療側ができる対策を記載します。
   ① がん治療によるリンパ球減少症:がん治療の一時中断・減量・変更・中止
   ② がん治療後の局所感染と炎症:抗生剤と血流改善・抗炎症漢方薬の処方
   ③ がん増殖に伴う減少:がん治療の実施。

 実際の臨床の現場では、①~③が複合的に関与したリンパ球減少症の方が殆どです。
 ①の場合には、白血球増多作用のある点滴治療薬の使用で白血球減少症は改善しますので、
 それに伴ってリンパ球も増加する場合があります。白血球やリンパ球が減少した状態が長く
 続きますと、感染症になりやすく、がんワクチン治療を始め全てのがん治療法が効かなくな
 りますし、がん増殖を促進します。従って、リンパ球減少症を放置しないで、リンパ球数が
 正常値まで回復する手立てを主治医とよく相談していただくことが必要です。

  次に個々人ができるリンパ球減少症対策を記載します。 その第1は睡眠です。私達の身体の
 中の免疫担当細胞は一日の内に800億個以上(白血球が700億個位でリンパ球が100億個位)
 が死滅し、夜の間にその分だけ新しく誕生しています。そのためには、ヒトによって個人差は
 ありますが、概ね8時間くらいは休んでいただかないとうまく増えません。細胞や蛋白質が作
 られるには約8時間かかるからです。免疫機能を維持するために、誰でもできる最も簡単で
 確実な方法は「ほどほどに食べて夜8時間は電気を消してヨコになること」です。眠ってい
 るという自覚がなくとも、電気を全て消して布団やベッドでヨコになっているだけでも同じ
 免疫効果があります。その間にがん細胞にとって怖いT細胞や抗体をつくるB細胞も増えます。
 自然な朝の目覚めは、太陽光が瞼を閉じていても、そこから入り、網膜→脳→副腎と伝わる
 ことで起こるといわれております。免疫のバイオリズム(生体時計)の朝ステージの始まり
 です。そして、太陽の光がなくなった夜には副腎皮質ホルモンの作用がなくなり、免疫の夜
 のステージが始まります。リンパ球や蛋白質が増える時間帯となります。

  第2は快便です。第3は適度な食事で、第4は適度な運動です。これらをまとめますと以下の
 ようになります。
  ① 快眠(夜電気を消してベッドや布団で8時間以上ヨコになっていること)はT細胞を
    始め、免疫機能の維持向上に不可欠です。
  ② 快便(一日1回以上出て残便感がない。オナラが臭くない)は、がんの周りの腫れ
   (炎症)を抑制するのに不可欠です。
  ③ 適度な食事(バランスがとれて血糖値をコントロールできる食事:日本人の場合には和食
   中心が推奨)はがん細胞の栄養源を絶つために必要です。
  ④ 適度な運動(一日5千歩程度)は、快眠・快便・適度な食事をするために不可欠ですし、
   がん細胞の増殖を遅らせる効果があります。

  詳しくは 「がんを生きよう~あなたのT細胞が治療の主役です。伊東恭悟著、医学と看護
 社」に記載されていますのでそちらをご覧ください。 次回からは、ワクチン開始前の免疫検
 査でわかるワクチンの効きにくい方の物語を掲載します。

 第26回目  個別化ペプチドワクチンの効きにくい方々:
                 血液検査でわかりますか?


  この10年間、世界中でがんの免疫療法開始前にその効果を予測できないか研究しています。
 私どもも国の支援を活用して、個別化ペプチドワクチン開始前後の血液サンプルを用いて、
 ワクチン療法が効かない方を予測できないか調べました。

  その結果、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン8(IL-8)、C反応性タンパク
 (CRP)、血清アミロイドA(SAA)、 ハプトグロビン(Hp)などの炎症を起こす物質(ここで
 は炎症性因子と呼びます)が多い方では、ワクチンが効きにくい事が判明しました。第22回
 と第23回の時でも紹介しましたように、これらの炎症性因子の血中濃度が高い患者さんでは、
 がんが「治らない傷」として各種の治療法に抵抗性を示しますので、がんワクチンの効果も
 期待できません。今回はその代表としてIL-6の生理活性を記載します。

  IL-6 はT細胞やB細胞、単球等の免疫細胞のほか、線維芽細胞、内皮細胞、メサンギウム細
 胞など身体の色々な細胞により産生されます。元大阪大学総長で、世界的な免疫学者の岸本
 忠三先生が発見されたサイトカインです。主な役割はB細胞を活性化するなどの免疫機能を
 調整することです。すこし専門的になりますが、IL-6は造血や炎症反応などにおいて重要な
 役割を果たすサイトカインで、IL-8やMCP-1などのケモカインの産生亢進及びICAM-1、
 VCAM-1などの細胞接着分子の発現亢進、B細胞から抗体産生細胞への分化促進などの生理
 作用を示し、炎症反応や抗体産生機能を促進させます。関節リュウマチの発症にも強く関係
 しています。

  私どもは、これまでいろいろながん腫で、IL-6などの炎症因子が高い方はワクチンが効き
 にくいことを報告してきましたが、ここでは進行大腸がんを取り挙げます。まず、下の纏め
 をご覧ください。
 

   それでは、どれくらい予後が悪くなるかを詳しく述べます。IL-6、CRPもしくはSAAが投
 与前に高い治療抵抗性進行大腸がんの方は、その数値が正常な方に比べて、当方ワクチン開
 始日から半分の時間位しか生存できません。つまり60例の方の生存日数が498日(中央値
 31人目のかた)ですので、その半分の249日の生存日数となります。この方々の大半は、
 早期にがんが進行して、当方ワクチンの効果が期待できる6-12回の投与が出来ないほどまで
 に、体調不良になりワクチン投与中止になってしまいます。その為にワクチン投与により
 がんを攻撃する免疫活性が増強されません。

  反対に6-12回投与が可能だった方は498日よりも長生きが期待できますし、更にワクチン
 により免疫反応が増強した方々では、もっともっと長生きが期待できます(上右図)。
 IL-6、CRP、IL-8、SAAなどの炎症性因子が高い方は、大腸がんに限らず胃がん、肺がん、
 胆道がん、前立腺がん、卵巣がんなどで調べた限り、殆どのがん腫でやはりワクチン効果が
 期待できないことをこれまで報告してきました。

 そして、とても大事なことは、IL-6、CRP、IL-8、SAA、Hp(ハプトグロビン)などの炎症性
 因子が高い方は、がんのワクチン治療だけでなく抗がん剤治療も効かないことです。がん細
 胞は「治らない傷」(がんの塊)を作り、その中で増え続けるために、これらの炎症性因子
 を放出し、それを産生する細胞を活性化させています。従って、がんを制御することは、炎
 症性因子を正常化させる道から始まります。闘病中は、できるだけ普通の日常生活(快眠・
 快便・適切な食事・適切な運動)を過ごされることが第1歩といえます。また、適切ながん治
 療を過不足なく受けられることが第2歩といえます。詳しくは「がんを生きよう:あなたのT
  細胞が主役です。伊東恭悟著、医学と看護社
」に記載されております。

 次回は「血液検査でわかりにくい方」について記載します 。

 第27回目  個別化ペプチドワクチンの効きにくい方々:
                 血液検査でワクチン効果が分かりにくい方


  これまでリンパ球の少ない方や炎症性サイトカインが高い方では、個別化ペプチドワク
 チンが効きにくいことを報告してきました。今回は、それほど頻度は高くないのですが、リ
 ンパ球も少なくないし、炎症性サイトカイン値も高いわけでもないのに、個別化ワクチンが
 効かない方がおられますので、その方々を取り挙げます。

