患者さまへ
当院ではこれまでの研究結果を踏まえ、以下の第二種再生医療(①)および第三種再生医療(②③④⑤)を提供する方針とし、その申請が再生医療等委員会の審査を経て九州厚生局に受理されました。
脂肪幹細胞を用いた重症虚血肢病変に対する血管新生療法(第二種)
自家脂肪組織由来細胞(脂肪由来幹細胞を含む)を用いた
皮膚・軟部組織の治療(第三種)
心臓・血管内科(受付担当:佐々木健一郎)へ、お電話(0942-31-7562)または電子メール(kurume_shinzou@kurume-u.ac.jp)にて一度ご連絡下さい。外来受診予定日などの情報をお伝えいたします。
形成外科外来の受診を予約(0942-31-7616)してください(紹介状不要)。
基本的に最短2泊3日の入院で全身麻酔下に行います。
腹部または臀部、大腿部より脂肪を採取します。まず皮下脂肪組織内にツメセント液を注入後、脂肪吸引用のシリンジやカニューレを用いて脂肪吸引を行います。
採取した脂肪を分離処理、遠心処置、濃縮、試薬での洗浄を行い、脂肪幹細胞を分離抽出します。
その細胞液を目的の部分に注入します。
かかりつけ医療施設での経過観察が基本となります。大学病院外来受診日については退院時にお伝えします。
細胞濃縮洗浄システム
(カネカ社)
セリューションシステム
(米国サイトリ・セラピューティクス社)
当院では特に重症下肢虚血(手足の血行が著しく悪い状態)に対して、この脂肪由来幹細胞を用いた血管再生研究を行ってきました。再生医療による血管新生療法の変遷1997年に浅原らによって、骨髄細胞単核球由来の血管内皮前駆細胞が血管新生に働いていることが明らかになり、2001年に久留米大学の新谷らが、血行不良の足に自己骨髄単核球細胞を筋注移植し、血行不良の足の血管数と血流を増やす動物実験に成功しました。
その後、閉塞性動脈硬化症で足の血行不良を認める患者さんに対し、久留米大学で世界初の「自己骨髄細胞移植による血管新生療法」が行われ、閉塞性動脈硬化症以外の閉塞性血栓性血管炎(バージャー病)や膠原病性血管炎による血行不良を認める患者さんに対しても同じ血管新生療法が国内複数の施設で行われるようになりました。その効果と安全性を証明した臨床研究結果は2008年に報告されました。
一方、その期間において私たちは「自己骨髄細胞移植による血管新生療法」の効果が得られなかった重篤な血行不良患者例を経験し、より高い血行改善効果が期待できる新たな血管新生療法を模索していました。そのような中、2001年Zukらが発表した「脂肪組織中には、脂肪、軟骨、骨、骨格筋などへ分化誘導可能な間葉系幹細胞に類似する脂肪組織由来間葉系前駆細胞(adipose-derived regenerative cells、以下ADRCs)が存在する」という新たな知見が世界中の研究者たちに注目されていました。
この脂肪組織中に存在するADRCsは骨髄単核球系細胞と同等の組織再生能力を有し、骨髄細胞に比べ、大量採取が容易であることから、治療応用可能な新しい体性幹細胞として、再生医療分野において広く期待されていました。2009年に名古屋大学の近藤らがマウス皮下脂肪組織より分離抽出しADRCsを血行不良のマウスの足に筋注投与し、その足の血管数と血流を増やす動物実験に成功したことを報告しました。その後、名古屋大学や久留米大学を含む多施設共同による「ヒト皮下脂肪由来間葉系前駆細胞を用いた重症虚血肢に対する血管新生療法」の臨床研究が開始され、その効果と安全性に関する研究結果が2022年に報告されました。
「自己骨髄細胞移植による血管新生療法」の効果との違いを直接比べた研究結果ではありませんが、問題となる合併症の事例なく、血流改善効果、疼痛軽減効果、潰瘍サイズの縮小効果、歩行距離の延長効果などの治療効果を認めています。重篤な血行不良の患者さんにおいては、皮膚血液灌流圧の上昇も認めており、「自己骨髄細胞移植による血管新生療法」では救済できなかった血行障害の患者さんにとって福音となることが期待されます。
血管造影
血管新生療法術前および術後の血管造影検査写真。黒く写し出されている血管数が術後に増加していることがわかります。
副作用が少ない
自身の組織から採取される細胞を用いるため、免疫拒絶反応などの心配がありません。
低侵襲(ていしんしゅう)
細胞を採取する際は、お腹やお尻に数mmの皮膚切開を数か所加えるのみであり、出血、感染、疼痛のリスクが少なく済みます。
十分なエビデンスが確立していない
先端的な治療には避けられないことですが、効果や安全性に関する十分な科学的根拠(エビデンス)が確立されていません。そのため、治療には試験的な要素を伴います。
金銭的負担がある
現在行われている再生医療は、公的医療保険の適応がなく、自由診療として扱われます。大規模な二重盲検試験の実施などを経て厚生労働大臣等からの認定を受けて保険適用になるのは、まだまだかなり先になると見込まれます。また一般的に自由診療を受けた場合、保険診療との併用は禁止されています。
本来ならば公的保険が適用される診療等であっても、場合によっては全額自己負担となることがあります。当院で提供する再生医療も自由診療として扱われます。再生医療を受けることをご検討の際は、こうした利点と欠点を十分ご理解された上でご検討ください。