  その方々の共通の特徴はワクチンを受けられる前に抗がん剤で長い間治療を受けて
 おられ
ることです。その方々は、投与前の免疫検査では抗体反応レベルが低下しておりま
 す。そのために、通常は4種類のワクチンを投与しますが、2つしか投与できない場合や、
 3つしか投与できない場合があります。

  長期間に及ぶ抗がん剤投与の副作用によって、免疫機能全体が低下しているためと推測さ
 れますが、その免疫低下レベルを投与前の血液検査では特定することが困難です。それはワ
 クチン投与後に判明します。ワクチンに対するペプチド特異的細胞性免疫(キラーT細胞活
 性、CTL活性とも呼びます)やペプチド特異的液性免疫反応が遅延するために、6回から8回
 投与後の免疫検査では、増加が見られないのです。そのため、ワクチンによる臨床効果が見
 られないことになります(下の図をご覧ください)。ただし12回以上の長期投与ではそのよう
 な方でも免疫反応の増加は見られ、ワクチン効果も遅延するもののみられるようになります。

 

 説明:個別化ペプチドワクチンをうけられた500名の方々の生存期間を6回から8回投与後の
 免疫検査で、増加の見られた方々(緑色の線)と見られなかった方々(青色の線)の2グルー
 プに分けて調べた研究では、明らかに前者のほうが長期生存されていました)。

 このような研究結果より、抗がん剤の長期使用により免疫反応が低下し、ワクチン効果を抑
 制していることが推測されます。従って、臨床効果が無くなった抗がん剤を長期に使用する
 ことは避けていただくことを推奨しております。抗がん剤とワクチンとの関係につきまして
 は、「がんを生きよう:あなたのT細胞が治療の主役です。伊東恭悟著、医学と看護社」に
 詳しく記載しておりますので、抗がん剤治療を受けておられる方はご一読ください。

 次回(本シリーズの最終回)は 「投与前の遺伝子検査で効かない方は判りますか?」につい
 て報告します。

 第28回目  個別化ペプチドワクチンの効きにくい方々:
                 遺伝子検査で判りますか?


  進行前立腺がんの患者さんで当方ワクチンに参加され、3年以上生存された20名の方(長期
 生存例:効果が著しい方)と1年以内に亡くなられた20名の方(短期生存例:効果が見られな
 かった方)の血液中の免疫担当細胞(リンパ球と単球が含まれる単核球分画)の遺伝子発現プロ
 ファイルを比較する方法で解析しました。

  その結果、ワクチン開始前のサンプルで、19種類の遺伝子に両群間で明らかな差異がみら
 れ、その多くの遺伝子が免疫抑制機能を有する顆粒球(活性化好中球など;granulocytic
 MDSCとも呼ばれています)に関係していました。これらの遺伝子発現が短期生存例サンプル
 で高まっていました。論文の要約を記載します。
 

  「がんは治らない傷」と繰り返し記載してきましたが、がんワクチンの効かない方では、
 やはり、治らない傷(がんの塊)を形成する上で不可欠な免疫抑制機能を有する顆粒球(活
 性化好中球など)が活発に増殖していることが判明したわけです。更に大切なことは、たん
 ぱく質の発現でも炎症性サイトカインのIL-6の高い値が短期生存者の方で認められました。  

  この遺伝子プロファイルを調べる技術は精確ですが、実用化の観点からは価格・簡便性・
 再現性などの課題を残します。そこでもっと簡単な検査法として、炎症性サイトカイン遺伝
 子などの1つのDNA塩基配列の違い(single nucleotide polymorphism, SNP)を調べる検
 査法を活用できないか、九州大学の久原哲先生と共同で検討しました。その結果、炎症性サイ
 トカインの一種であるハプトグロビン(haptoglobin, Hp)の蛋白発現を調整するプロモー
 ター部分のSNP多型(AA, AG, GG)が関与していることが判明しました。

  つまり前立腺がんの短期生存者群では、その部分にAA型の多いことが判明しました。Hpの
 血液中の値が高い方は第26回でも記載しましたが、やはり短期生存者群に多く見られました。
 詳しくお知りになりたい方は 次の2つの論文をご覧ください
 1.Araki H, Pang X, Komatsu N, Soejima M, Miyata N, Takaki M, Muta S, Sasada T, Noguchi M, Koda Y,
   Itoh K,Kuhara S, Tashiro K. (2015)  Haptoglobin promoter polymorphism rs5472 as a prognostic
   biomarker for peptide vaccine efficacy in castration-resistant prostate cancer. Cancer Immunol
   Immunother.  64(12):1565-73.  doi: 10.1007/s00262-015-1756-7. Epub 2015 Oct 1.
 2.Pang X, Tashiro K, Eguchi R, Komatsu N, Sasada T, Itoh K, Kuhara S. (2013)
    Haptoglobin Proved a Prognostic Biomarker in Peripheral Blood of Patients with Personalized Peptide
    Vaccinations for Advanced Castration-Resistant Prostate Cancer Biosci Biotechnol Biochem,
   77(4) 766-70.


  さらに、がんワクチンの効かない方で高い値を示す炎症性因子のうち、その代表であるIL-6
 とCRP(第26回で記載)に関連するSNPを秋田大学の三浦正友先生と共同で解析しました。
 その結果、予想したように、CRPやIL-6受容体遺伝子のSNPの違いによって、ワクチンの効
 かない進行大腸がんの方とよく効く方を予測できることが判明しました。詳しくお知りに
 なりたい方は下の論文をご覧ください。
   1. Kibe S, Yutani S, Motoyama S, Nomura T. et al.,(2014)Phase II Study of Personalized Peptide
     Vaccination for Previously Treated Advanced Colorectal Cancer. Cancer Immunology Research 2
     (12) :1154-62.


 これらをまとめますと、個別化ペプチドワクチンの効かない方々は、
   ① リンパ球の絶対数が少ない方
   ② 血液中の好中球が増えているために、流れているリンパ球の少ない方です。
 ①は抗がん剤の副作用による場合が大多数です。②は血液中の炎症性因子が多いことで相対
 的にリンパ球が減少している状態です。 血液検査でも遺伝子検査でも、血液中の炎症性因子
 が多いと治らない傷(がんの塊)の勢力が強くなっているという結論になります。がんワク
 チンだけでなく、抗がん剤をはじめ種々のがん治療法に対しても炎症性因子は悪影響を及ぼ
 します。

  その対策としては、繰り返しになりますが、がんを制御すること(=治らない傷を制御す
 ること)は、炎症性因子を正常化させる道から始まります。闘病中は、できるだけ普通の日
 常生活(快眠・快便・適切な食事・適切な運動)を過ごすようにされることが第1歩といえま
 す。また、適切ながん治療を過不足なく受けられることが第2歩といえます。この2つを実践
 することにより、がん治療の主役であるT細胞の復活を目指すことです。

  次回からは 「原発不明がんの物語」を記載いたします。



 第29回目  原発不明がんの物語①


  原発不明がんに罹患した方とご家族は、原発巣のはっきりしているがんに比べて、なん
 とも 言えない不安や悩みに襲われます。また、医療側には標準治療法を特定できない
 戸惑いをもたらします。

  まず医療側の戸惑いについて記載しますと、現在のがん治療法(の原則)が、がんが発生
 した臓器(原発の臓器)別になっており、治療もそれに合わせて行なわれます。そのために
 原発巣が不明であると診断されると、現在の治療体系に馴染みませんので、医療側にとって
 標準となる治療法がないことになります。致し方なく、治療法としては、もっとも疑われる
 原発のがん(膵臓がんが疑われる場合には膵臓がん)に対する抗がん剤などが採用される場
 合がよくあります。

  しかしながら、その抗がん剤が健康保険の適応外とされる懸念もありますので、病院や担
 当医師により治療方針に大きな違いが出る場合が多く、治療開始が遅れることもよく生じま
 す。そのため、原発巣がはっきりしているがんの患者さんに比べて、治療法の違いや治療開
 始の遅れのため、迅速で的確ながん治療を受けることが出来なくなる危険性が高くなります。
 また、患者さん・ご家族には、診断・治療の目安がない、何故その病気に罹患したのか納得
 がいかない、情報を入手し難い、どれくらい治療効果があるか不明などのために、いろい
 ろな不安や悩みが生じてきます。

  つい最近、私どものセンターを受診された患者さんで、病理診断からはよく効く可能性の
 ある抗がん剤があるにもかかわらず、原発不明ということで迅速で的確ながん治療を受ける
 ことが出来ず、全身転移をきたした方がいました。その方は、その抗がん剤を使えるように
 かかりつけ医の病院薬事審査委員会にも申請しましたが認可されませんでした。その後、近
 隣の病院にもご相談されましたが、そこでもその抗がん剤を保険診療枠では処方してもらえ
 ませんでした。その間にも、肝臓転移のほうは増悪し続けましたので、次善の策として、
 私たちのセンターから自由診療枠でその抗癌剤を、処方させていただきました。

  まず原発不明がんの特徴を記載します。
  原発不明がんの特徴(「原発不明がん」メジカルビュー社、向井博文編集 より抜粋
  1. 現在のがん治療法は、がんが発生した臓器(原発の臓器)別になっています。抗がん
    剤も、それに合わせて使用されています。そのために原発巣が不明であると、現在の
    治療体系に馴染みませんので、患者さん側にも医療側にも標準になる治療法がないこと
   が課題となっています。便宜上、治療法としては、もっとも疑われる原発がんに対する
   治療法が採用される場合がよくあります。
  2. 予後が良好な方は4人に1人位です。一部がんでの腋窩リンパ節のみの腺がんや低分化
   がん、腹膜転移のみの方、頸部リンパ節のみの扁平上皮がん、神経内分泌腫瘍、一部の
   胚細胞がんの方などが予後良好群として、経験上知られています。一方、4人に3人位
   は予後が不良ながんです。その場合抗がん剤治療を受けられても診断後1年以内に半数
   の方がお亡くなります。
  3. 予後不良因子としては、
   ① 病理で腺がんといわれた場合。
   ② 患者さん側の因子では、性別(男性)、一般状態不良、体重減少、合併症・転移巣の数
    が多い、転移部位が肝臓と骨にある方など知られています。
   ③ 血液検査データ上ではリンパ球減少(700/mm3未満)、低アルブミン血症・LDH
    高値・ALP高値・CEA高値などです。

  次回は、がんという壁に加えて原発巣が不明という2重の壁に立ち向かわれた方を
  紹介します。


 第30回目  原発不明がんの物語②


1人目の患者さん:
  慢性肝炎の定期検査中に腹腔内リンパ節の腫れを指摘され、病理検査で原発不明がん(消
 化管のどこかのがん疑いの原発不明がん)として、抗がん剤治療を開始されました。しかし
 相次ぐ副作用で中止となり、その半年後に当センターを受診されました。その頃から無塩の
 食事療法をされておりました。

  初診時、原発不明であることに大きな不安をお持ちである以外、体調良好で、生化学・血
 液検査ともほぼ正常値内でした。ワクチンへの免疫反応は1クール終了後の増強が無く、2
 クール途中からは抗がん剤を再開された影響にて、投与ペプチドを含めて全ペプチドに対す
 る免疫反応が強く抑制されました。とりわけ免疫反応が高値であった転移がんの目印となる
 Lck由来ペプチドに対する免疫反応が10分の1以下となっていました。抗がん剤を再開され
 たきっかけは、起立性低血圧、食欲低下、坂道を登るのが苦しい、尿量減少などの症状を心
 配されてのことでした。塩分不足による血液電解質異常による症状と合致していましたので
 塩分摂取をすすめました。
 
  その後、偏った塩分制限食をおやめになったので、電解質異常は改善され、腫瘍マーカーも
 一時的に低下しました。しかし、抗がん剤による貧血、血小板減少、発熱性好中球減少症が
 出現しました。さらに抗がん剤を継続するにつれ、副作用も強くなり、ワクチンへの反応性
 も抑制されたままでした。この間、抗がん剤の一時中止時には体調回復を認めましたが、放
 射線治療や抗がん剤が再開となるにつれ、食欲低下や体調不調は更に悪化しました。そして
 肝機能異常も出現したためにワクチン投与は中止しました。

  最初の診断時から数えて2年半、ワクチン開始から1年半後に、肝不全で永眠されました。
 ご本人は闘病に対して大変前向きな方で、ご家族もよく支えていられました。 以下、この方
 のまとめを、がん免疫の立場から記載します。

  ① ご自分の免疫力により原発巣の縮小(画像では消失)を認めていたが、加齢とともに免
   疫能が低下したためにリンパ節に転移していたがん細胞が増殖したと推測されます。
  ② 塩分を取らない食事療法によると思われる諸症状が発現し、そのことが抗がん剤再開を
   決断させたものの、抗がん剤再開後は体調が徐々に悪化して食事もとれなくなり、がん
   の進行により永眠されました。食事療法は時に体調を悪化させることがありますので極
   端な食事療法はおすすめできません。原発不明がんということで、民間療法に頼らざる
   を得なかった一面があったと推測されます。
  ③ 抗がん剤の副作用のためにワクチンに対する免疫反応やその他の免疫機能も抑制され、
   そのことががん増悪を許した可能性があります。抗がん剤の主作用(がん抑制)よりも副
   作用(体調悪化・免疫抑制)が強くみられましたが、それを承知で継続された理由として
   は、自分のがんの原発巣がわからないことに対する何とも言えない不安感が根底にあっ
   たものと推察されます。
  次回はお二人目の方の物語を記載いたします。


 第31回目  原発不明がんの物語③


2人目の患者さん:

  2年前に胆管炎を発症し、その後に肝内胆管がん(腺がん)が疑われる原発不明がんと
 診断されました。がんの部位としては肝臓のほか胸腹部リンパ節に多数ありました。肝内胆
 管がんに対する内服薬の抗がん剤治療を開始され、その後しばらく、がんの増大はありませ
 んでした。しかし1年程して、がんマーカーが増大したために、原発不明がんによく使われ
 る2つの薬剤からなる抗がん剤治療を開始したところ、強い末梢神経障害が発症したため中
 止となり、当センターへ受診となりました。

  初診時には強い末梢神経障害と食欲低下がみられました。血液データではLDH、コレス
 テロール値が高値であり、腫瘍マーカーは極めて高い状態(正常値の50倍以上)でした。そ
 こで神経障害などの症状に対して漢方を処方しましたところ、有効であり、体調改善がみら
 れました。

  ワクチン開始後まもなく、どうしても原発不明に対する不安が解消できずに、がん転移部
 分のバイオプシー(生検)を希望され当センターにて実施いたしました。その結果、やはり、
 肝内胆管がんが最も疑われるとの診断にて、神経障害をきたしにくい抗がん剤が開始されま
 した。

  その後、体調回復傾向が見られていましたが、ワクチン開始後6か月から腹痛が出現、食欲
 不振が強くなり、通院困難となりましたので、ワクチン投与は終了となり、その7か月後に
 永眠されました。原発不明がんと診断されてから3年近く、ワクチン投与開始後1年が経過
 していました。ワクチンに対する免疫反応は良好であり、特に転移がんの目印(Lck抗原)に
 対する免疫増強が200倍以上増加していました。

   この方では、以前からあった肝内胆管がんが2年前に発症した胆管炎が引き金となり、肝
 臓のほか、多数の胸腹部リンパ節で増殖したと推測されます。また、初診時に、LDH高値
(予後不良マーカー)があり、来院時の腫瘍マーカーもきわめて高い状態でしたので、予後不
 良群に属する原発不明がんと診断されました。

  当センター初診時から内服してもらった漢方薬は神経障害軽減と食欲増加に貢献したと判
 断されます。またワクチンに対する免疫反応は良好であり、特に転移がん細胞に有効性が期
 待されるLckペプチドワクチンへの反応が極めて良好でした。更に腫瘍マーカーは初回ワク
 チン投与以後、増加が止まりましたのでワクチン効果はみられたと判断されます。

  しかし一方で、原発不明に対する不安解消のために入院検査として実施した病理診断では、
 最初の診断(肝内胆管がん)を裏付けることになりました。もし、当初から肝内胆管がんと
 診断されていれば不安はなく、余分な検査や入院は必要なかったわけです。肝内胆管がんは、
 個人差もありますが、長期生存される方も多数おられます。やはり、原発不明と診断された
 ことが、闘病の足かせになったと推測されます。

  まとめ:
  今回ご紹介したお二人ともがんセンターや大学病院など複数の医療機関を受診され、治療
 方針についてご相談されておられますが、なんとも言えない不安を持ち続けながらの闘病生
 活でした。お二人とも、原発部位は免疫により制御されたまま、転移部位が増大したと
 推測されます。


   原発がんが更に悪性化する病態の代表は転移です。転移がんとは「原発の臓器や組織から
 遊離したがん細胞が、別の臓器や組織にて増殖したがん」のことを言います。がんで死亡さ
 れる方の殆どは転移がん状態です。転移したがん細胞の特徴は、どこでも増殖できる能力を
 持っていることです。たとえば、大腸がん細胞は血流に乗って肝臓へたどり着きますが、そ
 の殆どは肝臓で増殖することはできずに死滅します。しかしごく一部の大腸がん細胞は、Lck
 タンパクを発現するようになると、肝臓やほかの臓器でも増殖することができるようになり
 ます。私達は、15年前にLck由来のペプチドが転移がん細胞に強く発現しており、キラーT
 細胞によってLckペプチドが認識されて攻撃されていることを発見しました。今回のお二人
 とも投与前の検査にて免疫反応が陽性であったためにLck由来ペプチドワクチンを投与して
 おります。これらからLck由来ペプチドは転移がん細胞や原発部位内でも転移のおそれのある
 がん細胞の目印としてワクチン療法の標的分子であるといえます。

  次回は、これまで当センターを受診された原発不明がん患者10名の方の成績とまとめを記
 載いたします。


 第32回目  原発不明がんの物語④


  がんワクチンセンターに受診された原発不明がんの方々の成績を論文として発表しました
 ので、その要約を記載します。

 

  繰り返しになりますが原発不明がんを免疫の視点から考えますと、身体に備わった強い免疫
 反応のために、原発のがんが治癒したと判断されます。その一方で、第2例目の方のように転
 移したがん細胞が転移先で大きくなったために体調を崩し病院を受診して発見されるか、第1
 例目の方のように定期健診で偶然に発見されます。
  従って、原発巣探しも必要ですが、まずは、がんの原発部位の違いに拘らず、転移がんであ
 れば有効な治療薬や治療法を早期に開始されることをお勧めします。当センターでは、転移が
 んの目印としてLck ペプチドワクチンを、HLA型に合わせて準備しております(HLA-A24、
 A11、A31、A33の方に各々3種類、HLA-A2の方に2種類)。このLck ペプチドワクチンが
 原発不明がんのワクチンとしては、有効であったと思われました。

  次回からは小細胞肺がんの物語を掲載します。


 第33回目  小細胞肺がんの物語①


  小細胞肺がんは肺がん全体の15-20%を占めます。がん細胞の増殖するスピードが速いがん
 として恐れられており、手術不可能になってから見つかる事が多いがんです。またヘビース
 モーカーに好発するがんとしてよく知られております。そして、副作用の極めて強い抗がん
 治療(2剤併用抗がん剤と放射線治療)を必要とするがんとしても知られております。私たち
 のがんワクチンセンターには、それらの抗がん治療の副作用により体調を崩した方が多数お
 見えになります。
  今回は小細胞がんに罹患され、別々の治療を選ばれた3名の方の物語を報告します。

 お一人目のかた:重篤な副作用のため治療変更された患者さん
  咳・胸部不快感が続いていたために呼吸器内科を受診したところ、肺の異常陰影があり、
 限局型の小細胞肺がん(第Ⅲb病期)と診断されました。そこで最初の抗がん剤治療と放射線
 治療を受けられました。しかし2回目の抗がん剤治療中に重篤な副作用(アナフィラキシー
 ショック)が起こり、その時は救急処置にて救命されましたが、それ以降の抗がん剤治療計
 画を変更せざるを得なくなり、当センターを受診されました。

  ワクチン開始後には、アナフィラキシーショックを発生したのとは違う種類の抗がん剤を
 減量してワクチンとの併用となりましたが、食欲低下のために中断となり、ワクチン単独療
 法が続きました。ワクチンへの免疫反応は1クール(6回投与)では増強無しでしたが、2
 クール終了時(12回投与)で強い免疫増強が見られました。そして、その後のワクチン継続
 によりきわめて強い免疫増強が得られました。ワクチン開始後5か月にて、脳転移が出現し
 たために、放射線・抗がん剤・ワクチンの3種類を併用し、脳転移は消失しました。

  その後は、良好な状態が長く継続していました。しかし、残っていた肺の腫瘍(非活動状
 態)に対して治療を主治医から勧められましたので、肺の腫瘍に対しての放射線治療を受け
 ました。この治療法は、遠方にある病院でしか実施出来ない特殊な治療で、そこへ頻回の通
 院を必要としました。この方は、元来強い体力を持っておられましたが、通院のたびに体力
 消耗がみられ、放射線治療終了早期に、放射線を照射した直ぐ近くの肺に再発、更には脳転
 移再発も見られました。その頃より不整脈など心臓機能異常が出現して、永眠されました。

  がん死ではなく心臓病による死亡でした。がんの診断日から数えて3年近く、またワクチン
 開始からは2年半以上、がんに積極的に立ち向かう人生を生きられました。 ご家族から「が
 んは身体にはなかった」とご連絡をいただきました。

 お二人目の方:重篤な副作用でも治療変更されなかった患者さん
  胸部痛のため呼吸器内科を受診したところ、肺の異常陰影と胸水があり、進展型(第Ⅳ病
 期)の小細胞肺がんと診断されました。即座に抗がん剤治療を開始し、がんの縮小がみられる
 ものの、呼吸苦、ふらつき、食欲不振、微熱などが続きました。当センターにはその時期に
 受診されました。小細胞肺がんの抗がん治療はとても副作用の強い2剤併用療法ですので、
 この方にように60歳過ぎで痩せ型の方には2クールの治療を完遂されただけでも、よく耐え
 られたと評価されます。

  この方は、がん縮小がみられるとのことで、更に3クール目の抗がん剤もワクチンと併用
 されましたが、重篤な副作用としての食欲低下や倦怠感が強く、貧血も急速に進みました。
 そのために、がんの縮小は見られていましたが、3クール目の抗がん剤終了後アッという間
(1カ月以内)に、脱水と心機能低下によりお亡くなりになりました。初診時から数えて3か
 月余、ワクチン開始日から数えて2か月余(ワクチン投与4回のみ)で永眠されました。

 次回は3人目の抗がん剤の副作用を回避した患者さんの物語を記載します。

 第34回目  小細胞肺がんの物語②


 3人目の方:重篤な副作用を回避した患者さん
  この方は、10年ほど前より肺がん等の治療を受けており、定期検査で再び肺に異常陰影が
 見つかり、精査したところ、限局型(第Ⅲc病期) の小細胞肺がんと診断されました。即座に
 治療(抗がん剤・放射線)を受けて、がんは消失しました。そこで予防的に脳への放射線治
 療も受けられました。その10か月後に肺がんが再発し、再び抗がん剤治療を受けられました
 が、2クール目途中で、当センター受診となりました。その時点でがんの縮小が見られていま
 したが、食欲不振、口内炎、呼吸苦と胸部痛等があり、がん治療の副作用の影響が強く日常
 生活に障害が出ていました。血液生化学データでは、アルブミン値、中等度の白血球、赤血
 球及びリンパ球(1051個/mm3 )の減少症が見られました。

  まず、ワクチン投与中の抗がん剤治療を休止してもらうように依頼し、また症状緩和の漢
 方薬(人参養栄湯・半夏瀉心湯・桂枝茯苓丸)を処方いたしました。口内炎、呼吸苦や胸部
 痛、貧血の改善には漢方薬が奏功しました。ワクチンへの反応は極めて良好でした。しかし
 ワクチン開始4か月後に、肺の腫瘍陰影増大が指摘され、放射線治療(減量)を受ける期間
 (3か月)はワクチン投与中断となりました。その後、希望されたのでワクチン再開となり
 ました。放射線治療の効果は一時的で再々増悪を認めたものの、抗がん剤投与を希望されず、
 症状改善のための漢方薬とワクチン併用を継続しておりました。ワクチンによる免疫増強は
 極めて良好な状態が維持されました。

   その後は、呼吸苦が徐々に進み、外来通院困難とのことでワクチン投与も終了となり、自
 宅療養となり、この病気の診断時から数えて27か月、ワクチン投与開始日から13.7か月、ご
 家族から「ご自宅で3日間眠り続けたのちほぼ自然に旅立った」とお手紙をいただきました。

  まとめ:最初に紹介した方は、2クール目の抗がん剤治療中に重篤な副作用(アナフィラキ
 シーショック)が起こり、その時は救急処置にて救命されたために、それ以降の抗がん治療
 は拒否されました。そのために、その後の抗がん剤での重篤な副作用はありませんでしたし、
 ワクチン効果もみられ長期生存が得られた方です。しかし2度にわたる放射線治療のため体
 調を崩されました。とくに2度目の肺照射では持病の心臓病を悪化させ、それが主因で永眠
 されました。2番目の方は、抗がん剤治療による食欲低下・体調不良がありながらも、がん
 ばって継続され、その結果、がんそのものは縮小したものの、ワクチンによる免疫増強も間
 に合わないほど早期に永眠されております。3番目の方はワクチン開始後の抗がん剤を受けい
 れず、増悪した際も放射線治療も減量レジメで最小限のみを受け、長期間にわたり、よい日
 常生活を過ごされました。

   小細胞肺がんは肺がんの中で最も急速に増殖するタイプのがんですので、もし未治療の場
 合には、初回診断後の生存期間は3~4か月以内といわれ、とても恐れられているがんです。
 大多数の方は手術が適応にならず、強い副作用のある治療法(抗がん剤・放射線治療)が標
 準治療法として推奨されております。最初の抗がん治療は多くの場合よく効きます。ただし
 1例目のかたのように途中で重篤な副作用のために中止せざるをえないかたも多数おられます。
 また、初回治療がよく効いても、殆どの方で再発がみられ、つらい闘病生活を余儀なくされ
 ます。がんと診断されてから、概ね限局型の小細胞肺がん(非進行期)で2年余、進展型の
 小細胞肺がん(進行期)の場合には1年余の生存期間(中央値)と報告されています。

   また、小細胞肺がんの大きな特徴として、副腎皮質刺激ホルモンや抗利尿ホルモン、セロ
 トニンなどの生理活性物質を産生して、体調不良の原因を作り出すことがあげられます。
 瘍随伴症候群とよばれており、その正確な診断がつかない場合が多く、見逃しや、わかって
 いても治療困難な事が殆どです。これには今の西洋医学では診断・治療がとても困難です。
 しかし、漢方薬が有効なことがあります。漢方医学では、診察(視診・聞診・腹診・脈診など
 )が主体になっており、その時々の患者さんの症状に応じて、それに見合った漢方薬を処方し
 ます。そのために、がん細胞が産生するホルモンや体調変動を起こす生理活性物質が原因に
 なっておこる症状(食欲低下、咳、呼吸苦など)の緩和につながります。がんに対抗する、
 体の免疫力もおのずと向上します。更に漢方薬は、抗がん剤による副作用軽減にはかなりの
 効果が期待できます。

  このように、小細胞肺がんでは、がん細胞(が出している物質)が原因なのか、がん治療
 が原因なのか診断不可能な症状が多く見られ、患者さん・ご家族・そして医療側を苦しめま
 す。しかし、漢方薬は(どちらが原因でも無関係に)症状緩和に役立ちます。

  今回の3名の方から教えていただいたことは、がんの増殖にも抗がん剤(の副作用)にも
 気を配らないといけないということです。言い換えるとがん治療を受けなくてもダメですが、
 受けたがん治療での副作用が強すぎてもダメです。そのどちらにも偏らない「自分の道」を
 見つけることは、簡単ではありませんし、見つけ方も個人個人で違います。私の外来ではま
 ず「食べられなくなったら抗がん剤治療は休むようにしてください」と申し上げます。そし
 て、「症状を緩和させる漢方薬をお飲みください」と申し上げております。

 第35回目  がんと睡眠と免疫機能について


 「がんのことを考えるといろいろ心配になり眠れないので、つい睡眠薬を飲みますが免疫は
 大丈夫でしょうか?」と、ワクチン外来においでになる患者さんからよく質問されます。
 その都度、次のように睡眠と免疫は深い関係がある事を説明します。

 「身体の中にリンパ球は1.4兆個ほどあり、そのリンパ球の一部が夜の間に増えます。その
 ためには、個人差はありますが、概ね8時間くらいは休んでいただかないとその作業がうまく
 いきません。細胞や蛋白質を作るには約8時間かかるからです。免疫機能を維持するための
 誰でもできる最も簡単で確実な方法は「ほどほどに食べて夜8時間は電気を消してヨコにな
 ること」です。眠っているという自覚がなくても、電気を全て消して布団やベットでヨコに
 なっているだけでも同じ免疫効果があります。その間にがん細胞にとって怖いT細胞や抗体
 を作るB細胞も増えます。

  免疫のバイオリズム(生体時計)では、朝になると、私たちが食べたり飲んだりする行動
 を開始するのと同様に、異物を排除したり生体を守るようなナチュラルキラー(NK)細胞や
 キラーT細胞が活発に働き始めます。一方、夜になると、今度は免疫細胞や関連蛋白質を増や
 す必要がありますのでヘルパーT細胞や抗体を作るB細胞が増加します。電気が普及する前
 は、人類は暗くなるとヨコになっていました。それにより免疫機能は維持できていました。
 電気のある現代でも免疫機能のリズムは変わっていません。病気(がん)のことを考えると
 いろいろ心配になり眠れないのは、多くの方に共通した悩みです。そのような場合には、眠
 れなくとも免疫は暗いところで8時間ヨコになっていれば大丈夫と申し上げております。
 「無理に眠らなくとも免疫は大丈夫ですよ」と説明しただけで、睡眠薬のお世話にならなく
 なった方が多数おられます。

  自然な朝の目覚めは、太陽光が瞼を閉じていても、そこから入り、網膜→脳→副腎と伝わる
 ことで起こるといわれております。免疫のバイオリズムの朝ステージの始まりです。そして、
 太陽の光がなくなった夜には副腎皮質ホルモンの作用がなくなり、免疫の夜ステージが始ま
 り、リンパ球や蛋白質が増える時間帯となります。ラジオや目覚まし時計などに使われてい
 ます青色LEDの光は、網膜を刺激しますので、視神経から脳に伝わり、副腎皮質刺激ホルモ
 ンの分泌を促すことが最近の研究でわかってきました。分泌された副腎皮質刺激ホルモンは
 副腎に伝わり、副腎皮質ホルモンの分泌を促します。副腎皮質ホルモンが分泌されると、免
 疫のバイオリズムが朝ステージとなります。そのため青色LEDの光でも、免疫のバイオリズ
 ムをかく乱する可能性があります。最後に「一日中よく動いた時はどうですか?」とこちら
 からお尋ねします。そうしますと「そういえばよく寝むれます」 と答える方が多くおられま
 す。当たり前のことですが、身体を動かすことと睡眠は連動しています。できれば「一日1万
 歩」歩いていただければ、よく眠れますとお話しします。

 文献:Abo T, Kawate T, Itoh K, and Kumagai K.: Studies on the bio-periodicity of the
    immune response. I. Circadian rhythms of human T, B, and K cell traffic in the
     peripheral blood. J.Immunol 126:1360-1363, 1981.



 第36回目  若くして発がんした方の物語①


   小児のがんにおいても、大人のがんと同様に手術療法、化学療法や放射線治療に抵抗性に
  なると予後不良となるため、新しい治療法の開発が待たれています。更に小児がんでの
  治療法として用いられる大量かつ長期間の抗がん剤投与や放射線治療は、がん治癒が得ら
  れたとしても、2次発がんや心身の発育に大きな障害を与える懸念が指摘されています。
   最近の報告(14,290人の5年以上生存した小児がん症例、32年間の追跡)では内分泌
  疾患の発症率が非常に高くなっているとの警鐘がなされております(甲状腺がん:9.2倍、
  甲状腺機能低下症:6.6倍、成長ホルモン不全:5.3倍、卵巣不全:p<0.001、その他肥満、
  糖尿病などの増加)
  (Journal of Clinical Oncology 34:3240-3247,2016)。
  
   がんに対する免疫療法(ワクチン療法)は長期間投与においてもそのような遅発性の重
  篤な有害事象の懸念はないと判断されます。ヒトの免疫機能は、乳幼児期から急速に発達
  して12歳には完全成熟します。その後、免疫機能の中心となる胸腺の老化がゆっくりと進
  行し、それに伴って免疫機能の老化現象が始まり発がん率も高まります。したがって小児
  期であっても、発がんした場合にはがんワクチン療法による免疫力の強化が必要でありま
  す。

   どのようなワクチンが適しているかについては、今後の研究課題になります。それぞれの
  がん腫により異なるワクチン(例:ウイルス関連発がんの場合には、そのウイルス特異的
  なワクチン)、もしくはがん腫に共通ながん抗原を投与するワクチンなどが想定されます。
   私どもの場合は共通ワクチン型ですが、個々人の免疫反応に合わせて投与する個別化ワ
  クチンです。私どもが用いている31種類のペプチドに対する特異的免疫反応は、3歳~6歳
  の小児の血液中で検出可能であるのみならず、そのIgG特異抗体レベルは大人よりも高値を
  示します。そしてそれらの抗体値は加齢とともに減少します。更に、がん患者さんでこれら
  の抗体が高い方は、低い方に比べて長命であることを発表しております。(下図)

  ペプチド抗体についての論文
 

   これらのことより、小児がんへのペプチドワクチンとしては、私どものワクチンは、小
  児がんへのペプチドワクチンとして有効性が期待できると推測されます。そこで将来の実
  用化をめざし、今年の9月より、治療抵抗性小児悪性腫瘍患者(白血病を除く)を対象と
  して、テーラーメイドペプチドワクチン第Ⅱ相臨床試験を実施することにいたしました。
   
   ホームページにそのニュースを掲載したら、直ぐに20歳以下の方のがんに対してのテー
  ラーメイドワクチンの成績があるかどうか問い合わせがありました。2年前までは当方の
  ワクチンはこれまで20歳以下は登録できないプロトコールであったために、20歳以下で
  の臨床成績でまとまった成績はありませんとお答えしましたが、それでは若い方ではど
  うかとのご質問でした。そこで本コーナーで20歳になってすぐ申し込まれた方から35歳
  以下のワクチン投与を受けた若年性発がんを中心に取り上げます。


 第37回目  若くして発がんした方の物語②


  まず、若年性発がんと免疫に関しては、以下のようなことが考えられます。

 ① 若年性発がんには免疫機能低下が深く関与している可能性があります。

   例えば、上咽頭がんの原因の1つとして特定のウイルス(エプスタイン・バール・ウイル
  ス:EBV)感染が指摘されています。このEBVには、世界中の人が感染しています。
  しかし感染していても99.9%の方は、免疫(キラーT細胞など)がウイルス感染細胞
  を排除しますので、発がんしません。しかし、若くして上咽頭がんが発症する方では、持
  続性ウイルス感染が起こりやすい病態になっており、ウイルスが大量にかつ長期間上咽頭
  に存在している場合がよく見られます。つまり、小児期から反復性の慢性副鼻腔炎や蓄膿
  症が小児期からみられるのです。そのためにEBVウイルス特異的キラーT細胞の疲弊が
  おこり、発がんにつながりやすいと想定されています。但し、反復性の慢性副鼻腔炎や蓄
  膿症があっても その大半のかたも上咽頭がんを罹患するとはありません。従って、慢性
  的なEBVウイルス感染以外の要因が発がんには関与しており、まず免疫機能低下症が考
  えられます。小児や若年者の免疫機能低下症は、比較的見逃されやすい病気の一つです。

   世界的には、栄養失調が小児の免疫機能低下症の主因でありますが、体質的に免疫機能
  の発達が遅延するとか、生まれつき日和見感染症(通常の免疫状態では発症しない病原体
  による感染症)を合併しやすいとか、白血球減少、リンパ球減少、貧血などがみられる場
  合には、発がんに対するT細胞の防御能も低下しておりますので、早めに小児科の先生や
  かかりつけの先生に相談されることが大切です。原因がはっきりしない場合もありますし、
  治療法も確立されておりませんが、いろいろな治療法や医師の指導より日常生活を変える
  ことで症状を改善することが可能です。例えば、睡眠時間を十分とるようにするとか、体
  質改善や症状改善のための漢方薬は古来使用されており、良い成績が期待できます。

  ② 若年性発がんには慢性感染症が関与していることがあります。

  若年性発がんには慢性感染症が関与している事があります。①でとりあげたEBVによる
 慢性副鼻腔炎と上咽頭がん、ピロリ菌による胃炎と胃がん、ヒトパピローマウイルスによる
 子宮の反復する慢性炎症と子宮頸がんなどが代表です。慢性炎症がありますと、正常細胞が
 破壊されやすくなり、その都度正常細胞は作られますので、遺伝子異常を伴った細胞(その
 一部ががん細胞になります)が生まれてくる確率が高まります。これらの感染症を制御する
 と発がんリスクは低減します。慢性副鼻腔炎や蓄膿症には漢方薬(補中益気湯や荊芥連翹湯)
 が役立ちます。子宮の反復する慢性炎症にも有効な漢方薬があります。ヒトパピローマウイ
 ルスには世界的に予防ワクチンが普及しております。しかし、日本では重篤な有害事象が一
 部の方で発症したために、普及が遅延しており、将来の子宮頸がん発症率の増加が懸念され
 ます。一方、ピロリ菌は抗生物質による除菌法が近年確立されましたので、胃がんの発症は
 低下すると期待できます。
 
 「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」は、“中(体の内側)を補い気を動かす”という意味。
  胃腸のはたらきを高め、食欲を出すことで「気」を増やし、「気」を上のほうに動かして
  めぐらせることで、疲れを改善していく処方です。
 「荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)」は、余分な熱を冷やして追い出すとともに、
  鼻の通りを良くします。              KracieのHP「漢方薬名解説」より


 ③ 免疫低下には甲状腺機能低下が隠れている場合があります。

  免疫機能低下の場合には、甲状腺機能低下症がその原因として隠れていることがあります
 ので、白血球やリンパ球が少ない方は甲状腺機能を調べてもらうことが大切です。特に、若
 年性発がんの方は、甲状腺機能を検査することが重要です。これまで、がんワクチン外来を
 受診された若年性発がんの半数以上の方で甲状腺機能低下が見つかっております。甲状腺機
 能低下が明らかな場合には、専門の内科医に相談して甲状腺ホルモン剤の服用が必要です。
 また、漢方薬(補中益気湯、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸など)での体質改善が有効です。ホル
 モン剤を服用するほどでないが、甲状腺機能低下症の場合にも、これらの漢方薬での体質改
 善が有効です。
 
「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」は、全身に栄養を与え、血行を促進させるのと
 同時に利尿作用で余分な水分をとり除いて、冷え症や生理不順を改善します。
「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」は、滞った「血(けつ)」のめぐりを良くするこ
 とで、下半身に熱をめぐらせてめぐらせて、足冷えなどを感じる方の生理痛を改善します。
                           KracieのHP「漢方薬名解説」より

 次回は若年性上咽頭がんの患者さんを紹介いたします。

 第38回目  若くして発がんした方の物語③上咽頭がんⅠ


  この若い方は上咽頭がんを発症し放射線治療と抗がん剤治療を受けましたが、MRSA感
 染症合併・体調不良のため中断となりました。その後まもなく骨転移がみられたため、がん
 治療の再開となりました。その途中でがん進行や再発防止を目的に免疫強化のため、ワクチ
 ンを受診したいとの申し込みがありました。しかし、リンパ球減少症が著しいために、個別
 化ペプチドワクチン臨床試験には参加できず、抗がん剤を中止してリンパ球数改善後の受診
 となりました。

  初診時所見:  
  症状としては食事の後に喉がつかえるような感じがするという以外ありませんでした。食欲
 良好で、特に甘いものが好物で、夜かし型とのことでした。舌診、腹部所見、胸部聴診など
 では異常がありませんでした。血液・生化学データは概ね正常値内でしたが、軽度の白血球
 減少症およびリンパ球減少症と貧血傾向を示しておりました。腫瘍マーカーは正常範囲内で
 すが上限値でした。

  免疫反応:
   初回検査の免疫反応(ペプチド特異的なIgG抗体を測定)は微弱で免疫低下状態と判断
 され、血液型に適合したペプチドワクチンは2個のみでした(通常は4個以上あります)。
 1クール(6回投与)終了時に測定した免疫検査では、投与した2種類のペプチドワクチンに
 対する免疫反応の増強は認めませんでしたが、投与前には陰性反応であった2つのペプチド
 に対する陽性反応がみられるようになりました。ワクチンに起因する副作用はありませんで
 した。
  2クール(12回)終了時に測定した免疫反応性は、投与ペプチド4種類のうち2種類に対
 して強い免疫反応が見られました。腫瘍マーカーは低下(正常値上限からの低下)しており
 ました。この間、腫瘍マーカー低下が続き、PET/CTで指摘されたリンパ節転移巣(疑)
 も消失しました。
  3クール(18回)終了時には全投与ペプチドに対して強い免疫反応が見られ、特に転移がん
 の目印であるLckペプチドに対する強い免疫反応を認めました。15か月間のワクチン投与
(18回)で終了となりました。その後日常生活をキチンと守っており、再発の徴候もなく、元
 気に生活されております。

  対策と経過:
  食事と睡眠は免疫機能を維持するために最も重要ですので、口当たりの良い食事ではなく
 て、腸当たりのよい食事を、また夜は10時前からベッド(布団)上で眼を閉じて8時間以上
 過ごすことを勧めました。また、慢性副鼻腔炎症状がありましたので、漢方薬(荊芥連翹湯
 など)を処方したところ鼻汁や鼻閉塞症状が改善しました。ワクチン外来受診からすでに2
 年以上経過しておりますが、再発もなく、体調も時々崩すものの早めに回復しており、順調
 に経過しておりました。血液・生化学データも改善しておりますし。腫瘍マーカーは一時増
 加するときもありましたが、日常生活をきちんと守ることで正常範囲に復帰しています。こ
 れらよりがんが制御されていると判断されます。

 解説:「口当たりのよい食べ物」とは甘いもの、脂身の多い肉、塩分の多いものなどです。
 「腸当たりのよい食べ物」の代表は和食です。つい200年ほど前の日本人が食べていまし
 たので、日本人の腸の遺伝子が記憶しています。そのために、拒絶反応を起こしません(食
 物寛容ともいいます)。反対に腸当たりの悪いものは、口当たりの良いもの、保存剤の入っ
 たもの、人工の油や甘味料、繊維成分が少なく腸の動きを助けないものなどです。

 次回も、若年性上咽頭がんを取り挙げます。


 第39回目  若くして発がんした方の物語④上咽頭がんⅡ


  前回の方のような若年性の上咽頭がんに罹患した複数の患者さんがこれまでワクチン外来に
 おいでになっています。希ながんということもあり、症例数は多くはありませんが、そうし
 た患者さんたちの悩み(病気の再発予防、治療効果の向上、日常生活、特に食事や睡眠対策
 等々)についてお聞きして、できる範囲で、その対策を一緒に立ててきました。 まず症例を
 記載します。

  症例:
  この方は、海外から受診された方です。したがって、ワクチンは4週毎に通常の2倍量を
 投与するプロトコールです。3年前に進行上咽頭がんと診断され、抗がん剤と放射線治療を
 受けて部分寛解しましたが、その1年後に再発し第2次の抗がん剤治療を受けるも再再発し、
 別の抗がん剤を投与されました。しかしすぐに無効となり、当方ワクチン外来受診となりま
 した。
  初診時、鼻炎症状がつよく、膿様の鼻汁・喀痰が多量みとめられた。また、開口時痛と開
 口障害を認め、かつ右頬部及び右頸部の有痛性腫脹があり、同部位への広汎な炎症を伴うが
 ん浸潤がありました。血液検査では軽度の白血球減少及びリンパ球減少、更にCRP高値、
 甲状腺機能低下症を伴っており、これらから治療抵抗性の高度進行上咽頭がんと診断されま
 した。西洋医学的な治療手段は使いつくされ、ほぼ無効になっていたといえます。そこで、
 漢方薬をまず種々症状改善のために処方いたしました。慢性鼻炎・鼻腔炎には荊芥連翹湯、
 白血球減少には十全大補湯、抗炎症・血流改善には桂枝茯苓丸合当帰芍薬散を処方しました。
 それに合せて、普通の日常生活を取り戻すこと、特に、夜間はネットやテレビなどを遮断し
 て、10時間近くベット上でヨコになっていることを勧めました(その大切さについては「第
 35回:がんと睡眠と免疫機能について)を参照してください)。それらが奏功したせいか、
 6週後には、上記症状のほとんどが劇的に改善し、体調も良好になり、1クール4回ワクチ
 ン投与時(初診から4か月後)免疫検査では、ワクチンに対する免疫反応が強く増強してい
 ました。また腫瘍マーカー増悪もなく、がん進行が抑制されていました。

  しかし、その後、種々の事情によりワクチン中断して職場復帰し、睡眠時間も短縮したこ
 とや上記漢方薬も中止したことが重なり、4か月後には急速にがん進行がみられました。そ
 して、再びワクチン希望で来院されました。その頃より鼻出血が出現し、がん増悪によると
 思われる鼻炎症状の再増悪が見られ、一般状態が悪化しておりました。そのために、再び療
 養生活に専念され、分子標的薬での治療も開始されましたが、病勢制御ができず、腫瘍部動
 脈出血で急逝されました。
 
  当方への初診日から数えて1年余が経っていました。 この方の纏めですが、ワクチンや漢
 方薬の中断と、職場復帰による睡眠不足ががん制御不能の原因になったと思われます。西洋
 医学的アプローチでのがん抑制が無効になった進行がんにおいても、症状に見合った漢方薬
 や当方ワクチン、更には日常生活を取り戻すことが不全状態になったT細胞機能復活させて、
 がん制御を可能としましたが、いずれかの中止ががんに再増悪のチャンスを与えたものと判
 断され、改めてがんの頑健性の怖さを教えられました。
 
 「十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)」は、胃腸のはたらきを高め、食べ物の栄養分を
 消化吸収できるようにして「気」と「血(けつ)」を増やします。同時に、「気」「血」を
 めぐらせ、全身にいきわたるようにします。     KracieのHP「漢方薬名解説」より

  続いて上咽頭がんについて記載します。
  上咽頭がんの初発症状や再発症状:
  耳が詰まった感じ(耳閉塞感)、 聞こえにくい(難聴)、鼻出血、鼻が詰まった感じ
 (鼻閉)がよくみられます。それらが長く続く場合には耳鼻咽喉科を受診されるか、かかり
 つけの先生にご相談してください。
  ① 原因:
  上咽頭がんは他のがんと同様に不明な点が多いですが、特徴はウイルスの1種であるEBV
 が発がんに関係していることです。このウイルスには老若男女全員が感染していますが、上
 咽頭がんになる方は極めて稀です。このことは、とても大切なことで、がんを予防する免疫
 機能が低下することと発がんが深く関係していることを意味します。通常では、がんは免疫
 機能が低下し始める50歳代以上から発がんしてきます。更に咽頭がんや食道がんはタバコや
 アルコールを好む方に多いという特徴があります。しかし、喫煙や過度のアルコール歴のな
 い若い方で上咽頭がんの場合には、EBVウイルス感染症や発がんを予防する免疫機能が何
 らかの理由で低下したために、この病気が発症したと強く推定されます。そしてその原因を
 できる範囲で推測して、可能であれば取り除くことが、再発予防や治療効果につながります。
  ② 予防:
   他のがんの予防と同じですが、タバコはやめること、過度のアルコールをとらないこと、
 運動を取り入れること、睡眠時間を8時間以上規則正しくとることです。また、咽頭がんや
 喉頭がんの場合には、鼻やのどを痛めないようにすること、とくに感染症(鼻炎、副鼻腔炎、
 口内炎)にかからないようにすることが大切です。感染症や蓄膿症に罹患した場合にはでき
 るだけ早期に治療し、食事は口当たりの良いものではなく、腸当たりの良いものを摂るよう
 に心がけると、発がんを予防し、また一旦発がんしても、再発予防や病気の進行を遅らせる
 ことができます。また、ストレス解消も重要なポイントです。
 ③ がん免疫から見た日常生活での上咽頭がん予防:
  がんを殺す能力のあるリンパ球は2種類あります。ナチュラルキラー(NK)細胞とT細胞
 です。更にT細胞からの指令をうけてB細胞が抗体を作ります。抗体はNK細胞とT細胞のがん
 を殺す力を高めますし、抗体自らでがん細胞の増殖抑制にも関与します。3つのリンパ球と
 も、睡眠をよく取らないと、弱ってしまいますので、まず十分な睡眠(特に増殖の激しいT
 細胞とB細胞には重要)が大切です。次は、腸あたりのよい食べ物をとり、腸の拒絶反応や
 その結果としての炎症を起こさないこと、そして適度な運動です。特定の食べ物が良いとか
 悪いとかを取り挙げて書いてある本が出版されていますが、食べ物も生活もバランスが第1
 です。その次に大切なことは、強いストレスを回避することです(特にNK細胞はストレス感
 受性です)。 一言で述べますと「快眠・適度な食事・快便・運動」です。食べ物が豊富で、
 便利な車社会、豊富なレジャーが可能な現代では、このような何でもない普通の生活が忘れ
 がちになっております。この予防法は全てのがん予防や再発防止に役立ちます。
 ④ 治療と予後:
  上咽頭がんの治療としては抗がん剤と放射線治療が主体です。部位が複雑ですので進行し
 てから発見されることがよく見られます。そのために手術は限定されています。予後は他の
 がんと同様に早期がんでは良好ですが、進行がんではよくありません。 次回は、若年性の胃
 がんと子宮頸がんを取り挙げます。